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雑誌目次

雑誌文献

medicina51巻3号

2014年03月発行

雑誌目次

特集 もう見逃さない!迷わない!―非血液専門医のための血液診療

著者: 岡田定

ページ範囲:P.395 - P.395

 本特集のコンセンプトは,「非血液専門医(一般内科医,研修医,開業医,他領域の専門医など)が,血液診療とどう関わっていけばよいか」にある.血液専門医から非血液専門医に「血液診療のエッセンス」をお届けすること,言わば「非血液専門医への応援歌」をまとめることにある.

 血液疾患というとどのようなイメージをもたれるだろうか.「専門的な疾患」,「比較的稀な疾患」,「急に重症化する疾患」……と,ややもすれば敬遠されがちなイメージかもしれない.学生時代や研修医時代にちょっぴり経験した白血病やリンパ腫の入院患者の印象が,そのような特別なイメージを作りだしているのではないだろうか.でも,現実の血液診療は必ずしもそのようなものではない.通常の日常診療のなかで,貧血,白血球増加,白血球分画異常,血小板減少,出血傾向,リンパ節腫大など,さまざまな血算の異常や血液病態に遭遇することは日常茶飯事なのである.非血液専門医といえども,およその血液診療を理解していなければ,一般内科診療も専門科診療も成り立たないはずである.

特集の理解を深めるための25題

ページ範囲:P.520 - P.523

座談会

非血液専門医が血液診療にどう関わればよいか

著者: 岡田定 ,   東光久 ,   臼杵憲祐

ページ範囲:P.396 - P.405

岡田(司会) 本日は,「血液を専門にしない先生方が血液診療にどう関わればよいか」について,臼杵先生と東先生と私の3人で話し合いたいと思います.

 取り上げるテーマは,①貧血,②白血球増加,③白血球分画異常,④血小板減少,⑤出血傾向,⑥リンパ節腫大の6つです.それぞれの項目に対するクリニカル・パールを3人があらかじめ考えてきましたので,それを紹介しながら話し合いを進めたいと思います.

この血液疾患を見逃してはいけない―専門医への紹介のタイミング

鉄欠乏性貧血

著者: 土岐康通 ,   山本昌代 ,   生田克哉

ページ範囲:P.406 - P.409

ポイント

◎鉄欠乏性貧血は,ヘモグロビン,血清鉄に加え,血清フェリチンを測定して診断する.

◎鉄欠乏性貧血では,消化器や婦人科疾患の検索が必要である.

◎鉄欠乏性貧血の治療では,まず経口鉄剤を考慮する.

二次性貧血・出血性貧血・骨髄異形成症候群(MDS)

著者: 川端浩

ページ範囲:P.410 - P.412

ポイント

◎貧血を認めたら,まず,MCVと網状赤血球数をチェックする.

◎炎症性貧血はやや小球性・低色素性で血清鉄が低下するが,鉄欠乏性貧血とは異なり血清フェリチン値が低下しない.

◎腎性貧血では,通常,血清エリスロポエチン値が低下しない.腎機能障害のために,貧血に見合った増加がみられないだけである.

◎急性の出血による貧血では,網状赤血球数増加のためにやや大球性になる.

◎原因不明の大出血の際には,凝固系の検査を忘れない.

◎骨髄異形成症候群(MDS)では,やや大球性の貧血になることが多い.

◎白血球,赤血球,血小板のうち複数の減少,原因不明の貧血の持続,および末梢血に芽球がみられたら,血液専門医に紹介する.

巨赤芽球性貧血・溶血性貧血

著者: 山本譲司 ,   張替秀郎

ページ範囲:P.414 - P.416

ポイント

◎大球性貧血をみた場合はビタミンB12と葉酸の測定を輸血前に行う.

◎ビタミンB12欠乏は多彩な症状を取りうるため,それらを見逃さないこと.

◎血栓性微小血管障害症は特に迅速な対応を要するが,適切に対処すれば予後は良好であるため,溶血性貧血を見た際には必ず念頭に置く.

