icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻3号

2013年03月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えるにあたり

ページ範囲:P.369 - P.369

特集 免疫反応と疾患

著者: 山本一彦

ページ範囲:P.371 - P.371

 免疫システムは微生物から生体を防御するために存在していると言ってよい.自然免疫系は,病原体と宿主を区別するための分子と細胞でできており,病原体と接触して数時間以内に活性化される.一方,獲得免疫系は,リンパ球とリンパ球により作られる抗体からなり,無限の抗原を認識できる可能性はあるが,病原体との接触から数日かかって機能し始める.獲得免疫系は,微生物に特異的であり,免疫記憶として維持され,再び同じ感染が起こった時には素早く機能する.

 感染症を克服する手段として開発されてきたワクチンは,アジュバントなど自然免疫の力を使いつつ,生体に抗原特異的な獲得免疫とその記憶を獲得させるためのものであり,人類に大きな貢献をしている.しかし,免疫が関与する疾患は感染症以外にも多くある.自己免疫疾患,アレルギー疾患,癌,移植など,多くの疾患に免疫応答が関係している.これらの各疾患でどの程度自然免疫がかかわっているのか,どの程度免疫記憶を伴う獲得免疫がかかわっているのかの詳細は不明である.しかし,疾患の成立と進展におけるこれらの事象を正確に理解できないと,われわれは免疫機能を理想的にコントロールすることができない.これらは疾患の理解と副作用のない免疫治療法を達成するための大きなハードルであり,免疫学がチャレンジしなければならない領域である.

特集の理解を深めるための23題

ページ範囲:P.514 - P.517

座談会

免疫反応をいかに理解し合理的に治療するか―現状と将来

著者: 山本一彦 ,   宮坂信之 ,   中島裕史 ,   清野宏

ページ範囲:P.372 - P.383

山本(司会) お忙しいなかお集まりいただき,ありがとうございます.「免疫反応をいかに理解し,合理的に治療するか」をテーマに,基礎から臨床まで幅広くお話しいただきたいと思います.どうぞよろしくお願いします.

臨床に必要な免疫の基礎知識

自然免疫とは

著者: 柴田琢磨 ,   三宅健介

ページ範囲:P.384 - P.388

ポイント

◎自然免疫は病原体レセプターにより制御される特異的な免疫応答である.

◎病原体レセプターは病原体に特徴的な成分を認識し,最適な免疫応答を誘導する.

◎病原体レセプターの異常は自己炎症性疾患や自己免疫疾患の発症に関与する.

獲得免疫とは

著者: 鍔田武志

ページ範囲:P.390 - P.393

ポイント

◎獲得免疫は,TおよびBリンパ球によって担われ,抗原に特異的な応答が起こる.

◎獲得免疫応答には微生物抗原などの危険シグナルを必要とするため,感染微生物に対しては応答するが,微生物以外の異物や自己抗原には応答しない.

◎獲得免疫応答では免疫記憶が誘導される.免疫記憶は多くの感染症防御に有効で,ワクチンに利用される.

粘膜免疫とは

著者: 本田賢也

ページ範囲:P.394 - P.397

ポイント

◎粘膜免疫系はユニークな細胞から構成されており,病原微生物侵入に備えている.

◎粘膜免疫系は常在細菌によって深く影響を受ける.

◎常在細菌の構成異常は,粘膜免疫系の異常活性化に繋がる.

サイトカイン・ケモカイン

著者: 大辻幹哉 ,   寺島裕也 ,   松島綱治

ページ範囲:P.398 - P.401

ポイント

◎サイトカイン・ケモカインは,主に免疫系細胞同士,あるいは,非免疫系細胞と免疫系細胞の間のコミュニケーションに使用される蛋白質の総称である.

◎多くの場合,サイトカイン濃度は産生細胞の付近でのみ高く,作用は局所的である.ときに,サイトカインは血中に入り遠隔組織に作用する.

種々のT細胞サブセット

著者: 藤尾圭志

ページ範囲:P.402 - P.405

ポイント

◎免疫応答をヘルプするヘルパーT細胞と,抑制する制御性T細胞(Treg)が存在する.

