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雑誌目次

雑誌文献

medicina52巻7号

2015年06月発行

雑誌目次

特集 心不全クロニクル—患者の人生に寄り添いながら診る

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.1033 - P.1033

 近年の急激な高齢化によって「心不全:heart failure」という疾患は,もはや循環器を専門とする医師だけが診るものではなくなった.少なくとも内科分野を担当する医師すべてが,その知識を持ち合わせなければならない.
 しかしながら,この「心不全」という言葉は実に曖昧である.「心臓が悪い:dysfunction」ことを心不全と言うこともあるし「うっ血性心不全:congestion」や「低心拍出:low cardiac output」を指し示すこともある.近年,提唱された「慢性心不全:chronic heart failure」とは,そういった曖昧さをきちんと整理した概念である.

特集の理解を深めるための27題

ページ範囲:P.1174 - P.1178

座談会

今後の5年間で克服すべき心不全領域の課題

著者: 加藤真帆人 ,   坂田泰史 ,   佐藤直樹 ,   麻野井英次

ページ範囲:P.1034 - P.1042

加藤 お忙しい中をお集まりいただきまして,ありがとうございます.今日はそれぞれの分野の最先端でご活躍されている先生方にお集まりいただきまして,慢性心不全についてディスカッションしたいと思います.

総論:心不全のオーバービュー 【心不全とは何だろう?】

慢性心不全管理とは「線」を知って「点」に向き合うこと

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.1044 - P.1048

ポイント
●β遮断薬やRAAS阻害薬の出現で「慢性心不全:chronic heart failure」という概念が生まれた.
●慢性心不全とは急性増悪という「発作」を伴う慢性疾患と考えるべきであり,「点」ではなく「線」で病態を捉えた治療が望ましい.
●慢性心不全を管理するうえで「stage」と「NYHA」は重要である.

入院管理:速やかに血行動態を改善する 【急性期:起座呼吸に対処する】

起座呼吸発症の機序—交感神経亢進

著者: 岸拓弥

ページ範囲:P.1050 - P.1052

ポイント
●心不全では交感神経の亢進が予後と密接に関連しており,交感神経を標的とする治療がきわめて重要である.
●交感神経は圧受容器反射など種々の反射により迅速・強力に規定され,心拍出量と静脈還流平面を調節する.
●心不全における圧受容器反射異常が左室収縮能と無関係に肺うっ血を惹起する可能性がある.

血管拡張薬—硝酸薬,カルペリチド,ニコランジル

著者: 秋山英一 ,   木村一雄

ページ範囲:P.1054 - P.1057

ポイント
●血管拡張薬は静脈系の拡張による前負荷の軽減,動脈系の拡張による後負荷の軽減により,volume central shiftをきたした心原性肺水腫(CS1)の血行動態,起座呼吸の自覚症状を改善する.
●硝酸薬は主に静脈系の拡張により,心原性肺水腫,起座呼吸の自覚症状を改善する.また,動脈系の拡張作用や冠血管拡張作用を有する.
●カルペリチドは,静脈系優位な血管拡張作用に加えて利尿作用や神経体液性因子抑制作用(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系抑制作用,交感神経抑制作用)を有する.
●ニコランジルは,血管拡張作用に加えてKATPチャネル開口作用,冠微小循環改善作用を有する.

非侵襲的陽圧換気(NIPPV)

著者: 鴫原祥太 ,   佐藤直樹

ページ範囲:P.1058 - P.1061

ポイント
●NIPPVは心原性肺水腫に対して転帰を改善する有用な呼吸管理法である.
●NIPPVは酸素化,呼吸仕事量に加え,循環動態を改善する.
●NIPPVのモードはCPAPが第一選択である.

【急性期:心原性ショックに対処する】

強心薬—カテコラミン,PDEⅢ阻害薬

著者: 梶本克也

ページ範囲:P.1062 - P.1065

ポイント
●体血圧低下⇒腎血流量低下による乏尿に対してドパミン投薬を検討するが,ドパミンよりもノルエピネフリンのほうが速やかに体血圧および尿量流出へ影響する可能性がある.
●β遮断薬導入後の慢性心不全の急性増悪症例に対しては,ドブタミンの限界を考えながらドブタミンとPDEⅢ阻害薬の併用を早期より積極的に検討すべきである.
●低心拍出性心不全に対して,ドブタミンとPDEⅢ阻害薬の併用療法の有効性は高いが,各薬剤の投薬量に注意してPDEⅢ阻害薬を治療早期より積極的に活用すべきである.

