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雑誌目次

雑誌文献

medicina52巻10号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 内科プライマリケアのための消化器診療Update

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1655 - P.1655

 古くから臓器系統別診療が主流であったわが国の内科診療のなかで,特に消化器はその傾向が顕著でした.消化器臓器は数が多くそれぞれ機能も異なり,病態が炎症,腫瘍,形態異常,運動機能障害,免疫異常,代謝異常など様々で,診断法も検体検査,画像検査,機能検査と多岐にわたり,治療法も内科的治療,外科的手術だけでなくその中間の低侵襲治療などにわたるため,消化器を診るだけでも骨が折れるのに,他まで気にしていられないという切実な問題もありました.
 最近は総合内科的なとらえ方で,患者全体の問題解決を図る手法に回帰しつつあります.これには類を見ない高齢化の影響が少なくありません.現在の患者の中心は高齢者,それも後期高齢者が占める割合が急増しています.一昔前だったら胃の腫瘍を診断して内視鏡で切除したり,抗ウイルス薬で肝炎ウイルスを排除したりすれば,よいアウトカムが期待できました.大腸がん検診でがんが見つかれば患者にとって意味のある成果と言えました.今はそうは行きません.高齢者は併存症があるのが当たり前,数種類の薬剤を服用し,生命予後もQOLも限定的ということもよくあります.消化器の病変・病態を治癒させることが患者アウトカムを改善するという保証はありません.患者に良かれと思って行った治療介入が,逆に健康寿命を短縮させる恐れすらあります.総合内科的な視点で患者をよく診て,患者の利益が期待できるような消化器診療をしなければならないわけです.

特集の理解を深めるための29題

ページ範囲:P.1803 - P.1807

座談会

消化器診療の賢い選択—Choosing Wisely in Gastroenterology

著者: 上野文昭 ,   徳田安春 ,   小林健二

ページ範囲:P.1656 - P.1664

 今,世界中で「無駄な医療をなくそう」「正しい,必要な医療だけを行おう」という“Choosing Wisely campaign”が行われています.私たち医師にとっては医療費節減が主目的ではなく,患者さんに良い医療を効率よく提供しようという意味だと考えています.
 本日は「消化器診療の賢い選択」というテーマで,現在行われている消化器の診療が,本当に賢く選択されているかどうかということを検証しながら,先生方にお話を伺いたいと思います.

食道・胃・十二指腸疾患

胃食道逆流症(GERD)

著者: 春間賢 ,   眞部紀明 ,   末廣満彦

ページ範囲:P.1666 - P.1669

ポイント
●GERD(胃食道逆流症)の診断にあたっては,十分な問診とともに上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎のグレード分類を行い,他の器質的疾患を除外する.
●治療では生活習慣の改善とともに,PPI(プロトンポンプ阻害薬)の投与を行う.

急性胃炎・急性胃粘膜病変

著者: 洲崎文男

ページ範囲:P.1670 - P.1672

ポイント
●急性胃炎/胃粘膜病変は慢性胃炎や慢性潰瘍とは異なる病態で,急激に発症し,急性の経過をたどる.
●病因は薬剤性や種々のストレスのほか,Helicobacter pylori急性感染,酸・アルカリ・アルコールによる直接傷害,アニサキス症など多彩である.
●治療は酸分泌抑制薬を基本として,病状に応じて抗コリン薬や粘膜保護薬を併用する.

消化性潰瘍

著者: 梅垣英次 ,   東健

ページ範囲:P.1673 - P.1677

ポイント
H. pylori除菌後も胃癌などの発症リスクが続くため,上部消化管検査は必要である.
H. pylor除菌治療によらない消化性潰瘍の初期治療では,酸分泌抑制能に優れているPPIの投与が望ましい.
H. pylor陰性潰瘍や除菌不成功潰瘍,吻合部潰瘍において,維持療法は治癒後の再発抑制に有効である.
●NSAIDs服用により,消化性潰瘍や上部消化管出血のリスクは明らかに高まる.

