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雑誌目次

雑誌文献

medicina55巻13号

2018年12月発行

雑誌目次

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

著者: 佐藤幸人

ページ範囲:P.2143 - P.2143

 近年,超高齢化社会を迎え心不全患者は増加しつつあり,救急搬送や集中治療ケアを必要とする患者数は心筋梗塞をはるかに超えている.独居,低収入など社会背景に問題がある患者も増えている.このような患者群には,単なる医学的処置と処方だけでは入院が回避できないことが多く,看護師,薬剤師,リハビリ指導士,栄養士,ケアマネジャーなどの多職種が多面的に介入する必要がある.最近の話題として,2016年に日本心不全学会から発表された『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では,低栄養の評価と介入が急務であるとされ,人生の最終段階においては緩和ケアも必要ということが初めて提唱された.その後,心不全の緩和ケアは2018年度より要件を満たせば加算が可能となり,栄養介入については『心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント(日本心不全学会)』も2018年10月に発表され,あらためてその必要性が論じられた.また,国策として地域包括ケアシステム構想が出されており,今後は在宅医療も視野に入れたチーム医療の重要性がますます高まるであろう.広く心不全について緩和ケアの概念も含めた国民への啓発も必要である.
 一方で医学的治療については,『急性・慢性心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会/日本心不全学会)の2017年改訂版が発表された.急性心不全では,早期診断と治療開始が予後改善に直結することが判明し,時間経過の概念が新しく導入された.簡単な身体所見から治療を開始する手順も示されている.慢性心不全に使用される薬剤には,バソプレシン受容体拮抗薬(トルバプタン)やSGLT2阻害薬も紹介された.非薬物療法については,日常臨床でも最近,数年間の変化を感じることができる.植込型補助人工心臓を入れる患者も増加しつつあり,僧帽弁逆流に対するカテーテル治療であるMitraClip®も薬事承認された.再生医療などの先端医療も臨床応用が進んできている.心不全はきわめて広範囲な知識と技術を必要とする領域であるが,「心不全パンデミック」が目前に迫っているなか,本特集がより多くの誌者のアップデートに役立てば幸いである.

特集の理解を深めるための30題

ページ範囲:P.2286 - P.2291

座談会

心不全パンデミックが避けられない今,克服すべき課題は?

著者: 坂田泰史 ,   佐藤幸人 ,   林亜希子

ページ範囲:P.2144 - P.2151

心不全の患者数は高齢化により非常に増えています.平均年齢は80歳,フレイルも著しく,すでに要支援・要介護が半数という状態です.独居または2人暮らしが70%ともいわれています.高度急性期から在宅までの全経過を多職種チームでみていく方針が提唱され,2016年に日本心不全学会からステートメント1)が発表されました.さらに2018年,日本の心不全診療ガイドライン2)が改訂されました.そのなかでは,TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術),植込型VAD(補助人工心臓),再生医療などの最新治療もキャッチアップすべきと盛り込まれています.一方で心不全診療では,医師による治療だけでなく,「多職種チームでも頑張る」という二本立てが必要です.(佐藤)

心不全の病態,危険因子と予防

心不全とは?—その機序と血行動態の破綻

著者: 大西勝也

ページ範囲:P.2152 - P.2155

Point
◎心不全とは病名ではなく,種々の心疾患に基づく心機能障害の結果として起きている病態を指す.
◎左室駆出率(EF)により心不全は大別される.
◎心不全は,急性期では体液の中央への移動が,慢性期では体液貯留が主体となる.

心不全の疫学と医学的・社会的危険因子

著者: 加藤貴雄

ページ範囲:P.2156 - P.2159

Point
◎心不全患者は増えており,左室駆出率の保持された心不全(HFpEF)が増えている.
◎高齢者の心不全には併存症が多く,心不全を悪化させる.
◎生活要因だけでなく,うつ状態や社会的サポートの欠如などが心不全入院のリスク因子である.

