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雑誌目次

雑誌文献

medicina53巻7号

2016年06月発行

雑誌目次

特集 抗菌薬の考え方,使い方—ホントのところを聞いてみました

著者: 笠原敬

ページ範囲:P.933 - P.933

 自分で編集をしたのだから,当たり前といえば当たり前なのかもしれないが,すごい特集になった.これぞ求めていた内容だ.「肺炎球菌性肺炎にペニシリンGってホントに使うんですか?」今まで何度言われてきた質問だろうか.一度たりとも相手が満足する返事ができた記憶はない.
 執筆者はずばり回答する.「肺炎球菌性肺炎にペニシリンGを使わないなんて愚の骨頂です」.そうか,そう言えば良かったのか.そうしたらみんな納得したのだろう.

特集の理解を深めるための20題

ページ範囲:P.1056 - P.1059

座談会

抗菌薬の適正使用これまでの10年,これからの10年

著者: 笠原敬 ,   青木眞 ,   矢野晴美 ,   岩田健太郎

ページ範囲:P.934 - P.943

知識は伝わったとしても,行動までは変わらない
笠原 抗菌薬について,普段,どのようなコンサルテーションがありますか.
岩田 現在,勤務する神戸大学病院では,年間およそ750例のコンサルテーションがあります.しかしIDATEN(日本感染症教育研究会)などで議論しているような感染症マニアは大学病院にはほとんどいません.大多数のドクターは感染症にあまり思い入れはありません.ほとんどの場合「なんだか患者さんの熱が下がらないので,診てください」,「いまの治療でいいかどうか,教えてください」といった依頼で,「ペニシリンはどう使うのか」というような勉強しているドクターが問いそうな質問はありません.僕がペニシリンについて質問を受けるとしたら,院外からのメールか,講演会場での質問くらいです.

呼吸器感染症

肺炎球菌性肺炎

著者: 忽那賢志

ページ範囲:P.946 - P.948

Question 1
肺炎球菌性肺炎にペニシリンGってホントに使うんですか? どんな症例だと使えるんですか? ホントのところを教えてください.
 最近はこういう「何でもすぐ指導医に聞く研修医」っていますよね.人に聞く前に自分で調べろって思いますよね.まあ仕方ないのでお答えしましょう.ハッキリ言って,肺炎球菌性肺炎にペニシリンGを使わないなんて愚の骨頂です.だって肺炎球菌性肺炎ってわかってるんだったらペニシリンGしかないじゃないですか.

マイコプラズマ肺炎

著者: 皿谷健

ページ範囲:P.950 - P.954

Question 1
最近マクロライド耐性のマイコプラズマ肺炎が増加していると聞きます.こういう患者さんにはマクロライドは無効なんでしょうか? ホントのところを教えてください.
 まず,マイコプラズマ肺炎の全体的な感染機序を知る必要がある.Mycoplasma pneumoniae(以下Mp)は気道上皮にP1蛋白を介して接着し,過酸化水素やBasemanらが近年報告したCARDS(community-acquired respiratory distress syndrome)toxinの放出も気道上皮障害に関与している(図1)1)
 さらに障害された気道上皮から放出される種々のサイトカインが好中球を誘導し炎症が惹起される.Mp自身による気道上皮障害のほか,Mpの菌体成分(リポ蛋白)は肺胞マクロファージのTLR-1,2,6で認識され菌体成分に対する宿主側の免疫応答による炎症が出現する.肺炎と一言で言っても,菌自体の障害と菌体成分に対する宿主の過剰な免疫応答による炎症の側面がある2).元来Mp感染は7割が自然治癒傾向を認め,肺炎に進展するのは10%程度であり,兄弟で同時期に発症して一人は上気道炎症状のみで治癒し,一人は入院が必要な肺炎となった,などといった状況は,宿主の免疫応答の差を示しているのかもしれない.

レジオネラ肺炎

著者: 大城雄亮 ,   新里敬

ページ範囲:P.956 - P.958

はじめに
 レジオネラ肺炎は,レジオネラ属菌(主にLegionella pneumophila:LP)による肺炎であり,市中肺炎の5%に満たない.しかし,重症例も多く,肺炎球菌性肺炎とは治療が異なることから,診断,治療に対する正しい知識が必要である.
 本稿では,治療ではキノロン系薬とマクロライド系薬のどちらを選択すべきか,診断に尿中抗原は信頼できるのか,ほかに診断方法はあるのかなど,臨床において悩ましい点を考えてみる.

気管支炎

著者: 工藤史明 ,   山本舜悟

ページ範囲:P.960 - P.962

Question 1
発熱,鼻汁や咽頭痛に加え,激しい咳や痰があるけれども胸部X線で異常を認めない高齢者に,気管支炎という診断でキノロン系薬を処方します.この診断は正しいのでしょうか? 本当はどうすればよいのでしょうか? 高齢者は治療を失敗したときのリスクが高いので,ついつい広域抗菌薬を投与しておきたくなります.気管支炎患者の抗菌薬について,ホントのところを教えてください.
 こうした症状を呈する患者は外来でよく出会うが,治療介入を要さない患者も多く感染症のfocusや病原微生物が意識されにくい.ここでは,感染症診療の基本に立ち返り,以下の3点から方針を検討してみる.

