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雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻5号

2013年05月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えるにあたり

ページ範囲:P.757 - P.757

特集 胃食道逆流症(GERD)―“胸やけ”を診療する

著者: 鈴木秀和

ページ範囲:P.759 - P.759

 胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は近年,欧米だけでなく,日本を含むアジア各国で,著しく増加しており,上部消化管の臨床で最も頻度の高い疾患の一つである.GERDは,酸性の胃内容物が食道に逆流することで,下部食道の粘膜傷害を惹き起こすばかりでなく,一見,無関係にみえるようなさまざまな病態が出現する.診療頻度の増加に加え,非定型症状のために消化器内科以外の診療科における関心も高まっており,日常診療のなかでの比重はますます大きくなってきている.さらに,医療関係者,患者,あるいはマスコミを含めたいわゆる「世間」の関心の高まりも,診療機会を増やすことに繋がっている.

 GERDは酸性胃内容物の食道内逆流によって起こる病態であるが,逆流の発生機序と,逆流の結果起こるさまざまな問題など,多彩な局面が存在する.最近のGERDおよび関連疾患の増加には,メタボリックシンドロームと共通基盤を有する栄養や肥満の問題,H. pylori感染の減少にかかわる衛生環境の問題などの社会経済的要因が影響しているといえる.つまり,社会環境の変化を抜きにしてGERDを考えることはできないし,一方で内視鏡所見や症状評価の問題,逆流と関連する食道外症状の問題,逆流性食道炎の合併症としてのBarrett食道とさらには下部食道腺癌(Barrett腺癌)の問題など,重要なテーマが,きわめて多彩に存在している.特に食道腺癌は欧米で急激な増加が認められ,食道癌の半数以上を占めるようになっているものの,わが国ではまだ数%に留まるなどの違いがある.しかし,今後,日本でも増えていく傾向は出てきている.一方で,超高齢社会の到来も大きな要因である.GERDは高齢者に多い疾患で,亀背,NSAIDsの服用など,高齢者に多い問題点と病因が共通する点も重要である.

特集の理解を深めるための26題

ページ範囲:P.879 - P.882

座談会

日本人のGERDはなぜ治療しなければいけないのか?その必要があるか?

著者: 鈴木秀和 ,   内藤裕二 ,   藤原靖弘 ,   佐藤祐一

ページ範囲:P.760 - P.769

鈴木(司会) 本日はお集まりいただきありがとうございます.われわれが学生のころには,GERD(胃食道逆流症)というのは教科書に載っていなかったような病名ですが,日本でもGERDが増えてきたという現状のなかから,これをどう治療するか,治療しなければいけないのか,その必要があるのかということについて,先生方の忌憚のないご意見をいただければと思っています.

疫学と病態

日本人の酸分泌および酸関連疾患,Barrett食道の変遷

著者: 伊藤公訓 ,   田中信治 ,   茶山一彰

ページ範囲:P.770 - P.772

ポイント

◎近年,日本人の酸分泌量は増加している.

◎胃食道逆流症などの酸関連疾患は増加し,臨床的重要性が高まることが予想される.

GERD/Barrett食道の疫学

著者: 宮本真樹 ,   春間賢

ページ範囲:P.774 - P.776

ポイント

◎欧米に多く,わが国には少ないとされてきたGERD・逆流性食道炎は,近年,食生活の欧米化,H. pylori感染率の低下などから,急激に増加している.

◎GERDの合併症の1つであるBarrett食道は,Barrett食道癌(食道腺癌)の発生母地として注目されている.

◎現時点で,欧米に比べ,Barrett食道癌の発生は稀とされている.しかしながらBarrett食道癌の増加とGERDの増加にはタイムラグがあったとの欧米からの報告もあり,今後注意を要する.

胃食道逆流と食道知覚過敏の機序

著者: 岩切勝彦 ,   川見典之 ,   坂本長逸

ページ範囲:P.777 - P.780

ポイント

◎胃酸逆流の多くは,嚥下とは関係なく下部食道括約筋(LES)が突然弛緩し発生する.この現象は一過性LES弛緩と呼ばれ,「おくび」のメカニズムでもある.

