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雑誌目次

雑誌文献

medicina53巻5号

2016年04月発行

雑誌目次

特集 心電図を詠む—心に残る24症例から

著者: 香坂俊

ページ範囲:P.587 - P.587

 心電図の読み方を示してくれる教科書は数多く存在する.米国ではMarriott1)やDubin2)らによるテキストが標準的であり,マニアックな向きはChouなどを引用する3).他方,かなり専門的ではあるが,Coding(ミネソタコード)を学ぶためのO'Keefeなどといったテキストも存在し4),こちらは循環器内科専門医試験の際などに人気を集める.
 わが国でも非常に読みやすい教本やマニュアルが幾つか存在し,なかには秒単位で心電図が読めるようになったり5),あまつさえ小学生を対象としたものまで存在するという6).心電図を現場で活用するに当たっては,こうした成書を読み込むことによって基本的な「型」を身につけることができよう.

特集の理解を深めるための25題

ページ範囲:P.707 - P.711

座談会

心電図の勉強の王道とは?

著者: 香坂俊 ,   西原崇創 ,   佐藤宏行

ページ範囲:P.588 - P.595

香坂 今回の特集では数多くの「心に残る」心電図を紹介していただきました.典型的な教科書に載るような波形を出してくれた方もいますし,その1枚に文字通り命がかかっていたような所見を紹介してくださった方もいます.なかには徹底的にすべてのパーツを読み込むことで病像の本態をあぶり出すという,名人芸のような読影もありました.
 こうした多彩な内容を踏まえて,今回の座談会では,
心電図を系統的に学び,身近なツールとして使っていく
ためにはどうすればよいか,本特集の具体的な内容を紹介しながら話していきたいと思います.ゲストとして,心電図や不整脈,電気生理学を教えている立場から卒後20年目になる西原先生と,若手代表として専修医2年目(収録時)の佐藤先生をお招きしました.

Overview

教科書的な心電図のまとめと本特集のねらい

著者: 香坂俊 ,   猪原拓

ページ範囲:P.596 - P.602

 本号で心電図の特集を組むにあたって,その内容の簡単な紹介とともに,心電図読影のイロハを冒頭に掲載させていただく.その意図としては,
 ①総論から入っていきたい読者も各論の心電図を参照できるように,
 ②各論から入っていきたい読者も全体像を把握できるように,
との考えからである.また本稿を事前に各執筆者に送付し,この知識をベースにして各原稿を依頼させていただいている.

P波にかかわる心電図

左房拡大

著者: 赤石誠

ページ範囲:P.604 - P.607

ポイント
●心房の興奮伝播はP波に反映される.左房が拡大すると心房内の伝導速度は遅くなり,伝導時間が延び,V1のP波の後半の陰性部分が大きくなる(Morris Index).
●心房の拡大は,必ず心房細動をきたす.よって洞調律でP波があるうちは,左房拡大はそれほどでもないといえる.
●大きな左房は左室を圧排し,QRS波形を変化させる.

PQ延長

著者: 村木浩司

ページ範囲:P.608 - P.610

ポイント
●PQ間隔延長は,若年者では迷走神経の緊張が原因であることが多く予後良好であるが,高齢者では心房細動発症やペースメーカー植込みの危険因子であるので,慎重な経過観察が必要である.
●PQ間隔延長に脚ブロックを合併する場合は,高度の伝導障害(3束ブロックなど)の可能性があるので,Holter心電図を含めて精査を行う.
●一見,PQ間隔延長に見えるもののなかには,2度ないしは3度房室ブロックが隠れていることがある.特に徐脈がある場合は丹念にP波を探す必要がある.

P波,PQ segmentから心房梗塞を読む

著者: 小川聡

ページ範囲:P.612 - P.614

ポイント
●急性心筋梗塞例で心房性不整脈を認めた場合,心房梗塞の合併を疑う.
●P波形の変形,特に陰性P波は心房Q(Qa)を疑う.
●PQ segmentの偏位は心房T(Ta)の異常を示す.
●Qa,Taの異常は経時的に変化するので12誘導記録をこまめに撮ること.

QRS波にかかわる心電図

脚ブロックと軸偏位

著者: 水野篤

ページ範囲:P.616 - P.618

ポイント
●関節リウマチのブロックに注意する.
●アミロイドーシスを起こす原因疾患があっても,必ず心アミロイドーシスになるとは限らない.

