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雑誌目次

雑誌文献

medicina52巻13号

2015年12月発行

雑誌目次

特集 抗血栓療法—おさえておきたい最新のエッセンス

著者: 中村真潮

ページ範囲:P.2283 - P.2283

 わが国は高齢社会の時代となり,生活習慣病の増加も手伝いアテローム血栓症や心房細動に伴う脳塞栓症,さらには静脈血栓塞栓症などのさまざまな血栓性疾患が急増している.血栓とは,本来,障害された血管を修復して出血から生体を守り,血管破綻部位からの病原微生物の侵入を防ぐために人類が獲得した生体防御機構である.これが何らかの理由により制御されないと病的な血栓が形成され,血管閉塞を生じて臓器を障害する.近年は栄養過多やライフスタイルの変化,あるいは高齢化により,この止血機構が相対的に過剰となり疾病の増加につながっている.
 病的な血栓により発症した疾患,すなわち血栓症を主に薬剤により治療や予防するのが抗血栓療法であり,抗血小板薬や抗凝固薬,血栓溶解薬が用いられる.従来,アスピリンやワルファリン,未分画ヘパリン,ウロキナーゼ等が抗血栓療法の中心だった.しかし,これらは一定の有効性を示すものの,効果が不安定であったり出血の合併症を生じやすかったりと,種々の問題点が指摘されてきた.このため,従来薬の欠点を補う新しい薬剤の開発が精力的に行われ,最近,多くの新規抗血栓薬が使用できるようになった.臨床試験の結果を見る限りその効果は明らかであり,臨床的有用性は疑いのないもののように思える.

特集の理解を深めるための29題

ページ範囲:P.2420 - P.2424

座談会

ベネフィットとリスクで考える抗血栓療法

著者: 中村真潮 ,   山下武志 ,   山本剛

ページ範囲:P.2284 - P.2291

中村 脳・心血管疾患の予防・治療として抗血栓療法の必要性が高まっています.実際,非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(non-vitamin K antagonist oral anticoagulants:NOAC)の登場により,一般の臨床医でも抗血栓療法を行う機会が増えています.その一方で,実臨床では抗血栓療法の対象として,高齢者,合併症のある患者が多く該当し,ガイドライン通りに抗血栓療法実施の可否を判断することが難しいことも現実です.本日は,抗血栓療法の現状,ベネフィット・リスクの考え方,抗凝固療法と抗血小板療法との併用,今後の課題などについて,抗血栓療法に詳しいお二人にお話をうかがいます.

抗血栓療法オーバービュー

抗血栓療法オーバービュー

著者: 中村真潮

ページ範囲:P.2292 - P.2295

ポイント
●抗血栓療法には,抗凝固療法,抗血小板療法,血栓溶解療法がある.
●抗血栓療法の主な対象疾患は,冠動脈疾患,心房細動,脳血管障害,静脈血栓塞栓症,末梢動脈疾患などである.
●特殊な状況下での抗血栓療法や,抗凝固療法と抗血小板療法の併用では,ベネフィット・リスクを十分に検討する.

血栓症の病態をみる

病理学的にみた血栓症

著者: 山下篤 ,   浅田祐士郎

ページ範囲:P.2296 - P.2299

ポイント
●動脈血栓症は主に動脈硬化巣の破綻に伴う血栓(アテローム血栓)の形成により発症する.
●アテローム血栓は血小板とともに多量のフィブリンを含み,それにはプラークに存在する組織因子(血液凝固の開始因子)が重要な役割を果たしている.
●静脈血栓の肉眼的に白色を呈する部は血小板とフィブリンに富み,赤色を呈する部は血小板とフィブリンの網状構造に赤血球が取り込まれた構築をしている.
●発症に至る静脈血栓はアテローム血栓と比べてはるかに大きく,血流のうっ滞や凝固能亢進など血栓の成長に関与する因子が重要である.

