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雑誌目次

雑誌文献

medicina52巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

特集 がんを診る

著者: 高野利実

ページ範囲:P.427 - P.427

 がんは,日本人にとって,最も身近な疾患の1つである.高齢化の影響もあり,がんの死亡数や罹患数はなおも増加傾向にある.
 日本では,外科系の診療科が,がんの手術だけでなく薬物療法まで担当するのが一般的であったが,近年の薬物療法の目覚ましい進歩と社会的な需要の高まりから,がん薬物療法は,それを専門とする内科医(腫瘍内科医)が担うべきだと考えられるようになってきた.しかし,「腫瘍内科」は,日本では歴史が浅く,まだまだ医療現場に浸透しているとは言い難い.外科医が手術を,放射線治療医が放射線治療を担うように,腫瘍内科医ががん薬物療法を担い,それぞれが専門家として最大の能力を発揮しながら,患者さんに最善となる医療を提供できるよう,チーム医療を展開していくことが重要である.

特集の理解を深めるための17題

ページ範囲:P.548 - P.550

座談会

腫瘍内科の未来を考える

著者: 高野利実 ,   田村研治 ,   加藤俊介 ,   西智弘

ページ範囲:P.428 - P.435

腫瘍内科の現状と展望
各施設における腫瘍内科の役割
高野 本日はよろしくお願いします.はじめに,それぞれのお立場における腫瘍内科の現状からお伺いしたいと思います.
 田村先生,がんセンターの立場からいかがでしょうか.

腫瘍内科のビジョンとミッション

日本における腫瘍内科の歴史と展望

著者: 西條長宏

ページ範囲:P.436 - P.439

ポイント
●がん対策基本法のもと,(臨床)腫瘍学を専門とする腫瘍内科医の重要性が認識され始めている.
●がんの領域では基礎研究成果の数多くが臨床に直接環元されている.
●国民がタイムリーに適切ながん医療を受けるためには腫瘍学に精通した医師の養成が必須である.

新専門医制度と「がん薬物療法専門医」

著者: 満間綾子 ,   安藤雄一

ページ範囲:P.440 - P.442

ポイント
●日本臨床腫瘍学会(JSMO)は質の高いがん薬物療法を臓器横断的に実践できる医師を「がん薬物療法専門医」として認定している.
●「がん薬物療法専門医」の認定は書類審査,筆記試験および口頭試問によってその適格性を慎重に判断されたうえで行われており,2014年4月時点で978名が認定されている.
●「がん薬物療法専門医」は,新専門医制度におけるサブスペシャルティ領域の専門医としての認定を目指している.

内科学のサブスペシャリティとしての腫瘍内科学

著者: 石岡千加史

ページ範囲:P.444 - P.447

ポイント
●腫瘍内科学は内科学のサブスペシャリティとして必要な領域である.
●米国では1972年に腫瘍内科学が内科学の専門医制度のサブスペシャリティに認定された.
●わが国では,長年,腫瘍内科学の認知度が低く内科学のサブスペシャリティに認定されていない.
●最近,日本内科学会の年次講演会に腫瘍領域が取り入れられ,近い将来,研修プログラムにも記載される.

腫瘍内科医を目指す人たちへ

著者: 中川和彦

ページ範囲:P.448 - P.451

ポイント
●がん分子標的治療時代の到来がわが国に腫瘍内科を誕生させた.
●臓器別腫瘍内科医間のバトルこそ腫瘍内科医を成長させる.
●死を宣告されたがん患者の生きる価値の創造は腫瘍内科医の役割.

がん医療の意味を考える

がん検診は必要か?

著者: 菅野哲平 ,   勝俣範之

ページ範囲:P.452 - P.455

ポイント
●国民に対するベネフィットを考えると,「検診が死亡率低下に寄与するか?」というクエスチョンに答えるだけのエビデンスがしっかりとあるかどうかが重要である.
●がん検診は,すべてのがんに対して推奨されるものではなく,近年,国際的にもがん検診の過剰診断による,過剰治療も問題になっている.エビデンスがしっかりと確立されているものは,一部のがんのみであることを認識すべきである.
●推奨される検診内容は,本邦,海外の各種ガイドラインにおいても異なっている.多くはランダム化比較試験(RCT)の結果を重視しており,真に意味のある検診方法かを見極めることが重要である.

