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雑誌目次

雑誌文献

medicina56巻10号

2019年09月発行

雑誌目次

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

著者: 小林健二

ページ範囲:P.1547 - P.1547

 「腹痛」を診るのが難しく感じるのには,いくつかの理由がある.1つには,腹腔内には消化器の臓器だけではなく,血管,泌尿器,婦人科臓器などが存在することだ.さらに,心臓,肺といった腹腔外の臓器や代謝性疾患,膠原病などが腹痛の原因となることがあり,これらが腹痛の解釈をより複雑にする.2つ目は,疼痛部位と原因臓器との関係が単純ではないことである.腹腔内臓器由来の内臓痛の多くは腹部の正中付近に感じられる.加えて,関連痛や体性痛が関与することがあり,疼痛部位から原因を絞り込むことがしばしば難しくなる.3つ目は,腹痛に限ったことではないが,経験と知識が必要であることだ.系統的に病歴をとって,丁寧に身体診察をしても,重要な情報を素通りしたり,鑑別疾患が浮かばない,絞り込めない,ということが初心者でしばしばみられる.この場合,よくわからないために検査を乱発してしまうという状況に陥る.こういう経験を何回かした結果,検査をしないと診断がつかないのであれば,病歴と身体診察は端折って,すぐ検査をしたほうが効率がよいのではないか,と思ってしまうのも無理もないのかもしれない.もちろん,検査の必要性は否定しないし,画像検査の進歩が腹痛診療に大きく寄与していることは認める.しかし,何の仮説もなく検査をすると,見つかった異常の解釈を誤ることがあり,患者の訴えの解決にもならないことがある.反対に,例えば急性虫垂炎の初期のように,検査に異常がないから大丈夫と言えない場合はいくらでもある.面倒でも病歴と身体所見から“あたり”をつける作業は欠かせない.

特集の理解を深めるための27題

ページ範囲:P.1668 - P.1672

座談会

腹痛診療のピットフォールとその対策

著者: 谷口誠 ,   小林健二 ,   坂本壮

ページ範囲:P.1548 - P.1554

腹痛はさまざまな症候のなかでも扱うのが難しい症候です.その理由として,消化器疾患に限らず,心血管系や呼吸器系,泌尿器系,婦人科系,内分泌代謝疾患など,さまざまな疾患が原因となって起こりうるため,ベテランの医師でも難しさを感じるのではないかと思います.今回は,異なる種類の医療機関で働かれている先生方に,腹痛に対してどのように対応しているのか,どのような工夫をして診療にあたっているのかについてお話しいただけたらと思います.(小林)

総論(入門編)

腹痛の分類と解釈

著者: 座喜味盛哉

ページ範囲:P.1556 - P.1559

 腹痛は日常診療において極めて高い頻度で遭遇する訴え・症状の1つである.腹痛の原因となる疾患は多岐にわたり,消化器疾患のみではなく,循環器疾患や呼吸器疾患または内科以外の泌尿器科・婦人科疾患などもあり,その鑑別や治療に苦慮する.また,致命的となる重篤なものも含まれるため,臨床医を悩ませる.頻度も高くかつ重要である腹痛患者を診察するにあたって,腹痛の種類と解剖学的な理解はともに重要となる.

腹痛の病歴聴取

著者: 村田健

ページ範囲:P.1560 - P.1562

Question 1
早期に介入しないと重大な転帰をとるような疾患を見逃さないためには,どのような病歴聴取をすればよいですか?
●最初にバイタルサインと第一印象を重視する.
●「想起されない疾患は診断できない」ため,得られた臨床情報から鑑別疾患を必ず挙げる.
●鑑別疾患は「緊急性のある疾患」→「見逃しやすい疾患」→「よくある疾患」の順に常に考える.
●診断が確定しない場合は,他の鑑別疾患の可能性を捨てずに慎重にフォローアップする.

腹痛患者のレッド・フラッグサイン

著者: 田中和豊

ページ範囲:P.1564 - P.1567

Question
腹痛患者におけるレッド・フラッグサインにはどのようなものがありますか?
A.「過敏性腸症候群」と「消化管疾患」についてのレッド・フラッグサインというものは存在する.しかし,腹痛のレッド・フラッグサインというものは筆者が検索する限り存在しなかった.腹痛患者におけるレッド・フラッグサインというものが言及されない理由は,おそらくそれが無数に存在するからであろう.本稿では,腹痛におけるレッド・フラッグサインと考えられるものを,全身状態,問診,バイタル・サイン,身体所見,血液検査,画像検査,そして治療に分けて列挙してみたい.