凝固・線溶系のメカニズムと血栓形成

著者: 森下英理子

ページ範囲:P.2300 - P.2304

ポイント
●凝固反応には,組織因子が引き金となり開始する外因系凝固反応と,陰性荷電物質との接触により開始する内因系凝固反応の2つの異なった経路がある.
●血栓上における線溶反応は,組織型プラスミノゲンアクチベータによってプラスミンが効率よく生成され,プラスミンはα2プラスミンインヒビターに阻害されることなく効率的にフィブリンを溶解する.
●血管内皮細胞は,血液の流動性を維持するため多岐にわたる抗血栓性作用を保持しており,その障害は血栓傾向となる.

抗血栓薬の特徴を知る

抗血栓薬 総論

著者: 窓岩清治

ページ範囲:P.2306 - P.2311

ポイント
●ヘパリン類およびフォンダパリヌクスは,アンチトロンビンに結合しその中和作用を増強させる間接型抗凝固薬である.
●ワルファリン療法は,PT-INRによる薬効モニタリングを行いながらdaily dose法により導入を行う.
●NVAF(non-valvular atrial fibrillation,非弁膜症性心房細動)患者の脳卒中の予防には,CHADS2スコアを参考にしてワルファリンやDOACs(direct oral anticoagulants,直接型経口抗凝固薬)の適応を判断する.
●非心原性脳梗塞の再発予防には,抗凝固薬よりもアスピリンなどの抗血小板薬を使用する.
●早期発症の非心原性脳梗塞やTIAに対して,アスピリンとクロピドグレルなど抗血小板薬を2剤併用する治療法の有効性が示されている.
●脳梗塞急性期においてアルテプラーゼの静脈内投与による血栓溶解療法が行われる.

抗血栓薬とモニタリング

著者: 西川政勝

ページ範囲:P.2312 - P.2316

ポイント
●抗血栓薬のモニタリングは,通常,効き過ぎによる出血イベント,および効果不十分(不応症)による虚血性イベントを予防するための最適治療を目的としている.
●抗血小板療法のモニタリングは,主として血小板凝集計で行い,効き過ぎ,至適治療域,不応症の情報をpoint-of-careとして行われているが,探索的段階である.
●ワルファリンのモニタリングについては,PT-INR/TTR(time in therapeutic range)が用いられ,臨床現場で使われている.
●新規経口抗凝固薬のモニタリングは種々のものが提案されているが,臨床的にはまだ検討段階である.

【抗凝固薬】

へパリン類,フォンダパリヌクス

著者: 小嶋哲人

ページ範囲:P.2318 - P.2321

ポイント
●ヘパリンは強力な抗凝固注射薬として汎用されているが,反面,出血性副作用が問題となる.
●ヘパリンは,アンチトロンビンを介して複数のセリンプロテアーゼ型凝固因子を不活化する間接的抗凝固薬である.
●低分子量ヘパリンは,ヘパリンの抗凝固作用の解明をもとに出血性副作用軽減を目指して開発された薬剤である.
●フォンダパリヌクスは,出血性副作用を軽減したアンチトロンビンを介した特異的Ⅹa阻害薬である.
●出血性副作用が軽減された抗凝固薬であっても出血イベント時での止血困難には注意が必要である.

ビタミンK阻害薬

著者: 和田英夫 ,   松本剛史

ページ範囲:P.2322 - P.2325

ポイント
●静脈血栓症の治療ならびにその予防には,ワルファリン療法が最も有効な治療法の1つである.
●他の抗凝固薬は活性化凝固因子を抑制するが,ワルファリンにより活性低下した凝固因子が産生される.
●ワルファリン療法のモニターにはPT-INRが有用であるが,病態に合わせて治療域を決定する必要がある.
●大出血あるいはそのリスクが高いときは,ワルファリンの減量あるいは中止を行い,必要なら凝固因子の補充を行う.

非ビタミンK阻害経口抗凝固薬—(NOAC)

著者: 篠内和也 ,   安部晴彦 ,   是恒之宏

ページ範囲:P.2326 - P.2329

ポイント
●NOACにはダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンの4種類がある.
●NOACはワルファリンと比べて脳出血の副作用が著しく少ない.
●脳梗塞の予防効果と出血の副作用減少を両立させるためには,NOACを正しい用法用量で使用することが重要である.

