icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina56巻13号

2019年12月発行

雑誌目次

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

著者: 吉田英人

ページ範囲:P.2089 - P.2089

 1993年に出版されベストセラーになった,『「超」整理法—情報検索と発想の新システム』(野口悠紀雄・著,中央公論新社)がある.25年以上前の書籍であるが,書類やアイデアの整理法を論理的に解説した名著である.ところで,そもそも「整理」とはどういう意味だろうか.『新明解国語辞典 第七版』(三省堂)には,「乱雑な状態にあるものに秩序を与えて,すぐ利用出来るようにしたり,事がうまく進むようにしたりすること」と書かれている.これを「ポリファーマシーの整理」として照らし合わせてみる.「乱雑な処方に対して,適切性を考慮し薬を減らしたり増やしたりすることで秩序を与えて,患者・家族・医療者・介護者がすぐ利用出来るようにする.そして患者さんのその後の人生がうまく進むために関わりを持つこと」——ざっと,このような形に解釈することができる.単に,10剤内服していたのを5剤に減薬することを「ポリファーマシーの整理」というには不十分であることがわかる.
 今回,プライマリ・ケアを担っている先生方に,ポリファーマシーの整理法をお届けする企画に至った.まず最初に,ポリファーマシーの基本的な知識(定義,疫学,原因,問題点)を解説していただき,その次に,各領域の第一線で奮闘されている先生方から,専門医が提案する整理法やセッティングの違いから見えてくる整理法など,実臨床に沿ったポリファーマシーの整理法をうかがう形とした.そしてポリファーマシーを整理するうえで必要となってくる関連知識(高齢者総合機能評価,高齢者施設,クライテリア,非薬物療法など)をまとめ,最後に多職種連携(薬剤師,看護師,ポリファーマシー外来など)について概説している.

特集の理解を深めるための23題

ページ範囲:P.2212 - P.2215

座談会

ポリファーマシーを通して見えてくる患者・医療者のすれ違いを科学する

著者: 中西重清 ,   吉田英人 ,   平井啓

ページ範囲:P.2090 - P.2098

ここ数年,「ポリファーマシー」が注目され,その実態や具体的な介入方法のエビデンスが増えてきています.しかし,実臨床ではなかなかうまくいかないケースも多く経験します.そのような場合,患者・医療者が意思決定をするときのクセやバイアスを知ることで問題解決に近づけるかもしれません.そこで,今回はプライマリケアの第一線でご活躍されている中西先生から現場の生の声を,そして行動経済学の第一人者の平井先生からポリファーマシー問題への助言をお聞かせいただけたらと思います.(吉田)

ポリファーマシーの基本を整理する

ポリファーマシーの定義,疫学を整理する

著者: 吉田英人

ページ範囲:P.2100 - P.2103

Point
◎ポリファーマシーは量的または質的な視点で定義されている.
◎ポリファーマシーは5剤以上の使用と定義されることが多い.
◎診療セッティング,患者背景によってポリファーマシーの定義は変幻自在となる.

ポリファーマシーの原因その1—医療システムから見えてくるもの

著者: 西村正大

ページ範囲:P.2104 - P.2106

Point
◎健診・検診の科学的根拠は意外と乏しく,薬物療法の導入は慎重に.
◎日本には,ポリファーマシーに結びつきやすい構造的な問題が数多く存在する.
◎個人と社会の双方の視点からポリファーマシーを理解すべきである.

ポリファーマシーの原因その2—患者要因から見えてくるもの

著者: 野々上智

ページ範囲:P.2108 - P.2111

Point
◎高齢者では年齢層が上昇すればするほどポリファーマシーの割合は増える.
◎加齢に関わるさまざまな因子が複雑に絡み合って発症するさまざまな症候(認知機能低下・せん妄・うつ状態・転倒・栄養障害・排尿障害・不眠・慢性めまいなど)を「老年症候群」といい,ポリファーマシーや薬剤の有害事象につながりやすい.
◎慢性疾患各々が病態生理学的に関連する・しないにかかわらず併存していて,診療の中心となる疾患を設定しがたい状態を「マルチモビディティ(multimorbidity,多疾患併存)」と呼び,一般的な診療ガイドライン通りに治療を行うとポリファーマシーにつながるので注意が必要である.