腹痛の身体診察

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.1568 - P.1572

Question 1
腹痛患者の身体診察では何に着目すればいいですか?
A.腹痛診療においては,病歴聴取と並行して身体診察を行う.したがって良質な病歴聴取なくして身体診察はありえない.特に急性腹症では,患者の一見した外観(顔色)および冷汗の有無を即座に把握し,バイタルサインの生理学的な解釈が求められる.年齢,性別,主訴および病歴から2〜3つの鑑別疾患を挙げ,それらを除外/確定するために身体診察を行う.良質な病歴が得られれば,おのずと診察するポイントは決まる.

腹痛の血液検査・尿検査

著者: 有岡宏子

ページ範囲:P.1574 - P.1577

Question
初診で腹痛患者を診たときに,どのような血液・尿検査をすればいいですか? その他にしておくべき検査はありますか?
A.限られた時間のなかでより早く正しい診断にたどりつくためには,なるべく多くの鑑別診断を,優先順位を考えながら列挙し,効率よく病歴聴取や身体診察を進めていく必要がある.種々の鑑別診断はある程度の優先順位がつけられたのち,基本的な血液検査,尿検査へと進む.重症度や緊急性といった観点からこれらのステップを省略して検査を進める場合もあるが,それ以外の場合,血液検査や尿検査は,病歴聴取や身体所見に基づいて列挙された鑑別診断の証拠固めの材料である.

腹痛の超音波検査—成人の腹痛診療におけるpoint-of-care ultrasound(POCUS)の役割は?

著者: 亀田徹

ページ範囲:P.1578 - P.1580

Question
腹痛患者の診察におけるベッドサイドでの腹部超音波検査の使い方について教えてください!
A.ベッドサイドで観察部位を絞って行う超音波検査は,point-of-care ultrasound(POCUS)と呼ばれ,コンセプトに関しては普及が進んでいる.腹痛を起こす疾患は多岐にわたり,POCUSで評価できるのはその一部に過ぎない.しかし,腹痛診療において,病歴・身体所見にPOCUSを加え,診断推論の質を向上させることにより,患者ケアの改善が期待できる.

腹痛の放射線検査

著者: 船曵知弘

ページ範囲:P.1582 - P.1584

Question
腹痛患者の検査で放射線検査の選び方がわかりません.とりあえずCTでいいですか? 造影は必要ですか?
A.腹部単純超音波検査は必須である.腹膜刺激徴候があれば,単純X線検査の結果によらずCTが必要になるため,腹部単純X線検査はスキップしてもよい.CTを施行する際には,可能な限り造影CTが良い.ただし,循環動態によっては腎機能検査の結果が出るのを待つ時間的余裕がないことがあり,その場合は臨機応変に対応する.

高齢者の腹痛

著者: 星哲哉

ページ範囲:P.1586 - P.1590

Question
高齢者の腹痛では何に注意すべきですか?
●高齢者の腹痛患者を診るときは,消化器疾患のみならず,非消化器疾患まで鑑別を広くすることが肝要である.
●そのなかでも見逃してはいけない疾患(心筋梗塞,腸管虚血,腹部大動脈破裂,肺梗塞)を除外することが大切である.
●病歴,診察,採血,採尿などの一般的な方法では診断に限界がある.危険因子から診断を想起し,場合によっては早期の画像診断(腹部超音波,腹部CT)を考慮する.

免役不全患者の腹痛

著者: 吉田常恭 ,   森川暢 ,   北川泉

ページ範囲:P.1592 - P.1595

Question
免疫不全状態の患者が腹痛を訴えたら何に気をつければいいですか?
A.免疫不全状態の程度を把握することが重要である.免疫不全が重篤な場合,特殊な感染症やコモンな感染症の特殊な表現型を想定する必要がある.診察では一般的な腹痛診療と同じく詳細な問診,丁寧な身体診察を行うことが重要である.免疫不全患者であっても虫垂炎や胃腸炎など一般的な腹痛疾患を罹患する.しかし,一部の免疫不全患者では炎症が抑制されるために,腹膜刺激徴候が当てにならない場合があるため注意が必要である.

