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雑誌目次

雑誌文献

medicina51巻2号

2014年02月発行

雑誌目次

特集 診て考えて実践する―水・電解質管理と輸液

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.197 - P.197

 水・電解質異常は日常診療で頻繁に遭遇する病態である.にもかかわらず,日常診療において,水・電解質異常に対する治療が適切に行われていない場合を散見する.また,不適切な輸液治療に伴って,医原性に水・電解質異常が惹起される場合もある.多くの医師が水・電解質異常の重要性を理解していながら,なぜこのような状況が続くのであろうか.私には,水・電解質異常の教育・臨床において欠け落ちた部分,いわば“unmet needs”があるように思えてならない.

 本特集は,この“unmet needs”が何であるのかを考えながら企画したものである.水・電解質異常はさまざまな医学雑誌などで取り上げられるが,理解が進みにくいのが現状ではないだろうか.これには,多くの臨床医が水・電解質異常を重要と捉えてはいるが,水・電解質異常の病態の多くが無症状であったり,自然軽快するため,実臨床においてその意義や治療を深く考える機会が少ないことが要因の1つと思われる.つまり,「診て,考えて,実践する」ことが十分に行われていないのではないだろうか.しかし,近年は軽度の低ナトリウム血症が高齢者の転倒の原因になることが報告されるなど,水・電解質異常の意義が注目されているところである.本特集では,自分が診療対象としている患者群でどのような水・電解質異常が起こりやすいのか,また,それに対してどのように対応する必要があるか(軽度の異常であっても対応が必要か,など)を考えていただけるように企画した.また,血液検査だけに頼らず,患者背景,薬歴や身体所見から水・電解質異常を予測し,迅速な対応が可能となるような一歩進んだ水・電解質異常の理解を目標とした.

特集の理解を深めるための22題

ページ範囲:P.336 - P.339

座談会

水・電解質異常のunmet needsを考える

著者: 赤井靖宏 ,   宮崎正信 ,   安田隆 ,   長浜正彦

ページ範囲:P.198 - P.208

赤井(司会) 本日は水・電解質異常とその管理について,学生や研修医,そして若手内科医――特に非腎臓内科の先生――に対してどのように教えるかという教育の面,また,実際の臨床現場において水・電解質異常で何が問題になっているかという臨床の面,これら2つに焦点を当てて,お話しいただきたいと思います.

Editorial

本特集を読む前に

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.210 - P.211

 まずは,症例をみてみましょう.

症例1

78歳女性.2日前から嘔吐,全身倦怠感と意識障害で救急受診した.来院時,意識はJCS(Japan Coma Scale)20であったが,発熱はなく,血圧126/70mmHg,脈拍数72/分で,体位による変動はなかった.また,呼吸数は16回/分で努力様ではなかった.そのほかの身体所見に異常は認められなかった.

水・電解質管理のために必要な生理学・病態生理学

Naの生理学・病態生理学

著者: 望月晴子 ,   宮崎康

ページ範囲:P.212 - P.216

ポイント

◎水分の代謝はADHと口渇により調整されており,血漿浸透圧の恒常性維持に寄与する.

◎Naの代謝はレニン-アルドステロン-アンギオテンシン系,Na利尿ペプチドにより調整されており,細胞外液量の増減に関係する.

◎低Na血症は,まず血漿浸透圧によって分類し,低浸透圧性低Na血症は細胞外液量の増減で鑑別する.

◎高Na血症は,血漿浸透圧の上昇にもかかわらず飲水行動がとれない場合に起こりうる.

Kの生理学・病態生理学

著者: 長浜正彦

ページ範囲:P.218 - P.222

ポイント

◎Kは98%が細胞内に存在するため,低K血症が必ずしもK欠乏を意味するとは限らない.

◎Kの細胞内外移動に関与する因子としては,インスリンとカテコラミン(β2刺激),酸塩基平衡が重要である.

◎Kの濃度勾配(細胞内K/細胞外K)が大きいと過分極が起きやすく,静止膜電位に抑制的に働き,濃度勾配が小さいと脱分極が起きやすく,静止膜電位に亢進的に働く.

◎尿中K排出を規定する因子は,①皮質集合管への管腔内Na流入量(尿量),②アルドステロン濃度,③管腔内陰性荷電,④細胞内外のK濃度である.