H. pylori感染症

著者: 佐藤祐一

ページ範囲:P.1678 - P.1680

ポイント
H. pylori感染症は胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がんなど,さまざまな上部消化管疾患の原因である.
H. pylori感染を診断するには,尿素呼気試験や便中抗原測定が有用である.
●従来の一次除菌,二次除菌では,5〜10%の患者は除菌できない.
●P-CABを使用した除菌治療により,今後の除菌率向上が期待されている.

機能性ディスペプシア

著者: 山脇博士 ,   二神生爾 ,   岩切勝彦

ページ範囲:P.1682 - P.1687

ポイント
●機能性ディスペプシア(FD)の病態は胃酸分泌や消化管運動機能異常以外に,感染症や心理的因子が関連しているため,消化器症状以外の他症状や患者背景まで考慮する必要がある.
●FDは食後愁訴症候群と心窩部痛症候群に分類され,消化管運動賦活薬,酸分泌抑制薬を用いることが多い.

上部消化管出血(静脈瘤以外)

著者: 出口隆造 ,   白石光一 ,   峯徹哉

ページ範囲:P.1688 - P.1690

ポイント
●上部消化管出血の原因,救急で行うべき検査や処置,消化器専門医に伝えるべき情報が本稿のポイントである.

上部消化管出血(静脈瘤性出血)

著者: 今枝博之

ページ範囲:P.1691 - P.1694

ポイント
●静脈瘤性出血の原因疾患として肝硬変症が最も多いが,特発性門脈圧亢進症,肝外門脈閉塞症,Budd-Chiari症候群などもある.
●問診や身体診察で肝硬変症の合併をチェックする.
●食道静脈瘤出血に対して主に内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を施行する.
●胃穹窿部の静脈瘤出血に対しては主にシアノアクリレート系薬剤注入法を施行する.

胃がん

著者: 船越信介 ,   酒井元

ページ範囲:P.1696 - P.1698

ポイント
●本邦の胃癌の年齢調整罹患率,年齢調整死亡率とも減少傾向にあるが,部位別癌罹患数,死亡数とも上位にある.
●胃癌の原因の1つはHelicobacter pylori感染であり,除菌により胃癌発生が予防できる可能性がある.
●切除不能進行・再発胃癌の治療開始前にHER2(human EGFR-related 2,ヒトEGFR関連物質2)検査を必ず行うことが大切である.
●HER2陰性胃癌とHER2陽性胃癌を区別し,治療を選択していく.
●HER2陽性胃癌の一次治療には化学療法+トラスツズマブを考慮すべきである.

小腸・大腸疾患

急性下痢症

著者: 小林健二

ページ範囲:P.1700 - P.1702

ポイント
●急性下痢症の大半は感染性であり,多くは自然治癒するため培養検査や抗菌薬の投与は不要である.
●免疫不全患者,重症例,血性下痢を伴う症例,炎症性腸疾患患者,食品取り扱い従事者などでは便培養検査を行う.
●中等度以上の旅行者下痢症,発熱や血性下痢のある患者,下痢の回数が1日8回以上,脱水を伴う場合,1週間以上症状が持続している場合,入院加療を考慮している場合,免疫不全状態にある患者などでは抗菌薬による治療を考慮する.

慢性便秘症

著者: 加藤順

ページ範囲:P.1704 - P.1707

ポイント
●いわゆる便秘とは機能性便秘を指し,症候性,薬剤性,器質性便秘を除外診断する.
●酸化マグネシウムやルビプロストンを第一選択薬として使用する.
●センナ,大黄系の刺激性下剤は習慣性,耐性が生じるため,漫然と長期投与すべきではない.

過敏性腸症候群

著者: 千葉俊美

ページ範囲:P.1708 - P.1713

ポイント
●過敏性腸症候群(IBS)はRomeⅢ診断基準に基づいて診断し,問診による病歴の聴取が診断手順で最も重要である.
●アラームサインに注意し,器質的疾患との鑑別を行い,腹部症状などから他の機能性腸障害と鑑別する.
●IBSの治療目標は,主症状に関する患者自身の訴えの改善であり,良好な患者・医師関係を確立することが重要であり,予後に影響を及ぼす.
●治療段階は消化管主体の治療である第1段階から,中枢神経機能の調整を含む第2段階,心身医学領域の治療を行う第3段階まで分けられている.