◎免疫応答において車のアクセルにあたるヘルパーT細胞はその性質により,Th1細胞,Th2細胞,Th17細胞およびTfh細胞に分類され,それぞれ特定の疾患との関連がみられる.

◎免疫応答においてブレーキにあたる部分がTregである.CD4陽性CD25陽性Tregが最もよく知られているが,ほかにもさまざまな種類が存在する.

◎特定のTregサブセットの機能が低下することで,対応するヘルパーT細胞が過剰に活性化し,炎症性疾患の発症に至る可能性が考えられる.

免疫が関与する病態と免疫応答

感染と免疫

著者: 城内直 ,   石井健

ページ範囲:P.406 - P.411

ポイント

◎病原体感染を認識する多様な受容体解明は,感染防御機構の解明や有効なワクチン開発につながる.

◎病原体の認識受容体の機能異常と感染症病態の相関を解析することにより,感染症病態の迅速な予測につながる.

◎現状問題とされる感染症に対する免疫応答とワクチン開発の問題点を明確にし,有効なワクチン開発につなげる.

腫瘍と免疫

著者: 河上裕

ページ範囲:P.412 - P.415

ポイント

◎がん細胞は,がん形成過程で免疫抵抗性・抑制性を獲得している.

◎がん細胞に対して正と負の免疫応答が起こるが,免疫抑制病態が問題である.

◎がん免疫療法は症例選択や複合免疫療法により長期生存を目指す治療として期待される.

移植と免疫

著者: 工藤浩也 ,   和田はるか ,   清野研一郎

ページ範囲:P.416 - P.418

ポイント

◎拒絶反応の種類をメカニズムの違いを踏まえて理解することが重要である.

◎免疫抑制剤の作用機序を理解し,各拒絶反応の治療に用いる.

◎生体内には免疫を抑制する機能をもつ細胞が存在する.

自己免疫疾患・炎症性疾患の免疫異常

関節リウマチ

著者: 小竹茂 ,   山中寿

ページ範囲:P.420 - P.423

ポイント

◎T細胞,B細胞,TNFα,IL-6,IL-17が病態形成においては重要である.

◎発症において抗シトルリン化蛋白抗体の重要性が示唆されている.

◎齧歯類の関節炎モデルの病態とヒトRAの病態は同一ではない.

全身性エリテマトーデス

著者: 髙崎芳成

ページ範囲:P.424 - P.427

ポイント

◎SLEの発症には遺伝的素因に加え,環境因子および性差が関与している.

◎自己抗体産生には獲得免疫に加え,自然免疫も深く関与する.

◎BおよびT細胞の活性化が,免疫異常の誘導と維持に関与する.

多発性筋炎・皮膚筋炎

著者: 上阪等

ページ範囲:P.428 - P.432

ポイント

◎多発性筋炎・皮膚筋炎は自己免疫に基づく炎症性筋疾患で,典型的皮疹を伴うものが皮膚筋炎である.

◎筋傷害の病態は,多発性筋炎はCD8+細胞傷害性T細胞による傷害,皮膚筋炎は血管障害が原因であるという古い見方があった.

◎現在は,両疾患の筋傷害病態は,免疫学的にも,治療反応性からも明確には区別し難い.

血管炎症候群

著者: 天野宏一

ページ範囲:P.434 - P.438

ポイント

◎大型血管の血管炎には巨細胞鉱脈炎と高安動脈炎があり,血管壁に樹状細胞,巨細胞,リンパ球などの細胞浸潤が著明で,これらの細胞から出る炎症性サイトカインなどが病態に深くかかわっている.

◎中型血管の血管炎には結節性多発動脈炎と川崎病があり,なんらかの感染が炎症のきっかけになっていると推察され,それに対する過剰な細胞性免疫応答が病態形成の主体であると思われる.

◎小型血管の血管炎にはANCA関連血管炎,免疫複合体性血管炎,抗GBM病(Goodpasture症候群),IgA血管炎(Henoch Schönlein紫斑病)などがある.ANCA関連血管炎の病態には好中球細胞外トラップ(NETs)が注目されている.

Sjögren症候群

著者: 住田孝之

ページ範囲:P.440 - P.444

ポイント

◎Sjögren症候群(SS)はドライアイ,ドライマウス,関節炎を主症状とする全身疾患である.