心不全予防としての高血圧治療,糖尿病などの危険因子

著者: 勝谷友宏

ページ範囲:P.2160 - P.2165

Point
◎心不全の予備軍とされるステージAのリスクを理解する.
◎リスクのなかで,最も頻度が高く重要視すべきは高血圧である.
◎血圧を正しく測り,マネジメントすることが心不全予防の第一歩である.
◎減塩と主要降圧薬の適切な使用が予防の二本柱となる.
◎糖尿病と高血圧に関する2つの大規模試験が新しい心不全予防の方向性を示す.

急性期から慢性期へ,連続したチーム医療

認定看護師を中心としたチーム医療

著者: 鷲田幸一

ページ範囲:P.2166 - P.2169

Point
◎急性期から慢性期への移行を考えてのチームビルディングを行う.
◎慢性期では患者の生活を支えるためのチームビルディングを考える.
◎チーム医療の目標は疾患管理だけでなく,患者の望む生活を支えることである.
◎疾患と生活の管理を同時に行うため,心不全の専門的知識を有した看護師が多職種連携のhub役を担う.

心臓リハビリテーションを中心としたチーム医療

著者: 神谷健太郎

ページ範囲:P.2170 - P.2172

Point
◎心不全に対する心臓リハビリテーション(心リハ)は,運動耐容能やQOLの向上,再入院率低下など,重要なアウトカムの改善をもたらす.
◎心リハは,日,米,欧などの心不全ガイドラインで推奨クラスⅠ,エビデンスレベルAを得ている数少ない非薬物療法の1つである.
◎心リハは,シームレスなチーム医療実践の場としてさらに普及していくことが期待されている.

栄養を中心としたチーム医療

著者: 衣笠良治

ページ範囲:P.2174 - P.2177

Point
◎低栄養の合併は心不全の予後規定因子であり,慢性炎症,インスリン抵抗性,蛋白同化・異化の異常など,さまざまな内分泌・代謝異常が関与する.
◎心不全の栄養評価・介入には,包括的なアプローチが必要である.

在宅医を中心としたチーム医療

著者: 田中宏和

ページ範囲:P.2178 - P.2181

Point
◎専門病院と,生活の場をみる地域診療所とのシームレスな医療連携に向けた「ふたり主治医制」を意識した体制づくりが望ましい.
◎安定期には非侵襲的なアプローチで体液量評価を行い,急性増悪時にはクリニカルシナリオ(CS)の概念を念頭に置いて,時間軸を考えた対応を行う.
◎慢性疾患である心不全は予後予測が難しいため,将来起こりうる状態変化に備えて,あらかじめ患者や家族と受けたい医療・ケアについて話し合っておくことが大切である.
◎心不全の在宅医療継続には,院内外で生活をサポートする多施設・多職種の連携,および的確な情報共有が大切である.

診断

うっ血性心不全の身体所見の重要性

著者: 庄司聡 ,   香坂俊

ページ範囲:P.2182 - P.2185

Point
◎うっ血性心不全の身体所見を,「重要度」と「簡単度」の2軸で考える.
◎まずは「簡単度」が高い下腿浮腫,心尖拍動,ラ音から手掛ける.
◎総合評価を行うに当たってはⅢ音と頸静脈怒張が最も「重要度」(陽性尤度比)が高い.
◎うっ血の身体所見評価方法は習得するのは難しいが,積極的に取りに行く姿勢が重要であり,努力を継続していると,あるとき“ストン”と腑に落ちることがある.

BNP・NT-proBNP

著者: 久保亨

ページ範囲:P.2186 - P.2189

Point
◎BNP・NT-proBNPは,心不全の存在診断,重症度診断,予後の推定に有用である.
◎治療対象となる心不全の可能性があるカットオフ値として,「BNP 100pg/mL」「NT-proBNP 400pg/mL」と提案されている.
◎BNP・NT-proBNP値のみで心不全診断を判断するべきではなく,身体所見や心電図異常なども含めて総合的に評価することが重要である.