急性咽頭・扁桃炎

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.966 - P.970

Question 1
原因微生物の診断のために,何をどこまでやるのでしょうか? A群溶連菌迅速検査や培養検査は全例するのでしょうか? ホントのところを教えてください.
 急性咽頭・扁桃炎をきたす微生物はウイルスから細菌まで多岐にわたりますが,実際に治療適応があるのは,原則A群溶連菌のみとされます.よって,まずはA群溶連菌かどうかがわかればよいのですが,みなさんもご存じの通り,診断基準としてCentor Score(表1)があります.このスコアリングシステムに則って診療するとすれば,溶連菌かどうかが微妙である2点もしくは3点で迅速検査をするとよいことになります.しかし,迅速検査の感度は70〜90%程度とされ,十分とはいえません.そこで迅速検査が陰性でも溶連菌が強く疑われる場合には,培養検査を出して判断することがよく提示されます.しかし,培養検査は時間がかかりますし,日本ではこの2つの検査を同時に行うことは保険適用外となり,正直現実的ではありません.ではどうすればよいでしょうか?
 ホントのところ,簡単に言ってしまえば「Centor Scoreが2点か3点の患者さんに迅速検査を行い,原則初診時には培養検査は行わない」で良いでしょう.良くならない咽頭・扁桃炎患者,免疫不全患者,高齢者では培養検査を検討するとなります.

ニューモシスチス肺炎(PCP)

著者: 鎌田啓佑 ,   渋江寧

ページ範囲:P.972 - P.975

はじめに
 ニューモシスチス(Pneumocystis)は1909年にChagasによって発見され,その後,1980年代にHIV感染の流行とともに日和見感染症の起因菌として広く認識されることになった.近年ではPCP(Pneumocyctis pneumonia)予防薬とART(antiretroviral therapy)によりHIV患者のPCP(HIV-PCP)は減少傾向にあるものの,種々の免疫抑制薬使用の増加に伴いnon-HIV患者のPCP(non-HIV-PCP)は増加傾向にある.HIV-PCPとnon-HIV-PCPの間には臨床的に大きな違いがあり,それぞれの特徴を示した(表1).Non-HIV-PCPに関するエビデンスは,HIV-PCPと比較して乏しいが本稿ではそれを踏まえて,日常臨床における現実的なマネジメントを示したい.

血流感染症

Viridans streptococcus groupによる感染性心内膜炎

著者: 小川拓

ページ範囲:P.976 - P.979

Question 1
ペニシリンG(PCG)持続投与について教えてください.
PCG持続投与の根拠
ガイドラインでの位置づけ
 Viridans streptococcus groupによる感染性心内膜炎(IE)を治療するときに最も有効で使用経験に富む抗菌薬はペニシリンGである.これはAHA(America Heart Association),ESC(European Society of Cardiology)双方のガイドラインに明記されている.腎機能正常の場合は1日分として1,200〜2,400万単位のペニシリンGを,4〜6時間ごとに4〜6分割して点滴投与することが推奨されている.またAHAのガイドラインでは持続投与も分割投与と同様に推奨されている1〜2)

MRSAによる敗血症

著者: 上田晃弘

ページ範囲:P.980 - P.982

Question 1
血液培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたときに,侵入門戸の検出と合併症の検索のためにどんな検査をどこまでやればよいのでしょうか? 例えば全例経食道心エコーが必要でしょうか? ホントのところを教えてください.
 黄色ブドウ球菌による血流感染では,高率に他の臓器の感染症が合併しているとされ,マネジメントが変わるためその評価が必要である1).検索すべき他の臓器の感染症と手がかりとなる所見を表1に示す.

中枢神経系感染症

細菌性髄膜炎

著者: 土井朝子

ページ範囲:P.984 - P.987

Question 1
原因菌が不明の細菌性髄膜炎の治療では,CTRXやABPC,VCMやPAPMなどを併用すると聞きますが,結局カルバペネム単剤で治療することも多いです.抗菌薬選択について,実際にはどのようにされていますか? ホントのところを教えてください.
なぜ起炎菌が不明?
 細菌性髄膜炎は市中と院内発症で想定される起炎菌が異なり,比較的原因菌が限定される感染症です.また市中発症でも年齢により起炎菌は異なります(表1).まずは起炎菌を想定することからです.原因菌が不明な理由はいろいろありますが,
①抗菌薬投与後に髄液検査が行われた.
②血小板減少や凝固障害による出血のリスクがあり,髄液検査が行えなかった.
③抗菌薬投与前に髄液検査が行われ,多核球の増多を伴う細胞数上昇があったが,グラム染色陰性,培養陰性であった.
などがあるでしょう.①が最も多いと思います.