機械的補助—IABP,PCPS

著者: 岡島正樹

ページ範囲:P.1066 - P.1070

ポイント
●IABPは,後負荷軽減と冠灌流圧維持を目的とする補助装置である.
●PCPSは,心原性心肺停止に有効で,PCIおよび低体温療法併用の有効性が示唆されている.
●IABPが生命予後を改善しないというデータの存在や,PCPSの絶対的エビデンス不足もあり,ルーチンで使用するものではない.
●PCPSは,切り札的デバイスながら,一時的(ブリッジング)治療であることを念頭に置き,患者の人生を見据えた選択が必要である.

【移行期:体液過剰を整える】

体液過剰発症の機序—RAA系などの体液性因子の亢進

著者: 吉村道博

ページ範囲:P.1072 - P.1074

ポイント
●心不全では交感神経やRAA系が活性亢進しており,RAA系ではアンジオテンシンⅡのみならずアルドステロンが重要である.
●心不全では,交感神経やRAA系に対抗するために,心臓からナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)が分泌される.血漿BNP濃度は心不全の生化学マーカーとして利用できる.
●心不全の治療においてはホルモンのバランスを整えることが重要であり,特にACE阻害薬,抗アルドステロン薬,β遮断薬は生命予後を改善させる.

利尿薬—フロセミド,トルバプタン

著者: 末永祐哉

ページ範囲:P.1076 - P.1078

ポイント
●体液貯留は急性心不全における最も多い症状であり,依然利尿薬はその治療の中心である.
●迅速にうっ血を解除できるかは,患者のQOLのみならず予後にもかかわっている可能性がある.
●一定の割合でフロセミドのみでは治療が困難な患者が存在し,何らかの治療オプションが求められている.
●トルバプタンはこれまでの利尿薬と異なる薬理作用をもち,これまでの利尿薬に抵抗性の患者に対して有効な可能性がある.
●ただし,どのような患者にトルバプタンが有効かは臨床研究で詳細に検討される必要がある.

血液浄化療法

著者: 阿部雅紀

ページ範囲:P.1080 - P.1085

ポイント
●慢性腎臓病(CKD)や急性腎障害(AKI)の病態ではループ利尿薬に抵抗性を示すことがある.
●心不全の治療経過において,体液過剰を速やかに解消する必要があるにもかかわらず,腎機能が低下し,利尿が得られない場合,血液浄化療法の適応となる.
●血液浄化療法のどの治療法を選択するかは,その時点での血行動態,BUN,Cr,K値,アシドーシスの有無などで総合的に判断する.
●心不全による腎灌流圧低下と中心静脈圧の亢進による腎うっ血を速やかに解除することで腎機能の回復が期待できる.

【退院前:再発予防のために】

心不全再入院患者の特徴と対策

著者: 坂田泰彦 ,   下川宏明

ページ範囲:P.1086 - P.1089

ポイント
●現在日本では虚血性心不全を中心に心不全人口が増加している.
●高齢,糖尿病,利尿薬服薬,高心拍数は心不全再入院のリスクである.
●今後わが国においても心不全再入院防止プログラムの確立が急務である.

心不全患者・および家族への教育指導

著者: 林亜希子

ページ範囲:P.1090 - P.1092

ポイント
●心不全を予防するための患者教育として,多職種協働による疾病管理が有効である.
●患者自身が悪化のサインに気付くためのセルフモニタリング指導が重要である.
●提供した患者教育の内容を,退院後に患者自身が自宅で継続できるように医療者が一緒に考える姿勢が必要である.

心不全治療としての栄養介入の可能性と教育指導

著者: 永井利幸 ,   岩上直嗣 ,   安斉俊久

ページ範囲:P.1094 - P.1097

ポイント
●心不全が進行すると,腸管浮腫による吸収障害や食思不振などから栄養障害が合併する.
●心不全症例における栄養障害の評価法には主なもので4種類報告されているが,いまだ十分なエビデンスがあるとは言えない.
●栄養障害は心不全症例の独立した予後規定因子であり,特にCONUTスコアによる予後予測が今後期待される.
●早期に栄養障害を評価し,ハイリスク例に介入の可能性を検討することが今後の課題である.