Ca,P,Mgの生理学・病態生理学

著者: 花田繁

ページ範囲:P.223 - P.226

ポイント

◎血清Ca,Mg濃度異常では,薬剤に代表される医原性の要因が多い.

◎ビタミンD製剤やCa製剤を内服する症例では,血清Caを定期的に測定すべきである.

◎治療抵抗性の低Ca血症では,血清Mg値を確認する必要がある.

輸液療法選択に必要な生理学

著者: 佐々木彰 ,   安田隆

ページ範囲:P.227 - P.233

ポイント

◎成人では,体重の60%が体液である.体液の約2/3が「細胞内液」,約1/3が「細胞外液」として存在し,さらに細胞外液の約3/4が「間質」,約1/4が「血管内」に分布している.

◎Na濃度の異常は「電化質を含まない真水(自由水)の量の異常」,細胞外液量の異常は「Na量の異常」として捉える.

◎輸液に際しては患者の病態に応じて,「維持輸液」と「是正輸液」を考慮して投与する量と内容を決め,経過をみて修正を行う.

◎輸液製剤を含めたすべてのinput,さらにすべてのoutputは,「5%ブドウ糖液」と「生理食塩水」の混合液として考える.

水・電解質異常の診断

病歴から考える水・電解質異常

著者: 藤井直彦

ページ範囲:P.235 - P.238

ポイント

◎体重変化,排尿状況は日常診療の一環として漏らさず聞く.

◎入口と出口を考えながら問診すると,聞き漏らしを減らすことができる.

◎現病歴に加え既往歴や投薬歴は,病態把握への大きな道標となる.

身体所見から考える水・電解質異常

著者: 須藤博

ページ範囲:P.240 - P.243

ポイント

◎ある種の身体所見から電解質異常を想起することができる.

◎電解質異常に関連した身体所見には,ある疾患や対応する症状としての電解質異常を考える場合と,電解質異常が直接原因となって臨床徴候を示す場合の2通りが考えられる.

◎細胞外液量の異常は,Na総量の異常である.

◎細胞外液量の評価は,身体所見が重要である.

◎原因不明の徐脈をみたら,高K血症を考える.

尿検査から考える水・電解質異常

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.244 - P.247

ポイント

◎尿中マーカーは腎臓の病態をリアルタイムに示す指標である.

◎尿中マーカーには正常値が存在しないことに注意が必要である.

◎尿中Na,尿中Clは体液量の指標となる.

◎尿中Kは低K血症の鑑別に有用である.

◎尿中UNは尿中Naが指標とならない病態で体液量の指標となる可能性がある.

水・電解質異常の治療

低Na血症と高Na血症

著者: 田川美穂

ページ範囲:P.248 - P.253

ポイント

◎Na濃度異常は臨床で最もよく遭遇する電解質異常である.

◎低Na血症,高Na血症の病態は治療中に変化するので,数時間ごとの再評価が必要である.

◎低Na血症,高Na血症の治療においては,過剰補正にならないよう注意が必要である.

高K血症と低K血症

著者: 鈴木利彦

ページ範囲:P.255 - P.261

ポイント

◎高K血症では,①K過剰摂取,②K排泄障害,③細胞内から細胞外へのK移動を考える.

◎高K血症をみたら,①心電図,②K値の再検,③治療の緊急性の判断を行う.

◎重篤な低K血症を認める場合は,必ず低Mg血症の可能性を考慮せよ.

◎低K血症におけるK投与の基本は安全な経口投与であり,経静脈投与ではKの濃度と投与速度に注意する.添付文書上はK濃度:40mEq/L(4mEq/生食100mL), K投与速度:20mEq/時以下.

◎治療効果は予測できないため,K補正時は頻回の採血が必要である(検査頻度の強いエビデンスはないが,高K血症では5.9mEq/L以下,低K血症では2.5mEq/L以上になるまでは1時間ごとが望ましい).

Ca,P,Mg異常

著者: 原田幸児

ページ範囲:P.262 - P.266

ポイント

◎中等度以上の高Ca血症の場合,生理食塩水の大量輸液だけでなく,積極的にカルシトニンやビスホスホネート製剤の併用を考慮する.

◎低Ca血症を治療する際には,低Mg血症の存在を考慮する.

◎refeeding syndromeによる低P血症に対しては,積極的な経静脈的P補正が必要である.

