icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻7号

2013年07月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えるにあたり

ページ範囲:P.1135 - P.1135

特集 “実践的”抗菌薬の使い方―その本質を理解する

著者: 細川直登

ページ範囲:P.1137 - P.1137

 抗菌薬の使い方は近年,大きく変わりつつある.海外からの情報や感染症診療に関する書籍が飛躍的に増え,日本語でも入手できるようになった.しかし,雑誌,書籍,電子媒体,製薬企業などによるさまざまな情報は玉石混淆であり,情報を適切に取捨選択するには,ある程度基本的な知識と原則論を身につける必要がある.そこで本特集では,抗菌薬の特性を理解し,その原則をもとに実践的な使い方をするための知識を以下のような構成で解説した.

 総論:薬剤同士の“同じ部分=類似性”をまとめてその特徴を理解する

特集の理解を深めるための26題

ページ範囲:P.1266 - P.1270

座談会

抗菌薬の添付文書とPK-PDのギャップ・本来あるべき抗菌薬の適正な使用

著者: 細川直登 ,   本郷偉元 ,   岡秀昭 ,   小田倉弘典

ページ範囲:P.1138 - P.1149

細川(司会) 本日は日本の添付文書に記載されている抗菌薬の用法・用量と薬剤特性を考慮した投与法との違いなどについてお話しいただき,このような議論を通して本来あるべき抗菌薬の適正な使用法を探りたいと思います.

Editorial

添付文書だけでなく,サンフォードだけでもない抗菌薬の使い方

著者: 細川直登

ページ範囲:P.1150 - P.1152

ポイント

◎日本の抗菌薬の添付文書に記載されている用法,用量は国際的な標準より少ないものが多い.しかしこれに関して,アジアも含めた外国人と日本人では体重差,代謝の違いなどでは合理的な説明がつかない.

◎PK-PD理論を考慮した合理的な投与方法を実践しようとすると,保険適用との矛盾が生じる.

◎添付文書に配慮しつつ,合理的な投与方法を実践する必要がある.そのための理論とtipsを学び,優先順位を考慮した抗菌薬の投与法を習得しておく.

総論:薬剤同士の“同じ部分=類似性”をまとめてその特徴を理解する 【対象微生物でまとめる】

グラム陽性菌用の薬剤

著者: 大路剛

ページ範囲:P.1154 - P.1158

ポイント

◎グラム陽性球菌(GPC)を原因微生物として考える場合は,①黄色ブドウ球菌をカバーすべきか否か,②その患者背景からMRSAを考慮すべきか否か,を意識する.

◎臨床的にグラム陽性桿菌で特に意識すべきものはListeria monocytogenesBacillus cereusである.また,黄色ブドウ球菌をカバーする必要がなければ,ペニシリン系,それもβラクタマーゼ阻害薬非配合のもので十分である.

◎日本ではマクロライド系やクリンダマイシンはグラム陽性球菌,特に黄色ブドウ球菌には使用できないと考えたほうがよい(条件付きでは使用可能).

グラム陰性菌用の薬剤

著者: 山本舜悟

ページ範囲:P.1160 - P.1164

ポイント

◎GNRへのスペクトラムを整理する際には,緑膿菌をカバーするかどうかに注目する.

◎ペニシリン系,セファロスポリン系では新しい薬剤ほどグラム陰性菌に対する活性が強くなっていく傾向にある.

◎「活性を有する」ことと「治療に用いるべき」ということは同義ではない.それぞれの抗菌薬に与えられた役割を理解しておく.

抗嫌気性菌薬

著者: 北薗英隆

ページ範囲:P.1166 - P.1169

ポイント

◎嫌気性菌感染はフォーカスや臨床状況で疑う.

◎嫌気性菌はしばしば培養での検出,同定が難しい.

◎嫌気性菌感染の多くは好気性菌との混合感染であり,両者のカバーが必要である.

◎横隔膜上と横隔膜下によって,治療に用いる抗菌薬は異なる.横隔膜下は嫌気性菌の量が多く,かつ耐性のBacteroides属が多い.

◎今のところβラクタマーゼ配合ペニシリン,カルバペネム,メトロニダゾール,チゲサイクリンに対する嫌気性菌の耐性はほとんどない.

