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雑誌目次

雑誌文献

medicina54巻2号

2017年02月発行

雑誌目次

特集 おさらい腎疾患—明日から役立つアプローチの基本

著者: 安田隆

ページ範囲:P.191 - P.191

 多くの先生から「腎臓は難しい」と言われます.私も学生時代には腎臓の講義をまったく理解できませんでした.その後,腎臓を専門に診療していくにしたがって,それぞれの疾患概念の難解さや,生理学などの基礎と実際の臨床とがうまくかみ合っていない点など,腎疾患診療を行う際にも,また若手を教育する際にも多くの問題点があることに気づきました.
 近年,腎機能障害や蛋白尿を有することが末期腎不全への進行ばかりでなく,心血管障害の発症や生命予後と関連することが明らかとなりました.さらに,このような異常を有する症例が膨大な数に上ることが明らかとなり,腎疾患の診療は一般医家にとって避けて通れないものとなってきています.加えて,「慢性腎臓病(CKD)」や「急性腎障害(AKI)」といった新しい疾患概念が登場しています.これらは誰でも容易に理解できる疾患概念となっていますが,実際にどのように診療で使いこなせばよいのか,という点についてはまだまだ十分には理解されていないと思います.

特集の理解を深めるための28題

ページ範囲:P.353 - P.357

座談会

腎疾患診療は怖くない!

著者: 安田隆 ,   今井裕一 ,   菅野義彦

ページ範囲:P.192 - P.198

今回,「おさらい腎疾患 明日から役立つアプローチの基本」という特集を企画しました.そのメインテーマは,腎疾患診療における基本をいかに学ぶかというものです.腎疾患診療を一般医家の先生方に自信をもって積極的に行っていただくには,重要な点をできるだけ容易に理解していただくことが大切であり,そのために必要な課題や問題点の整理が必要です.そこで本日は腎疾患の診療のみならず,医学生や研修医の教育にも携わっていらっしゃるお二方,今井裕一先生と菅野義彦先生をお招きし,お話を伺いたいと思います.(安田)

異常がみられた場合のアプローチ

腎機能障害がみられた場合

著者: 佐々木彰

ページ範囲:P.200 - P.205

Point
◎腎機能低下をみたら,まず一度,偽物を疑ってみる.
◎血清クレアチニン(Cr)と尿量の経過がわかるように情報をとる.
◎血清Crと尿量以外の情報(病歴,身体所見,検査・画像)も丁寧にとる.
◎すべての情報を統合し,腎機能低下の「スピード」「原因」「結果」を判断する.

血尿,蛋白尿がみられた場合

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.206 - P.210

Point
◎血尿単独であれば病態は軽い場合が多いが,腎機能低下合併例は要注意!
◎内科的血尿(泌尿器科的疾患によらない血尿)は,糸球体の異常を表す場合が多い.
◎尿沈渣で変形赤血球や赤血球円柱があれば,糸球体疾患が存在する可能性が高い.
◎糸球体疾患より尿細管間質疾患のほうが尿蛋白は少ない.1 g/日以上の尿蛋白は糸球体由来である.
◎血尿と蛋白尿が同時に存在する場合には糸球体疾患を考える.

体液量過剰を疑う場合

著者: 服部吉成

ページ範囲:P.211 - P.213

Point
◎細胞外液量は体重の20%であり,主に浸透圧物質であるNaの張度により水分量を規定している.
◎腎疾患では,慢性腎臓病,ネフローゼ症候群の病態において,Na排泄障害からくる細胞外液量の増加によって体液過剰を生じやすい.
◎症状・病歴・身体所見・検査所見いずれも,単独で体液過剰を確実に診断することは困難であり,異常所見を理解して複合的に診断する必要がある.
◎体液過剰において胸水・腹水貯留,心不全の症状を認める際は緊急での治療介入を要する.

体液量減少を疑う場合

著者: 森龍彦 ,   亀山はるか ,   嶋英昭

ページ範囲:P.214 - P.217

Point
◎体液量減少は細胞外液量の減少を見ており,体内の総Na量の減少を意味する.
◎Naは血管内と細胞間質(この2つを合わせて細胞外液)を自由に行き来するが,細胞内液には入ることができない.
◎体液量減少は,これを認めれば診断となるものはなく,病歴,診察,いくつかの検査所見を併せることで診断する.
◎体内の水の量やミネラルに異常を認めたときは,体の調整システムが限界まで働いても維持できなくなった状態であり,場合によっては急激な全身状態悪化につながる.