クリプトコッカスによる髄膜炎

著者: 小川吉彦

ページ範囲:P.988 - P.990

Question 1
アムホテリシンBもフルシトシンも使ったことがありません.使い方(溶解方法や投与時間なども)や副作用などの注意点とその対処について,ホントのところを教えてください.
 クリプトコッカス髄膜炎の治療としては,わが国の『深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014』では,「アムホテリシンBリポソーム製剤(L-AMB:アムビゾーム®)2.5〜6mg/kg 24時間ごとを4週間+フルシトシン(5-FC:アンコチル® 500mg錠)25mg/kg 6時間ごとの2週間」が寛解導入療法としての第一選択となっています1).アムホテリシンBは従来より使用されてきた非常に殺菌作用の強いポリエン系の抗真菌薬でしたが,腎上皮細胞への細胞毒性のために,腎障害がほとんど必発という状態でした.そこで新たに登場したのがアムビゾーム®です.このリポソーム化によって,真菌に選択的に作用できるようになり,腎障害という副作用の頻度を減らすことができるようになっております.それでもアムビゾーム®でも一定の割合で腎機能障害が起こることが知られております.実際に国内での発売前第Ⅱ相臨床試験結果でも7.6%の腎および尿路障害を認めたと報告されておりますが,急性腎不全に至った症例は118症例のうち1症例のみでした.実際に使用してみて問題になるのは,低K血症をはじめとした電解質異常と,悪心・嘔吐といった消化器症状です.併用する5-FCも高率に消化器症状を認めるほか,髄膜炎のtriasの1つである嘔吐が副作用で認められるというのが使い勝手を難しくしているところかと思います.そのために,やはり治療的腰椎穿刺(髄圧を25cmH2未満にする)を行い,少しでも原疾患による髄膜刺激症状を軽減させることは,副作用のモニターにも有用ではないでしょうか.実際に治療的腰椎穿刺を早期に行うことは,予後の改善にもつながることが近年報告されており2),ぜひとも診断時の髄液採取のみならず,診断後に髄圧を減らす目的での穿刺を行っておくべきでしょう.また推奨量の幅が1日2.5〜6mg/kgと非常に広いのも使い手の頭を悩ませるところです.筆者は日本人的にだいたいその中間の4mg/kgで使用する機会が多いように思いますが,高価な薬なので,無駄がないように使用するのも大切かと思います.
 溶解の方法ですが,これがなんとも煩雑で覚えられない! 注意点がいくつもあります.そのため,筆者はこれを使用する病棟に添付文書上の調整法が記載されたものをラミネート加工して下敷きにして置いていました.その注意点が下の4つ.

皮膚・軟部組織感染症

蜂窩織炎

著者: 片浪雄一 ,   早川佳代子

ページ範囲:P.992 - P.996

Question 1
蜂窩織炎が疑われる患者では,全例に抗菌薬が必要でしょうか.抗菌薬を投与せずに経過観察できる蜂窩織炎はありますか? その判断はどのようにされているでしょうか? ホントのところを教えてください.
蜂窩織炎とそれに“似て”見える病気①:非感染性疾患
 蜂窩織炎の診断は一般的に臨床所見(皮膚の発赤,浮腫,熱感など)に基づいて行います.発熱,倦怠感,悪寒を伴う場合もあります.以前の外傷(裂傷,擦過傷)や軽微な皮膚の損傷(髭剃り),皮膚の基礎疾患(癤,潰瘍,白癬)などがリスクとなります.蜂窩織炎に似て見える病気のなかには,経過観察や原因となる薬剤や曝露の中止で経過をみられるものもありますし,抗菌薬以外の治療が必要なものもあります.頻度が高いものとして以下があります.

骨髄炎

著者: 福島一彰 ,   本田仁

ページ範囲:P.998 - P.1002

はじめに
 骨髄炎は,骨に感染した病原微生物によって引き起こされる骨破壊を伴う炎症である.臨床的観点から,骨髄炎を下記の3つに分類するのが有用である1)

尿路感染症

腎盂腎炎

著者: 大串大輔 ,   原田壮平

ページ範囲:P.1004 - P.1007

Question 1
腎盂腎炎の原因微生物は大腸菌が多いと思いますが,最近ESBL産生菌,さらにCREといったものを聞きます.これらは何でしょうか?
ESBL産生菌とは
 すべてのペニシリン,セファロスポリン,モノバクタムの分解能を有するβラクタム系抗菌薬分解酵素である,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase:ESBL)を産生する細菌のことを指す.緑膿菌やアシネトバクターなどのブドウ糖非発酵菌がESBLを産生する例も報告されてはいるが,臨床的・疫学的に主に問題となるのは大腸菌,肺炎桿菌などのクレブシエラ属菌,Proteus mirabilisなどの腸内細菌科細菌である.本来これらはほとんどのβラクタム系抗菌薬に感受性があるが,接合伝達性プラスミドを介してESBL遺伝子を獲得することでESBL産生菌に変化しうる.かつては,ESBL産生菌は主に院内で分離される肺炎桿菌で認められていたが,近年は,外来患者から分離される大腸菌においてもしばしば認められるようになった1)