心エコー

著者: 岡田厚 ,   泉知里

ページ範囲:P.2190 - P.2193

Point
◎左室収縮能の評価には左室駆出率(ejection fraction:EF)が用いられるが,左室機能を評価する際にはEFだけでなく左室径を意識することも重要である.
◎左室拡張能の低下や左室充満圧の上昇は単一の指標では評価できないため,複数の指標を用いて総合的に判断される.
◎HFmrEF(heart failure with mid-range EF)は,2016年に提唱された新しい病態区分であり,その臨床的意義についてはさらなる研究が求められている.
◎右室は,左室と異なり複雑な形態をしているため,右心機能の評価法は十分には確立していない.現状では,心尖四腔断面像からの評価法が多く使われている.
◎心エコーにより血行動態を推定し,心不全の病態変化に合わせてくり返し評価を行うことが有用である.

治療—慢性心不全 〔収縮能が低下している心不全(HFrEF)〕

β遮断薬

著者: 絹川弘一郎

ページ範囲:P.2194 - P.2197

Point
◎わが国で使用可能なβ遮断薬のうち,カルベジロールとビソプロロールのみが収縮能が低下した心不全(HFrEF)の予後改善効果を確立している.
◎β遮断薬の投与は,少量から開始し,可能なかぎり増量することが重要である.
◎β遮断薬には用量依存性に心機能を改善させる「リバースリモデリング効果」があり,予後改善効果も同様に用量依存性と考えられるが,それらの真の機序は不明である.

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

著者: 中村一文 ,   小倉聡一郎

ページ範囲:P.2198 - P.2200

Point
◎RAA系は,血圧・体液量の維持を司る生理的システムである.
◎心不全時には代償性にRAA系が亢進し,過剰となって心不全を悪化させる.
◎ACE阻害薬は,左室収縮性が低下した心不全(収縮不全,HFrEF)患者の生命予後改善効果があり,HFrEF治療の基本薬である.
◎咳などの副作用でACE阻害薬に忍容性のない患者には,ARBを投与する.

利尿薬

著者: 末永祐哉

ページ範囲:P.2202 - P.2204

Point
◎ループ利尿薬は心不全患者における体液貯留の治療として有効である.種類によってそれぞれ特徴があるが,その明確な使い分けについては,はっきりとわかっていない.
◎その一方,ループ利尿薬に対する抵抗性を示すサブグループが一定数存在することがわかっているが,その定義・治療法に関しては,病態生理がいまだ不明な部分が多いことからはっきりしていない.
◎わが国において心不全に対して使用できるトルバプタンは,腎不全合併心不全患者に対して安全にうっ血を解除できることがいくつかの研究で示唆されているが,その長期的な有効性に関しては今後の研究結果が待たれる.

ジギタリス

著者: 小笹寧子

ページ範囲:P.2206 - P.2209

Point
◎適切な治療にもかかわらず症状の残存する収縮性心不全(HFrEF)患者に対して,症状改善および再入院を回避する目的でジゴキシン開始を考慮する.
◎頻脈性心房細動を有する急性心不全患者の心拍数コントロールに,ジゴキシンが有効である.
◎ジゴキシンは低用量投与を基本とし,中毒症状の有無および薬物血中濃度(0.8 ng/mL以下)に注意が必要である.

両室ペーシング

著者: 南口仁

ページ範囲:P.2210 - P.2214

Point
◎両室ペーシング治療(CRT)は,同期不全を伴った左室収縮機能障害を有する慢性心不全(HFrEF)患者に対する非薬物治療として,予後改善効果が示されている.
◎早期介入が重要で,左脚ブロックであればNYHA分類 Ⅱ度からCRTの適応を考慮する.
◎QRS幅を中心とした現在の適応基準においても約3割程度にCRTに反応しない「ノンレスポンダー」が存在し,いかにノンレスポンダーを減らすかが実臨床での課題である.

〔収縮能が保持されている心不全(HFpEF)〕

収縮能が保持されている心不全(HFpEF)の治療

著者: 絹川真太郎

ページ範囲:P.2216 - P.2219

Point
◎左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の予後改善効果が示された神経体液性因子抑制薬をはじめとして,現在心不全に使用されている薬剤には左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)の生命予後を改善するエビデンスはないため,個別の症例に応じて治療戦略を考える必要がある.
◎HFpEF症例では,基礎心疾患や合併症の治療・予防が重要であり,特に利尿薬を用いたうっ血の管理や高血圧治療が治療の中心となる.
◎適切に処方された運動療法は,HFrEF症例だけでなく,HFpEF症例でも運動耐容能を改善することが知られており,有用な治療法である.