◎セファマイシン,クリンダマイシン,モキシフロキサシンは横隔膜上でも横隔膜下でもin vitroでの嫌気性菌の耐性が増えている.

抗緑膿菌薬

著者: 笹野幹雄 ,   林淑朗

ページ範囲:P.1170 - P.1174

ポイント

◎緑膿菌は院内感染症や免疫不全患者の感染症において,重要な起炎菌である.

◎緑膿菌感染症の治療の遅れは予後不良に直結する.

◎抗菌薬選択の際は「緑膿菌までカバーするか,否か?」を常に考える.

◎緑膿菌は複雑な耐性機序を有し,耐性を獲得しやすい.

◎各施設の緑膿菌のアンチバイオグラムを把握することが重要で,とにかく「外さない」ことを意識する.

抗MRSA薬

著者: 中村権一

ページ範囲:P.1175 - P.1179

ポイント

◎重症MRSA感染症に対する第1選択薬はバンコマイシン(VCM)である.

◎敗血症,肺炎などの重症MRSA感染症に対してVCMを選択する場合は,トラフ値15~20μg/mLに維持する.

◎腎機能の悪化やアレルギーなどでVCMが使用しにくい例,またはVCMに対するMICが2μg/mL以上で治療効果が十分でない例では,リネゾリド,ダプトマイシンなどほかの抗MRSA薬を検討する.

◎抗菌薬適正使用の名目で一律に2週間以内に中止すべきではない.個々の症例での臨床判断になるが,体温,白血球数,CRP値ではなく,ガイドラインなどで推奨されている治療期間を参考にする.

【抗菌薬の構造でまとめる】

βラクタム系薬

著者: 丹羽一貴 ,   有馬丈洋 ,   本郷偉元

ページ範囲:P.1180 - P.1184

ポイント

◎βラクタム系薬は細胞壁合成阻害薬である.

◎ペニシリン系抗菌薬,セファロスポリン系抗菌薬,カルバペネム系抗菌薬,モノバクタム系抗菌薬の4つがある.

◎アナフィラキシーといったⅠ型アレルギーの既往がある場合は,すべてのβラクタム系薬の使用を避ける.

フルオロキノロン系薬

著者: 渋江寧 ,   岡秀昭

ページ範囲:P.1186 - P.1188

ポイント

◎濃度依存性抗菌薬であるため,1日の投与回数を少なくし,1回の投与量を多くすることで効果が発揮される.

◎広域なスペクトラムを有している.乱用による耐性菌増加が危惧されるため,投与する際は慎重に適応を考える.

◎制酸薬,下剤などの頻用薬と薬剤相互作用を有しているため,投与の際に留意する.またQT延長やアキレス腱断裂の原因となることもある.

◎適応となる状況はレジオネラ症や緑膿菌感染症を想定する場合などに限られており,安易な使用は避ける.

◎抗結核作用をもつため,結核が除外しきれない場合の使用は慎重にすべきである.

アミノグリコシド系薬

著者: 矢野晴美

ページ範囲:P.1189 - P.1191

ポイント

◎最低限知っておいてほしいアミノグリコシド系薬には,ゲンタマイシン,トブラマイシン,アミカシンがある.

◎緑膿菌を含むグラム陰性菌を主にカバーする抗菌薬である.

◎濃度依存性抗菌薬である.

◎治療域と中毒域が近いため,血中濃度を測定しながら投与する.

◎感染性心内膜炎の治療では,βラクタム系薬と併用する適応がある.

◎肺への組織移行性は低く,髄膜移行性はない.

マクロライド系薬

著者: 齋藤昭彦

ページ範囲:P.1192 - P.1195

ポイント

◎マクロライド系薬剤は細菌のリボゾーム50Sに作用することによって,細菌の蛋白質合成を阻害し,静菌的に作用する薬剤である.

◎一般的にグラム陽性球菌に抗菌作用があるが,マイコプラズマ,クラミドフィラなど非定型肺炎の起因菌にも効果がある.

◎バルトネラ,非定型好酸菌,キャンピロバクター,クラミジアなどに対しても効果があり,使用頻度は高い.

◎腸蠕動作用,抗炎症作用など抗菌作用以外の効果も報告されており,国内ではさまざまな臨床の場面で多用されている.