ポリファーマシーの原因その3—医療者要因から見えてくるもの

著者: 北和也

ページ範囲:P.2112 - P.2115

Point
◎毎回でなくても良いので,定期的なdo処方の見直しが必要である.見直しのポイントについては,medication appropriateness indexなどが参考になる.
◎見逃されがちな処方カスケードを把握しよう.複数医療機関の通院歴があれば要注意.お薬手帳が2冊以上ある場合があり確認が大切である.
◎念のため,良かれと処方した薬剤が逆効果になる可能性があることを常に意識する.エビデンスはあるのか,リスクベネフィットの共有はできているか,患者の思い・価値観をないがしろにしていないか,多面的に考える必要がある.

ポリファーマシーの原因その4—製薬会社との関係から見えてくるもの

著者: 関口豊 ,   南郷栄秀

ページ範囲:P.2116 - P.2118

Point
◎multimorbidityの状態では必然的に薬の数も増える.
◎製薬会社からの情報提供がポリファーマシーの原因となりうる.
◎製薬会社の説明は説得力があるが,自社製品の良い点ばかりを強調しがちである.

ポリファーマシーになると何が問題となるのか?

著者: 青島周一

ページ範囲:P.2120 - P.2125

Point
◎ポリファーマシーがもたらす問題として,薬物相互作用,服薬アドヒアランス,薬物有害事象,心理的・社会的な問題を挙げることができる.
◎薬物相互作用リスクの増加や服薬アドヒアランス低下はポリファーマシーと強い関連性があるように思えるが,こうした問題が患者予後にどれだけ影響を与えうるかは,薬剤ごと,患者ごとに個別に評価していく必要がある.
◎薬物有害事象は,必ずしも薬剤だけによってもたらされているわけではないということに留意する.
◎想定される有害事象にどんな要因がどの程度寄与しているのか,広い視野で評価が必要である.

プライマリ・ケアで困るポリファーマシー症例〜各診療科からのオススメ整理法を教えます〜

神経内科—Parkinson病症例

著者: 時村瞭 ,   井口正寛

ページ範囲:P.2126 - P.2129

Point
◎Parkinson病は進行性の疾患であり,症状に応じた治療が必要である.
◎制吐薬,抗精神病薬,消化性潰瘍治療薬,緩下薬などの併用薬は注意を要する.
◎施設に入所し経済的に減薬が必要だとしてもL-ドパだけは休薬しない.

膠原病内科—ステロイド長期内服症例

著者: 後藤愛佳 ,   綿貫聡

ページ範囲:P.2130 - P.2132

Point
◎ステロイドをなるべく早く減量・中止することが,副作用予防にもポリファーマシー対策にも重要である.
◎ステロイド内服患者では骨粗鬆症予防に生活習慣改善とビタミンD・カルシウムの補充が必須であり,リスクのある患者はビスホスホネート製剤をはじめとした骨粗鬆症予防薬も継続すべきである.
◎ステロイド単剤使用時は消化管潰瘍予防のプロトンポンプ阻害薬は不要である.
◎中〜低用量ステロイド使用時のニューモシスチス肺炎予防薬については十分なデータがなく判断が難しい.

心療内科,緩和ケア—不安障害,不眠症例

著者: 松田能宣

ページ範囲:P.2134 - P.2136

Point
◎ベンゾジアゼピン系薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の減量・中止を行う際は,週単位で減量し,患者の希望に合わせて柔軟に減量ペースの調整を行う.
◎不眠に対しては睡眠衛生指導をしっかりと行う.
◎ベンゾジアゼピン系薬の減量・中止過程では離脱症状,SSRIの減量・中止過程では中止後症状に注意する.
◎医療者がコミュニケーションを工夫することで,患者が薬剤の減量・中止に主体的に取り組むことが可能になる.
◎減量・中止過程で自殺企図,希死念慮が出現した場合には必ず専門医に再紹介する.

