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雑誌目次

雑誌文献

medicina51巻4号

2014年04月発行

雑誌目次

特集 虚血性心疾患up to date―内科医によるトータルマネジメント

著者: 今井靖

ページ範囲:P.573 - P.573

 虚血性心疾患は内科医が遭遇する機会が非常に高い疾患です.初期診断は問診,診察,心電図・血液検査といった基本的なスキルで対応可能である一方,限られた情報で迅速な対応を求められるため,見落とすと,時として生命にかかわる事態が生じます.しかし,逆に言えば内科医が初療から予防・管理に至るまで本領を発揮できる分野です.

 今回の特集号では内科一般の読者ができるだけ短時間に本疾患を俯瞰できるよう,疫学・病態生理から診断,治療,予防,そして最近の基礎研究の紹介,将来の展望まで虚血性心疾患を幅広く1冊にまとめました.虚血性心疾患の診断に至るステップで何がポイントとなるのか,各分野の第一人者の先生方から診断のためのパールを限られた紙面に凝縮してご執筆いただきました.画像診断技術も長足の進歩があり,冠動脈CT,また心筋性状などの評価も可能なMRI,核医学,また冠動脈造影は冠動脈疾患診断の肝ですが,造影やインターベンション時に冠動脈の壁性状を評価する血管内超音波(IVUS),光干渉断層法(OCT)など,最近の循環器画像診断の進歩と実際の使い方がご理解いただけるものと思います.さらに冠動脈造影にて狭窄,閉塞病変が確認されれば血行再建術としての経皮的冠動脈インターベンション,冠動脈バイパスを選択することになりますが,それぞれの適応,治療法の実際,また術後の急性期・慢性期管理の方法について多彩な視点からご解説いただきました.もちろん,冠リスク因子の管理,再発予防は終生にわたり行われますが,糖・脂質代謝,高血圧,禁煙,また心臓リハビリテーション・運動療法,また合併するほかの大血管・末梢動脈疾患,腎障害についてもそのエッセンスを把握できると思います.

特集の理解を深めるための27題

ページ範囲:P.722 - P.726

座談会

虚血性心疾患診療の最近の動向

著者: 今井靖 ,   丹沢俊弘 ,   安東治郎 ,   杉下靖之

ページ範囲:P.574 - P.584

今井 虚血性心疾患は,高齢化とともに著増しています.さらに診断手段・機器の進歩によって発見・診断も迅速化し,多くの治療がなされるようになりました.予防手段もここ5年,10年の間に長足の進歩を遂げ,脂質,血圧,血糖管理がさらに厳格化し,また多くの新しい薬剤が出てきました.

 今回は内科医がかかわる虚血性心疾患の診断のポイントや最近の動向について議論したいと思います.

疫学・病態

虚血性心疾患の日本人における動向・予後

著者: 福原正代 ,   清原裕

ページ範囲:P.586 - P.589

ポイント

◎わが国の一般住民では,急性心筋梗塞の年齢調整発症率・死亡率に明らかな時代的変化は認めなかった.

◎1960~1990年代にかけて,超高齢者の急性心筋梗塞発症率が増加した.

◎急性心筋梗塞の5年生存率は時代とともに改善した.

◎国際的にみると,現在でもわが国の虚血性心疾患死亡率は低いレベルにある.

冠動脈硬化・急性冠症候群―急性血栓イベントを最新分子イメージングで解く

著者: 西村智

ページ範囲:P.590 - P.592

ポイント

◎新たな生体イメージングデバイスの開発により,生体内での血栓形成過程が明らかになった.

◎従来のイメージングと異なり,単一血小板レベルで,マルチカラー,リアルタイムでの評価が可能である.

◎この手法により血栓形成における多細胞からなる相互作用だけでなく,寄与分子が明らかになった.