主に腎機能から診断される疾患概念

急性腎障害,急性腎不全という疾患概念の捉え方

著者: 長谷川頌 ,   土井研人

ページ範囲:P.219 - P.222

Point
◎急性腎障害(AKI)は,腎障害を早期に検出・介入することで予後改善を目指す概念である.
◎AKIの診療では,腎後性の要素がないか気を配ることが大切である.
◎腎前性,腎性AKIはクリアに区別できないことが多く,常に混在しうる.
◎腎疾患と関連するAKIの鑑別では,尿沈渣所見が重要である.
◎保存的加療では改善しないAKIに対しては,腎代替療法を考慮する.

慢性腎機能障害,慢性腎不全という疾患概念の捉え方

著者: 菅野義彦

ページ範囲:P.223 - P.225

Point
◎従来の慢性腎不全を含んだ,より大きな疾患概念が慢性腎臓病である.
◎「慢性腎不全」という診断名は徐々に用いられなくなるかもしれないが,病態名としては重要である.
◎病態としてのキーワードは「不可逆的な腎機能障害」である.

慢性腎臓病という疾患概念の捉え方

著者: 今井裕一

ページ範囲:P.228 - P.232

Point
◎慢性腎臓病(CKD)は,一般市民向けの用語である.
◎eGFRと尿蛋白量からCKD重症度を予測する.
◎「ネフローゼ症候群」「慢性腎炎」「腎不全」の疑いとして腎臓専門医に紹介する.

全身性疾患に伴う腎疾患

糖尿病に伴う腎疾患

著者: 佐藤晃一 ,   古市賢吾 ,   和田隆志

ページ範囲:P.233 - P.237

Point
◎糖尿病性腎症は,慢性腎臓病(CKD)において主要な疾患の1つである.
◎アルブミン尿は糖尿病性腎症の早期発見に有用なマーカーである.
◎糖尿病性腎症は早期発見および適切な治療介入により,進行の抑制,改善が期待される.

動脈硬化に伴う腎疾患

著者: 上原正弘 ,   木谷昴志 ,   草場哲郎

ページ範囲:P.238 - P.242

Point
◎高齢化とともに高血圧性腎硬化症の患者数は増加傾向にある.しかし,その診断は除外診断であり,糸球体腎炎や間質性腎炎の見逃しに注意が必要である.
◎腎硬化症と診断された患者のなかには,アテローム型動脈硬化を合併している群があり,進行性に腎機能障害が悪化する一因となっている可能性があるため,適宜,腎動脈狭窄の評価が必要である.
◎腎血管性高血圧の診断には超音波検査が有用である.治療は内服治療が中心だが,エビデンスはないものの,経皮的腎動脈形成術(PTRA)が有効な場合もあり,症例により適応を検討する.
◎コレステロール塞栓症は生命予後・腎予後ともに不良であり,問診や身体所見から疑わしい場合は,速やかに専門医への紹介が望ましい.

膠原病に伴う腎疾患

著者: 江川雅博 ,   伊藤孝史

ページ範囲:P.244 - P.249

Point
◎膠原病は腎疾患を合併しやすいため,腎疾患が疑われる場合には専門医へのコンサルトが望ましい.
◎ループス腎炎は予後にも直結するため,速やかな診断と治療が必要である.
◎関節リウマチによる腎障害では,アミロイドーシスや薬剤性も考慮すべきである.
◎Sjögren症候群で尿細管間質障害を,強皮症では強皮症腎クリーゼとANCA関連血管炎に注意が必要である.

血管炎に伴う腎疾患—ANCA関連血管炎を中心に

著者: 吉田雅治

ページ範囲:P.250 - P.255

Point
◎腎臓の小血管に血管炎をきたす抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎が最近増加している.
◎高齢者で感染徴候後に急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を呈する場合は,第一にANCA関連血管炎による腎疾患を疑う.
◎日本ではMPO-ANCA関連血管炎に伴う腎疾患が多い.
◎臨床的重症度(年齢,血清クレアチニン,肺所見,CRP)に従い,免疫抑制療法を行う.