心不全に合併する睡眠呼吸障害

著者: 高田佳史

ページ範囲:P.1098 - P.1102

ポイント
●心不全入院患者には積極的にSDBをスクリーニングする.
●OSA優位の心不全患者にはCPAP治療を行う.
●CSR-CSAを合併する心不全患者には,心不全治療の最適化を確実に行うべきである.
●ASVはCSR-CSAを合併する心不全患者の予後を改善する可能性があり,欧米で大規模試験が進行中である.

外来管理:慢性と急性の連鎖を断ち切る 【左室収縮能が低下した心不全(HFrEF)への薬物治療】

β遮断薬・RAAS阻害薬

著者: 朝倉正紀

ページ範囲:P.1104 - P.1107

ポイント
●左室収縮能が低下した心不全患者への標準治療は,ACE阻害薬とβ遮断薬である.
●左室収縮能が低下した心不全患者への準標準治療として,アルドステロン拮抗薬が注目されている.
●慢性心不全患者に対して,ARBとネプリライシン阻害薬の合剤がACE阻害薬を超える有効性を示し,注目されている.

ジギタリス

著者: 矢﨑義行 ,   中村正人

ページ範囲:P.1108 - P.1110

ポイント
●ジギタリス製剤のなかでも臨床的に主に使用されるのはジゴキシンである.
●すでに心不全治療薬が投与されているが,症状のとれない収縮能の低下した心不全に対してジゴキシンの追加投与を考慮する.
●ジゴキシンの薬物血中濃度が0.8ng/mL以下になるように,少量から開始し,維持する.
●高齢者,慢性腎臓病患者ではジギタリス中毒をきたしやすいので注意が必要である.

ピモベンダン—外来管理の問題点

著者: 原田和昌

ページ範囲:P.1112 - P.1115

ポイント
●ピモベンダンは予後を悪化させない経口強心薬である.
●高齢者においては,入院するだけで認知症が悪化することがある.
●ピモベンダンの投与によりHFrEF患者の長期入院,入院自体を回避する.
●β遮断薬,ACE阻害薬,ARB,抗アルドステロン薬と,ピモベンダンの併用により心不全をコントロールする.
●ピモベンダンは2.5mg/日を超えて長期間投与しない.

フロセミド

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.1116 - P.1118

ポイント
●心不全のうっ血解除は,副次作用の許容内で,最大限に行う.
●フロセミドを使う際には,血圧を保ち,RAAS遮断薬を併用すると効果的である.
●必要以上のフロセミドは,腎機能障害や電解質異常など,さまざまな弊害をもたらす.
●フロセミド抵抗性には,ほかの利尿薬を併用して対応する.

【左室収縮能が維持された心不全(HFpEF)への薬物治療】

HFpEFに対する新しい治療薬—その治療のターゲット

著者: 衣笠良治 ,   山本一博

ページ範囲:P.1119 - P.1121

ポイント
●HFpEFは心不全患者の約30〜50%を占める日常臨床で一般的な心不全である.しかし,その病態や有効な治療方法は確立されていない.
●HFpEFは左室の拡張機能障害に加え,心臓以外のさまざまな臓器と連関した多様な病態を呈する全身疾患である.
●拡張機能障害ならびに他臓器をターゲットとしたさまざまな治療薬が現在検討されている.各病態に応じたアプローチが有効な治療方法の確立につながると考えられる.

HFpEFへの既存の治療薬はなぜ十分な効果が得られないのか?

著者: 塚本泰正 ,   坂田泰史

ページ範囲:P.1122 - P.1124

ポイント
●心不全症例の40〜50%に,左室駆出率の保持された心不全(HFpEF)が存在する.
●現状,HFpEFに対して確立された治療法はなく,基本方針は原因疾患に対する加療である.
●今後は,HFpEF患者それぞれの病態を正確に評価し,個々に応じた適切な治療を行う必要がある.

【再入院予防のための包括的取り組み】

自宅でもできる外来心不全患者の運動療法

著者: 安達仁

ページ範囲:P.1126 - P.1129

ポイント
●心不全の外来運動療法により心不全増悪を早期発見できる.
●息切れを目安に運動強度を設定する.
●レジスタンストレーニングが心保護効果発現のために重要である.
●心不全治療のABC-Sが外来心不全治療の要である.