左室肥大

著者: 山根崇史

ページ範囲:P.620 - P.623

ポイント
●心電図を読む場合にはまずスケールを確認する.
●心電図で左室肥大が疑われる場合には,必ず聴診して心雑音を確認する.
●心電図で左室肥大を認める患者が失神を起こした場合には,大動脈弁狭窄症などの基礎心疾患が隠れている可能性があるため注意する.

虚血(ST部分)

心に残る症例から—ST低下に惑わされるな

著者: 山科章

ページ範囲:P.626 - P.629

ポイント
●急性心筋梗塞の局在診断はST上昇と異常Q波の誘導で行う.ST低下では判断できない.
●下後壁の急性心筋梗塞を疑った時は必ず背部誘導,右側胸部誘導を記録する.
●標準12誘導心電図でST上昇が捉えられないSTEMIがある.

左冠動脈主幹部病変

著者: 沼澤洋平

ページ範囲:P.630 - P.632

ポイント
●急性心筋梗塞患者の心電図は,症例によって千差万別である.
●左冠動脈主幹部病変の典型的な心電図は,aVR誘導のST上昇と広範なST低下である.
●aVR誘導が上昇している急性冠症候群では,左主幹部病変や重症3枝病変などの広範囲の虚血が示唆される.

急性冠症候群

著者: 小船井光太郎

ページ範囲:P.634 - P.637

ポイント
●若年女性の急性冠症候群は稀なうえに非典型的症状であるため見逃されることが多く,同年代男性に比べて予後が悪い.
●aVR誘導でのST上昇は,左冠動脈主幹部閉塞をはじめとした緊急事態を示唆する.
●たこつぼ心筋症と前壁ST上昇型心筋梗塞との鑑別では,心電図上aVR誘導でST低下があり,V1でST上昇が認められない場合はたこつぼ心筋症の可能性が高い.
●心電図だけでは病態をピンポイントで特定できるとは限らない.心電図はきっかけとして,多角的な評価を行う.

責任病変の考え方

著者: 茂木聡

ページ範囲:P.638 - P.641

ポイント
●Ⅱ,Ⅲ,aVFでST上昇をきたす下壁梗塞は右冠動脈だけでなく,回旋枝が責任病変であることがある.
●多枝疾患患者のSTEMIの治療は一期的に行うことでアウトカムが改善する可能性があるが,リスクを十分に考慮する必要がある.

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)後のST上昇

著者: 金子英弘

ページ範囲:P.642 - P.645

ポイント
●経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)直後に多肢冠動脈攣縮をきたした症例を経験した.
●術直後で患者は挿管されていたため,胸痛などの自覚症状の有無は不明であり,心電図が診断の鍵であった.
●TAVIではこの他に房室ブロックなどさまざまな合併症が起こりうるが,その診断にあたって心電図は重要な位置を占める.

右室負荷

著者: 田村雄一

ページ範囲:P.646 - P.648

ポイント
●急性右心負荷は陰性T波のみで現れることが多い.
●古典的な急性肺塞栓症の心電図所見(S1Q3T3,肺性P波,右軸偏位,右脚ブロック)は当てにならない.

明日から使えるモニター心電図

著者: 熊澤淳史 ,   小原章敏

ページ範囲:P.650 - P.652

ポイント
●Ⅱ誘導のみのモニター心電図では胸部誘導の変化を捉えることができず,急性心筋梗塞の検出率は高くないが,CM誘導を用いれば胸部誘導の変化を検出できる.
●CM誘導を用いることにより病変特異的なモニターとして,病棟などで活用できる.

不整脈

嚥下誘発性心房頻拍

著者: 大西尚昭 ,   中川義久

ページ範囲:P.654 - P.656

ポイント
●巣状興奮タイプ(異所性)の心房頻拍の場合は,12誘導心電図でのP波の極性から頻拍の起源を推定することができる.
●左房起源か右房起源か,高位起源か低位起源かで大別して考えると理解しやすい.
●嚥下誘発性心房頻拍は稀な疾患ではあるが,ときおり臨床現場で認める.薬剤が無効な場合でもカテーテルアブレーションが奏功することもある.

発作性上室性頻拍(PSVT)

著者: 池上幸憲

ページ範囲:P.658 - P.661

ポイント
●narrow QRS tachycardiaの鑑別にPSVT,心房頻拍,心房粗動が挙げられる.
●鑑別には頻拍中のP波/逆行性P波とQRSとの位置関係に注目する.

