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雑誌目次

雑誌文献

medicina53巻2号

2016年02月発行

雑誌目次

特集 脳卒中はこう診る—新ガイドラインで何が変わったか

著者: 西山和利

ページ範囲:P.197 - P.197

 脳卒中は日本人の国民病である.頭部画像診断が進歩するまでは,脳卒中は日本人の死因の第1位であり,有効な治療法が乏しい分野であった.さらにはほかの臓器疾患に比して脳卒中を専門とする医師数は少なく,兎にも角にも脳卒中は「治らない疾患」というイメージが強かった.やがて,頭部CTやMRIの登場,血圧管理をはじめとする危険因子管理の向上などに伴い,本邦における脳卒中の死亡率は明らかな低下を示した.しかし,多くの医師や関係者の努力にもかかわらず,脳卒中はいまだ本邦における死因の第4位,寝たきりになる原因の第1位の地位にある.すなわち,脳卒中は一命をとりとめても,後遺症に苦しむ患者が多いことを意味している.
 昨今の脳卒中治療の発展には目を見張るものがあり,脳卒中は予防にも治療にも長足の進歩がある.そうした進歩を具に知るには論文にあたるのが王道であるが,脳卒中に関する論文だけでも毎年数万にも及び,それらをすべて把握することは不可能に近い.そこで現代医学においては,治療の道標になるものは科学的証拠に基づいて作成されるガイドラインということになる.脳卒中の治療ガイドラインは2009年に改訂されて以来,今回6年ぶりの全面改訂がなされ,「脳卒中治療ガイドライン2015」が2015年6月に発刊された.

特集の理解を深めるための28題

ページ範囲:P.343 - P.347

座談会

脳卒中診療の実際—新ガイドラインと実臨床をつなぐ

著者: 西山和利 ,   豊田一則 ,   丹羽潔

ページ範囲:P.198 - P.205

ガイドラインの改訂ポイント
西山 「脳卒中治療ガイドライン2015」が2015年6月に発表されました.その中身については実物を読むのが一番ではありますが,前回の2009年版から6年ぶりの改訂ですから,特筆すべき大きな変更点も少なくありません.また,実臨床においては,ガイドラインの本文にははっきり書かれていないようなこと,つまり“行間を読む”ことも時として必要になるのではないでしょうか.
 そこで本日は,ガイドラインの作成に関わられた専門家として豊田先生,そして脳卒中診療に一般医家として携わっておられる丹羽先生にご出席いただき,ガイドラインと実臨床の橋渡しになるようなご議論をいただければと思います.

脳卒中の現状

脳卒中治療ガイドライン2015

著者: 小川彰

ページ範囲:P.206 - P.208

ポイント
●脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに抜本改訂された.
●改訂に伴い,ガイドライン委員会の組織変更が行われた.
●エビデンスレベルと推奨グレード分類も新たに改訂された.
●推奨する薬剤は,利益相反に配慮したルールに則って表記されている.
●検索論文は23,500文献と大幅に増加した.

脳卒中の疫学

著者: 鴨打正浩

ページ範囲:P.210 - P.214

ポイント
●脳卒中の死亡率は低下しているが,近年その低下は横ばいである.
●脳出血の発症率は減少し続けているが,近年,脳梗塞発症率の減少は緩やかである.
●脳卒中後の5年生存率は著明に改善している.
●脳卒中は介護を要する原因疾患の最も多くを占める.
●欧米諸国に比べ,脳出血の発症率は高い.

脳卒中の医療連携

著者: 秋山久尚

ページ範囲:P.216 - P.221

ポイント
●脳卒中医療は急性期・回復期・維持期の3病期に分けられ,その治療目標は,専門的治療が可能な急性期医療機関へ迅速に搬送し,脳卒中後遺症を可能な限り軽減させることである.
●さらに,急性期から回復期,維持期に至るまでの切れ目のない適切な医療・介護サービスを提供できる地域連携システムが必要であり,脳卒中地域連携クリティカルパスが作成・運用されている.
●脳卒中の早期受診行動のために,市民への啓発活動が重要となる.
●救急隊は脳卒中か否かの判定をするため,さまざまな病院前脳卒中スケールを使用している.
●tPA静注療法の地域や病院の格差改善策として,遠隔医療システムおよび病院間搬送の有効性が示されている.