抗がん剤論争を考える

著者: 宮本信吾

ページ範囲:P.456 - P.458

ポイント
●近藤誠氏の持論はシンプルであり,理解しやすい.
●しかし,がんや患者は多様であり,二者択一論では解決できず,患者に寄り添いながら考えていくことが重要である.
●腫瘍内科医は自分たちの役割を認識し,患者のために職務を全うすべきである.

がん情報の見分け方

著者: 後藤悌

ページ範囲:P.460 - P.462

ポント
●インターネットなどには不適切な医療情報が溢れている.多くの患者がそれらを見知っていることを,医療者は知る必要がある.
●医療者にとってはいかがわしい内容も,患者の目には「夢」のような治療に映るように工夫して発信されている.
●患者が興味をもっているのであれば,不適切な治療についても医療提供者側から情報提供したほうが,その後のコミュニケーションが円滑となるのではないか.

補完代替医療の考え方

著者: 上元洵子 ,   金容壱

ページ範囲:P.464 - P.467

ポイント
●がん患者の約半数が補完代替医療(CAM)を利用する.
●CAM利用は,がんを源とする危機に対するコーピング(対処)の一つである.その行動が「ともにがんと闘う」うえで妥当か否は,査定が必要である.
●医療者は患者の安全を第一に,正しい情報提供と意思決定支援を行う.

内科医ががんを診るということ

がん医療におけるチーム医療の必要性

著者: 佐々木裕哉

ページ範囲:P.468 - P.472

ポイント
●厚生労働省がチーム医療に関する提言を行っている.
●チーム医療はがん領域においても重要であり,その実践の前提にビジョンの共有が必要である.
●interprofessional education(IPE)やinterprofessional working(IPW)といった概念が日本でも広まりつつある.
●チーム医療は患者満足度の向上のためになくてはならないものである.

乳癌・婦人科癌診療における内科医の役割

著者: 松本光史

ページ範囲:P.474 - P.477

ポイント
●乳癌や婦人科癌は,非小細胞性肺癌や消化器癌と比べても殺細胞性抗がん剤がよく奏効する.
●複雑な病態の進行がんの患者の全身管理に,総合診療能力を有した内科医は貢献できる.
●周術期の化学療法の面談およびマネジメントに,面談技法を習得した内科医は貢献できる.

泌尿器がん診療における内科医の役割

著者: 三浦裕司

ページ範囲:P.478 - P.481

ポイント
●近年,分子生物学的病態の解明が進んだことにより,数多くの薬剤が泌尿器がんに対して開発された.
●それに伴い,数多くの副作用に対するマネジメントが必要となり,そのなかには内科的な知識を要するものも多い.
●日本において,泌尿器がんを専門とする腫瘍内科医は数少なく,今後の育成が必要である.

甲状腺癌診療連携プログラムの取り組み

著者: 田村研治

ページ範囲:P.482 - P.485

ポイント
●「放射性ヨード治療抵抗性,局所進行または転移性分化型甲状腺癌」に対し,ソラフェニブの適応追加が承認された.
●ソラフェニブは血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)チロシンキナーゼ阻害薬である.
●日本臨床腫瘍学会,日本内分泌外科学会,日本甲状腺外科学会は,「甲状腺癌診療連携プログラム」事業を開始した.
●本プログラムは,分子標的薬剤の適正使用に関して,外科医と腫瘍内科医が学会レベルで協力するモデルケースとなる.

希少がんへの取り組み

著者: 公平誠

ページ範囲:P.486 - P.488

ポイント
●近年,がん対策の一環として希少がんへの対策が求められている.
●本邦における希少がんに関する明確な定義はないが,海外では疫学的な観点からの定義がなされている.
●希少がんの情報が乏しいため,患者さんの適切な受診・受療行動には支援が必要である.
●希少がんの種類が多く患者数は少なくないため,医療連携を通した幅広い希少がんへの対応が求められる.