重症心不全に挑む 【非薬物治療の現状と展望】

心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy)

著者: 中井俊子

ページ範囲:P.1130 - P.1132

ポイント
●心不全に対するCRTの適応を知る.
●CRTの効果と限界を知る.
●CRT-P/CRT-Dの選択について考える.

体外式および植込み型補助人工心臓(VAD)

著者: 平澤憲祐 ,   藤原立樹 ,   磯部光章

ページ範囲:P.1133 - P.1137

ポイント
●移植法改正後の心臓移植は増加しているが,待機期間は非常に長く補助人工心臓(VAD)の果たす役割は大きい.
●わが国では現在4種類の植込み型VADが保険償還され,臨床使用されている.
●VADの外来管理は機器の管理,ドライブライン・創部の管理,血栓・出血対策と患者に対する指導が中心となる.
●わが国では植込み型VADの使用はbridge to transplant(BTT)に限定されており,今後destination therapy(DT)としての使用も期待されるが,適応に関しては慎重な検討が必要である.

経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)

著者: 桃原哲也

ページ範囲:P.1138 - P.1141

ポイント
●高齢者の大動脈弁狭窄症(AS)が増加している.特に,CCUなどの集中治療室に入院する心不全の40%強がASで,院内死亡率も疾患別で最も高率である.
●しかし,十分に治療がなされていないことが問題点として挙げられている.
●非専門医が収縮期雑音を聴取した場合は,症状がない時点でも一度循環器専門医に紹介し,心エコーで評価することが大切である.
●重症ASに対して現時点では,大動脈弁置換術(AVR)が標準治療である.
●2回目以降の開胸術や解剖学的な問題などでAVRのリスクが高いあるいは困難な場合は,経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)の適応を検討する.
●TAVIのdeviceは,細径化や周辺からの逆流などの問題点を改善しつつ,急速に進化し良好な成績を収めている.
●外科的に置換した生体弁の中にTAVIを行う“valve in valve”が非常に有効な治療として注目されている.

心臓移植医療

著者: 中谷武嗣

ページ範囲:P.1142 - P.1146

 末期心不全に対する治療選択として,心臓移植と補助人工心臓(VAD)が検討される.心臓移植は,世界的には1980年代より治療選択として受け入れられ,現在年間4,000例前後に施行されている1).わが国では1999年臓器移植法に基づく心臓移植が行われ,2010年7月に臓器移植法が改正されてからは,年間40例前後が施行されるようになった2〜4).また,心臓移植へのブリッジ(BTT)としてVADが用いられるようになり,2011年4月から非拍動流植込型VADがBTTとして保険償還され,施行数は著明に増加している.

心筋再生医療

著者: 澤芳樹

ページ範囲:P.1148 - P.1151

ポイント
●心筋再生とは,外部より心筋細胞を補充する,あるいは休眠している心筋細胞を賦活化させるものである.
●細胞移植,遺伝子導入,化合物などにより心筋再生が達成されることが証明されてきた.
●心筋再生医療がスタンダードとなるには,長期間にわたり治療効果を検証する大規模なシステムを構築することが必要である.

終末期医療 【末期の苦痛と不安を取り除く】

末期心不全の治療ゴールをどう考えるか

著者: 麻野井英次

ページ範囲:P.1154 - P.1157

ポイント
●心不全患者の終末期の判断は難しい.
●患者の利益を優先し,どれだけ快適に過ごせるかを目的にケアする.
●患者の自己決定権の尊重と医学的・倫理的妥当性が大切である.
●心不全クリニックの普及と心不全連携パスにより,外来・在宅管理を推進する.
●多職種心不全チームによる遠隔在宅管理により,在宅重症心不全患者の精神的支援とセルフケアの改善をはかる.
●最新のICT遠隔モニタリング・システムを用いることにより,心不全の悪化兆候を早期に発見できる.

末期心不全の緩和ケア

著者: 佐藤幸人

ページ範囲:P.1158 - P.1160

ポイント
●終末期であるとの判断は厚労省の指針を順守し,担当医だけでなく医療・ケアチームのなかで慎重に行う.
●心不全における緩和ケアの概念は欧米のガイドラインに記載があるが,具体的な内容の記述はない.
●モルヒネ投与は欧米の論文に記述があるものの,わが国ではいまだ社会的なコンセンサスが得られていない.

