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雑誌目次

雑誌文献

medicina54巻11号

2017年10月発行

雑誌目次

特集 自信をもって対応する—虚血性心疾患

著者: 中川義久

ページ範囲:P.1763 - P.1763

 虚血性心疾患は,循環器内科では最も患者数の多い疾患カテゴリーであり,循環器内科を専門としない一般内科医であっても遭遇する機会は多い.診断と治療にスピード感が求められ,生命にも関わる状態の患者に対して適切に対応する能力を身につけることはすべての内科医にとって必須である.
 虚血性心疾患では冠動脈の閉塞や狭窄などにより心筋への血流が阻害され,心臓に障害が起こる.狭心症や心筋梗塞がこの疾患の代表である.急性心筋梗塞と不安定狭心症は,冠動脈のプラーク破綻を起点として血栓形成が急速に進行するという点で病態生理学的に共通することから,急性冠症候群と総括されている.急性冠症候群は,さらにST上昇型心筋梗塞,非ST上昇型心筋梗塞,そして不安定狭心症に分類される.特にST上昇型心筋梗塞では,冠動脈の早期再開通が予後改善のために重要で,一刻も早く確実に血行再建することが主眼となる.一般内科医にとっても,クリニックの外来や当直医として対応する救急において,急性心筋梗塞に遭遇することは稀ではない.本特集においては基礎的な知識から最先端のトピックスまでを網羅するように工夫した.急性冠症候群,特にST上昇型心筋梗塞患者では,発症後早期に重篤な転帰をたどり病院の救急外来まで到達できない症例も多い.この生命予後改善のためには,病院という枠組みを越えた社会的なシステム構築が必要とされる.このプレホスピタル治療への取り組みについても紹介している.

特集の理解を深めるための25題

ページ範囲:P.1894 - P.1897

座談会

急性冠症候群患者の救命率を上げるには?

著者: 天野利男 ,   中川義久 ,   安東治郎

ページ範囲:P.1764 - P.1770

虚血性心疾患,特に急性心筋梗塞に代表される急性冠症候群は,スピード感をもって対応しないと命に関わるため,循環器を専門としない先生方にとっても対応を身につけておきたい疾患です.また,循環器の専門医においては,より重症の患者さんを救命できるよう改善すべきこともたくさんあります.今回は急性心筋梗塞診療の問題点と,どうしたらより救命率を上げることができるか,また非専門医が自信をもって対応できるかについて,討論していきたいと思います.(中川)

虚血性心疾患を見逃さないための診断法

急性冠症候群の臨床症状

著者: 古川裕

ページ範囲:P.1772 - P.1774

Point
◎急性発症の胸痛,背部痛,心窩部痛をきたす疾患との鑑別診断が必要になる.具体的には,急性大動脈解離,肺塞栓症など循環器疾患のほか,気胸や食道痙攣などの上部消化管疾患が含まれる.
◎今ある症状以外に冠危険因子などの患者背景の情報も重要である.患者背景から可能性が低いと判断される場合でも,急性冠症候群など重篤な病状に陥る可能性がある疾患は安易に鑑別診断から除外しない.
◎罹病期間の長い糖尿病患者,高齢患者(特に女性),冠動脈バイパス手術(CABG)後患者など,無痛性心筋虚血を生じやすい患者群には注意が必要である.
◎不安定狭心症が疑われる患者では,“不安定さ”を見極める問診により緊急入院が必要な患者を見逃さないようにする.

一般内科医から循環器専門医へのコンサルテーション

著者: 江原淳

ページ範囲:P.1776 - P.1779

Point
◎コンサルトではフルプレゼンでなく,ショートプレゼンをする.
◎まずコンサルト要件を明確に伝える.たとえ相手が目上でも要件ははっきりさせておく.
◎ショートサマリーでは,マネジメントに必要な情報をピックアップしてサマライズし,もう一度要件を述べる.
◎循環器医からフィードバックをもらい,勉強することで共通言語を増やしていく.
◎常に「コンサルトするのは患者のため」であることを忘れない.