潰瘍性大腸炎

著者: 小林拓 ,   中野雅 ,   日比紀文

ページ範囲:P.1714 - P.1716

ポイント
●潰瘍性大腸炎は,若年者に多く発症する,原因不明,慢性難治性の炎症性腸疾患である.
●持続性または反復性の粘血便・血便が主症状である.
●直腸から口側に連続性に分布するが,罹患範囲,重症度はさまざまである.
●確定診断には内視鏡が有用であるが,除外診断が必要である.
●最も基本的な治療は5-アミノサリチル酸製剤の内服薬であるが,効果が不十分な場合も多い.

Crohn病

著者: 長堀正和

ページ範囲:P.1718 - P.1721

ポイント
●Crohn病の初期の症状は多彩であり,いわゆる「典型例」ばかりではない.
●Crohn病の診断は画像検査などの形態学的所見に依存するため,診断に迷った場合は躊躇することなく専門医に紹介する.
●Crohn病治療の進歩は著しく,治療目標に対する考え方は10年前とはまったく変わってきている.したがって,症状が乏しいからといって漫然と治療を継続することなく,病変部位などに応じた,適切な画像検査による評価が必要である.

大腸憩室症

著者: 水城啓 ,   永田博司

ページ範囲:P.1722 - P.1726

ポイント
●近年,食生活の欧米化や,高齢化社会を迎え大腸憩室症が増加している.大腸憩室症は合併症である憩室炎や憩室出血がなければ積極的な治療は必要ない.
●憩室炎では,内腔の閉塞ではなく粘膜のびらんから局所壊死を伴い,microperforationをきたすことにより発症する.
●軽症から中等症の憩室炎は,全身状態が良く重篤な併存疾患がない場合には,経口抗菌薬による外来治療が可能である.
●憩室出血は下部消化管出血の原因として最も頻度が高い.
●低用量アスピリンを含むNSAIDsは憩室出血のリスクを増加させるため,憩室症の症例への投与にあたり十分な注意が必要である.

薬剤性小腸傷害

著者: 金子剛 ,   溝上裕士

ページ範囲:P.1727 - P.1729

ポイント
●近年,カプセル内視鏡・バルーン内視鏡の開発によって小腸領域の検査が可能となった.
●NSAIDsは,胃や十二指腸ばかりでなく小腸においても潰瘍性病変をきたす可能性がある.
●原因不明の消化管出血や貧血を呈する患者には,十分な問診のうえ,本疾患を疑う場合は積極的にカプセル内視鏡を施行する.

急性虫垂炎

著者: 吉田篤史 ,   森實敏夫 ,   上野文昭

ページ範囲:P.1730 - P.1733

ポイント
●急性虫垂炎はプライマリケア医がよく遭遇する疾患であるが,診断の遅れや誤診で患者に不利益をもたらすことも多い.
●見逃しを少なくする方法として,急性虫垂炎のpredictive value(的中率)すなわち事後確率を上げるために尤度比の高い病歴や身体所見を行う.
●CTやエコーなどの画像検査に移行する前に,病歴や身体所見を総合的に判断して,pretest provability(検査前確率)を高めなければいけない.

大腸がん

著者: 荒川敬一 ,   川合一茂 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1736 - P.1739

ポイント
●大腸癌では初期には無症状のことが多いが,進行すると下血・血便や便通異常を生じる.
●大腸癌の診断では,大腸内視鏡により腫瘍を観察するとともに生検を行い,確定診断を行う.
●大腸癌の治療は,内視鏡的局所切除か系統的リンパ節切除を伴う手術治療を行う.

肝疾患

急性ウイルス肝炎

著者: 柴田実

ページ範囲:P.1740 - P.1742

ポイント
●急性ウイルス肝炎の原因にはA型,B型,C型,D型,E型の5種類の肝炎ウイルスがある.
●原因で一番多いのはA型,次いでB型肝炎ウイルスである.
●B型,C型,D型急性肝炎は慢性化することがある.
●重症型急性肝炎は劇症肝炎に移行するリスクがある.

