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雑誌目次

雑誌文献

medicina56巻6号

2019年05月発行

雑誌目次

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

著者: 能登洋

ページ範囲:P.781 - P.781

 糖尿病診療は近年,大きな変貌を遂げています.すなわち,患者数の急増,高齢患者の増加,肥満患者の増加,多くの新たな治療薬とそのエビデンス登場などです.現在,日本の糖尿病患者数は約1,000万人と推算されています.重症低血糖に関連するリスクが再着目されるようになり,血糖コントロール目標値については“the lower, the better”という一律な考えはすっかり過去のものとなり,個別化設定が推奨されています.また,糖尿病の合併症といえば細小血管症(網膜症,腎症,神経障害)と大血管症(心血管疾患)ですが,糖尿病はそのほかにも癌,歯周病,骨粗鬆症,認知症,うつ,感染症などとの関連性が高いことも脚光を浴びてきています.実際,日本人糖尿病患者の死因は癌が1位,感染症が2位,心血管疾患が3位です.そのため,糖尿病非専門医も糖尿病診療スキルを磨いていかなければなりませんし,糖尿病は全身疾患であるのでチーム医療・院内連携・病診連携の充実化も求められます.
 日本糖尿病学会は診療ガイドラインを3年ごとに改訂しており,本号と同時期に2019年版が発行されます.このガイドラインはQ&A形式で読みやすく多岐にわたる分野をカバーしているものの,薬物選択の優先順位が明示されていないなど実用性に乏しい面が少なくありません.また,推奨根拠となるランダム化比較試験はエビデンスレベルとしては最高ではありますが,必ずしも実臨床にそのまま適応できるとは限りません.EBMはエビデンスだけでなく,患者の意向・医師(医療チーム)の臨床的実践技量をバランス良く統合していく実地アクションです.

特集の理解を深めるための31題

ページ範囲:P.936 - P.940

対談

糖尿病実地診療の理想と現実

著者: 坂上太郎 ,   能登洋

ページ範囲:P.782 - P.789

近年,糖尿病は患者数も治療薬数もエビデンスも劇的に増加しています.今回は慢性的・全身的疾患である糖尿病における病診連携推進の観点から,診療現状の把握と理想的な実地診療の方向性について,生の声をお届けしたいと思います.本特集と併せて,有効性の高い診療ガイドラインやマニュアルを現場で活用していただけたらと願っています.(能登)

糖尿病とは 【疫学】

日本の糖尿病の現状は?

著者: 杉山拓也 ,   山本浩司 ,   山田祐也

ページ範囲:P.790 - P.793

Point
◎日本人成人の糖尿病患者数は1,000万人を超え,今後も増加する見込みである.
◎40代の糖尿病男性は50%近くが治療を受けていない.
◎糖尿病患者の平均死亡時年齢は日本人全体よりも8歳以上短いが,個々の患者による差は大きい.
◎境界型耐糖能異常でも調査対象により,心血管病の発症,心血管死,癌による死亡,Alzheimer型認知症発症と相関がみられることがある.

【分類・成因・病態・診断】

どのように診断し,病態を把握したらよいのだろう?

著者: 山本かをり

ページ範囲:P.794 - P.798

Point
◎糖尿病は成因(発症機序)と病態(病期)の両面から捉えることができる.
◎家族歴,発症年齢や臨床経過,肥満の有無,膵島自己抗体,インスリン分泌能や抵抗性などから総合的に判断して分類する.
◎糖尿病の診断には,空腹時血糖値,75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値,随時血糖値,HbA1cが用いられる.

【診察】

限られた時間内でのポイントを押さえた診察法は?

著者: 五十川陽洋

ページ範囲:P.800 - P.803

Point
◎糖尿病の多様な病型を知ったうえで,病歴聴取・身体診察を行う必要がある.
◎生活習慣,遺伝的背景についても聴取する.
◎問診を行いながら,患者本人が糖尿病発症の主たる原因を自覚しているかを把握し,その後の生活指導に生かす.