◎低LES圧時に発生する胃酸逆流は稀であり,健常者や軽症逆流性食道炎ではほとんどみられない.

◎胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)患者では扁平上皮層の細胞間隙が拡大し,知覚神経が刺激されやすい状態にある.

◎酸の侵害受容体はTRPV1であるが,GERD患者ではTRPV1の発現増加が報告され,知覚過敏状態にある.

診断

GERDの診断基準(モントリオール定義など)

著者: 飯島克則 ,   小池智幸 ,   下瀬川徹

ページ範囲:P.782 - P.784

ポイント

◎GERDは典型的な症状を有していれば,問診だけで診断可能である.

◎逆に,内視鏡検査,24 hr pHモニタリングで逆流に伴う異常が検出されれば,症状がなくてもGERDと診断される.

◎GERDは,種々の食道外徴候と関連するが,その場合,胸やけなどの典型的なGERD症状を随伴することが多い.

逆流性食道炎,Barrett食道,Barrett食道腺癌の内視鏡診断

著者: 天野祐二

ページ範囲:P.785 - P.788

ポイント

◎逆流性食道炎の診断一致性の向上のために,食道下部を十分に伸展させて正確に観察を行うことが大切である.

◎Barrett食道の内視鏡診断は,正確な食道胃接合部の位置診断が基本となる.本邦では食道柵状血管の下端とすることが多いが,胃の縦走襞の上端も食道胃接合部として定義されている.

◎Barrett食道腺癌の内視鏡診断は,発生部位の特異性や炎症の存在を考慮に入れて行う必要がある.

◎LSBE症例は坦癌率が高いので,丁寧な内視鏡観察に加えて,積極的にサーベイランス生検を行うことが望ましい.

GERD関連食道疾患の病理診断

著者: 向所賢一

ページ範囲:P.790 - P.792

ポイント

◎胃食道逆流症(GERD)は,Barrett食道や食道腺癌の危険因子である.

◎GERD症例に特異的な組織学的所見はないが,基底層の過形成や粘膜上皮の細胞間隙拡大は,胃食道逆流の指標として比較的有効である.

◎本邦では,Barrett粘膜は,“胃から連続性に伸びる円柱上皮で,腸上皮化生の有無を問わない”と定義されている.

プライマリケアにおけるGERD診療・症状スケールの活用による診療

著者: 石原慎一

ページ範囲:P.793 - P.796

ポイント

◎プライマリケアにおいてGERDの残存症状に気付き治療することは患者満足度の向上にも繋がる.

◎患者自己記入式のGERD疾患特異的問診票は,患者の訴えを詳細に聞き出し治療に繋げるのに有用である.

◎GerdQ問診票とFSSG問診票はともにGERDの診断,治療に有用である.

食道外症状

GERDと慢性咳嗽・喘息・COPD

著者: 新実彰男

ページ範囲:P.798 - P.802

ポイント

◎GERDによる慢性咳嗽は近年増加が指摘されており,また咳喘息など他疾患による咳嗽にしばしば合併する.

◎したがって食道症状や会話時,起床時,食事中の咳の悪化,咽喉頭症状の合併などの病歴の特徴をよく理解して,PPIを中心とする治療を考慮する必要がある.

◎GERD症状を合併した喘息患者においてはGERDの治療によって喘息のコントロールが改善する場合がある.

◎COPDにおけるGERDの関与についても増悪を中心に知見が集積されつつある.

GERDと睡眠障害/閉塞性睡眠時無呼吸症候群

著者: 藤原靖弘 ,   平本慶子 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.803 - P.806

ポイント

◎GERD患者の約半数が睡眠障害を伴っており,QOLがさらに低下している.

◎閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者ではGERD有病率が高いが,直接的な因果関連は不明である.