初期対応医が循環器内科医に引き渡す前に,すべきこと・すべきでないこと—JRC蘇生ガイドライン2015:急性冠症候群(ACS)から

著者: 西山慶

ページ範囲:P.1780 - P.1783

Point
◎ACSの初期対応については迅速な診断および,酸素,アスピリン,硝酸薬およびモルヒネを用いた治療を行う.
◎診断確定のために採血結果を待つことで再灌流療法が遅れてはならない.初期救急医療機関では,緊急PCIを施行できる施設への搬送は受診時から30分以内とする.
◎常に「急変するもの」としての対応が必要である.モニター装着,静脈路確保,蘇生デバイスの準備は速やかに実施されるべきである.
◎ACSの除外は難しく,心電図とバイオマーカーのみでは不完全であり,専門医による心エコーなどの評価を積極的に実施するべきである.
◎地域の実情,特にPCIセンターがあるかどうかにより治療戦略が大きく異なるため,事前に状況を把握しておくことが重要である.

急性冠症候群の心電図所見

著者: 小菅雅美

ページ範囲:P.1784 - P.1788

Point
◎急性冠症候群が疑われる患者では,直ちに(10分以内に)12誘導心電図を記録する.ST上昇を認めた場合は緊急血行再建の適応である.
◎異常ST上昇の診断は,性別・年齢・誘導により異なる.
◎急性前壁梗塞において下壁誘導のST低下は,左前下行枝近位部閉塞判別の最も有用な指標とされている.
◎肢誘導は,心臓に面する順番に並び替えたCabrera配列で考えると理解しやすい.
◎右室梗塞の診断にはV4R誘導のST上昇(1.0mm以上)が有用だが,その有用性は発症早期に限られる.

虚血性心疾患診断における心エコーの役割

著者: 泉知里

ページ範囲:P.1790 - P.1793

Point
◎胸痛を訴えて来院した患者のなかから虚血性心疾患患者をピックアップすることが,心エコー図検査の重要な役割である.
◎冠動脈支配領域を壁運動異常の分布に当てはめながら診断していく.
◎心エコー図検査により,虚血に伴う合併症や血行動態の異常,心機能を評価することが可能である.
◎急性冠症候群の機械的合併症は,致死的になることが多く,救命のためには心エコー図検査での迅速な診断が必須である.

急性冠症候群のバイオマーカー

著者: 佐藤幸人

ページ範囲:P.1794 - P.1797

Point
◎血中トロポニンは心筋梗塞の診断における第一選択のバイオマーカーであることが,国内外の診断基準,ガイドラインに記載されている.
◎診断のカットオフ値は,測定系により異なる.
◎高感度トロポニン測定系では,より低いカットオフ値を設定することが可能であり,心筋梗塞を発症早期から診断できる.
◎カットオフ値を低くすると陰性的中率は高くなるが,陽性的中率は低くなる.
◎心筋梗塞以外では心不全や腎不全でも高値になるが,偽陽性と考えるのではなく,「緊急性はないが精査を要する」と考える.

急性冠症候群の冠動脈造影所見の読影法

著者: 中川義久

ページ範囲:P.1798 - P.1799

Point
◎冠動脈造影検査は急性冠症候群を含む虚血性心疾患の診断において,gold standardとして位置づけられている.
◎通常,血栓は病変部に存在する.
◎再開通の血流の評価としてTIMI gradeが,再開通の質の評価としてblush scoreがある.

