書評
—岩田健太郎 監訳—シュロスバーグの臨床感染症学—Clinical Infectious Disease, 2nd ed
著者:
土井洋平12
所属機関:
1藤田医科大学医学部
2ピッツバーグ大学医学部
ページ範囲:P.237 - P.237
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『シュロスバーグの臨床感染症学』は,感染症専門医を目指す後期研修医はもちろんのこと,感染症学に興味をもつ初期研修医・医学生にも広くお勧めできる教科書である.感染症医として知っておくべき病態・疾患・病原体を網羅的にカバーしているために本文だけで1,200ページ近いボリュームとなっているが,それぞれの項目は数ページにまとまっているので,日常診療のなかでクィックリファレンスとして用いるのに適している.300名以上いる原著者のほとんどが米国で感染症診療を実践している専門医であることから,慢性疲労症候群,Whipple病などを含め,本書の内容には米国で診療機会の多い病態が色濃く反映されている.ただ,米国第一主義なわけでは決してなく,臨床的にしばしば遭遇するが学ぶ機会が少ない病態(歯性感染症,カンジダ尿など)もきちんとカバーされている点に好感がもてる.また,マンデルやクーサーのような辞書的な教科書に比べると,原著者がのびのびと自分のスタイルで執筆しており,「臨床」感染症学ならではのクリニカルパールも随所に散りばめられていることから,読む方も肩の力を抜いて読むことができる.皮膚所見や病理所見のカラー画像も豊富で楽しい.さらに特筆すべき点として,移植・担癌患者,好中球減少患者や生物学的製剤投与中の患者などの易感染性宿主へのアプローチについて50ページ以上を割いて詳説されており,こうした難しい症例に取り組むにあたってのよい道標となるであろう.
原著(第2版)は2015年に出版されているが,監訳者はじめ15名の訳者の努力によりわずか3年遅れで日本語版の出版に至っている.しかし医学の全てがそうであるように,感染症の分野も常に進歩し,診療のパラダイムが変化している項目もあることから,本書で基礎知識を固めつつ,ここ数年間の主要論文などで情報をアップデートし診療に生かすのがよいだろう.また,抗菌薬や抗ウイルス薬の投与量については,ややエキスパートオピニオン的な部分,あるいは日米で差がある部分も見受けられるので,診療に利用する場合は二次的なソースで再確認することをお勧めする.