【血糖測定器】

血糖測定を嫌がる患者にはどう対応したらよいだろう?

著者: 外池美恵

ページ範囲:P.804 - P.806

Point
◎糖尿病治療においては,HbA1cだけでなく血糖変動幅を小さくすることも重要である.
◎血糖変動を確認する方法には,血糖自己測定,持続グルコースモニター,フラッシュグルコースモニターがある.
◎持続グルコースモニター,フラッシュグルコースモニターを血糖自己測定と併用することで血糖変動を可視化し,より良い血糖コントロールを達成できる可能性がある.

血糖管理目標値 【外来】

ともかくHbA1c 7.0%未満が目標?

著者: 田中隆久

ページ範囲:P.807 - P.809

Point
◎HbA1cは過去1〜2カ月間の平均血糖値を反映し,血糖コントロール状態の指標となる.
◎合併症予防のためにはHbA1c 7.0%未満が目標であるが,認知症のある高齢者など治療強化が困難な際には8.0%未満とするなど,個別化した目標を設定する.
◎食事・運動療法のみ,あるいは,低血糖を起こす危険性の低い薬剤で治療を行っている患者で,副作用なく達成可能な場合はHbA1c 6.0%未満を目標とする.
◎HbA1c値は赤血球寿命と関連するため,糖尿病の状態が急速に変化しているとき,出血を起こしているとき,透析患者などでは平均血糖値と乖離するので注意を要する.
◎グリコアルブミンは過去2週間程度の平均血糖値を反映する.糖尿病治療を開始して半年間など,血糖コントロールが変化しているときには参考となる指標である.

【入院】

血糖値523mg/dLで呼ばれた!どうしたらよいか?

著者: 羽田幹子

ページ範囲:P.812 - P.814

Point
◎入院患者の血糖値悪化の原因としてはステロイド投与や経静脈栄養,経管栄養の開始,感染症の合併が挙げられる.
◎高血糖は入院中の死亡や感染リスクの上昇が知られており,入院中患者の目標血糖コントロールを知ることが重要である.
◎周術期の血糖コントロール目標や手術の延期基準を知っておき,コントロールが難しい場合は糖尿病専門医へのコンサルトを考慮する.

治療 【食事療法】

炭水化物摂取量は少ないほうが血糖コントロールによい?

著者: 杉山雄大

ページ範囲:P.815 - P.818

Point
◎食事療法は糖尿病治療の根幹を成す要素である.
◎『糖尿病診療ガイドライン2019』において,食事療法の記載が大幅変更予定である.
◎肥満患者は現体重から5%以上減量することを当面の目標とする.
◎目標BMIについては,22.0kg/m2より幅をもたせた設定になることが予定されている.
◎低炭水化物食についてはその是非が議論されており,ガイドライン改訂が待たれる.

【運動療法】

「運動する暇がない」と言う患者をどう指導しよう?

著者: 大杉満

ページ範囲:P.819 - P.821

Point
◎ガイドライン上の目標は「週3〜5回,強度が中等度の有酸素運動を20〜60分間行い,計150分以上運動すること」である.
◎身体活動量を活動量計などで把握するのが身体活動量を増やす第一歩である.
◎座ったり横になったりしている時間を減らす,あるいは分断するだけでも効果がある.
◎ガイドラインの推奨よりも低い強度の運動でも有効な可能性がある.
◎「運動をしない」「身体活動量を増やさない」ことに合理的な理由はない.

【薬物療法(経口血糖降下薬総論)】

どの薬から使用すればよいのだろう?

著者: 辻本哲郎

ページ範囲:P.823 - P.828

Point
◎糖尿病の治療として,インスリンの適応があるかないかを最初に見極める.
◎2型糖尿病に対する経口血糖降下薬の中心は,メトホルミンである.
◎最終的にどの経口血糖降下薬を選択するかは,患者背景や薬剤特性などを総合的に考えたうえで決定し,患者中心の医療を心がける.

