icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina54巻10号

2017年09月発行

雑誌目次

特集 内科医のためのクリニカル・パール3

著者: 藤田芳郎

ページ範囲:P.1587 - P.1587

 ほんの一部ですが,前2回の「内科医のためのクリニカル・パール」からパールを抜粋しました.本特集は第3弾ですが,今回も素晴らしいクリニカル・パールを各領域の先生方にご執筆いただきました.「心にのこる症例」とともにご参照いただければと思います.

特集の理解を深めるための26題

ページ範囲:P.1719 - P.1723

座談会

より良い内科臨床の実践のために

著者: 藤田芳郎 ,   須藤博 ,   山中克郎 ,   岸本暢将

ページ範囲:P.1588 - P.1595

本特集は「内科医のためのクリニカル・パール3」ということで,実際の診療に役立つ格言やポイントが散りばめられています.本座談会にご参加の先生方はさまざまな病院にお勤めになり,また米国の病院での臨床経験もあり,数々の出会いがあったと思います.そこから得られた臨床的な体験の粋であるクリニカル・パールを,ぜひお聞かせいただきたいと思います.(藤田)

救急・総合診療

救急のクリニカル・パール

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.1596 - P.1598

 救急外来での診療におけるストレスの1つに,「短時間で病状が進行し,致命的となるような疾患を見逃してしまわないだろうか」という心配がある.この心配は,筆者が医師となった20年前と,内科救急診療を最前線で支える現在の若手医師とで変わりがない.
 医事紛争という視点で内科救急を考えてみると,腸閉塞,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH),急性心筋梗塞,急性大動脈解離の誤診が紛争事案の上位であると報告されている1)

総合診療のクリニカル・パール

著者: 桑間雄一郎

ページ範囲:P.1599 - P.1601

全医師に必要な「大きな目」と「小さな目」
 医学界に“evidence based medicine”という言葉が殴り込みをかけてから約30年が経った.統計的な手法を用いた臨床疫学が医学の隅々まで普及することで,さまざまな医療行為の効果が客観的かつ具体的な数字として語られるようになった.言わば「大きな目」で医療行為の大枠,すなわち全体像を把握することができるようになったのである.
 一方で,実際に目前の患者に医療を施す際には,この大枠をしっかりと把握したことが前提で,繊細な問診と診察を実施し,そして患者を取り巻く環境までも鑑みた医療のアート,言わば医師の勘を付け加えていくことになる.この勘の技量は,日々こつこつと良い診療を繰り返すなかで医師が獲得していくものだ.経験を積めば積むほど,絶妙な臨床の勘を発揮できるようになる.これは,“experience based medicine”と呼ぶべき技量であり,繊細な「小さな目」での観察や医療実践である.

心にのこる症例

I still doubt it, but still trust it

著者: 會田哲朗 ,   濱口杉大

ページ範囲:P.1602 - P.1604

 「熱源がよくわからない発熱」は総合内科外来でよく経験する.これを「不明熱」にさせないためには,他の症状やその変化を大切にし,そしてそれらを手掛かりに基本的なアプローチをしていくことが肝要である.
 本稿では,丁寧な診療が診断・治療に繋がった症例を紹介したい.

消化器

腹痛診療のクリニカル・パール

著者: 小林健二

ページ範囲:P.1606 - P.1608

腹痛の評価で最も大切なのは「病歴」
 おそらく読者のほとんどが知識としてもっていることであるが,臨床現場でそれを実践している人は意外と少ないのではないだろうか.病歴を聴いて身体所見を取った後,最終的に検査が必要となる場合が多いが,その前に「あたり」をつけていることが大切である.それがないと,検査結果の解釈をする際に,異常が本当に腹痛の原因であるかどうか悩んでしまう.

上部・下部消化管のクリニカル・パール

著者: 大前知也

ページ範囲:P.1610 - P.1612

血便の患者を診たら─排便時出血を区別するのが第一歩!
 血便は消化器内科医にとっては比較的多い主訴の1つであるが,消化器内科医以外の医師にとっては厄介なものであろう.その大きな理由は,内視鏡検査をしないと出血源や出血量がわからず,止血もできないという不安ではないかと思われる.「すぐに消化器内科医に相談しなくては!」と思う気持ちもわかるが,患者が「血便が出ました」と言って青ざめて診察室に入ってきても,その意味はさまざまである.血液だけが排出される本当の血便の場合もあれば,便の周りに血液が付着する,あるいは紙で拭いたときに血液がつく,というような排便時出血の場合もある.
 そこで,まず排便時出血を区別するために,血便が主訴の患者にはもう一言問診してほしい.その一言は「血便は茶色の普通の便と一緒に出ましたか?」である.この質問をすると多くの患者は一瞬考えた後,次の2パターンのどちらかの返事をするはずである.