多発性骨髄腫

著者: 矢野寛樹 ,   飯田真介

ページ範囲:P.418 - P.422

ポイント

◎M蛋白のスクリーニングには,IgG,IgA,IgMの測定が優れている.

◎M蛋白を同定したら,CRABOで定義される臓器障害を評価する.

◎臓器障害を有さない病型(MGUSや無症候性骨髄腫)では,治療を行わない.

この血算の異常を見逃してはいけない―専門医への紹介のタイミング

赤血球増加

著者: 小松則夫

ページ範囲:P.424 - P.428

ポイント

◎真性赤血球増加症や二次性赤血球増加症などの絶対的赤血球増加症と,脱水やストレス多血症などの相対的赤血球増加症を鑑別する.

◎真性赤血球増加症と二次性赤血球増加症との鑑別には,血清エリスロポエチン値やJAK2遺伝子変異検査が有用である.

白血球増加

著者: 森田泰慶 ,   田中宏和 ,   松村到

ページ範囲:P.430 - P.433

ポイント

◎白血球増加症には,造血器腫瘍による場合と類白血病反応の場合がある.

◎敗血症,粟粒結核などの重篤な感染症時には,末梢血中に種々の分化段階の未熟な顆粒球系細胞の出現を認める.

◎がんの骨髄転移やG-CSF産生腫瘍では,CML様の白血球増多症が認められることがある.

白血球分画異常―異型リンパ球,好酸球増加,白赤芽球症

著者: 樋口敬和

ページ範囲:P.435 - P.439

ポイント

◎「異型」リンパ球と「異常」リンパ球は同義ではない.「異常」リンパ球(リンパ性腫瘍細胞)を見逃さないことが重要である.

◎異型リンパ球の原因は多岐にわたるが,ウイルス感染によるものが多い.

◎軽度の好酸球増加の原因として,アレルギー性,アトピー性疾患の頻度が最も多いことを念頭に置いて,問診を十分に行う.

◎多くの場合,白赤芽血球症を認めたら,骨髄に重大な変化が起こっていることを意味する.

白血球減少

著者: 南谷泰仁

ページ範囲:P.440 - P.443

ポイント

◎発熱性好中球減少は緊急事態と考え,各種培養を採取し広域抗菌薬の投与を即刻開始する.

◎複数系統の血球異常,血球減少傾向の持続,原因不明の場合は血液専門医にコンサルトする.

血小板増加

著者: 檀和夫

ページ範囲:P.444 - P.447

ポイント

◎血小板増加症の鑑別には,反応性血小板増加症と腫瘍性血小板増加症のすべてを考慮する必要がある.

◎腫瘍性血小板増加症が疑われた場合はその後の検査,治療のため血液専門医へ紹介する.

◎腫瘍性血小板増加症のうち,本態性血小板血症が最も重要であり,血小板増加の程度も最も強い.

血小板減少

著者: 冨山佳昭

ページ範囲:P.448 - P.451

ポイント

◎血小板数5万/μL以上では出血症状はほとんど認めない.

◎症状は,皮下出血,歯肉出血,鼻出血,性器出血など皮膚粘膜の出血である.

◎血小板数5万/μL未満で出血症状がまったくない場合は,EDTA依存性偽性血小板減少症を鑑別すべき.

汎血球減少

著者: 末盛晋一郎 ,   通山薫

ページ範囲:P.452 - P.455

ポイント

◎汎血球減少の原因疾患には血液疾患が多く,血液専門医との連携が望ましい.

◎汎血球減少の原因疾患を鑑別診断する際に,末梢血を検体とする有用な検査項目がある.

この血液病態を見逃してはいけない―専門医への紹介のタイミング

出血傾向

著者: 窓岩清治

ページ範囲:P.456 - P.461

ポイント

◎出血傾向は,明確な外傷などがないにもかかわらず出血がみられる(自然出血),軽微な外的要因に対して過剰な出血をきたす(過剰出血),出血後の止血が得られにくい(止血困難),あるいはいったん止血した後に再度出血をきたす(後出血),などの総称である.

