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雑誌目次

雑誌文献

medicina53巻6号

2016年05月発行

雑誌目次

特集 内科救急サバイバルブック—院内救急&地域でのマネジメント

著者: 濱口杉大

ページ範囲:P.755 - P.755

 市中で緊急事態が生じた場合,第一発見者は患者本人,家族,友人,あるいは市民であり,次に救急車でかけつけた救急隊員が対応し医療機関へ搬送後,医師が引き継ぐ.院外発生の救急医療ではこうした連係プレーが重要である.このことを踏まえて,この10年ほどの間にAED(自動体外式除細動器)の設置や一般人向けのBLS(一次心肺蘇生法)の講習会が増加し,救急隊による早期救命処置の範囲も拡大された.また各病院でACLS(二次心肺蘇生法)などの救急蘇生コースが開催され,多くの医師が参加している.さらに全国多数の施設にドクターヘリが配備され,搬送における時間的障壁が一部解決されている.
 このように発展してきた日本の救急診療であるが,「院内救急」という分野はまだ十分議論されていない.通常,第一発見者は医療関係者であることが多く,そこに市民や救急隊は存在しない.また,場所が院内であることから,医療介入までの時間が短い.そして何より大切なことは,緊急事態の原因が救急外来での症例とは異なるケースも多く,異なる鑑別疾患,異なるマネジメントを要求される場合があることである.

特集の理解を深めるための24題

ページ範囲:P.878 - P.881

座談会

地域における院内救急・救急医療

著者: 濱口杉大 ,   中桶了太 ,   石山貴章

ページ範囲:P.756 - P.765

濱口 院内救急はいわゆる一般的な救急医療と異なり,救急医ではなく,主治医や当直医,場合によっては研修医が対応することがほとんどかと思います.しかし地方病院は医師や医療スタッフの数が少なく,検査機器などの設備も十分ではないことが少なくありません.加えて,院内救急の場合はすでに何らかの理由があってその病院に入院しているわけで,通常の救急搬送のように「うちでは対応できないから」と医学的理由だけで高次医療機関へ転送することが容易でないケースもあります.
 そこで今回,「院内救急」と「地域でのマネジメント」に焦点を当てて,特に地方の中小病院で地域医療を担っている先生方の一助になればと思い,本特集を企画しました.石山先生は新潟県南魚沼市の基幹病院,中桶先生は日本で最も離島が多い長崎県でへき地医療に携わっていらっしゃいます.本日は地域医療の現状を踏まえて,院内救急への対応をご議論いただければと思います.

症候別 内科救急マネジメント

意識障害

著者: 斎藤穣

ページ範囲:P.768 - P.772

ポイント
●高齢者が多いこと,医療行為の介入があること,病院によっては検査や治療が制限されることを意識して対応する.
●バイタルと一緒に血糖を測定することを忘れない.
●効率よく迅速に「AIUEOTIPS」を使って,見落としがないように鑑別を行う.

呼吸困難

著者: 岸野宏貴

ページ範囲:P.773 - P.775

ポイント
●入院患者の呼吸困難は命に関わる重篤な状態になるケースもあり,速やかに診断する必要がある.
●基礎疾患・病歴が診断のために重要であり,それを踏まえたうえで診察・検査を行っていく.
●エコーは自分で行うことができ,侵襲も少なく呼吸困難の鑑別においても有用である.専門医レベルでなくとも,ある程度使えると診断の助けになる.
●地域の病院では検査や治療が限られることも多い.どこまで自院で行うか,あらかじめ想定しておくことも必要である.

胸痛

著者: 高橋文彦 ,   後藤全英

ページ範囲:P.776 - P.779

ポイント
●胸痛患者で緊急治療を必要とする4大疾患は,急性心筋梗塞,自然気胸,大動脈解離,肺血栓塞栓症である.
●急性心筋梗塞(急性冠症候群)は頻度が高く,かつ見逃してはいけない疾患である.
●典型的な症状や心電図所見を示さない急性心筋梗塞(急性冠症候群)患者も少なくない.
●地方の中小病院では,救急搬送の適応も含め後方病院との連携が重要である.