◎肺炎球菌,溶連菌などの薬剤耐性率は進んでおり,その適正使用が必要である.

【投与経路でまとめる】

経口抗菌薬の使い方

著者: 大野博司

ページ範囲:P.1196 - P.1199

ポイント

◎経口抗菌薬選択時にはbioavailabilityの考え方が重要である.

◎特にキノロン系抗菌薬は薬物相互作用により,消化管からの吸収が極端に低下することに注意する.

◎市中感染症で特に頻度の高い,上気道感染症(急性咽頭炎,副鼻腔炎),下気道感染症(肺炎,COPD急性増悪),尿路感染症,皮膚軟部組織感染症,急性下痢症,動物咬傷で経口抗菌薬を上手に使いこなせる.

各論:薬剤同士の“違い=個別性”を理解して実践的な使い分けを習得する

ペニシリンGとアンピシリン

著者: 土井朝子

ページ範囲:P.1200 - P.1203

ポイント

◎ペニシリンが使用できる疾患であればペニシリンG,アンピシリンを積極的に使用する.

◎ペニシリンに感受性がある場合はde-escalationを積極的に行う.

◎時間依存性の薬剤であるため,しっかり必要回数を投与し,また持続投与を検討してもよい.

◎ペニシリンに対するアレルギーは,それが本物かしっかり確認する.

アンピシリン・スルバクタムとピペラシリン・タゾバクタム

著者: 山口征啓

ページ範囲:P.1204 - P.1207

ポイント

◎AMPC/SBTとPIPC/TAZはともにグラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,嫌気性菌に広域なスペクトラムをもつ.

◎PIPC/TAZは緑膿菌をカバーするが,ABPC/SBTは緑膿菌をカバーしない.

◎PIPC/TAZは後発品がまだなく非常に高価である.

◎抗緑膿菌作用をもつ抗菌薬は数少なく,今後も開発される見込みがないことから,適正使用に努める必要がある.

セファゾリンとオキサシリン/ナフシリン

著者: 岩渕千太郎

ページ範囲:P.1208 - P.1211

ポイント

◎セファロスポリンは治療対象となる菌種で5世代(国内では4世代)に分類される.

◎黄色ブドウ球菌はペニシリン感受性,メチシリン感受性の有無で使用する抗菌薬が変わる.

◎セファゾリンは皮膚軟部組織感染症,市中尿路感染症などで感受性良好な菌種に対して有効な薬剤である.

◎感受性があれば,中枢神経感染のような特殊な状況を除き,広域な抗菌薬からセファゾリンにde-escalationすることは適正使用の観点からも重要である.

セフォチアムとセフォタキシム/セフトリアキソン

著者: 杤谷健太郎

ページ範囲:P.1212 - P.1215

ポイント

◎セフォチアムは市中のE. coliKlebsiella sppといったグラム陰性桿菌を狙って使う.

◎セフォタキシム/セフトリアキソンはESBLs,AmpC過剰産生といった特殊な耐性菌を除く,ほとんどの腸内細菌群に有効である.肺炎球菌,淋菌感染治療にも用いる.

◎セフォチアム,セフォタキシム,セフトリアキソンは腸球菌,横隔膜下の嫌気性菌(Bacteroides sppなど)には効かない.

セフタジジムとセフェピム

著者: 馳亮太

ページ範囲:P.1216 - P.1219

ポイント

◎セフタジジムは抗緑膿菌作用をもつ第3世代セフェムの抗菌薬であるが,グラム陽性球菌のカバーがないことに注意が必要である.

◎セフェピムは抗緑膿菌作用に加えて,グラム陽性球菌のカバーも併せもつ超広域の第4世代セフェムの抗菌薬であり,第3世代セフェムよりもβラクタマーゼに分解されにくい.

◎腎機能が低下した患者に使用する場合は,セフェピム脳症に注意が必要である.

メロペネムとイミペネム・シラスタチンとドリペネム

著者: 久保健児

ページ範囲:P.1220 - P.1225

ポイント

◎最悪の「思考停止」型医療は,(原因微生物の想定をせずに)「重症だからカルバペネムを使おう」と短絡することである.

◎その次に最悪なのは,「必要な培養検体を採取せずにカルバペネムを投与してしまう」ことである.