整形外科—慢性疼痛(変形性膝関節症など)症例

著者: 藤井達也 ,   古志貴和

ページ範囲:P.2138 - P.2141

Point
◎整形外科慢性疾患の薬剤把握のためには,疼痛伝達経路と作用点,機序,副作用,減量中止時の注意点で整理するとわかりやすい.
◎薬剤併用の目的は各薬剤量の減量,副作用の軽減であり,侵害受容性疼痛だから非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs),神経障害性疼痛だからデュロキセチンやプレガバリンという二者択一的なものではない.
◎弱オピオイド,デュロキセチン,プレガバリンを中止する場合,突然の中止を避け,1週間以上かけて漸減中止する.
◎適切な手術介入タイミングは,疼痛の悪化,生活への支障を考慮し,加えて脊椎病変では下肢症状の新規出現に考慮する.
◎診察時に「痛み」や「できないこと」から,「今できていること」に意識を向けることで,痛みが軽減されることがある.

消化器内科—慢性的な消化器症状の訴えがある症例

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.2142 - P.2147

症例1
長期にPPIが処方されている67歳女性.
主訴 慢性下痢.

循環器内科—慢性心不全症例

著者: 岩田秀平 ,   水野篤

ページ範囲:P.2148 - P.2150

Point
◎心不全を悪化させる可能性のある薬物を確認し,減量・中止する必要がある.
◎慢性心不全患者にACP(advance care planning)の導入を検討し,そのなかでの薬剤中止という考え方は必要な選択肢である.
◎標準治療を理解したうえで,十分な情報提供と医療従事者-患者間における信頼構築のなかで一つひとつ議論していってほしい.

小児のポリファーマシー

著者: 小橋孝介

ページ範囲:P.2152 - P.2154

Point
◎小児のポリファーマシーは「2剤以上の異なる薬剤を少なくとも1日以上処方すること」をその定義とする.
◎小児は成人と異なる薬物動態(吸収,分布,代謝,排泄)を呈するため,処方を行う際には使用する薬剤それぞれについて,禁忌や薬物相互作用に注意し,その適応を十分吟味する.

セッティングの違いによるポリファーマシー整理法

訪問診療とポリファーマシー

著者: 高木暢

ページ範囲:P.2156 - P.2159

Point
◎訪問診療におけるポリファーマシーへの介入は,ADLや病状の変化,環境の変化などが契機となりやすいが,安定している状況でも日頃の飲み残された薬剤の有無や本人の自覚症状も介入の契機となる.
◎眠れないなどさまざまな訴えに対して薬剤を処方しがちであるが,薬剤以外の対応方法がないかどうか検討したうえで,それらの薬剤の副作用や相互作用についても検討しなければならない.
◎認知機能,ADL,生活スタイル,腎機能などを評価し,疾患によっては治療ガイドラインを参考にしながら,リスクとベネフィットを評価し,薬剤の必要性を検討する.そのためにも専門医や調剤薬局の薬剤師などの多職種と連携し,情報を得ることも必要である.

救急外来におけるポリファーマシー

著者: 坂本壮

ページ範囲:P.2160 - P.2162

Point
◎救急外来では,いかなる症状も薬剤性の可能性を一度は考えよう!
◎内服薬は処方薬以外も根こそぎ確認しよう!
◎薬剤調整はかかりつけ医との連携必須! 情報を共有し,再燃・再発を防止しよう!

一般開業医とポリファーマシー

著者: 中西重清

ページ範囲:P.2164 - P.2166

Point
◎一般開業医の外来診療において,多疾患併存とポリファーマシーを絶えず意識する必要がある.
◎疾患に対する治療の優先順位を考慮し,総合診療能力を高める.
◎処方時は毎回,処方の妥当性を考慮する.

総合病院とポリファーマシー

著者: 北島正大 ,   橋本忠幸

ページ範囲:P.2168 - P.2170

Point
◎ポリファーマシーが発生する大きな要因の一つとしてコミュニケーション不足が問題となっている可能性がある.
◎処方している医師自身がポリファーマシーに困っていても,外来では薬剤調整が行いにくい.
◎地域急性期病院への入院はポリファーマシー対策をする良いタイミングである.