ショック

著者: 木佐健悟

ページ範囲:P.781 - P.784

ポイント
●ショックの患者はいつ発生するかわからない.自院でどこまで診るか,普段から意識しておくことが必要となる.
●鑑別には病歴が重要.院内発症は救急外来より病歴の情報が多い.なるべく入院時に情報を集めておく.
●治療方針を考える際には,検査や集中治療がどこまでできるかから逆算して考える.

吐下血・血便

著者: 佐々尾航

ページ範囲:P.785 - P.789

ポイント
●消化管出血の頻度は年々増加しており,プライマリケアにおける初期対応を知っておく必要がある.
●上部消化管出血か下部消化管出血かの判断が,診療方針決定においてきわめて重要である.
●診断にあたって,問診により発症様式や便の性状を適切に聴取する.
●内視鏡検査は出血源検索や治療として有用だが,一般の地域病院では適応に留意する.
●リスクスコアが報告されており,内視鏡治療や専門病院への搬送の適否に用いることもできる.

発熱

著者: 山梨啓友 ,   古本朗嗣 ,   前田隆浩

ページ範囲:P.791 - P.797

ポイント
●院内発症の発熱でフォーカスがはっきりしない時は,血管内感染症の可能性を考える.
●血液培養をしないままで抗菌薬投与に進まない.
●治療期間は,血液培養陰性化してからの期間で考える.

けいれん

著者: 大阿久達郎

ページ範囲:P.798 - P.801

ポイント
●けいれんをみたら,まずは気道(A)・呼吸(B)・循環(C)の評価を行う.
●「けいれん=てんかん」ではない.予後の悪い急性症候性発作でないかを検討する.
●原因検索と同時に,抗けいれん薬による治療を迅速に行う.投与量に制限のある薬剤が多いので注意が必要である.
●予防の必要な症例かを検討し,さらに部分発作なのか全般発作なのかを鑑別したうえで薬剤を決定する.

腹痛

著者: 村田健

ページ範囲:P.803 - P.806

ポイント
●緊急疾患を見逃さないために,最初に第一印象とバイタルサインを確認する.
●病歴聴取と身体診察を基に解剖学,患者背景,痛みの性質,疾患頻度から腹痛の鑑別疾患を想起する.
●「緊急性のある疾患」→「見逃しやすい疾患」→「よくある疾患」の順に鑑別疾患を考える.
●診断が確定しない場合は,症状・所見の経時的変化を慎重にフォローアップする基本姿勢が重要である.

せん妄

著者: 高橋麻衣子 ,   玉井杏奈

ページ範囲:P.807 - P.811

ポイント
●せん妄の頻度は意外と多いが,見逃されている.特に低活動型せん妄に注意する.
●せん妄は予後が悪い.まずは予防が大切であり,取り除ける増悪因子がないか検討する.
●薬は緊急事態のみ使用する.その際,副作用を加味して,どの薬剤を使用するか選択する.

皮疹

著者: 井上陽介

ページ範囲:P.814 - P.817

ポイント
●入院患者に起こる皮疹を診断するには,全身状態のチェック,皮疹の状況,病歴の確認が欠かせない.
●薬剤などが原因で起こるアナフィラキシーショックは,緊急性が高く,適切な対応が必要である.
●緊急性の低い疾患のなかにも,適切な対応を行わなければ重篤化したり,院内集団発生を起こす疾患がある.

嘔気・嘔吐

著者: 中桶了太

ページ範囲:P.818 - P.821

ポイント
●突然に発症した嘔気・嘔吐であっても,入院患者では発症前の状況や服薬についてカルテ記録が役立つ.
●嘔気・嘔吐は消化管以外の原因でも発生しうるので,カルテの検査結果について見落としがないかチェックを行う.
●絞扼性イレウスでは,絞扼解除のために外科的な処置を急がなければならないので,疑わしいケースでは検査や腹部CT撮影をためらわない.
●嘔気・嘔吐の初期対応は上部消化管の減圧と,嘔吐により喪失した水分・電解質の補充を行う.
●嘔吐後に発生する誤嚥性肺炎に注意する.