B型慢性肝炎

著者: 山田典栄 ,   四柳宏

ページ範囲:P.1743 - P.1747

ポイント
●B型慢性肝炎の長期治療目標はHBs抗原の消失である.
●Peg-IFNは期間限定の治療あり,長期的にはHBs抗原陰性化が期待できる.
●核酸アナログ製剤の第一選択薬はエンテカビル(ETV)またはテノホビル(TDF)である.
●HBV再活性化防止のため,免疫抑制・化学療法施行前のスクリーニング検査が必要である.
●B型肝炎ワクチンの定期接種化が決定し,準備が進められている.

慢性C型肝炎

著者: 平石哲也 ,   奥瀬千晃

ページ範囲:P.1748 - P.1751

ポイント
●C型慢性肝炎は,C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染により肝細胞の破壊と再生を繰り返しながら肝硬変に進展し,最終的には肝細胞癌を発症する.
●感染対策により新規発症は減少傾向にあるが,いまだ肝癌死亡は年間約3万人であり,その約70%はHCV持続感染に起因する.
●2014年より,インターフェロン(IFN)を使用しないdirect acting antivirals(DAAs)治療が導入され,今後もさまざまなレジメンが使用可能となり,高い治療効果が期待されている.

自己免疫性肝炎

著者: 海老沼浩利

ページ範囲:P.1752 - P.1756

ポイント
●自己免疫性肝炎は何らかの自己免疫機序がその発症に想定されている原因不明の肝炎である.
●抗核抗体陽性,血清IgG高値,interface hepatitis・形質細胞浸潤といった肝組織像が特徴的であるが,他の原因による肝疾患の否定が重要である.
●治療には,その重症度に合わせた量のステロイドを投与し,トランスアミナーゼ値の改善をみながら適宜漸減する.
●自己免疫性肝炎のなかには,急性肝炎あるいは急性増悪として発症し,治療開始が遅れると重症肝炎,急性肝不全に移行する症例が存在する.

アルコール性肝障害

著者: 森實敏夫

ページ範囲:P.1758 - P.1761

ポイント
●アルコール性肝障害は過剰飲酒により引き起こされる肝障害で,アルコール性脂肪肝,アルコール性線維症,アルコール性肝硬変,アルコール性肝炎の病型がある.
●禁酒が最も重要な治療であるが,アルコール依存症の場合は精神科との連携が望ましい.
●アルコール性肝炎は重症度判定を行い,特に重症の場合は,専門医へ依頼する.
●重症アルコール性肝炎に対しては,入院のうえステロイドによる治療が行われる.

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

著者: 本多靖 ,   今城健人 ,   斉藤聡 ,   中島淳

ページ範囲:P.1762 - P.1765

ポイント
●NAFLDはメタボリックシンドロームの肝臓における表現型である.
●NAFLDは肝硬変,肝細胞癌,脳・心血管疾患のリスクである.
●NAFLDの発症には,インスリン抵抗性が重要である.
●NAFLDの基本治療は減量だが,合併症を意識した治療も重要である.

非代償性肝硬変

著者: 奥脇裕介 ,   渋谷明隆

ページ範囲:P.1767 - P.1769

ポイント
●腹水,肝性脳症,黄疸,消化管出血などの肝不全症状をきたした状態を非代償性肝硬変と呼ぶ.
●早期発見,早期治療とその予防が重要であり,そのためには非代償性肝硬変の症候の特徴をよく理解することが肝要である.

肝細胞癌

著者: 平野克治 ,   市田隆文

ページ範囲:P.1770 - P.1777

ポイント
●肝細胞癌は,ウイルス性肝炎を背景に発症するが,最近,肝炎ウイルス陰性肝癌が増加してきている.
●肝細胞癌の早期発見には,危険群に応じたサーベイランス間隔を設定し,ダイナミックCT/MRIにて確定診断を行う.
●肝細胞癌の治療は,エビデンスに基づく治療アルゴリズム2013年版に沿って,肝障害度,腫瘍数,腫瘍径によって治療法を決定する.