【薬物療法(経口血糖降下薬)】

ビグアナイド薬の使い方

著者: 飯坂徹 ,   長坂昌一郎

ページ範囲:P.829 - P.831

Point
◎ビグアナイド薬(メトホルミン)は肝での糖新生抑制など多彩な機序を介して血糖降下作用を発揮し,インスリン抵抗性改善薬に位置づけられている.
◎多くのエビデンスがあり,2型糖尿病治療において第一選択となりうる薬剤である.
◎比較的頻度が多い副作用は消化器症状だが,経過観察や減量で改善する可能性が高い.
◎稀だが注意すべき副作用に乳酸アシドーシスがある.全身状態が悪い患者には投与しないことが大前提である.

DPP-4阻害薬の使い方

著者: 田中肇 ,   河合俊英

ページ範囲:P.832 - P.835

Point
◎DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者のうち,高齢者や腎機能低下者の治療で使用しやすい.
◎単独使用では低血糖リスクが少なく,体重増加をきたしにくい.
◎心血管イベントに対する安全性は担保されているが,優越性は証明されていない.
◎スルホニル尿素(SU)薬と併用する場合はSU薬の減量や中止などを配慮する.

スルホニル尿素薬・グリニド薬の使い方

著者: 西村明洋

ページ範囲:P.836 - P.840

Point
◎スルホニル尿素(SU)薬およびグリニド薬は近年は極力避けられる傾向にあるが,実臨床ではまだまだ使用頻度の高い薬剤である.
◎2018年の米国/欧州糖尿病学会によるコンセンサスレポートにおいて,SU薬は治療コストが主要な問題となる症例の第2選択薬となった.
◎低血糖リスクの高い症例には特徴がある.その特徴を把握すれば,低血糖リスクをある程度避けることができる.
◎グリニド薬がベストチョイスとなるシチュエーションが実臨床には少なからず存在する.その状況をしっかりと把握し,いざという時には積極的に使用する.

SGLT2阻害薬の使い方

著者: 櫛山暁史

ページ範囲:P.842 - P.844

Point
◎SGLT2阻害薬は心血管イベント抑制,心不全改善,腎保護作用のエビデンスが認められたため,利用が進み始めている.
◎1型糖尿病に対する適応取得が進められているが,正常血糖糖尿病ケトアシドーシス(euDKA)には十分注意する必要がある.
◎脱水など特有の副作用を理解し,HbA1c以外の自覚症状と検査所見も含め,効果,副作用をみるのが上手な使用法である.

α-グルコシダーゼ阻害薬の使い方

著者: 岸本美也子

ページ範囲:P.845 - P.847

Point
◎α-グルコシダーゼ阻害薬は腸管における糖吸収を遅延させ,食後の急激な血糖上昇を抑制する食後高血糖改善薬である.
◎1日3回,毎食直前に内服する.
◎副作用として,腹部膨満感,放屁の増加,下痢,便秘などの腹部症状がある.
◎本剤単独投与では低血糖をきたす可能性は低いが,他剤併用時に低血糖が起こった場合,ブドウ糖の経口投与が必要である.

チアゾリジン薬の使い方

著者: 納啓一郎

ページ範囲:P.848 - P.850

Point
◎チアゾリジン薬は,脂肪細胞のPPARγを介してインスリン抵抗性を改善する.現在わが国では,ピオグリタゾンが発売されている.
◎副作用として水・ナトリウムの貯留作用があるため,特に浮腫や心不全の増悪に注意すべきである.膀胱癌のリスク増加も報告されている.
◎非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の改善に有効であると報告されている.

【薬物療法(注射薬)】

インスリン製剤—いつどうやって投与量を決めたらよいのだろう?

著者: 神田周平

ページ範囲:P.852 - P.857

Point
◎インスリン治療は補充療法である.
◎インスリン投与量の調整は責任インスリン法によって行う.
◎調節の際にはインスリン抵抗性,インスリン分泌能,低血糖リスクの把握が必要である.