虚血性心疾患診断での冠動脈CTの役割

著者: 渡辺浩毅 ,   橘知宏

ページ範囲:P.1800 - P.1804

Point
◎高性能CTの登場により,冠動脈CTの短時間・低被曝撮影が可能になった.
◎冠動脈の解剖学的位置関係を正確に把握する.
◎冠動脈病変の狭窄度やプラーク性状を把握し,治療方針を決定する.
◎冠動脈CTは,PCI後フォローアップ時の冠動脈ステント内腔の評価や新規病変の進行,CABG後のフォローアップなどに有用性が高い.
◎近年,冠動脈病変の検出のみでなく,心機能や虚血の診断にも冠動脈CTが有用であることが報告されている.

急性冠症候群の急性期治療

ST上昇型心筋梗塞への経皮的冠動脈形成術

著者: 吉町文暢

ページ範囲:P.1806 - P.1809

Point
◎STEMIの心筋のダメージを最小にするためには,door to balloon timeの短縮とPCIの質の向上を目指さなければいけない.
◎STEMIのPCIは経橈骨動脈インターベンション(TRI)を選択すべきである.
◎補助循環の使用は後手に回ってはいけない.
◎目標は一刻も早い再灌流と順行性の血流維持である.決してステントを入れることではない.慢性期につなげる治療こそが大切である.

不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞への急性期治療

著者: 松澤泰志 ,   木村一雄

ページ範囲:P.1810 - P.1814

Point
◎不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞(UA/NSTEMI)は近年増加し,予後不良な疾患である.
◎UA/NSTEMIは幅広い病態のスペクトラムを含む.
◎治療方針決定のためにはリスクの層別化が重要である.
◎UA/NSTEMIの初期薬物治療後の治療戦略として,“routine invasive strategy”と“selective invasive strategy”という2つの異なる考え方がある.

心原性ショック患者への対応

著者: 市村研三 ,   的場哲哉 ,   前原喜彦 ,   筒井裕之

ページ範囲:P.1816 - P.1818

Point
◎ショックを早期に認知するためには,血圧値や検査結果に頼るのではなく,末梢冷感や意識レベルなどから患者の重篤感を感じ取る必要がある.
◎ショックの原因検索には,超音波検査によるRUSH examが有用である.
◎心原性ショックの原因で最も多いのは,急性心筋梗塞である.
◎心原性ショックを伴う急性心筋梗塞の治療には,再灌流療法(primary PCI)が必須である.

心筋梗塞合併症への対応—種類,機序,見分け方

著者: 貝谷和昭

ページ範囲:P.1820 - P.1826

Point
◎急性心筋梗塞の合併症として,主に機械的合併症と不整脈が挙げられる.
◎急性心筋梗塞合併症は,CCUと冠動脈再灌流療法の出現・進歩により著明に軽減し,院内死亡率改善につながった.
◎急性心筋梗塞発症後,数時間以内の機械的合併症としては心原性ショックや右室梗塞などがあり,数日内の急性期合併症としては左室自由壁破裂,心室中隔穿孔や,乳頭筋不全による急性僧帽弁閉鎖不全などの機械的合併症が挙げられる.
◎心室性不整脈発生にも2つのピークがあり,①急性虚血や再灌流障害に伴う超急性期不整脈と,②数日〜2,3週間単位の発生のピークがみられる亜急性期不整脈がある.
◎一般的にこれら合併症の発症は急性進行性に顕在化することが多く,対応の遅れは致命的となる場合がある.迅速に診断を進めると同時に心臓外科医や不整脈専門医などと密に連携の取れる体制づくりも重要である.

プレホスピタル治療への取り組み

onset to balloon timeがなぜ重要なのか

著者: 塩見紘樹

ページ範囲:P.1828 - P.1832

Point
◎経年的にD2B timeは短縮を成し遂げてきたが,期待された死亡率の改善に結びつかなかった.
◎さらなる急性心筋梗塞の予後改善のためには,総虚血時間(O2B time)の短縮が重要と考えられる.
◎総虚血時間短縮のためには,12誘導心電図伝送をはじめとした地域の救急医療システムを向上させることが重要である.

onset to balloon time短縮のための心電図伝送システム

著者: 藤田英雄

ページ範囲:P.1834 - P.1837

Point
◎Door to balloon time(DTBT)は10分の短縮で死亡リスク8%相当の低減効果をもつ.
◎STEMI予後改善のためにプレホスピタル心電図が有効である.
◎モバイルICTを応用したクラウド心電図システムが開発された.
◎プレホスピタル領域の変革によりonset to balloon time(OTBT)短縮も予後改善のための標的となる.