胆・膵疾患

胆石症・急性胆囊炎

著者: 大屋敏秀 ,   田妻進

ページ範囲:P.1778 - P.1781

ポイント
●無症状胆囊結石は経過観察でよいが,総胆管結石は無症状であっても積極的に治療する.
●胆囊結石症治療の基本は,腹腔鏡的胆囊切除術である.
●適応基準を遵守すれば,胆石溶解療法やESWLは有効である.
●急性胆囊炎は,迅速な初期治療と重症度に応じた処置が推奨される.

急性胆管炎

著者: 松浦弘尚 ,   乾和郎 ,   片野義明 ,   三好広尚 ,   山本智支

ページ範囲:P.1782 - P.1784

ポイント
●急性胆管炎を疑った場合,診断基準の臨床所見(発熱・黄疸など)をチェックする.
●診断に必要な検査として血液検査,腹部超音波を行い,できる限りCTも実施する.
●診断がつき次第,初期治療(絶食,補液,電解質補正,full doseの抗菌薬)を開始する.
●重症度判定基準を行い,中等症以上では全身管理と緊急胆管ドレナージを実施する.
●専門医不在や胆管ドレナージ不可能な場合は,専門施設への搬送を検討する.

急性膵炎

著者: 宮田直輝 ,   朴沢重成

ページ範囲:P.1785 - P.1789

ポイント
●急性膵炎と診断した場合,入院が原則となり,初期の十分な輸液,モニタリング,膵の安静が必要である.
●急性膵炎の疼痛は激しく呼吸循環動態に影響を及ぼすことがあるため,十分な鎮痛薬の投与が必要となる.
●初期には軽度であっても経時的に重症度判定を行い,重症の基準を満たせば高次医療機関への転送を躊躇せずに検討する.

慢性膵炎

著者: 川口義明

ページ範囲:P.1790 - P.1793

ポイント
●慢性膵炎とは,膵臓で作られる消化酵素が活性化されて,自分の膵臓を自己消化する膵臓の慢性炎症である.
●初期には上腹部痛や腰背部痛(代償期),進行すると消化吸収不良や糖尿病が出現する(非代償期).
●問診,一般検査(膵消化酵素値),膵内外分泌機能検査,画像検査によって総合的に診断.
●代償期は,禁酒と脂肪制限.非代償期の消化吸収不良に対しては消化酵素薬投与,糖尿病に対しては血糖コントロールを行う.
●膵石,膵管狭窄など膵液流出障害が疑われる場合には,内視鏡治療(ESWL併用)や外科的手術を考慮.

膵胆道がん

著者: 宮川宏之 ,   平山敦 ,   岡村圭也

ページ範囲:P.1794 - P.1796

ポイント
●膵胆道癌は難治の悪性疾患で増加傾向にあり,死亡順位の高い疾患である.
●USなどから拾い上げられ,確定診断にはCT,MRI(MRCP),EUS,ERCP,PETなどの検査が行われる.
●黄疸例は初期治療として胆道ドレナージ術が行われる.
●切除を含めた化学療法,放射線療法,免疫療法などの集学的治療を要する.

[特別寄稿]海外の医師が見た日本の消化器診療

〈邦訳〉日本の消化器診療に対する一考察

著者: ,   上野文昭

ページ範囲:P.1797 - P.1799

[訳文]
 日本では消化器症状の原因診断のため,あるいは胃・大腸癌のスクリーニングのために,内視鏡,X線造影,US/CT/MRIなどの画像検査が広く普及しています.ここで思い浮かぶのは,これらの検査は費用に見合った効果が得られるのか,あるいは過剰に用いられているのはないかという疑問です.これらの検査が普及していることが,症状や身体所見の臨床的評価という基本から遠ざかってしまうという不幸な傾向(私見ですが)に拍車をかけているのかもしれません:つまり検査ができるのに,何でしないのというように.
 臨床医は,検査結果が患者の治療に影響を与えるのかということを考えながら,検査のオーダーの妥当性を常に意識しなければならないと思います.ルーチン化した検査や単にガイドライン通りの検査は,患者に害を与えうる怠惰な思考を促します.詳細な病歴を取り全身の診察をするという昔からの方法は,臨床医に患者のどこが悪いのかという理にかなった考えを可能にします.そして暫定診断を確定または除外するための特定の検査の適応(これは診療録に記載されなければなりません)というものがあるのです.そうしないと消化器患者は内視鏡検査による不便,不安(時として強度の),苦痛,そしてわずかですが出血や穿孔の危険,バリウム検査やCTによる被爆,鎮静薬の副作用,内視鏡を介した感染などに不必要に晒されることになります.