冠動脈病変およびステント治療後の病理像―冠動脈の実像を理解する

著者: 井上勝美

ページ範囲:P.594 - P.599

ポイント

◎冠動脈硬化症の主因である粥状硬化は,脂質やプロテオグリカンなどの沈着に加えて,線維性結合組織の増生,さらには血液由来の細胞・物質の浸潤と石灰化巣の形成などにより,主として内膜が肥厚する病態と表現される.

◎その結果生じた狭窄部位に対して,冠動脈ステント留置術は,安定した大きな内腔拡大効果が得られ,現在の虚血性心疾患の治療において中心的地位を占めている.しかし術後数カ月以内に生じる再狭窄は,本治療法の“アキレス腱”となっている.

◎薬剤溶出性ステントは,新生内膜の増生を強力に抑制することにより,現在最も優れた再狭窄防止効果を示す治療器具であるが,留置部における内皮細胞の再生反応も抑制(遅延)するため,(遅発性)ステント血栓症の危険性などに関して,注意深い検討が必要である.

問診・診察・診断

問診・身体診察のコツ

著者: 桑原政成 ,   三谷治夫

ページ範囲:P.600 - P.603

ポイント

◎患者が来院した最初の10分が勝負である.狭心症症状など詳細な病歴,身体所見,心電図所見,心筋マーカーに焦点を絞った早期リスク層別化を10分以内に行う.

◎問診で症状を聴取するときは“OPQRST3a”を使用する.

◎狭心症の症状は,胸部症状だけとは限らない.

◎リスク評価を早期に行う.高頻度,20分以上持続する胸痛,肺水腫,Ⅲ音,新規発症のラ音/僧帽弁閉鎖不全症の逆流音などは高リスクである.

◎身体診察では触診も忘れずに行う.

◎バイタルサインには常に注意を払う.

心電図―読み落としをなくす工夫

著者: 假屋太郎

ページ範囲:P.604 - P.609

ポイント

◎急性冠症候群を疑ったら10分以内に標準12誘導心電図検査を行う.

◎急性冠症候群を疑う際の心電図検査では,ST上昇,ST低下,陰性T波を見落とさない.

◎虚血の部位はST上昇や異常Q波を認める誘導から推測できるが,ST低下誘導からは推測できない.

◎急性冠症候群を疑う際の心電図検査では,過去の心電図との比較を行う.

◎心電図が正常範囲内という理由のみで急性冠症候群を否定することはできない.

心エコーを診断・治療に活かす

著者: 中尾倫子

ページ範囲:P.610 - P.615

ポイント

◎虚血性心疾患における心エコーの主な役割は,虚血心筋の診断,心機能の評価,合併症の評価である.

◎心エコー検査により,左室壁運動異常の程度とその広がりを評価することで,虚血心筋の場所,責任冠動脈病変を推定できる.

◎心筋梗塞の合併症は,血行再建術の適応や術式などの治療方針の決定に重要であり,心エコー図検査によって,ベッドサイドで迅速に診断することができる.

診断マーカーと測定しておくべき血液検査

著者: 相澤健一

ページ範囲:P.616 - P.620

ポイント

◎急性心筋梗塞,不安定狭心症などの臨床診断に有用な生化学マーカーとして,クレアチンキナーゼ,トロポニン,心臓型脂肪酸結合蛋白,ミオグロビンがある.

◎心機能指標としてBNPがあり,虚血性心疾患の予備心機能や予後を予測する際に有用である.

◎急性心筋梗塞の二次予防の重要なリスク因子として評価すべき脂質,糖尿病などがある.

核医学検査―虚血・心筋をいかにとらえるか

著者: 真鍋治 ,   益田淳朗 ,   玉木長良

ページ範囲:P.622 - P.625

ポイント

◎心臓核医学検査は,形態画像では得られない血流や代謝などの機能的評価に優れている.

◎心筋血流シンチグラフィは,冠動脈疾患の治療の適応決定において重要である.

