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雑誌目次

雑誌文献

medicina54巻12号

2017年11月発行

雑誌目次

特集 救急外来で役立つ!—意識障害の診かた—“あたま”と“からだ”で考える

著者: 宮武諭

ページ範囲:P.1936 - P.1937

 救急隊から「意識障害の傷病者です」と収容要請の電話があったとき,「原因は何だろうか?」と不安な気持ちになることは少なくないと思います.その理由の1つは,意識障害には鑑別疾患がたくさんあって,救急の場でどのように鑑別していくのか,そのアプローチが定まっていないからではないでしょうか.そこで,意識障害の患者さんが救急搬送されてきたときに,どのように初期診療を進めたらよいか,その基本骨格を伝えることが本特集の目的です.基本骨格には,3つのキーワードがあります.
 1つ目のキーワードは,“持続性”か,“一過性”かです.患者さんが搬送されてきたときに,意識障害が持続しているのか,それとも既に回復していて一過性意識障害だったのかを鑑別します.

特集の理解を深めるための27題

ページ範囲:P.2088 - P.2092

座談会

救急外来で診る高齢者の意識障害

著者: 宮武諭 ,   岩田充永 ,   増井伸高

ページ範囲:P.1938 - P.1944

高齢者の意識障害は「詳細な病歴がとりにくい」「典型的な症状を呈さない」「原因が多岐にわたる」など,複数の要因により原因の鑑別が困難であることが少なくありません.また,ベースラインの脳機能が低下しているため,感染症によって容易に意識障害をきたします.したがって,脳血管障害に代表される“あたま”が原因の意識障害よりも,感染症などの“からだ”が原因のものが多い傾向があります.そこで本日は救急医の岩田先生と増井先生に,日々の救急外来での診療経験を踏まえた,高齢者の意識障害を診るコツをお話しいただければと思います.(宮武)

Editorial

救急外来における意識障害の初期診療

著者: 宮武諭

ページ範囲:P.1946 - P.1948

Point
◎まず,現場で起こった意識障害が,“持続性”か,“一過性”かを評価する.
◎持続性の意識障害であれば,“あたま”と“からだ”のどちらが原因の可能性が高いかを鑑別する.
◎一過性意識障害であれば,それが一過性の血圧低下(全脳低灌流)による“失神”なのか,“非失神の病態”なのかを鑑別する.

意識障害 【意識障害の初期評価と初期検査】

バイタルサインから意識障害の原因を推定しよう

著者: 小島直樹

ページ範囲:P.1949 - P.1952

Point
◎意識障害のある患者でも,最初の身体診察はバイタルサインのA(Airway)→B(Breathing)→C(Circulation)の順で行う.
◎D(Disability)以外のバイタルサインの異常はすべて意識障害の原因になりうる.それらの異常がある段階では意識障害の原因を確定できない.
◎ショック状態に陥ると容易に意識障害を生じるが,逆に意識障害が原因でショックに陥ることはない.
◎バイタルサインに異常があれば,安定化を図りながら同時に意識障害の鑑別を進める.
◎意識障害を鑑別するための頭部CTはバイタルサインを安定させてから行う.

意識障害の病歴聴取を極める

著者: 合田祥悟 ,   佐藤朝之

ページ範囲:P.1953 - P.1955

Point
◎バイタルサインの“ABC”(気道,呼吸,循環)を安定化させたうえで病歴を聴取する.
◎患者本人だけでなく,周囲の人からも聴取する.
◎SAMPLE法を用いて,漏れのない病歴聴取を行う.
◎病歴では,「発症様式・臨床経過」と「周囲の状況」が特に重要である.

身体診察でヒントを得よう

著者: 中森知毅

ページ範囲:P.1958 - P.1962

Point
◎診るべきポイントを明らかにした身体診察をする.
◎脳ヘルニアの徴候の有無とその進行に注意を払う.
◎身体診察には限界があることを忘れない.

血液検査から何がわかるか

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.1963 - P.1966

Point
◎意識障害では血糖値,血液ガス分析でのスクリーニングが有用である.
◎副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定すべき意識障害を理解する.
◎大動脈解離や肺塞栓症による失神の可能性を考慮した場合はDダイマーの解釈に強くなっておくべきである.