◎病因は自己免疫疾患である.

◎診断は旧厚生省改訂基準(1999年)に基づく.

◎治療は,QOLの改善あるいは生命予後の改善を目指した治療となる.

炎症性腸疾患

著者: 大島茂 ,   渡辺守

ページ範囲:P.446 - P.449

ポイント

◎炎症性腸疾患は,遺伝因子,環境因子,腸内細菌が互いに関与し免疫異常が起こることにより発症すると考えられている.

◎免疫異常を是正することで粘膜治癒を目指せる時代になっている.

◎免疫を制御する新規薬剤の治験が数多く進められている.

原発性胆汁性肝硬変と自己免疫性肝炎

著者: 桶谷眞 ,   井戸章雄 ,   坪内博仁

ページ範囲:P.450 - P.453

ポイント

◎原発性胆汁性肝硬変は,抗ミトコンドリア抗体の出現と自己免疫的な胆管障害を特徴とする.

◎自己免疫性肝炎の診断は,抗核抗体とIgG値が基本となるが,急性発症例では診断困難例が存在する.

◎原発性胆汁性肝硬変はUDCA,自己免疫性肝炎は副腎皮質ステロイドが治療の基本である.

多発性硬化症

著者: 渡邉充 ,   吉良潤一

ページ範囲:P.454 - P.457

ポイント

◎多発性硬化症は時間的・空間的多発を特徴とする中枢神経系脱髄疾患である.

◎多発性硬化症の病態にはT細胞による細胞性免疫が重要な役割を果たしている.

◎多発性硬化症と鑑別を要する視神経脊髄炎では抗AQP4抗体が原因となる.

自己炎症疾患

著者: 川上純 ,   右田清志 ,   井田弘明

ページ範囲:P.458 - P.462

ポイント

◎狭義の自己炎症疾患は遺伝子異常を伴う.炎症病態は類似するものの,遺伝性が明らかではないそのほかの疾患・病態も広義の自己炎症疾患として認識されるようになってきた.

◎家族性地中海熱ではMEFV遺伝子異常がpyrinの機能異常とインフラマソームでのIL-1βの活性化を誘発し,自己炎症が惹起されると考えられる.

◎今後は新たな遺伝子解析研究に加え,自己炎症とcommon diseaseとの関連にも注目が集まる.

IgG4関連疾患

著者: 高橋裕樹 ,   山本元久 ,   篠村恭久

ページ範囲:P.464 - P.467

ポイント

◎血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の浸潤,線維化を特徴とする慢性疾患である.

◎涙腺・唾液腺,膵,腎,後腹膜などに同時性・異時性に病変が形成される.

◎血清IgG4高値は特異的ではなく,悪性腫瘍などとの鑑別に組織学的検索が必要である.

アレルギー疾患と免疫異常

気管支喘息

著者: 土肥眞

ページ範囲:P.468 - P.472

ポイント

◎気管支喘息の病態は,外来性の刺激,気道・肺組織の構成細胞,免疫担当細胞の相互作用により引き起こされる.

◎気管支喘息でみられる免疫応答には,自然免疫と獲得免疫の両者が関与する.

◎最近,自然免疫に関与するリンパ球様細胞が注目されている.

アトピー性皮膚炎

著者: 佐伯秀久

ページ範囲:P.474 - P.477

ポイント

◎アトピー性皮膚炎患者の病変部への炎症細胞の浸潤にケモカインが関与している.

◎血清中のTh2ケモカイン(TARC,MDC)値はアトピー性皮膚炎の病勢を鋭敏に反映する.

◎血清TARC値はアトピー性皮膚炎の重症度評価の補助検査として保険が適用された.

アレルギー性鼻炎・花粉症

著者: 櫻井大樹 ,   岡本美孝

ページ範囲:P.478 - P.482

ポイント

◎アレルギー性鼻炎は代表的なⅠ型アレルギー疾患であり,抗原刺激により発作性のくしゃみ,鼻汁,鼻づまりなどの特徴的な症状を引き起こす.

◎抗原の曝露により肥満細胞を中心とした即時相反応とアレルギー性炎症による遅発相反応を引き起こす.