◎PET検査により,冠血流の定量評価や画質の良い血流画像など,より優れた画像を得られる.

◎心筋の脂肪酸代謝やブドウ糖代謝を評価することで,虚血記憶や心筋生存性の評価が可能である.

冠動脈CT・MRIの最新事情

著者: 松本有司 ,   寺島正浩

ページ範囲:P.626 - P.631

ポイント

◎冠動脈CTは冠動脈狭窄の診断に非常に有用で,有意狭窄の存在を否定する陰性的中率は99%と高い.

◎冠動脈CTは放射線被曝とヨード造影による腎毒性が問題となるが,放射線被曝は技術的進歩によりかなり低減されている.

◎冠動脈MRIは造影剤,放射線被曝なしで冠動脈を描出することが可能であり,冠動脈CTよりも低侵襲の検査として期待されている.

◎冠動脈CT,冠動脈MRIにより,急性冠症候群を引き起こす不安定プラークを検出する試みが行われており,今後のさらなる技術的進歩が期待される.

冠動脈造影・イメージング―カテーテル検査でどこまでわかるか

著者: 下浜孝郎 ,   阿古潤哉

ページ範囲:P.632 - P.636

ポイント

◎冠動脈造影は狭心症や心筋梗塞の確定診断,PCIや冠動脈バイパス術など治療方針の決定に欠かせない重要な検査である.

◎IVUSやOCTなどのイメージング機器を活用することにより,病態の把握や治療方針の決定など,安全で効果的なPCIが可能となる.

◎造影上の中等度狭窄病変には,FFRによる機能的虚血評価が治療方針を決定するうえで非常に有用である.

大血管・脳血管・末梢血管疾患の診断・スクリーニング

著者: 原田光一郎

ページ範囲:P.638 - P.641

ポイント

◎大血管・脳血管・末梢血管疾患の診断においては十分な問診に加え,“血管系をイメージした診察”を行うことが重要である.

◎脳血管疾患にはスクリーニング検査として,頸動脈超音波検査が有用である.

◎腹部大動脈瘤には超音波検査,閉塞性動脈硬化症には足関節上腕血圧比(ABPI)が有用である.

◎冠動脈疾患患者におけるこれら三大疾患のスクリーニングは,①術前検査の効率化と②周術期の循環管理計画,③予後予測に寄与する.

急性冠症候群の診断・治療・管理

急性冠症候群の初療

著者: 碓井伸一

ページ範囲:P.642 - P.647

ポイント

◎急性心筋梗塞(ST上昇型)においては,PCIを遅滞なく実施することが最重要事項であり,その診断・初期治療にあたっては迅速さが要求される(door-to-balloon timeの短縮).

◎急性冠症候群(非ST上昇型)においては,リスク層別化を行い,適切な診療方針を決定することが重要である.

◎急性冠症候群と見分けのつきにくい疾患の症状・病態を理解し,正しく診断・加療を行う必要がある.

急性冠症候群に対するPCI

著者: 池本智一

ページ範囲:P.648 - P.652

ポイント

◎本邦では,急性冠症候群に対してprimary PCIが選択されることが多く,有効である.

◎STEMIではdoor-to-balloon time 90分以内,NSTEMIでもhigh risk群では早期にPCIを施行するべきである.

◎急性冠症候群では,再灌流障害や心原性ショックなどの合併症がしばしばみられ,速やかに適切な対処が必要である.

急性冠症候群のCCU管理

著者: 天木幹博

ページ範囲:P.654 - P.658

ポイント

◎初期CCU管理の目的は発症直後の致死性不整脈の治療にあり,心電図モニタリング,電気的除細動,一時的ペーシングなどにより,梗塞患者の死亡率を著しく低下させた.

◎Swan-Ganzカテーテルの登場によるポンプ不全の治療の進歩や,早期冠動脈再灌流療法の導入によって治療後合併症の頻度や死亡率が減少した.