◎出血傾向は,その原因により先天性(遺伝性)と後天性に大別される.それぞれ治療方針が大きく異なるため,問診により両者を大まかに鑑別することがポイントとなる.

血栓傾向

著者: 横山健次

ページ範囲:P.462 - P.465

ポイント

◎リスクが低い患者に発症した血栓症,習慣性流産,不育症では血栓傾向を疑う.

◎血栓傾向の原因となる基礎疾患の確定診断,治療は専門医に紹介することが望ましい.

リンパ節腫大

著者: 伊豆津宏二

ページ範囲:P.466 - P.469

ポイント

◎局所リンパ節腫大をみたら,まず灌流領域に感染・炎症や悪性腫瘍を示唆する所見がないかを確認する.

◎2~3cm以上のリンパ節腫大や,増大傾向のリンパ節腫大をみたら,リンパ節生検などの検査を進めていく必要性が高い.

不明熱

著者: 東光久

ページ範囲:P.470 - P.474

ポイント

◎不明熱を呈する血液疾患は多くなく,そのほとんどが悪性リンパ腫をはじめとする造血器腫瘍である.

◎不明熱にリンパ節腫脹,血球数異常・分画異常・形態異常などを伴えば血液疾患である可能性は高くなるので,身体診察・末梢血塗抹標本の観察は重要である.

この血液疾患を誤診してはいけない

貧血の誤診

著者: 臼杵憲祐

ページ範囲:P.476 - P.479

ポイント

◎貧血の鑑別診断では,血算検査で血液像と網赤血球数を調べることが必須である.

◎網赤血球は正常の赤血球よりも大きいので,出血や溶血性貧血で網赤血球増加が著しい場合には大球性貧血を呈する.

◎網赤血球増加があれば,溶血性貧血あるいは出血である.

白血病の誤診

著者: 石川裕一 ,   清井仁

ページ範囲:P.480 - P.483

ポイント

◎白血病は発症時にはさまざまな症状を呈し,その診断には血算検査が必須である.

◎白血球減少もしくは増加を伴う症例では,さらに目視による血液像検査が重要である.

◎急性白血病が疑われる症例は,専門医との可及的速やかな連携が必要である.

血小板減少の誤診

著者: 大森司

ページ範囲:P.484 - P.487

ポイント

◎血小板減少では末梢血塗抹標本の異常白血球,血小板凝集塊,巨大血小板,破砕赤血球に注意する.

◎特発性血小板減少性紫斑病は除外診断であり,PA-IgGでは診断できない.

◎血栓性血小板減少性紫斑病や溶血性尿毒症症候群は,溶血と血小板減少で疑う.

多発性骨髄腫の誤診

著者: 矢野寛樹

ページ範囲:P.488 - P.490

ポイント

◎TP/Alb乖離や溶骨をきたさない骨髄腫も存在する.

◎M蛋白のスクリーニングには,IgG,IgA,IgMの測定が優れている.

非血液専門医による血液診療

鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血の治療

著者: 横山泰久

ページ範囲:P.492 - P.495

ポイント

◎鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血では,入院や輸血の適応となることは少ない.

◎鉄欠乏性貧血の治療の第一選択は経口鉄剤であり,安易に静注鉄剤を用いない.

◎ビタミンB12欠乏の原因が除去されない場合は,生涯にわたる補充が必要である.

◎巨赤芽球性貧血の診断時または治療中に鉄欠乏性貧血を合併することがある.

化学療法終了後の血液疾患患者のフォローアップ

著者: 森慎一郎

ページ範囲:P.496 - P.499

ポイント

◎造血器腫瘍の化学療法終了後の患者をフォローするうえで,診断と治療経過に関する情報は必須であり,治療担当専門医からサマリーを文書で得ることが必要である.

◎理想的にはフォローアップのためのケアプランの提供が必要であるが,十分に行われていないのが現状である.

◎Children’s Oncology Groupのガイドラインは成人例でも有用であり,個別のケアプランが得られない場合にはこれを参考にするとよい.