免疫不全における免疫異常

先天性免疫不全症候群

著者: 森尾友宏

ページ範囲:P.484 - P.489

ポイント

◎原発性免疫不全症では今までに239の責任遺伝子が同定されている.

◎自然免疫,獲得免疫,細胞分化,DNA損傷修復など種々の領域で欠陥がある.

◎易感染性以外に自己免疫,腫瘍などとも密接な関係がある.

後天性免疫不全症候群(AIDS)

著者: 中村朋文 ,   満屋裕明

ページ範囲:P.490 - P.493

ポイント

◎日本におけるHIV感染症および後天性免疫不全症候群(AIDS)の新規の感染者数は増加しており,対策が求められている.

◎HIV感染症およびAIDSの治療は,早期に開始することが推奨され,ウイルス量を検出限界以下に保つことが重要である.

◎HIV感染症の治療による感染予防効果が世界的な臨床試験から初めて証明された.

免疫学的な治療法

副腎皮質ステロイド

著者: 大島久二 ,   牛窪真理 ,   久田治美

ページ範囲:P.494 - P.498

ポイント

◎ステロイドは,少量では朝1回,中等量以上では1日3分割で食後に投与する.

◎満月様顔貌は医学的には問題のない副作用であり,減量とともに消失するので,特に女性には十分理解を得るようにする.

◎骨粗鬆症への対処は,ビスホスフォネート製剤が第一選択薬である.

◎脂質代謝異常,糖尿病に対しては,経過を観察するとともに通常の治療を行う.

免疫抑制剤

著者: 奥健志 ,   渥美達也

ページ範囲:P.500 - P.503

ポイント

◎メトトレキサートは関節リウマチなどで用いられる代表的な免疫抑制剤で,近年投与量の上限が上方修正された.

◎免疫抑制剤の重要な副作用である感染症として,潜在性の結核やB型肝炎の再活性化は重要な問題である.

サイトカインを標的とした生物学的製剤

著者: 亀田秀人 ,   竹内勤

ページ範囲:P.504 - P.507

ポイント

◎生物学的製剤はサイトカインを十分に中和できる用法・用量を可能にした.

◎画期的な治療効果により,関節リウマチの治療目標を寛解に引き上げた.

◎注意すべき副作用は感染症と製剤に対するアレルギー反応である.

細胞表面抗原を標的とした生物学的製剤

著者: 田中良哉

ページ範囲:P.508 - P.513

ポイント

◎細胞表面抗原を標的とした生物学的製剤は,細胞障害,細胞間シグナルの制御,細胞内シグナル伝達の制御を介して免疫異常を是正する.

◎共刺激分子,B細胞表面抗原,接着分子を標的とする生物学的製剤による自己免疫疾患の治療開発が進行している.

◎CTLA-4-Ig融合蛋白アバタセプトは関節リウマチに高い臨床効果を発揮する.

◎抗BAFF抗体belimumabは欧米で全身性エリテマトーデスに対して承認された.

◎抗CD20抗体rituximabは欧米で関節リウマチに対して承認されている.

連載 顔を見て気づく内科疾患・3

「顔がゆがむ・曲がる」顔面神経麻痺

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.363 - P.363

患 者:80歳台女性

病 歴:全身性血管炎にて少量ステロイドで維持療法中であったが,顔がゆがむ,食べ物が口からこぼれるとの症状が急に出現し,来院.

実は日本生まれの発見・3

IgG4関連疾患―21世紀に(日本で)確立された新たな疾患概念

著者: 梅原久範

ページ範囲:P.365 - P.365

 IgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)は,21世紀に日本で生まれた新たな疾患概念で,血清IgG4高値と病変部への著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする.その発見の端緒は,2001年にHamanoらが硬化性胆管炎(自己免疫性膵炎)における血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞浸潤をN Engl J Medに報告したことに始まる.その後,同様の特徴がMikulicz病,Reidel甲状腺炎,Küttner腫瘍,後腹膜線維症,炎症性偽腫瘍と呼ばれていた疾患群や,間質性腎炎,間質性肺炎などの一部にも認められた.