GLP-1受容体作動薬—インスリンとはどうやって使い分けるのだろう?

著者: 大西由希子

ページ範囲:P.858 - P.861

Point
◎インスリンとGLP-1受容体作動薬は,両者とも注射薬だが作用機序も特徴も異なる.
◎GLP-1受容体作動薬は単独の使用においては重篤な低血糖をきたさない.
◎GLP-1受容体作動薬には血糖降下作用に加えて体重が増えにくく,体重減少効果を期待できるものもある.
◎GLP-1受容体作動薬はそれぞれの製剤に特徴があるので,長所を生かし使い分ける.

糖尿病患者のマネジメント 【糖尿病セルフマネジメント教育・療養支援】

「変わる」を支える対話とは?

著者: 大橋健

ページ範囲:P.862 - P.866

Point
◎糖尿病治療の98%以上は,患者のセルフマネジメントによる.
◎治療成功のカギは,「糖尿病セルフマネジメント教育/支援」という視点から患者自身の当事者能力を高めることである.
◎医療者が質問や共感のスキルを磨くことは患者の主体的な治療参加を促し,効果的な支援につながる.

【シックデイ対策】

食事が摂れないとき,投薬はどうしたらよいのだろう?

著者: 渡邊知一 ,   村田敬

ページ範囲:P.868 - P.872

Point
◎シックデイ時は血糖値が不安定となり,高血糖緊急症や重症低血糖が生じやすい.
◎水分と糖質の補充に努め,摂食量や血糖値を参考に糖尿病治療薬を調整する.
◎日頃から患者や家族にシックデイルールを指導し,医療機関に相談できる体制を確立しておく.

【低血糖対策】

合併症予防には血糖値はthe lower, the betterのはずでは?

著者: 後藤麻貴

ページ範囲:P.873 - P.875

Point
◎厳格な血糖コントロールによるメリットと,低血糖により生じるリスクを把握する.
◎年齢,認知機能,身体機能,併存疾患などに留意し,個別に適切な血糖コントロール目標を定めて,安全な治療を心がける.
◎重症低血糖予防のため,患者が低血糖症状や低血糖の危険因子を理解し,適切に対処できるような教育や指導も心がける.

【糖尿病ケトアシドーシス・高浸透圧高血糖状態】

DKA/HHSの診断法・初期治療は?

著者: 林聖子

ページ範囲:P.876 - P.880

Point
◎糖尿病患者で緊急に対応が必要な血糖異常として,糖尿病ケトアシドーシス(DKA)と高浸透圧高血糖状態(HHS)がある.
◎DKAは1型糖尿病やインスリン依存状態(2型糖尿病も含む)の患者,HHSはインスリン非依存状態の患者が主に発症する.
◎DKA/HHSともに,生理食塩水投与とインスリン持続注入での治療開始が推奨される.
◎急性期治療の後はDKA/HHSの原因を精査し,その後の糖尿病治療や患者教育についても検討する.

【口腔ケア】

歯周病は血糖コントロールに影響する?

著者: 小倉雅仁 ,   矢部大介

ページ範囲:P.882 - P.885

Point
◎糖尿病患者における歯周病の発症・進展のリスクは健常人に比べて高い.
◎歯周病の治療は血糖コントロールに寄与する.
◎さらなる高齢化を迎える本邦において,糖尿病患者における医科-歯科連携はより重要になる.

【病診連携・教育入院】

どのような患者をいつ紹介すべきか?

著者: 坂上太郎

ページ範囲:P.886 - P.889

Point
◎糖尿病専門医と非専門医の連携は,多くの地域や自治体においていわゆる“病診連携の会”を通して行われており,そこで作成された病診連携パスには専門医への紹介基準が記載されていることが多い.
◎病診連携の形はさまざまであるが,血糖コントロールを最も安全かつ効率良く行えるのが糖尿病教育入院である.
◎教育入院を受けた患者でも通院中断例が存在するため,継続的な受診の必要性を説明したり,電話や郵便物で受診を促したりすることが望ましい.