末期心不全を在宅でみる

著者: 弓野大

ページ範囲:P.1161 - P.1165

ポイント
●実際の生活の場をみる在宅医療は,新しい形の心不全医療となりえる.
●介護と医療,院内と院外の多職種連携,情報共有の方法が大切となる.
●患者をみるとともに,介護負担をみることが,在宅医療継続に必要である.
●終末期心不全の在宅管理に,「4つの道具」の使用が有効である.

チーム医療の必要性 【多職種合同チーム医療の実践】

なぜ,いまハートチームが必要なのか?

著者: 眞茅みゆき

ページ範囲:P.1166 - P.1168

ポイント
●心不全患者がもつ複合的な問題の解決方法として,職種間連携(ハートチーム)が重要である.
●心不全における多職種医療の実際として,多職種による疾病管理プログラムの運用が挙げられる.
●効果的なチームアプローチの実現には,目的や責任範囲の明確化,緊密な情報共有が重要である.

地域連携と心不全パス—地域で診る意義と実践

著者: 北川知郎 ,   木原康樹

ページ範囲:P.1170 - P.1173

ポイント
●広島県では,心不全患者のQOL改善と増悪予防を目指す事業に地域を挙げて取り組んでいる.
●多職種によるチーム医療が,心不全患者の入院回数,在院日数の減少に繋がりつつある.
●患者携帯型連携パス手帳は,心不全地域連携サポートの重要なツールである.
●地域を巻き込んだ包括的チーム医療は,いま求められる慢性心不全の診療コンセプトと考えられる.

連載 異常所見を探せ! 救急CT読影講座・6

CTの得手不得手

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.1027 - P.1027

50代の女性.発熱と右上腹部痛を主訴に救急外来を受診.血液検査ではWBC 13,500/μL,CRP 0.96mg/dL,T-Bil 1.2mg/dL,ALP 346mg/dL,γ-GTP 238mg/dL.担当医は腹部超音波検査で胆囊壁肥厚と胆石を疑ったが,所見に自信がもてなかった.造影CTによる胆道系評価を行った.

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・3

心尖拍動の診かた—左室拡大,左室肥大の有無がわかる

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.1186 - P.1191

心尖拍動の診察で何がわかるか
 心尖拍動は最も左外側で触知する心臓の拍動であり,通常は左室心尖部の収縮を反映している.心尖拍動の診察により,左室拡大の程度,左室肥大の有無がわかる.

研修医に贈る 小児を診る心得・12

治療的自我を育てる

著者: 加藤英治

ページ範囲:P.1192 - P.1193

 米国のある大学病院に泌尿器科の病棟で研修中のレジデントAと消化器病棟で研修中のレジデントBがいました.レジデントAとBは同じ医学教育を受け,また,2人は技術的にも同じような診療をしていました.
 泌尿器科の病棟では,数人の患者たちが,レジデントAの態度や治療法について,粗暴で,傲慢であり,性急でいつもイライラしていると,さかんに不満を並べていました.一方,消化器病棟には患者にとても評判のよいレジデントBがいるという噂が病院内にたっていました.

目でみるトレーニング

問題769・770・771

著者: 宮阪英 ,   大熊裕介 ,   濵田修平

ページ範囲:P.1194 - P.1199

魁!! 診断塾・15

痛む場所には何がある? の巻

著者: 佐田竜一 ,   綿貫聡 ,   志水太郎 ,   石金正裕 ,   忽那賢志 ,   森川暢

ページ範囲:P.1205 - P.1209

花粉症以外に特に既往のない50歳女性が,1カ月前から続く咳嗽と咽頭痛で来院した.経過中に抗ヒスタミン薬,吸入β刺激薬を使用したが症状改善なく,来院13日前から吸入ステロイドを開始していた.来院4日前より38℃の発熱が出現し,以後も38℃台の発熱が継続するため総合診療科外来を受診した.
既往歴は花粉症のみで,家族歴に目立ったものはない.上記以外に定期内服薬は認めず,シックコンタクト,動物との接触,渡航歴,喫煙歴,先行感染症状などに目立ったものはなかった.
review of system(ROS)では咳嗽時の左前胸部痛と嚥下時痛以外に有意なものはなく,寝汗や体重変化,浮腫,血痰,呼吸苦,関節痛,しびれ,鼻閉,胸焼け,胸痛,視力変化などは認めなかった.