頻脈・徐脈

著者: 中村宏信

ページ範囲:P.822 - P.825

ポイント
●「脈の異常=バイタルの異常」であり,緊急事態を示唆していることから,迅速かつ的確な対応が求められる.
●バイタルサインと問診(情報収集),身体診察を組み合わせて,速やかに病態を把握するよう努める.
●ショックの場合も多いため,診断の前にまず緊急処置を速やかに進める必要がある.
●心電図,エコーなどの簡便な検査も駆使することで,かなりの情報を得られる.

尿量低下—入院患者に対するその評価

著者: 石山貴章

ページ範囲:P.827 - P.830

ポイント
●尿量低下の評価で最も重要となるのは,使用薬剤とその開始タイミング,造影剤の使用有無なども含めた,丁寧な病歴聴取と身体診察である.
●乏尿患者に対するアセスメントは,まず血管内流量の評価から始まる.ただし,実地臨床において,これが難しい場合は多々ある.
●乏尿の原因を「腎前性」「腎性」「腎後性」から検索し,腎前性および腎後性は早期に発見,それを改善することが重要となる.尿路閉塞は,常に念頭に置く必要がある.
●ガイドラインでは,乏尿かつ急性尿細管壊死(ATN)を発症した患者に対して,ATN予防あるいは発症後の治療を目的としたループ利尿薬の使用を推奨していない.

心肺停止

著者: 青木信也

ページ範囲:P.831 - P.834

ポイント
●本当に予期せぬ(望まれぬ)心肺停止か.
●院内で統一した心肺蘇生法を訓練する(ACLS・ICLS).
●必要最低限の物品を整理整頓して準備する.
●エコーに慣れる.
●患者背景を意識して,原疾患を考える(5Hs&5Ts).

診断のコツ

病歴情報収集

著者: 鄭真徳

ページ範囲:P.835 - P.837

ポイント
●病棟急変時の情報収集においては,まず状況と患者の背景を把握することが重要である.
●情報源は,発見者・病棟スタッフとカルテである.
●中小規模病院においては,高次医療機関への搬送の必要性を迅速に判断する必要がある.

身体診察

著者: 平島修

ページ範囲:P.839 - P.842

ポイント
院内急変での最初の1分診察5項目
●“sick” or “not sick”を判断する(10秒)
●ベッド周囲,患者の体位を確認する(10秒)
●意識状態を確認する(10秒)
●足を触る(10秒)
●呼吸数を数える,同時に呼吸様式を診る(20秒)

基本的検査—血算,生化学,尿検査,心電図,単純X線,エコー

著者: 葛西孝健 ,   濱口杉大

ページ範囲:P.843 - P.846

ポイント
●地域の高齢患者にとって,QOLによっては夜間・休日も地方病院で検査を完結させたほうがよい場合がある.
●地方病院で働く医師は限られた医療資源を最大限に活用し,時には節約しながら診療するように努めるべきである.
●気胸や虫垂炎など救急診療でエコーが有用な場面が取り上げられるようになったが,客観性には乏しいかもしれない.
●X線透視撮影装置はX線撮影装置やCT装置よりも簡単な方法で起動できるので,時に有用である.

しておくべきこと・すべきこと

患者・家族への説明

著者: 笹本将継 ,   朝比奈利明

ページ範囲:P.847 - P.849

ポイント
●院内救急においても,インフォームドコンセントは実施されなければならない.
●高齢または認知症のある患者・家族へのインフォームドコンセントは,事前の準備や配慮が必要である.
●地域ではさまざまな状況が考えられ,臨機応変な対応が必要である.

高次医療機関へのコンサルテーション

著者: 小野剛

ページ範囲:P.851 - P.853

ポイント
●入院時に家族構成やキーパーソンを確実に把握しておく.ケアマネジャーからの情報も有用である.
●地域の高次医療機関の得意分野と対応不可能分野を把握しておく.
●コンサルテーションする高次医療機関の各診療科医師と,顔の見える関係を構築しておく.
●転院搬送時,搬送手段や医師同乗に関して,院内マニュアルの整備が必要である.
●高次医療機関へのコンサルテーションにおいて,情報通信技術(ICT)の活用が有用である.

