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雑誌目次

雑誌文献

medicina51巻5号

2014年05月発行

雑誌目次

特集 内科医のための皮疹の診かたのロジック

著者: 北島康雄

ページ範囲:P.777 - P.777

 内科疾患と皮疹は,しばしば深く関連している.しかし,内科医が診る内科疾患患者に現れる皮疹は,膠原病を除けば,ほとんどが純粋な皮膚疾患,例えば虫刺症,白癬,接触皮膚炎,皮膚細菌感染症,薬疹,褥瘡,いぼ,老人性乾皮症などであろう.本特集の座談会でも触れているが,これらの皮疹は一般医,特に開業医では半数以上の医師が自分で診断・治療している(しなければならない)という現状がある.

 これら一般的な皮膚疾患の鑑別診断は,膨大な数の症例を経験してきた皮膚科専門医であれば,人の顔をみただけで誰であるかと認識できるように,パターン認識的に診断できる.しかし,こうした診断方法を皮膚疾患の症例経験が少ない内科医が自信をもって実践するのは容易なことではないと思われる.

特集の理解を深めるための26題

ページ範囲:P.931 - P.935

座談会

内科医が診る皮膚疾患

著者: 北島康雄 ,   平山陽示 ,   藤田芳郎 ,   三橋善比古

ページ範囲:P.778 - P.785

皮疹を発見,その時どうする?

北島(司会) 本日は,内科医が日常診療で皮膚疾患に遭遇した時,どのように考えて診断を進めていけばよいかということを中心にお話しいただこうと思います.まず,こちらのグラフ(図1)ですが,これは皮膚科が専門でない一般の医師のところへ皮膚疾患のある患者さんが受診された時,その医師がどこまで自分で治療するかを調べたものです1).例えば水虫(白癬)についてみてみると,開業医の84.4%は皮膚科を紹介せず,自分で治療しています.一方,病院勤務医では58.2%と低くなっており,これは院内の皮膚科にすぐ紹介することができるからであると思われます.

 本特集ではこの調査結果をもとに,内科医が診る機会の多い皮膚疾患について解説する章を設けました(p 886より).

Editorial

皮疹の診かたの基本的ロジック

著者: 北島康雄

ページ範囲:P.786 - P.791

皮膚の構造

 正常の皮膚は表皮(厚さ0.2mm)と真皮(厚さ1~5mm)からなる(図1).表皮は外側から角質層(厚さ0.02mm),顆粒細胞層,有棘細胞層,基底細胞層で構成されており(図1右),分裂増殖は基底細胞のみで行われ,有棘細胞と顆粒細胞は角化方向に分化進行中の状態である.基底細胞から顆粒層まではおよそ14~21日,角質細胞のターンオーバーも14~21日である.しかし表皮内や真皮内の炎症時には2~3日まで短縮されることもあり,角質層の剥離が肉眼でも認められる(鱗屑という).

 毛細血管は真皮乳頭層の乳頭先端部,表皮基底細胞直下にタイプ4型コラーゲンからなる基底膜を挟んで分布している.したがって,炎症により基底膜が破壊されていれば,真皮最上層の毛細血管から出血・漏出した赤血球は表皮細胞間に受動的に取り込まれる.また,神経終末は通常は真皮最上層まで分布しているが,アトピー性皮膚炎や慢性湿疹など炎症が続くと表皮内にも侵入し,痒みの感受性が上がる.

皮疹の種類とその発症機序

丘疹

著者: 出光俊郎

ページ範囲:P.792 - P.796

ポイント

◎湿疹や接触皮膚炎の診断には,中心に小水疱のある漿液性丘疹の存在が重要である.

◎表面がざらざらした丘疹は角質増殖を伴っており,尋常性疣贅など表皮角化細胞由来の疾患でみられる.

◎真皮の炎症による紅斑性丘疹は,薬疹やウイルス性発疹症でみられ,真皮上層の浮腫と細胞浸潤のためになだらかな隆起を呈する.

◎真皮の腫瘍による丘疹は表面が平滑で,真皮母斑(ほくろ)や黄色腫のほか,ムチンやアミロイドの沈着の可能性もある.

◎毛孔性丘疹は毛囊に一致し,炎症では毛囊炎,角化異常では毛孔性苔蘚を考える.