◎現在のCCU管理においては,致死性不整脈,ポンプ不全,機械的合併症などに加え,PCIに伴う合併症の早期発見,治療が重要である.

◎虚血巣の縮小や左室リモデリングの抑制のための治療を早期から開始する.

急性冠症候群における地域ネットワーク(1)

東京都CCUネットワーク

著者: 桃原哲也 ,   高山守正 ,   長尾建

ページ範囲:P.660 - P.662

ポイント

◎急性冠症候群(急性心筋梗塞,不安定狭心症)は,発症早期に突然死する可能性がある重篤な疾患であり,迅速な対応が必要である.

◎迅速な専門施設への救急搬送,早期のカテーテル治療などによる冠血行再建が予後を改善させる.

◎ネットワークを構築し,急性心血管疾患に対する救急体制を地域全体で支えることが大切である.

◎東京都CCUネットワークでは,心肺蘇生の講習会などを行い,一般市民にも幅広く啓蒙活動を行っている.

◎将来は,急性大動脈解離や動脈瘤の破裂なども含めた急性心血管疾患に対するより広域なネットワークの構築も必要である.

急性冠症候群における地域ネットワーク(2)

熊本県における地域医療支援の取り組み

著者: 宮本信三 ,   中尾浩一

ページ範囲:P.663 - P.665

ポイント

◎質の高い継続医療を提供するために,連携先と深い信頼関係を構築することが非常に重要である.

◎病院間の患者の『やりとり』が連携なのではなく,患者の治療のストーリーに責任をもつことが大切である.

◎当院の循環器疾患の地域連携体制においては,前方連携,空床の確保の努力,後方連携がカギとなる.

◎熊本県では,急性心筋梗塞患者のレジストリーが行われている.

◎当院は,「自己完結型医療」ではなく,地域全体で患者をサポートする「地域完結型医療」への転換を目指している.

冠動脈疾患における多面的内科マネジメント

脂質管理・血糖管理―どこまで下げるか,いかに下げるか

著者: 矢作直也

ページ範囲:P.666 - P.674

ポイント

◎2012年改訂の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから,絶対リスクが採用された.

◎血糖管理は早期からの開始が重要である.

抗血小板薬の使い方―何をいつまで飲むのか,休薬・中止は可能か

著者: 上妻謙

ページ範囲:P.676 - P.679

ポイント

◎2剤併用抗血小板療法(DAPT)は,急性冠症候群と冠動脈ステント植え込み後の標準的な薬物療法である.

◎急性冠症候群に対しては,12カ月のDAPTの有用性が示されている.

◎冠動脈ステント血栓症予防のためのDAPTは12カ月が標準で,3~6カ月への短縮が試みられている.

◎内視鏡や手術時は,出血,心血管イベント発生のリスクと抗血小板薬のベネフィットを考えて休薬を検討する.

レニン-アンギオテンシン系阻害薬,β遮断薬の使い方

著者: 市堀泰裕 ,   坂田泰史

ページ範囲:P.680 - P.683

ポイント

◎心筋梗塞や心不全では,交感神経系やレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系を中心とした神経体液性因子が亢進し病態を増悪させる.

◎虚血性心疾患治療におけるレニン-アンギオテンシン系阻害薬,β遮断薬は,症状の改善のみならず生命予後改善効果がある.

◎急性心筋梗塞では禁忌のない限り,ACE阻害薬やβ遮断薬をできるだけ早期に投与する.

◎心筋梗塞慢性期で左室収縮機能低下を伴う例は,心不全を認めなくともACE阻害薬やβ遮断薬を導入する.

◎わが国では冠攣縮性狭心症の割合が多く,冠攣縮を合併する症例にβ遮断薬を投与する際はCa拮抗薬を併用するなど,注意を要する.

硝酸薬・ニコランジルの慢性期における意義

著者: 興梠貴英

ページ範囲:P.684 - P.687

ポイント

◎硝酸薬,ニコランジルは主として,狭心症症状の改善を目的に用いられる.