脳卒中診療における社会的資源

著者: 藤井由記代 ,   中山博文

ページ範囲:P.222 - P.225

ポイント
●自宅や施設における介護,訪問看護,訪問リハビリテーションなどは,介護保険制度,障害者総合支援法に基づくサービスが利用可能である.
●就労支援については,地域障害者訓練センター,ハローワーク,障害者就業・生活支援センターが相談窓口になっている.
●経済的支援として,高額療養費制度や障害者総合支援法による医療費助成,傷病手当金,障害年金がある.
●判断能力が不十分な患者を法的な視点から保護するために,成年後見制度の利用が可能である.
●相談窓口として,病院の相談室,自治体の相談窓口,日本脳卒中協会の電話・ファックス相談がある.

脳卒中の診断

虚血性脳卒中の病型・病因

著者: 米原敏郎

ページ範囲:P.226 - P.228

ポイント
●脳梗塞の臨床病型分類には,米国神経疾患・脳卒中研究所の脳血管疾患第Ⅲ版(NINDS-Ⅲ)や臨床試験Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment(TOAST)で用いられた分類がある.
●NINDS-Ⅲ臨床型分類としては,わが国では心原性脳塞栓症,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞がそれぞれ3割前後と,ほぼ同程度の頻度で認められ,また,「その他の原因」は約8%程度となっている.
●若年発症の脳梗塞例(50歳未満の発症)や,危険因子を認めない脳梗塞発症例などでは,「その他の原因」を評価する.「その他の原因」としては,先天性血栓性素因,抗リン脂質抗体症候群,Trousseau症候群などが知られている.
●実臨床の場では,TOAST分類のアルゴリズムを用いて,臨床型に分ける分類方法などが用いられることもある.

出血性脳卒中の病型・病因

著者: 中冨浩文 ,   小野秀明

ページ範囲:P.230 - P.233

ポイント
●出血性脳卒中は,主に脳出血とくも膜下出血に分けられ,さまざまな原因により発症する.
●脳出血予防のために,血圧管理,喫煙者への禁煙継続の指導,大量飲酒への節酒が勧められる.
●くも膜下出血の危険因子として,高血圧,喫煙習慣,過度の飲酒が挙げられ,これらの改善が勧められる.

特殊な原因や病態による若年性脳卒中

著者: 大槻俊輔

ページ範囲:P.234 - P.239

ポイント
●循環器疾患の危険因子に乏しい50歳未満の脳卒中症例や,家族性脳卒中の場合は,特殊な原因や病態による発症の可能性を念頭に置く.
●脳卒中治療ガイドライン2015では,「その他の脳血管障害」として,動脈解離,大動脈解離,もやもや病,奇異性脳塞栓症,脳静脈・静脈洞血栓症,遺伝性脳血管障害,繊維筋性形成異常症,凝固亢進状態,大動脈炎症候群,高血圧性脳症が記載されている.
●超急性期治療における時間的制約のなかで,これらの特殊な原因や病態による若年性脳卒中に対して,rt-PAや血管内治療を行うかどうか,その有用性と安全性を天秤にかけて判断するのは,主治医の裁量と決断に拠る.

脳卒中をいかに疑うべきか

著者: 竹川英宏 ,   鈴木綾乃 ,   平田幸一

ページ範囲:P.240 - P.244

ポイント
●脳卒中か否かを評価するスケールとして,CPSS,LAPSSが広く使用されている.
●CPSSは顔面麻痺・上腕麻痺・言語障害を評価し,1つでも異常があれば脳卒中の疑いがある.
●KPSS,MPSSはNIHSSと相関し,重症度評価に有用である.
●脳卒中病院前救護と脳卒中初期診療の標準化として,PSLS,ISLSがある.

脳卒中の問診・診察

著者: 大友亮 ,   岩田淳

ページ範囲:P.246 - P.249

ポイント
●脳卒中の問診・診察は,画像所見がない患者にとってこそ必須事項である.
●問診時には発症時刻・形式,発症時の状況・随伴症状の確認が,治療方針の決定上,必須である.
●画像診断はあくまでも補助診断であるため,専門医への紹介以前にも,局在診断の手がかりとなりうる最低限の神経学的診察は行われるべきである.