AEDが院外で効果を発揮するために必要な医師の知識と役割

著者: 野々木宏

ページ範囲:P.1838 - P.1841

Point
◎院外心停止の救命率は,10%前後と低率である.
◎心室細動は早期の電気的除細動が有効であるが,心停止発生から数分で心静止となる.
◎院外心停止の救命率を向上させるには,市民による心肺蘇生(CPR),特に自動体外式除細動器(AED)の活用が重要である.

虚血性心疾患の慢性期治療

虚血性心疾患における二次予防のための抗血小板療法

著者: 日置紘文 ,   上妻謙

ページ範囲:P.1842 - P.1845

Point
◎労作性狭心症・心筋梗塞の慢性期においては,アテローム性血栓症イベントを抑制するためにも症状の有無にかかわらず,アスピリンを用いた抗血小板療法を行う.ただし,アレルギーなどの症例では,チエノピリジン系抗血小板薬を用いる.
◎ステント留置後の2剤抗血小板療法の併用期間はステントの種類,病変などで変わるため,個々の患者に合わせて調整することが必要である.
◎抗凝固療法との併用が必要となる症例(心房細動合併,慢性肺血栓塞栓症など)については,出血リスクを考慮した抗血小板・抗凝固療法の確立が必要となる.

二次予防のための脂質管理

著者: 根本照世志 ,   下浜孝郎 ,   阿古潤哉

ページ範囲:P.1846 - P.1850

Point
◎冠動脈疾患の二次予防患者ではスタチンを中心とした薬物治療を要する.
◎近年では心血管疾患のリスクが高い患者に対しては,血中LDL-Cレベルを70mg/dL以下にすることが推奨されている.
◎わが国において家族性高コレステロール血症患者は高頻度に存在するにもかかわらず,ほとんど診断されていないのが現状である.
◎強いLDL-C低下作用を有するPCSK9阻害薬は,心血管リスクの高い症例に対して脂質異常症治療の大きな一助となることが期待されている.

二次予防のための糖尿病管理

著者: 稲田司

ページ範囲:P.1852 - P.1856

Point
◎糖尿病は心血管疾患の発症ばかりでなく再発の危険因子でもある.
◎運動療法はインスリン抵抗性を改善し,総合的代謝改善に有効である.心臓リハビリテーションとして心事故回避にも有益である.
◎大規模臨床研究の歴史では,強化血糖降下療法は大血管障害に対する有効性が証明できなかったが,総合的な代謝が改善された研究では有効性が示された.また,晩期の観察から“legacy effect”や“metabolic memory”の概念が提唱され,厳格な血糖降下療法の効果も期待できることが判明した.
◎心筋梗塞既往のある2型糖尿病(T2DM)に対しては,血糖を至適にコントロールすることが前提ではあるが,低血糖に注意し,代謝改善が期待できる薬剤を中心に組み立てるとよい.

虚血性心疾患患者におけるACE阻害薬/ARBの使い方

著者: 小松愛子 ,   野出孝一

ページ範囲:P.1858 - P.1861

Point
◎合併症のない高血圧治療の第一選択薬は,カルシウム拮抗薬,ACE阻害薬/ARB,少量利尿薬である.
◎左室肥大,慢性腎臓病,糖尿病,心筋梗塞後,心不全を合併した高血圧には,ACE阻害薬/ARBを積極的に使用する.
◎心筋梗塞後の二次予防は,左心機能低下の有無にかかわらず,ACE阻害薬が有効である.
◎心筋梗塞二次予防としてのARBは,空咳などによるACE阻害薬使用困難例に対してのみ使用する.
◎ACE阻害薬/ARBともに,高齢者や高K血症への使用,両側腎動脈狭窄に要注意である.