◎硝酸薬の長期使用による予後悪化が一時期報告されたが,その後の研究では否定的である.

◎硝酸薬,ニコランジルともPDE-5阻害薬服用時は禁忌となる.

◎ニコランジルは粘膜潰瘍,皮膚潰瘍の副作用に注意する.

心臓リハビリテーション・生活指導の効用―大きな予後改善効果

著者: 長山雅俊

ページ範囲:P.688 - P.692

ポイント

◎心臓リハビリテーションの原則は,長期臥床によるdeconditioning(脱調節状態)をreconditioning(再調節)することである.

◎再発予防を目的としたリハビリテーションでは,運動療法のみならず,患者教育や栄養指導などの包括的介入が重要である.

◎心筋梗塞についての予後改善効果では,死亡率が20~30%低下するという報告が多い.

◎予後改善の機序は,自律神経バランスの改善,冠動脈プラークの安定化,冠危険因子の是正などによる.

◎運動療法における運動強度は,嫌気性代謝閾値レベル,最大酸素摂取量の50~70%,最高心拍数の40~60%,心拍数予備能(HRR)の40~60%,または自覚的運動強度(旧Borg指数)11~13相当が推奨されている.

腎不全・血液透析患者の冠動脈疾患診療―腎臓内科医との連携

著者: 石塚理人 ,   池ノ内浩 ,   石橋由孝

ページ範囲:P.694 - P.697

ポイント

◎eGFRの低下が,死亡率や心血管イベントの増加に関連する.

◎一般的な冠危険因子に加えて,腎不全に関連した危険因子も考慮する.

◎血液透析と腹膜透析の利点・欠点を理解し,患者ごとに適応を選択する.

◎持続的血液濾過透析は,日本では保険上Ccr 15mL/分程度の腎機能と同等である.

◎造影剤腎症予防には,等張性補液1.0~1.5mL/kg/時を3~12時間前から6~24時間後まで行う.

血行再建―PCI,冠動脈バイパス

冠動脈病変の重症度・リスク評価とそれに基づく治療選択

著者: 田中悌史

ページ範囲:P.698 - P.702

ポイント

◎冠動脈疾患の治療方針は冠動脈病変の重症度のみならず,患者状態・心機能・合併疾患などさまざまな観点からリスク評価を行い決定される.

◎患者の症状を改善しQOLを向上する目的,生命予後を改善する目的の両面から治療の妥当性を判断する必要がある.

◎適切な重症度・リスク評価を行い各施設の体制・技量・成績を考慮したうえで,循環器内科・心臓外科が慎重な検討を行い,治療方針を決定する.

待機的血行再建におけるPCI

著者: 中島祥文 ,   森野禎浩

ページ範囲:P.704 - P.706

ポイント

◎安定虚血性心疾患に対する侵襲的治療は,症例のバックグラウンドや施設のキャパシティなどに応じ,症例ごとに施設のハートチームで十分に検討されるべきである.

◎治療デバイスや方法などは日々変化しており,情報を更新し続けることが重要である.

◎PCIは,至適な薬物療法と2次予防のうえで行われることが重要である.

冠動脈バイパス術―内科医として心得るべきこと

著者: 下川智樹

ページ範囲:P.707 - P.712

ポイント

◎冠動脈バイパス術は,内胸動脈,橈骨動脈,右胃大網動脈,大伏在静脈などのバイパスグラフトを採取し,冠動脈に吻合する手術である.

◎冠動脈バイパス術による血行再建は,今ある心筋虚血の改善だけでなく,将来の冠動脈病変における心筋虚血の予防が期待できる.

◎両側内胸動脈を用いた一期的多枝血行再建が良好な遠隔成績をもたらす.