肝胆膵疾患のクリニカル・パール—“AST値・ALT値正常だから大丈夫”は通用しない

著者: 海老沼浩利

ページ範囲:P.1613 - P.1615

 ここ数十年の肝炎ウイルスに対する薬物療法は格段に進歩し,B型肝炎ウイルス(HBV)に対しては,核酸アナログの継続投与の必要性はあるものの,HBVをコントロール可能に,C型肝炎ウイルス(HCV)に対しては,直接作用型抗ウイルス薬(direct antivirals:DAAs)によって,ほぼ全例に持続性ウイルス陰性化(sustained viological response:SVR)が得られる時代になってきた.

心にのこる症例

高齢者の便秘の背後に潜むもの

著者: 野々垣浩二 ,   水野創太 ,   倉下貴光

ページ範囲:P.1616 - P.1618

高齢者の便秘をみたら
 日常臨床では高齢者の便秘を診察する機会は多い.腹部膨満や嘔吐など腹部症状を訴えて受診した場合,安易に便秘と診断する前に,器質的疾患の否定が重要である.便秘には思わぬ落とし穴が潜んでいる.

循環器

虚血性心疾患のクリニカル・パール

著者: 永井利幸

ページ範囲:P.1620 - P.1625

胸痛患者を診察する際,虚血“らしい”と“らしくない”を常にイメージする
 内科医にとって,胸痛・胸部不快感を主訴に受診する患者を診察する機会は非常に多い.もちろん,原因疾患として生命危機に直結する可能性の高い疾患から鑑別していかなければならないが,そのなかでも最も頻度の高い虚血性心疾患〔特に急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)〕の有無を早期に診断することが鍵となる.
 虚血性心疾患の診断の基本3要素は,「問診」「心電図」そして「高感度心筋トロポニン」である.特に前二者は,非特異的要素を多く含むものの,簡便であり,クリニックから総合病院までどの状況においてもおおよそ5分以内に完了できる利点がある.これらを上手に駆使し,胸痛・胸部不快感症例の診察の際に,どれくらい虚血“らしい”(または“らしくない”)のかをイメージできることが重要である.

不整脈・抗血栓療法のクリニカル・パール

著者: 大塚崇之 ,   山下武志

ページ範囲:P.1626 - P.1628

DOACは用量調整が不要だが効果は一定とは限らない!
 心房細動に対する抗凝固療法として,近年はワルファリン(ワーファリン®)に代わり直接型経口抗凝固薬(DOAC)が主流となっている.
 ワルファリンと比較した際のDOACのメリットとしては,①効果発現が速やかであり半減期が短い,②細かな用量調節が不要,③薬物相互作用が少なく食事の影響を受けにくい,④頭蓋内出血などの出血性合併症が少ない,などがある.

心不全のクリニカル・パール

著者: 田中寿一 ,   香坂俊

ページ範囲:P.1630 - P.1632

20mgは「通過点」:ラシックス®は天井量を意識する
▶ラシックス®の初期投与量
 過去50年間,ループ利尿薬は急性心不全(acute decompensated heart failure:ADHF)の標準治療として受け入れられてきた.ループ利尿薬といえばフロセミド(ラシックス®)であるが,その投与量(や投与方法)はどうやって決めているだろうか.
 旧い話になるが,1970年代に出版された『The House of God』1)という小説内では,指導医が研修医に下記のような指示を出している(Laws of the House of God #7).

心にのこる症例

診断することの先に

著者: 大嶋慎一郎 ,   水野篤

ページ範囲:P.1633 - P.1635

 ALアミロイドーシスは,異常形質細胞より産生されるモノクローナルな免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖に由来するアミロイド蛋白が全身臓器に沈着する疾患である.ALアミロイドーシスの約50%に心アミロイドーシスを認める1)
 心アミロイドーシスは未治療の場合,心不全発症後の予後が6カ月程度である2).この疾患は診断することも大変であるが,それだけでなく,診断した後に患者・疾患にどう向き合うべきなのか,われわれは今そのことを立ち止まって考えるべきである.