治療—不整脈合併心不全

心房細動と抗凝固療法

著者: 八木直治 ,   山下武志

ページ範囲:P.2220 - P.2223

Point
◎心房細動も心不全も年齢とともに頻度が増し,心不全患者の30〜40%程度は心房細動を合併している.
◎心不全を含めた併存疾患を抱えていると,ワルファリンによる抗凝固療法のコントロールが難しくなる.
◎心不全合併心房細動の患者でも,DOACはワルファリンと同等以上の効果が期待できる.

心房細動,心室性不整脈のアブレーション

著者: 野田崇

ページ範囲:P.2224 - P.2228

Point
◎心不全患者の心房細動に対するカテーテルアブレーションの有効性が報告されており,その適応となる症例の増加が見込まれる.
◎虚血性心疾患で薬剤抵抗性の心室頻拍に対しては,病態の評価後,カテーテルアブレーションが考慮される.
◎不整脈自体が心機能低下を惹起する病態があり,カテーテルアブレーションによる不整脈の根治後に,心機能が正常化する場合がある.

植込型除細動器(ICD)—致死性不整脈合併時のICDの適応とその合併症

著者: 鈴木誠

ページ範囲:P.2230 - P.2232

Point
◎植込み型除細動器(ICD)はペースメーカに比較し大きく,特に,高齢心不全患者に植込む場合は,術後の感染リスクを低減するように工夫する.
◎慢性心不全の死因の約40%が突然死であり,その割合は重症のNYHA分類 Ⅳ(約30%)に比較して,軽症のNYHA分類 Ⅱ,Ⅲで50〜60%と非常に高いことが報告されている.
◎虚血性心疾患による突然死の二次予防にICDは有効だが,拡張型心筋症では集積データが少なく,その有効性はいまだはっきりしていないため,植込み後も慎重な経過観察が必要である.
◎非致死性不整脈(心房細動など)による不適切作動(ショック治療)は予後を悪化させるため,その回避が重要である.

治療—急性心不全

救急室でのトリアージ—初期対応とクリニカルシナリオ,Nohria-Stevenson分類とは?

著者: 川瀬裕一 ,   多田毅 ,   門田一繁

ページ範囲:P.2234 - P.2237

Point
◎急性心不全において,初期対応の質が長期予後にも影響することを認識する.
◎初期治療の大原則は,「迅速な病態把握と病態に応じた適切な治療」である.
◎病態は刻一刻と変化する.治療の際には,病態の再評価を適宜行いながら進めていくことが重要である.
◎クリニカルシナリオ(CS)とNohria-Stevenson分類は,急性心不全の診療の筋道を立てるのに有用である.

点滴強心薬—ノルアドレナリン,ドパミン,ドブタミン,ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬

著者: 長央和也

ページ範囲:P.2238 - P.2241

Point
◎点滴強心薬は,組織灌流の低下が明らかなショックや低心拍出の急性心不全患者に対して使用する.
◎ノルアドレナリンは血管収縮による昇圧効果が強く,ドパミンも高用量であれば昇圧作用が期待される.ドブタミンとホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬は,強心作用と血管拡張作用とを併せもつ.
◎点滴強心薬は,不整脈,心筋虚血,心筋障害を惹起し,予後を悪化させる可能性があるため安易に投与しない.また,循環動態が回復すれば速やかに減量・中止を試みる.

血管拡張薬—硝酸薬,ニコランジル,カルペリチド

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.2242 - P.2244

Point
◎血管拡張薬は,起坐呼吸を呈する急性うっ血性心不全に良い適応がある.
◎硝酸薬のスプレー製剤は,すぐに投与できて臨床的に有効である.
◎体液過剰を伴わない症例では,血管拡張薬により急激に血圧が低下することがあり注意が必要である.