 その後,厚生労働省難治性疾患克服研究事業IgG4関連疾患研究梅原班(班長:金沢医科大学血液免疫内科 梅原久範,班員66名)と岡崎班(班長:関西医科大学第3内科 岡崎和一,班員55名)の2班合同による詳細な解析によりIgG4関連疾患としての概念が確立した1,2)

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・4

依頼理由{その3}心雑音―~その原因はなんですか~(収縮期雑音篇2)

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.518 - P.524

 「雑音が聞こえたから,まぁエコーかな?」

 確かにエコーを当てればドプラで乱流がカラフルに輝き,どこに流速が速い部分があるのかひと目でわかります.でも,エコーは単なる雑音発生源の探索装置ではありません.もっと深いところで重症度やリスク評価にも威力を発揮します.

 さて,今回は前回に引き続き「収縮期」雑音を扱います.前回は,大動脈弁狭窄症(AS)を取り上げましたが,今号ではそのライバルの双璧,閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と,僧帽弁閉鎖不全症(MR)の登場です.

目でみるトレーニング

著者: 鳥飼圭人 ,   川瀬共治 ,   高田和生

ページ範囲:P.526 - P.531

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・12

SLEにおける水疱病変

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.534 - P.538

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは,全身性エリテマトーデス(SLE)に対して3カ月前からB細胞をターゲットとした抗体療法を受けている30歳の女性です.ミゾリビンは抗体療法開始時に中止されていますが,少量のプレドニゾロンは長期に服用されていて現在は9mg/日となっています.顔面に水疱性の皮疹が出現したので,週末の夜間に救急室を受診されました.帯状疱疹のリスクに関して説明してあったので,早めの治療をということで来ていただけたようです.

アレルギー膠原病科医 ステロイドも含めて免疫を抑制する薬剤に関しては,最近強化していないようでしたら,何か帯状疱疹になるきっかけはあったのでしょうか.

こんなときどうする?内科医のためのリハビリテーションセミナー・12

糖尿病・重度肥満

著者: 原田卓 ,   上月正博

ページ範囲:P.544 - P.547

症例

〔52歳,男性〕

・現病歴:4年前,糖尿病と診断.経口糖尿病薬内服で加療されていたが,徐々に体重増加.一方,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の合併を指摘され,CPAP(continuous positive airway pressure)療法を導入され,近医内科医院に通院していた.昨年8月に仕事を辞めてから自宅で過ごす時間が増え,血糖コントロールの増悪と体重増加が著しく,今回,それらの精査・加療目的に入院となった.

・既往歴
①8年前にうっ血性心不全,拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM),一過性心房細動と診断され,近医循環器内科入院.除細動を受けたが,慢性心房細動に移行.その後も心不全の増悪にて2回入院歴あり.
②2年前から,歩行時の両膝の疼痛が時に出現し,近医整形外科で両側の変形性膝関節症と診断され,減量を勧められていた.

・生活歴:元食品関係の営業職,妻・息子3人との5人暮らし,飲酒習慣;なし,喫煙歴;8年前に禁煙

REVIEW & PREVIEW

悪性腫瘍に対する分子標的治療

著者: 中村朝美 ,   木村晋也

ページ範囲:P.540 - P.543

最近の動向

 今日に至るまでがん化学療法の中心的役割を担ってきた殺細胞性抗がん剤は,DNAの修復や細胞の分裂,増殖の過程に作用してがん細胞を殺すことにより抗腫瘍効果を発揮する.しかし,がん細胞だけでなく正常細胞にも同様に障害を与えてしまうため重い副作用が出現する.一方,分子標的薬はがん細胞の増殖,浸潤,転移に深く関与している分子を同定し,その分子を阻害することにより腫瘍の増殖を抑えることを目的に開発された薬剤である.がん細胞に特徴的な分子を標的とすることで腫瘍特異的に効果を発揮し,正常細胞に対する副作用が少なくなると期待される1)

 日本では2001年に転移性乳がんに対するトラスツズマブ(ハーセプチン®)が承認されたのをかわきりに,現在では慢性骨髄性白血病などの血液疾患,非小細胞肺がん,大腸がん,腎細胞がんなど幅広い領域のがんで使用されている(表1).慢性骨髄性白血病では以前はほとんどの患者が数年で亡くなっていたが,イマチニブを用いた場合は6年生存率が95%2)と,劇的な予後の改善が得られている(図1).また,腎細胞がんのように,これまで効果が期待できる薬剤がなかった領域のがんに対しても分子標的薬が新たな治療戦力として用いられ,生存期間の延長が得られている3,4).このように分子標的薬はがん治療においてきわめて重要な役割を担うようになってきた.