頭部画像検査を上手に使おう

著者: 船曵知弘

ページ範囲:P.1967 - P.1972

Point
◎画像検査に耐えられる呼吸・循環状態かどうかを吟味して,検査中に容態が悪化しないように注意する.
◎くも膜下出血に対しては,画像検査前から脳動脈瘤を再破裂させないように注意する必要がある.
◎CT検査とMRI検査の長所・短所を理解したうえで,これらの検査を使い分けることができるとよい.
◎MRI検査では必要な撮像法(シークエンス)について理解し,検査時間が助長しないように注意する.

【“あたま”が原因の意識障害】

脳血管障害:脳梗塞

著者: 山口啓二

ページ範囲:P.1975 - P.1980

Point
◎脳梗塞急性期は“time is brain”であり,迅速な診療が求められる.
◎再灌流療法は予後改善が目的であり,適切な症例選択と早期再開通を追求すべきである.
◎非典型例を見落とすな,DWI所見を過信するな.

脳血管障害:脳出血,くも膜下出血

著者: 稲桝丈司

ページ範囲:P.1981 - P.1985

Point
◎意識障害患者の血圧が非常に高い場合(>200 mmHg),脳出血(ICH)あるいはくも膜下出血(SAH)の可能性が高い.
◎ICH・SAHともにCTで診断がつき次第,速やかに降圧を開始し,専門科医師をコールする.
◎高血圧のない若年成人がICHと診断された場合,薬物性の可能性も考慮する.
◎意識障害患者が心電図変化を呈した場合,SAHの可能性があるため,心疾患と決めつけてはならない.

痙攣発作,てんかん発作

著者: 並木淳

ページ範囲:P.1986 - P.1989

Point
◎てんかんによる全身性の痙攣発作(強直性・間代性痙攣発作)では意識障害をきたす.
◎片麻痺(Todd麻痺)と同側を向く共同偏視は,反対側のてんかん焦点を示唆する.
◎発作時の意識障害による転倒・転落に伴う頭部外傷の合併に注意する.
◎搬入時に痙攣発作が持続していれば,てんかん重積状態として直ちに治療を開始する.

非痙攣性てんかん重積

著者: 横堀將司 ,   金谷貴大 ,   横田裕行

ページ範囲:P.1991 - P.1996

Point
◎意識障害患者において,脳波異常がみられるてんかん患者が稀ならず存在する.
◎最近のガイドラインでは「可視的な症状(発作)の有無によらず,臨床的あるいは電気的(脳波で確認できる)てんかん活動が少なくとも5分以上続く場合,あるいはてんかん活動が回復なく反復し,5分以上続く場合」をてんかん重積状態(SE)と定義している.
◎SEは,全身痙攣が主体の痙攣性てんかん重積状態(CSE)と,痙攣を伴わない非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)に分類される.また,抗てんかん薬2剤により適切に治療してもてんかん発作が治まらないSEを難治性てんかん重積状態(RSE)と分類する.
◎持続脳波モニタリングは,集中治療中においても脳波異常の確認からNCSEの診断と治療に有用である.

髄膜炎,脳炎

著者: 星山栄成

ページ範囲:P.1997 - P.2000

Point
◎細菌性髄膜炎,脳炎は致死率の高い疾患であるが,早期に対応することにより,重篤な神経学的合併症を回避することが期待できる.
◎細菌性髄膜炎において,「発熱」「項部硬直」「意識障害」が揃うのは約半数である.
◎細菌性髄膜炎に対する抗菌薬投与は,来院後1時間以内に開始することを目標とする.
◎24時間以上続く意識障害や性格変化があり,ほかの原因では説明できない場合は脳炎を考慮すべきである.

【“からだ”が原因の意識障害】

低血糖

著者: 髙平修二 ,   古屋大典

ページ範囲:P.2001 - P.2005

Point
◎低血糖は血漿中グルコースが70 mg/dL以下,また重度低血糖は40 mg/dL以下の状態である.
◎血糖低下では自律神経症状のうち,アドレナリン作動性症状およびコリン作動性症状が出現する.
◎低血糖により,脳MRI 拡散強調画像で内包,基底核,皮質下白質などに高信号を認めることがある.
◎低血糖の原因として長期の摂食不良が疑われる場合は,ビタミンB1の補充も行う.

電解質異常(低Na血症)

著者: 鎌形知弘 ,   垣内大樹 ,   本間康一郎

ページ範囲:P.2008 - P.2011

Point
◎電解質異常は持続性かつ全身性(からだ)の病態である.
◎低ナトリウム(Na)血症の原因疾患の検索には,問診や既往歴,内服薬の確認,血液検査,尿検査が重要である.
◎意識障害を伴う低Na血症の初期治療は3%食塩水で開始する.
◎低Na血症の症状改善後は,体液量および原因疾患に合わせて治療を行う.