非侵襲的陽圧換気療法(NIPPV)

著者: 横山広行

ページ範囲:P.2246 - P.2249

Point
◎急性心不全の初期治療における目標は症状を改善することであり,SpO2>95%に維持するように迅速に酸素療法を開始する.
◎酸素吸入を開始しても酸素化が不十分な場合やPaCO2が蓄積する場合には,躊躇せず速やかに非侵襲的陽圧換気療法(NIPPV)を開始する.
◎NIPPVの効果判定は,自覚症状の改善,PaO2/FiO2の上昇,呼吸数減少,血行動態改善により評価する.

特殊な治療

大動脈弁狭窄症,機能性僧帽弁閉鎖不全症のカテーテル治療

著者: 中嶋正貴 ,   松本崇

ページ範囲:P.2250 - P.2252

Point
◎外科手術が唯一の選択肢であった弁膜症(大動脈弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症)に対する低侵襲なカテーテル治療が近年わが国に導入され,臨床使用可能である.
◎TAVIは開胸高リスク患者への低侵襲治療として開発されたが,その良好な成績からよりリスクが低い患者へも適応が拡大されつつある.
◎MitraClip®はこれまで有効な選択肢が乏しかった機能性僧帽弁逆流症に対する,有効な選択肢となることが期待されている.

心臓移植

著者: 塚本泰正 ,   坂田泰史

ページ範囲:P.2253 - P.2257

Point
◎心臓移植は末期心不全患者に対する治療として,生存率やQOLを改善させる最も優れた治療法である.
◎わが国では,欧米諸国に比べてドナー不足が深刻であり,適切な心臓移植の適応評価や長期にわたる待機期間中の綿密な管理が必要である.
◎心臓移植後も,免疫抑制療法や移植後特有の合併症に対する管理が非常に重要であるが,わが国では移植後の生存率は諸外国と比較しても良好である.

植込型補助人工心臓(VAD),IMPELLA®

著者: 肥後太基

ページ範囲:P.2258 - P.2263

Point
◎比較的最近使用可能となった補助循環装置として,植込型補助人工心臓(VAD),IMPELLA®は急速に普及が進んでいる.
◎従来の補助循環装置との共通点や相違点を理解したうえで,適切な症例に適切なタイミングでVADを導入することが重要である.
◎植込型VADの管理に当たっては,介護者の存在,多職種連携による包括的管理,地域連携が重要である.
◎さまざまな補助循環装置に習熟し適切に使いこなすことが,より良い重症心不全の治療のために重要である.

重症心不全に対する再生医療

著者: 澤芳樹

ページ範囲:P.2264 - P.2270

Point
◎細胞シート移植法は,ES細胞,iPS細胞を含むすべての細胞ソースにて治療手段として応用が期待できる再生医療の基盤技術である.
◎2007年には,心臓移植待機中の拡張型心筋症患者が本治療により人工心臓から離脱し,現在も元気にされているというfirst in humanの臨床試験に成功した.
◎以来,35例以上の重症心不全患者を治療し,左室補助装置(LVAS)離脱自宅復帰の2例を含めて,本治療法が重症心不全の心機能や症状を安全に向上し,生命予後を改善しうることを臨床的に証明した.
◎技術移転のもと,虚血性心筋症に対する薬事承認および保険償還が得られた.また,成人および小児の拡張型心筋症を対象とした2つの医師主導治験も継続中である.

人生の最終段階の医療

心不全における緩和ケアの重要性

著者: 大石醒悟

ページ範囲:P.2272 - P.2275

Point
◎心不全は増悪と寛解をくり返す慢性進行性疾患であるが,その経過から終末期を判断することは困難である.
◎緩和ケアは生命を脅かす病に関連する問題に介入するアプローチであり,終末期に限定したものではない.
◎一度に行うのではなく,くり返す経過のなかで意思表明を支えていくことで,心不全患者へも意思決定支援は可能である.

緩和ケアと多職種チーム

著者: 黒住祐磨

ページ範囲:P.2276 - P.2279

Point
◎がん診療と同様に,末期心不全患者に対する緩和ケアには全人的な苦痛への対応が必要となる.
◎質の高い心不全診療と緩和ケアを提供するためには,多職種チームによる介入(チーム医療)が必須となる.
◎多職種チームによる医療を実践するためには,多職種協働とチーム内での情報共有が大切である.