合併症 【予防は血糖コントロールだけで十分?】

糖尿病網膜症

著者: 三井理瑛

ページ範囲:P.890 - P.892

Point
◎糖尿病網膜症の発症・進展は適切な治療と定期的な眼科受診で予防可能である.
◎糖尿病網膜症の発症・進展には,適切な血糖コントロールだけでなく,糖尿病罹病期間,糖尿病腎症,血圧の管理が関与する.
◎糖尿病網膜症は単純網膜症,増殖前網膜症,増殖網膜症に分類される.増殖前網膜症まではほぼ無症状であるが,増殖網膜症の段階で硝子体出血や網膜剝離を生じると視力障害が生じる.
◎糖尿病網膜症のどの段階においても糖尿病黄斑症を生じる可能性があり,黄斑症を合併すると視力障害が出現し,病状の進行に伴い視力障害は進行する.

糖尿病性腎臓病

著者: 坂本昌也

ページ範囲:P.895 - P.897

Point
◎糖尿病性腎臓病(DKD)の予防には蛋白尿と糸球体濾過量(GFR)の確認が必要である.
◎血糖・血圧・脂質の包括的管理に加え,適宜評価を行う.
◎SGLT2阻害薬など新規の薬剤が,DKDの進展予防に有効な可能性がある.

糖尿病神経障害

著者: 今井健二郎

ページ範囲:P.898 - P.901

Point
◎糖尿病神経障害は糖尿病患者の代表的な慢性合併症の1つである.
◎血糖コントロールをすることで糖尿病神経障害の発症・進展が抑制される.
◎糖尿病以外に,脂質異常症,高血圧,喫煙も糖尿病神経障害のリスクファクターになる.
◎糖尿病神経障害を予防するためには,全般的な生活習慣の改善が求められる.

大血管症

著者: 財部大輔

ページ範囲:P.902 - P.906

Point
◎糖尿病患者における大血管症の発症リスクは非糖尿病患者の2〜4倍であり,無症状でも常にハイリスク患者として診療にあたることが重要である.
◎大血管症予防のためには糖尿病発症早期からの治療介入が望ましく,HbA1c 7.0%未満を目標とし,できるだけ低血糖や体重増加を起こさないようにする.
◎大血管症の既往のある患者には,SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が二次予防効果を発揮する可能性がある.
◎血糖コントロール以外にも,血圧・脂質管理および禁煙を含めた複合的介入が大血管症予防に重要である.

足病変

著者: 疋田香代 ,   岡本将英

ページ範囲:P.908 - P.912

Point
◎糖尿病患者は下肢の潰瘍,壊疽,感染症などのリスクが高い.
◎足病変の予防には血糖コントロールだけでなくフットケアが必要となる.
◎フットケアのゴールは,糖尿病患者がセルフケアを習得し,足病変なくQOLを維持することである.
◎チームで対応し,患者の動機づけ,セルフケア習得を目指す.

困難症例の治療

糖尿病×高血圧—血圧は低いほうがよい?

著者: 磯尾直之

ページ範囲:P.913 - P.915

Point
◎糖尿病と高血圧の合併症例においては,降圧目標は130/80mmHg未満である.
◎適切な降圧により,腎症や網膜症の発症進展が抑制され,脳血管障害や心疾患のリスクが低下する.
◎使用する降圧薬の第一選択はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)である.

糖尿病×脂質異常症—どこまでLDL-Cを下げる?

著者: 原眞純

ページ範囲:P.916 - P.919

Point
◎糖尿病患者の動脈硬化性疾患発症の予防には,血糖コントロールだけでは不十分であり,他の危険因子の管理も必要となる.
◎スタチンを中心としたLDLコレステロール(LDL-C)への介入は,糖尿病患者の動脈硬化性疾患予防のための有効な方法である.
◎糖尿病患者において,LDL-Cは,冠動脈疾患の一次予防群では120mg/dL未満,二次予防群では100mg/dLを目標とし,リスクの高い患者では,二次予防で70mg/dL未満を目標としてよい.
◎LDL-Cを低下させるだけでは動脈硬化性疾患の発症を完全に予防することはできず,他の脂質異常に対する介入についての研究が待たれる.