原発不明がんの診断と治療

著者: 杉山絢子

ページ範囲:P.490 - P.493

ポイント
●「原発不明がん」という疾患カテゴリーがあることを認識する.
●診断のために迅速な生検と,無駄のない全身検索を行う.
●原発不明がんのなかで,完治を目指せる・特定の治療の効果がある群(予後良好群)を見極め治療方針を立てる.

緩和ケアと腫瘍内科の連携

著者: 西智弘

ページ範囲:P.494 - P.497

ポイント
●「早期からの緩和ケア」のエビデンスが出され,緩和ケア医が腫瘍内科医と連携していくことの意義は強くなっている.
●緩和ケア側に,人員の不足,チーム医療の不確立,何をすればよいのかわからない,などといった課題がある.
●緩和ケア医は,腫瘍内科医や患者・家族,メディカルスタッフを巻き込んだチームをコーディネートする役割を求められる.
●緩和ケアを利用しやすくするために,がん拠点病院を中心に「緩和ケアセンター」の整備が始まっている.

総合内科と腫瘍内科の連携

著者: 東光久

ページ範囲:P.498 - P.501

ポイント
●総合内科医の診療領域はがん診療にも親和性があり,腫瘍内科医と協力して診療に当たることが求められており,それは専門医カリキュラム(または案)のなかでも具体化してきている.
●その際重要なのは,コミュニケーション,協力を惜しまない姿勢,互いの領域を双方がオーバーラップするという意識である.
●がん患者は,診断や抗がん治療時期を超えても,がんサバイバーとしてさまざまな困難に直面する.その過程をがんサバイバーシップといい,総合内科医のかかわるべき新たなフィールドである.

一般内科医が知っておくべきがん薬物療法のマネジメント

分子標的治療薬の最新の動向

著者: 加藤俊介 ,   三浦佳代 ,   山口茂夫

ページ範囲:P.502 - P.506

ポイント
●分子標的治療薬は,生体内の特定分子に着目し,その機能を制御することを指標に開発された薬剤である.
●分子標的治療薬は,構造的にはモノクローナル抗体と小分子化合物に大別される.
●がん細胞にみられる分子を標的としたものだけではなく,血管内皮細胞や破骨細胞など正常細胞に働く薬剤も存在する.
●分子標的治療薬にはこれまでの殺細胞効果薬剤にみられない有害事象を有するものもあり,注意が必要である.
●分子標的治療薬の薬効予測のバイオマーカーが存在するものと,まだ明らかになっていないものがある.

好中球減少症のマネジメント—G-CSFの適正使用

著者: 内野慶太

ページ範囲:P.508 - P.511

ポイント
●本邦のG-CSF適正使用ガイドラインの一次予防的投与,二次予防的投与,治療的投与についての記載は,海外のガイドライン,国内外の最新のエビデンスに基づき,2013年に改訂された.それぞれに定義づけを行い,投与目的を明確化した.
●一次予防的投与は発熱性好中球減少症(FN)発症率による推奨基準を示し,20%以上の発症率に対する抗がん薬治療の際の使用を強く推奨し,それ未満は一部の患者のみ使用を推奨した.
●二次予防的投与に関しては,抗がん薬の減量やスケジュール変更を行うことが望ましくない患者に対してのみ,治療強度を維持する目的での投与を推奨した.
●治療的投与は基本的にルーチンの投与を勧めていないが,FNの際はリスクに応じて検討する必要がある.
●本改訂は決して使用を制限するものではなく,患者個々の多様性とエビデンスの双方を考慮しながら,実地臨床においてG-CSFが適正に使用されることを期待している.

悪心・嘔吐のマネジメント

著者: 森竜久 ,   本田健 ,   関順彦

ページ範囲:P.513 - P.516

ポイント
●がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐(CINV)には,急性,遅発性,予測性の3種類があり,それぞれの分類ごとに治療対応が異なることを理解する必要がある.
●CINVのマネジメントに際しては,抗がん剤の催吐性リスク分類およびガイドラインに定められた制吐療法を熟知しておく必要がある.
●CINV出現後に症状を改善させることは難しいため,患者関連リスク因子も評価に加え,発症予防に全力を注ぐことが重要である.