血栓性微小血管症

著者: 菅原有佳 ,   加藤秀樹

ページ範囲:P.256 - P.259

Point
◎TMAは複数の病態を含む広い疾患概念であり,その分類が重要である.
◎TMAにはSTEC-HUS,TTP,二次性TMA,aHUSが含まれる.
◎分類のために各種検査を提出しつつ,病態に応じて早期に治療を開始する.
◎aHUSの確定診断には専門的検査が必要となり,専門機関との連携が望ましい.

糸球体疾患

急性糸球体腎炎

著者: 臼井丈一

ページ範囲:P.260 - P.262

Point
◎急性糸球体腎炎の発症数は減少傾向にあるが,いまだに感染後腎炎の大部分を占める.
◎典型例は自然治癒が見込めるため,体液管理や降圧療法を中心とした対症療法を行う.
◎重症例や一部の非典型例では入院管理や専門医への紹介が必要である.
◎急性糸球体腎炎の既往と,将来の慢性腎臓病の発症との関連性が指摘されている.

急速進行性糸球体腎炎

著者: 福岡利仁

ページ範囲:P.264 - P.271

Point
◎急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は,腎炎を示す尿所見を伴い,数週〜数カ月の経過で急速に腎不全が進行する症候群である.
◎RPGNのうち最も多い疾患はANCA関連腎炎である.
◎RPGNは近年増加傾向にある.
◎速やかに治療を開始すべきであるが,感染症・悪性腫瘍の除外は重要であり,治療開始後も感染症に対する予防を怠ってはならない.

慢性糸球体腎炎

著者: 天野方一 ,   平野景太 ,   横尾隆

ページ範囲:P.273 - P.280

Point
◎慢性糸球体腎炎とは,糸球体に慢性的な炎症が起こり,1年以上にわたって血尿・蛋白尿を認める疾患群である.
◎IgA腎症の大部分の症例が無症候性であり,診断には尿検査や腎生検が必要である.
◎IgA腎症で尿蛋白量が0.5g/日以上の場合は,腎予後が悪く,RAS阻害薬などの支持療法に加えて,ステロイド治療などの積極的な治療介入が必要とされることがある.
◎IgA腎症では,介入後に寛解・部分寛解を目指す時期と,その後に再燃の有無をチェックするフォロー期間の両方において,尿蛋白に対するマネジメントが重要である.

ネフローゼ症候群

著者: 石本卓嗣 ,   丸山彰一

ページ範囲:P.282 - P.285

Point
◎成人ネフローゼ症候群の診断は,多量の蛋白尿の持続と低アルブミン血症が必須である.
◎ネフローゼ症候群を呈する疾患は多岐にわたり,経皮的腎生検での組織学的診断が必要となる.
◎原因疾患・病型ごとに治療法や予後は異なる.
◎免疫抑制治療のみならず,保存的治療・支持療法も重要である.

尿細管間質疾患

尿細管間質障害

著者: 坂本尚登

ページ範囲:P.287 - P.291

Point
◎尿細管間質性疾患は特異的な自覚症状や検尿所見に乏しい点に留意する.
◎原因不明の腎機能低下,水・電解質バランスの異常や酸・塩基平衡障害を認めたら,尿細管間質性疾患の鑑別診断を行う.
◎糸球体腎炎による腎機能障害を抑制するには,尿細管・間質病変に対処する.
◎腎生検による病理組織所見は,急性および慢性尿細管間質性腎炎の確定診断に役立つ.

常染色体優性多発囊胞腎

著者: 望月俊雄 ,   真壁志帆 ,   片岡浩史

ページ範囲:P.292 - P.295

Point
◎診断がついた時点で,脳動脈瘤スクリーニングのための脳MRアンジオグラフィを行う.
◎腹部画像診断にて両側総腎容積(TKV)の測定を行う.
◎腎容積・腎機能をもとに,バソプレシン受容体拮抗薬であるトルバプタンの適応を考慮する.

電解質,酸塩基平衡異常

Na濃度の異常

著者: 村田真理絵 ,   小板橋賢一郎 ,   柴垣有吾

ページ範囲:P.297 - P.302

Point
◎Na濃度異常は,水バランスの異常である.
◎低Na血症では抗利尿ホルモン(ADH)分泌増加と低張液の摂取,高Na血症では低張液の喪失と水分摂取不足が存在する.
◎治療の目標は「症状の改善」と「過補正を避ける」ことであり,数値の改善ではない.
◎治療開始後は尿量や尿張度の変化が起こりやすく,Na濃度安定までは数時間ごとの丁寧なフォローアップが必要である.