女性の下腹部痛

著者: 水谷佳敬

ページ範囲:P.1596 - P.1599

Question
女性の下腹部痛ではどのような場合に産婦人科疾患を疑うべきですか?病歴聴取と身体診察で気をつけることを教えてください!
A.主に生殖可能年齢の女性においては①妊娠反応陽性,②女性に特有,③男女に共通の3つの鑑別を検討する(表1).③は急性腹症の鑑別に準ずるため本稿では割愛する.①において最も鑑別すべきは異所性妊娠である.「妊娠の可能性はありますか?」という問いは具体性を欠き,役に立たないことが多い.最終月経はいつか? それは普段通りの量・タイミングであったか? 最終性交歴はいつだったか? 避妊法は適切であったか? を確認し,妊娠の除外が困難と判断される場合や問診が困難なケースでは腹部超音波検査ないし妊娠反応検査(尿中hCG定性検査)で妊娠の有無を確認する.②の鑑別に骨盤内腫瘍の有無は重要な情報である.比較的commonな出血性黄体囊胞は排卵後以降のタイミングで認める.女性特有の問題の問診や診察に際しては,トラブルを避けるため男性職員一人で行わないようにする.

泌尿器科疾患による腹痛

著者: 服部一紀

ページ範囲:P.1600 - P.1602

Question
どのようなときに泌尿器科疾患による腹痛を疑うべきですか?
A.泌尿器科臓器(腎,尿管,膀胱など)は後腹膜臓器であるので,基本的には腹痛,特に正中部付近の腹痛が主症状になることはほとんどない.側腹部あるいは下腹部付近の疼痛が主で,腹膜刺激症状を伴わないような場合は,泌尿器科疾患を疑う.また,血尿をはじめとする排尿に関する症状を合併している場合も積極的に泌尿器科疾患を疑うべきである.多くの泌尿器科疾患は,女性よりも男性に多い.

代謝性疾患と腹痛

著者: 田中拓

ページ範囲:P.1604 - P.1606

Question
代謝性疾患が原因で起きる腹痛はどのようなものがありますか?どういう状況で疑うべきですか?
A.糖尿病性ケトアシドーシス(DKA),アルコール性ケトアシドーシス(AKA),急性間欠性ポルフィリン症,急性副腎不全などの代謝性疾患でも腹痛をきたす.いずれも腹腔内臓器の器質的疾患(腸閉塞や虫垂炎,急性膵炎,胆囊炎など)が除外され,各々の特徴である所見(後述)を認めた際に疑う.これらの疾患は疑わなければ想起できないこともあり,鑑別疾患として常に考慮する必要がある.

膠原病と腹痛

著者: 小澤廣記 ,   岡田正人

ページ範囲:P.1608 - P.1611

Question
膠原病や血管炎の患者が腹痛を訴えたら,何を考えて,どうすればよいですか?
A.腹痛の診療に限らず,問診票の既往歴に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)や血管炎といった膠原病が書かれている場合には,膠原病自体による病態,治療薬に関連する感染症や有害事象,膠原病mimickerとなる他疾患の除外などを考える.
本稿ではまず,腹痛をきたす膠原病として代表的な疾患(SLE・IgA血管炎・結節性多発動脈炎)を取り上げ,症例提示とともに解説する.そのうえで,膠原病による腹痛へのアプローチを考えてみたい.

心肺疾患と腹痛

著者: 小澤秀樹

ページ範囲:P.1612 - P.1615

Question
どのような場合に心肺疾患による腹痛を疑えばよいですか?
●上腹部痛では,鑑別診断として胸腔内臓器の疾患を常に考えるべきである.
●上腹部痛を診たら,急性冠症候群の可能性を考え,必ず心電図を記録する.
●解離性大動脈瘤の症状の特徴は,突然の発症の激烈な移動性の痛みであるが,非典型的な症状を呈することを忘れない.

診断がつかない急性腹痛

著者: 窪田忠夫

ページ範囲:P.1616 - P.1619

Question
急性腹痛の確定診断がつきません.そんなときどう対処すればよいですか?
A.急性腹痛の10%程度はCTをもってしても診断がつかないが,診断がつかない場合でも,帰宅可能かどうか,あるいは手術すべきかどうかを判断しなくてはならない.CTを撮ればわかるだろうと安易に考えずに,常に病歴と身体所見から診断と方針を決めようという姿勢でいれば,CTで診断がつかない腹痛にも対処できる.