臨床現場での水・電解質異常の診断と管理のポイント

プライマリケアでの水・電解質管理

著者: 宮崎正信

ページ範囲:P.268 - P.271

ポイント

◎プライマリケアで最も多く経験する水・電解質異常は脱水であり,細胞外液欠乏が存在するタイプである.

◎食事や飲水ができないことが多いが,輸液とともに,その原因検索が重要である.

◎至急採血ができないことが多いため,問診と身体所見から,その重症度を推定する.

◎生理食塩水あるいは1号液が基本である.KやCa,酢酸などが入ったものは,基本的には使用頻度は少ない.

◎カロリー不足を一般の輸液で補うことは不可能であり,食事が取れず,水分も取れない状況が長引く時は,入院を考慮する.

救急外来での水・電解質管理

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.272 - P.275

ポイント

◎電解質異常は救急外来で頻繁に経験する徴候であるが,症状が非特異的であるため,見逃しを避けるには広く電解質を測定せざるをえない.

◎バイタルサイン,薬剤歴,悪性腫瘍・精神疾患などの既往歴が診断および病態の把握に重要である.

◎高K血症は重篤であり,検査結果を待たずに治療開始が必要な場合がある.

入院患者の水・電解質異常

著者: 森本勝彦 ,   鮫島謙一

ページ範囲:P.276 - P.280

ポイント

◎入院患者の電解質異常はNa異常とK異常が多い.

◎入院患者の電解質異常の原因は医原性のものが多い.

◎入院患者に電解質異常を発見したら,治療前に尿の電解質検査を行い,原因精査を積極的に行う必要がある.

ICUでの水・電解質管理

著者: 伊藤慎介 ,   鈴木利彦 ,   藤谷茂樹

ページ範囲:P.281 - P.285

ポイント

◎ICUでの各種電解質異常は一般病棟よりも頻度が高く,重篤な転帰をたどりうる.

◎ICUでは各種電解質異常と生命予後との関係を十分に認識して,補正,モニタリング,そして原疾患の治療を行うことが重要である.

◎ICUでは各種電解質異常の補正の原則・禁忌を十分認識したうえで,criticalな状況では原則を超えた緊急対応が必要となる.

在宅患者の水・電解質管理―基本はバイタイルサインと身体診察!

著者: 横井徹

ページ範囲:P.286 - P.290

ポイント

◎在宅医療には種々の制約があり,本来必要な医療行為のすべてが実践できるわけではない.

◎しかし制約のなかでも,より的確に水・電解質管理を行うことは可能である.

◎基本的診察技術がしっかりしていれば,在宅医療における水・電解質管理において必要な技術に,高度なものは必要ない.

◎「基本」とは,初期研修医時代に習得する,バイタルサインの把握と基本的診察技術にほかならない.

◎加えて,血液データを確認する前段階で,療養環境および症状・身体所見から具体的な水・電解質異常を「想起」できる思考回路が必要である.

症例から水・電解質異常を考える

腎疾患患者の水・電解質管理

著者: 片岡仁美

ページ範囲:P.292 - P.295

ポイント

◎腎機能低下のみならず,尿量低下が持続することがAKIの定義であり,早期介入が有用である.

◎腎機能低下時には溢水,体液量減少のいずれもが起こりやすく,Na負荷と急激なNa制限に要注意.

◎腎機能低下時には血清Kが上昇しやすく,薬剤性,食事,便秘など多角的な評価と予防が必要である.

精神疾患患者の水・電解質管理

著者: 梅津道夫

ページ範囲:P.296 - P.298

ポイント

◎統合失調症では多飲がしばしばみられる.

◎精神疾患の治療薬は,低Na血症をきたしうる.

◎リチウムは腎性尿崩症を起こす.

◎摂食障害ではrefeeding syndromeに注意が必要である.

循環器疾患患者の水・電解質管理

著者: 小松康宏

ページ範囲:P.299 - P.304

ポイント

◎循環器疾患では,病態自体,あるいは治療薬によって電解質異常が発生し,治療経過や長期予後に影響を与える.

◎高齢者,女性ではサイアザイド系利尿薬による低Na血症発症リスクが高まる.

◎RAA系阻害薬を処方した場合には,定期的な血清K値のモニターが必要である.

◎急性心不全の難治性体液貯留に対しては,利尿薬処方を工夫する.利尿薬抵抗性の場合には限外濾過による除水が有用である.