紅斑

著者: 村田哲

ページ範囲:P.798 - P.801

ポイント

◎赤い扁平な皮疹を紅斑と診断する前に,膨疹,紫斑,毛細血管拡張を除外する.

◎紅斑に,ほかの皮疹が共存する時は,その解釈を優先させる.

◎境界が明瞭な紅斑は真皮浅層,不明瞭な紅斑は真皮深層~皮下組織に炎症の場がある.

◎1カ月以上固定した紅斑は腫瘍の可能性がある.

◎網状紅斑(リベド)は,血管障害を表す.

膨疹

著者: 秀道広

ページ範囲:P.802 - P.807

ポイント

◎膨疹の診断には皮疹の時間経過の把握が大切である.

◎視診上も組織学的にも,表皮の変化はない.

◎真皮ではさまざまな程度の炎症細胞浸潤が起こるが,器質的変化には至らない.

◎特発性の蕁麻疹の膨疹では種々の程度にリンパ球,好中球,好酸球が浸潤し,遅延性圧蕁麻疹では好酸球,蕁麻疹様血管炎では好中球が多く浸潤する.

◎積極的にアレルギー性であることを示唆する膨疹の特徴はないが,ほかの皮疹の有無と膨疹の性状から,ある程度まで病型を絞り込むことはできる.

紫斑

著者: 川上民裕

ページ範囲:P.808 - P.812

ポイント

◎紫斑は,真皮内での出血を皮膚表面からみたものである(表皮に血管はない).

◎紫斑は単なる1症状名であり,基盤となる疾患は多様である.

◎真皮浅層の代表的紫斑がpalpable purpuraであり,血管炎が存在する.

◎palpable purpuraを呈する代表的疾患が,Henoch-Schönlein紫斑病である.

鱗屑,角質肥厚

著者: 青山裕美

ページ範囲:P.814 - P.818

ポイント

◎鱗屑,角質肥厚,角化異常が皮膚表面にみられる時に,その下の表皮と真皮には何が起きているかを推察する.

◎鱗屑や角質の肥厚は角質細胞が異常角化した結果生じるので,表皮に異常があると考える.

◎炎症の有無は,紅斑の有無で鑑別する.

◎炎症であれば,点状痂皮の有無で表皮内のⅣ型アレルギー反応の存在を推察できる.

糜爛

著者: 山上淳

ページ範囲:P.820 - P.824

ポイント

◎糜爛は表皮の剥離欠損であり,通常は水疱や膿疱に続発する.その原因疾患を検討することが重要である.

◎糜爛の発生部位と分布から原因疾患を絞り込む.粘膜症状の有無,急性か慢性か,全身性か局所性かに注意する.

◎糜爛そのものの性状だけでなく,随伴する皮疹(紅斑など)も原因疾患を推定する手がかりとなりうる.

膿疱,潰瘍

著者: 清島真理子

ページ範囲:P.826 - P.830

ポイント

◎感染性膿疱では病原体侵入部を中心として紅斑,膿疱を形成する.

◎掌蹠膿疱症,膿疱性乾癬などの無菌性膿疱では,紅斑局面のなかに膿疱を形成する.

◎血管炎による潰瘍は,紫斑,網状皮斑を伴い,血管を中心に形成される.

◎うっ滞性潰瘍は慢性に続く線維化,色素沈着のなかに潰瘍を形成する.

色素沈着,色素斑,脱色素斑

著者: 岡村賢 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.832 - P.836

ポイント

◎全身性に色素沈着をきたした場合,内分泌性障害や代謝障害を鑑別する必要がある.

◎色素性母斑と悪性黒色腫の臨床的鑑別の要点をしっかり押さえる.

◎脱色素斑をきたす病態はさまざまあり,詳細な問診,脱色素斑の程度,形,分布などの把握が診断に重要である.

皮膚硬化

著者: 市來善郎

ページ範囲:P.838 - P.841

ポイント

◎皮膚硬化は触診によって,病変の深さ,範囲,圧痛,熱感の有無などを確認する.

◎皮膚硬化は,表皮では角質層の肥厚,真皮~皮下組織では線維増生や細胞増殖,石灰沈着などによって起こる.

◎主な疾患に,強皮症,胝胼,浮腫性硬化症,放射線皮膚炎,転移性皮膚癌などがある.

皮膚掻痒

著者: 髙森建二

ページ範囲:P.842 - P.847

ポイント

◎かゆみの発症メカニズムは疾患により異なり,複雑である.