WPW症候群

著者: 佐々木康博 ,   北井豪

ページ範囲:P.662 - P.665

ポイント
●カテーテルアブレーションでの治療を検討する際は,副伝導路の局在診断が重要である.
●顕性WPW症候群ではQRS波に早期興奮を表す特徴的なΔ波を認める.V1誘導においてΔ波-QRS波の形状から大まかな副伝導路の局在が推測できる.
●ただし,Δ波がないからといってWPW症候群でないとは断定できない.間欠的にΔ波が出現する症例や,順行性の房室伝導はなく逆行性の室房伝導のみもつ症例もある(潜在性WPW症候群).
●Kent束を介した心室早期興奮が左室非同期収縮を生じ,心機能低下をきたすことがある.

心房頻拍(AT)

著者: 井上耕一 ,   田中耕史

ページ範囲:P.666 - P.669

ポイント
●リズムをみる際,Ⅱ誘導はP波もQRS波も大きく記録されるため,評価に適した誘導である.
●心房頻拍(AT)のコントロールが難しい場合,治療法の選択肢にカテーテルアブレーションがある.
●ATが長期間持続したために心機能が低下し頻脈誘発性心筋症になった場合,ATを治療することで心機能の回復が見込まれる.

Ic flutterとBrugada型心電図

著者: 相澤義泰 ,   松橋智弘

ページ範囲:P.670 - P.675

ポイント
●Naチャネル遮断薬は,時として心房細動を粗動化する(Ic flutter).
●2:1心房粗動はF波の同定が困難なことがある.
●ST上昇を見た場合,急性心筋梗塞,心膜炎などをまず鑑別する.
●Naチャネル遮断薬は,Brugada型心電図を顕在化させる場合がある.

心室頻拍—抗不整脈薬の光と影

著者: 里見和浩

ページ範囲:P.676 - P.679

ポイント
●右脚ブロック型の比較的狭いQRS幅を有するwide QRS頻拍を見たらベラパミル感受性心室頻拍を考える.
●本頻拍は,ベラパミル5mgの静注でほぼ停止し,40mg錠 3錠 分3内服で予防効果もある.
●Ⅰ群抗不整脈薬は催不整脈作用をきたす可能性があるが,この作用を利用して頻拍の誘発に用いることがある.

心室細動(VF)

著者: 鈴木健樹

ページ範囲:P.680 - P.682

ポイント
●心室細動(VF)を見たらすぐに電気的除細動を含む心肺蘇生を行う.
●VFが落ち着いたら,VFが起こった理由を考える.
●VFを引き起こした原疾患の治療を行う.
●突然死の1次予防,2次予防には植込み型除細動器が有用である.

心電図が足を引っ張った症例

著者: 齋藤雄司

ページ範囲:P.684 - P.688

ポイント
●現場の心電図はいつも教科書通りではない.柔軟な思考が患者を助ける.
●同僚,コメディカルの心電図解釈には常に真摯に耳を傾ける.一歩立ち止まって「そうかもしれない」と考える余裕をもつ.
●患者への心電図説明も積極的に行う.信頼関係構築に役立つ.

T波

QT延長

著者: 永井利幸

ページ範囲:P.690 - P.693

ポイント
●QT延長にはさまざまな「型」が存在する.
●QT間隔を評価する際,特にT波の終点に注意する.
●先天性QT延長症候群(LQT2)では,音刺激や情動によりQT時間が著明に延長することがある.
●QTc時間の著明な延長に代表されるハイリスク例に対しては,突然死予防のため,β遮断薬,植え込み型除細動器を考慮する.

電解質異常

著者: 桑原政成

ページ範囲:P.694 - P.697

ポイント
●12誘導心電図でT波増高,P波消失(減高)を見たら,高カリウム血症を疑う.
●水様性下痢が主訴の高カリウム血症もありうる.
●高齢者では,既往がなくても急激な腎機能障害・高カリウム血症を認めることがある.
●高カリウム血症では,突然徐脈を呈することがあり,モニター装着と緊急対応できる体制を整えておく.

読影にあたっての視点・論点

スクリーニング心電図を深く考える

著者: 猪原拓

ページ範囲:P.698 - P.701

ポイント
●スクリーニング心電図の位置づけは各国によって異なる.
●一律に推奨されていない要因としては,個々の心電図所見に介入を加えても予後改善に結びつく確証が得られていないことに起因する.
●個々の心電図所見のみでなく,症例全体のリスクに目を向ける必要がある.

1枚の記録から深読みへの挑戦

著者: 三田村秀雄

ページ範囲:P.702 - P.704

ポイント
●V1のST上昇を見たら,3つの病態を頭に浮かべる.
●どんなにQRSやSTの異常が顕著であっても,心電図はP波から読む.
●複数の心電図所見が観察されたときには,それら相互の関連性を考える.
●心電図診断で終わりではなく,病変部位や原因診断に迫る努力が必要である.
●心電図解読をマネージメントに反映させる臨床的応用能力も重要である.