消化管疾患・経口摂取不能患者の水・電解質管理

著者: 大村健二

ページ範囲:P.306 - P.310

ポイント

◎栄養の補給を目的とした輸液にはグルコースとアミノ酸を含んだ製剤を用い,脂肪乳剤を併用する.

◎消化管を利用できない期間が10~14日間以下と考えられる場合にはPPNを,それ以上の場合にはTPNを施行する.

◎PPN施行中には,正の窒素平衡を得ることは困難である.

◎心筋や安静時の骨格筋の主な燃料は,中性脂肪を構成している脂肪酸である.

◎血糖コントロールにインスリンを用いる場合,インスリン不足の絶対量を判定するために一日尿糖量が有用である.

酸塩基平衡異常患者の水・電解質管理

著者: 森克仁

ページ範囲:P.311 - P.314

ポイント

◎血液ガス・電解質のデータをもとに酸塩基平衡異常の一次的原因とその代償を検索する.

◎一次的原因以外に併存する疾患や病態がないかの確認を行う.

◎見かけの値ではなく,水分や電解質の絶対量の不足,治療介入による変化を予測し補正する.

◎糖尿病性ケトアシドーシスの治療では,低K血症に注意する.

肝疾患患者の水・電解質管理

著者: 瀬古裕也 ,   角田圭雄 ,   伊藤義人

ページ範囲:P.316 - P.320

ポイント

◎肝硬変では膠質浸透圧低下,門脈圧亢進,動静脈シャントの増加から腹水が生じる.

◎腹水による有効循環血漿量低下により腎での水・Na再吸収,K排泄が促進され低Na血症,低K血症となる.

◎低Na血症は予後にも影響するため積極的に補正が必要であるが,治療に際して細胞外液量減少型か,細胞外液増加型かの見きわめが重要である.

水・電解質異常の診断・管理に難渋した症例

シスプラチン投与後に低Na血症を呈した食道がん患者の一例

著者: 松田潤 ,   猪阪善隆 ,   山内淳

ページ範囲:P.321 - P.324

ポイント

◎シスプラチンが低Na血症を引き起こす機序には,塩類喪失性腎症(RSWS)と抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)の2病態がある.

◎RSWSとSIADHは,低Na血症の発症時よりも治療過程において判別が容易である.

◎RSWSでは,血清Na濃度の是正後も低尿酸血症および尿酸分画排泄率の増加が遷延する.

◎SIADHでは,血清Na濃度の是正後すみやかに低尿酸血症および尿酸分画排泄率の増加が改善する.

低P血症を呈したレジオネラ肺炎の一症例

著者: 渡邉周平 ,   河野圭志 ,   藤井秀毅

ページ範囲:P.326 - P.329

ポイント

◎レジオネラ肺炎に伴う電解質異常に低P血症がある.

◎低P血症の原因の1つとして,近位尿細管障害によるP再吸収障害が考えられる.

◎レジオネラ肺炎に伴う近位尿細管障害の機序は不明であるが,治療経過とともに速やかに改善する.

アルコール多飲者・依存者の水・電解質異常

著者: 杉本俊郎

ページ範囲:P.330 - P.334

ポイント

◎アルコールの代謝経路を理解する必要がある.

◎アルコールと水・電解質異常の病態を理解するためには,正常者がアルコールを多飲した時に生じる病態と,慢性的にアルコールを摂取して依存状態になっている時に生じる病態とを分けて考える必要がある.

◎慢性的アルコール依存者は,多彩な水・電解質・酸塩基平衡異常を呈する可能性がある.

連載 顔を見て気づく内科疾患・14

接触性皮膚炎―膠原病の皮疹との区別が必要

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.189 - P.189

症 例:60歳台女性

病 歴:約1年前から,顔面(眼,口周囲)に掻痒を伴う紅斑が出現.1年の間に同様の症状を4回繰り返すため,内科的疾患を心配して来院.発熱,関節痛などは認めない.

そのカルテ,大丈夫ですか?誤解を避ける記載術・2

―「時間を意識する」①―時間の重要性

著者: 神田知江美

ページ範囲:P.191 - P.191

◎時間を意識した記載

 前回,医療訴訟では「事実を正しく認定してもらうこと」が重要であり,カルテに事実を正しく記載するためのポイントを3点挙げました.今回より2回に分けて,そのポイントの1つ目,「時間を意識する」について説明します.