◎カルバペネムを使いこなすには,「カルバペネムでなければ治せない菌」を把握することである.一般医が知っておくべきなのは,医療関連感染症で問題になることが多いESBL産生菌などである.

シプロフロキサシンとレボフロキサシンとモキシフロキサシン

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.1226 - P.1230

ポイント

◎キノロン系抗菌薬はたくさんあるが,その特徴(特にスペクトラム)から,覚えるべきものは3つしかない.

◎どれもバイオアベイラビリティがよく,内服抗菌薬として使用する場合に活躍することが多い.

◎重症感染症のシメにも使えることがあるが,あくまでもシメというスタンスがよい.

◎抗緑膿菌作用をもった数少ない内服抗菌薬であることを忘れないようにする.

◎βラクタムアレルギーがある場合には良い適応となることが多い.

ゲンタマイシンとトブラマイシンとアミカシン

著者: 山本舜悟

ページ範囲:P.1232 - P.1235

ポイント

◎古典的な分割投与と1日1回投与法があるが,最近では1日1回投与法のほうが好まれる.

◎アミノグリコシド系抗菌薬の日本の保険承認量は海外と比べて著しく少ないが,十分な効果を発揮させるには,適切な用量を用いるべきである.

◎5日以上投与する場合には,TDMを行いながら用いるべきである.

バンコマイシンとテイコプラニン

著者: 上原由紀

ページ範囲:P.1236 - P.1239

ポイント

◎現在でもバンコマイシンは薬剤耐性グラム陽性菌の標準的治療薬である.

◎バンコマイシンはトラフ濃度を測定し,目標濃度を十分に保つ必要がある.

◎テイコプラニンはバンコマイシンに比較し副作用が少なく使用しやすい薬剤であるが,臨床効果がバンコマイシンに勝るという報告はない.

◎腸球菌に対してテイコプラニンを使用する場面は,現在はほとんどない.

ドキシサイクリンとミノサイクリン

著者: 成田雅

ページ範囲:P.1240 - P.1244

ポイント

◎ドキシサイクリンとミノサイクリンはその使いやすさから頻用される可能性がある.対象としている疾患,病原体を明確に意識して使用する.

◎代表的な適応として,人獣共通感染症,性感染症,市中肺炎,MRSAが挙げられる.また,生物テロに使用される病原体への予防投薬としても使用される.

◎ドキシサイクリンとミノサイクリンの使い分けは,臨床状況(外来か入院か,軽症か重症か),副作用,薬剤相互作用から総合的に判断する.

リネゾリドとダプトマイシン

著者: 笠原敬

ページ範囲:P.1246 - P.1249

ポイント

◎MRSAによる皮膚軟部組織感染症,敗血症・心内膜炎,骨・関節感染症に対してダプトマイシンはバンコマイシン(VCM)とならんで第1選択薬と考えてよい.

◎MRSAによる皮膚軟部組織感染症,骨・関節感染症,肺炎,髄膜炎に対してリネゾリドはVCMとならんで第1選択薬と考えてよい.

◎そのうえで,VCMはその有効性や副作用に関するエビデンスの豊富さ,血中濃度測定・シミュレーションが可能であることなどから,依然として最も推奨される薬剤である.

◎VCMのMIC 2μg/mLのMRSA感染症に対して,リネゾリドやダプトマイシンがVCMよりも有効性が高いという確実なエビデンスはない.

◎ダプトマイシンはMRSA肺炎に使用してはならない.MRSA髄膜炎に対するエビデンスもない.副作用としてCPK上昇や好酸球性肺炎に注意する.

◎リネゾリドはMRSA敗血症・心内膜炎に第1選択とはならない.副作用として血球減少やSSRI内服患者ではセロトニン症候群に注意する.

アジスロマイシン

著者: 皿谷健

ページ範囲:P.1250 - P.1254

ポイント

◎アジスロマイシンの長期投与は気管支拡張症に対する急性増悪の回数を抑制する.また,COPDの安定期に投与することにより急性増悪を抑制する効果が示されている.

◎アジスロマイシンは短期投与で,COPDの急性増悪における死亡率や治療失敗例の減少,症状の改善が報告されている.