ポリファーマシーを整理するときに役立つ知識

高齢者総合機能評価(CGA)

著者: 亀井悠一郎

ページ範囲:P.2172 - P.2175

Point
◎高齢者総合機能評価(CGA)は高齢者特有の問題も含めて包括的に高齢者の全体像を把握し,その結果に基づいて多職種で介入していく方法である.
◎CGAには医学的評価,認知精神機能,身体機能,社会的環境,倫理的背景の項目があり,簡易評価方法としてCGA-7やDr. SUPERMANがある.
◎CGAを用いることで「治療の最終目標が何であるか」を認識し,人それぞれの多様性に配慮しながら処方整理を行うことができる.

高齢者施設

著者: 山村修

ページ範囲:P.2176 - P.2179

Point
◎高齢者施設ではポリファーマシーが発生しやすい.
◎高齢者施設ではポリファーマシーの回避を目的とした薬物モニタリングが必要である.
◎高齢者施設では転倒や失神のリスクが高まる薬剤の長期処方や重複処方に注意する.

潜在的に不適切な薬剤—クライテリアや減薬プロトコールについて

著者: 松本浩 ,   家研也

ページ範囲:P.2180 - P.2183

Point
◎高齢者は加齢の進行に伴い潜在的に不適切な薬剤による薬物有害事象のリスクが高くなるため,適宜処方の見直しを行うことが重要である.
◎潜在的に不適切な薬剤のスクリーニングツールとして「Beersクライテリア」,「STOPP/STARTクライテリア」,「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」などがある.
◎減薬プロトコールは,個々の患者の臨床背景を考慮することで減薬の適切性を判断できるツールである.
◎処方適正化を推進するためには,複合的なツールの使用や多職種連携による取り組みも重要である.

薬剤師の介入効果のエビデンス

著者: 木村丈司

ページ範囲:P.2184 - P.2186

Point
◎調剤,医薬品の供給に加え,処方箋内容の確認とその内容に関する疑義照会は薬剤師の重要な役割である.
◎保険薬局では,内服薬のアドヒアランス状況や健康食品,サプリメントの使用に関する情報など,即時性は低いものの診療上重要な情報について,トレーシングレポートを作成し医療機関に送付している.
◎病院入院時の持参薬確認はポリファーマシーを整理する重要な機会である.
◎薬剤師の教育的介入により,高齢者の不適切処方が削減できる可能性がある.
◎不適切処方の削減に加え臨床アウトカムを改善するためには,薬剤レビューだけでなく多職種で連携した多面的な介入が必要である.

非薬物療法—non pharmacological therapy

著者: 矢吹拓

ページ範囲:P.2188 - P.2192

Point
◎ポリファーマシー対策の一つにエビデンスのある非薬物療法の選択肢を!
◎具体的な非薬物療法のエビデンスリソースは押さえておき,薬物療法の替わりにならないかを検討すべし.
◎非薬物療法の実践には患者協働が必須であり,具体的で理解しやすい説明処方が求められている.

ポリファーマシーは多職種で整理する

多剤服用と多職種連携・社会的処方

著者: 千嶋巌

ページ範囲:P.2194 - P.2197

Point
◎不適切処方に繋がる3つの要因(患者,医師,環境・ヘルスケアシステム)に目を向けよう.
◎WHOが提唱する10個の「健康の社会的決定要因(SDH)」が背景に隠れていないか考えてみよう.
◎では私達ができることはなにか? 苦しんでいる人に「声をかける」,地域の社会的資源を「見える化」する,支援が必要な人に資源を「つなぐ」,見識を「広める」ことができる.
◎そのためには,職域を超え看護・介護・福祉・住民・民間企業・行政など業種を超えた多分野の密な連携,交流が重要である.

病院薬剤師との協働

著者: 平井みどり

ページ範囲:P.2198 - P.2202

Point
◎病院薬剤師の機能は多岐にわたる.
◎薬剤師は,薬の特性(効果,副作用,体内動態,相互作用など)の視点から患者のイベントを評価する.
◎薬剤師は薬物治療において,医師の視点を補完する機能を示す.