糖尿病×肥満—肥満の有無で診療方針が変わる?

著者: 柴久美子 ,   山田哲也

ページ範囲:P.921 - P.923

Point
◎肥満合併2型糖尿病患者では,体重増加をきたしにくい薬剤を選択する必要がある.
◎適応があればSGLT2阻害薬,GLP-1受容体作動薬の導入や高用量のメトホルミンの使用を積極的に行う.
◎糖尿病合併症だけでなく,肥満に伴う合併症の検索も進める.

糖尿病×高齢—安全な治療法は?

著者: 井花庸子

ページ範囲:P.924 - P.927

Point
◎サルコペニア,フレイル,認知症など,高齢糖尿病患者の病態的特徴を理解する.
◎患者のADL,経済状況,本人の希望,介護を行う家族の事情など,多様な背景を総合的に評価し,治療方針を検討する.
◎高齢糖尿病患者の血糖コントロール目標に従って,年齢,処方薬剤,併存疾患など個々の事情を踏まえ血糖管理目標値を決定する.
◎一部の薬剤(スルホニル尿素薬,メトホルミン,インスリン製剤など)を高齢者に対して使用する場合,メリット・デメリットを慎重に検討する.

糖尿病×がん—糖尿病だとがんになりやすい?

著者: 後藤温

ページ範囲:P.928 - P.931

Point
◎現在,日本人の糖尿病患者における死因第1位はがんである.
◎糖尿病患者では,健常者に比べてがん罹患リスク(相対危険度)が約1.2倍であることが報告されている.
◎糖尿病による相対危険度が高いがん種は,膵臓がん,肝臓がん,大腸がんである.
◎がんに罹患すると,糖尿病リスクが上昇することが報告されている.

糖尿病×骨粗鬆症—糖尿病では骨折しやすい?

著者: 會田梓

ページ範囲:P.932 - P.935

Point
◎糖尿病が骨折リスクを高める基礎疾患として認識されてきており,積極的な骨粗鬆症の評価が推奨される.
◎血糖降下薬であるチアゾリジン薬やカナグリフロジンを使用する際は骨粗鬆症・骨折リスクに対しても注意が必要とされる.
◎血糖コントロールの状況は骨折リスクに影響する.
◎糖尿病を有する場合でもビスホスホネート製剤の使用が推奨されている.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・13

しびれの臨床—触覚・痛覚の所見

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.773 - P.776

 感覚障害といっても,何種類もの感覚異常が存在します.感覚障害は体性感覚の障害で発症し,体性感覚は主に表在感覚(触覚・痛覚・圧覚・温度覚)と深部感覚(振動覚・関節位置覚・2点識別覚・皮膚表在覚・立体認知・2点識別覚など)があります.本稿では,表在感覚のなかでも日常調べることが多い触覚・痛覚について一緒に勉強していきましょう!
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年3月31日まで公開)。

ストレスと病気のやさしい内科学 診療の幅が広がる心療内科の小ワザ集・7【最終回】

体重が増えるのが怖い……(神経性やせ症のケース)

著者: 大武陽一

ページ範囲:P.942 - P.945

 本連載最終回となる今回は,摂食障害のうち神経性やせ症を取り上げます.

物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・12

BPSDへの対応はどうしたらよいですか?(1)老々介護の場合

著者: 重松一生

ページ範囲:P.946 - P.949

ポイント
介護状況を把握し,持続可能な対策を考えます.