◎市中肺炎ではβラクタム系薬との併用により,クラリスロマイシンに比してアジスロマイシンが入院日数を短縮し,死亡率を減少させるとする報告がある.

クリンダマイシン

著者: 竹下望

ページ範囲:P.1255 - P.1257

ポイント

◎クリンダマイシンは嫌気性菌,グラム陽性球菌などに有効である.

◎ただし,嫌気性菌,グラム陽性菌ともに耐性菌が増加傾向であることが報告されている.特にグラム陽性菌では,マクロライドに耐性が誘導されることから,マクロライド耐性の場合,Dテストによる確認検査が必要である.

◎グラム陽性球菌の毒素産生を抑制する効果があるため,状況に応じて使用できる.なお,この場合はクリンダマイシン感受性と表記されたすべての場合に適応できるわけではない.

メトロニダゾール

著者: 倉井華子

ページ範囲:P.1258 - P.1261

ポイント

◎赤痢アメーバ症などの原虫疾患に加え,嫌気性菌感染症,Clostridium difficile感染症に対しても第一選択薬となる.

◎消化管からの吸収,中枢神経をはじめとする組織移行性に優れている.

◎クリンダマイシンなどほかの嫌気性菌治療薬に比べ,Bacteroidesの耐性がきわめて稀な薬剤である.

◎稀に小脳失調や精神症状などの中枢神経障害の報告があり,長期使用の際は注意が必要である.

ST合剤

著者: 藤田崇宏

ページ範囲:P.1262 - P.1265

ポイント

◎ST合剤は現在でも尿路感染や各種の耐性菌による感染症の治療に使用できる.

◎MRSAによる軟部組織,骨髄炎の治療に使用できるが,菌血症には用いないこと.

◎投与量は疾患や腎機能によって推奨が異なるので,安易に投与量を決定してはならない.

◎βラクタム薬より副作用が問題になりやすいので,長期に使う場合は電解質や血算のチェックが必須である.

連載 顔を見て気づく内科疾患・7

耳の霜焼け:全身性エリテマトーデス

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.1129 - P.1129

症 例:40歳台女性

病 歴:X-1年11月頃から耳介・両手などに紅斑,「手あれ」が生じる.改善増悪を繰り返していたが,X年3月頃より微熱,顔面,膝などにも紅斑が出現し,4月当科受診.

実は日本生まれの発見・7

ANP,BNP―日本が誇る世界をリードしてきたテーマ

著者: 水野雄二

ページ範囲:P.1131 - P.1131

 BNP(脳性またはB型ナトリウム利尿ペプチド)は,現在,心不全の重症度の指標として臨床検査で広く用いられている.また,注射薬としても,海外でBNPが,日本でANP(心房性またはA型ナトリウム利尿ペプチド)が用いられ,特にANP(hANP:カルペリチド)は国内で急性心不全治療薬のトップシェアを獲得している.

 これらのナトリウム利尿ペプチドの研究は,日本の偉大な研究者達が一丸となって世界をリードしてきたといえるであろう.その歴史をたどると1981年にde Boldにより,心臓に利尿作用のある顆粒が存在することが報告されていたが,その分子構造(ANP)を明らかにしたのが松尾壽之先生,寒川賢治先生(当時宮崎医科大学生化学研究室)であった.後に,お二人らは,BNPやCNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)の構造も解明されている.

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・6

依頼理由{その5}心雑音~その原因はなんですか~〔拡張期雑音篇2 僧帽弁狭窄症(MS)〕

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.1271 - P.1277

 前回は,拡張期雑音のなかでも比較的頻度の高い大動脈逆流症(AR)を取り上げました.今回は,もう1つの拡張期雑音を呈する疾患である僧帽弁狭窄症(MS)を取り上げましょう.

レアになってしまったMS

 MSは,原因の多くがリウマチ熱の後遺症であり,抗菌薬治療が進んだ現代では新規発症者はほとんどいません.が,60歳以上の患者さんには時折みかけられる病気です(Memo1).すっかりみかけることが少なくなってしまったMSですが,非常に重要な点は,MSは身体所見の宝庫ですので,聴診所見も含めて医療者側が患者さんから勉強させてもらう疾患である,というところかと思います.