神経

頭痛診療のクリニカル・パール

著者: 岩崎晶夫 ,   椎名智彦 ,   平田幸一

ページ範囲:P.1638 - P.1640

 日常診療で頭痛に遭遇する機会は多い.しかしながら,頭痛は一定の確率で致死的疾患が隠れている症候であり,それらを見逃さないことがきわめて重要である.本稿では,実際に筆者が経験した症例を提示し,そこから得られた教訓を記載する.

脳卒中のクリニカル・パール

著者: 阿部有起 ,   西山和利

ページ範囲:P.1641 - P.1643

何をもって脳卒中を疑うか,病院前でのスケールによる評価も有用である
 脳卒中の病院前診断のツールとして,シンシナティ病院前脳卒中スケール(The Cincinnati Prehospital Stroke Scale:CPSS,表1),ロサンゼルス病院前脳卒中スクリーン(Los Angeles Prehospital Stroke Screen:LAPSS)などの評価法が確立している.
 突然発症の片麻痺,下部顔面筋麻痺(鼻唇溝が浅くなる,口から物がこぼれるなど),構音障害では脳血管障害が疑われる.半側のしびれや感覚障害,失語,普段できる動作ができなくなるといった高次脳機能障害も脳血管障害が疑われる.

心にのこる症例

ヒステリー性の片麻痺を疑ったら?

著者: 塩尻俊明

ページ範囲:P.1644 - P.1646

心因性じゃないの?
症例
17歳女性.主訴は,家族と喧嘩するときに限って様子がおかしい.
 5週前,帰宅が遅いことを指摘した母と口論になり,「わからない,わからない」と繰り返し泣くことがあった.その翌日は普段通りであった.1週前,これまで頭痛の既往はないが夜間の拍動性の頭痛を自覚した.昨日15:30,飼っている犬の件で兄と口論になった後,一向に泣き止まなかった.目が据わった感じで母の手を“ぎゅー”と握りしめ,20分ほどで泣き治まった.当日,「朝から右上下肢に力が入らない」と訴えたためER受診.

呼吸器

呼吸器疾患のクリニカル・パール

著者: 松瀬厚人

ページ範囲:P.1648 - P.1650

病態生理の鍵
 呼吸困難はほとんどすべての呼吸器疾患で生じうる症状であり,臨床では即時の判断を求められる.
 呼吸は人の生命維持機能のなかで唯一,脳幹部の中枢のみならず大脳皮質からの随意的な制御を受けるため,呼吸困難の感じ方には主観が入りやすく,個人差も大きい.したがって,客観的に呼吸困難を定義することは難しいが,「通常,無意識に行われている呼吸が,苦痛を伴って意識に昇ってきた状態」と定義される.

心にのこる症例

稀な胸水

著者: 皿谷健

ページ範囲:P.1653 - P.1657

 通常と色調が違っていたり,胸部疾患以外に由来する稀な胸水貯留症例は多数存在する.本稿では,きわめて稀ではあるが知っておくと有用な胸水症例を紹介する.

感染症

感染症のクリニカル・パール

著者: 松永直久

ページ範囲:P.1658 - P.1662

局所所見がその局所にある疾患が原因なのか,他の疾患に由来する全身の反応の一部なのかを意識する
 意識レベルの変化が頭蓋内病変とは限らない.「AIUEO TIPSを鑑別に考えろ」と学生時代に習った方も多いだろう.頻呼吸だといって呼吸器疾患とは限らない.敗血症による代謝性アシドーシスを代償している様子を示しているかもしれない.
 筆者が最も気をつけているのが,悪心,嘔吐,下痢といった消化器症状である.初回のクリニカル・パール特集(『medicina』2009年9月号)でも,青木眞先生(感染症コンサルタント)のクリニカル・パールとして「胃腸炎症状の患者をみたら,お腹の外から考える」1)が紹介され,「『急性胃腸炎』は危険な病名!」と警鐘が鳴らされており,意外な病名が挙げられている2).下痢を主訴に来院した患者が,最終的に感染性心内膜炎と診断されることもある.腎盂腎炎のこともある.つまり,一見,消化器疾患による症状だと思えても,非感染性を含めたほかの疾患に由来する全身反応の一部のこともある.