人生の最終段階における薬剤使用の実際

著者: 菅野康夫

ページ範囲:P.2282 - P.2284

Point
◎末期心不全では,緩和ケアの観点から患者へアプローチし,適切に薬剤を使用する必要がある.
◎心不全そのものに対する治療と緩和的治療のバランスを意識する.
◎終末期の苦痛に対しては,鎮静薬の投与が必要な場合もある.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・8

手のひらを上にして前にならえ! いわゆる「Barré徴候」

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.2137 - P.2139

 上肢の軽い麻痺を検出する方法として,Barré試験(徴候)はとても有名です.これはMingazziniの上肢試験の変法の1つであり,命名法についてはさまざまな意見があります.今回は,上肢を前方に伸ばし,手掌を上向きに水平面にして検査する手技を「Barré徴候」と定義したいと思います.では,一緒に勉強していきましょう!
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2020年11月30日まで公開)。

医師のためのビジネススキル・7

ビジネス定量分析—医師なら分析できて当たり前!?

著者: 柏木秀行

ページ範囲:P.2292 - P.2294

事例
 I医師は卒後7年目の内科医として400床の市中病院(A病院)に勤務している.専門医を取得し,正式にスタッフ医師としてのキャリアがスタートした.初期研修医時代から勤務する病院で,職種間の風通しもよく,学会発表などの指導も受けられる環境に満足していた.これからはスタッフ医師として,診療科の運営についてもしっかり考えていきたいと,心新たにやる気に満ち溢れている.
 そんなある日,他の病院で研鑽していた初期研修時代の同期から連絡があった.家庭の事情もあり,またA病院に戻りたいという相談だった.専門分野も一緒で,気心の知れた仲間が増えることはI 医師にとって喜ばしく,いつも「医師の人数は変わらないのに,患者数が増えて人手不足で大変」とぼやいている部長に来年度からの採用について相談した.即断でOKをもらえると予想していたが,「人手が増えるのはありがたいけど,院長は収益上問題ないのかを気にすると思うんだよね.その先生に来てもらって,もっと売上が増えることを示せないと採用できないよ」という反応であった.すっかり気落ちしたI医師は,「それを院長に示していくのが部長の仕事じゃ…」と怒りにも似た気持ちが沸き起こったが,できることを模索しようと考え始めた.

ストレスと病気のやさしい内科学 診療の幅が広がる心療内科の小ワザ集・2

心療内科初診をみてみよう—問診票・病態仮説の形成

著者: 大武陽一

ページ範囲:P.2295 - P.2299

 連載第2回目となる今回は,「心療内科初診をみてみよう」です.
 心療内科の実際の診察を見たことがある方は,非常に少ないのではないでしょうか.「何か怪しげな診療をしている?」と思われている方もいるかもしれませんが,ほとんどの場合,通常の内科診療と同じようなことを行っています.すなわち,「問診→診察→検査→説明→治療の開始」という形です.ときどき,患者さんには「えっ? 心療内科って診察するんですか?」と聞かれたりしますが,第1回で取り上げたように心療内科は「内科」ですので,診察も当然行います.むしろ,診察を丁寧にするということが患者さん自身の病気の理解に繋がる場合も少なくないので,後述する病態仮説の共有のために,より丁寧な診察をすることもあります.

物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・7

前頭側頭葉変性症(FTLD)—1)行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)の診かたについて教えてください

著者: 重松一生

ページ範囲:P.2300 - P.2303

ポイント
FTLDは進行性失語,人格変化,行動異常などが特徴です.根本的治療はなく介護主体となるため,患者・家族への支援が大切になります.