◎睡眠障害によりGERD症状を増悪させることから,悪循環の存在が示唆される.

◎睡眠障害を伴うGERD患者には,より十分に夜間の胃酸分泌を抑制する薬剤や投与方法を選択する.

GERDと咽喉頭症状

著者: 曾根三千彦

ページ範囲:P.807 - P.809

ポイント

◎胃食道逆流に関連した咽喉頭症状を有する症例は予想以上に多い.

◎逆流に対する不十分な治療では咽喉頭症状の改善は望めない.

◎高齢男性には無症状が多いものの,逆流の存在を的確に診断し治療することが患者のquality of lifeの改善に繋がる.

GERDと歯牙酸蝕

著者: 関根浄治

ページ範囲:P.810 - P.813

ポイント

◎GERD罹患者のすべてに歯牙酸蝕が合併するわけではない.

◎GERD罹患者では唾液分泌量の低下と嚥下機能の低下を伴うことが多い.

◎GERD罹患者に対する食道外症状の精査として,専門医への対診を推奨する.

◎歯科医師・口腔外科医による口腔乾燥症状の評価と治療,嚥下リハビリテーション,専門的口腔ケアが,原疾患の治療と並行して必要である.

鑑別が必要な疾患

好酸球性食道炎

著者: 古田賢司 ,   木下芳一

ページ範囲:P.816 - P.820

ポイント

◎成人において最も多くみられる症状は嚥下困難で,次いで胸やけがみられる.

◎内視鏡像としては,縦走する溝状裂孔,白色の点状浸出物の付着,輪状の狭窄が特徴.

◎内視鏡像が正常とみえる症例が30~40%程度存在する.

◎内視鏡下で食道粘膜の生検を行うと高倍率視野で1視野あたり15~25個以上の上皮内好酸球を認めるのが特徴.

◎厳密にいえば,PPIでは改善がみられずステロイドが著効する.

食道アカラシア/びまん性食道痙攣/ナットクラッカー食道

著者: 星野真人 ,   小村伸朗 ,   柏木秀幸

ページ範囲:P.821 - P.823

ポイント

◎病歴と問診によって,アカラシアを鑑別診断として念頭に置くことが重要.

◎つかえ感や胸痛を主訴とした患者が来院した場合,食道造影検査を行う.

◎精神的要因と結論づけられ,一次性食道運動機能障害の診断に至らないケースがある.

◎一次性食道運動機能障害(アカラシア,びまん性食道痙攣,ナットクラッカー食道など)の最終的な確定診断には食道内圧検査が必要である.

◎近年,食道運動機能障害の評価に対しHigh-resolution manometry(HRM)が欧米を中心に普及し始めている.

注目すべき背景疾患

GERDと骨粗鬆症に伴う危弱性骨折による亀背,それによる食道裂孔ヘルニアとの関連

著者: 茂木文孝 ,   草野元康

ページ範囲:P.824 - P.827

ポイント

◎骨粗鬆症も逆流性食道炎も,高齢者では女性に有病率が高い.

◎骨粗鬆症による亀背は腹圧上昇をもたらして裂孔ヘルニアを惹起すると考えられる.

◎骨粗鬆症に伴う逆流性食道炎は難治化しやすく,プロトンポンプ阻害薬の投与量や投与方法を変更せざるをえないことが多い.

◎骨粗鬆症にGERD症状を認めた場合には,ビスホスホネート製剤や非ステロイド消炎薬の影響も念頭に診察する必要がある.

薬剤によるGERD症状とその対策―Ca拮抗薬,亜硝酸薬など

著者: 大島忠之 ,   渡二郎 ,   三輪洋人

ページ範囲:P.828 - P.830

ポイント

◎高齢化社会で胃食道逆流症(GERD)は増加傾向にあるとともに種々の疾患を合併している患者が多い.

◎GERD患者を診るときにはほかの疾患に対する薬剤投与も聴取すべきである.