連載 Webで読影! 画像診断トレーニング・1【新連載】

消化管病変あれこれ

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.581 - P.582

次の3症例について,どのような病態が推定できますか? また,診断は何でしょうか?
症例1 30代女性.朝から腹痛と嘔吐が出現.既往歴なし.生もの摂取歴や近くに同様の症状の人はいない.視診・触診で腹部膨満あり.
症例2 60代男性.2時間前より下血が出現し,救急搬送.腹痛はなく,鮮血が肛門から出ていることを確認した.詳細不明だが,以前も下血での入院歴がある.血圧 90/55mmHg,心拍数100回/分,血液検査でHb 9.8g/dL.
症例3 40代男性.4日前より発熱と腹痛を認め,昨日より右下腹部痛の増強があり受診.触診で右下腹部に腫瘤を触知.体温38.5℃.血液検査はWBC 20,000/μL(好中球83.2%),CRP 16.89mg/dL.

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・13

大動脈弁狭窄症(AS)患者の診かた

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.712 - P.718

症例
70代女性.農業に従事.
病歴 以前から高血圧症で近医加療中であった.今回,心雑音の精査のため当院へ紹介された.農作業もできており,明らかな胸痛・息切れの自覚はなく,失神の既往もない.

目でみるトレーニング

問題799・800・801

著者: 岩崎靖 ,   河岸由紀男 ,   渡邊奈津子

ページ範囲:P.720 - P.725

Choosing Wisely Japan その検査・治療,本当に必要ですか?・7

ケース:30代男性,血管炎疑いでの検査

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.735 - P.736

 Choosing Wiselyは,エビデンスに基づいた診断や治療の選択ができるように,医師と患者の対話を促し,有害事象につながるリスクの高い過剰診療や価値の低い検査を減らそうという世界的キャンペーン活動である.
 具体的な活動として,各国の臨床医学系学会は,推奨リストを挙げている.今回はCanadian Society of Endocrinology and Metabolismからの推奨を表1に示す.
 では,今回のケースをみてみよう.

書評

—IDATENセミナーテキスト編集委員会 編—市中感染症診療の考え方と進め方 第2集—IDATEN感染症セミナー実況中継

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.611 - P.611

 IDATEN(Infectious Disease Association for Teaching and Education in Nippon:日本感染症教育研究会)から『市中感染症診療の考え方と進め方 第2集』が出版された.「IDATEN感染症セミナー実況中継」と副題が付いている.IDATENにより夏と冬に行われ,受講希望者の多い感染症セミナーの2013年サマーセミナーにおけるレクチャーを基にした内容である.「系統的に感染症を学ぶために受講したい」と思いつつ未受講の身にとっては,朗報である.
 プライマリ・ケア医の診療において,感染症の占める範囲は広い.それ故,市中感染症診療の知識と経験はきわめて重要である.本書では市中感染症診療の課題に対し,良きアドバイスとなるであろう項目立てとなっている.いくつか挙げてみると,「小児の発熱へのアプローチ」「予防接種入門」「風邪の診かた」「肺炎のマネジメント」「尿路感染症のマネジメント」「PID・STIのマネジメント」「非専門家のためのHIV感染症のマネジメント」となる.われわれが日々遭遇する具体例の提示の後に,おのおのへの対応が記述され読みやすい.

—松村理司 監修 酒見英太 編 京都GIMカンファレンス 執筆—診断力強化トレーニング2—What's your diagnosis?