心にのこる症例

「心臓が痛いです」と言ってくれたら

著者: 笠原敬 ,   平位暢康 ,   藤倉裕之

ページ範囲:P.1664 - P.1667

Case 1
肉眼的血尿の原因は?
症例1
 数日前からの右腰痛を訴えていた50歳台の女性が,今朝からの突然の肉眼的血尿のため救急車で搬送されてきた.腹部造影CTおよび血管造影検査で右腎動脈瘤が発見され,コイル塞栓術が行われた.
 術後,発熱が持続するため血液培養を行ったところ,α溶血性レンサ球菌(Streptococcus viridans group)が検出された.あらためて病歴を確認したところ,患者は3カ月前に他院で椎体炎と診断され入院していた.入院中はイミペネムを2週間(1回0.5g,1日2回),次いでセフォゾプランを2週間(1回1g,1日2回)投与され,退院後は4週間レボフロキサシン,次いで8週間クラリスロマイシンを内服していたらしい.

血液・腫瘍

血液疾患(リンパ腫・骨髄腫)のクリニカル・パール

著者: 神田善伸

ページ範囲:P.1668 - P.1671

名医ならリンパ節の触診だけでリンパ腫を診断できる?
 リンパ節腫脹の原因は,感染症,悪性腫瘍,免疫性疾患の3つが大多数を占めるため,これらの疾患を念頭に置いて鑑別診断を進めることになる.
 まずは問診が重要であり,リンパ節腫脹の出現からの期間・大きさの変化,発熱・盗汗・体重減少などの随伴症状,既往疾患,家族歴,海外渡航歴,ペット飼育歴,薬剤使用歴などを聴取する.数日以内に急速に進行したリンパ節腫脹は感染症を示唆するが,数カ月かけて進行したものであれば悪性腫瘍や慢性炎症を考える.

固形がんのクリニカル・パール

著者: 大山優

ページ範囲:P.1672 - P.1677

がん診療の問題
 手術,化学療法,放射線治療など,がんの治療のほとんどは侵襲性が高く,リスクが大きい.かつ,治療効果が一定しない.
 がんは進行性に悪化するため,治療(積極的・緩和的)しないと患者の状態は次第に悪化する.そのため,漫然と経過観察すべきではない.

心にのこる症例

治療・合併症・診断

著者: 丸山大

ページ範囲:P.1678 - P.1681

 血液腫瘍には,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫,白血病などの代表的な疾患があるが,それぞれの病態や臨床像は大きく異なる.悪性リンパ腫でも緩慢な経過をとる病型から,急激な経過をたどる病型までさまざまである.また,多くの血液腫瘍に対する化学療法は免疫抑制を伴うため,感染症をはじめとした合併症も多様である.
 本稿では,治療・合併症・診断の観点から心にのこった患者をそれぞれ提示する.

アレルギー・膠原病

アレルギー診療のクリニカル・パール

著者: 川人瑠衣 ,   岡田正人

ページ範囲:P.1682 - P.1684

食物アレルギー
 吸入抗原に対するアレルギーでは,乳幼児期から動物に曝露することで将来的にアレルギーの発症が減るという報告があった.食物アレルギーに関しても,ピーナッツだけでなくミルク,卵,小麦,魚,ゴマなどに関しても,生後3カ月で曝露を開始しても問題はなく,逆に将来的にアトピー性皮膚炎といったアレルギーが減少する可能性が報告されている.
 アレルギー検査では,従来の放射性アレルゲン吸着試験(RAST)に加え,より臨床的な特異度の高いアレルギーコンポーネントに対するRASTが使用できるようになっている.例として,アナフィラキシーの原因として遭遇することが少なくない豆乳において,大豆RASTよりも“Gly m 4”が有用な症例が認められる(表1).