◎ヒスタミンはかゆみのmediatorとして重要であるが,近年抗ヒスタミン薬の奏功しないかゆみ(難治性かゆみ)のメカニズムの解明と治療法の開発が行われている.

内科疾患と皮疹

糖尿病と皮疹

著者: 三橋善比古

ページ範囲:P.850 - P.854

ポイント

◎内科疾患と関連して生じる皮疹をデルマドロームと呼ぶ.

◎糖尿病のデルマドロームとして,脂肪類壊死症,浮腫性硬化症,掌蹠線維腫症(Dupuytren拘縮),糖尿病性壊疽,皮膚感染症などがある.

◎皮膚の血行障害や感染症はQOLを低下させるので予防が重要である.

肝臓疾患と皮疹

著者: 村田哲

ページ範囲:P.856 - P.858

ポイント

◎黄疸は眼球,眼瞼結膜で最も早く明らかになる.

◎血管変化は顔,胸背部,上肢に現れ,くも状血管腫,手掌紅斑,紙幣状皮膚と呼ばれる.

◎白色爪甲や男性患者では体毛の女性型分布がみられる.

◎黄疸以外の皮疹は頻度は高いが,肝疾患に対する特異性は低い.爪,毛の変化などと同時にみられた時は,肝疾患の可能性が高い.

薬疹

著者: 松倉節子 ,   相原道子

ページ範囲:P.859 - P.863

ポイント

◎薬疹はさまざまな皮疹形態をとりうるが,特に重症薬疹の可能性を示唆する手がかりをみつけることが重要である.

◎多形紅斑型薬疹におけるEM majorは,標的病変と発熱,粘膜症状を伴うため,重症薬疹であるSJS/TENとの鑑別が問題となる.

◎近年の新薬による特筆すべき薬疹として,分子標的治療薬によるざ瘡様皮疹,手足症候群,爪周囲炎,乾皮症,抗TNF-α製剤による乾癬様皮疹などが挙げられる.

膠原病と皮疹―エリテマトーデスと全身性強皮症

著者: 古川福実 ,   池田高治

ページ範囲:P.864 - P.870

ポイント

◎皮疹の成因として,①真皮の病変,すなわち血管(周囲)炎,血管障害や線維化と,②表皮の傷害程度を臨床的かつ組織学的に見極めることが重要である.

◎皮膚病変を正確に判断することは,早期の診断に直結する.

◎自己抗体の種類によって臨床的特徴がある.

自己炎症症候群と皮疹

著者: 若林正一郎 ,   神戸直智

ページ範囲:P.871 - P.875

ポイント

◎自己炎症症候群は全身性の持続性反復性炎症があり,従来の免疫疾患の範疇におさめることができない.

◎代表的な自己炎症症候群は,自然免疫の破綻が背景にあり,NLRs関連伝達経路の異常によりIL-1βがその病態に影響する.

◎不明熱をきたす疾患のなかで,感染症を思わせる皮疹を認めるものの,明らかな原因を欠く場合には,本症を鑑別の1つに挙げることが重要である.

◎CAPSにおいては,抗IL-1β抗体であるCanakinumabが本症に対する治療薬として薬価収載されている.

悪性腫瘍と皮疹

著者: 三橋善比古

ページ範囲:P.876 - P.879

ポイント

◎内科疾患と関連して出現する皮疹をデルマドロームと呼ぶ.

◎悪性腫瘍のデルマドロームは,転移性皮膚癌のような直接デルマドロームと,直接の関連がない間接デルマドロームに分けられる.

◎デルマドロームは悪性腫瘍発見の手がかりになる.

透析患者の皮疹

著者: 髙森建二

ページ範囲:P.880 - P.884

ポイント

◎透析患者に認められる皮疹では皮膚の乾燥,色素沈着が多い.

◎合併症には穿孔性皮膚症(Kyrle病,穿孔性毛包炎,反応性穿孔性膠原症),カルシフィラキシス,皮膚アミロイドーシスなどがある.

内科医が診る皮膚疾患:診断・治療とコンサルテーション

虫刺症

著者: 夏秋優

ページ範囲:P.886 - P.890

ポイント

◎虫刺症は有害節足動物の刺咬,吸血,接触による,刺激性あるいはアレルギー性の炎症反応である.