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・16

治療中断後に再燃したSLE

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.1278 - P.1282

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは来院2年前に蝶形紅斑,脱毛,関節炎にて発症した全身性エリテマトーデス(SLE)の30歳女性です.来院半年前に皮疹に対してステロイド15 mgが開始されましたが,軽快後は1カ月間で中止し,その後は通院していなかったとのことです.来院1カ月前から,発熱があり近医受診され,セフェム系の抗菌薬を投与されましたが改善なく,蝶形紅斑,手の皮疹も出現し当科紹介となりました.来院時の血液検査では,血球減少(WBC 2,700/μL,ヘマトクリット27.5%,血小板7.6×104/μL),補体低下(C3 14mg/dL,C4 1mg/dL),IgG 3,335 mg/dLであり,尿蛋白も0.5g/日以上とSLEの増悪発作と考えられました.抗体はANA 2,580倍で,抗dsDNA抗体,抗Sm抗体,抗U1RNP抗体,抗Ro/SS-A抗体なども高値陽性でした.抗リン脂質抗体は,ループスアンチコアグラントはRVV法,中和法ともに陰性,抗β2GPI依存性カルジオリピン抗体陰性でしたが,抗カルジオリピン抗体は中等度陽性でした.入院時の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は36.9秒と軽度上昇していましたが,入院2日後からは正常化しています.

アレルギー膠原病科医 SLEの予後はここ50年で大変改善しており10年生存率も90%を超えていますが,あくまで治療の進歩によるものですから,この患者さんのように治療や通院を中断してしまうと大変重篤な結果になりかねないですね.

目でみるトレーニング

著者: 神田周平 ,   宇根一暢 ,   中村彰宏 ,   石田素子

ページ範囲:P.1284 - P.1289

神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・4

変動する反応

著者: 大生定義

ページ範囲:P.1290 - P.1293

症例:長野健史(仮名),46歳男性

体調が悪そうだと同僚が心配し,午前11時過ぎに付き添われて来院.配送業で朝が早い.アルコール多飲以外は健康上の問題はないという.2連休の後の勤務で,午前4時から通常の仕事に来ていた.1時間半はデスクワークをし,6時頃から冷蔵庫の中に10分ほど入り,品物の仕分けをしていたが,ふらふらしだした.いつもは調子が悪いとすぐに周囲に相談するのだが,今日はそのようなことがなかった.家族とは別居状態とのことであるが,様子がおかしくなったので,会社から家族に連絡をとっているところだという.問診票の診察前の血圧123/80mmHg,脈拍65回/分 整,体温35.6℃.

睡眠時無呼吸症診療の最前線・1【新連載】

SASにおける性差

著者: 成井浩司 ,   葛西隆敏 ,   富田康弘 ,   徳永豊 ,   津田緩子 ,   山越志保 ,   百村伸一 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1298 - P.1302

 睡眠時無呼吸症(SAS)は,睡眠中の呼吸停止と大きな鼾(いびき)を特徴とし,睡眠の質の悪化から日中傾眠,居眠りを呈する疾患である.高血圧,不整脈など循環器疾患の原因となり,致死的心血管疾患をきたす.近年閉塞性睡眠時無呼吸症(OSAS)が治療抵抗性高血圧,仮面高血圧,夜間高血圧,早朝高血圧の原因となることから,循環器領域ではOSASの診断と治療が重要であると考えられるようになった.

 今回,SAS診療を行う日本の医師がシドニーに渡り,オーストラリアの医師とSAS診療の現状と今後の展望について討論するため,Japan-AU-meetingを開催した.

REVIEW & PREVIEW

Crohn病に対する生物学的製剤治療の進歩

著者: 鈴木康夫

ページ範囲:P.1294 - P.1297

最近の動向

 遺伝子工学技術を応用した生物学的製剤が次々と生み出され,各種疾患に対する治療薬として臨床応用されつつある.マウス抗ヒトTNF-α特異抗体の作製とその臨床応用への成功以来,各種サイトカイン・ケモカイン特異抗体,白血球接着分子特異抗体など次々と生物学的製剤が作製され,臨床応用が進行中である.それら生物学的製剤のなかで,Crohn病(Crohn's disease:CD)治療において画期的効果を実証しているのが,抗ヒトTNF-α抗体製剤である.