SCOPE

タコツボ心筋症について

著者: 佐藤光 ,   廣常信之 ,   本藤達也

ページ範囲:P.548 - P.554

発見から症例の集積まで

 タコツボ心筋障害は,佐藤(筆者)が,児玉和久先生(大阪警察病院・心臓病センター)が主催する六甲循環器カンファランスにて症例を呈示したのが最初であり,その第一例目の症例を呈示する(図1)1).学会としては第1回日本冠疾患学会にて,土手慶五医師(現安佐市民病院循環器科主任部長)が最初である2).細い冠動脈がエルゴノビン負荷により,より細くなり,会場はどよめいた.多発性の冠動脈複数の冠動脈攣縮例としてタコツボ心筋障害例を供覧したのだ.議論は白熱した.その後タコツボ心筋障害の症例を重ねるにつれ,タコツボ心筋症の急性期といえども,それほど冠攣縮症例は高頻度ではないことがわかった.もちろん,冠攣縮が原因とする報告もある.一方,心尖部の心基部の狭窄様所見と心尖部の膨隆が特徴としてきたが,大きさも多様であること,さらに,心基部の膨隆を特徴とする症例もあることがわかってきた.Hurstらは,一過性の心基部膨隆例を報告3)している.

 循環器科の世界的有名な教科書“HURST THE HEART”や“BRAUNWALD’S HEART DISEASE;A Text book of Cardiovacular Medcine”は,もちろんのこと内科学の世界的な教科書“CECIL MEDICINE 23rd”や“HARRISON’S principle of internal medicine 17th”にまで,tako-tsubo cardiomyopathyとして,わずかながらも取り上げられるに至った.タコツボ心筋障害を最初に研究会で取り上げてくださったのは,順天堂大学循環器内科の河合祥雄教授である.本邦学会報告例の検討で総説として発表し,纏められた4).しかし,地方の一病院の循環器科をいつも温かく見守ってくださったのは河合忠一京大教授である.2002(平成14)年以降の東京の研究会で,「米国でもタコツボ心筋障害が話題になっている」と教えてくださったのも京大河合忠一名誉教授であった.NEJM CASE 18-1986のCPC症例5)は,44歳女性.17歳息子の首つり自殺に遭遇,胸部の押しつぶされる圧迫感で,30分後に発症.肺水腫の所見をcatecholamin induced myocarditisとしている.IABP(大動脈内バルーンパンピング法)による治療後に劇的に改善している.同僚の栗栖智の集めた症例は,broken haeart diceaseの悲しみのあまり心臓が破れそうな症例ではなく,そして実際心臓が破れた症例は,103例中1例に過ぎなかった.原因としては,推定すると,老女が親しい友人の葬儀に参列して気分不良となりタコツボ心筋症を発症するような症例が多く,NEJMの息子の首つりのような極度の悲劇的な症例には会わなかった.したがって心拍数や血圧に平均で異常はなくカテコールアミンの関与は全く思い至らなかった.私たちの症例には,幸か不幸かあまりにも悲惨なこのような症例には遭遇しなかった.Wittsteinの優れたreview 6)が出た.また,G. Decらの主張7,8)も理解できた.一方で,栗栖の症例の中で重症の脳梗塞で意識不明のまま亡くなったが,タコツボ心筋症を呈した症例があり,意識があるからストレスになるが,タコツボ心筋障害の発症には必ずしも意識があるということが絶対的な条件ではないかも知れないと考えるに至った.栗栖の集めた症例で,平均心拍数・血圧も,特に高い症例はなく,カテコールアミンが主因だとは想像していなかった.カテコールアミンによる心筋障害は,イエウサギの動物実験で,顕微鏡下では,かなり強烈な心筋障害があり,とても一過性の心筋障害とはいえないという先入観があったからである.そのうえ,ストレスといっても必ずしも意識下での出来事でなくても,タコツボ心筋障害は発症することがわかった.心電図の変化に気が付いても特異な心臓収縮の変化だとは思わず,見過ごしている症例が麻酔医によって,明らかにされた.市立岡谷病院の黒河内信夫は周術期にみられた心電図変化はタコツボ心筋障害であると推定している.可変的心筋梗塞または,梗塞様心電図変化とされてきたものはタコツボ心筋障害ではないかと第6回信州麻酔談話会で発表した.神戸大学の循環器科でズブアラ(subara)心電図と称されてきたのも,東京医科大学山科章教授も,お目に掛かった時に,「ビックリした時の精神的な変化による心電図変化だと考えられたのも,タコツボ心筋障害の心電図ではなかったのか」と,推定しておられた.