脳卒中の画像診断

著者: 平野照之

ページ範囲:P.250 - P.254

ポイント
●脳卒中急性期の病型診断(脳出血,くも膜下出血,脳梗塞)に,画像検査は必須である.
●CTは出血性病変の検出に優れ,一般に急性期での第一選択とされる.
●MRIでは一度に多くの情報(虚血組織傷害,閉塞血管,微小出血など)が得られる.
●頸部血管エコーは,狭窄性病変の評価と大動脈解離の検出に用いられる.

画像練習問題—ASPECTSによる脳梗塞評価

著者: 作田健一 ,   井口保之

ページ範囲:P.255 - P.260

ポイント
●ASPECTSは,中大脳動脈領域の脳梗塞における早期虚血性変化を評価する指標である.
●early CT signは非可逆的虚血性変化を反映した複数の所見の総称である.
●MRI拡散強調画像(DWI)に応用したDWI-ASPECTSは,超急性期脳梗塞診療に有用である.

stroke mimicsをいかに鑑別するか

著者: 神谷雄己

ページ範囲:P.262 - P.265

ポイント
●“脳卒中らしくみえた他疾患”をstroke mimics,“脳卒中らしくなかった脳卒中”をstroke chameleonsと呼ぶ.
●stroke mimicsの原因は,けいれん,敗血症,機能的疾患,片頭痛,低血糖,脳腫瘍の頻度が高い.
●stroke chameleonsの見逃しは,急性期治療のチャンスを逸し,再発予防の導入遅延につながる.
●stroke mimicsに対するアルテプラーゼ静注療法は比較的安全と言われているが,脊髄硬膜外血腫などの出血性疾患には注意を要する.

救急外来における脳卒中チームの診断治療体制

著者: 立石洋平 ,   辻野彰

ページ範囲:P.266 - P.269

ポイント
●脳血管障害の治療は,発症から治療開始までの時間を短縮することが重要である.
●来院から治療開始までの時間短縮のために,脳神経外科,放射線科,看護師と協力しなければならない.
●救急外来で治療を急ぐことは,予後に悪影響を及ぼす可能性は低く,むしろ改善させる可能性がある.

脳卒中の急性期治療

脳卒中超急性期での一般的身体管理はどうするか

著者: 中川原譲二

ページ範囲:P.270 - P.273

ポイント
●脳卒中超急性期患者の初期診療では,気道,呼吸,循環の評価,神経学的評価を行う.
●身体管理では,血圧,栄養,体位などの管理が重要である.
●感染症,消化管出血,発熱などの合併症への対策が必要となる.
●痙攣,嚥下障害などの随伴症状に対する対症療法も必要である.

脳梗塞急性期の治療総論

著者: 山下徹 ,   阿部康二

ページ範囲:P.274 - P.277

ポイント
●脳梗塞の急性期治療として,脳組織が壊死に陥る前に血流再灌流する血栓溶解療法,血管内治療,酸化ストレスを軽減する脳保護療法,微小循環を改善する抗血小板療法と抗凝固療法などがある.
●t-PA静注による血栓溶解療法の適応時間が,脳梗塞発症3時間以内から4.5時間以内に延長された.
●それに伴い,再開通率改善や,出血性脳梗塞を阻止しうる脳保護療法併用の重要性が強く再認識されてきている.
●脳血栓回収機器を用いた血管内治療に関しては,ステント型脳血栓回収機器が開発されたこともあり,その治療有効性を示す報告が増えてきている.

脳梗塞へのtPA静注療法の今

著者: 青木淳哉 ,   木村和美

ページ範囲:P.278 - P.282

ポイント
●最新のメタ解析では,発症4.5時間以内の急性期脳梗塞に対するrecombinant tissue plasminogen activatorを用いた経静脈的な血栓溶解療法(tPA静注療法)の有効性と安全性が改めて示された.
●tPA静注療法の転帰改善効果は,主幹動脈閉塞の部位や神経重症度,年齢で異なる.
●現在,軽症例や発症時間不明の脳梗塞例に対するtPA静注療法など,いくつかの前向き研究が進行中である.