◎ハチ,ムカデなどの刺咬ではまず痛みが出現するが,アナフィラキシーショックに注意する.

◎カ,ブユ,ノミ,トコジラミ,ダニなどによる虫刺症では孤立性の掻痒性紅色丘疹がみられ,その皮疹分布に特徴がある.

白癬,水虫

著者: 清佳浩

ページ範囲:P.891 - P.893

ポイント

◎白癬病巣において掻痒を伴うのは約半数である.足のかゆみの原因は2/3は水虫だが,1/3は湿疹や掌蹠膿疱症,汗疱状湿疹などがある.

◎水虫類似の皮膚病が多く認められるので,直接鏡検にて真菌要素をみつけよう.

◎抗真菌薬を外用して4週間しても改善がみられなければ,診断が異なるのではないかと考え,皮膚科専門医にコンサルトしよう.

◎足底の皮疹が消失しても角層深部には菌が残存するため,皮疹がなくなってからも2カ月は外用薬を継続する.

◎爪白癬が併発している場合,それを治療しなければ足白癬は完治しない.

脂漏性皮膚炎,接触性皮膚炎

著者: 中島喜美子

ページ範囲:P.894 - P.897

ポイント

◎脂漏性皮膚炎は皮脂の過剰によって生じることから,特徴的な臨床像を呈する.

◎接触皮膚炎には一次性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎があり,限局した皮膚症状をみた場合は,接触皮膚炎の可能性を常に考えることが必要である.

◎皮膚症状が治療によって軽快しない場合は,早めに皮膚科医にコンサルテーションする.

褥瘡

著者: 高河慎介

ページ範囲:P.898 - P.904

ポイント

◎褥瘡は急性期と慢性期に分けて考え,特に慢性期の深い褥瘡は「色」に着目する.

◎深さ,滲出液,大きさ,炎症・感染,肉芽組織,壊死組織,ポケットの状態に合わせた治療を考える.

◎除圧が基本であるが,複雑に絡み合う要因を分析し,ケースバイケースに対応する.

乳児湿疹,おむつかぶれ

著者: 馬場直子

ページ範囲:P.906 - P.910

ポイント

◎乳児湿疹とは,生後間もなく現れる,乳幼児の頭部・顔面・間擦部位に好発する湿疹の総称である.

◎乳児湿疹のスキンケアは,生理的に多い皮脂を刺激せずにきれいに洗い,保湿保護剤を塗ってバリア機能を補強することが大切である.

◎おむつかぶれの対処には,頻繁なおむつ交換と,清拭の仕方,バリア機能の強化対策が重要となる.

◎おむつ部カンジダ症を正しく鑑別し,速やかに抗真菌薬で治療しなければならない.

伝染性膿痂疹(とびひ)

著者: 峯嘉子

ページ範囲:P.911 - P.913

ポイント

◎水疱性膿痂疹は,主に夏季に乳幼児や小児に生じる水疱やびらんで,容易に周囲に拡大し,病変部からの細菌培養で黄色ブドウ球菌を検出する.

◎鑑別すべき疾患はブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群やカポジ水痘様発疹症などである.

◎治療は抗菌薬の全身(経口)投与を行う.搔破による悪化を防ぐため抗アレルギー薬も併用する.

◎保護者への適切な指導が重要である.

尋常性疣贅(いぼ),伝染性軟属腫(水いぼ)

著者: 三石剛

ページ範囲:P.914 - P.917

ポイント

◎足底疣贅で胼胝腫(たこ)や鶏眼(うおのめ)との鑑別が困難な症例や難治性疣贅の症例は,迷わず皮膚科にコンサルトしたほうがよい.

◎老人性疣贅や脂腺増殖症は尋常性疣贅と誤診されることがある.

◎水いぼの治療はリドカインテープ剤を貼付し,除痛を図り摘除する.

鶏眼(うおのめ),胼胝(たこ)

著者: 須賀康

ページ範囲:P.918 - P.921

ポイント

◎鶏眼,胼胝は,圧迫・摩擦などの過度な機械的刺激により,限局性の角質増殖を生じたものである.

◎胼胝は板状の角質増殖が生じるのに対して,鶏眼は深部に半透明の角質柱が形成され,強い疼痛を訴える.

◎治療は肥厚した角質の除去,および機械的な刺激の除去の2点が最も大切である.