神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・11

てんかん発作とされていた2事例

著者: 大生定義

ページ範囲:P.340 - P.342

今回は趣を変え,てんかん発作とされていた相談事例を2つ紹介する.

事例1:急に体を動かすとうまく動けない,抗てんかん薬が少量で有効な19歳女性

10歳の時から,徒競走のスタートや椅子から立ち上がる時など,急に体を動かすと手足が固まったように勝手に緊張し,うまく動けなくなることがある.受診当初は精神的な問題ではないかと言われたが,そのうち,てんかん発作かもしれないということになり,てんかんの薬を試したら少量でも症状がほとんど出なくなった.脳波に異常はないと言われた.ずっと薬を続けている.本当にてんかんなのだろうかと相談に来た.52歳の父も今は無症状になったが,若い時に同じようなことがあったらしい.

Step up腹痛診察・6

28歳女性,間欠的な下腹部痛と下痢

著者: 小林健二

ページ範囲:P.343 - P.347

[現病歴]約3カ月前より下腹部痛を自覚するようになった.腹痛は主に排便前にあり,排便により軽快した.痛みは緩徐に始まりキリキリと差し込むような性状だった.食事摂取と腹痛との因果関係は不明だが,朝食後に便意をもよおすと腹痛を自覚することが多かった.排便は1日3,4回あることが多く,多くは軟便または下痢である.血便はなかった.排便は特に午前中に多く,通勤電車を途中下車しなければならないこともしばしばある.持続する発熱,体重減少,食欲低下はなかった.痛みの程度はNumeric Rating Scale(NRS)で2/10~3/10程度だった.

患者には症状の始まる約1カ月前に,発熱,下痢,血便をきたし近医を受診した既往がある.感染性腸炎の診断で抗菌薬を投与され,症状は約1週間で軽快した.抗菌薬投与前に施行した便培養ではCampylobacter jejuniが検出された.腸炎の症状が軽快した後3週間程して下腹部痛と軟便,下痢が始まり,前回受診した医師の診察を再び受けた.Clostridium difficile(CD)感染による下痢の可能性を考慮し便の検査が行われたが,CDトキシンは陰性だった.同医から整腸剤を処方され経過をみることになった.下腹部痛と下痢の症状には波があり,比較的落ち着いている時と増悪する時があった.悪い時には週に3~4日は下痢だった.その後転職に伴い転居し,通院は中断された.市販の下痢止めなどの服用で様子を見ていたが,その後も症状が続くため心配になり受診した.

[既往歴]虫垂炎で虫垂切除 (14歳時)

[常用薬]なし

[薬剤アレルギー]なし

[社会歴]喫煙はしない.飲酒はビール350mL/日,週3回程度.

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・9

依頼理由{その8}“心囊液貯留を指摘されました.息切れ増悪も認めています”~心膜炎ですか,心タンポナーデですか~

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.348 - P.354

 心臓はツルツルとした心膜に覆われて保護されていますが,あまりに薄いので正常の心エコーでは心膜の存在を意識することはほとんどありません.ただ頻度は多くありませんが,心臓を包む膜の異常により引き起こされる病態は確実に存在します.

 そもそも心膜というのは厳密には臓側と壁側に存在し,間にオイルのような役割を果たす心囊液をごく少量含んでいます(50 cc以下).このベアリングのような機構(図1)で,心臓がどっかんどっかん動いているときに周りの臓器との摩擦を和らげています.しかし,それだけにちょっとしたキッカケで傷みやすく,これはリウマチのときの関節炎を想起していただくとわかりやすいと思うのですが,心膜炎(急性または慢性),収縮性心膜炎などの疾患を起こします.さらに,心囊は「閉鎖空間」であることから,心囊液貯留により生じる心タンポナーデなどといった事態も起こりえます.

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・23

新生児の環状紅斑

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.355 - P.359

後期研修医(皮膚科) 今回は新生児の皮疹です.生後18日目に特に誘因なく左側頭部・頬部に皮疹が出現し,前医でアクアチム®ローションとエキザルベ®軟膏を処方されたが改善しませんでした.皮疹は徐々に拡大したため1週間後に小児科を受診し,当科に紹介となっています.