院内教育—院内での「急変」にどう備えるか

著者: 武冨章

ページ範囲:P.854 - P.857

ポイント
●外来で予診を担当する窓口の看護師には,適切なトリアージ能力,危険予知能力が求められる.
●救急カートの整理整頓は院内救急への対処の第一歩.どのカートも同一の方法・内容で統一する.
●シミュレーション訓練において,人形に触れる前にDVDやネット上の動画を見せておくと,心理的な抵抗感が少なくなる.
●救急コールを行う際の基準づくりは,医師とコメディカルスタッフが共同で行う.

セッティング別 地域医療の救急対応

地方病院編

著者: 布施克也 ,   鈴木善幸

ページ範囲:P.860 - P.863

ポイント
●「さるもちょうしんき」.地域の小規模病院でも,最小限の武器で救急対応できる.
●バイタルサインから臨床診断する.
●救急事例から地域リスクを考える.

診療所(無床診療所・クリニック)編

著者: 落合紀宏 ,   長純一

ページ範囲:P.864 - P.867

ポイント
●診療所では,慢性疾患の患者と急性疾患の患者が混在し,なかには重症の患者が含まれうる.
●病院とは異なり,救急患者の診療のみに時間を割くことができず,検査も医師自身で行う必要もある.
●診療所での救急対応では,後方病院へ転送する必要性の判断を効率よく行うことがポイントとなる.
●普段から後方病院と,顔の見える関係をつくっておくことも重要な要素である.

訪問診療編

著者: 福島智恵美

ページ範囲:P.868 - P.872

ポイント
●訪問診療では,疾患の重症度のみでなく,家族の介護力や介護体制も考慮して治療方針を決定する.
●訪問診療は病棟のように頻回に診に行くことができず,検査も限られているため,急性疾患に対しては診断学的に弱い.
●患者の容態悪化に早期に気づけるよう,普段の状態をよく把握しておく.
●家族や介護者にも状態を確認し,診察にあたる.

離島編

著者: 加藤励

ページ範囲:P.874 - P.877

ポイント
●離島では出血に敏感になるべきである.
●処置を行う場合に考える軸が多く,1人での判断が迫られる.
●結果論では語れない,「やる勇気」と「やらない勇気」が求められる.

連載 Webで読影! 画像診断トレーニング・2

期せずして出会う悪性腫瘍

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.749 - P.750

次の3症例について,どのような病態が推定できますか? また,診断は何でしょうか?
症例1 70代女性.5年前に上行結腸癌の手術歴があり,毎年,再発チェックの腹部CTを施行している.昨年までは明らかな再発や転移を認めていなかったが,今回のCTで異常が指摘された.新規の症状や血液検査所見の異常はない.
症例2 60代男性.2年前に胆囊摘出術を施行している.定期受診の血液検査でγ-GTの上昇傾向が続いており,直近は1,123U/Lであった.腹部超音波検査にて異常を認めたため,さらなる精査目的で腹部CTを施行.
症例3 80代女性.2日前より発熱と下腹痛が出現し,食思不振となったため受診.診察上,右下腹部に腫瘤を触知.体温38.6℃.血液検査はWBC25,000/μL(好中球85.4%),CRP29.77mg/dL.精査のために腹部CTを施行.

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・14

僧帽弁逆流症(MR)患者の診かた

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.884 - P.891

症例
60代男性.無職.
病歴 生来健康で,これまで心雑音を指摘されたことはなかった.5年前に退職してからは健診も受診していなかった.2カ月前から労作時の息切れを自覚するようになり,近医を受診した.心不全と診断され,当院へ紹介入院となった.

あたらしいリウマチ・膠原病診療の話・11

免疫抑制薬の使い方②—吊り橋を渡るように

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.892 - P.897

各論(53巻3号のつづき)
2.カルシニューリン拮抗薬(シクロスポリン・タクロリムス)
 シクロスポリン,タクロリムスなどのカルシニューリン拮抗薬は,臓器移植領域における長い使用経験がある.いずれもIL-2の発現を阻害し,ヘルパーT細胞の活性化を抑制することによって免疫抑制作用を発揮すると考えられている*1.カルシニューリン拮抗薬の導入により,特に固形臓器移植のグラフト生存率は大きく向上し,死体腎移植の1年生着率は75%から87%に向上した.
 高度に脂溶性の化合物であり,経口内服した場合のバイオアベイラビリティが低い.シクロスポリンはタクロリムスと比較して腸管からの吸収が胆汁に依存するところが多く,患者間ないし同一患者内でのバイオアベイラビリティに差が生じる原因となる.