虚血性心疾患患者における心不全への対応とβ遮断薬の使い方

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.1862 - P.1865

Point
◎虚血性心疾患による慢性心不全は,梗塞後左室リモデリングと残存心筋虚血から成る.
◎虚血性心疾患による収縮障害例では,症状の有無にかかわらずβ遮断薬が適応となる.
◎虚血性心疾患におけるβ遮断薬は,左室逆リモデリングをもたらしにくい.
◎β遮断薬治療による心不全の予後改善効果は,虚血性と非虚血性とで差がない.

虚血性心疾患再発予防における心臓リハビリテーションの役割

著者: 小笹寧子

ページ範囲:P.1866 - P.1870

Point
◎年齢・性別によらず,すべての虚血性心疾患患者で心臓リハビリテーション(心リハ)が必要である.
◎心リハは,長期的・包括的な多職種協働による疾患管理プログラムである.
◎心リハによりQOLのみならず生命予後改善が得られる.
◎運動負荷試験により,運動のリスクとトレーニングの至適強度を見極める.

冠動脈疾患治療の最新の話題

冠動脈バイパス手術の進歩

著者: 福井寿啓

ページ範囲:P.1872 - P.1875

Point
◎冠動脈バイパス術は外科的血行再建術の標準治療であり,特に重症冠動脈病変には良い適応である.
◎内胸動脈などの動脈グラフトの開存率が良好であり,広く利用されている.
◎人工心肺装置を使用しないoff-pumpバイパス術により術後合併症が減少している.
◎ガイドラインでは,血行再建の適応をheart teamにより決定することが推奨されている.

生体吸収性スキャフォールド治療

著者: 村松崇

ページ範囲:P.1876 - P.1879

Point
◎生体吸収性スキャフォールド(BRS)は冠動脈への植え込み後,徐々に生体内に吸収される新しい治療デバイスである.
◎材質はポリ乳酸(PLA)が主体であるが,マグネシウムなどの金属を使用したBRSも開発が進められている.
◎再狭窄の抑制効果は従来の薬剤溶出性金属ステント(DES)と同等であることがすでに臨床で証明されている.
◎デバイスに関連した血栓症(心筋梗塞)のリスクがDESと比較して高いことが,現在の最大の課題である.
◎この課題を克服するための試み(デバイスの改良,適切な留置方法や抗血小板薬の継続期間など)が現在検証されている.

冠動脈疾患のメカニズム

冠動脈プラークがなぜ生じ,破綻するのか?

著者: 和田英樹 ,   宮内克己

ページ範囲:P.1881 - P.1884

Point
◎急性冠症候群は,不安定プラークの破綻に引き続く血栓形成に伴い,冠動脈の突然の閉塞,高度狭窄が生じる病態である.
◎不安定プラークは,薄い線維性被膜やポジティブリモデリング,大きな脂質コアを有するなどの特徴を有し,thin-cap fibroatheroma(TCFA)とも呼ばれる.
◎プラークの不安定化,破裂にはさまざまな要因が推定されているが,確立されておらず,現在も探索段階にある.

―Column―プラークの破綻によるイベントを予測できるか?