 そのときの臨床写真をお見せします(図1).両側の額部~側頭部にかけて,小豆大~母指頭大の辺縁が堤防状に隆起する環状紅斑が多発しています.紅斑の色調は暗赤色を呈しており,一部に軽度の鱗屑を付着していますが全般に表皮の変化は乏しく,浸潤を強く触れます.成人のSjögren症候群(SS)にみられる環状紅斑に類似した皮疹で,新生児エリテマトーデスに特徴的な所見です.

西方見聞録・2

初めての朝帰り

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.360 - P.361

 『7年目の浮気』という映画の題名までは知らなくても,地下鉄の通気口からの風でマリリン・モンローのスカートが浮き上がるシーンをご存知の方は多いと思います.雪のちらつくニューヨークの街で,早朝,家路を急いでいたら興味深い光景を目にしました.1番街の地下を縦走する地下鉄の通気口に沿って,人が何人も寝ているのです.寒さをしのぐ家を持たない人たちにとって,通気口からの温かな風は暖をとる唯一の手段となっています.2013年に,ニューヨーク市におけるホームレスの数は昨年より13%増加しました1).彼らのうちの数人に一晩のベッドと食事を与えられた“ナイトフロート”の夜は,それだけでも意味があったのかもしれないと思ったのでした.

目でみるトレーニング

著者: 見坂恒明 ,   西和男 ,   矢島隆二 ,   西澤正豊

ページ範囲:P.362 - P.367

患者さんは人生の先生・2

東海道を歩いて糖尿病治療

著者: 出雲博子

ページ範囲:P.369 - P.369

 2003年1月、62歳の男性が、人間ドックで高血糖を指摘されて私の外来を受診した。180cm、88kgと恰幅が良く外人のような人だった。HbA1cは7.8%。食習慣を尋ねると、「最近小さなイタリア料理店を開いたばかりで、自分一人で調理し味見をするので、少しずつですが、ずーっと食べている状態です」とのこと。商社マンだったが妻と離婚し、自分でイタリアやニューヨークのイタリア料理店を食べ歩いて研究し、開業したそうである。運動習慣を聞くと「昼前から夜中までキッチンで立ちっ放しで足が浮腫むが、運動する時間はまったくなし」。これは難しいと思った。まず家から店まで毎日20分歩くよう勧めた。

 患者さんの店は病院からの帰り道にあったので、ある夜、仕事の帰りにどんな様子か立ち寄ってみた。小さいがシャレた店でイタリアの写真が飾ってあった。店内は狭く、確かに彼はカウンター内の狭いキッチンに立ちっ放しという感じであった。とにかく立ったままでいないで時々屈伸をしたり、自ら料理を運んだり少しでも歩くことを勧めて帰ってきた。その後、1カ月、3カ月と診ている間に改善しHbA1cは6.5%位になっていた。しかし忙しかったのか、1年間規則正しく来院していた患者さんが一度受診をすっぽかした。その1カ月後、「足が赤く腫れて痛い」と電話してきたため、すぐ来院するよう指示した。両足が赤くパンパンに腫れ蜂窩織炎を起こしていた。血糖380mg/dL、HbA1c 9.8%に上昇していた。即入院させ、インスリン強化療法と抗菌薬の点滴を開始した。蜂窩織炎も血糖も順調に改善し2週間後退院した。

REVIEW & PREVIEW

心臓移植治療の現在

著者: 遠山周吾 ,   香坂俊

ページ範囲:P.370 - P.376

最近の動向

歴史的背景と現在の移植待機患者数

 心臓移植そのものは1960年代後半に始まり,1980年代に既に手術や免疫抑制の大枠は確立されている.しかしわが国では,1968年のいわゆる和田心臓移植注)が社会的な波紋を呼び,長らく心臓移植は行われてこなかった.その後,実に31年を経てようやく臓器移植法が成立し(1997年),わが国でも成人の臓器提供が可能となったのである(ただし,本人の事前の意思提示が必要).そして,1999年2月28日に大阪大学で国内‘第2例目’の心臓移植が行われるに至り,わが国での心臓移植の道が再び開け,2013年夏までの15年間弱で160件の心臓移植が行われている.

 しかしながら,この件数(13年間で69件)は欧米諸国に比べてまだ極端に少なく(米国で年間2,000例程度),この状況を改善するために,2010年7月に改正臓器移植法が施行された.これにより,本人の生前の意思が不明な場合にも,家族の書面による承諾で脳死臓器提供が可能となり,以降,心臓移植件数は約3倍に増加した(図1).