◎専門医によるフォローアップを受けている患者にとっても,身近な問題を気軽に相談できる,かかりつけ医の存在は大変大きい.

血液疾患患者の風邪診療

著者: 宮崎仁

ページ範囲:P.500 - P.503

ポイント

◎血液疾患の再発・再燃による症状を,「風邪」と誤診してはいけない.

◎重篤な肺炎や特殊な日和見感染による症状を,「風邪」と誤診してはいけない.

◎血小板減少患者には,安易に解熱薬や総合感冒薬を処方してはいけない.

血液疾患患者に薬剤を使うとき

著者: 竹田勇輔 ,   中世古知昭

ページ範囲:P.505 - P.509

ポイント

◎発熱性好中球減少症では,NSAIDsの坐剤は肛門周囲膿瘍をきたすので用いない.

◎NSAIDsとニューキノロン薬の併用で,痙攣を起こす可能性がある.

◎NSAIDsと糖尿病治療薬の併用で,低血糖を起こす可能性がある.

◎NSAIDsとメトトレキサートの併用で,メトトレキサートの副作用が増強する.

◎貧血時にはHbA1c値が糖尿病状態を正しく反映しないため,糖尿病薬の処方に注意が必要である.

◎アゾール系抗真菌薬使用時にはトリアゾラムは禁忌である.

終末期血液疾患患者の緩和医療

著者: 柴田隆夫

ページ範囲:P.510 - P.513

ポイント

◎血液疾患患者の終末期は疾患によりその病態,症状はさまざまである.

◎共通する合併症として感染症がある.

◎白血病,骨髄異形成症候群では血球減少が,悪性リンパ腫では臓器浸潤症状が,多発性骨髄腫では骨痛が多くみられる.

血液疾患の超高齢患者の緩和医療

著者: 宮腰重三郎

ページ範囲:P.514 - P.518

ポイント

◎副作用の少ない分子標的薬の開発に伴い,慢性骨髄性白血病を代表とする超高齢者の血液疾患に対して治療が可能になってきているが,その投与量や維持量に関しては不明な点が多い.

◎超高齢者の血液疾患の多くは,治癒を目指すことが困難である.そのため本人のライフスタイルに合わせ,また家族の意向も十分に配慮する必要がある.

連載 顔を見て気づく内科疾患・15

耳のしわ:虚血性心疾患のサイン?

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.387 - P.387

症 例:70歳台男性

病 歴:数カ月前から,スポーツ中に生じ,休憩で改善する胸部絞扼感を感じはじめた.前日,今までより軽い運動で,かつ頻回に症状が生じたため受診.当日は通常の歩行でも軽い症状があった.

そのカルテ,大丈夫ですか?誤解を避ける記載術・3

―「時間を意識する」②―検査と時間

著者: 神田知江美

ページ範囲:P.389 - P.389

◎検査と時間

 前回,裁判では想像以上に「時間」が重要であり,「事実を正しく認定してもらう」ためのポイントの1つ目として,まず「時間を意識する」ことの必要性について説明しました.

 今回は,「時間を意識する」ことに関して,特に検査について説明したいと思います.なぜなら,検査においては①オーダー時間,②実際に検査をした時間,③結果が出た時間(あるいは結果を確認した時間)の間にタイムラグがありますが,このタイムラグが問題となりうるからです.

神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・12

数カ月の経過でADLが落ちてきた片麻痺の男性

著者: 大生定義

ページ範囲:P.526 - P.529

症例:桐野良雄(仮名)69歳男性

2年前に脳梗塞で当院神経内科に入院し,右片麻痺のため直後は歩行困難となったが,リハビリテーション病院に転院し,杖なしで歩行,家での生活も自立し,発症後4カ月で退院となった.その後のフォローはかかりつけ医で行われ,抗血小板薬,降圧薬などの処方は継続していた.朝早く起きて近くを散歩するようになっていたが,半年前から歩行がゆっくりとなり,日常の動きも緩慢になり,また転倒しやすくなった.身の回りのことにも介助が必要になり,気持ちが落ち込むことが多くなった.かかりつけ医に相談したところ,年齢的な体力低下かもしれないと言われた.家族(息子の嫁)は,衰えがみるみるうちに進行しているので心配し,一般内科に患者と一緒に相談に来た.