近未来に向けて―冠動脈治療の将来

低出力体外衝撃波治療

著者: 伊藤健太 ,   下川宏明

ページ範囲:P.713 - P.716

ポイント

◎低出力の衝撃波を培養ヒト血管内皮細胞に当てると,血管増殖因子の発現が亢進する.

◎ブタ慢性心筋虚血モデルにおいて,低出力体外衝撃波治療は血管新生を促進し,心筋血流・心機能を改善する.

◎低出力体外衝撃波治療は,狭心症患者の症状,心筋血流,運動耐容能,心機能を改善する.

◎本治療は,下肢末梢動脈疾患や難治性皮膚潰瘍,整形外科疾患にも用いられている.低出力の衝撃波を用いるため,麻酔や手術を要しない非侵襲的な治療法である.

血管・心筋再生医療の展開

著者: 林恵美子 ,   細田徹

ページ範囲:P.718 - P.721

ポイント

◎近年,心臓幹細胞の存在が明らかにされ,心筋細胞などが生理的に再生していることが示された.

◎今世紀初頭より,心血管疾患に対するさまざまな細胞治療が試みられ,有望な結果も得られている.

◎骨髄由来細胞や心臓幹細胞は,有害事象を増加させることなく,心不全を改善させる傾向がみられた.

◎末梢動脈疾患,特にBuerger病(TAO)に対して,骨髄由来細胞の局所投与が奏功している.

◎大規模臨床試験を通じた,心血管疾患に対する細胞治療の安全性・有効性の確立が期待される.

連載 顔を見て気づく内科疾患・16

皮膚腫瘤の多発:von Recklinghausen病

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.565 - P.565

症 例:70歳台男性

病 歴:歩行障害精査目的で当院を受診.既往歴として,思春期頃から全身に皮膚腫瘍を認めるようになり徐々に増加した.30歳頃,診断に至った.

そのカルテ,大丈夫ですか?誤解を避ける記載術・4

―「訂正は慎重に」①―医療機器の時刻と訂正

著者: 神田知江美

ページ範囲:P.567 - P.567

◎医療機器の時刻と裁判

 前回まで,裁判では「時間」が重要な鍵を握るというお話をしてきましたが,時間を意識して記録するだけでなく,医療機器を正確な時刻に合わせておくことも重要です.

 以下のような事例を考えてみましょう.看護師が呼吸停止状態の入院患者を発見しましたが,医師が到着する頃には心停止となり,蘇生を行うも亡くなったとします.患者には心電図モニターが装着されていて,その時刻は実際の時刻よりも20分遅れていました.この場合,裁判では真実の心停止時刻よりも20分早いモニター上の心停止時刻が患者の心停止時刻であると「認定」され,蘇生措置の遅れについて責任を負う可能性が出てきます.だからといって,後日に心電図モニターの時刻を訂正すると,改ざんを疑われかねません.

患者さんは人生の先生・4

"認知症のレッテル"を貼る前に

著者: 出雲博子

ページ範囲:P.727 - P.727

 数年前のある日、神経内科から入院患者さんのことで私にコンサルテーションが来た。

 この患者さんは当時65歳くらいで以前は元気な一人暮らしであったとのこと。2カ月前のある夕方、姪がいつものように自宅を訪ねていったところ、玄関先で倒れていたので、近くの病院に搬送した。搬送中は頭痛、悪心嘔吐あり、眼の前が真っ暗だと訴えていたという。外傷はなく、脳卒中の疑いで入院となった。いろいろ検査をしたが、CTや血液検査で特に異常はみつからず、はっきりした病名も告げられないまま「認知症でしょう」と言われて入院が継続された。しかし、2カ月たっても患者の傾眠傾向と不安状態が続いた。入院前日までまったく元気だったのに急に認知症と診断されたことに納得いかず、姪が患者さんの転院を希望し当院神経内科に転院したのだった。

魁!! 診断塾・1【新連載】

オッカムか、ヒッカムか!?の巻

著者: 佐田竜一 ,   綿貫聡 ,   志水太郎 ,   石金正裕 ,   忽那賢志 ,   上村悠

ページ範囲:P.728 - P.732

本連載は毎月第2金曜日に都内で開催されている「東京GIMカンファレンス」で提示された症例について,漫画『魁!!男塾』を読んで育った中年(石金,志水を除く)男子たちが男塾調で臨床推論していくコーナーである.