膠原病・リウマチ診療のクリニカル・パール

著者: 金城光代 ,   中西研輔

ページ範囲:P.1685 - P.1687

膠原病診断の基本
 膠原病を疑うとき,①抗核抗体関連膠原病,②血管炎症候群,③脊椎関節炎などの付着部炎,④その他の膠原病,のカテゴリーに分けて考えると理解しやすい(表1).
 さらに,年齢と性別を意識して鑑別疾患を考える.同じ主訴であっても,年齢と性別によって異なる鑑別すべき疾患を整理しておくと,膠原病診断の役に立つ.例えば,慢性多関節炎が若年〜中年に発症した場合には,関節リウマチ,全身性エリテマトーデス(SLE),Sjögren症候群などの抗核抗体関連膠原病,または脊椎関節炎などを考える.高齢発症の場合は,結晶性関節炎,腫瘍随伴症候群,血管炎に伴う関節炎などが鑑別に挙がる.

心にのこる症例

だと思ったら

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.1688 - P.1692

 心にのこる症例が「教訓的」であるとは限らない.すなわち,個人的に心にのこる症例から本特集のような「クリニカル・パール」を抽出できるとは限らない.
 そこで,心にのこる症例というよりも,最近急速に失われつつある記憶の断片から,全体像を再構成できて,何らかの「パールのようなもの」(something that looks like clinical pearls)を抽出できる症例を選び,ナラティブに提示してみることとする.

内分泌・代謝

内分泌疾患のクリニカル・パール

著者: 田上哲也

ページ範囲:P.1693 - P.1696

心房細動ではまず甲状腺機能をチェックする
 甲状腺中毒症(機能亢進症)における心房細動の合併率は高い(5〜15%).特に,高齢者では甲状腺腫や眼球突出などの特異症状に乏しいことが多く,心房細動や頻脈性心不全をみたときは,まず甲状腺機能検査を行う.

糖尿病薬物療法(経口薬)のクリニカル・パール

著者: 弘世貴久

ページ範囲:P.1697 - P.1699

経口薬7カテゴリーと注射薬2カテゴリー─禁じ手となる症例をまず知ることから
 現代の2型糖尿病の薬物療法は20年前と比較すると多岐にわたる.いったい,どの薬をどんな患者に使用すればよいのかわからない.臨床研究でよくあるテーマは「レスポンダー(効果の出やすい患者)がどんな症例か」ということであるが,それを考える前に薬剤を使ってはいけない患者について熟知しておきたい.
 経口薬に共通する「投与を避けるべき病態」について列挙すると,以下のようになる.

心にのこる症例

こんなところに内分泌

著者: 濱中(廣嶋)佳歩 ,   田上哲也

ページ範囲:P.1700 - P.1704

 内分泌疾患は,さまざまな方から「何だかすごく難しいイメージ」とよく言われ,腫れ物に触るように扱われることが少なくない.遭遇する頻度は多くなく,なじみは薄いかもしれないが,見逃すと重篤になる病気が多く存在する.今回,筆者自身が実際に経験した症例を紹介することで,読者の皆様に内分泌疾患をもっと身近に感じてもらえれば幸いである.

腎臓・酸塩基平衡・水電解質

腎疾患のクリニカル・パール

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.1706 - P.1708

血圧正常なのにAKI発症!
症例1
85歳の男性.20年前から糖尿病と高血圧を指摘され,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を服用中である.血清Cr 1.3〜1.5mg/dL,血清K 4.0〜4.5mEq/Lで推移していた.本日朝から畑に出かけていたが,全身倦怠感を感じたために近医を受診した.受診時,血圧126/70mmHgであり,脱水と診断され採血後に輸液が開始された.夕刻にファクシミリで検査結果が届き,血清Cr 4.5mg/dL,血清K 6.3mEq/Lであったため,緊急で総合病院に紹介された.

酸塩基平衡・水電解質・輸液のクリニカル・パール

著者: 石井太祐 ,   長浜正彦

ページ範囲:P.1710 - P.1713

Na異常
低Na血症は転倒,骨折のリスクを上げる
 Na<135mEq/Lの低Na血症は,無症候性であっても転倒のリスクを上昇させる.Na 126mEq/Lは,血中アルコール濃度0.06%と同等の歩行障害を示すとも言われ,低Na血症の改善によって歩行の不安定性が改善することも示されている.
 また,慢性低Na血症は骨粗鬆症を引き起こす.高齢者では転倒による骨折が生命予後を悪化させることが知られ,手術後には肺炎,精神障害,循環器疾患などの合併率が上がる.