◎糖尿病患者では自己処置をきっかけに,二次感染を生じて皮膚壊死を起こすことがあるので注意する.

老人性乾皮症

著者: 山本明美 ,   井川哲子

ページ範囲:P.922 - P.925

ポイント

◎老人性乾皮症とは,高齢者によくある,下腿伸側などの皮膚が乾燥し,かさかさする状態のことである.

◎悪化すると痒みを伴い,湿疹化する.

◎皮膚を乾燥させないための生活指導と外用療法を行う.

◎2週間程度上記を行っても改善しない場合は診断が間違っている可能性があるので,皮膚科専門医に紹介する.

アトピー性皮膚炎

著者: 佐伯秀久

ページ範囲:P.926 - P.930

ポイント

◎診断基準は①掻痒,②特徴的皮疹と分布,③慢性・反復性経過の3項目である.

◎治療の基本は①原因・悪化因子の検索と対策,②スキンケア,③薬物療法の3つである.

◎鑑別として接触皮膚炎,疥癬,皮膚リンパ腫,膠原病などを除外する必要がある.

◎1カ月程度治療しても皮疹の改善が得られない場合は,専門の医師への紹介を考慮する.

連載 顔を見て気づく内科疾患・17

「熱の花」:口唇ヘルペス

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.769 - P.769

症 例:30歳男性

病 歴:生来健康で著患なし.来院2日前より倦怠感・発熱がある.発熱はその後軽快したが,来院前日より咽頭痛が持続するため来院した.

そのカルテ,大丈夫ですか?誤解を避ける記載術・5

―「訂正は慎重に」②―加筆と改ざんは紙一重

著者: 神田知江美

ページ範囲:P.771 - P.771

◎加筆と訂正

 前回,「事実を正しく認定してもらう」ために「訂正は慎重に」行う必要があることを説明しました.

 では,「加筆」はどうでしょう.皆さんの中には,「加筆は訂正ではない」と気軽に考えている方もいるのではないでしょうか.特に,診療中何らかの問題が起こった際には,カルテなどを見直して,足らないと思われる部分は補足をし,体裁を整えたくなると思います.よくみかけるのは,バイタル,検査値,画像所見の書き込みなど,「患者をきちんと診ていたよ」というアピールのための加筆です.しかし,そのような加筆は,後日第三者がみると,かえってうしろめたさが強調され逆効果です.さらに,加筆内容や加筆時期によっては「改ざん」と言われかねません.また,診療経過中に不明な部分がある場合,それを「推測」で埋めようとするのは危険です.もしも,それがほかの事実と矛盾していたりすると,「改ざん」を疑われ,カルテ全体の信用性が低下します.そうすると,裁判官の心証が悪くなり,結果的に敗訴へつながります.

目でみるトレーニング

著者: 板本智恵子 ,   井上賀元 ,   稲葉芳絵

ページ範囲:P.936 - P.941

失敗例から学ぶプレゼンテーション患者説明から学会発表まで・1【新連載】

時間泥棒の汚名を着せられる―プレゼンの戦略

著者: 八幡紕芦史 ,   植田育子 ,   田中雅美 ,   竹本文美

ページ範囲:P.942 - P.945

しどろもどろのプレゼン

 例えば,あなたは総合内科の後期研修医だとしよう.毎週行われる早朝勉強会で,新しく改訂された糖尿病治療ガイドラインについてプレゼンすることになった.

 勉強会までにはまだ時間があるし,そんなに難しくないテーマだから,前日の夜に準備すればいいと思った.

魁!! 診断塾・2

真実は骨盤のなかに…!?の巻

著者: 佐田竜一 ,   志水太郎 ,   忽那賢志 ,   綿貫聡 ,   石金正裕

ページ範囲:P.946 - P.951

31歳日本人女性が,発熱と意識障害を主訴に搬送された.来院4日前に悪寒と感冒症状,3日前に嘔気,2日前に38℃の発熱を認めたため近医を受診し,感冒の診断となった.来院前日に,自分自身がおかしいという感じがあったが,15~17時まで友人と外出した.その後,18時に帰宅したが外出中の記憶を失っており,夕食中に突然涙が出てきた.さらに夜になって「私は誰?」「私は宇宙人になります!」と支離滅裂な発言を繰り返し始めた.支離滅裂な発言の頻度が増え,痙攣(強直性痙攣,持続時間は3分)も認め,異常行動(母親を窒息させるほど抱きしめる)もあったので救急要請し,当院に救急搬送となった.