〈邦訳〉消化器病学—われわれは医師なのか,内視鏡屋なのか?

著者: ,   上野文昭

ページ範囲:P.1800 - P.1802

[訳文]
 日本の消化器診療について述べることを依頼されました.私は日本で多くの時間を過ごしてきましたが,日本の消化器内科医と仕事で接触する機会が少なかったため,診療の質や消化器内科医が患者と十分話し合い診察しているかという点について評価する資格があるかどうかわかりません.けれども,関西のある一般病院を訪れたとき,頭を使う消化器内科医に驚いたと聞かされ,衝撃を受けました.日本の消化器内科医は内科全般について討論できないか,患者のすべてを診る医師としての時間を作りたがらないかであり,コンサルタントのみとして機能したがるというのが彼の印象でした.
 1970年代にColorado大学消化器内科の主任教授であったDr. Fred Kernは,消化器領域における内視鏡の将来の役割について確信をもてないでいました.「消化器研修医は,患者と話し,臨床生理学を学び,図書館で勉強して考えるといった学究的で思慮深い専門医を生むための時間を,内視鏡をはじめとした手技に費やしている…」と指摘していました.Dr. Kernらは,内視鏡の技術的な部分は医師以外にも教えることができ,そうすれば消化器内科医が問診や診察をして治療計画を練るための十分な時間を提供できると提言していました.

連載 異常所見を探せ! 救急CT読影講座・9

症状画像相関—軽微な所見を拾いにいこう!

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.1649 - P.1649

80代の男性.当日の18時より,左上下肢の動かしにくさを突然自覚したため,救急外来を受診.当直医は診察で左片麻痺,右共同偏視を認めた.頭蓋内病変の精査目的に頭部単純CTを施行(19時).

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・6

Ⅰ音,駆出音の聴きかた—僧帽弁狭窄症,大動脈二尖弁の診断に役立つ

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.1816 - P.1822

Ⅰ音,駆出音で何がわかるか?
Ⅰ音の亢進があれば,僧帽弁狭窄症(MS)を疑う.明瞭な駆出音を聴取すれば,大動脈弁・肺動脈弁の異常や大動脈・肺動脈の拡大を考える.若年者で大動脈駆出音が聴取される時は,先天性大動脈二尖弁を疑う.

魁!! 診断塾・18

かくれんぼを終わらせろ!の巻

著者: 佐田竜一 ,   綿貫聡 ,   志水太郎 ,   石金正裕 ,   忽那賢志 ,   福島一彰

ページ範囲:P.1823 - P.1829

81歳の男性.当院を受診する2カ月前,発熱と呼吸困難を主訴に前医を受診したところ,肺炎と診断された.セフカペンピボキシルが処方されたものの,症状が持続したため,前医へ入院となった.入院後,抗菌薬はセフトリアキソンへ変更された.治療開始から2週間を経ても症状は改善しなかったが,増悪もしなかったため,在宅酸素療法(安静時3L/分)を導入し,退院となった.その後,自覚症状は自然経過で改善したため,在宅酸素療法は家族の判断で中止した.
しかし,来院6日前より再度37℃台の微熱,咳嗽,呼吸困難が出現した.4日前に前医を受診しファロペネムが処方されたが,症状の改善はなかった.来院当日に前医を再診したところ,呼吸困難とSpO2の低下(室内気で77%)を認めたため,当院へ救急搬送された.