書評

―濱田篤郎 編―トラベルクリニック―海外渡航者の診療指針

著者: 尾内一信

ページ範囲:P.216 - P.216

 本書を手に取ってまず感じたことは,「日本で長く要望されていた渡航者医療を簡潔に網羅したバイブル的書物がやっと世に出た」ということである.本書は,実に素晴らしい出来栄えであるが,編集されたのが濱田篤郎博士なので納得できた.濱田篤郎博士は,現在日本渡航医学会の理事長として日本の渡航医学界でリーダシップを発揮されている.また,労働者健康福祉機構海外勤務健康管理センター(JOHAC)で長く渡航者健康管理に精通され,現在は東医大病院渡航者医療センター教授として,教育者としても活躍されている.また,特筆すべきは,渡航医学の専門家でありながら著名な作家であるということである.

 主な著作には,『旅と病の三千年史』(文藝春秋),『伝説の海外旅行―「旅の診断書」が語る病の真相』(田畑書店),『歴史を変えた「旅」と「病」―20世紀を動かした偉人たちの意外な真実』『世界一「病気に狙われている日本人」―感染大国日本へのカウントダウン』(以上,講談社),『新疫病流行記―パンデミック時代の本質』(バジリコ)などがあり,いずれも思わず濱田ワールドに引き込まれる良書である.知らないうちに渡航医学の面白さが身近なものとなるので,これらの本もぜひお薦めしたい.

―相川直樹 監修 堀 進悟,藤島清太郎 編―救急レジデントマニュアル―第5版

著者: 行岡哲男

ページ範囲:P.253 - P.253

 本書は読む前にまず手に取り,その感触を確かめてほしい.サイズ,重さのことである.白衣に入るが,少し重くこれが存在感を感じさせる.この重さが不思議なことに安心感につながる.そしてポケットからこれを取り出してみてほしい.入れる動作より,取り出すのが容易である.臨床現場で持ち歩くべき本書は,取り出すこと(ほしい情報にたどり着く過程)がスムーズでなければならず,その点で心地良い本である.

 ページを閉じたまま前小口(背表紙の反対側)を見ると,各章の分量が青い色分けの厚さでわかる.最も分厚いのは第4章「症候からみたER診療」である.救急診療は症候論的アプローチが重要であり,本書の執筆姿勢をこんなところからうかがうことができる.

―𠮷岡成人 著―糖尿病外来診療―困ったときの“次の一手”

著者: 赤井裕輝

ページ範囲:P.304 - P.304

 𠮷岡成人先生は日本糖尿病学会誌『糖尿病』編集長,医学書院専門誌『糖尿病診療マスター』編集委員などの仕事を常時こなされる多忙な先生である.加えて今春札幌市で開催される日本糖尿病学会主催のpostgraduate course「第48回糖尿病学の進歩」世話人として準備に当たっておられる.このように最も忙しい糖尿病専門医であるが,日々実によく勉強しておられる.まさにスマートに仕事をこなす達人であり,出張先でもジョギングを欠かさない.だから𠮷岡先生は当代きっての臨床糖尿病学の論客なのである.その理詰めな考え方,アプローチ法は『糖尿病診療マスター誌』の毎回の編集会議で評者はよく知っている.

 その𠮷岡先生が北大病院,NTT東日本札幌病院で,かかりつけ医や院内他科から紹介された症例を一例一例大事にして,最も新しい考え方で診断するとどうなるのか,そのプロセスが示され,その診断に基づく治療の流れを,他科のドクターにもわかるように書かれた記録をまとめたのが本書である.内科医にとってはまたとない懇切丁寧な実習書となるであろう.

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『JIM』presents公開収録シリーズ“ジェネラリスト道場”開催のお知らせ

ページ範囲:P.271 - P.271

 医学書院『JIM』編集室では,今年も第一線で活躍中のジェネラリストをお招きし,“ジェネラリスト道場”と題する『JIM』presents公開収録シリーズ(全4回)を開催しております.皆さま奮ってご参加ください.

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バックナンバーのご案内

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購読申し込み書

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次号予告

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奥付

ページ範囲:P.386 - P.386

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

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増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

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特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

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特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

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特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

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特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

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特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

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特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

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増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

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特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

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特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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