 従来のCD治療戦略では,軽症例に対しては栄養療法とメサラジン製剤投与を基本とし,それら治療で改善を認めない場合はステロイド剤投与や免疫調節薬(immunomodulater:IM)の追加投与,さらに病勢がきわめて高度な場合は腸管の絶対的安静を目的とした静脈栄養管理による入院加療が実施されてきた.しかし現在では,抗TNF-α抗体製剤投与を積極的に投与継続する新たな治療戦略が注目されている.従来の治療法では,腸管安静と大量ステロイド剤投与によって臨床的寛解の導入は可能になるが,食事の再開やステロイド剤投与の減量・中止後,容易に再燃を繰り返し,その後に狭窄・瘻孔という不可逆的腸管合併を生じ外科治療を余儀なくさせられる症例が稀でなかった.

書評

―坂井建雄 著―解剖実習カラーテキスト

著者: 石田肇

ページ範囲:P.1230 - P.1230

 山形大学の学生時代に,浦良治先生の『人体解剖学実習』を用いて勉強させていただいたことを,今も鮮明に覚えている.ラテン語の世界に触れた最初の感動があった.長崎大学に奉職した折には,浦先生の実習書を使った.その後,札幌医科大学では,大学独自の実習書で指導に当たった.1998年に琉球大学に赴任してからは,定番である寺田春水先生・藤田恒夫先生の『解剖実習の手びき』を用いてきた.それぞれに素晴らしい実習書であった.最近では,2013年に,『Gray's Clinical Photographic Dissector of the Human Body』が出版されたので,これも取り寄せてみた.

 しかしこれらの実習書を使う医学生から,「楔形に切り取る」の「楔形」がわからない,「あばた状に」の「あばた」がわからないといった声をきくことが多くなった.ほかの大学医学部の教授に聞いても,同じような状況で,いろいろ模索しておられるようだ.

―四元秀毅,山岸文雄,永井英明 著―医療者のための結核の知識第4版

著者: 長尾啓一

ページ範囲:P.1261 - P.1261

 評判の高い本書が上梓されたのは2001年3月であり,この度早くも第4版となった.医科学の進歩のスピードが目覚ましいからではあるが,結核医療が政策医療であることも理由の1つである.初版の序を読み直してみると,結核に立ち向かう著者たちの思いが伝わってくる.病原微生物としては不器用で鈍重であるが,紀元前からしたたかに生き延びてきた結核菌に畏敬の念を抱いているようにも読み取れる.そして今回の版では新たな著者により遺漏なく最新の知見が加えられ,さらに充実した.

 結核医療は結核専門の医師だけでなるものでなく,一般医家,コメディカルスタッフ,行政職員との協働がなければ成り立ちゆくものではない.したがってそこに関与する者全てに,結核に関する必要最小限の知識を有していることが求められる.そのためには幅広い職種を対象とした結核に関する良書が必要となるが,本書こそまさにその目的に叶った書であろう.

―金城光代,金城紀与史,岸田直樹 編―ジェネラリストのための内科外来マニュアル

著者: 野口善令

ページ範囲:P.1277 - P.1277

 序文の冒頭に「総合内科外来は難しい」とある.同感である.患者が持ち込む訴え,悩みを切り分けて診断しなければならない.特に見逃すとアウトカムが悪くなる重大な疾患を見逃して患者の余命を縮めるようなことがあってはならないし,医学的に解決できることは解決しなければならない.

 自分の経歴を思い起こすと正式に外来教育を受けることもなく,何となく見よう見まねで自己流の外来診療をやっていて,そのうちに個別の疾患についていくら勉強しても,患者の訴えを解決できないという壁に突き当たった.当時は,症候から鑑別診断を考え体系的にアプローチするという発想がなかったから当然であろう.

information

第33回日本精神科診断学会

ページ範囲:P.1225 - P.1225

会期●2013年11月7日(木)~8日(金)

会場●ピアザ淡海(滋賀県立県民交流センター)
〠520-0801 滋賀県大津市におの浜1-1-20

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1308 - P.1309

購読申し込み書

ページ範囲:P.1310 - P.1310

次号予告

ページ範囲:P.1311 - P.1311

奥付

ページ範囲:P.1312 - P.1312

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?