K濃度の異常

著者: 熊谷天哲 ,   内田俊也

ページ範囲:P.303 - P.307

Point
◎K濃度異常が認められた場合にはK摂取量,尿中K排泄量,Kの細胞内外の移動を考慮して病態を考える.
◎高K血症では致死的な不整脈や心停止に至る可能性があり,迅速な治療が必要になることが多い.
◎心疾患,不整脈,肝疾患では,低K血症の治療を早めに行う.

Ca濃度の異常

著者: 磯崎雄大 ,   駒場大峰 ,   深川雅史

ページ範囲:P.308 - P.312

Point
◎Ca代謝の生理:Ca出納のバランスは,副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンDなどによって厳密に行われている.
◎高Ca血症の原因・症状・治療:高Ca血症の原因はさまざまである.非特異的な症状も多く,疑うことが重要である.症候性高Ca血症の場合は血清Ca濃度を是正する治療を行う必要がある.
◎低Ca血症の原因・症状・治療:低Ca血症の治療法は重症度と原因疾患によって異なる.過度な補正は合併症をきたしうるので,注意が必要である.

P濃度の異常

著者: 小田朗 ,   風間順一郎

ページ範囲:P.313 - P.316

Point
◎リン(P)は生体内でエネルギー代謝や骨代謝などに関与している.
◎血清濃度はビタミンD,副甲状腺ホルモン,線維芽細胞増殖因子(FGF23)により調節されている.
◎著しい低P血症では中枢神経症状などの重篤な症状を呈することがあり,注意が必要である.

MgおよびZn濃度の異常

著者: 志水英明

ページ範囲:P.317 - P.322

Point
◎マグネシウム(Mg)は細胞外には1%しか存在しないため,欠乏しても血清Mg値は正常のことがある.
◎低カルシウム・低カリウム血症をみたら,低Mg血症を考える.
◎腎機能低下例にMg製剤(下剤)が投与されていたら,高Mg血症を疑う.
◎亜鉛(Zn)欠乏は見逃されやすい.
◎糖尿病,アルコール多飲,肝疾患,慢性腎臓病,高齢者,経管栄養,中心静脈栄養,熱傷,褥瘡,下痢,敗血症,外科手術後,ESA抵抗性貧血などの場合にZn欠乏を疑う.

代謝性酸塩基平衡障害

著者: 瀧康洋 ,   今井直彦

ページ範囲:P.324 - P.326

Point
◎アニオンギャップ(AG)が開大するような病態を疑った場合には,必ず血液ガス検査を施行する.
◎Na-Clを常に計算し,AG正常性代謝性アシドーシス/アルカローシスを見逃さない.
◎pHが低いからといって,安易に炭酸水素ナトリウムを補充しない.

そのほか腎疾患診療のポイント

尿路結石症診療のポイント

著者: 古澤彩美 ,   河原﨑宏雄

ページ範囲:P.327 - P.330

Point
◎食生活の欧米化,生活習慣病の増加によって尿路結石の頻度は増加傾向にあり,慢性腎臓病や心血管合併症との関連も示唆されている.
◎尿路結石の再発率は高く,結石発作は患者のQOLを著しく低下させるため,内科的再発予防が重要である.
◎高齢者の尿路結石が増加しており,今後の課題である.

維持透析患者における診療上の注意点

著者: 恒吉章治 ,   古波蔵健太郎

ページ範囲:P.331 - P.335

Point
◎維持透析患者は32万人以上まで増加し,一般内科で診療する機会は多い.
◎維持透析患者の死因は,心不全,感染症,悪性腫瘍の順に多く,これらの疾患頻度も高い.
◎心不全には緊急透析を要することが多く,透析医との連携が必要である.
◎感染症には適切な熱源評価が重要であるが,結核やブラッドアクセス感染,菌血症,非典型的な尿路感染症が多いなどの特徴を知っておく.
◎薬剤の用法・用量に注意し,合併症に対し薬剤を多数服用していることが多いため,相互作用にも注意が必要である.