手足症候群・皮膚障害のマネジメント

著者: 伊澤直樹 ,   中島貴子

ページ範囲:P.517 - P.521

ポイント
●手足症候群・皮膚障害を生じやすい薬剤,特にフッ化ピリミジン系薬剤(なかでもカペシタビン)やキナーゼ阻害薬,抗EGFR抗体薬,EGFR阻害薬を理解する.
●手足症候群・皮膚障害は予防が重要であり,基本は保湿,刺激除去,角質処理である.
●症状出現時に適切な対処,減量,休薬を行うことにより,重症化を防ぐ.

間質性肺炎のマネジメント

著者: 細田千晶 ,   千野遙 ,   加藤晃史

ページ範囲:P.522 - P.525

ポイント
●抗がん剤による間質性肺炎は薬剤により発症時期,治療効果,転帰などが異なる.
●早期の症状は発熱,乾性咳嗽,息切れなどであり,自覚症状のみで上気道炎やがんの悪化との鑑別は難しい.
●診断にはCT撮影が必須である.
●EGFR-TKIによる肺がん治療では重篤化のリスクが高い.
●m-TOR阻害薬では症状を伴わない場合,慎重な追跡をしながら治療継続が推奨されている.

末梢神経障害のマネジメント

著者: 赤塚壮太郎

ページ範囲:P.526 - P.529

ポイント
●末梢神経障害は,glove and stocking型感覚神経障害,運動神経障害,自律神経障害に大別される.
●症状の出現は抗がん剤の総投与量との関係が深く,使用する薬剤の特性をよく理解する必要がある.
●確立した予防・治療法がないため,症状の早期発見と薬剤の適切な減量・休薬・中止など,早期対策が重要である.
●症状の早期発見には問診が最も大切で,日常生活に支障をきたしていないかを評価することが重要である.

ハイリスクがん患者への化学療法

著者: 陶山浩一

ページ範囲:P.530 - P.535

ポイント
●がん患者のなかには,合併症などさまざまな問題を有する「ハイリスクがん患者」が存在する.
●ハイリスクがん患者に対する化学療法は頼るべきエビデンスに乏しい.
●ハイリスクがん患者であっても化学療法を施行できる可能性はある.
●限られたエビデンスを駆使し,そのうえでリスクとベネフィットを勘案しつつ化学療法にあたる必要がある.

B型肝炎ウイルス再活性化対策

著者: 楠本茂

ページ範囲:P.536 - P.540

ポイント
●がん化学療法前に,B型肝炎ウイルス(HBV)再活性化のリスク評価を行う.
●ガイドラインに従い,リスクに応じたHBV再活性化対策を講じる.

がん患者の緊急症(オンコロジック・エマージェンシー)

著者: 尾崎由記範 ,   高野利実

ページ範囲:P.542 - P.547

ポイント
●疼痛,神経障害から脊髄圧迫を疑う場合は,神経機能の改善・保護のため,迅速に診断・治療を行う必要がある.
●上大静脈症候群では,緊急性があればステント留置を行い,病理学的診断に基づいて放射線療法や化学療法を行う.
●化学療法の感受性が高く,腫瘍量が多い症例では,腫瘍崩壊症候群(TLS)を考慮し治療前から十分な輸液,高尿酸血症の予防などを行うべきである.
●高カルシウム血症の急性期では,十分な輸液に加え,利尿薬,カルシトニン製剤,ビスホスホネート製剤などの投与を行う.

連載 異常所見を探せ! 救急CT読影講座・3

似て非なるもの

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.421 - P.421

40代の男性.夜間の仕事中に突然激しい左腰痛に見舞われ,動くこともできず救急要請.搬送中に嘔気も認めた.既往歴は特にない.診察上,左腰部の叩打痛を認めた.尿検査にて潜血(2+).腹部単純X線写真では特に異常を指摘できなかった.その後,腹部CTを施行.