【抗血小板薬】

抗血小板薬(アセチルサリチル酸・ADP受容体阻害薬・シロスタゾール)の特徴

著者: 堀内久徳

ページ範囲:P.2330 - P.2334

ポイント
●抗血小板薬として頻用されるアセチルサリチル酸(アスピリン®)は,COX-1の非可逆的阻害薬であり,チエノピリジン誘導体はADP受容体P2Y12の非可逆的阻害薬である.
●アセチルサリチル酸とチエノピリジン誘導体は虚血性イベント発症を予防するが,出血性合併症の増加は避けられず,両者を考慮して適応症例を選択すべきである.
●シロスタゾールはPDE3阻害薬であり,血管拡張作用および抗血小板作用をもつ.

【血栓溶解薬】

ウロキナーゼ,組織プラスミノーゲン活性化因子

著者: 浦野哲盟

ページ範囲:P.2336 - P.2339

ポイント
●血栓溶解療法にはプラスミノーゲンアクチベータが使用される.
●血栓溶解療法時の出血にはさまざまな要因がかかわる.
●凝固・線溶因子の変動をマーカーとして,適切な投与量を考慮する姿勢も必要である.

抗血栓療法で治す 【虚血性心疾患】

急性冠症候群

著者: 中川義久

ページ範囲:P.2340 - P.2343

ポイント
●急性冠症候群(ACS)は,冠動脈のプラークが破綻し血栓が生じることで発症する.
●ST上昇型急性心筋梗塞では,一刻も早い血行再建の達成をサポートする薬剤が鍵となる.
●ACSへのPCI(percutaneous coronary intervention,経皮的冠動脈インターベンション)は,抗血小板薬が効いた状態で施行するように努め早期に投与する.
●抗血栓薬の投与は,血栓症予防と出血性合併症のバランスを考えるべきである.

冠動脈疾患の一次予防と二次予防

著者: 副島弘文 ,   小川久雄

ページ範囲:P.2344 - P.2347

ポイント
●冠動脈疾患患者における心血管イベント抑制(二次予防)において,抗血小板薬の効果は明らかである.
●数ある抗血小板薬のなかでも,アスピリンには心血管イベント抑制効果に関して豊富なエビデンスがある.
●冠動脈疾患のない患者における心血管イベント抑制(一次予防)において,抗血小板薬の効果は明らかとはいえない.
●アスピリンは糖尿病患者で追加のリスクのある患者に対する心血管イベント一次予防として投与が推奨されている.

【不整脈】

非弁膜症性心房細動

著者: 有田卓人 ,   山下武志

ページ範囲:P.2348 - P.2351

ポイント
●新規に抗凝固薬を導入する場合,NOACを最大限考慮する.
●ワルファリンは「オーダーメイド」,NOACは「既製品から選ぶ」薬である.
●各抗凝固薬の選択には,エビデンスから一定の傾向があるものの,患者の価値観が重要である.
●特にリスクが高い患者において,常に治療域(効いているか)および安全性(効き過ぎていないか)を意識する.

【弁膜疾患】

人工弁置換術後,心臓弁膜症

著者: 藤田知之 ,   小林順二郎

ページ範囲:P.2352 - P.2355

ポイント
●弁置換術後早期は血栓塞栓が特に発生しやすい.
●機械弁を用いた弁置換術後はワルファリンを目標INR2.0〜3.0で投与するべき.
●リスクの低い大動脈弁置換術後では目標INRを2.0〜2.5に下げてもよい.
●ワルファリンに加えて,アスピリンの併用は血栓のリスクの高い患者に行う.
●生体弁や弁形成術後でも術後約3カ月はワルファリンを投与すべきである.
●弁置換術後,僧帽弁狭窄症ともにNOAC(新規経口抗凝固薬)の投与は推奨されない.