急速に発展する急性期脳梗塞への血管内治療

著者: 春間純 ,   杉生憲志

ページ範囲:P.284 - P.288

ポイント
●2015年に発表された4つのランダム化比較試験により,急性期脳梗塞に対する脳血管内治療(血栓回収療法)の有効性が報告された.
●急性期脳梗塞後の機能予後改善には,“高い再開通率”と“早期再灌流”が必要である.
●新規ステント型血栓回収機器により,安全に約80〜90%の有効再灌流が得られるようになった.
●再灌流までの時間を短縮するため,プレホスピタルケアを含めた急性期脳梗塞診療体制を整備しておくことがきわめて重要である.

内科医が知っておくべき脳出血の急性期治療

著者: 小野隆裕 ,   清水宏明

ページ範囲:P.290 - P.293

ポイント
●脳出血急性期の治療の主な目的は,神経症状の増悪の防止である.
●内科的治療の中心は降圧療法である.
●血腫による圧迫所見が強い場合や急性水頭症を伴う場合は,外科治療の適応になりうる.
●高血圧性以外の出血源の検索も重要である.

内科医が知っておくべきくも膜下出血の急性期治療

著者: 河村陽一郎 ,   飯原弘二

ページ範囲:P.294 - P.296

ポイント
●本邦はくも膜下出血(SAH)の発生が比較的多く,転帰不良となる症例が存在する.
●SAH治療は迅速で的確な診断と,専門医による治療を行うよう強く勧められる.
●一般医療機関に搬入された場合は,病態の変化に即応するため医師の同乗で速やかに専門施設に搬送する.
●SAHの治療は個々の症例に応じて,開頭による外科的治療・血管内治療を選択して行う.

脳卒中の予防治療と慢性期治療

非心原性脳梗塞の一次予防と二次予防

著者: 尾原知行 ,   水野敏樹

ページ範囲:P.297 - P.300

ポイント
●一次予防における抗血小板療法は,積極的には勧められない.
●二次予防にはシロスタゾール,クロピドグレル,アスピリンなどの抗血小板薬を用いる.
●抗血小板療法中は,出血リスク低減のために厳格な血圧コントロールが必要である.
●一次予防,二次予防ともに包括的な血管危険因子の管理が重要である.

心原性脳塞栓症の一次予防と二次予防

著者: 長尾毅彦

ページ範囲:P.302 - P.305

ポイント
●最大の基礎心疾患である非弁膜症性心房細動への対策が最重要課題である.
●予防には抗凝固療法が必須となる.
●発作性や低リスクの心房細動症例であっても,脳梗塞発症は少なくない.
●アジア人においてワルファリンでは重度の頭蓋内出血が出やすいが,直接阻害型経口抗凝固薬では頭蓋内出血はきわめて少なく,十分量の投与が可能である.

出血性脳卒中の一次予防と二次予防

著者: 髙瀬創 ,   川原信隆

ページ範囲:P.306 - P.309

ポイント
●脳出血の一次予防には,高血圧の管理が特に重要である.
●ほかの発症リスク因子には,大量飲酒や喫煙習慣などがある.
●脳出血急性期には,早期の厳格な血圧管理と維持が推奨される.
●妊娠分娩に伴う脳卒中では出血性脳卒中が7割を占め,原因疾患は脳動静脈奇形(AVM)が最多である.

脳卒中に対する予防的外科手術

著者: 吉川雄一郎 ,   栗田浩樹

ページ範囲:P.310 - P.312

ポイント
●未破裂脳動脈瘤に対する破裂予防には,クリッピング術とコイル塞栓術がある.
●頸部頸動脈狭窄に対しては,頸動脈内膜剝離術または頸動脈ステント留置術が行われる.
●内頸動脈および中大脳動脈閉塞,狭窄症に対しては,その適応条件を満たす場合に頭蓋外内バイパス術が有効である.
●症候性は治療の適応になりうる.
●治療適応に関しては,一度脳神経外科専門医に相談すべきである.