魁!! 診断塾・12

患者の主訴を変換せよ!の巻

著者: 佐田竜一 ,   綿貫聡 ,   志水太郎 ,   石金正裕 ,   忽那賢志

ページ範囲:P.552 - P.557

31歳日本人女性が携帯電話の画面のぼやけを自覚したので総合外来を受診した.来院7日前より携帯画面がぼやけて見えるようになり,来院3日前には携帯画面の左上半分が特に見えにくくなったので,総合外来を独歩で受診した.

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・13

依頼理由{その12}検査室を飛び出す心エコー—カテーテル治療を支える心エコー

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.558 - P.565

 いよいよ「依頼理由別に考える心臓超音波検査」の連載も最終号になりました.この連載はこれまでタイトルのとおりに,「依頼」が検査室にやってきたとき,それをどうエコーを行う側が考えているのかお伝えする,ということを主軸に扱ってきました.
 しかし最近の循環器の治療手技の進歩は著しく,特に治療手技の中核を成すカテーテル治療は,開胸せずに心臓の治療を行うことを可能とし,これまでの内科医の治療の概念を大きく変えました.そのカテーテル治療が近年,冠動脈疾患から大動脈弁狭窄症(AS)などの弁膜症,そして閉塞性肥大型心筋症(HOCM)へと拡大されるに至り,エコーを行う医師や技師も検査室を飛び出して治療の現場へと足を踏み込むようになっています.そこで今回の稿では,ASに対する経カテーテル大動脈弁置留置術(TAVI),HOCMに対する経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)について,術前および術中エコーの観点から取り上げたいと思います.

失敗例から学ぶプレゼンテーション患者説明から学会発表まで・11

双方向のプレゼン

著者: 竹本文美 ,   植田育子 ,   田中雅美 ,   八幡紕芦史

ページ範囲:P.566 - P.570

質問攻めが対話型講義?
 あなたは,ハーバード大学のサンデル教授の対話型講義は人気があると聞き,自分も「慢性腎不全」の講義を対話型でやってみようと思った.サンデル教授は学生にどんどん質問しているから,たくさんの質問を投げかければ講義が白熱するだろうと考えた.
 そこで,講義の冒頭で「この中でCKDという言葉を知っている人は手を挙げて?」と言った.すると3〜4人の学生が手を挙げた.しかし,それを一瞥したあなたは「はい,それでは,今日は…」と講義を始めた.そのとき,多くの学生は「今の質問は何だったのか?」と怪訝な表情を見せた.その後,症例を提示し,「この尿所見から考えるに,この患者さんの血尿は糸球体由来か,尿路由来か」と質問をした.ところが,学生は無反応で教室は静まり返ってしまった.仕方なく一番前に座っている学生を左から順に当てることにした.「糸球体由来です」,「はい次」,「尿路由来だと思います」,「はい右の人」と,それなりに講義が進んでいった.

総合診療のプラクティス 患者の声に耳を傾ける・8

尿道カテーテルを留置中の患者では尿色の変化に注意

著者: 見坂恒明

ページ範囲:P.571 - P.573

 高齢で寝たきりの患者の診察は難しいです.比較的急性の活気低下では感染症の可能性が考慮されますが,高齢者では発熱がはっきりしないこともあります.また,高齢者の感染症では,誤嚥性肺炎や尿路感染症,胆道感染症にしばしば遭遇します.入院を要した肺炎のうち,70歳台では約70%,80歳台では約80%が誤嚥性肺炎との報告もあります1)
 尿路感染症は一般的に,病歴,症状,身体所見,検査所見を総合して診断しますが,高齢者では頻尿・残尿感といった症状や肋骨脊柱角叩打痛などの身体所見を伴わないことがあり,特に尿道カテーテル留置中の患者では,無症候性細菌尿との鑑別がより難しくなります.

目でみるトレーニング

著者: 尾崎青芽 ,   矢吹拓 ,   梶原祐策

ページ範囲:P.574 - P.579

西方見聞録・15

Can you speak English?