西方見聞録・18

“The emperor of all maladies”

著者: 山口典宏

ページ範囲:P.1210 - P.1211

“彼”との出会い
 11年前の春,医学生だった私は3カ月の臨床実習のためにボストンにやってきて,自分の英語がまったく通じないことに戦々恐々としていました.そしてマサチューセッツ総合病院血液腫瘍内科での実習が始まり,「同じ外国人だからうまくいくかもな」と血液腫瘍内科の教授が紹介してくれた指導医が,Siddhartha Mukherjee(シッダールタ・ムカジー)というインド系の臨床フェローでした.
 彼はインドで生まれ,大学以降は英国と米国で教育を受けましたが,かなり訛りのある英語を話していたので,他の医師から聞き返されたり,彼が聞き返したりすることは日常茶飯事でした.昼のカンファレンスでのケータリングはフェローが持ち回りで用意するのですが,彼が担当の時はいつもカレーで,周りからは聞こえるような声で「またカレーかよ!」と文句を言われていました.もっとも,私にとっては米が食べられる貴重な機会で,広い意味でのアジア文化を彼と共有していました.

Step up腹痛診察・22

72歳男性,心窩部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.1212 - P.1215

[現病歴]3カ月前から食後30分程して心窩部に鈍痛を自覚するようになった.痛みは比較的緩徐に始まり持続性で,約1〜2時間持続した後に消失した.疼痛の強さは,当初Numeric Rating Scale(NRS)で3〜4/10だったが,最近では5〜7/10になった.また,最近1カ月間は痛みの頻度が増した.時に嘔気を伴い,痛みは背部に放散することがあった.家族と一緒に外食をし,いつもより多く食べた時には痛みの程度が強かった.食欲はあったが,最近は食事をすると腹痛が出現することから食事量は控えめにしていた.最近3カ月間で約8kgの体重減少がある.発熱,黒色便,下痢,便秘はなかった.
[既往歴]高血圧症,2型糖尿病,脂質異常症.
[常用薬]オルメサルタンメドキソミル(オルメテック®),メトホルミン(メトグルコ®),シタグリプチン(ジャヌビア®),アトルバスタチン(リピトール®).
[社会歴]喫煙:20歳から20本/日,47年間.飲酒:ワイン グラス1杯/日,週1〜2回.
[家族歴]高血圧症(父),糖尿病(母).

あたらしいリウマチ・膠原病診療の話・3

関節・筋骨格・軟部組織の診察(Part 1)—まず手より始めよ

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.1216 - P.1221

 外傷による筋骨格・軟部組織損傷の診察のノウハウは他書に譲るとして,本稿では「疼痛や炎症の原因を探る」ことに主眼を置いた関節・筋・骨格の診察に焦点を当てる.徒手筋力検査はきわめて重要な検査だが,これも本稿では扱わない.

総合診療のプラクティス 患者の声に耳を傾ける・11

海外渡航歴は直近だけでなく遡って聞く

著者: 松岡保史 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.1222 - P.1224

 患者の主訴に対して病歴を詳細に聞くことは,非常に時間がかかり,遠回りのような気がしてしまいます.しかし実際には,診断・治療への近道となることも多いです.忙しい外来では,経験豊富な医師ほど,今までに経験した臨床像に近い疾患へのスナップ診断を行いがちですが,不明熱など診断に苦慮するものほど,基本に立ち返り,総合診療の武器である問診と診察に時間を注ぐべきです.
 今回は,「発熱」で医療機関を受診したものの,診断に至らず当科を再受診し,既往歴や社会生活歴から“ある疾患”を疑い,確定診断できた症例を紹介します.