無症候性脳梗塞の治療

著者: 小黒浩明 ,   山口修平

ページ範囲:P.314 - P.316

ポイント
●無症候性脳梗塞は,MRI T2画像にて最大径3mm以上15mm未満の高信号,T1で低信号,FLAIRで等〜高信号の辺縁不明瞭な病変であり,多くは脳深部のラクナ梗塞である.
●無症候性脳梗塞の病変増加予防に,降圧薬のカルシウム拮抗薬が有効とする報告がある.
●無症候性脳梗塞に対する抗血小板薬の予防的投薬は勧められず,十分な降圧治療が優先される.

押さえておくべき脳卒中のトピックス

脳卒中のリハビリテーション

著者: 山田深

ページ範囲:P.318 - P.321

ポイント
●急性期では,原則として48時間以内をめどに可及的早期からに離床を開始する.
●“切れ目のないリハ”のためには,回復期リハの適応判断と連携体制の構築が重要である.
●維持期では介護保険を活用する.訪問リハとデイケア(通所リハ)が利用できる.

脳卒中の高次脳機能障害

著者: 東山雄一 ,   田中章景

ページ範囲:P.322 - P.326

ポイント
●高次脳機能障害は,日常生活に多大な障害をもたらす一方で病識が欠けることもあるため,正しい知識と診察技術をもって,検者が積極的に診察しなければならない.
●失語症は,自発話,物品呼称,聴理解,復唱,読み,書きを評価し,構音障害などとの鑑別や病型分類を行う.
●半側空間無視は,線分二等分試験や線分抹消試験,図形の模写試験で検出できる.
●失行症は,パントマイムや実物品の使用を行わせる.
●記憶検査は様々あるが,MMSEやHDS-Rの遅延再生課題が簡便に用いられる.

微小脳出血(CMB)の意義

著者: 湯谷佐知子 ,   瀧澤俊也

ページ範囲:P.328 - P.331

ポイント
●微小脳出血(CMB)はT2強調画像上の直径10mm未満(通常は5mm未満)の円形または楕円形の低信号域として描出され,脆弱な細動脈壁から流出した陳旧性出血を示唆する.
●CMB保有群は非保有群と比較して,頭蓋内出血(ICH)発症リスクが高まる.
●CMBを複数有する症例では,抗血栓療法によるICHのリスクが高いと予測される.
●降圧管理をはじめとした危険因子管理と,CMBの存在を確認したうえで,ICHのリスクを考慮した最適な抗血小板療法・抗凝固療法・血栓溶解療法を選択する必要性がある.

脳卒中に伴うてんかんの病態と治療

著者: 松尾健 ,   川合謙介

ページ範囲:P.332 - P.334

ポイント
●高齢発症のてんかんにおける,原因の第1位は脳卒中である.
●脳卒中のなかでは,脳出血のほうが脳梗塞よりもけいれんの合併率が高い.
●早期けいれんのみの症例では,抗てんかん薬の長期投与は通常不要である.
●臨床的にけいれんを示さないてんかん重積状態を見逃してはならない.

遺伝性脳小血管病を診断する

著者: 野崎洋明 ,   西澤正豊 ,   小野寺理

ページ範囲:P.335 - P.338

ポイント
●脳小血管病(CSVD)とは,脳小血管を病変の首座とする疾患群を指す用語である.
●大脳白質病変があり,ラクナ梗塞,脳出血,微小出血のいずれかを伴い,頭部MRAで50%を超える主幹動脈狭窄がなければ,病的意義のあるCSVDが存在する.
●CSVD患者を診療する際,次のいずれかを1つでも満たす場合は遺伝性CSVDの可能性を考える.①脳卒中について2親等以内の家族歴がある,②60歳未満の発症である,③高血圧症がない.
●脳卒中の発症が小児期か成人期か,白質病変が両側性かつびまん性かどうか,神経外臓器の合併症があるかどうかの情報だけでも,遺伝性CSVDを起こす疾患を絞り込める.

脳卒中の再生医療

著者: 田口明彦

ページ範囲:P.340 - P.342

ポイント
●脳卒中の発症予防,血栓溶解/除去による神経細胞死の防止に加えて,神経細胞死が起こった後の神経機能再生治療開発が進められている.
●われわれは脳卒中後の神経再生には血管再生が必須であることを世界に先駆けて報告し,その知見に基づく臨床試験を実施してきた.
●神経機能再生治療の臨床試験は,われわれが進めている脳梗塞亜急性期における血管再生に加え,急性期における炎症の制御や慢性期における神経幹細胞移植などが世界各国で開始されている.

