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文献概要
連載 患者さんは人生の先生・1【新連載】
自分で決める人生の終え方
著者: 出雲博子1
所属機関: 1聖路加国際病院内分泌代謝科
ページ範囲:P.173 - P.173
文献購入ページに移動1年ぐらい経過したある受診日、「最近食欲がありません」とのことで、自己測定の食前血糖が70mg/dL前後であったため、インスリンを少し減量した。2週間後の受診時も彼女は「胃がむかむかする」と言った。自律神経障害による胃排泄遅延かなとも思ったが、体重も2kg減少していたので、胃内視鏡をしてみることにした。結果は胃癌のなかでも予後の悪い"スキルス"であった。患者は日展の審査委員を務めるほどの芸術家でしっかりしていたので、すぐ本人に診断を伝え、入院と手術を勧めた。すると彼女は「2週間後に上野で展覧会があり、出品作品を仕上げなければなりませんから、今入院することはできません」と言った。いくら入院を勧めても本人の意志は固かった。そして「先生、展覧会に来て下さいね」と入場券を一枚くれた。日曜日、会場に伺うと、素敵な実物大のバレリーナのブロンズ像の前に彼女の名前がついており、「若い頃の彼女はこのバレリーナのようだったのかな」と思ってしばらく見つめていた。控え室をのぞくと、彼女は若い弟子達に囲まれて談笑していた。
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