患者さんは人生の先生・5

真の責任感

著者: 出雲博子

ページ範囲:P.953 - P.953

 この患者さんは内科医であった。最近、聖路加国際病院で亡くなられたので、多くの方は誰であるかわかるかもしれない。けれども、彼のすばらしい生き方とそこから学んだことをできるだけ多くの医師に伝えたいと思う。

 彼は25年位前に日本の医学部を卒業してしばらく働いたのち、米国に渡り、研修を受けて米国の免許を取得し、プライマリケア医として開業していた。しかし、2013年の春頃、クリニックをたたんで妻子とともに帰国し、聖路加国際病院の一般内科医長として、外来を担当しながら研修医の指導にあたっていた。私も米国で臨床研修を受けた経験があったので、そんな大変な苦労をして開業までしたのに、どうして50歳になって帰国したのだろうと思っていた。ある日、食堂で一緒になったので尋ねてみると、ハンサムな顔が穏やかに微笑んで「もう、十分やったので」と答えた。「病院勤務ならまだしも、日本人でありながらプライマリケアで開業って大変だったでしょう?」と私が尋ねると、「はい、大変でした。最初はジャップドクターなんかに診てもらいたくないと、ちっとも患者が来ませんでした」と答えた。「それでも、よく何年も頑張ったわねえ」と私。「はい、じーっとがんばっているうちに、だんだん患者さんが増えてきて、帰国する少し前には、近所の消防署から『地域で最も嫌がらずに患者さんを受けてくれる医者』として表彰されました」と話してくれた。私は、彼こそ本当の民間外交官だ、こういう一人ひとりの地道な努力が外国人同士の信頼を育み、国と国とのよい関係を築くのだと思った。

Step up腹痛診察・9

48歳男性,右下腹部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.954 - P.957

[現病歴]来院2日前に右下腹部の張りを自覚した.張りはあるものの食事は問題なくでき,スポーツジムで運動もできた.来院前日,午後8時頃に夕食を摂取した.午後9時頃から右下腹部の膨満感に加えて,差し込むような痛みが出現した.疼痛は持続性で波はなかった.徐々に増悪するため翌日外来を受診した.嘔気,嘔吐,悪寒,発熱,下痢,便秘,血尿はなかった.痛みの増悪因子,寛解因子は明らかでなかった.痛みの放散はなかった.痛みは徐々に増悪し,来院時の疼痛はNRS(Numeric Rating Scale)で7/10だった.

[既往歴]尿管結石(8年前,自然排石)

[常用薬]なし

[社会歴]喫煙:しない.飲酒:ビール350mL/日,週2日

西方見聞録・5

五線譜も科学も同じこと

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.958 - P.959

Article

 「論文を書けない科学者と楽譜を書けない音楽家の共通点は?」

 大学院時代の「academic writing」の授業での問答です.

 「…質問を変えます.article(論文)の語源を知っている人は? どちらかがわかれば,どちらもわかるのだが」と教授.

 誰も答えられないまま,時が過ぎていきます.

REVIEW & PREVIEW

Acute Kidney Injuryとは何か?―病態と治療

著者: 瀧康洋 ,   河原崎宏雄

ページ範囲:P.960 - P.963

最近の動向

AKI定義の歴史

 以前より,短期間で腎機能障害が進行する病態は急性腎不全(acute renal failure:ARF)として知られていた.腎臓内科はもちろん,ICU領域,循環器領域,外科領域で急性の腎機能障害は問題となることが多いが,報告によってARFの定義は施設間で異なるため,予後や病態などの比較が困難で解釈が難しかった.しかし,急速に進行する腎機能障害は現在の検査で認識されるより早期に〔わずかに血清クレアチニン(Cr)値が上昇する時期,またはそれ以前より〕存在し,腎予後だけではなく,生命予後に関わっていることがわかってきた.