腎移植後患者における診療上の注意点

著者: 長浜正彦

ページ範囲:P.336 - P.340

Point
◎腎移植後患者は必ず3剤の免疫抑制薬を服用しており,他剤との相互作用や易感染性に注意する.
◎移植後3〜6カ月間は感染予防薬を服用しているので確認する.
◎移植腎は右(左)下腹部に位置し,内・外腸骨/動・静脈に吻合しており,大腿部の中心静脈挿入,心カテーテルの際には注意する.
◎移植腎の尿管は短く,逆流しやすいので尿路感染症なりやすい.
◎片腎+カルシニューリン阻害薬(CNI)服用のため,腎機能が血行動態の影響を受けやすい.

腎疾患時における薬剤使用の注意点

著者: 深津敦司

ページ範囲:P.341 - P.346

Point
◎処方時に患者の腎機能(血清クレアチニン,eGFR)を把握しておくことが大切である.
◎抗菌薬,抗ウイルス薬の処方時は,腎機能に応じた減量,投与間隔の延長を考える.
◎カルシウム拮抗薬は腎機能により減量する必要はないが,アンジオテンシン系降圧薬を投与する際は腎機能をチェックし,投与中も血清クレアチニンと血清カリウムをモニターする.
◎NSAIDsを長期に投与するときは腎機能(血清クレアチニンと尿蛋白)をチェックする.

特別寄稿

米国における教育・医療から学ぶ

著者: 三枝孝充

ページ範囲:P.347 - P.351

Point
◎米国で一般的な問題提起型の教育方法は,学生に独立性をもたせ,答えに至る思考過程を重視する.
◎日本では,知識習得を重視した受験制度というレールに乗せて評価するため,学生は「自分の道は自分で作る」という思考力や行動力を欠く.
◎米国の医学教育は知識を問うだけでなく,どうしてそうなるかを説明させ,基礎医学の知識を臨床に結びつけ発展させていく.
◎米国の複雑な健康保険制度は,保険料によって受けられる医療の幅が広く,資本主義の理念が影響している.
◎人種・遺伝型の相違は,疾患や薬物の反応性を左右する.

連載 Webで読影! 画像診断トレーニング・11

脂肪が決め手

著者: 石田尚利

ページ範囲:P.185 - P.186

次の3症例について,どのような病態が推定できますか? また,診断は何でしょうか?
症例1 40代男性.人間ドックの腹部超音波検査で両腎腫瘤を指摘された.これまでの既往歴や検査歴はない.家族歴は不明.精査のため腹部CTを施行した.
症例2 60代女性.数カ月に及ぶ腹部違和感があり受診.腹部超音波検査で左副腎に腫瘤が疑われた.肺癌術後(3年前)の既往がある.精査のため腹部CTを施行した.
症例3 80代男性.胃癌術後(半年前)で,経過観察中に腹部超音波検査で肝S4に腫瘤が疑われた.肝転移の可能性を考え,腹部CTを施行した.

内科医のための 耳・鼻・のどの診かた・1【新連載】

難聴・耳鳴

著者: 石丸裕康 ,   高北晋一

ページ範囲:P.358 - P.361

はじめに
 内科外来の特徴の1つは,患者から多様な(時に内科の範疇を越えた)問題がもちこまれてくることにある.誰に相談するべきか,どこを受診すればよいのかわからない問題は,とりあえず内科外来で相談されやすい.一方で,内科医の通常のトレーニング過程では耳鼻科的な症状に対する十分な対応方法を学んでいるとはいいがたい.耳・鼻・のどの訴えがあると「それは耳鼻科に行って診てもらって」と言ってしまいがちである.しかし,患者は完璧なマネジメントを期待しているわけでなく,それが受診すべき問題なのかどうか,受診する必要があるなら,いつ,どこを受診するのかをアドバイスしてほしいから相談するのである.地域にもよるが,幸いにも日本では耳鼻咽喉科領域のプライマリ・ケアを行う開業医の先生方も多く,高度なスキルを身につけなくても,適切な協働によって質の高いケアを提供しうると考えられる.
 そのような観点から本連載では,耳鼻咽喉科医のようなマネジメントができることを目標にするのでなく,患者の訴えにまず向き合い,上手に相談に乗り,診療をガイドするためにはどのようにすればよいか,ということを考えることを目標に,内科医にとって必要な耳鼻咽喉科の知識・スキルをまとめていきたい.具体的には,まず内科医が特殊な診療スキルを使わなくてもできる患者評価のポイントを解説し,そのうえで,プライマリ・ケアの現場の経験豊富な耳鼻咽喉科医から診療へのアドバイス,スキルアップへのポイントを示すような構成としている.本連載が内科医の診療の幅を少し広げ,より良い診療連携の一助となれば幸いである.
 第1回では,大変コモンな訴えである「難聴・耳鳴」を取り上げる.