問診票の診察前の血圧120/70mmHg,脈拍76回/分 整,体温35.8℃.

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・24

ステロイドの効かない関節炎

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.530 - P.534

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は3カ月前から関節炎がある35歳の男性です.3カ月前に38℃の発熱と右足関節炎から始まり,その後に両膝,右肘の関節痛も生じたため近医受診しています.診断は明らかではありませんが,シプロフロキサシン200mgを1日2回とプレドニゾロン45mgを処方されています.3日後にはCRPは25.19mg/dLから5.37mg/dLに低下しましたが,プレドニゾロン30mgに減量され,5日後には関節炎の再発と皮疹の出現をみています.その後,大学病院に紹介されプレドニゾロンは20mgに減量し,非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を併用されていますが改善は十分得られず,1カ月後に当科に紹介受診されています.

アレルギー膠原病科医 受診時には,両側の手関節炎,膝関節炎,足関節炎,腰痛と皮疹がありました.早期に診断のめどをつけて治療を調整する必要性がありましたので,即日に皮膚科にもコンサルトさせていただきました.小関節が侵されていない慢性関節炎ですが,抗菌薬とステロイドの併用によって臨床像が修飾されている可能性があり,淋菌性関節炎,乾癬性関節炎,反応性関節炎,心内膜炎などが鑑別に挙がっていました.腱付着部炎を示唆するような所見はなく,乾癬のリスク因子となるような体重過多もありません.

患者さんは人生の先生・3

笑うと嬉しくなる

著者: 出雲博子

ページ範囲:P.535 - P.535

 2005年春、70歳台の某大学名誉教授が講義中にうとうとすることがあり、健忘もあるので、認知症が疑われ知人に勧められて当院内科を受診した。脳のMRIには異常なく、血糖336mg/dL, HbA1c 14.9%と高値であり、症状は高血糖のためと判断されて当科へ紹介された。血糖はインスリン治療により順調に改善した。入院中軽度の冠動脈狭窄も認められたが、特に治療を必要とするものではなかった。しかし、血糖が改善された後も、なんとなく動作や反応が鈍く浮腫も残っていたので、甲状腺機能を測定するとFT4が0.64ng/dLと低下、TSHが60μU/mLに上昇していた。甲状腺機能低下であり、TPO抗体、TG抗体ともに陽性で橋本病と診断した。甲状腺ホルモン剤レボチロキシンの投与を開始すると、FT4とTSHの改善とともに患者の認知機能は著明に改善し、また大学の講義に戻っていった。

 「高齢者の認知機能や記憶が低下した時、すぐに認知症を疑うのではなく、ホルモンや代謝疾患を疑うことも忘れてはいけない」というのが本稿の一つのテーマではある。しかし、この患者さんから学んだことはそれ以上のことであった。彼は、インスリン注射や自己血糖測定を毎日しなくてはならなくても、ちっともいやな顔をしたことはない。良くなったことを感謝していつもにこにこしていた。甲状腺疾患のことを話しても、また白内障の手術を受けることになった時もいつも穏やかに微笑んでいた。特に転倒して左腕を骨折して入院となった時も、相当痛いはずなのにつらそうな顔をまったく見せず、冗談を言ってわれわれを笑わせた。彼は戦争中に親友を失うなどつらい体験をし、戦後、倫理学を教えているが、いつもユーモアを大切にしている。私の外来はいつも混んでいて午後になると疲れてしまい、表情にも出ていたと思う。ある日、彼は私に「先生、疲れていますか?」と言って自作のエッセイの載った雑誌をくださった。それには「嬉しいから笑うのではなく、どんな状況でも笑うと気持ちが明るくなる」ということが書いてあった。