敗血症性脳症

著者: 小村賢祥

ページ範囲:P.2012 - P.2015

Point
◎敗血症性脳症は敗血症によって生じるびまん性脳障害であり,「敗血症関連脳症」「敗血症関連せん妄」とも呼ばれる.
◎診断には他疾患の除外が必要であり,今のところ敗血症性脳症に特異的な身体所見や血液マーカーなどは存在しない.
◎敗血症性脳症に特異的な治療はなく,敗血症の治療を適切に行うことである.

肝性脳症(肝不全)

著者: 松岡克善

ページ範囲:P.2016 - P.2018

Point
◎肝障害のある患者に精神神経症状が出現した場合に,肝性脳症を疑う.
◎肝性脳症は,病歴,理学的所見,血中アンモニア値などを総合的に判断し,ほかの意識障害をきたす原因を除外することで診断する.
◎治療は,誘因の除去と血中アンモニア値を下げることである.
◎治療薬としては,分枝鎖アミノ酸輸液,非吸収性合成二糖類,腸管非吸収性抗菌薬が用いられる.

肺性脳症

著者: 藤井遼 ,   阿野正樹

ページ範囲:P.2020 - P.2023

Point
◎高炭酸ガス血症による意識障害は,主に肺胞低換気や,死腔換気の増加によって引き起こされる.
◎高炭酸ガス血症を疑ったら動脈血液ガスを評価し,適切な治療方法,治療目標を設定する.
◎高炭酸ガス血症患者への高流量酸素投与は病態を増悪させる可能性があるが,まずは低酸素血症の治療を優先する.
◎非侵襲的陽圧換気(NPPV)は高炭酸ガス血症の治療に有用であり,その適応・禁忌を理解し使用する.
◎NPPVで改善が乏しい場合は速やかに気管挿管に切り替える.

内分泌疾患による意識障害

著者: 友常健

ページ範囲:P.2024 - P.2029

Point
◎甲状腺クリーゼでは,一見,心機能正常にみえても,実は相対的に低下している症例があるため,β1遮断薬の投与時には注意を要する.
◎粘液水腫性昏睡では,治療開始後もその管理が不十分だとCO2ナルコーシスなどの病状が増悪するため,注意を要する.
◎副腎クリーゼが疑われた際には,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とコルチゾールの検査をオーダーし,直ちに糖質コルチコイドの投与を開始する.
◎関連するホルモンの検査は必ずセットでオーダーする.日頃からホルモン検査をオーダーする意識づけが大切である.

中毒

著者: 東秀律

ページ範囲:P.2030 - P.2034

Point
◎原因不明の意識障害では,中毒の可能性がないか考える.
◎「トキシドローム」で毒薬物の中毒症状から原因物質を推測する.
◎トライエージ®DOAなど,検査の適応と限界を知る.
◎特異的治療のある中毒を知り,然るべき専門施設へ紹介する.

環境障害(熱中症,偶発性低体温症)

著者: 米川力

ページ範囲:P.2036 - P.2039

Point
◎熱中症は予防することが可能な環境障害である.
◎熱中症の診断にはほかの疾患の除外が必要である.
◎重症の熱中症の場合は,迷わず高次医療機関に転送する.
◎偶発性低体温症も原因となりうる疾患の除外が必須である.
◎低体温の際の心肺蘇生は通常とは異なることを理解する必要がある.

心因性の意識障害

著者: 船山道隆

ページ範囲:P.2040 - P.2042

Point
◎「心因性の意識障害」はいわゆる意識障害ではなく,ある程度外界を認識しているが,それに応じる意志が発動されない「昏迷」である.
◎昏迷には解離性昏迷と,統合失調症や気分障害に伴う緊張病性昏迷がある.
◎昏迷の誤診例はさまざまな疾患にわたるが,特に脳炎やてんかんが多い.

一過性意識障害 【総論】

救急外来での失神診療で心がけること

著者: 鈴木昌

ページ範囲:P.2044 - P.2048

Point
◎「その患者は『一過性意識障害』を起こしたのか?」を明らかにする.
◎一過性意識障害であれば,救急外来ではその多くが失神であるため,鑑別は必須である.
◎失神は血圧低下による全脳虚血が原因の意識障害であり,血圧低下の原因の鑑別を必ず行う.
◎心原性失神は急死の前兆である.
◎転倒による頭頸部外傷では失神を鑑別する.