腹痛と鎮痛薬

著者: 坂本壮

ページ範囲:P.1620 - P.1623

Question
救急外来で腹痛の患者の診察をしているとき,鎮痛薬を使用していいですか? 使用するとしたらどの薬剤を使用するべきですか?
A.鎮痛薬は使用するべきです.患者が痛みで苦しんでいるときに,使用しない理由がありません.使用することでエラーが増えるということはなく,むしろ病歴聴取や身体所見を適切に評価可能となりマネジメントがしやすくなります.
使用可能な鎮痛薬は複数あり,アセトアミノフェンは点滴静注可能で短時間で投与可能なため使用しやすく汎用されていますが,投与量や投与後の効果判定に注意し使用する必要があります.

実践編

右上腹部痛

著者: 戸田信夫

ページ範囲:P.1624 - P.1626

症例
56歳女性.46歳時 急性膵炎の既往あり.時に「胃痛」があり近医からファモチジンを処方されているが,上部消化管内視鏡の施行歴はない.夕食後から持続する中等度の右上腹部痛があり,市販の鎮痛剤を服用したが効果なく,次第に吐き気,38℃台の発熱を伴い,痛みが増強したため夜間救急外来を受診した.
既往歴 46歳時 急性膵炎,脂質異常症.

心窩部痛

著者: 宮田直輝

ページ範囲:P.1628 - P.1631

症例
37歳男性.来院前日の深夜より激しい腹痛を自覚し当院受診となった.痛みは徐々に増強しており,背部痛も伴っている.前屈みになるといくらか症状が落ち着く.ここ最近飲酒量が増えていたとのこと.
既往歴 アルコール性急性肝炎.

左上腹部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.1632 - P.1634

症例
42歳男性.脂質異常症で服薬治療中.来院2週間前から左上腹部の痛みを自覚するようになった.痛みの始まりは緩徐で,食後に出現することが多かった.痛みの性状は鈍痛で,中等度の強さ,持続は1〜2時間だった.嘔気,嘔吐,放散痛,食欲低下,体重減少,発熱はなかった.便の色は確認していない.痛みは労作とは関係ない.痛みが持続するため外来を受診した.発症からの2週間,痛みの増悪はない.
既往歴 脂質異常症.

側腹部痛

著者: 米田圭佑 ,   西川佳友

ページ範囲:P.1636 - P.1639

症例
76歳男性.高血圧で近医クリニックにて服薬加療中.昨昼までは元気で,趣味の農作業を行っていた.作業終了間際に急激な左側腹部から腰背部への痛みを自覚したが,重たいものを持ち上げた際の痛みと思い,様子をみていた.数時間経っても左側腹部の痛みが引かず,起立時のふらつきも認めたため救急搬送に至る.
既往歴 40歳頃に尿管結石症,腰部脊柱管狭窄症.50歳より高血圧にて内服加療.

臍周囲の痛み

著者: 竜彰 ,   中路聡

ページ範囲:P.1640 - P.1643

症例
ADL自立の67歳男性.1週間前から間欠的な臍周囲部の痛みと腹部膨満を主訴に内科外来を受診した.5日前から便通がなく,お粥をなんとか食べてはいるものの,嘔気が続き,今朝食べたものを吐いてしまった.
既往歴 2年前に鼠径ヘルニアに対して手術歴あり.

右下腹部痛

著者: 大前知也

ページ範囲:P.1644 - P.1646

症例
44歳女性.生来健康で今朝までは特に異常はなかった.起床後しばらくしてから上腹部の違和感を自覚し,その後心窩部に軽い痛みと吐き気を自覚したが経過観察していた.食欲がなく朝食は軽めに摂取したが昼食は食べなかった.昼前に一度少量の排便があったが下痢ではなかった.昼過ぎから微熱がみられ,次第に痛みが右下腹部に移動し,増悪して歩くと響くようになったため夕方受診した.
既往歴 33歳:帝王切開.

左下腹部痛

著者: 藤澤美亜 ,   松嶋成志 ,   鈴木孝良

ページ範囲:P.1648 - P.1650

症例
76歳女性.脂質異常症,高血圧で服薬治療中.突然,左下腹部に痛みを自覚後,水様性下痢を数回認めた.痛みは突然激痛で始まり,約2時間持続しているが改善傾向にある.下痢はその後,鮮血便となり軽度の嘔気も出現したため外来を受診した.嘔吐,放散痛や発熱はなかった.普段から便秘がちで,2,3日便がないと便秘薬を服用していたが,ここ数日排便はなかった.体重減少や食欲不振はなく,1週間以内の生もの摂取歴や海外渡航歴もない.
既往歴 脂質異常症,高血圧.