目でみるトレーニング

問題778・779・780

著者: 寺田修三 ,   白野倫徳 ,   添田聖子

ページ範囲:P.1830 - P.1836

総合診療のプラクティス 患者の声に耳を傾ける・14

患者が自ら語らない症候を引き出す

著者: 山崎海成 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.1838 - P.1841

 医療面接では,しばしば患者は自分が最も気になることのみを話し,それに付随,あるいは同時期に起こったことでも,「関連性がないだろう」と判断すれば,語らないことがあります.そうした語られない所見を患者から引き出すきっかけとなるのが,システムレビューや丹念な身体診察です.今回は,浮腫を主訴に受診した患者で,システムレビューと局所の診察により,診断に結びついた症例を紹介します.

西方見聞録・21

An internist in ER

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.1842 - P.1843

 米国では,内科レジデントも1カ月,救急室(ER)をローテートします.私も昨年7月と今年1月に,2週間ごとローテートしました.昨年度,25床程度のERを3つ有する当院はマンハッタンで最も多くの救急患者を受け入れていたそうで,なかなかに忙しい勤務でした.
 さて,日本の内科医が覗いた米国のERとは….

あたらしいリウマチ・膠原病診療の話・6

遷延する発熱:リウマチ科的みかた—pearls and pitfalls

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.1844 - P.1849

 発熱・不明熱の診療は,筆者にとって,依然として難しい.「遷延する発熱」の多くは,年齢・性別・陥りやすいpitfallを考慮して,ある程度の幅をもたせた「鑑別診断の網」で捕捉できる.しかし,どうしてもわからないときには,何かのきっかけが必要となる.足をすくわれたことも何度もある.
 以下の総説は,リウマチ科的な見地から,「なるべく足をすくわれないように」発熱・不明熱診療を進めるためにはどのようにすればよいのかについての「基本的な覚え書き」である.原理原則とは言い難いものの,診断への近道や注意点として挙げられる部分をpearls and pitfallsとしてまとめた*1

書評

—崎山 弘,本田雅敬 編—帰してはいけない小児外来患者

著者: 市川光太郎

ページ範囲:P.1703 - P.1703

 長い間,小児救急医療に携わってきたが,その多くは軽症疾患であり,重篤な疾患はまれであることは間違いない.しかし,なぜか,慢心な気持ちが沸けば沸くほど,重篤な疾患に遭遇してしまう皮肉な結果を嫌というほど思い知らされてきた.そこにはピットフォールに陥りやすいわれわれ医療側の診療姿勢が見え隠れしているのだと思っている.いかにすべての患児家族に不安をもたらすことなく,的確な診断治療に直結するスキルを自分自身が養い,後輩たちに継承するかは小児救急医(臨床医)の永遠の課題と常々考えてきた.
 本書を読み,この自らの問いへ答えてくれる本に出逢ったという想いに溢れ,もっともっと救急現場に立ちたいという気持ちになった.楽しみながら仕事をするという本質的な部分を感じさせる本なのかもしれないと感じ,嬉しくなった.

—押尾晃一・百島祐貴 訳—一目瞭然! 画像でみるMRI撮像法

著者: 高原太郎

ページ範囲:P.1735 - P.1735

 放射線科医の皆さん,駆け出しの技師さん,学生さん,心よりお薦めします.
 私はいま,東海大学の工学部で,「臨床工学技師」を目指した学生さんを指導しています.臨床工学技師さんは,Medical Engineeringと呼ばれる領域,たとえば人工心肺や透析を管理してくれる職種です.病院勤務はご存じの方も多いでしょう.

—松村正巳 著—みるトレ リウマチ・膠原病

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1808 - P.1808

これだけの美しい爪と指の病変写真集はかつてない
 好評の『みるトレ』シリーズの1つ,リウマチ・膠原病編.しかし,この領域のアトラス集によくあるSLE(全身性エリテマトーデス)の蝶形紅斑などの写真集がまた出た,ということではない.この本は『リウマチ・膠原病の指と爪』というタイトルにしてもよいくらい,これでもかこれでもかというほど爪と指の所見が出てくる.しかも超高画質で高倍率.これだけの美しい爪と指の病変写真集はかつてなかった.微細な点状の病変や隆起がまるで3Dのようにみえる.
 コモンな爪や指の所見でも,これまで教科書であまり取り上げられてこなかったものも多く含まれている.試しにクイズを.下記の所見について述べよ.

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奥付

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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