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文献詳細

雑誌文献

medicina53巻7号

2016年06月発行

文献概要

特集 抗菌薬の考え方,使い方—ホントのところを聞いてみました 腹腔内感染症

膵炎

著者: 村上義郎1 大路剛1

所属機関: 1神戸大学医学部付属病院感染症内科

ページ範囲:P.1028 - P.1029

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Question
膵炎のときにイミペネム・シラスタチンの動注療法が行われているのを見かけますが,有効なのでしょうか? なぜイミペネムなのでしょうか? なぜ動注なのでしょうか? ホントのところを教えてください.
 急性膵炎のなかでも組織壊死を伴ういわゆる壊死性膵炎は予後不良とされています.特に感染が合併した場合の予後はさらに不良になるとされています.そこで壊死性膵炎に対して予防的抗菌薬の投与を行うという考え方が出てきました.感染症の原則に準じて原因微生物,感染臓器,抗菌薬の3点を当てはめると,原因微生物としてはグラム陽性球菌(gram positive cocci:GPC)の腸球菌属,腸内細菌属を中心としたグラム陰性桿菌(gram negative rot:GNR)と,Bacteroides属など横隔膜より下の嫌気性菌が相手になります.問題は感染臓器です.抗菌薬の移行性が良くない臓器の感染症である細菌性髄膜炎では,臓器への抗菌薬の移行性が問題となり,移行性の良い抗菌薬が選択されます.同様に経静脈的に人の膵臓組織への移行性を検討した基礎的な研究ではイミペネム・シラスタチン(チエナム®)が他の抗菌薬より良い1),とされたことによってこの抗菌薬が膵炎と結び付けられて好まれる基となっています.ただし表1の通り,比較対象にされている抗菌薬との差を見ると,イミペネムだけ膵臓への移行性が特別に良いというものではないようです.
 膵炎による炎症反応によって膵臓を栄養する血管が攣縮や破綻することで,壊死性膵炎が発症します.そのため,抗菌薬の全身投与では十分に膵臓へ薬剤が届くことが期待できないという考えから,動物実験を経て動注療法が行われ始めています.実際に重症膵炎の予後改善に有効かどうかですが,経静脈投与による抗菌薬の予防投与については,死亡率や急性膵炎に伴う膵臓感染症の予防効果は期待できないというメタアナリシスに基づき2),すでにガイドラインでも推奨はされていません.

参考文献

1)Büchler M, et al:Human pancreatic tissue concentration of bactericidal antibiotics. Gastroenterology 103:1902-1908, 1992
2)Villatoro E, et al:Antibiotic therapy for prophylaxis against infection of pancreatic necrosis in acute pancreatitis. Cochrane Database Syst Rev(Internet)(5), 2010
3)Working Group IAP/APA Acute Pancreatitis Guidelines;IAP/APA evidence-based guidelines for the management of acute pancreatitis. Pancreatology 13:e1-15, 2013
4)急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会:急性膵炎診療ガイドライン2015, 第4版,金原出版,2015
5)Arlt A, et al:Antibiosis of Necrotizing Pancreatitis. Viszeralmedizin 30:318-324, 2014

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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