膀胱炎

著者: 羽山ブライアン

ページ範囲:P.1008 - P.1010

Question 1
最近は大腸菌でもESBL産生菌が増えてきていると聞きますが,膀胱炎ではどんな抗菌薬を使用すればよいのでしょうか? ホントのところを教えてください.
 Extended spectrum β-lactamase(ESBL)産生大腸菌は確かに増えています.しかし結論から先に言うと,膀胱炎の治療においては,(現時点では)あまり心配する必要はありません.なお,膀胱炎の大半は外来での単純性膀胱炎(以下,膀胱炎)であり,尿路に何らかの障害がある複雑性膀胱炎や,入院患者での膀胱炎の治療は個別の事情で異なる部分が大きいためここでは述べません.
 膀胱炎の起因菌はほとんどが大腸菌で,最近のある研究でも起因菌が判明したうちの85%が大腸菌です1).そして,院内でも市中でも,大腸菌の耐性化は近年世界的な問題で,特にESBL産生菌の問題は顕著です.欧州ではESBL産生大腸菌の分離頻度が25%を超える国がイタリア,ルーマニアなど数カ国あり,ブルガリアではなんと40%超です2).アジアや南米,アフリカでは一層深刻で,例えばタイで健康成人の調査をすると46%にESBL産生大腸菌の保菌がみられたという報告もあります3).日本では良い疫学データがなく正確な頻度は不明ですが,西日本のある単施設の報告では,9年間の調査期間中経時的にESBL産生大腸菌が増え続け,2011年時点で大腸菌の院内検体の20%以上,外来検体でも10%以上を占めています4).少なくとも対岸の火事ではないことがわかります.

性器感染症

前立腺炎

著者: 月森彩加 ,   中村造

ページ範囲:P.1011 - P.1013

Question 1
前立腺への移行性のよい抗菌薬は?
 移行性のよい抗菌薬は以下のものが挙げられます.
 ① レボフロキサシン
 ② スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)
 ③ ピペラシリン
 ④ 第2〜3世代セフェム
 ⑤ メロペネム,イミペネム・シラスタチン
 ⑥ アズトレオナム
 ⑦ アミノグリコシド
 ⑧ テトラサイクリン
 ⑨ マクロライド
 前立腺炎では前立腺の構造や毛細血管,前立腺液のさまざまな要素によって抗菌薬が浸透しにくく,移行性のよい抗菌薬を選択する必要があります.また,慢性前立腺炎などの炎症が少ない前立腺に移行する抗菌薬は多くありません.前立腺への移行がよい抗菌薬とは,高い解離定数でイオン化の低い抗菌薬で,蛋白結合しておらず,分子量も小さい,脂溶性が高い,などの特徴があればよいとされています.その代表はレボフロキサシンなどのフルオロキノロンやST合剤です.前立腺組織内では血漿よりも高い濃度を示し,前立腺炎に有効です.フルオロキノロン,ST合剤が用いられる理由としてはもう1つ,バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)がよいため経口での抗菌薬治療が可能なのです.

性感染症

梅毒

著者: 藤谷好弘

ページ範囲:P.1014 - P.1016

Question 1
梅毒が疑われる場合は,診断はどのように進めたらよいのでしょうか? 特に神経梅毒の診断はどうしたらよいのでしょうか? ホントのところを教えてください.
 梅毒の診断のポイントは,①どんな検査をし,②検査結果をどう解釈するのか,である.

消化管感染症

胃腸炎

著者: 法月正太郎

ページ範囲:P.1018 - P.1021

Question 1
嘔吐や下痢で患者さんが来院したら,とりあえず胃腸炎の診断でホスホマイシンとビオフェルミン®とムコスタ®を出しています.重症の場合はホスホマイシンの点滴静注を行っています.これでよいのでしょうか? 問題があるとしたらどの部分ですか? ホントのところを教えてください.
胃腸炎を診断する難しさ
 筆者は「胃腸炎」という言葉が大嫌いである.一般的には急性発症の嘔吐・下痢症のことを胃腸炎と呼ぶことが多い.最も頻度が高いのがウイルス性胃腸炎であり,急性下痢症±嘔気嘔吐・腹痛をきたし,対症療法のみで48時間以内に改善する.たとえ忙しい外来であっても,主訴から安易に「胃腸炎」と決めつける前に,立ち止まって考える必要がある.図1に胃腸炎の鑑別診断を挙げた.これらの鑑別を頭に浮かべながら,病歴と身体所見から的確に鑑別しなければならない.敗血症,髄膜炎,脳膿瘍,トキシックショック症候群,重症皮膚軟部組織などの重症感染症だけでなく,心筋梗塞,大動脈解離,上腸間膜動脈症候群,糖尿病性ケトアシドーシス,副腎不全など内科的エマージェンシーが目白押しである.「とりあえず胃腸炎」という言葉ほど恐ろしい診断はない.

口腔カンジダ症・食道カンジダ症

著者: 大場雄一郎

ページ範囲:P.1024 - P.1027

Question 1
高齢者などでは特に舌に白苔が付いたりしている患者さんをよく見るように思います.こういった患者さんでは,HIV検査を勧めるべきでしょうか? また舌苔の微生物検査は行うべきでしょうか? ホントのところを教えてください.
 口腔カンジダ症は,通常は細胞性免疫不全や液性免疫不全を背景として発症します.