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・10

依頼理由{その9}心電図異常~心エコーで見るべきこと~

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.734 - P.741

 これまでの本連載では,息切れや胸痛などの具体的な症状や徴候から考える心エコーを取り上げてきました.言ってみれば,患者さんからの訴えありきで,どう検査結果を活用していくかというところに焦点を絞ってきたわけですが,今号ではあえて心電図異常にスポットライトをあててみたいと思います.つまり,検査から検査(“patient to test”ではなく“test to test”)です.あまりこうした患者さん不在の医療は好きではないのですが(香坂談),現実の診療ではなぜか非常によくみられる心エコー依頼のパターンですので,あえて今回取り上げることとしました.

 さて,心電図といっても星の数ほどあるのでこちらの鶴田独自の判断に則して,ポイントを次の5点にしぼらせていただきます.

目でみるトレーニング

著者: 角谷彰子 ,   尾上祐行 ,   赤堀弘 ,   矢島隆二 ,   西澤正豊

ページ範囲:P.742 - P.747

西方見聞録・4

BMWに乗って

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.748 - P.749

Bayerische Motoren Werke?

 「お仕事は?」

 「仕事? 泥棒だよ,泥棒.銀行強盗が専門な.……そんな顔するなよ,ドク.昔のことだよ,昔のこと」

Step up腹痛診察・8

34歳男性,心窩部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.750 - P.753

[現病歴]4カ月前から心窩部痛を自覚するようになった.痛みは食後徐々に出現し,30分~1時間程度持続した.痛みは重い鈍痛で,放散痛はなかった.時に軽度の嘔気を伴うことがあったが,それ以外に随伴する症状はなかった.食欲低下,体重減少,タール便,黒色便はなかった.症状は週に1~3日程度出現した.仕事が忙しく医療機関を受診する機会がなかったので,ときどき市販の胃薬を服用していた.胃薬の服用で一過性に症状はやや改善した.今まで胃の検査を受けたことはない.最近,64歳の父親が胃癌の診断を受け,自分も心配になり外来を受診した.最近の痛みの程度はNumeric Rating Scale(NRS)で2~3/10である.

[既往歴]なし [常用薬]市販の胃薬のみ

[社会歴]喫煙:10本/日×14年間.飲酒:ビール350mL/日,週2~3回

REVIEW & PREVIEW

鉄過剰の弊害と対策

著者: 川端浩

ページ範囲:P.754 - P.757

最近の動向

 鉄はあらゆる生命にとって必須かつ貴重な栄養素である.多くの開発途上国では今日でもさまざまな栄養障害が社会的な問題になっており,鉄欠乏性貧血もその1つである.わが国でも若年女性における鉄欠乏性貧血の罹患率は高い1).しかしながら,「過ぎたるは及ばざるがごとし」で,最近では鉄過剰症についても重要な健康障害として捉えられるようになってきた.

 1890年,ドイツの病理学者Friedrich von Recklinghausenは,膵臓に蓄積した鉄が糖尿病の原因になることを見出した.以来,欧米では鉄の毒性,すなわち鉄過剰症の研究が盛んに行われてきた.わが国でも,鉄剤投与による発がんモデル動物の作製など,近年この分野における多くの貢献があった2)