目でみるトレーニング

問題895・896・897

著者: 萩原將太郎 ,   岩波慶一 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.2304 - P.2309

書評

—佐々木達哉 著—循環器疾患ディベートⅡ

著者: 村川裕二

ページ範囲:P.2233 - P.2233

 豊富な診療の経験があり,論文を読んで書いて,臨床の風潮の変遷を眺めてきた著者が循環器疾患の「ものの考え方」について思うところを著した本である.テレビや映画で見る裁判風景を「循環器診療のさまざまなテーマ」に当てはめて,原告と被告側がやりとりをするのに似ている.著者は陪審員でもありレポーターでもある.読者は画面を見ている立場として,いずれかの説に共感することもあれば,以前通りの困惑に取り残されたままかもしれない.
 普通の著者には書けない.普通の専門家はこの著者ほどしぶとい性格ではないし,全体像を把握できない.著者ほどに自分の頭で考える集中力はなかなかに得がたい.

—総編集 佐々木裕 編集委員 木下芳一,下瀬川徹,渡辺 守—最新ガイドライン準拠—消化器疾患診断・治療指針

著者: 菅野健太郎

ページ範囲:P.2281 - P.2281

 佐々木裕教授の総編集による『最新ガイドライン準拠 消化器疾患診断・治療指針』は,症候論からはじまり,検査法,画像診断など,エビデンスやガイドラインが必ずしも十分でない領域にもゆきとどいた紙数が割かれており,本書が単にガイドラインの解説書ではなく,簡便な教科書としても通用する体裁となっている.これは,佐々木教授が序文に述べておられるように,本書が,すでに上梓されている全4巻の「プリンシプル消化器疾患の臨床」シリーズを一冊に纏められていることによる.このシリーズは肝臓をご専門とする佐々木裕教授のほか,木下芳一教授,渡辺守教授,下瀬川徹教授という,当代の日本を代表する上部・下部消化管ならびに胆膵疾患のリーダーがそれぞれのシリーズの一巻を担当され,高い評価を受けている消化器病専門書である.ただ,消化器病学を専門としない一般医家が座右において参考にするには全4冊を揃えるとなるといささか抵抗があるかもしれない.本書はその点で一般医家むけとしてきわめて利便性が高くなっているといえよう.実際,最新のガイドラインが取り入れられているだけでなく,プリンシプルシリーズの特徴でもある美しい画像・イラストを受け継いでいるほか,多くの項目ではシリーズの該当部分を参照できるような配慮がなされている.
 エビデンスに基づく医療(EBM)は,単に臨床研究によって得られたエビデンスだけではなく,医師の技量,患者の価値観,患者を取り巻く状況という4本柱に基づく医療を指すのであるが,その実践にあたってガイドラインの果たす役割は大きい.それゆえ,これらの最新のガイドラインを要領よくまとめてある本書の有用性は高い.しかし,たとえば,新規薬の参入が相次いでいる炎症性腸疾患や,悪性腫瘍の治療については,現行のガイドラインでは必ずしも十分に対応できているとはいえず,アップデートが必要となるであろう.また,新薬も相次いで発売され,一般医家が遭遇する機会の多い便秘については,単に症候論だけでなく,その診断,治療に関する項目を設けていただきたいと思う.

—河合 忠 編 山田 俊幸,本田 孝行 監修—異常値の出るメカニズム 第7版

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.2311 - P.2311

 『異常値の出るメカニズム 第7版』が刊行された.本書は1985年に初版が出版されて以来,30年以上にわたって版を重ねている臨床検査医学領域の名著である.一度は目にしたことのある医療関係者も多いのではないだろうか.
 私は初版以来全ての版に目を通しているが,今回はこれまでで最も大きな変更があった.まず,初版からの編著者であった河合忠先生(自治医大名誉教授)が監修に回り,山田俊幸先生(自治医大教授)と本田孝行先生(信州大教授)による編集になった点である.また,本書の英文名がLaboratory MedicineからKawai's Laboratory Medicineに変更された.本田先生は今回から編者に加わっているが,実は第6版の書評を書いておられ,私はそれを読んだ覚えがある.そこには,信州大でReversed Clinicopathological Conference(RCPC)を実施するにあたり,『異常値の出るメカニズム』を10回以上精読したと書かれていた.本田先生自身が本書の愛読者だったわけである.

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「ERアップデート2019 in 大阪」のご案内

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「medicina」第55巻 総目次

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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