著者: 和田英樹 ,   宮内克己

ページ範囲:P.1885 - P.1885

血管内超音波,光干渉断層法,NIRSを用いたイベント予測への期待
 急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の多くは,冠動脈造影検査にて有意狭窄を示さない50%以下の軽度〜中等度の病変から発症することが知られている.つまり,冠動脈造影検査ではACSの発症を予測することは困難である.しかし,血管内超音波(intravascular ultrasound:IVUS)や光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)などの侵襲的検査法により,①ポジティブリモデリング,②薄い線維性被膜,③壊死性コアの3つの特徴をもつ不安定プラークがプラーク破裂の原因となることが立証されてきた.ACSを発症し経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervension:PCI)を施行した患者を前向きに観察したPROSPECT試験では,IVUSで観察されたplaque burden≧70%,最小血管面積4.0 mm2未満,virtual histology thin-cap fibroatheroma(VH-TCFA)の存在が心血管イベントの独立した予測因子であることが示された.また,従来のIVUSやOCTに加え,近赤外線の吸光度を利用し,プラーク内の脂質成分を画像化するnear-infrared spectroscopy(NIRS)が本年よりわが国でも臨床応用されており,不安定プラークの検出およびイベントの予測法になることが期待されている.

虚血性心疾患の疫学

著者: 桑原和代 ,   岡村智教

ページ範囲:P.1886 - P.1889

Point
◎国際的にみて,わが国の虚血性心疾患の年齢調整死亡率(人口10万人対)は低い.
◎わが国における虚血性心疾患の年齢調整死亡率の推移は低下傾向にある一方,粗死亡率は増加傾向にある.
◎虚血性心疾患の主要な危険因子は,高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙である.
◎吹田スコアは個人の10年間の冠動脈疾患の発症リスク(絶対リスク)を評価する.

虚血性心疾患の病理所見

著者: 仲川将志 ,   成子隆彦 ,   上田真喜子

ページ範囲:P.1890 - P.1893

Point
◎安定狭心症の冠動脈責任プラークは,急性冠症候群に比べ,線維性成分が主体であることが多い.
◎急性冠症候群の冠動脈病変では,プラーク破裂もしくはプラークびらんとそれに伴う血栓形成が特徴的である.
◎急性冠症候群の発症には,プラーク炎症やさまざまな酸化ストレスが関与する.

連載 フィジカルクラブpresents これって○○サイン!?・7

朝の起床時,右脚に力が入らず立歩行困難で救急要請した90代男性.

著者: 平島修

ページ範囲:P.1757 - P.1758

朝の起床時,右脚に力が入らず立歩行困難で救急要請した90代男性.診察ではつかまり立ち可能だったが,右脚をかばう仕草がみられた.また,大腿・下腿前面には明らかな皮膚所見の左右差は認めなかった.
脳卒中を疑い,下肢筋力の評価のため仰臥位で両下肢挙上を指示すると…

目でみるトレーニング

問題853・854・855

著者: 竹本聖 ,   市來征仁 ,   梶原祐策

ページ範囲:P.1898 - P.1903

Inpatient Clinical Reasoning 米国Hospitalistの事件簿・15

視野狭窄の恐怖

著者: 石山貴章

ページ範囲:P.1905 - P.1907

「熱も下がってきたし,腰痛もそれに従って良くなると思っていたのですが…」
 前医のコメントを電話で聴きながら,「面白そうだな」という感想を禁じえない自分がいた….

内科医のボクらに心療ができないはずがない・6

めまいの背後に隠れた「死にたい」を見逃すな

著者: 井出広幸 ,   宮崎仁

ページ範囲:P.1908 - P.1911

 定例の教育セッションが行われる部屋にイデ院長が入っていくと,研修医たちが顔を付き合わて,何やら真剣に話し合っていた.その会話に耳を傾けてみると….

内科医のための 耳・鼻・のどの診かた・9

嚥下障害

著者: 石丸裕康 ,   土橋直史 ,   高北晋一

ページ範囲:P.1912 - P.1917

症例
 77歳男性.脳梗塞の既往あり.右上下肢の不全麻痺があり,屋内車椅子で生活している.認知症のため見当識障害あり.食事はセッティングで自立している.定期受診日,ほぼ状態は安定していたが,主介護者である妻より「最近食事中にむせることが多くなってきた」との訴えがあった.