いま知りたい 胃炎の診かた・4

胃炎の治療—H. pyloriの除菌と機能性ディスペプシアの治療

著者: 沖本忠義 ,   村上和成

ページ範囲:P.362 - P.366

H. pylori感染胃炎とは?
 胃粘膜にH. pylori感染が起こると急性胃炎を発症する1)H. pylori感染は,生涯にわたって持続することが多く,胃粘膜の慢性炎症を背景として,萎縮性胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胃癌,胃MALTリンパ腫,胃過形成性ポリープなどのさまざまな疾患を引き起こすことがわかっている.さらには,免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病や小児の鉄欠乏性貧血などの消化管以外の疾患との関連性が指摘されており,日本ヘリコバクター学会によるガイドラインでは,すべてのH. pylori感染胃炎に対して除菌を強く勧めている2)

Inpatient Clinical Reasoning 米国Hospitalistの事件簿・7

“道しるべ”は診察の前に

著者: 石山貴章

ページ範囲:P.367 - P.370

“Hence, things that have perplexed you and made the case more obscure have served to enlighten me and to strengthen my conclusions.”
(このように,君を混乱させ,そして事態をぼやけさせた事柄は,私にとっては灯りを照らしてくれる道しるべであり,私の結論を確かなものにしてくれるものだったわけだ.)

診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・23

動脈管開存症(PDA)患者の診かた

著者: 山崎直仁

ページ範囲:P.378 - P.384

症例
80代女性.元農業.
病歴 出生,発育に問題なし.10代で心雑音聴取を契機に動脈管開存症(PDA)と診断されたが,精査・加療は受けていなかった.20代で出産したが,妊娠経過中も問題なし.40代になると農作業時に息切れを自覚するようになったが,労作を制限することで対応していた.1年前からは軽労作でも息切れが出現するようになり,近医を受診.胸水貯留を認め,心不全の診断で利尿薬投与が開始された.今回PDA治療目的に,紹介入院となった.

目でみるトレーニング

問題829・830・831

著者: 山本祐 ,   岩崎靖 ,   水野篤

ページ範囲:P.385 - P.390

書評

—神田善伸 著—みんなのEBMと臨床研究

著者: 能登洋

ページ範囲:P.227 - P.227

 私がEBM(Evidence-Based Medicine)に最初に出合ったのは20年あまり前にアメリカで臨床研修を積んだときであった.診療現場においてエビデンスの生きた読み方・使い方を教わったが,エビデンスに振り回されるのではなく,「EBMは患者に始まり患者に帰着する」,「数値は臨床的枠組みのなかで初めて意味を持つ」ことをたたきこまれた.帰国してからはEBMの基本となるエビデンスの読み方・使い方や,臨床と統計の親密さを平易な切り口で解説してきている(註1).近年では日本でもEBMは着々と普及してきており,日本からのエビデンス発信も増えてきた.しかしその反面,日本の統計学教育は依然として貧であるため,エビデンスが商業主義や政治的策略に濫用されてきているのも現実で,エビデンスに翻弄されるリスクも大きくなってきている.「はじめにエビデンスあり」と言わんばかりのネット情報や薬剤宣伝,さらには権威ある医師がその風潮を高めている現実には閉口する.
 このような現実において,本来のEBMや臨床研究の本質を見直し,基本に立ち帰ることを促す点で本著は臨床的価値が高い.EBMの総論解説に始まり,臨床研究の実際,統計解析,論文作成という順で展開し,誰でもすぐに実用できるよう構成には教育的視点からの配慮がなされている.特記すべきことは,序文にもあるように「EBMも臨床研究も,入り口は診療現場のクリニカルクエスチョン」であることが一貫して述べられていることである.「エビデンス商法」に騙されないよう,一見難解な非劣性試験や多重比較についての明快な解説項もあり,臨床の現場にいる医師にとって有用な解説が詰まっている.