【脳血管疾患】

脳血管障害に対する抗血栓療法

著者: 友田昌徳 ,   桑城貴弘 ,   矢坂正弘

ページ範囲:P.2356 - P.2358

ポイント
●再発予防には心原性脳塞栓症では抗凝固療法を,非心原性脳梗塞では抗血小板薬を用いることが多い.
●急性期では抗血栓療法中の出血脳梗塞や消化管出血へ十分な注意を払う.
●慢性期の抗血小板薬としてクロピドグレル,シロスタゾール,およびアスピリンが勧められる.アスピリンは頭蓋内出血と消化管出血に注意を払う.
●非弁膜症性心房細動(NVAF)例では頭蓋内出血が大幅に少ない非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)がワルファリンよりも勧められる.
●脳静脈・静脈洞血栓症や奇異性脳塞栓症では,病態の改善や再発予防を目的に抗凝固療法を行う.

急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法

著者: 出口一郎 ,   棚橋紀夫

ページ範囲:P.2359 - P.2363

ポイント
●脳梗塞急性期患者に対する血栓溶解薬として認可されているrt-PA製剤はアルテプラーゼのみである.
●rt-PA静注療法は,脳梗塞発症後4.5時間以内のすべてのタイプの脳梗塞に適応がある.
●rt-PA静注療法を行う際には適正治療指針を厳守することで有効な効果が期待できる.
●脳梗塞患者全体でのrt-PA静注療法の実施率は低く,施行頻度の増加には脳卒中啓発や医療機関のrt-PA静注療法実施体制の構築が急務である.

【静脈血栓塞栓症】

静脈血栓塞栓症の一次予防

著者: 藤田悟

ページ範囲:P.2364 - P.2366

ポイント
●開腹手術や下肢人工関節置換術は,25〜50%の患者に無症状の深部静脈血栓症が発生しており,その一部が有症状の肺血栓塞栓症を誘発させる.
●予防法の選択は,ガイドラインを参考にしつつ個々の患者の静脈血栓塞栓症と出血のリスクを十分評価したうえで行う.
●周術期の一次予防に使用できる抗凝固薬は,未分画ヘパリン,ワルファリン,フォンダパリヌクス,エノキサパリン,エドキサバンの5剤である.
●アスピリンは,静脈血栓塞栓症に対する保険適用はない.

静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法による治療

著者: 中村真潮

ページ範囲:P.2368 - P.2371

ポイント
●肺塞栓症と深部静脈血栓症は一つの連続した病態であり,両者を合わせて静脈血栓塞栓症と称する.
●静脈血栓塞栓症治療の第一選択は抗凝固療法であり,初期治療には従来,非経口薬が使用されてきた.
●ワルファリンによる長期治療では少なくとも3カ月間投与し,リスクによってはより長期間にわたって投与する.
●非ビタミンK阻害経口抗凝固薬は,静脈血栓塞栓症の治療で従来薬よりも出血リスクの少ない薬剤として期待される.

静脈血栓塞栓症に対する血栓溶解療法

著者: 丹羽明博

ページ範囲:P.2372 - P.2375

ポイント
●血行動態が不安定な急性肺血栓塞栓症例には血栓溶解療法を積極的に行う.
●合併症低減と通常量と同等の有効性を目指し,低用量の血栓溶解療法が議論されている.
●血栓溶解療法により急性肺血栓塞栓症例の自覚症状は速やかに改善する.

【末梢動脈疾患】

末梢血管疾患(PAD)の薬物療法

著者: 古森公浩

ページ範囲:P.2376 - P.2379

ポイント
●PAD患者では心疾患,脳血管障害を合併している場合も多く,薬剤選択に際しては生命予後改善効果も考慮すべきである.
●間欠性跛行に対してはシロスタゾールが唯一,跛行距離改善のエビデンスが示されている薬剤であるが,監視下運動療法の併用が必要である.
●重症虚血肢(critical limb ischemia:CLI)の治療目標は,疼痛緩和と創傷治癒による救肢である.基本的に血行再建術(血管内治療もしくはバイパス手術)が治療の第一選択である.

【特殊な病態】

播種性血管内凝固症候群(DIC)

著者: 川杉和夫

ページ範囲:P.2380 - P.2383

ポイント
●DICはさまざまな基礎疾患によって凝固系が活性化され,全身の微小血管内に微小血栓が多発する病態である.
●DICの基礎疾患は多岐にわたるが,3大基礎疾患として感染症,造血器腫瘍,固形癌が挙げられる.
●DICの診断には,旧厚生省DIC診断基準(1988年改訂版)と急性期DIC診断基準が本邦では主に使用されている.
●DICの治療には,「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」を活用する.