Choosing Wisely Japan その検査・治療,本当に必要ですか?・8

ケース:60代女性,リンパ節生検の部位

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.907 - P.908

 Choosing Wiselyは,診断や治療の選択において,エビデンスに基づいた医師と患者の対話を促す世界的キャンペーン活動である.有害な事象につながるリスクの高い過剰診療や,価値の低い検査を減らすことを目的としている.
 具体的な活動として,各国の臨床医学系学会は推奨リストを挙げている.今回は2014年4月2日にCollege of Family Physicians of Canadaが発表したリストの第1弾(第2弾は次回に紹介予定)を表1に示す1)
 では,今回のケースをみてみよう.

目でみるトレーニング

問題802・803・804

著者: 赤堀弘 ,   岩崎靖 ,   小川大輔

ページ範囲:P.910 - P.915

書評

—兼本浩祐,丸 栄一,小国弘量,池田昭夫,川合謙介 編—臨床てんかん学

著者: 田中達也

ページ範囲:P.767 - P.767

 てんかんは,2000年以上の前から難治の病として知られており,根本的な治療法の模索が現代までも続いている極めて特殊な病態でもある.世界の人口は約72億7000万人と報告されている(「世界人口白書2014」より).人口の約0.8%がてんかんに罹患していることから,全世界には,約5810万人以上のてんかん患者がいることになる.てんかんは治療費の面からも,各国の行政上の政策としても,非常に重要な課題と考えられている.
 日本の現在の人口は1億2000万人強となり,約100万人の患者が推定されているが,80%以上の症例では,きちんとした治療により発作はコントロールされており,通常の社会生活が十分に可能である.しかし,てんかんの大きな問題点は,偏見である.このため,学校生活,雇用,人間関係にさまざまな問題があり,社会的な弱者に対しての,法制度の整備も十分とは言えない状況にある.2011年と2012年に起きた,てんかん患者による悲惨な交通事故は,てんかん治療の社会的な問題の複雑さ,てんかん治療の重要性を再認識させられた.しかし,一面では,法制度整備の盲点を浮き上がらせたとも考えられる.

—今井博久,福島紀子 編—これだけは気をつけたい高齢者への薬剤処方

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.813 - P.813

 ポリファーマシーは患者に不利益をもたらす.コストが増大するだけでなく,副作用のリスクも高まるからだ.特に高齢者でリスクが高く,欧米ではそのエビデンスも蓄積してきている.急速に超高齢社会となったわが国でも問題となっており,われわれの一連の研究でもそのリスクが示されている.急性期病院への入院の原因となる急病のうち少なく見積もっても5%は薬の副作用によるものであった1).STOPP基準(Screening Tool of Older Person's potentially inappropriate Prescriptions criteria)によると,在宅医療の患者の約1/3の人々が不適切処方(Potentially Inappropriate Medication:PIM)を受けていたと報告されている2)
 このような状況で,ポリファーマシー患者の入院を受け入れている全国の急性期病院では,脱処方(De-Prescribing)の業務を行う役割を担っている.患者の利益と不利益をてんびんにかけながら処方分析を行い,不適切処方を減らす.退院時には,かかりつけ医師に電話で直接連絡を取り,退院時薬剤処方確認(Discharge Medication Reconciliation)を伝える.このような脱処方の任務を行うことが,ホスピタリスト医師の日常業務のうちの大きな部分を占めるようになった.

—佐藤健太 著—「型」が身につくカルテの書き方

著者: 志水太郎

ページ範囲:P.859 - P.859

 本書は,医学部を卒業して研修医となり,医師として初めて取り組む大事な仕事の一つ,カルテやその他の重要書類の書き方を示した本である.研修医がつまずきやすい箇所に関して,わかりやすい言い回しと例文を交えながら,順を追って丁寧に解説されており,著者の佐藤健太先生の指導医としてのお人柄,現場でのお仕事ぶりが透けて見えるようだ.
 内容は,「基本の型」「応用の型」「おまけの型」の3部構成となっている.