看護師との協働—看護職が考える生活視点からのポリファーマシーへの介入

著者: 長瀬亜岐

ページ範囲:P.2203 - P.2205

Point
◎複数科受診により薬剤数が多い時は,院内チームによる多職種連携を活用し,高齢者の生活視点で処方内容を検討する.
◎薬物有害事象の症状は薬剤を中止するだけで改善しないことも多く,多職種で総合的に高齢者をアセスメントして介入する.
◎高齢者の薬に対する思いや価値観を理解し,個々の生活スタイルに合わせた処方へ変更する.

ポリファーマシー外来

著者: 岩切理歌

ページ範囲:P.2206 - P.2208

Point
◎認知機能や生活機能,介護環境の変化に応じた対策が必要である.
◎残薬を減らすためには,内服数や内服回数の軽減が必要である.
◎患者に関わる医師同士,多職種間で情報を共有していくことが重要である.

訪問薬剤師とポリファーマシー

著者: 大須賀悠子

ページ範囲:P.2210 - P.2211

Point
◎訪問薬剤師を活用することでポリファーマシーの存在を発見し処方適正化につなげることが有効である.
◎生活の場での処方適正化は,処方を持続的に服薬可能な形に変更していく視点が必要である.
◎訪問薬剤管理指導の開始には,処方医の指示と患者の同意が必要であり,地域保険薬局にて依頼することができる.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・20

失調の診方—体幹の失調と筋緊張

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.2081 - P.2084

 手足の小脳失調については,指鼻指試験や踵-膝試験などの身体所見のとり方をこれまで勉強してきました.では体幹部の失調についての評価はいかがでしょうか? 座位でのバランスをとるのも小脳の役割です.筋肉の被動性も含め一緒に勉強していきましょう!
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年10月31日まで公開)。

物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・19

介護者のQOLについてどう考えればよいですか?

著者: 重松一生

ページ範囲:P.2216 - P.2221

ポイント
認知症はご家族のQOLに大きく影響します.ご家族に病気を“受容し”前向きに対応してもらえるよう,介護者のQOLにも配慮が必要です.

母性内科の「め」 妊婦・授乳婦さんのケアと薬の使い方・16

胸が痛くなってきたんです

著者: 三島就子

ページ範囲:P.2222 - P.2229

症例
 39歳のJさんは,第2子妊娠中で妊娠31週になりました.1カ月前に妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)と診断され,食事療法とインスリン治療を受けています.5日前から第1子に発熱と咳嗽があり,つきっきりで看病をしていました.2日前からJさんにも微熱と咳嗽が現れ,徐々に咳が強くなって,昨夜はほとんど眠れませんでした.今朝,節々のだるさと寒気があり,熱を測ると38.5℃でした.休んでいれば大丈夫と思って自宅で様子をみていましたが,咳はいっこうに治まらず,左胸が痛くなってきたので,母性内科外来を受診することにしました.
Jさん:「胸が痛くなってきたんです」

