icon fsr

文献詳細

雑誌文献

medicina51巻8号

2014年08月発行

文献概要

連載 患者さんは人生の先生・8

処方した薬と服用した薬

著者: 出雲博子1

所属機関: 1聖路加国際病院内分泌代謝科

ページ範囲:P.1541 - P.1541

文献購入ページに移動
 59歳の会社社長が、十数年前から他院で糖尿病を治療されていたが、血糖の改善が思うようにいかず私の外来を受診してきた。「初めは大学病院、その後は糖尿病専門クリニックにかかっていろいろ飲み薬を処方されているのだが、HbA1cが改善しないからと、受診するたびに薬を増やされる。しかしちっとも改善しないので医者を変えてみようと思った」という。患者のHbA1cは9.7%で確かにコントロールは良くなかった。処方されている薬をみると、インスリン分泌刺激薬であるグリメピリド極量と、小腸での2糖類の分解を抑制して糖の吸収を遅らせるボグリボース、主に肝臓でのインスリン感受性を改善するメトホルミン、主に脂肪や筋肉でのインスリン感受性を改善するピオグリタゾンがあった。

 私も初めは、こんなに薬が出されているのにHbA1cが高いままということは、インスリン分泌が枯渇して、外からインスリンを与えなければならなくなっているのかなと思った。しかし、そう判断する前に「4種類の薬は違った働き方で血糖を下げるのですが、全部飲んでいましたか」と確かめてみると、患者さんは「実は、糖尿病という一つの病気のためにどうして3、4種類も薬を飲まなければならないのかわからないし、薬の飲みすぎは良くないと思い、全部は飲まないで引き出しに薬がたくさんたまっています」と答えた。そこで、患者さんに各薬剤の作用機序を説明し、併用の意味について話すと、驚きつつも、薬を併用することに納得された。そして、インスリン注射が必要かどうか判断する前に、これらの薬を全部飲んでみてもらうことにした。ひと月後、患者さんのHbA1cは8%台、2カ月後には7.4%まで改善していた。患者さんは、各薬剤の働き方の違いがきちんとわかったので全部飲んでいたという。私は処方を新たに追加したわけではなかった。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?