腹腔内感染症

膵炎

著者: 村上義郎 ,   大路剛

ページ範囲:P.1028 - P.1029

Question
膵炎のときにイミペネム・シラスタチンの動注療法が行われているのを見かけますが,有効なのでしょうか? なぜイミペネムなのでしょうか? なぜ動注なのでしょうか? ホントのところを教えてください.
 急性膵炎のなかでも組織壊死を伴ういわゆる壊死性膵炎は予後不良とされています.特に感染が合併した場合の予後はさらに不良になるとされています.そこで壊死性膵炎に対して予防的抗菌薬の投与を行うという考え方が出てきました.感染症の原則に準じて原因微生物,感染臓器,抗菌薬の3点を当てはめると,原因微生物としてはグラム陽性球菌(gram positive cocci:GPC)の腸球菌属,腸内細菌属を中心としたグラム陰性桿菌(gram negative rot:GNR)と,Bacteroides属など横隔膜より下の嫌気性菌が相手になります.問題は感染臓器です.抗菌薬の移行性が良くない臓器の感染症である細菌性髄膜炎では,臓器への抗菌薬の移行性が問題となり,移行性の良い抗菌薬が選択されます.同様に経静脈的に人の膵臓組織への移行性を検討した基礎的な研究ではイミペネム・シラスタチン(チエナム®)が他の抗菌薬より良い1),とされたことによってこの抗菌薬が膵炎と結び付けられて好まれる基となっています.ただし表1の通り,比較対象にされている抗菌薬との差を見ると,イミペネムだけ膵臓への移行性が特別に良いというものではないようです.
 膵炎による炎症反応によって膵臓を栄養する血管が攣縮や破綻することで,壊死性膵炎が発症します.そのため,抗菌薬の全身投与では十分に膵臓へ薬剤が届くことが期待できないという考えから,動物実験を経て動注療法が行われ始めています.実際に重症膵炎の予後改善に有効かどうかですが,経静脈投与による抗菌薬の予防投与については,死亡率や急性膵炎に伴う膵臓感染症の予防効果は期待できないというメタアナリシスに基づき2),すでにガイドラインでも推奨はされていません.

腹膜炎

著者: 小林美奈子 ,   楠正人

ページ範囲:P.1030 - P.1032

Question 1
S状結腸穿孔などによる腹膜炎患者の経験的治療薬として使用すべき抗菌薬の選択と用法・用量について,ホントのところを教えてください.
 消化管穿孔による腹膜炎は2次性腹膜炎であり,多くの場合,腸内細菌科(Escherichia coliなど),Enterococcus属,Bacteroides fragilis,その他の嫌気性菌などの複数菌感染である.よって,これらをカバーするような抗菌薬選択が望まれる.
 限局性腹膜炎など軽症から中等症までの市中発症腹膜炎であれば,セフメタゾール(CMZ),フロモキセフ(FMOX)もしくはセフトリアキソン(CTRX)とメトロニダゾール(MNZ)の併用が勧められる.日本感染症学会と日本化学療法学会が合同で発表したJAID/JSC感染症治療ガイド2014ではアンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)も推奨薬剤となっているが1),本剤は大腸菌に耐性率が高くなっているため,薬剤感受性がわかっていない時点での経験的治療としての使用はあまり積極的にお勧めできない薬剤であると思われる.また,中等症までの腹膜炎ではEnterococcus属やカンジダ属に対する経験的治療は推奨されていない.

その他

外傷・動物咬傷

著者: 三好和康 ,   細川直登

ページ範囲:P.1034 - P.1036

Question 1
外傷① 転んでできた擦り傷や切り傷の患者さんに抗菌薬は必要でしょうか?
 軽度の外傷に対して感染予防目的で抗菌薬投与することの有用性を検討したシステマティックレビューが報告されている.咬傷,熱傷,骨折や関節との交通,腱や神経および大血管の損傷,中等度以上の挫滅創,を除いた手の外傷に対する予防抗菌薬投与は有用性が示されなかった1).このため,転んでできた感染徴候のない擦り傷や切り傷の患者に対する抗菌薬の投与は必要ないと考えられる.また,外来で抗菌薬を処方された患者に関する検討では,抗菌薬処方1,000回につき1回の割合で副作用を主訴に救急外来を受診するという報告がある2).これはワルファリンやジゴキシンといった副作用の多い薬剤と同等の頻度である.したがって,患者ごとに創部を評価し,感染を疑う所見(発赤,腫脹,熱感,疼痛)がある場合のみ抗菌薬を投与するべきと考えられる.