抗リン脂質抗体症候群

著者: 家子正裕

ページ範囲:P.2384 - P.2387

ポイント
●抗リン脂質抗体症候群(APS)分類基準は確定診断の基準であり,治療開始基準ではない.
●臨床症状のない抗リン脂質抗体(aPL)陽性者は通常,経過観察である.
●妊娠などにおけるaPL陽性(ハイリスクaPL)例は,臨床症状がなくとも抗血栓療法の適応である.
●臨床症状はあるが,APS分類基準を満たさないaPL陽性者も治療対象となる.
●APSの二次予防はワルファリン療法が主体だが,動脈血栓症例では抗血小板薬の単独または併用も考慮される.

日常診療で知りたい抗血栓療法

妊娠中ならびに授乳中における抗血栓療法の注意点

著者: 渡辺員支 ,   若槻明彦

ページ範囲:P.2390 - P.2393

ポイント
●妊娠中および分娩後は,血液凝固系が亢進するため,非妊時に比べ静脈血栓塞栓症の発症率は高くなる.
●静脈血栓塞栓症の発症率は,その女性の有するリスク因子に負うところが大きく,リスク因子を正確に把握することが重要である.
●静脈血栓塞栓症の抗血栓療法は,リスク因子を個々に検討したうえで適切な方法を選択する.
●ワルファリンは,胎児への催奇形性などの問題があり,妊娠中の使用は控え,妊娠前から使用している場合は,へパリンに変更する.

癌患者における抗血栓療法

著者: 向井幹夫

ページ範囲:P.2394 - P.2398

ポイント
●静脈血栓症は癌患者の予後を左右する合併症の1つであり,急速に増加している.
●癌症例に伴うVTE(静脈血栓塞栓症)は癌の進展そのものに関連した凝固異常が原因の1つである.
●癌症例では化学療法に関連したVTEの頻度が増加している.
●VTEに対する新抗凝固薬の導入は従来とは異なる新しいストラテジーが注目される.

周術期における抗血栓療法の管理方法

著者: 池田正孝 ,   畑泰司 ,   関本貢嗣 ,   左近賢人

ページ範囲:P.2399 - P.2402

ポイント
●大手術に対する周術期抗血栓療法管理は,血栓症発症と出血リスクとのバランスを取ることである.
●原則は,十分な薬剤中止と血栓発症リスクの高い症例におけるヘパリン置換である.
●ヘパリン置換は出血の可能性を念頭に置き,厳密な管理を行う.
●NOACの場合は,薬剤の半減期,腎機能に応じた薬剤中止期間の調整が必要である.

消化器内視鏡時の抗血栓療法の実際

著者: 平山慈子 ,   小野敏嗣 ,   藤城光弘

ページ範囲:P.2403 - P.2406

ポイント
●個々の患者ごとに血栓塞栓症のリスクと出血のリスクを評価し,休薬の可否を決める.
●生検・出血低危険度の内視鏡処置は,抗血栓薬1剤なら休薬なく施行してよい.多剤内服中の場合でも,状況によっては内服継続のまま施行可能である.
●出血高危険度の内視鏡処置は,アスピリンまたはシロスタゾールであれば休薬なく施行してよい.
●その場合,事前に十分な説明を行い,出血が生じた際にも対処可能な環境下でのみ行うべきである.

歯科外科処置での抗血栓療法の実際

著者: 矢郷香

ページ範囲:P.2407 - P.2412

ポイント
●ガイドラインでは,抗血栓薬継続下での抜歯が推奨されている.
●ワルファリン継続下で抜歯を行う際には,PT-INR値が3.0以下であることを確認し,適切な局所止血処置を行う.
●抜歯以外の歯科外科手術に関しては,抗血栓薬継続下に処置可能か否かのエビデンスが不足している.