◎GERD患者に新たな投薬を行うときは,下部食道括約筋圧を低下させる薬剤や粘膜傷害を惹起させる薬剤の投与には注意が必要である.

GERDとメタボリックシンドローム(NASH・糖尿病)

著者: 佐々木悠 ,   阿部靖彦 ,   上野義之

ページ範囲:P.832 - P.835

ポイント

◎GERDは,腹部肥満やメタボリックシンドロームと関連し,日本において増加傾向にある.

◎内臓脂肪蓄積による腹圧上昇,酸逆流増大,酸感受性の亢進などがGERDと肥満の病態にかかわっている.

◎メタボリックシンドロームでみられるアディポサイトカイン分泌異常とGERDとの関連性が示唆される.

◎肥満治療でGERDが改善することがある.

GERDに関連する疾患

機能性胸やけ・Rome Ⅲ分類について

著者: 正岡建洋 ,   鈴木秀和 ,   日比紀文

ページ範囲:P.836 - P.838

ポイント

◎機能性胸やけ(functional heartburn:FH)とは酸の胃食道逆流を認めないにもかかわらず,胸骨裏の焼けるような不快感や痛みを認める疾患である.

◎プロトンポンプ阻害薬投与への反応性の有無が胃食道逆流症との鑑別において重要である.

◎FHの治療には抗うつ薬の投与や精神的治療が有効と考えられているが,エビデンスは十分ではない.

非心臓性胸痛(non-cardiac chest pain:NCCP)

著者: 藤野雅史 ,   安田聡

ページ範囲:P.840 - P.843

ポイント

◎胸痛のうち,心疾患が認められない場合,非心臓性胸痛(NCCP)と判断される.

◎GERDによって,狭心症と鑑別しがたい胸痛が起こることがある.

◎胸痛に対しPPIを投与し,その効果判定からGERDの関与を評価する治療的診断方法にPPIテストがある.

◎患者の症状,QOL改善の観点から,狭心症様胸痛患者においてはGERDも配慮した診断アルゴリズムが求められる.

GERDとH. pylori除菌

著者: 西澤俊宏

ページ範囲:P.844 - P.846

ポイント

H. pylori除菌後に逆流性食道炎の発症増加や症状増悪をほとんど認めない.

◎逆流性食道炎の存在がH. pylori除菌の妨げとならない.

◎PPI長期維持療法を行う場合には,H. pylori感染をチェックして除菌を考慮する.

NSAIDs起因性GERD

著者: 塩谷昭子 ,   眞部紀明 ,   春間賢

ページ範囲:P.848 - P.850

ポイント

◎高齢者のGERDは,重症化しやすく,服用薬剤や身体的要因などの関与を考慮すべきである.

◎NSAIDs・アスピリンは,Barrett食道およびBarrett腺癌発生の抑制因子である.

◎欧米の報告によると,NSAIDs・アスピリン内服によりGERD発生が約2倍増加する.

◎NSAIDs・アスピリンによるGERD発生に関する研究は少なく,その機序についても不明である.

機能性ディスペプシアとGERDの症状の特徴・重複

著者: 春日井邦夫

ページ範囲:P.851 - P.854

ポイント

◎FDは「つらいと感じる食後のもたれ感,早期飽満感,心窩部痛,心窩部灼熱感の4項目のうち1つ以上の症状が,6カ月以上前からあり,最近の3カ月間は症状が続いている」と定義されている.

◎GERDは「胃内容の逆流が煩わしい症状や合併症を起こした状態を指す」と定義されている.

◎FDとGERDでは症状発現部位が異なる.

◎FDとGERDのオーバーラップ率はおおむね20~30%である.

GERDの治療

GERDの治療薬

著者: 佐藤祐一

ページ範囲:P.856 - P.858

ポイント

◎GERD治療の第一選択はPPIである.

◎GERD診療ガイドラインのフローチャートを参考にするとよい.

◎症状に応じて,PPIの投与方法にも工夫をする.