【一過性意識障害の初期診療】

病歴聴取と身体診察のポイント

著者: 宮武諭

ページ範囲:P.2049 - P.2052

Point
◎一過性意識障害の診療では,病歴聴取が最も重要である.
◎致死的疾患を示唆する病歴と身体所見を見逃さない.
◎失神と判断したら,立位の血圧測定(立位負荷試験)を行う.

救急外来で行う検査

著者: 多村知剛

ページ範囲:P.2053 - P.2056

Point
◎救急外来で診療する一過性意識障害の半数以上は失神である.
◎一過性意識障害の原因検索には12誘導心電図,血液検査,画像検査が有用である.
◎失神患者の診断には12誘導心電図と立位での血圧評価が重要である.

失神と非失神の病態の鑑別ポイント

著者: 関藍 ,   志賀隆

ページ範囲:P.2059 - P.2063

Point
◎救急隊の現場到着時や病院収容時も意識障害が持続していたら,非失神の病態を考える.
◎カルガリー失神・痙攣スコア(CSSS)を知る.
◎痙攣様運動を伴う失神(convulsive syncope)に注意する.

原因不明な失神のリスク評価

著者: 駒ヶ嶺順平

ページ範囲:P.2064 - P.2067

Point
◎本当に原因不明か,病歴を再確認する.
◎心原性失神,肺塞栓症,出血性疾患を見逃さない.
◎短期予後のリスク評価をして,入院適応かを判断する.
◎最終的には患者とのshared decision makingにより,入院するかどうかを決定する.

救急外来を受診後に行う検査

著者: 古川俊行

ページ範囲:P.2068 - P.2072

Point
◎リスクに応じて実施する検査を選択する.
◎原因が不明であっても侵襲的な検査を行う必要がない患者が存在する.
◎植え込み型心電計などの,長期心電図モニターの積極的な使用を検討する.
◎頭部の検査は全例に施行する必要はない.

【失神の各論】

反射性失神(神経調節性失神)

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.2074 - P.2078

Point
◎反射性失神と一部の起立性低血圧は分類だけでなく診断も難しく,診断がつかなくても,入院・帰宅の判断を迫られる場合が少なくない.
◎マネジメントにおいては,「いかに反射性失神らしい所見を集められるか」と同時に,「いかに反射性失神らしくない所見を集められるか」が大切である.
◎繰り返す反射性失神では,心抑制型血管迷走神経反射の精査も検討する.
◎帰宅前に必ず起立試験を実施し,陽性であれば入院を検討する.

心原性失神

著者: 大村拓 ,   遠藤智之

ページ範囲:P.2079 - P.2083

Point
◎心原性失神は,心拍出量の低下による一過性全脳虚血が原因である.
◎心拍出量低下の原因は,不整脈と心臓の器質的疾患に大別される.
◎失神においては心原性の可能性を考慮し,リスク評価を密に行ったうえで入院の是非を判断する必要がある.

器質的疾患による失神

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.2084 - P.2087

Point
◎起立性低血圧は失神の3大原因の1つであるが,軽視されがちである.
◎消化管出血による起立性低血圧を除外せずに帰宅させてはならない.
◎肺塞栓,大動脈解離,くも膜下出血は比較的稀であるが,見逃してはならない失神の原因である.
◎これらの重篤な疾患の診断のカギは病歴と身体所見にある.

連載 フィジカルクラブpresents これって○○サイン!?・8

数日前からの左下肢のむくみと食欲不振のため来院した80代女性

著者: 平島修

ページ範囲:P.1929 - P.1930

数日前からの左下肢のむくみと食欲不振のため来院した80代女性.
左足先から大腿にかけて圧痕性浮腫を認めた.腹部診察をすると…

Inpatient Clinical Reasoning 米国Hospitalistの事件簿・16

「想像力」と「じっくりと」

著者: 石山貴章

ページ範囲:P.2093 - P.2096

「あぁ,そう言えば…」
 そう言ってその医学生は,追加のコメントを始めた.これが診断の大きなヒントになるとは,その瞬間まで思ってもみなかったわれわれであった….