書評

―野上昭彦,他 訳 Brugada J,Brugada P,Brugada R 著―ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82

著者: 三田村秀雄

ページ範囲:P.445 - P.445

 “The Kiss of the Girl from Ipanema. ”

 これが何のことかを知るだけでも一読の価値がある.

―和田隆志・古市賢吾―AKI(急性腎障害)のすべて―基礎から臨床までの最新知見

著者: 柏原直樹

ページ範囲:P.533 - P.533

 ベッドサイドでの臨床医による緻密な観察と洞察によって新たな疾患・病態が発見され,疾患概念が確立される.AKI(急性腎障害)もその典型例であろう.「急性腎不全」とAKIはどこが異なるのであろうか.刻一刻と病態が変化する重症患者を多く診る医師たちは,きわめて軽微な急性の腎障害がその後の生命予後に大きな影響を与えることを喝破した.「急性腎不全」では遅いのである.AKIは腎臓に加えられた侵襲を最早期の段階で把握し,腎不全への移行を阻止し,生命予後を改善するために生まれた概念である.病理組織や病因論に基づいて理路整然と体系づけられた古典的な疾患概念とは異なり,救命に奔走する医師たちの臨床現場での迫真の議論から生まれたきわめて実践的な病態概念でもある.

 AKIは感染症,心疾患,血液疾患,薬剤使用など広範な原因によって,さまざまな診療現場で発生する.したがって,専門性の如何にかかわらずAKIの病態を理解し,予防と治療法を知る必要がある.重症患者を受けもっているレジデント,研修医にとっては,「待ったなし」の事態といえよう.この「今そこにある危機」に対処するために編纂されたのが本書である.その内容の充実は「AKIのすべて」の書名を裏切らない.編纂者を含めて現時点での望みうる最良の執筆陣である.AKIの診療と研究の最前線に身を置く,新進気鋭の臨床医・研究者が診療・研究の手を休めて,寸暇を惜しんで執筆したのが本書である.

―青木省三・村上伸治 編 野村総一郎・中村 純・青木省三・朝田 隆・水野雅文 シリーズ編集―《精神科臨床エキスパート》専門医から学ぶ―児童・青年期患者の診方と対応

著者: 大森哲郎

ページ範囲:P.561 - P.561

一般精神科医のニーズに,最も実践的な観点から答えてくれる一冊


 児童・青年精神医学の専門家が,一般の精神科医に向けて児童・青年期患者の診方と対応を述べた貴重な一冊である.編者の序文によると,「執筆者には,自分の経験と勉強を通して身につけた臨床のエッセンスを,先輩が後輩に伝えるようなつもりで記していただいた」とのことである.この意図が実に見事に実現している.

 執筆は24名の児童・青年期を専門とする精神科医.このうち大学などの教育研究機関に所属するのは8名,病院や福祉施設などに所属するのが10名,クリニック6名という構成である.臨床の第一線に立っているセンスのよい臨床医を主とした布陣とみてよいだろう.構成は,「子どもの面接・評価・診断」「子どもへのアプローチ・治療総論」「子どもの精神症状の診方」「子どもの周囲へのアプローチ」と4部からなり,各部はいくつかの章に分かれて,全部で24章,執筆者一人が一つの章を担当している.

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.562 - P.563

購読申し込み書

ページ範囲:P.564 - P.564

次号予告

ページ範囲:P.565 - P.565

奥付

ページ範囲:P.566 - P.566

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?