◎PPI抵抗例の原因は,①酸分泌抑制の不足,②酸逆流以外の要因,の2つがある.

◎PPI抵抗例の治療にはPPI倍量や2分割投与,H2受容体拮抗薬の就寝前投与が有効なことがある.

◎PPI抵抗例へのその他の治療として,消化管運動症機能改善薬や漢方薬,あるいはGABAB受容体アゴニストが検討されている.

生活習慣・食習慣改善によるGERD対策

著者: 鎌田和浩 ,   内藤裕二

ページ範囲:P.859 - P.861

ポイント

◎食事の欧米化が,わが国でのGERD罹患率上昇の一因となっている.

◎GERD患者は特定の食品の摂取によりGERD症状を訴えることが多い.

◎食事や嗜好品などの生活習慣の改善によりGERDの再発予防が期待される.

 

※「表1 胸やけを引き起こす食品」は,権利者の意向等により冊子体のみの掲載になります.

GERDの外科治療

著者: 小澤壯治

ページ範囲:P.862 - P.865

ポイント

◎GERDに対する代表的な逆流防止手術はNissen噴門形成術とToupet噴門形成術の2種類である.

◎手術適応は,内科的治療抵抗性,狭窄,高度の食道炎,出血,嚥下障害,喘息などの非定型的症状,高度の逆流を認める症例である.

◎手術は逆流防止効果は高い.軽度の通過障害,げっぷや嘔吐困難,腸内ガス貯留などが出現するが,やがて安定化する.

GERDの内視鏡的治療

著者: 時岡聡 ,   梅垣英次 ,   樋口和秀

ページ範囲:P.867 - P.872

ポイント

◎逆流性食道炎の治療の第一選択は薬物治療であるが半永久的に内服し続けなければならず,また物理的な逆流には薬物療法での治療は不可能である.

◎Endoluminal surgeryとしては,縫合法,焼灼法,局注法の3種類がある.

◎手術に比較して低侵襲であり,再治療が可能である.約50~70%の患者は薬物療法から離脱できている.

◎Endoluminal surgeryのデバイスは現在入手困難な状況であり,今後これらの治療法はGERDではなく肥満の治療に移行する傾向にある.

◎これらのことを考慮して,日本独自の方法を開発する必要があり,新たにわれわれは粘膜切除法を考案し現在検討している段階である.

Barrett食道腺癌の内視鏡的治療

著者: 松井啓 ,   矢作直久

ページ範囲:P.873 - P.878

ポイント

◎Barrett食道腺癌の標準治療は外科的治療である.

◎表在型Barrett食道腺癌に対し,さまざまな内視鏡的治療が検討されている.

◎内視鏡的粘膜下層剥離術は表在型Barrett食道腺癌の標準治療になるものと期待できる.

連載 顔を見て気づく内科疾患・5

開口障害:破傷風

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.751 - P.751

症 例:77歳女性

病 歴:X年6月27日から肩こりを感じていたが徐々に増強し,後頸部痛となる.その後ものが飲み込みにくい,あごが痛い,口が開きにくいなどの症状が次々に出現.整形外科,内科,口腔外科,神経内科,耳鼻科などで精査を受けるが原因不明で,消耗も強く7月12日当院紹介となった.

実は日本生まれの発見・5

タクロリムス日本で生まれた免疫抑制剤

著者: 横川直人

ページ範囲:P.753 - P.753

 土壌1グラムのなかに100万の細菌と10万の放線菌と1万のカビが生存している.1928年にA. Flemingが青カビからペニシリンを発見して以来,土壌微生物の産物から約1万の多様な化学構造の化合物が発見された.そのなかで,ヒトの治療薬として誕生したのは一部にすぎないが,ストレプトマイシンを始め,人類史上に残る発見が含まれる.

 1972年にJ. F. Borelが真菌Tolypocladium inflatumの代謝産物であるシクロスポリンに強力な免疫抑制作用があることを発見した.その後,シクロスポリンは米国での臨床試験で有効性が証明された後,腎・肝移植での拒絶反応抑制剤として1980年代より世界中で上市されたが,腎毒性などの副作用が問題であった.