下腹部正中の腹痛

著者: 柴田綾子

ページ範囲:P.1652 - P.1655

症例
29歳女性.
主訴 2日間続く下腹部痛

腹部全体の痛み

著者: 清水宏康 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1656 - P.1659

症例
特記する既往のない14歳女性.
腹痛,倦怠感を主訴にwalk-inで救急外来を受診.来院3週間前から食欲の低下,倦怠感の自覚あり,部活動を休むようになった.1週間前から学校を休みたいと言うようになり,近医小児科受診,精神疾患に伴う不登校の可能性を指摘され,いったん経過観察となった.来院前日より悪心,間欠的な腹痛と倦怠感の増悪があり,救急外来を受診.腹痛は前日より緩徐に発症,心窩部に自発痛,性状は鈍痛,間欠痛であり,激痛になるときはない.増悪寛解因子は乏しく,飲食による疼痛変化も乏しい.

慢性的な(数カ月に及ぶ)上腹部痛

著者: 大庫秀樹 ,   今枝博之

ページ範囲:P.1660 - P.1662

症例
44歳女性.生来健康である.数カ月前より心窩部痛を自覚した.痛みは夕食後にときどき認めた.緩徐であるが食後1〜2時間続き,その後胃もたれも自覚するようになり外来受診した.ストレスはあるが,吐血,下血,嚥下困難なし,体重減少,食欲低下,発熱もなく,睡眠障害や,痛みの増悪もなかった.
既往歴 特になし.

慢性的な(数カ月に及ぶ)下腹部痛

著者: 田中由佳里

ページ範囲:P.1664 - P.1666

症例
22歳女性.大学4年生.大学3年生頃より,週に数回の腹痛と水様便を生じるようになった.排便後はときどき残便感が残ることもあるが,少しすると改善する.腹痛時は臍下周辺が痛く,5分程度の波が出ることが多い.月経前に回数が増えるため,婦人科を受診したが,特に異常所見はないと言われた.朝の通学時のバス(1時間に2本程度)で強い腹痛に襲われて以来,トイレがない交通機関は不安を覚える.症状は朝や,食事後のほか,講義中に出ることもある.朝食は抜くことが多いが,体重の大きな変化はない.大学では学部の友人やサークル活動など,人間関係や学業に特に問題はない.就職活動中であり,また各種試験を控えている.模試直前は夜遅くまでの勉強で腹痛を生じ,思うように勉強がはかどらなかったり,模試中に腹痛が生じて辛い目に合うなどの経験が続いている.症状に対して強い不安があり,外来を受診した.
既往歴 21歳時(大学3年),カンピロバクター感染症.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・17

さっと簡単にスクリーニング—cervical line

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1541 - P.1543

 感覚障害は自覚的な要素が強く,他覚的に検査していくのが大変なことが多いです.特に痛覚鈍麻を調べるとき,爪楊枝で細かく何回も何回もつついて検査する……そんな大変な経験を皆さんしてないでしょうか? 今回は,頸髄と胸髄の病変をさっとスクリーニングする方法について勉強しましょう.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年7月30日まで公開)。

物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・16

認知症専門医療機関への紹介のタイミングは?

著者: 重松一生

ページ範囲:P.1674 - P.1678

ポイント
認知症には救急対応が必要な場合があること,早期診断や初期評価が有用なこと,いくつかの社会的支援制度があることなどから,専門医療機関(専門科)への紹介を考慮します.タイミングは早いほうが良いでしょう.

目でみるトレーニング

問題922・923・924

著者: 若林禎正 ,   赤堀弘 ,   千嶋巌

ページ範囲:P.1680 - P.1686

医師のためのビジネススキル・16【最終回】

マネジメントを通じて,自分自身を見直そう!

著者: 柏木秀行

ページ範囲:P.1688 - P.1691

 全16回のシリーズも今回で最終回である.経営戦略やマーケティング,お金に関すること,人間や組織に関することなど,ビジネススクールで学ぶ必要があるさまざまな分野に関する話題を扱ってきた.最後である第16回は,マネジメントを通じて自分自身を見直そう! というテーマである.マネジメントにおいては,どのような状況でも適応できる解決策といったものはない.われわれのいる医療現場と同様に,正解のない世界なのだ.ビジネススクールでビジネススキルを学んで,そのスキルの重要性や有効性を感じる一方で,「何が大切で,何を目指すか?」というのは自分次第であり,自分自身と向き合うことでしか見出せないということを痛感した.マネジメントを通じて,医師として自分自身を高めていくことが重要なのである.