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.580 - P.581

私「I will give him ceftriaxone. Is that OK with you?」
 上級医「K」

Step up腹痛診察・19

43歳女性,心窩部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.582 - P.585

[現病歴]来院10日くらい前から心窩部痛を自覚するようになった.痛みは緩徐に始まる鈍い痛みで,上腹部の膨満感を伴った.食事との明らかな関連はなかった.当初の痛みの強さはNumeric Rating Scale(NRS)で3/10程度だった.1回のエピソードは数時間持続した.明らかな寛解・増悪因子はなく,放散痛,嘔気,嘔吐や黒色便はなかった.疼痛が始まって2日後に近医を受診し,H2受容体拮抗薬,粘膜保護薬を処方された.しかし,疼痛は徐々に増悪し早期飽満感を自覚するようになったため当院受診となった.受診時の疼痛の程度はNRSで5/10程度だった.経過中の食欲低下,体重減少はなかった.
[既往歴]虫垂炎(17歳時),右乳癌手術(41歳時).
[常用薬]レトロゾール(フェマーラ®).
[社会歴]喫煙:なし,飲酒:ワイン グラス1杯/回,月1〜2回.

研修医に贈る 小児を診る心得・9

病歴から診断する

著者: 加藤英治

ページ範囲:P.592 - P.593

 小児科の診断の約70%は病歴から診断できるそうです1).小児科のプライマリ・ケアでは,発熱・鼻水・咳嗽があれば風邪だと,嘔吐と下痢があれば急性胃腸炎だと親のほうが診断して来院するくらいで,確かに,親から話を聴けば見当をつけることのできるケースが多いと思います.

読者質問コーナー 内科診療 ここが知りたい!

感染性腸炎の診断と取り扱いは,どのようにすればよいでしょうか?

著者: 永田博司

ページ範囲:P.551 - P.551

感染性腸炎の診断と対処
 感染性腸炎の多くは自然寛解するので,治療よりむしろ二次感染を防ぐ指導と,保健所へ届けるかの判断が重要です.食中毒での届出と感染症法に基づく届出があります.
 急性発症の水様性下痢や嘔吐を訴え,外来受診する患者の大多数はウイルス性腸炎,いわゆる「お腹の風邪」です.発症初日は家で我慢し,2〜3日目に来院します.3日目になると症状はピークを過ぎており,脱水がなければ,経口摂取を促して帰宅させます.

REVIEW & PREVIEW

アルコール摂取と食道癌

著者: 廣橋研志郎 ,   大橋真也 ,   天沼裕介 ,   武藤学

ページ範囲:P.594 - P.597

最近の動向
 国際がん研究機構(International Agency for Research on Cancer:IARC)は,1988年に「アルコール飲料」を食道癌のgroup1発癌物質(ヒトに対する発癌性が認められる物質)と認定し,アルコール摂取が食道癌のリスクであることを示した1).その後,アルコール摂取は食道扁平上皮癌のリスク因子であるが,食道腺癌の因子ではないことが報告されている2).また,近年の疫学研究で1B型アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase 1B:ADH1B)や2型アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase 2:ALDH2)など,アルコール代謝関連酵素の遺伝子多型が食道扁平上皮癌の発癌リスクを上げることが報告され3),アルコール代謝により生成されるアセトアルデヒドが食道扁平上皮発癌に関与する可能性が示された.こうした事実をもとに,IARCは2009年に「アルコール摂取に関連したアセトアルデヒド」も,食道癌のgroup1発癌物質と認定した.
 近年,アセトアルデヒドにより生じるDNA傷害の存在が明らかとなり,食道扁平上皮癌の発癌機序に関する基礎研究も進んでいる.本稿では,アルコール摂取と食道癌,特に食道扁平上皮癌に関する疫学的な背景とともに,分子生物学的知見にも触れ,さらに食道癌の予防に関する最近の動向を概説する.