神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・2

体重減少が主訴の70歳女性

著者: 大生定義

ページ範囲:P.885 - P.888

症例:今中和代(仮名)70歳女性

受診1, 2年前から痩せてきているのではないかと家人に言われた.体重は1年前に比べて10kg減った.受診の5カ月前に人間ドックで検査を受けたが,特に異常は指摘されなかった.さらに,近くの内科クリニックを受診し,血液検査を追加されたが異常はなく様子をみるように言われた.しかし,その後も体重の減少も止まらなかった.家人に総合病院を受診するように言われ,本日受診となった.自覚症状は特になく便秘は以前よりあるが,便の色や食欲には変化はないという.

こんなときどうする?内科医のためのリハビリテーションセミナー・14

リハで移植を回避できる!

著者: 上月正博

ページ範囲:P.890 - P.893

症例

〔20歳台,女性1)

症例は特発性間質性肺炎.労作時の呼吸困難として発症した.郷里の病院に入院したが治療効果なく,急激に呼吸困難が進行し,安静時にも息切れを覚えるようになった(Fletcher-Hugh-Jones分類 V度).両親からの生体肺移植を希望し,大学病院に3月に転院した.

〔初診時機能評価〕

肺機能は努力肺活量(FVC)0.93 L(33.2%),1秒量(FEV1)0.73 L(43.5%),動脈血ガス所見の平均は安静時室内気条件下で,PaO2 69.5mmHg,PaCO2 40.9mmHgと低酸素血症は強くないものの,安静時から息切れが強いため歩行はほとんどできない.排尿もおむつ使用であり,排便時O2 1L/minの酸素吸入下でトイレに行く以外はベッド上の生活であった.

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・14

混合性結合組織病(MCTD)患者の皮疹と蛋白尿

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.894 - P.898

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は35歳の混合性結合組織病(MCTD)の患者さんです.MCTDは16歳の時に,Raynaud現象,抗核抗体640倍,抗U1RNP抗体高値陽性,関節痛,心外膜炎,筋肉痛から診断され,ステロイドパルスなどの治療で軽快したとのことです.ここ10年ほどは当院に通院されており,妊娠時の蛋白尿などはありましたが,入院歴もなく最近までは比較的安定していました.今回,職場での大きなストレスがあり体調がすぐれないなか,お子さんの運動会で一日中炎天下にいたところ,発熱,倦怠感,皮疹の増悪をきたしたので受診され,検査にて蛋白尿の出現を認めています.細胞性円柱などの尿沈査はなく,クレアチニン,血清補体値は正常です.

後期研修医(皮膚科) 米国ではMCTDという診断名を最近はあまり使わなくなっているようですが.

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・5

依頼理由{その4}心雑音~その原因はなんですか~〔拡張期雑音篇 大動脈弁閉鎖不全(AR)〕

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.900 - P.906

 これまでの号では,日常臨床でよく聴かれる収縮期雑音を取り上げてきました.収縮期雑音はとにかくよく聞かれるので,この雑音は異常なのか,正常なのかという区別が重要でしたが,これから取り上げる拡張期雑音(のエコーのオーダーの仕方)はちょっと様相が異なります.拡張期雑音は収縮期雑音ほど遭遇する機会は頻繁ではありません.でも,

聞こえたら異常

です.ですので,エコーを受ける側としても単なる「雑音の精査をお願いします」というオーダーよりも「拡張期雑音が聞こえました」と書いてあるオーダーのほうが自ずと力が入るわけです.

 そうした事情で,少し収縮期雑音よりも緊張が強いられる拡張期雑音なのですが,今回はそのなかでも代表格である大動脈弁閉鎖不全(AR)に迫っていきたいと思います.