 これを踏まえ,早期の評価と診断,治療介入することの重要性が認識されるようになり,2004年にThe Acute Dialysis Quality Initiative(ADQI)より,初めて急性腎障害(acute kidney injury:AKI)が定義され,RIFLE分類が作成された.この後にAcute Kidney Injury Network(AKIN)分類が示され,2012年に国際的腎臓病ガイドライン機構(Kidney Disease Improving Global Outcomes:KDIGO)の最新の診療ガイドラインが発表された1).これはRIFLE分類とAKIN分類を合わせた形の分類となっており,より広くAKIを拾い上げることを目的としている.残念ながら,治療などに関してはまだまだ知見が欲されるが,AKIはこの一定した概念ができて飛躍的に研究が進んでおり,これからもさらなる発展が期待される分野である.

書評

―相川直樹 監修 堀 進悟,藤島清太郎 編―救急レジデントマニュアル―第5版

著者: 林寛之

ページ範囲:P.819 - P.819

 既に20年! も研修医や実地医家に愛され続けられたのには訳がある.今の研修医が生まれる前からあったんだよね(ウソ).5年ごとの改訂でついに20年.常に最新の内容に改編し続けた執筆陣のご苦労は並々ならぬものであっただろう.

 昔の当直は行き当たりばったりで目の前の患者が来たら先輩医師の見よう見まねで患者さんを診察するという徒弟制度でしか学べなかった.つまり「救急なんて誰でもできるさ(……多分)」と強がりつつ,実はきちんとしたマニュアルがなく,常に当直はビクビクもので,「一晩乗り切れさえすればいい」と考える浅~い『なんちゃって救急』の時代だった.そこできちんとした型を教え,かつ現場で使えるように,広範囲の知識をギュウギュウ詰めにして登場したのが本書であった.私も同僚もみんな白衣のポケットに入れていました.本書は治療まで細かく言及して,かつ広範囲のエッセンスをアップデートしつつ盛り込んでいたので,専門外でもなんとか急場をしのがないといけない当直医にとってはそれはもう重宝した.

―宮岡 等・内山登紀夫 著―大人の発達障害ってそういうことだったのか

著者: 広沢正孝

ページ範囲:P.831 - P.831

 近年,成人の精神科医療の現場では,発達障害をもつ患者に出会う機会が多い.そればかりではない.大学のキャンパスや職場においても,発達障害者と思われる人たちへの対応に苦慮しているスタッフの声をよく聞く.主に成人を対象としてきた一般の精神科医も,もはや発達障害の概念なしに診療を行うことが困難になってきているのであろう.本書の著者の一人である宮岡等氏は,この状況を幕末の「黒船来航」に例えている.それほどまでに,(成人の)精神科医にとって発達障害は忽然と現れ,対応を迫られても,その具体的なイメージが浮かびにくい対象なのかもしれない.

 本書は,発達障害に戸惑いを覚えている精神科医や医療関係者の立たされた状況をくんで編集されたものである.どうしても発達障害に対して不安や苦手意識をぬぐいきれない精神科医(医療関係者)には,どのように「黒船」に対する自身の臨床のスタンスを構築し直せばよいのかといった,そもそもの視点を教えてくれる.この点が,既存の「大人の発達障害」をめぐる書籍や雑誌との大きな相違であるといえよう.

―伊藤 浩 編―β遮断薬を臨床で活かす!―エキスパートからのキーメッセージ50

著者: 前村浩二

ページ範囲:P.849 - P.849

β遮断薬の真価がわかる一冊

 β遮断薬は古くて新しい薬である.私が医者を始めた頃,降圧薬は利尿薬とβ遮断薬が主流であった.β遮断薬はISA(内因性交感神経刺激作用)の有無,MSA(膜安定化作用)の有無,β1選択性,効果の持続時間などで細かく分類されていた.そして,患者にとって適切なβ遮断薬を使いこなすことが,医者の腕の見せどころという風潮にあった.その後長時間作用型のカルシウム拮抗薬,ACE阻害薬,ARBが次々に開発され,またβ遮断薬との比較で,ACE阻害薬またはARBの優位性を示す大規模臨床試験の報告が相次いだ.そして2014年の日本の高血圧治療ガイドラインJSH2014では,特に合併症のない患者への降圧薬の第一選択薬からは外れるようである.

 しかしこれをもって,β遮断薬に対する評価が下がったわけではなく,虚血性心疾患や心不全合併,頻脈傾向の高血圧患者には依然,主要降圧薬として推奨されている.また心不全や虚血性心疾患,頻脈性不整脈などの心疾患では,症状の改善のみでなく,その予後を著明に改善する確固たるエビデンスがあり,β遮断薬の評価はますます高まっている.

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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