書評

—福永篤志 著 稲葉一人 法律監修—トラブルに巻き込まれないための 医事法の知識

著者: 宝金清博

ページ範囲:P.472 - P.472

 メディアを見ると,医療と法の絡んだ問題が目に入らない日はないと言っても過言ではない.当然である.私たちの行う医療は,「法」によって規定されている.本来,私たち医師は必須学習事項として「法」を学ぶべきである.しかし,医学部での系統的な教育をまったく受けないまま,real worldに放り出されるのが現実である.多くの医師が,実際に医療現場に出て,突然,深刻な問題に遭遇し,ぼうぜんとするのが現状である.その意味で,すべての医師の方に,本書を推薦したい.このような本は,日本にはこの一冊しかないと確信する.
 先日,若い裁判官の勉強会で講演と情報交換をさせてもらった.その際,医療と裁判の世界の違いをあらためて痛感させられた.教育課程における履修科目もまったく異なる.生物学,数学は言うまでもなく,統計学や文学も若い法律家には必須科目ではないのである.統計学の知識は,今日の裁判で必須ではないかという確信があった私には少々ショックであった.その席で,いわゆるエビデンスとかビッグデータを用いた,コンピューターによる診断精度が医師の診断を上回る時代になりつつあることが話題になった.同様に,スーパーコンピューターなどの力を借りて,数理学的,統計学的手法を導入し,自然科学的な判断論理を,法の裁きの場に持ち込むことはできないかと若い法律家に聞いたが,ほぼ全員が無理だと答えた.法律は「文言主義」ではあるが,一例一例が複雑系のようなもので,判例を数理的に処理されたデータベースはおそらく何の役にも立たないというのが彼らの一致した意見であった.法律の世界での論理性と医療の世界での論理性は,どちらが正しいという以前に,出自の異なる論理体系を持っているのではないかと思うときがある.医師と法律家の間には,細部の違いではなく,乗り越えられない深い次元の違う溝が存在するのではというある種の絶望感が残った.

—種村 正 編—解剖と正常像がわかる! エコーの撮り方 完全マスター

著者: 遠田栄一

ページ範囲:P.497 - P.497

 超音波検査の第一人者である種村正先生の熱き思いが伝わる教科書が誕生しました.読み進めていくうちに,いやはや驚きました.初学者の入門書のかくあるべき姿がここにあったからです.
 超音波検査は非侵襲的かつ短時間で多くの情報を得ることができるため,日常診療では必須の検査法となっています.しかし,本法はまったく臓器の見えない体表からプローブを当てて,ある目印を頼りに検査担当者が自らの手で異常を探すという技術を必要とする検査法です.この技術をマスターするためには解剖学や病態生理学はもちろん,プローブの当て方,装置の調整法などを系統立てて覚えていくことが必要となりますが,指導者のいない施設では難しいと言わざるを得ません.

—恒藤 暁,岡本禎晃 著—緩和ケアエッセンシャルドラッグ第3版

著者: 加賀谷肇

ページ範囲:P.535 - P.535

 わが国の緩和医療を牽引してきた医師の恒藤暁先生と,緩和薬物療法認定薬剤師第一号である岡本禎晃先生による待望の新版が上梓された.
 著者たちは,症状マネジメントが緩和ケアの出発点というコンセプトの下,症状マネジメントの必須薬をこの本に集約している.すなわち本書を習得することが緩和ケア実践の近道ということができる.

—宮城征四郎,藤田次郎 著—Dr. 宮城× Dr. 藤田 ジェネラリストのための呼吸器診療勘どころ

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.598 - P.598

 豊穣な知識を持ちながら多くは語らない.それが私の憧れる指導医像である.患者さんへの慈しみと人間愛にあふれ,静かに一線を守り寡黙な風情を見せるほうが格好いい.
 宮城征四郎先生が司会をされた症例検討会に参加させていただいたことがある.時系列に基づいた症状の変化と基本的身体所見のなかで,何に注目すべきかを明確に示す大変教育的な診断推論カンファレンスであった.本書ではその教えが臨場感を持って迫ってくる.決して多くの知識を読者に与えるものではない.どの症状や所見が診断の絞り込みに重要であるかという診断推論のポイントが示されている.「疾患当てゲームではなく,どう考えどうアプローチするかという過程が重要」なのだ.

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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