サイトメガロウイルス感染症

著者: 阿部雅広 ,   荒岡秀樹

ページ範囲:P.1038 - P.1040

Question 1
サイトメガロウイルス感染症の検査でC7-HRPやC10C11などいくつかの血液検査があります.これらが上昇していればCMV感染症と診断していいのでしょうか? 感染が疑われる部位の生検って必要なんでしょうか? ホントのところを教えてください.
 サイトメガロウイルス(CMV)感染症の理解においては,CMV感染(infection)とCMV感染症(disease)を明確に区別することが重要になります.CMV感染とは,検体からCMVがPCR法などで検出される場合や細胞変性効果の確認によるCMVの分離,CMV抗原血症の証明(C7-HRPやC10C11などの血液検査陽性)が認められた状態を示します.
 これに対してCMV感染症は,肺,腸管,肝臓,網膜などの好発臓器に感染所見・症状が生じている状態を意味します.CMV感染症の検査としてCMV抗原血症のみ認められる場合,あるいは臓器症状とCMV抗原血症の状態だけではCMV感染症の確定診断としては不十分です.症状を呈する臓器に対して,生検などの侵襲的処置を行うことでCMV感染の存在を証明したり,CMV感染細胞を証明することが必要となります.

周術期の抗菌薬

著者: 川村英樹

ページ範囲:P.1041 - P.1043

Question 1
術前の抗菌薬は,どのタイミングで開始し,どのタイミングで終了すればよいのでしょうか? ホントのところを教えてください.
 手術部位感染症(surgical site infection:SSI)は,主に皮膚切開による皮膚常在菌や,消化管など手術臓器の常在細菌叢による手術野の汚染によって発症します.したがって,SSI発症リスクを下げるためには手術野の細菌を減らすことが重要であり,SSI対策の1つとして術後感染予防抗菌薬(antimicrobial prophylaxis:AMP)の投与が挙げられます.AMPは術中汚染菌によって選択する必要があります(表1)1)
 AMPの投与にあたっては,手術が始まる時点で,十分な殺菌作用を示す抗菌薬の血中濃度,組織中濃度が必要です.腹部手術や人工関節手術などの清潔・準清潔手術の前向き研究において,皮膚切開2時間前から直前の間にAMPが投与された群と比較し,皮膚切開2時間以上前に投与した群,皮膚切開3時間以上後に投与された群で有意に感染率が高かったとされ2),汚染されるタイミングに合わせたAMP投与が必要と考えられます.

アミノグリコシド系薬

著者: 太田啓介 ,   岡秀昭

ページ範囲:P.1044 - P.1046

Question 1
アミノグリコシドってあまり使ったことがないのですが,先日血液培養からCRE(カルバペネム耐性腸内細菌)が検出されてアミノグリコシドだけが感受性でした.アミノグリコシドにはアミカシンやゲンタマイシン,トブラマイシンなどがありますが,それぞれどのように違うのでしょうか? どれかに効いて,どれかは効かない,ということがあり得るのでしょうか?
 アミノグリコシド系抗菌薬の特徴の1つとして,緑膿菌を含む多くの好気性グラム陰性桿菌にスペクトラムを有していることです.一方で,嫌気性菌や連鎖球菌に対しては無効であるため注意が必要です.アミノグリコシド系にはGM(ゲンタマイシン),AMK(アミカシン),TOB(トブラマイシン)などいくつかの種類があります.それぞれのスペクトラムに大きな違いはありませんが,微妙な違いを理解し使い分けることが肝要です.
 実際の使い方として,耐性緑膿菌やextended spectrumβlactamase(ESBLs),AmpC産生菌にも感受性があれば効果が期待できるので,薬剤耐性が疑われる段階でのグラム陰性桿菌の経験的治療に用いることがあります.しかし後述するように毒性が強いこと,髄液や肺など臓器移行性が不良であること,一般的な菌血症においては,アミノグリコシド系のβラクタム薬との併用は,βラクタム単剤との診療効果では予後の改善は証明されておらず,むしろ腎障害が増えるとされていることなどから,たいていはβラクタム薬など他剤との併用で使用したとしても,感受性が判明し次第,アミノグリコシド系の中止や他剤への変更が理想的です.つまり,外せない重症感染症において2剤併用しておいて,共倒れする確率を下げる目的でアミノグリコシド系を併用します.また酸性環境下では活性が落ちるため膿瘍病変には一般的には使用できません.単剤での使用は治療実績からペスト,野兎病などの特殊感染症を除くと一般感染症では尿路感染症に限られます.またアレルギー交差がないためβラクタムアレルギーの際に,グラム陰性菌への治療に使用することができます.

特殊病態下の抗菌薬

著者: 松元一明

ページ範囲:P.1048 - P.1051

Question 1
敗血症や大量出血,熱傷や心不全の患者さんの抗菌薬の用法・用量はどんなことに気を付けてどのように設定すればよいのでしょうか? ホントのところを具体的に教えてください.
 全身性炎症反応症候群(SIRS)とは侵襲によって引き起こされる炎症性サイトカインによる全身性の急性炎症反応であり,感染を契機に発症するSIRSを敗血症という.臓器不全のない敗血症では,血管作動薬,輸液の投与などによって,心拍出量が増加し,それに伴い,腎血流量が増加することにより,クレアチニンクリアランス(Ccr)>130mL/分になる.この現象をaugmented renal clearance(ARC)といい,バンコマイシン1,2),メロペネム3),ピペラシリン/タゾバクタム4)において,予想以上に薬物の血中濃度が低値を示すことが報告されている.一方で,重症の敗血症患者では腎機能障害や肝機能障害を含む臓器不全が発現する.その場合は低下した腎・肝機能に基づき投与量設計を行わなければならない.したがって,敗血症の場合は,ARC発現時は投与量の増量,臓器不全の場合は投与量の減量が必要になる.
 出血性ショックは,循環血液量が大量かつ持続的に喪失した病態であり,心拍出量は低下し,薬物の血中濃度は増加する.