REVIEW & PREVIEW

薬物性消化管傷害

著者: 溝上裕士 ,   岩本淳一

ページ範囲:P.1201 - P.1204

何がわかっているか
 1980年初頭にHelicobacter pylori(ピロリ菌)が発見されて以来,消化性潰瘍の2大原因として,ピロリ菌と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が認知されてきた.近年,人口の高齢化が進み,虚血性心疾患などの循環器系疾患や変形性関節症などの整形外科疾患が増加している.NSAIDsの元祖であるアスピリンは,低用量アスピリン(LDA)が循環器系疾患・脳血管障害において抗血小板薬として汎用され,NSAIDsも腰痛・関節炎などの整形外科的疾患,炎症性疾患などの侵害受容性疼痛のコントロールを中心に広く用いられている.しかし,LDAやNSAIDsの投与がしばしば胃・十二指腸潰瘍や消化管出血などを引き起こすことが問題となっている.われわれの施設における潰瘍症例について,2002〜2011年を3期に分けて成因を検討したところ,初期→中期→後期にかけてLDAの比率が増加していたが,NSAIDsは変化がなかった(図1).
 NSAIDs起因性上部消化管傷害は,関節リウマチ(RA)でNSAIDsの長期投与において発生する例が代表的であった.1991年に日本リウマチ財団が行った疫学調査では,NSAIDsが3カ月以上投与されていたRAを中心とした関節炎患者1,008例に無作為に内視鏡検査を施行したところ,15.5%に潰瘍の発症を認めたと報告された1).本邦ではその15年後,2006年に矢島ら2)が報告した261例に対する同様の検討でも10.3%,さらに2009年のMiyakeら3)の報告では21.9%と,従来と同様の潰瘍発症が確認された.

書評

—兼本成斌 著—はじめての心電図—第2版増補版

著者: 福田恵一

ページ範囲:P.1053 - P.1053

 心電図を初めて勉強する者は,心臓の電気活動がどのように心電図の波形になるのか,なかなか理解し難いものである.また,心電図学の入門書は多く,どの本を勉強すべきであるのかわからない.結局は心電図の本を読破できずに,何となく苦手としている者が多いのではないだろうか?
 本書はわれわれの研究室の大先輩である兼本成斌先生が,多くの臨床経験と長年の学生教育を通して書き上げたロングセラーとなる心電図学入門のための名著である.このため,心電図の取り方から始まり,心電図波形の呼び方,誘導法,心筋の興奮と心電曲線という基礎中の基礎から容易に学べる特徴を有している.本書を読んでいるうちに心電図の波形がどのように構成され,その波形の異常がどのような疾患と結びついているのか,自然と頭に入る仕組みとなっている.読者は「心電図は難しい」などの意識をもつ前に本書を通読することができるので,心筋梗塞や不整脈の心電図を容易に理解できるようになっている.心筋梗塞の部位と心電図の対応も初学者には頭を悩ませるものであるが,本書を読めば心臓の解剖学的位置と3本の冠動脈の走行,心電図の電極の位置が理解できるようになり,むしろクイズのように判読するのが楽しくなる.

—津田篤太郎 著—漢方水先案内

著者: 舛本真理子

ページ範囲:P.1125 - P.1125

 まず,この本は題名通り「水先案内」です.通読しても,残念ながら手っ取り早く漢方が使いこなせるようにはなりません.しかし読後は,漢方に対するイメージの変化と,新鮮な発見があると思います.
 できれば,「漢方ってちょっと邪道だ!」などと思っている理屈っぽい若人にこそ,読んでほしい本だと感じました.理屈で応えてくれる本ですので.

—丸山一男 著—痛みの考えかた—しくみ・何を・どう効かす

著者: 松田直之

ページ範囲:P.1153 - P.1153

 『痛みの考えかた─しくみ・何を・どう効かす』(丸山一男:著)が,南江堂(東京)より出版された.この366頁からなる本は,学術性が本格的に保たれている一方で,遊び心や漫画心が満載されており,「痛みの学術」に親しみを感じさせてくれるものとなっている.電車の中で,またはゴロっと横になって,実に読みやすいサイズのA5判である.専門診療科の医師,患者さんの苦痛と向かい合う看護師,リハビリテーションや放射線技師などのパラメディカルの皆さん,医学生,看護学生,また医療関連ではない一般の皆さんを含めて,幅広い層を対象として,読みやすい内容となっている.
 まず,本を開くと,「痛みの道─末梢から脳へ─」,そして「痛みの傾向と対策」などという絵心のあるフローチャートが見開き2頁で出てくる.若い頃,人生を考えながら京都の学問の道を歩いたように,また若い頃,大学受験の際に『傾向と対策』などという参考書を使用していたときなどのように,私のような50歳台を確実にキャッチした.この2頁を眺めるだけでも頭がスッキリする.「痛みを感じる?」,「なぜ?」……そのうえで,「自分の痛みはとれるのか?」,「患者さんの痛みはとれるのか?」……このようなことを見開きの2頁に実にわかりやすく,道標としてまとめてくれている.

第8回「呼吸と循環」賞 論文募集

ページ範囲:P.1074 - P.1074

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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