目でみるトレーニング

著者: 鳥飼圭人 ,   宇根一暢 ,   野田章子 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.908 - P.914

REVIEW & PREVIEW

肺高血圧症診療の進歩

著者: 宮川一也 ,   江本憲昭

ページ範囲:P.916 - P.918

最近の動向

 肺高血圧症(PH)は安静時平均肺動脈圧が25mmHg以上に上昇した状態と定義され,臨床病態により5つの臨床分類グループに分類されている(表1).第1グループの肺動脈性肺高血圧症(PAH)に含まれる特発性PAH,遺伝性PAH(従来の原発性肺高血圧症;PPH)は約20年前までは有用な治療法がなく,平均生存期間2.8年と予後不良の疾患であったが,近年,新たな特異的治療薬が開発され予後の改善が得られるようになっている1).現在,特異的治療薬の適応となるのは第1グループのPAHであり,プロスタサイクリン(PGI2)製剤(エポプロステノール,ベラプロスト),エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン,アンブリセンタン),ホスホジエステラーゼ5(PDE-5)阻害薬(シルデナフィル,タダラフィル)が主な治療薬となっている.

 第4グループの慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,血管内腔の血栓性または線維性の狭窄,完全閉塞により肺動脈圧の上昇をきたす疾患であり,PAHと同様予後不良であることが知られている.CTEPHは手術治療(肺動脈内膜摘除術)により根治し得る疾患であるが,手術適応となる症例は多くないうえ,薬物治療の効果も乏しい.近年,このような手術適応のないCTEPH症例に対する治療法として肺動脈バルーン形成術が注目されている(図1).バルーンによる狭窄血管の拡張により肺動脈圧の著明な低下が得られることが知られており2),治療法としての確立が期待されている.

書評

―内科学研鑽会 編―カルテはこう書け!―目からウロコ「総合プロブレム方式」

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.814 - P.814

 カルテについての本を読むのは多分2冊目,それも20年ぶり,それ以上というところだ.書評を頼まれなければ,おそらく読まなかっただろう.しかし読んでみて,これが意外に(と言ったらちょっと失礼か)面白いのである.例えばプロブレム命名の約束は,以下のようにリストアップされている.

 1.プロブレムは病気の呼び名である

―長野展久 著―医療事故の舞台裏―25のケースから学ぶ日常診療の心得

著者: 長尾能雅

ページ範囲:P.883 - P.883

医療事故の悲しみと苦しみが生んだ,渾身の指導書

 医療事故とはどういうものか,100人の医師に問えば100の答えが返ってくる.何が過誤で,何が合併症か,事故調査はどうあるべきか,司法は,賠償は,と議論は尽きない.しかし,多くの医師は医療事故を断片的,一方向的にしか知る立場になく,その全体像を多角的に説明できる者は少ない.

 本書にはきわめてリアリティに富む25の医療事故のエピソードと,その顛末が記されている.いずれのエピソードも,医療者,患者,司法,そして社会の思考回路を誇張なく伝えるものであり,日々医療事故と向き合っている医療安全管理者からすれば,これこそが医療事故の実態とうなずける.著者は誰に肩入れすることなく,可能な限りの中立性と自制を保ちながら,粛々と事故事実と再発防止策をつづっている.

information

第34回「母乳育児学習会in北九州」のご案内

ページ範囲:P.792 - P.792

主催●NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)

日時●2013年6月29日(土)・30日(日)

場所●北九州国際会議場 福岡県北九州市小倉北区浅野3-9-30

(http://www.convention-a.jp/sponsor/kokusai/)

日本製薬医学会2013年度製薬医学教育コースご案内

ページ範囲:P.809 - P.809

 受講希望者は下記の受付期間中に申請書類を日本製薬医学会事務局まで提出してください.

 書面審査にて受講資格が確認された後に,年間受講料の振込手順についてお知らせします.

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.926 - P.927

購読申し込み書

ページ範囲:P.928 - P.928

次号予告

ページ範囲:P.929 - P.929

奥付

ページ範囲:P.930 - P.930

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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