—日本医師会 編・発行 磯部光章,奥村 謙 監修 清水 渉,村川裕二,弓倉 整 編 合屋雅彦,山根禎一 編集協力—《日本医師会生涯教育シリーズ》 Electrocardiography A to Z心電図のリズムと波を見極める

著者: 杉本恒明

ページ範囲:P.883 - P.883

 本書は《日本医師会生涯教育シリーズ》の一つである.このシリーズでは,タイトルが“ABC”となっているものはよく見るが,“A to Z”というのは初めてである.書評の依頼をいただいたこともあって,「監修・編集のことば」を改めて拝見し,医学生,研修医,コメディカルスタッフ,あるいは専門医までも含めて対象とした,とあったのを見て,そのスケールの大きいことを知った.殊に,コメディカルスタッフを対象に含めたことに感心したのである.今日,看護師が専門領域を持つようになって,若い看護師たちの心電図に対する関心は極めて高く,よく知ってもいる.
 評者は平素,医療機器の一般家庭への普及を願ってきた.心電計もまた,そのような大衆化された医療機器と言える時代になっているのではないか,と考えていた.狭心症症状にしても,不整脈にしても,症状があるときの心電図が極めて大事である.このためには携帯型心電計がもっと利用されてよい.家庭血圧計の普及は日常の管理の面ばかりでなく,血圧というものの生理的,病態学的意義について医学的な新知見を提供しつつある.心電図記録においても,携帯型心電計はこのような付加的価値をもち得るものであり,医学・医療に貢献するところは極めて大きいはずなのだ,という思いがある.

—中根 実 著—がんエマージェンシー—化学療法の有害反応と緊急症への対応

著者: 相羽惠介

ページ範囲:P.899 - P.899

 本書を良書と呼ばずして何を良書と呼ぶのでしょう? 秀でた書物,優れた書物であることに異論を挟む読者はいないと思います.がん薬物療法の最前線で患者ケアに携わる医療者には,是非一冊お手元に置くことを万感の想いから強くお勧めします.著者のシャイな気質を反映してか,一見マニュアル本的な印象を受ける書名と装丁ですが,その内容は成書以上です.すなわち,成書にありがちな総花的で,内容に濃淡もなく,やたらに詳しい余分な記述といったものが一切ありません.臨床上のポイントを的確に抽出,詳述し,そして理解を助けるために美しいイラストと表を多用しています.知っておくべきキーワードは欄外に簡潔に説明されています.またMEMO欄とNote欄も設け,前者では大切な「用語」や「コンセプト」について詳解されていますし,後者では臨床上実際の場面で「どうしたらよいのか?」について指南されています.
 本書は「がんエマージェンシー」というくくりから,15項目にわたる章立てとなっています.確かに内容は,緊急的,救急的な病態・事象についての解説となっていますが,その病態を理解するために,腎臓内科,内分泌内科といった単子眼的,臓器診療科的見地からの狭い解説ではなく,広く臓器横断的であることはもちろん,生化学,分子生物学,臨床薬理学といったように基礎・臨床の双方を背景として詳述されているため,精緻な解説書となっています.さらには,患者教育やいわゆるムンテラと言われるIC(インフォームドコンセント)や情報提供にまで解説は及んでいます.例えば第2章「抗がん剤の血管外漏出」を見ると,通常のマニュアル書ではその対応法が形ばかり述べられる程度であるのに反し,本書では通常のマニュアル書が触れない皮静脈穿刺法を正統的に説明し,さらにはそのコツともいうべきノウ・ハウと終了までの観察法や記録方法にまで言及しています.これは,いかに著者が臨床医として優れて稀有な存在であるかを物語ると同時に,医療者教育に対する並み並みならぬ決意の表出でもあると思えます.目の前のがんエマージェンシーの患者さんをどうするか? 教科書の硬直した理屈・知識ではなく,ベッドサイド重視で実践を重んじ,柔軟でかつ即応できる医療者育成には本書のようなテキストが必要と考え,著者は執筆されたことと思います.

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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