連載 異常所見を探せ! 救急CT読影講座・14

消化管の“表情”に注目

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.191 - P.191

70代の女性.夜間就寝中に急激な腹痛と下血を認め,救急外来を受診.既往に高血圧があり内服加療中.血圧145/80mmHg,脈拍90/分,体温36.7℃.触診では左側腹部に圧痛を認めた.血液検査所見はWBC 7,600/μL,CRP 0.03mg/dL.精査目的にて腹部造影CT(図1)を施行.

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・11

拡張期雑音の聴きかた—拡張早期雑音は大動脈弁,肺動脈弁の逆流により生じる

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.348 - P.354

 拡張期雑音は正常では存在せず,病的な状態で生じる.拡張期雑音はその時相により,①拡張早期雑音(early diastolic murmur),②拡張中期雑音(mid diastolic murmur),③前収縮期雑音(presystolic murmur)の3種類に分けられる.図1に大動脈,左室,左房圧曲線と,これらの拡張期雑音が聴取されるタイミングの関係を示す.①拡張早期雑音はⅡ音から雑音が始まる.②拡張中期雑音は僧帽弁開放後に生じる.③前収縮期雑音は,心房収縮に一致して生じる.

あたらしいリウマチ・膠原病診療の話・9

ステロイドの使い方—これだけは言わせてほしい!②

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.356 - P.360

 ステロイド(糖質コルチコイド)臨床使用の歴史は,そのままステロイド副作用対策の歴史である.今日,副作用対策はより洗練され,必要な患者(すなわち,特定の副作用についてハイリスクであると予想される患者)に対して適切な対策を行い,ステロイド投与量を最小限に抑えることによって,ステロイド治療に関連した(非可逆的な)合併症を最小限に抑えることが可能となりつつある.それでも,非可逆的な副作用・臓器合併症は必ずしも処方医には見えない場所で起きていると想定しなければならない.やや極端だが,「プレドニゾロンのPはpoisonのP(P is for poison)」程度に思っていてもよいだろう*1
 以下,リウマチ性疾患・膠原病の治療に中等量以上のステロイド全身投与を2週間以上継続して行う場合に留意すべき副作用対策のポイントを述べる.がん化学療法におけるステロイド投与や,その他の炎症性病態に対するステロイド投与にも応用可能だが,リスク予測(特に感染症,骨粗鬆症)について異なる部分がある.網羅的ではなく,「予防可能性」に重点を置いて解説する.

Choosing Wisely Japan その検査・治療,本当に必要ですか?・5

ケース:70代女性,横紋筋融解症疑いでの検査

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.361 - P.362

 Choosing Wiselyは,エビデンスに基づいた診断や治療の選択を行うことを目的とした医師・患者対話を促すための世界的キャンペーン活動で,有害事象につながるリスクの高い過剰診療や価値の低い検査を減らそうというものである.具体的な活動として,各国の臨床医学系学会は推奨リストを挙げている.今回はCanadian Society of Internal Medicineの推奨を表1に示す.
 では,今回のケースをみてみよう.

魁!! 診断塾・23

見えぬものを見よ!の巻

著者: 佐田竜一 ,   綿貫聡 ,   志水太郎 ,   石金正裕 ,   忽那賢志

ページ範囲:P.364 - P.369

70歳の日本人男性.4年前から体重が減少し,10カ月前より食欲も減退,60kgあった体重が8カ月前には50kgになった.かかりつけ医で腹部CTが施行され,複数の後腹膜腫瘍病変が発見されたことから,当院へ紹介となった.

いま知りたい 肺高血圧症・5

膠原病に伴う肺高血圧症

著者: 桑名正隆

ページ範囲:P.376 - P.380

 膠原病の生命・機能予後は新規治療法の導入や対症・支持療法の進歩により飛躍的に改善したが,肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は難治性病態として長らく取り残されてきた.近年,肺血管拡張薬が次々と導入され,それを契機に膠原病医のなかでもPHに対する認識が高まった.それとともに,専門施設での診療の最適化が図られ,特に膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の生命予後は飛躍的に改善した(図1).また,早期に治療介入し,免疫抑制療法と肺血管拡張薬の併用療法により血行動態の正常化,すなわち寛解導入が達成できるPAH症例も増えている.一方,進行例や複雑な心肺病態を呈する例ではいまだ十分な予後の改善が得られていない.本稿では,膠原病に伴うPAHの最新知見を概説する.