心にのこる症例

身近にある薬剤の電解質異常—低カリウム血症が高ナトリウム血症にかわる!

著者: 志水英明

ページ範囲:P.1714 - P.1718

症例
60代女性.主訴は意識障害,血圧低下.
現病歴 入院5カ月前から不眠,口渇感あり.3カ月前から嘔吐,頭痛出現.入院3日前から食思低下,意識障害出現.入院当日は歩行困難,意識障害悪化,呼吸状態悪化し救急搬送後挿管され入院.
入院時身体所見 Japan Coma Scale(JCS) Ⅱ-10,血圧60/44mmHg,HR 89/分.
入院時検査所見 血液生化学所見:Na 144mEq/L,K 1.5mEq/L,CL 114mEq/L,血糖166mg/dL,BUN 65.9mg/dL,Cr 2.34mg/dL,pH 7.052.動脈血ガス分析:PCO2 36.2mmHg,PO2 321mmHg,HCO3 9.6mEq/L(挿管後).尿所見:Na 41mEq/L,K 12.2mEq/L,Cl 32mEq/L,pH 6.5,尿浸透圧244mOsm/kg H2O.
心電図所見 QT延長を認める.

連載 フィジカルクラブpresents これって○○サイン!?・6

慢性閉塞性肺疾患(COPD)で在宅酸素2 L(安静時)使用中の60代男性

著者: 平島修

ページ範囲:P.1581 - P.1582

慢性閉塞性肺疾患(COPD)で在宅酸素2 L(安静時)使用中の60代男性.
既往にアトピー性皮膚炎あり.日によっては朝から飲酒する大酒家で,来院3時間前(18時)から,テレビを見ながら飲酒.いつものように酒に酔っていた.
来院30分前から急に呼吸困難をきたしたため,救急要請した.
血圧76/60mmHg,脈拍132/分・整,呼吸20回/分,SpO2 98%(6Lマスク).患者は酩酊のためか,モゴモゴとしゃべりにくそうであった.

目でみるトレーニング

問題850・851・852

著者: 岩崎靖 ,   佐々尾航 ,   小林泰士

ページ範囲:P.1724 - P.1729

心電図から身体所見を推測する・4

心電図から腹部の異常を推測する

著者: 栗田康生

ページ範囲:P.1730 - P.1732

 心電図には心臓以外の情報も多く含まれている.今回は腹部の情報を心電図から探っていきたい.

Inpatient Clinical Reasoning 米国Hospitalistの事件簿・14

忘れられない一例

著者: 石山貴章

ページ範囲:P.1733 - P.1735

「な,何が….一体,何が起きているんだ…?」
 訳がわからないまま心肺蘇生を続ける私の額には,冷や汗がにじんでいた….

内科医のボクらに心療ができないはずがない・5

キレイなお姉さんの頭の中で響く声を探知せよ

著者: 井出広幸 ,   宮崎仁

ページ範囲:P.1736 - P.1739

 定例の教育セッションのために病院を訪れたイデ院長のところへ,内科初診外来を始めて間もない後期研修医のイシカワ先生がすごい勢いで駆け寄って来た.大声で,「イデ先生,すごいです.若い女性が….おしゃれでキレイな人なのに….頭のなかで声がして」と.何が言いたいのか,さっぱりわかりません.

内科医のための 耳・鼻・のどの診かた・8

花粉症・鼻炎

著者: 勝島將夫 ,   石丸裕康 ,   高北晋一

ページ範囲:P.1740 - P.1745

内科医にもできる!
診療に必要な知識・スキル
症例
 30歳女性.X年3月,鼻漏・鼻閉・くしゃみを主訴に総合内科を受診した.「毎年この時期になると花粉症になる.薬を処方してほしい」とのこと.