書評

―筒井末春 監修 牧野真理子 著―学校・職場のメンタルヘルスの実践と応用―ストレス関連健康障害への対処

著者: 久保木富房

ページ範囲:P.674 - P.674

 2013年12月に牧野真理子氏が「学校・職場のメンタルヘルスの実践と応用」というコンパクトな本を出版された.メンタルヘルスに関して,学校も職場も実践と応用のできる専門家が不足していると日頃から感じているので,大いに期待している.牧野真理子氏は東邦大学心療内科の筒井末春先生の門下生で,現在は牧野クリニックを主宰し,学校や職場のメンタルヘルスを永いこと実践されている.大変な勉強家であり,横浜市立大商学部,東京外国語大学中国語学科,北里大学医学部と3つの大学を卒業されている.現在は国際協力機構(JICA)の顧問医も務め,広くメンタルヘルスの分野で活躍され,高い評価を得ている.文字通りの才色兼備である.筆者は,牧野真理子氏と同じ筒井末春先生の門下生であるが,実は牧野真理子氏がメルボルン大学で医学博士の称号を取得する際にメルボルン大学より学位論文の審査委員を依頼されたのである.

 さて,本書を読んでみると前述したようにA5判,156頁のコンパクトな本であるが,その内容は学校と職場のメンタルヘルスの実践と応用が正確にわかりやすい文章で書かれている.出版元の新興医学出版社が実践向けの解説書を多く出している点はよく知られている.

―谷口俊文 著―内科診療ストロング・エビデンス

著者: 八重樫牧人

ページ範囲:P.703 - P.703

 日本の医療はガラパゴス化している.専門分野以外は十分な卒後教育を受けることなく診療していることが一因である.2004年に卒後臨床研修が必修となり改善はされているが,内科ジェネラリストとしてのトレーニングは依然不十分なままである.その結果,世界各国でエビデンスが不十分であるとされる薬(例えばシベレスタット)に巨額の医療費が投入され,一方で必要な治療・予防が提供されていないことも多い.後者の一例としては,65歳以上人口の肺炎球菌ワクチン接種率はいまだ15%程度である.

 エビデンスのある治療が患者さんに届いていない状態を「エビデンス・プラクティス・ギャップ」という.このギャップに果敢に挑戦したのが本書である.著者の谷口俊文先生は,コロンビア大学の関連病院であるSt. Luke’s-Roosevelt病院での内科研修を経て,『ワシントンマニュアル』で知られるワシントン大学で感染症の専門研修を修了し帰国した.留学中から,よき内科系サブスペシャリストになるためには総合内科の確固たる知識・臨床能力が必要であることを理解しており,週刊医学界新聞に「レジデントのためのEvidence Based Clinical Practice」を連載していた.その内容をグレードアップしたのが本書である.連載も素晴らしかったが,今回の書籍化では格段の進化を遂げている.

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「ERアップデート in 沖縄 2014」開催のご案内

ページ範囲:P.721 - P.721

 「明日から使える!」を合言葉に,日常の研修では学ぶことのできない魅力いっぱいの講義やワークショップがぎっしりの「ERアップデート」.2014年の夏もおなじみ沖縄の地で開催を予定しています.第17回目の今回も,ハイレベルな勉強と遊びの両方を満載した3日間をご用意して先生方のご参加をお待ちしています! 全国から集う,熱い志を抱いた研修医の先生方とともに語り,ともに磨き合う,かけがえのない時間を過ごしてみませんか? この機会にぜひ,ご参加ください!

日程●2014年7月4日(金)~6日(日)

場所●沖縄残波岬ロイヤルホテル

日本透析医会研修セミナー透析医療におけるCurrent Topics 2014「透析医療における社会的課題」

ページ範囲:P.757 - P.757

日時●2014年5月18日(日)8:45~16:45

場所●コクヨホール

   東京都港区港南1-8-35

   TEL:03-3474-6092(当日のみ)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.764 - P.765

購読申し込み書

ページ範囲:P.766 - P.766

次号予告

ページ範囲:P.767 - P.767

奥付

ページ範囲:P.768 - P.768

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

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60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

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特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

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特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

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特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

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59巻12号(2022年11月発行)

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