目でみるトレーニング

問題856・857・858

著者: 後藤聖司 ,   佐々尾航 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.2097 - P.2102

書評

—平島 修,志水太郎,和足孝之 編—《ジェネラリストBOOKS》—身体診察 免許皆伝—目的別フィジカルの取り方 伝授します

著者: 青木眞

ページ範囲:P.1956 - P.1956

 臨床の極意は「自分が何をしようとしているか(≒鑑別診断)」を明確に意識・言語化することにあるといえる.その意味では本書の副題に「目的別」という言葉が含まれることが既に,この本の企画が優れていることを示しているといってよい.
 3人の編集者は,筆者が医学部を卒業した頃に生まれた若い方々であるが,いずれも筆者が病気をしたら主治医になって欲しい臨床医たちである.言い換えれば,臨床現場で何が問題となっており,それ故に何を考え,何を探せば良いのかが明確な医師たちである.自然,彼らは教え上手であり,既に臨床教育の世界でかなりの知名度を持っている.この3人の若手医師たちが中心となり編集したのが本書であり,基本的に「何をしようとしているか」を軸に構成されている.具体的には「リンパ節腫脹」「しびれ」といった臨床的な切り口に対して鑑別診断を挙げてから,「探しに行くべき身体所見」を教えている.

—一般社団法人 日本蘇生協議会 監修—JRC蘇生ガイドライン2015

著者: 外須美夫

ページ範囲:P.1973 - P.1973

 本の価値はいったい何で決まるのだろうか? わかりやすく言えばそれは,その本によってどれだけの人が救われるかということではないだろうか.そして,救われるのが死に瀕して助かる命だとしたら,その本の価値は何にも代え難いものだろう.この本がまさにそんな本だ.
 人ががんや寿命で死ぬとき,人は死を自覚し,死を受容し,受容しないまでも納得して,あきらめて,死ぬことができる.しかし,突然の病気で死に至るとき,あるいは不慮の事故に巻き込まれて死に至るときは,死を思う時間さえも与えられない.人生を振り返る時間もない.だから,突然の死からできるだけ多くの人を救ってあげたい.全ての医療者は,いや全ての人々は,家族は,そう願っている.その願いを叶えるのがこの本だ.

—日本神経治療学会 監修 福武敏夫,安藤哲朗,冨本秀和 編—しびれ感—標準的神経治療

著者: 山田正仁

ページ範囲:P.2006 - P.2006

 本書は日本神経治療学会が作成する標準的神経治療シリーズの中の一冊で,福武敏夫先生(亀田メディカルセンター神経内科部長),安藤哲朗先生(安城更生病院神経内科部長),冨本秀和先生(三重大大学院教授・神経病態内科学)の編集による.“しびれ感”といった日常診療で頻繁に遭遇する症状を主題にした診断や治療の標準化の試みはユニークである.本書では,“しびれ感”の病態機序や検査について述べた後,“しびれ感”を呈する神経疾患の概要とその治療について解説しており,知識の整理や診療の実践に役立つ.
 総論部分では,神経症候学や神経生理学のエキスパートが,“しびれ(感)”の概念,解剖・生理学,評価方法について語っており,大変興味深く参考になる.“しびれ”という日本語には感覚異常と運動麻痺の両者が含まれること,本書が対象とする感覚異常としての“しびれ”(=“しびれ感”)においても具体的表現(訴え)にはさまざまなものがあり(“じんじん”“びりびり”など),それらの背景となる原因や病態生理も多様であることなどがわかりやすく解説されている.最もコモンな訴えの一つである“しびれ”についての問診や診察のコツが,基礎になる解剖や生理学を踏まえて理解される.“しびれ感”を訴える患者さんの神経診察時にみられるさまざまなサイン(徴候)について,診断上のエビデンスレベルが示されている点も画期的である.

—崎山 弘,長谷川行洋 編—《ジェネラリストBOOKS》—保護者が納得!—小児科外来 匠の伝え方

著者: 五十嵐隆

ページ範囲:P.2057 - P.2057

 コミュニュケーション能力が低下している人が増えている.わが国の社会全般で人間関係が希薄になっていることやIT機器が進歩し利用が進んでいることが主な原因とされているが,理由は定かではない.小児医療の現場においてもそのような傾向がみられており,その結果として医師や看護師と患者や保護者との間の理解が得られず,しばしばトラブルの原因となっている.
 今回,日頃から私が尊敬する崎山小児科の崎山弘院長と東京都立小児総合医療センター内分泌・代謝科の長谷川行洋部長の編集・執筆による『保護者が納得!小児科外来 匠の伝え方』が上梓されたことを大変喜ばしく思う.若手小児科医を指導されているお二人が日常診療の現場で医療提供者側から患者や保護者に病名,治療方針,治療計画などがうまく伝わっていないケースに出合う機会が少なくないと実感されていることが,本書を編集・執筆された動機になったと推察する.

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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