透析患者と抗血栓療法

著者: 猪阪善隆

ページ範囲:P.2413 - P.2415

ポイント
●透析患者は,心房細動の罹患率が高く,脳卒中発症リスクも高い.
●透析患者の脳血管障害は,一般人と比較して脳梗塞に比べて脳出血の頻度が高い.
●血液透析患者では,心房細動に対するワルファリン治療は出血のリスクが高い.
●ワルファリンは血管石灰化を促進するため,心血管合併症のリスクを増大させる.

心房細動症例での冠動脈ステント治療

著者: 伊苅裕二

ページ範囲:P.2416 - P.2419

ポイント
●心房細動の脳梗塞予防には抗凝固療法が最適である.
●ステント治療後のステント血栓症予防には抗血小板薬2剤(DAPT)が最適である.
●心房細動例に対するステント治療において抗凝固薬+DAPTの3剤投与がよいと考えられるが,臨床データにおいては出血合併症が多発するばかりか,ステント血栓症も脳卒中も増加する.
●現在のところ,最適な抗凝固および抗血小板療法の確立された組み合わせはない.

連載 異常所見を探せ! 救急CT読影講座・12

確実に異常なガス像を捉えよう

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.2277 - P.2277

30代の男性.1週間前から空腹時の腹痛が続いていた.タール便はない.受診当日の夕方に突然の強い腹痛を認め,救急外来を受診.以前に十二指腸潰瘍の既往がある.診察では上腹部主体の圧痛,筋性防御を認めた.胸部単純X線写真にて右横隔膜下にfree airを認め,続いて腹部単純CTを施行した.

Choosing Wisely Japan その検査・治療,本当に必要ですか?・3

ケース:60代女性,血清TC高値

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.2425 - P.2427

 Choosing Wiselyとは,診断や治療の選択において,エビデンスに基づいた医師・患者対話を促すための世界的キャンペーン活動である.現在,各国の臨床医学系メジャー学会が,それぞれ推奨リストを挙げ,一般の人々に向けて公開している.今回から順に,主要な推奨リストを紹介する.まずはCanadian Cardiovascular Societyの推奨1)を表1に示す.では,今回のケースをみてみよう.

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・9

Ⅳ音,ギャロップの聴きかた—Ⅳ音で左室拡張障害の存在がわかる

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.2428 - P.2434

Ⅳ音で何がわかるか?
 Ⅳ音は病的であり,左室が硬い時に聴取され,左室の拡張障害の存在を意味する.

目でみるトレーニング

問題787・788・789

著者: 谷口浩和 ,   村尾敏 ,   鈴木克典

ページ範囲:P.2442 - P.2447

総合診療のプラクティス 患者の声に耳を傾ける・17【最終回】

患者がいつも真実を語るとは限らない

著者: 小佐見光樹 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.2448 - P.2451

 メディカル・インタビューには次に示す3つの基本的機能があります1)
第1の機能:医師-患者関係の構築
 医師-患者関係の構築には,入室時の観察,自己紹介,緊張緩和のアイスブレイキング,診療に関する合意形成が必要です.非言語的コミュニケーション(体の動き,顔の表情,声の調子,アイコンタクトなど),共感,パートナーシップ,支援,尊重といった基本的技法を要します.

西方見聞録・24【最終回】

道半ば

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.2452 - P.2453

 「Tell me about yourself.」
 「Could you briefly describe your research work?」

魁!! 診断塾・21

昨日元気で今日ショック!?の巻

著者: 佐田竜一 ,   綿貫聡 ,   志水太郎 ,   石金正裕 ,   忽那賢志 ,   有馬丈洋

ページ範囲:P.2454 - P.2459

生来健康な24歳の男性が,帰省中に総合病院口腔外科にて,右下顎智歯の抜歯を行った.抜歯1時間後に処方されたアジスロマイシン500 mgを内服し,数時間後に右下顎の腫脹・疼痛を認めたため,ロキソプロフェンを内服した.翌日の明け方より悪寒,軽度戦慄,呼吸困難感および水様性下痢を認め,トイレに立った際にふらつきを感じた.口腔外科を再診し,抜歯部を生食で洗浄し,一部抜糸を行った.40℃台の発熱を認め,血圧が70mmHg台と低値であり,脈拍は110/分台に上昇していた.外液負荷を行ったが,血圧低下が続くため,ERに搬送となった.