—松村真司,矢吹 拓 編—外来診療ドリル—診断&マネジメント力を鍛える200問

著者: 鈴木富雄

ページ範囲:P.249 - P.249

 『外来診療ドリル』.「ドリル」と名前がついたこの本は,気軽に読めるようで実は極めて骨太の本である.今回書評の依頼をいただいたので,ひとまず問題を解きながら全て通読してみた.最初は「1日20問,10日で終了できる.これは軽い」と思っていたが,大きな間違いであった.問題を解き始めてみると,「う〜ん,なるほど!」「そ,そうだったか……」の連続で,なかなか先に進めない.1回目を終了するまでに結局2か月近くもかかり,しかも正答率は大学の進級試験であれば,「なんとか合格点は取れたが……」という体たらく.得点の公表は私も立場があるので,どうかご容赦を…….
 あまりの不出来ぶりに自分自身もショックを受け,「このままでは終われない」と,再度挑戦.もう一度初めから終わりまで問題を解いてみた.「今度は2回目だからスイスイ行くだろう」と思っていたが,これまた今一つで,やはり同じところを間違える(笑).結局2回目も1か月以上かかってしまった.ただし,1回目はとにかく問題をこなすだけであったが,2回目は疑問に思った部分に関して,記載文献を参考に自分でも調べてみる余裕ができた.その上で解説を読み直してみると,コンパクトにまとめられたその記載の素晴らしさに改めて納得することができた.

—坂本史衣 著—感染対策40の鉄則

著者: 青木眞

ページ範囲:P.272 - P.272

はじめに
 おそらく感染管理ほど日本の医療文化の病理・弱点を端的に象徴する領域はない.環境感染学会が大変な賑わいをみせる一方で,行政からの通達は実効性を欠き,各医療機関の感染管理担当者が抱く不全感が消えることがない.その理由は感染管理という仕事が,問題を定義し,その解決に必要な要素を決定,対策の効果を測定する……といった疫学的な業務に加えて,臨床各科や看護部,病院管理部など利害を異にする各部門間の調整をする……といった日本人が最も苦手なことを要求することにある.一人の患者の血圧を外来で目標値に移動させるといった作業とは,およそ対照的であり,どこか「巨大な軍隊組織の運用」対「一兵卒の射撃訓練」の対比に似る.前者には冷徹な数理・統計的な素養と人間関係の機微に対する洞察が求められるが,後者は基本的に個人が「匠の技で一生懸命やる」ものである(*感染症専門医に感染管理も期待するといった混乱も,この辺りの整理が不十分であることに起因している).

—河原仁志,中山優季 編—快をささえる—難病ケア—スターティングガイド

著者: 松村真司

ページ範囲:P.286 - P.286

 もう20年近く前のことである.とある指定難病の患者さんのQOLに関する質的研究のお手伝いをしたことがある.都内の大学病院のごった返す外来で患者さんと待ち合わせをして,近くの喫茶店へ移動して30分ほどインタビューをする,ということを繰り返した.この経験は,それまでの診療生活に半ばバーンアウト気味になり大学院生になった私にとって,とても貴重なものだった.なにせ,病院に医師ではない立場で入ることはなかったし,その立場で入る病院はとにかく圧迫感があった.そして,そこで話された内容の多くは,難病の症状や,症状から派生する障害よりも,「自分が難病である」こと自体による生きづらさや困難であった.それまでの私は人々の苦しみを「疾病」というフィルターを通して見ていた.しかし,それぞれの人たちは,私と同じ,日々の暮らしを生きる人たちであり,その苦しみの多くは,そのフィルターを通してしまうと見えなくなってしまうものであった.そんな当たり前のことが,何年も診療を行っていながらわかっていなかったことに,当時の私は愕然としたのである.
 その後,町の医師になった私の所には,地域に暮らすさまざまな人々が訪れる.難病や障害を抱える人々とかかわる機会も少なくない.在宅医療を行っていれば神経難病を担当することは珍しいことではないし,そうでなくても外来には感冒などのありふれた病気や,予防接種などを通じてこのような難病や障害を抱える人たちや,これらの人々の家族が来院する.それぞれの難病や障害そのものへの対処は,専門医が担当するので,その点について私がかかわる部分は限定的である.しかしそれ以外の「地域で人々の生活を支え続ける」という面で,町の医師──プライマリ・ケアに携わる街場の総合診療がかかわる部分は大きいのである.

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

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