Antimicrobial stewardship programについて

著者: 中澤靖 ,   北村好申 ,   篠崎陽一

ページ範囲:P.1052 - P.1054

Question 1
Antimicrobial stewardship program(ASP)って結局誰が何をすればよいのでしょうか? 届け出用紙を提出してもらうだけではだめなのでしょうか? ホントのところ教えてください.
 CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)などの内外での拡散を受け,世界的に抗菌薬の適正使用が国家レベルで進められつつある.ASPとは医療施設ごとに抗菌薬の適正使用を推進する仕組みである.すなわち,エビデンスに沿った抗菌薬の使用を,個々の医師の知識のみに頼らず施設として組織的に実践することである.今や抗菌薬は限られた資源と考え,規模によらずすべての医療施設でASPを実践することが望まれる.
 ASPの実践は耐性菌発生抑止やコスト削減以外に,患者予後の改善のための感染症診療レベルの向上,発生してしまった院内感染症の適切なリカバリーとしても重要であると考えられる.またASPにて無駄な抗菌薬使用を減少させる効果が期待されるが,一方的な削減によって患者予後が悪化してしまうことは本末転倒であり,症例により適正使用のため投与量の増量や広域抗菌薬への変更をあえて勧めることもある.

連載 Webで読影! 画像診断トレーニング・3

内科医も診る尿路の異常

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.927 - P.928

次の3症例について,どのような病態が推定できますか? また,診断は何でしょうか?
症例1 60代女性.人間ドックで尿潜血陽性を指摘され,内科を受診.症状は特にないが,以前にも同様の所見を指摘されたことがある.既往歴に子宮筋腫術後(15年前),虫垂炎術後(25年前)がある.尿路の異常検索目的に腹部CTを施行した.
症例2 50代女性.発熱と右季肋部痛を主訴に来院.5日前より他医受診し,抗菌薬を投与されているが,改善がない.診察では右肋骨脊椎角の叩打痛を認める.腹部超音波検査で右水腎が疑われたため,さらなる精査目的で腹部CTを施行した.
症例3 70代男性.2日前より肉眼的血尿が持続するため夜間に来院.内科当直医が確認したところ,凝血塊の混じる尿であった.問診で数カ月前からたびたび血尿を繰り返していたことがわかった.悪性腫瘍の評価のため腹部CTを施行した.

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・15

大動脈弁逆流症(AR)患者の診かた

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.1060 - P.1067

症例
70代男性.無職.
病歴 50歳の時に初めて心雑音を指摘されたが,自覚症状がなく経過観察されていた.最近になり,散歩時に易疲労感,動悸を自覚するようになったため,当院へ紹介となった.

目でみるトレーニング

問題805・806・807

著者: 西山崇比古 ,   吉見竜介 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.1068 - P.1073

あたらしいリウマチ・膠原病診療の話・12

関節リウマチの診断と治療①

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.1084 - P.1090

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,多発する持続性・末梢関節優位の自己免疫性滑膜炎であり,治療介入がなければ関節破壊(骨びらん・軟骨破壊)が進行して「車いす移動」「寝たきり」になる疾患であるとされる*1.RAに対するメトトレキサートの使用,さらに生物学的製剤の成功もあり,リウマチ外来の風景はまさに一変した.
 現在のRA診療の原則は,「早期の診断」と「治療目標を意識した治療方針の決定(Treat to Target)」の2点に集約される.十分早期に診断されたRAは,可及的速やかな「臨床的寛解」を目指して治療されるべきであり,その結果として「関節の非可逆的破壊」は最小限に抑えられることが期待される.

Choosing Wisely Japan その検査・治療,本当に必要ですか?・9

ケース:60代女性,急性腎前性腎不全への対応

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1093 - P.1094

 Choosing Wiselyは,エビデンスに基づいた診断や治療の賢い選択ができるように,医師患者間の対話を促すための世界的キャンペーン活動である.有害事象につながるリスクの高い過剰診療や,価値の低い検査を減らすことを目的とする.
 具体的な活動として,各国の臨床医学系学会は,推奨リストを挙げている.今回は2014年4月2日にCollege of Family Physicians of Canadaが発表した第2弾リスト(第1弾は5月号を参照されたい)を表1に示す1)
 では,今回のケースをみてみよう.