書評

—堀 進悟 監修 田島康介 編—マイナー外科救急レジデントマニュアル

著者: 佐々木淳一

ページ範囲:P.1605 - P.1605

 このたび刊行された『マイナー外科救急レジデントマニュアル』は,数多くの整形外傷手術をこなす整形外科専門医であり救急科専門医でもある田島康介先生が,自分が知りたい他科の知識や,同僚医師らからよく聞かれる質問への答えをまとめた書籍です.
 対義語の一つに,「メジャー(major)」と「マイナー(minor)」があります.アメリカ大リーグにおけるメジャーリーグ,マイナーリーグといった使い方はよく知られています.その意味を『大辞林』(第三版)で調べてみると,メジャーは「規模の大きなさま・主要な位置を占めるさま・広く知られているさま・有名なさま」,マイナーは「規模や重要度が小さいさま・あまり知られていないさま・有名ではないさま」と書かれています.医学の領域でも,内科・外科・小児科・産婦人科をメジャー科,それ以外の診療科をマイナー科といった使い方がされますが,何をもって二つに分けるのでしょうか.「仕事が大変vs楽」「入院患者数が多いvs少ない」「全身を診るvs局所を診る」など,どれももっともらしく思えますが,本当のところは医師国家試験の出題の関係でいわれるようになったようです.昔は上記のメジャー科が毎年必ず出題され,それ以外のマイナー科は毎年2科が選択出題されていました.

—金城光代,金城紀与史,岸田直樹 編—ジェネラリストのための内科外来マニュアル—第2版

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1636 - P.1636

 医学書籍を選ぶとき,私はまずタイトルに興味を惹かれるかを優先する.当然である.次に著者が信頼できる医師と周知していれば,既にこの時点で評価は高い.本書は,近年ますます重要さを増しているジェネラリスト内科医のためのマニュアルであり,優れたリウマチ内科医であると同時に日本のジェネラリスト内科医のリーダーとして敬愛している金城光代氏(沖縄県立中部病院総合内科/リウマチ膠原病科)とそのグループが編集・執筆された書籍となれば,もう期待感は最高潮である.

—上田剛士 著—日常診療に潜むクスリのリスク—臨床医のための薬物有害反応の知識

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.1651 - P.1651

 上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)は数多くの文献から重要なメッセージを抽出し,わかりやすい表やグラフにして説明してくれる.評者と同様,『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』(医学書院,2014年)を座右の参考書としている臨床医は多いであろう.これは臨床上の問題点に遭遇したとき,そのエビデンスを調べる際に非常に重宝している.
 『日常診療に潜むクスリのリスク』は薬の副作用に関する本である.高齢者はたくさんの薬を飲んでいる.私たちは気が付いていないのだが,薬の副作用により患者を苦しめていることは多い.「100人の患者を診療すれば10人に薬物有害反応が出現する」(序より),「高齢者の入院の1/6は薬物副作用によるもので,75歳以上では入院の1/3に及ぶ」(p. 5より)という事実は決して看過すべからざることである.「Beers基準」や「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」は存在するが,高齢者への適切な処方への応用は不十分だ.

—向山政志,平田純生 監修 中山裕史,竹内裕紀,門脇大介 編—腎機能に応じた投与戦略—重篤な副作用の防ぎかた

著者: 山縣邦弘

ページ範囲:P.1709 - P.1709

 2016年2月に日本医療開発機構 腎疾患実用化研究事業「慢性腎臓病の進行を促進する薬剤等による腎障害の早期診断法と治療法の開発(研究代表者:成田一衛)」の薬剤性腎障害の診療ガイドライン作成委員会(委員長:山縣邦弘)のもとで「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」が発刊された.その中では,薬剤性腎障害(DKI:Drug induced kidney disease)を「薬剤の投与により,新たに発症した腎障害,あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」と定義した.DKIの分類としては発症機序から,(1)中毒性腎障害,(2)アレルギー機序による急性間質性腎炎(過敏性腎障害),(3)薬剤による電解質異常,腎血流量減少などを介した間接毒性,(4)薬剤による結晶形成,結石形成による尿路閉塞性腎障害としている1)
 薬剤の多くが腎排泄性であり,腎臓はより高濃度の薬剤に曝露されやすいため,上記DKIの分類の中でも中毒性腎障害をきたす危険性が高い.このような中で本書は腎機能に応じた適切な投与法を指南し,薬剤血中濃度の上昇による全身性の副作用を未然に防ぐための貴重な解説書である.

information

第27回日本メイラード学会年会のお知らせ

ページ範囲:P.1705 - P.1705

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1752 - P.1753

購読申し込み書

ページ範囲:P.1754 - P.1754

次号予告

ページ範囲:P.1755 - P.1755

奥付

ページ範囲:P.1756 - P.1756

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?