目でみるトレーニング

問題931・932・933

著者: 岩崎靖 ,   小松孝行 ,   梶原祐策

ページ範囲:P.2230 - P.2236

書評

—杉山裕章 執筆 小笹寧子 執筆協力—熱血講義! 心電図—匠が教える実践的判読法

著者: 中川義久

ページ範囲:P.2163 - P.2163

 心電図学習に目覚め,確実に判読できるようになりたいと志す者は多い.しかし,その多くは挫折し,心電図が嫌いになり去っていく.そのような迷える子羊に希望を与えてくれる素晴らしい書籍が登場した.その名も『熱血講義! 心電図—匠が教える実践的判読法』である.心電図の初学者を対象とした書籍は多い.本書は従来のどれとも明らかに異なる.一言で言えば「熱い!」のである.これでもかと,微に入り細に入りわかりやすく解説する著者の杉山裕章氏の情熱がダイレクトに伝わってくる.退屈することなくページがどんどん進んでいく.ウーン,素晴らしい!
 書名には「熱血講義!」「匠が教える」といった魅力的なキャッチコピーが躍っている.『人は見た目が9割』などキャッチーなタイトルの書籍も存在する.まさに「書名は見た目が9割」である.本書のタイトルは内容の充実度に見合うもので,決して過剰な表現ではない.「匠」とは,優れた技術をもった職人を指す言葉である.著者の杉山氏は,まさに心電図判読の「匠」に相応しい技を惜しげもなく皆に開示している.説明には,「杉山流かけことば」と命名された記憶しやすい呪文が散りばめられている.正常心電図の洞調律の定義の項での「イチニエフの法則」などが好例である.こういった躍動感溢れる「かけことば」によって,心電図学習は難しいという敷居の高さを解消し,読者を楽しい世界に引きつけていく仕掛けである.さらに,執筆協力者の小笹寧子氏による「小笹流 私はこう読む」というコラムが本書の活力を高めている.斬新な切り口のコメントが多く,単調に陥りがちな心電図学習にアクセントを与えている.著者の「杉山流かけことば」が経糸(たて糸)となり,執筆協力者の「小笹流 私はこう読む」が緯糸(よこ糸)となって,心電図学習という強靱な布地を構成している.心電図への苦手意識を抱いていた者も,引き込まれるように心電図の世界に織り込まれていくのである.執筆者と執筆協力者の目的意識と情熱が融合することによって誕生した,まさに「熱い!」一冊が本書である.本書の成功の鍵は,著者が,この素晴らしい協力者を得たことであろう.

—平島 修,徳田安春,山中克郎 著—こんなときオスラー—『平静の心』を求めて

著者: 中西重清

ページ範囲:P.2167 - P.2167

 私が書評を書くにふさわしい人間かどうかわからないが,開業医の立場から解説する.ウィリアム・オスラーの『平静の心—オスラー博士講演集(Aequanimitas)』(医学書院,2003)は名著であるが,難解である.精読したいとは思うが,数ページで挫折してしまうのは私だけではないかもしれない.3人のオスラリアン(オスラー伝道医師)が,わかりやすく実例を交えて解説し,臨床現場で平易に活用できる一冊としたのが,『こんなときオスラー『平静の心』を求めて』である.
 8つの大きな見出し(「臨床上の葛藤—医師と患者のはざまで」「日々の勉学の中で」「教師と生徒」「進むべき道への迷い」「理想の医師像を求めて」「人生と平和と愛と」「付録」「オスラーの生涯と言葉」)で構成され,いつでも,どこからでも,気になったところから読める.臨床に悩んだときに探しやすい構図になっている.この厚さなら軽いので寝転んでも読めるし,急患が来たら,読み止めることもできる.もうあなたは,『平静の心』を仮眠用の枕にしなくてもよいのである.なんて斬新な試みだろう.

—ストラクチャークラブ・ジャパン 監修 有田武史,原 英彦,林田健太郎,赤木禎治,白井伸一,細川 忍,森野禎浩 編—SHDインターベンションコンプリートガイド

著者: 伊苅裕二

ページ範囲:P.2171 - P.2171

 構造的心疾患(structural heart disease:SHD)に対するカテーテル治療の必要性は,飛躍的に広まっています.
 カテーテル治療は1970年代に冠動脈形成術が開始され,現在の第2世代薬剤溶出性ステントを用いた冠動脈インターベンション(PCI)において,冠動脈バイパス術と並ぶ標準的治療法となりました.冠動脈領域のみならず,末梢血管領域,SHD領域にも,手術と並ぶカテーテル治療が出現し,一部とって代わる時代になりつつあるのは,低侵襲を望む患者さんの希望の現れでもあります.現在では,冠動脈領域,末梢血管領域,SHD領域はカテーテル治療の3本柱となり,広く行われる体制と変わってきています.

--------------------

目次

ページ範囲:P.2086 - P.2088

読者アンケート

ページ範囲:P.2243 - P.2243

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2244 - P.2245

購読申し込み書

ページ範囲:P.2246 - P.2246

次号予告

ページ範囲:P.2247 - P.2247

奥付

ページ範囲:P.2248 - P.2248

「medicina」第56巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?