書評

—宮城征四郎,藤田次郎 著—Dr.宮城×Dr.藤田 エキスパートに学ぶ 呼吸器診療のアートとサイエンス

著者: 長坂行雄

ページ範囲:P.944 - P.944

 呼吸器診療の大先達の宮城征四郎先生,そこに大学での綿密な検討を加え,科学的な根拠を積み重ねているのが藤田次郎先生である.本書はこの日本の呼吸器診療を代表するお二人から,沖縄県臨床呼吸器同好会での症例検討を基に,表題通り,「呼吸器診療のアートとサイエンスを“わかりやすく”学べる」ように仕上がっている.多様な病像の20例が示され,画像もレイアウトも優れているので見直しもしやすい.
 いずれの症例にも宮城先生の明快なコメントがあり,症例検討の流れが決まる.これは豊富な経験だけでなく,徹底的に文献を調べ,勉強された集大成である.一見,直観的なコメントだが,実は数字も多く挙げられ,緻密な考えがわかりやすく示されている.広範な知識を,個々の症例に的確に応用するアートの部分である.

—巽浩一郎 監修 多田裕司 編—Q&AでよくわかるCOPD—概念・診断・治療・管理まで

著者: 山口哲生

ページ範囲:P.964 - P.964

 本書を手に取ったら,まず監修者である巽浩一郎教授の序文を読んでいただきたい.ここにCOPDという病気を一般臨床医にしっかり理解していただきたい理由が簡潔かつ明快に述べられている.
 NICEスタディによると日本人の40歳以上のCOPD有病率は8.6%であり,推定される患者数は530万人にものぼる.COPDは,すでにわが国でも死因の第10位(平成26年)に位置する疾患だが,喫煙者の多いわが国が超高齢社会に突入している現状を鑑みると,今後ますますその順位は上がっていくだろう.この疾患についての理解を深め,実臨床で患者さんに適切に対応できるようになることは,実臨床医の義務といっても過言ではない.

—日本医師会 編・発行 磯部光章,奥村 謙 監修 清水 渉,村川裕二,弓倉 整 編 合屋雅彦,山根禎一 編集協力—《日本医師会生涯教育シリーズ》Electrocardiography A to Z心電図のリズムと波を見極める

著者: 相澤義房

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 このたび,磯部光章先生,奥村謙先生の監修による,『Electrocardiography A to Z心電図のリズムと波を見極める』が刊行された.本書は日本医師会企画による第一線の臨床医に向けた循環器領域のシリーズ『心電図のABC』のいわば改訂版とも言えるものである.
 「監修・編集のことばにあるように,心電図や不整脈のわかりやすい入門書であると同時に,最近の不整脈治療の進歩が理解できるように企画されている.その結果,非専門医であっても,心電図と不整脈を自ら診断し,臨床的意義を再確認できるとともに,最新治療との関わりを確認することができる.また退屈になりがちな心電図の記録法や波形の成り立ちの記述も,カラーで見やすく,簡潔かつ十分に内容のある口絵としてまとめられている.このカラー口絵と第Ⅰ章で,心電図の基本的知識が十分に身につく.第Ⅱ章では心電図や不整脈診断における一般的な流れが示されている.このようなアプローチは,心電図や不整脈診断や判読の基本で,その流れの先にはおのずと正しい診断があると言える.第Ⅲ章以下,異常所見や不整脈があった場合,その病態やメカニズムはどうなっているのか,どのような治療がありかつ必要とされるかも述べられており,大変に実用的でもある.

—平山幹生 著—見逃し症例から学ぶ神経症状の“診”極めかた

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.1074 - P.1074

 著者の平山幹生先生を私はよく知っている.名古屋近郊にある春日井市民病院という人気の研修病院で,3年間ほど研修医教育を一緒にさせていただいた.実直かつ臨床能力の高い臨床医である平山先生は当時,副院長(研修医教育担当)をされていた.神経内科だけでなく,全ての医学領域において貪欲な探究心をお持ちである.ケースカンファレンスの後で,参考になる論文はこれです,と何度も重要論文をお送りいただいた.私はそのように真理を探究する平山先生の姿勢に大変敬服している.
 平山先生が40年間の臨床経験に基づいて書かれたのがこの書である.示唆に富む教育症例は全部で61あり,「意識障害」「頭痛」「めまい」「発熱」「嘔気・嘔吐,不定愁訴」「しびれ,痛み」「けいれん,高次脳機能障害」「脱力」「錐体外路症状」「脳神経症状」の10章に分類されている.症例ごとに誤診(診断エラー)の原因と対策が分析されている.どうして診断を間違えたかを,認知エラーとシステム関連エラーに分け,さらに細かいカテゴリーから考察されている.

—福岡地区小児科医会 乳幼児保健委員会 編—乳幼児健診マニュアル 第5版

著者: 五十嵐隆

ページ範囲:P.1100 - P.1100

 小児科医は子どもの総合医です.小児科医を長年やってきて,他の診療科の医師,とりわけ内科医と比べると,小児科医は臓器別ではなく子どもに関するすべての問題に対応しようとする姿勢が鮮明に記憶に残っています.では,他の診療科の医師にはできない小児科の究極の専門性はどこにあるのでしょうか?
 子どもの感染症への予防・対応と発達への評価・対応の2つの点に,小児科医の独自性が強く表れると私は考えます.

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『総合診療』誌の7月号で感染症関連特集!

ページ範囲:P.963 - P.963

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