いま知りたい 肺高血圧症・3

肺高血圧症治療薬の進歩

著者: 渡邉裕司

ページ範囲:P.2460 - P.2465

 肺高血圧症のなかでも肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は,慢性進行性の肺血管増殖を特徴とし,きわめて不良な予後経過をたどる難治性疾患と考えられてきた.しかし,肺動脈の拡張・収縮を調節するシグナル経路であるプロスタサイクリン(PGI2)-cAMP経路,エンドセリン経路,一酸化窒素(NO)-cGMP経路のそれぞれに対応したプロスタサイクリン製剤,エンドセリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬や可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬が登場し,PAH患者の予後は大きく改善している(図1).本稿では,このような肺高血圧症治療薬の進歩について紹介する.

書評

—村川裕二 編—むかしの頭で診ていませんか?循環器診療をスッキリまとめました

著者: 石光俊彦

ページ範囲:P.2389 - P.2389

 循環器診療における問題点について抵抗なく読めるようにエッセイ風の文調で書き綴り好評を博している『あなたが心電図を読めない本当の理由』や『循環器治療─この薬をつかう本当の理由』などの著者である村川裕二先生が構成・編集に腕をふるった快著である.おおよそ循環器病の臨床は不整脈,虚血性心疾患,弁膜症・心不全などそれぞれ専門性が高く,また新しい治療薬やデバイス,治療法なども次々と導入されており,循環器専門医といえども自信をもって診療することができる守備範囲は限られる.しかしながら,近年,高齢化とともに循環器疾患の危険因子となる生活習慣病を有する症例も増加しており,循環器を専門としない臨床医もさまざまな循環器疾患を合併する患者の診療にあたる機会も多くなっていると思われる.本著はそのような場合に起こってくる多くの疑問点に対し,明快な解決と解説を示している.
 本書の優れた特徴は,まず,構成が従来の系統的な枠組みにとらわれずオムニバス形式となっており,どこからでも読みやすいという点である.循環器の本を読むときに,心血管系の解剖や心筋細胞の電気生理から入るのでは辟易することが多いのに対し,本書はどこでも本を開いた所から興味をもって抵抗なく入っていくことができる.また,各チャプターの最初に「結論から先に」として臨床医が認識しておくべき必要最小限の情報が箇条書きで示されており,読者はその根拠と解説をあらかじめ答えがわかった状態で読み進んでいくことになるため,理解が容易になっている.そして,最後に「Take Home Message」としてチャプター全体のエッセンスが明示されている.実際の画像やまとめの表,エビデンスを示す図などが随所に配置され,視覚的な理解を促す配慮がなされている.

—笠原 敬,忽那賢志,佐田竜一 著—みるトレ 感染症

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.2435 - P.2435

 感染症は目に見えない微生物との戦いだ.肺炎,尿路感染症,そして風邪.よく出会う感染症も,肉眼ではその微生物は残念ながら見えない.たまに「自分の手にはMRSAは絶対に付いていないから」と感染対策の場面に限って見えるかのように言う先生がいらっしゃるが,肉眼的には黄色ブドウ球菌どころか感受性なんてさらに見えやしないので注意したい.

—倉原 優 著—呼吸器診療 ここが「分かれ道」

著者: 長野宏昭

ページ範囲:P.2466 - P.2466

 本書は,呼吸器分野の診療で遭遇する,素朴ではあるがよくある疑問に対して,エビデンスやガイドラインを紹介しながら,それらに対する筆者の見解を交えつつわかりやすく解説している.
 私たち臨床医は患者の診療を行うに当たって,さまざまな臨床データを参考にしながら行っている.いわゆるエビデンスに基づいた医療が現代医学の基本であることは言うまでもない.しかし,どのようなエビデンスを基に診療を行えばよいのか,あるいはエビデンスを目の前の患者にどの程度適応すればよいのか,ふと立ち止まってしまう場面も多いのが現実である.

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2472 - P.2473

購読申し込み書

ページ範囲:P.2474 - P.2474

次号予告

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奥付

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「medicina」第52巻 総目次

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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