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.624 - P.624

 前著『診断力強化トレーニング』に引き続き7年の歳月を経て出版された待望の続編である.監修者である松村理司先生が第1弾の序文のなかで述べられていた,日本の臨床研修で不足しているのが「診断推論の徹底した訓練」であるという指摘は,現在でも続いていると感じる.この涵養には多くの医師は10年程かかるのではなかろうか.初期研修では,病歴聴取の型やコモンな疾患に関する一般的な知識を習得することが可能であるが,後期研修を終えたとしてもまれな疾患は遭遇する機会に乏しく,そのような疾患は鑑別の仕方もわからないものである.より深い臨床上の疑問や知恵というのは,ケースカンファレンスで扱われる類いまれな疾患や,コモンな疾患のまれな徴候への洞察により生まれる.そのための教育手法はcase discussionであると私は思っているが,この環境がなかなかできない.私は京都GIMカンファレンスには出席したことがないのだが,その環境ができているであろうことをこの本から察することができる.
 熟練者の思考プロセスを敷衍することが,臨床教育上最も重要であり,そのシラバスとして前書と本書が存在していると私は考えている.通常の診療をしていても,おそらく10年に1回程度しか経験しない症例から臨床上の深い知恵が生まれるが,その経験には時間と空間を必要とする.この本は実は時間を買っているのである.clinician educatorを目指す医師はcover to coverで熟読すべき必携の本であろう.編集者である酒見英太先生が発案されたClues,Red Herring,Clincher,Clinical Pearlsという,前書から引き継がれている体裁にこの本の深みを感じ取るヒントがある.病歴と身体所見,付け加えられる検査所見(病歴と身体所見があくまで情報の中心というコンセプトは随所に垣間見られる)を同じように見せられても,初学者と熟練者では見ているところが異なることに気付かない.適切な指南者がいて症例から学ぶべき道筋が得られるものであり,それがこの体裁に現れている.ともすると堅苦しくなりがちなケースカンファレンスを,その強引とも言えるタイトル命名!(この辺りは関西人の発想であろう)とその種明かしというオブラートで楽しく包んでいる.

—谷口清州 監修 吉田眞紀子,堀 成美 編—感染症疫学ハンドブック

著者: 岡部信彦

ページ範囲:P.649 - P.649

 感染症疫学とは,文字通り感染症を対象として,その感染症が「1)普通ではない状況にある時」「2)予想外の問題が発生している時」「3)社会的にインパクトがあり公衆衛生的対策が必要な時」「4)迅速な対応が求められる時」などに,担当者が“発生現場で”その原因を追究し(犯人の特定とは異なる),再発防止策を提言するために駆使する疫学です.これはすなわち,実地現場での疫学─FieldでのEpidemiology─である,と言えます.
 近年エボラ出血熱,MERSなどが国内外で大きな話題となりましたが,そのような場面ではもちろん患者の診断と治療がまず重要です.診断と治療は医療の担当ですが,その拡大の防止,そして火を消し,再発防止のための方策を考えることが,実地疫学の担当になります.

—水口 雅,市橋 光,崎山 弘 総編集—今日の小児治療指針—第16版

著者: 黒木春郎

ページ範囲:P.705 - P.705

 人は常に社会的局所でのみ生活する.自分の身の回りとその仕事,誰もがそこからの視点で世界を見る.そしてそのことの限界から逃れきれない.医師であっても他の職業であっても同様である.臨床医を例にとれば,働く場所が診療所か集中治療室かで求められるものは異なる.そうすると,己の発想も思考もいつの間にか自分の環境に規定されてくる.開業医と勤務医の乖離はそこから生じる.
 本書をそばに置くことで,そうした限界を常に意識できる.そして時には超えることも可能となる.小児科医に求められるものは何であろうか? その専門性とは何であるのか? 小児科の臨床医であれば,自分の専門でない分野に対しても,小児に関連する全領域に少なくとも言及できる素養は必要である.本書はその要求に応えるものである.

—日本口腔・咽頭科学会 監修—口腔咽頭の臨床—第3版

著者: 住田孝之

ページ範囲:P.726 - P.726

 『口腔咽頭の臨床 第3版』がこのたび出版された.本書はこの領域における揺るぎない良書であり,日本口腔・咽頭科学会が1987年に設立されて以降,1998年に初版が,2009年に第2版が,そして2015年に第3版が上梓されるに至っている.学会が監修している権威ある臨床に役立つテキストが,日本口腔・咽頭科学会理事長の吉原俊雄先生の先導によりさらなる改訂がなされ,パワーアップされている.
 本書の第一の特徴は,耳鼻咽喉科のみならず他科との境界領域となる口腔咽頭というきわめて複雑かつ多機能な頭頸部の重要な部位を取り扱っており,全身疾患との関連にも焦点を当てていることである.内科,外科,小児科,整形外科,形成外科,皮膚科,歯科などを専門とする医師にとっても有用な書になっている.第二に,構成が簡潔明瞭で,図表・写真の占める割合が大きいことである.基本的に左頁にテキスト,右頁に図表・写真というコンパクトな構成をとっている.項目も疾患の定義,症状と所見,診断,鑑別診断,治療,予後とコンパクトで明解である.第三に,新たな概念・知見・手術手技などが追加提示されていることである.診断推論や臨床推論の力強い助けになる有用な情報が潤沢に盛り込まれており,日々の診療現場での活躍が期待できよう.

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.744 - P.745

購読申し込み書

ページ範囲:P.746 - P.746

次号予告

ページ範囲:P.747 - P.747

奥付

ページ範囲:P.748 - P.748

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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