書評

—上田剛士 著—日常診療に潜むクスリのリスク—臨床医のための薬物有害反応の知識

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1797 - P.1797

 医療現場でクスリの副作用ケースが増えています.高齢化,マルチモビディティ,ポリファーマシー,新薬開発,ガイドラインによる推奨などが要因です.それでも,処方した医師には副作用を早期に発見し対処する責任があるといえます.そのためには処方する医師には「特別」な学習が必要です.なぜ特別かというと,悲しいかな,薬の副作用についての臨床的に役立つ実践的な知識は薬のパンフレットや添付文書を熟読しても習得できないからです.
 本書はそのような実践的な知識をコンパクトにまとめてエビデンスを提供してくれる新しいタイプのリソースです.著者は総合診療エビデンス界のプリンス,上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科).本書では,得意技である円グラフを駆使して,徹底的な科学的エビデンスを提供してくれています.

—乗井達守 編—処置時の鎮静・鎮痛ガイド

著者: 林寛之

ページ範囲:P.1833 - P.1833

 「医学は耳学問とみたり」などという指導を受けて育ったわれわれ古だぬき医者にとっては,本書は目からうろこの宝の山だ.特に事例が多く,薄い本というのが実によい(テヘ!).古来,日本人は我慢強いのが美徳とされ,患者さんの痛みにはあまり共感的ではなく,処置を優先するのが当たり前であった.「胃カメラで鎮静してほしいなんて根性のない」などと言ったものだが,とんでもはっぷん,胃カメラは特に若い人であれば地獄のようにつらい手技であることに変わりはない.
 不思議なことに,医療者も自分自身が患者にならないと患者に寄り添う本当の医療が実感できないものなのかもしれない.古狸先生が患者さんに優しい良医である場合,案外自分も健康を害したことがあり,その経験が良医たるべく肥やしになっているのではないかしらン?「痛み」は第5のバイタルサインと言われ,患者さんの敏感であることも,医療者としてはすごく大事な資質なのだ.

—平島 修,志水太郎,和足孝之 編—《ジェネラリストBOOKS》—身体診察 免許皆伝—目的別フィジカルの取り方 伝授します

著者: 藤本卓司

ページ範囲:P.1857 - P.1857

 新進気鋭の若い医師たちによる身体診察の本が発刊された.毎年,新年度が始まると感じることだが,新卒の初期研修医たちはほぼ例外なく将来志望する専門領域にかかわらず身体診察の基本を正しく習得しておきたい,という気持ちを強く持っている.『身体診察 免許皆伝』は総合医,家庭医,救急医など,ジェネラルな方向に進む人たちのみならず,専門領域に進む若手医師たちにもぜひ手にとってほしい本である.本書の特徴は以下のとおりである.
 第一に,カラーの写真や図が多く使われていて視覚的にたいへんわかりやすい.身体診察は自分の身体を動かして覚えるものであるから,基本形が沢山の画像で示されていることは読者にとってはありがたい.

—七里 守 著—《循環器病テクニカルノート》—虚血性心疾患—臨床を上手に行うための「頭と実地」のテクニック

著者: 松尾仁司

ページ範囲:P.1880 - P.1880

 循環器領域,特に虚血性心疾患の治療,マネージメントの進歩は目覚ましい.著者である七里守氏と小生とは核医学をはじめとした心臓画像診断,そして冠動脈インターベンションを通じてお付き合いをさせていただいているが,七里氏は私が知る限り,進歩し続ける循環器医療のなかにあって最もバランスのとれた循環器内科専門医,インターベンション治療医といっても過言ではない.序文にあるように,七里氏の医師としてのキャリアは,優れた師による指導とともにベッドサイドで形成された.本書には,七里氏が臨床の現場で多くの患者を通じて遭遇し,解決してきた問題点や重要なポイントが見事に整理されている.若い循環器を志す医師が臨床の現場で患者を管理治療する際に重要なポイントとテクニックを,これほどまでにわかりやすく解説した書籍を小生はみたことがない.
 他の本にない素晴らしさを章別に述べる.

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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