目でみるトレーニング

著者: 三好満 ,   稲葉芳絵 ,   寺門洋平 ,   今村哲理

ページ範囲:P.536 - P.541

Step up腹痛診察・7

49歳男性,心窩部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.542 - P.546

[現病歴]本日午前0時頃から心窩部痛を自覚した.痛みは鈍痛で徐々に強くなり,その後,波のある腹痛が持続した.腹痛に続いて軽い嘔気を何度か自覚したが,嘔吐はなかった.痛みは心窩部に限局し放散痛はなかった.疼痛は安静時にもあり,労作による増悪はなかった.痛みを軽減するものは明らかでなかった.自宅にある胃薬を服用したが,痛みは改善しなかった.翌朝になっても腹痛は継続していたため,朝食は摂取せずに出社した.しかし,腹痛の改善がないため昼前に外来受診となった.受診時の心窩部痛はNumeric Rating Scale(NRS)で6/10程度であった.発熱,呼吸困難,下痢,タール便はなかった.

[既往歴]高血圧症

[常用薬]アムロジピン,テルミサルタン

[社会歴]喫煙:しない.飲酒:日本酒1合/日,週3日

西方見聞録・3

ネズミとマウスと研究と

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.548 - P.549

ニューヨークのネズミ

 12月24日,ニューヨークの街は最高に華やかです.私の気持ちも同じように晴れやかでした.というのも,この日から2週間,リサーチエレクティブという,研究ばかりをやる選択期間に入ったからです.“臨床”研修医の次のポジションは“研究”業績で決まる.アイロニカルですが事実です.ロックフェラーセンターの光り輝くツリーの脇,ゴミ置き場の周りはネズミのパラダイス.彼らもまた,聖夜を歓迎しているようです.

REVIEW & PREVIEW

Helicobacter pyloriと胃癌

著者: 田中昭文 ,   徳永健吾 ,   高橋信一

ページ範囲:P.550 - P.553

最近の動向

 1983年にWarrenとMarshallがHelicobacter pylori(H. pylori)の分離培養を初めて報告して以来,H. pyloriと胃炎,消化性潰瘍,胃癌などとの関係が明らかとなってきた.特に,H. pylori除菌による消化性潰瘍の再発抑制効果は明らかであり,わが国においても2000年11月より胃・十二指腸潰瘍に対するH. pyloriの検査・治療が保険適用となった.

 その後,ほとんどの胃癌はH. pylori感染を背景に発生することが疫学,動物実験,臨床研究において明らかとなり,H. pylori除菌による胃癌発生抑制の有無が注目され,介入試験が行われてきた.2008年に,わが国のJapan Gast Study Group(JGSG)は早期胃癌内視鏡治療後の異時性胃癌(二次癌)に対する多施設無作為比較試験において,H. pylori除菌は有意に二次癌を抑制すると報告した1).また,2009年1月にはH. pylori感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版2)が発表され,すべてのH. pylori感染者に対し除菌を行うよう強く勧められるとした.

書評

―下門顯太郎 編―病棟レジデント,病棟医のための高齢患者診療マニュアル

著者: 井村洋

ページ範囲:P.443 - P.443

 本書は,「高齢者に対する病棟診療」という新たな切り口のマニュアルである.A5変形276頁に,高齢者の病棟診療に必須の項目が,適切な量で,具体的・実践的な語り口で収められている.

 内容は,序章を除き3つのPartに分かれている.それぞれ,「老年症候群」「各疾患に関連して考慮すべきこと」「知っておくべき状況」である.

―小林美和子 著 西原崇創 編著―これであなたも免許皆伝!ドクターこばどんの感染症道場

著者: 本郷偉元

ページ範囲:P.524 - P.524

 わたしが敬愛する小林美和子先生,西原崇創先生が,この度本書を上梓された.西原先生は循環器科医ではあるが,聖路加国際病院でのレジデントの頃,古川恵一先生のご監修の下,「そこが知りたい! 感染症一刀両断!」を執筆しておられる.感染症医ではない若手医師がここまでの内容を書かれたことに驚いた覚えがあるが,その後知己を得させていただき,西原先生の温厚かつスマートなお姿に触れ,あれだけの内容を書かれたことも納得できた.小林先生は学生時代から優秀な方で,聖路加国際病院でチーフレジデントを終えられた後,渡米され,現在国際機関でご活躍中である.渡米後も時々メールのやりとりをさせていただいている,日本の感染症医のホープのお一人である.