書評

—亀田 徹 著—内科救急で使える!—Point-of-Care超音波ベーシックス—[Web動画付]

著者: 谷口信行

ページ範囲:P.1581 - P.1581

 本書は,カラーなうえに,図や写真が多くてわかりやすく,読んでいてわくわくする超音波検査の本である.その疾患の超音波検査を試みたことのある方であれば,臨床の状況と必要な検査を想定できる記述となっている.動画が豊富に付いているのもいい.超音波検査を扱った書籍は静止画のみで構成されたものが多いが,本書はQRコードにより手元のスマートフォン,タブレットですぐに動画を見ることができる.
 タイトルになっているPoint-of-Care超音波(POCUS)は,研修医だけでなく,内科・外科をはじめとする多くの臨床医にとって,診療に役立つものである.研修医であれば,現場でPOCUSを行うことで,後に自分で行わなければならない検査のハードルをだいぶ下げることができるだろう.研修医が修得すべき手技は数多くあるが,なかでもPOCUSはその場で検査を行うことができ,安心して次の診療ステップに進むことができる.ちなみに,POCUSにおいて最近注目を集めているのは肺エコーであり,これは救急や在宅の場面で,肺炎などの肺疾患に加え,左心不全の診断に役立つものである.

—則末泰博 編 片岡 惇,鍋島正慶 執筆—人工呼吸管理レジデントマニュアル

著者: 喜舎場朝雄

ページ範囲:P.1607 - P.1607

 このほど,東京ベイ・浦安市川医療センターの則末泰博先生の編集で若手医師向けの人工呼吸管理レジデントマニュアルが発刊された.
 本書は裏表紙のMOVESで始まる人工呼吸管理の語呂合わせで読者の肩の力を抜かせて本文へのスムーズな誘いが展開されている.序文に記されているように人工呼吸の導入を考えるに当たって必須の判断や知識のエッセンスの理解が大切である.本書は19章から構成され,実際の挿管方法,代表的な疾患別の具体的な人工呼吸器の設定方法,管理中の鎮静,アラームとトラブルシューティング,合併症,最終章では経肺圧の意義と実際の測定にも触れている.

—本田孝行 著—検査値を読むトレーニング—ルーチン検査でここまでわかる

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1647 - P.1647

 著者はここ10数年来,RCPC(Reversed Clinico-pathological Conference)を積極的に紹介,発信し,世に知らしめた立役者である.RCPCとは「検査データを示し,そこから病態を読み解く」という臨床検査医学の教育手法の一つで,個々の検査を深く実践的に学習できるという特徴がある.データの表示法や,conferenceの進め方は多様であるが,重要な原則がある.「1.疾患名を当てることが目的ではない」.ゲーム感覚として診断するのは副次的楽しみとしてあっていいが,時々,推測した病名が外れると不機嫌になったり,こうも考えられる,など執拗に食い下がったりする参加者がいる.そもそも検査値だけから病名診断はできない.病態を読み解くことが主たる目的である.著者の信念もそのように一貫している.「2.基本データのみ提示する」.検査というものは,2次的・特殊なものになればなるほど疾患に直結し,結果の解釈は容易となる.基本的・一般的なものほど考えをめぐらすことが多く,この基本検査(ルーチン検査)に強くなることが臨床的にはどの職種,どの場面でも求められる.著者はかなり以前より「基本検査成績は最早,問診や基本的診察と同等に利用すべき」と主張しており,この基本検査へのこだわりが真骨頂である.
 さて,conferenceの進め方には大きく2通りある.オーソドックスな方法は,基本検査データを提示し(ワンポイントでも時系列でもよい),個々の検査につき,正常でも異常でも型どおりに解釈し,総合して病態を推測し,必要な2次検査を挙げ,その結果を提示し,最終病態診断に至るというものである.評者はこの方式を実践している.もう一つは著者が実践している「信州大学方式」で,基本検査データの時系列を示し,「栄養状態」「細菌感染」など代表的病態それぞれにつき,対応する検査データを基に評価するもので,病態指向型であり,ダイナミックに病態の変化を検討するという,ある種,臨床的・実際的なものである.本書には,それら代表的な病態が網羅されており,病態に関連した検査値の理解を深めるのに大変役立つものと思われる.

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目次

ページ範囲:P.1544 - P.1546

読者アンケート

ページ範囲:P.1699 - P.1699

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1700 - P.1701

購読申し込み書

ページ範囲:P.1702 - P.1702

次号予告

ページ範囲:P.1703 - P.1703

奥付

ページ範囲:P.1704 - P.1704

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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