目でみるトレーニング

問題793・794・795

著者: 赤堀弘 ,   鈴木克典 ,   谷口浩和

ページ範囲:P.381 - P.386

書評

—荒木信夫,高木 誠,厚東篤生 著—脳卒中ビジュアルテキスト—第4版

著者: 片山泰朗

ページ範囲:P.215 - P.215

 脳卒中はわが国では死因別死亡率において第4位の座にあり,年間12万人を超す死亡がみられている.超高齢社会を迎え年間約30万人が新たに脳卒中となり,脳卒中患者総数は300万人を超える数に達していると推定され,今後さらに増加することが予想される.このような状況下で脳卒中の予防,脳卒中急性期の治療および脳卒中後遺症の治療の重要性はますます増大するものと思われる.
 そんななか,『脳卒中ビジュアルテキスト』が7年ぶりに改訂され発刊された.この間,脳卒中治療は目覚ましい進歩がみられ,大きく変貌している.わが国では2005年10月に血栓溶解薬,組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)が発症3時間以内の脳梗塞に適用となったが,これが契機となって全国の脳卒中救急診療体制が整備され,また主要機関病院では脳卒中を集中的かつ専門的に診療するストロークケアユニット(Stroke Care Unit:SCU)も設置されるようになった.

—IDATENセミナーテキスト編集委員会 編—市中感染症診療の考え方と進め方第2集—IDATEN感染症セミナー実況中継

著者: 川島篤志

ページ範囲:P.289 - P.289

 「感染症診療は日本の医療で遅れている分野である」というニュアンスのコメントを見たり聞いたりする人も多いのではないだろうか? 筆者自身も感染症診療や臨床推論に関連する講演でも頻用するが,同時にこの数年で感染症診療のボトムアップが進んでいるのを実感する.その最大の貢献者はIDATEN(Infectious Diseases Association of Teaching and Education of Nippon)と言っても過言ではない.もしIDATENという言葉にピンとこない方がおられれば,HPの閲覧や周囲の若手医師に「IDATENって何?」と聞かれることをお薦めする1)
 さて,IDATENは過去にも複数の書籍を刊行している2).それぞれ秀逸であるが,今回はセミナー実況中継「風」の体裁で,施設内・地域内での感染症診療の質向上に心強い1冊として出版された.セミナーは夏と冬に行われているが,日程やあまりの人気で「狭き門」となっている.サマーセミナーはBasic編と位置付けられているが,「風邪」を含めてよくある感染症から,比較的稀で対応困難になりかねない疾患・状態への備え(海外渡航帰りの発熱やHIV診療,集中治療),感染症診療の原則や小児診療,予防(ワクチン)についても網羅されおり,大変ぜいたくなセミナーである.これらがUpdateされ,カラー図表が豊富な書籍として一般公開されたことは,本当にありがたいことである.個人的には筆者自身が施設責任者としてかかわった2013年の「IDATEN Summerセミナーin福知山」がBaseになっているのも感慨深い3)

—本田美和子・イヴ・ジネスト・ロゼット・マレスコッティ 著—ユマニチュード入門

著者: 中村耕三

ページ範囲:P.313 - P.313

 「これは魔法だ」.
 テレビでユマニチュードの番組を見た感想である.認知症を発症しケアが困難な「困った,手のかかる人」になってしまった人が,来日したイヴ・ジネストさんのユマニチュードのケアを受ける.1時間程のケアの終わりには,その「困った人」が「ありがとう」とお礼を言うようになり,Vサインを送ったり,イヴ・ジネストさんの頬に別れのキスをしたり,自分で立ち,歩いたりする.ケアを見守っていた家族からは「まったく認知症を感じなかった」など,夢のような出来事に驚きと感謝の言葉が続く.

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

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60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

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60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

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59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

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56巻7号(2019年6月発行)

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増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

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特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

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