 本書の構成を見て,小林先生らしさを感じた.トラベルメディスンや妊婦・授乳婦での抗菌薬投与での注意点,抗菌薬併用療法の意義,抗菌薬アレルギー,などに関しても丁寧に記載しておられる.例を多く用いられているのは教育者として,随所に公衆衛生学的視点を散りばめておられるのは国際機関に勤務しておられるグローバルな感染症医として,そしてエビデンスを丁寧に追いながらそれをわかりやすい的確な表現に言い換えておられるのは優秀な医師として,の小林先生の姿が現われているように感じた.そしてそれを編著しておられる西原先生のバランス感覚にも改めて敬服した.古川先生も目を細めて喜んでおられることと思う.

―吉野相英 監訳 立澤賢孝,戸田裕之,角田智哉 訳―臨床てんかんnext step―知的障害・自閉症・認知症から併発精神障害まで(『The Neuropsychiatry of Epilepsy, 2nd ed』Michael R. Trimble, Bettina Schmitz 編著)

著者: 平田幸一

ページ範囲:P.547 - P.547

 神経内科医,あるいは神経学者の精神医学的関心の高まりはてんかんにかぎったことではない.多くの神経疾患で同じように精神医学の役割が増している.学習障害における神経遺伝学的発見や自閉症における中枢神経系異常の発見によって,神経学と精神医学の境界領域はさらに拡大し,同じものを両者がみていることに当然のことながら気づき始めた.本書にあるように同じことが学習障害や自閉症を併発したてんかんにもいえる.

 てんかんに精神病が生じることは以前から知られてはいたが,その生物学的基盤が受け入れられるようになったのは内側側頭葉てんかんと扁桃体や海馬などの辺縁系の関連や統合失調症のつながりが明らかとなり,重要な病態と考えられるようになったことが背景として考えられる.こうした進歩によって,てんかん併発精神障害の神経解剖学的あるいは神経化学的基盤の理解が促され,わが国では歴史的にもともと精神科医がみていたてんかん患者を欧米でも神経内科医よりも精神科医になじみのある向精神薬で治療を受ける人も増えてきている.

information

米国内科学会(ACP)日本支部2014年年次総会のお知らせ

ページ範囲:P.474 - P.474

 米国内科学会(American College of Physicians:ACP)は,米国内科専門医会(ACP)と,米国内科学会(ASIM)が1998年に合併して誕生しました.現在,世界80カ国に13万人の会員を有する国際的な内科学会です.学会員の内科診療技術を最高水準に維持し,患者に高い質の医療を提供することや,医療の質を高めるための研究を推進することなどを使命としています.“Annals of Internal Medicine”を学会公式雑誌とし,年次学術総会,生涯教育(MKSAP),医療政策提言などさまざまな活動を行っています.ACP日本支部は,2003年にアメリカ大陸以外では初めて設立が許された支部で(初代支部長:黒川清),現在会員数が1,000名を超え,医学生や研修医など若手会員が20%を占めるまでになっています.日本内科学会の総合内科専門医を有する内科医はACP正会員に,ACP正会員のうち要件を満たす者はFellow(FACP)の称号を申請できます.設立以来,毎年総会・講演会などの活動を行ってきました(現支部長:小林祥泰).

 本年も年次総会を開催します.“Emerging healthcare needs and future role of Internal Medicine’s”を基本テーマとし,臨床能力向上のための教育セッションを多数提供する予定です.ACP会員であるなしに関わらず,どなたでもご参加可能です.

日時●2014年5月31日(土),6月1日(日)

会場●京都大学百周年時計台記念館

   (http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/clocktower/)

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次号予告

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奥付

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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