母性内科の「め」 妊婦・授乳婦さんのケアと薬の使い方・11

急に腰が痛くなったんです

著者: 三島就子

ページ範囲:P.952 - P.957

症例
 31歳のFさんは第2子妊娠中で,現在妊娠28週です.引越しを控えており,日中は水分もほとんど摂らずに荷造りをしていました.夕食の準備をしようと台所に立ったとき,急に右腰のあたりが痛くなり,同時に気分も悪くなって吐いてしまいました.横になって休んでいても痛みが治まらないため,夫に支えられて歩いて救急外来を受診しました.
Fさん:「急に腰が痛くなったんです」

医師のためのビジネススキル・12

オペレーション—オペレーションを見直し無駄な在庫・作業を削減せよ!

著者: 胡暁華

ページ範囲:P.958 - P.960

事例
 ある日の午前中,患者さんを病院に紹介してから,四つ葉医師は悩んでいた.「クリニックにその患者さん用の胃ろう物品が切れていなければ,紹介せずに済んだのに……」.診療所に戻ってから,事務に欠品の理由をたずねたら,「○○さんの胃ろう物品は本人専用で,3カ月に1回しか使わないから,あまりたくさん仕入れていないし,今院内に300超の物品があり,なかには似ているものもあるので,使用頻度が少ない物品は誰も在庫をチェックしていない」と言われた.また先日,物品担当の事務員が有休をとったとき,めったに使わないピンセットの置き場所がわからず,休日に本人に連絡をとらなければならなかった.困ったことはそれだけではなく,注射用薬液や輸液の使用期限が切れて,昨年末にたくさん捨て,損金計上した記憶もまだ新しい.
 クリニックには物品を管理する専任の看護師はいなく,事務員たちが交代で3つの卸業者にfaxで発注すると,数日〜数週間後に納品され,物品棚に陳列されることになっている.よく使われる物品は目立つところに置いてあるため,在庫切れはあまりないが,使用頻度が低いものを置く場所や在庫数をしっかり決めていなかった.

目でみるトレーニング

問題910・911・912

著者: 岩崎靖 ,   田代将人 ,   北島信治

ページ範囲:P.961 - P.966

書評

—加藤士郎 編集—臨床力をアップする漢方—西洋医学と東洋医学のW専門医が指南!

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.811 - P.811

 この本の大きな特徴は,西洋医学と東洋医学ともに実績あるW専門医が執筆していることである.東洋医学を教わっていない医師には,陰陽五行説に拘り過ぎず,科学的かつわかりやすく専門に応じた手引き書が必要である.この点でW専門医が漢方処方のコツをまず有害事象の科学的機序の解説,近年解明されてきた五苓散のアクアポリンを介した作用機序と臨床応用など,また,フレイルや誤嚥性肺炎予防に補中益気湯,半夏厚朴湯といった未病対策から説明しているのは受け入れやすい.
 「漢方臨床総論」では,総合内科での有用性,高齢者のポリファーマシー対策とQOL改善,感染症での限界とともに西洋薬が効きにくい感冒後長引く咳に竹筎温胆湯などの有用性を教えている.また,一般に漢方が使われない救急医学でも,西洋医学では障害因子を抑制,東洋医学は防御反応を促進することから,漢方薬吸収動態を考慮した含有生薬数の少ない漢方薬の短期集中投与や注腸投与など現場体験に基づいた治療法が述べられ,臨床に役立つ.

—志水太郎,忽那賢志 編—病歴と診察で診断する感染症—System 1とSystem 2

著者: 青木眞

ページ範囲:P.894 - P.894

 診断プロセスの中で,System 1は直感的思考,System 2は分析的思考を指すが,感染症は短時間で病像が完結するものが多くSystem 1を応用できる症例が少なくない.本書は志水太郎,忽那賢志両先生による感染症診断プロセスのわかりやすい説明に続き,System 1,すなわち直感によるSnap Diagnosisが可能であった症例群と,System 2すなわち分析思考によって初めて診断可能となった症例群に大別して編集してある.ベテラン・カリスマ医師らによる著作であることも手伝い,大変刺激的・教育的でかつ読みやすいものとなっている.

—聖路加国際病院内科チーフレジデント 編—内科レジデントの鉄則—第3版

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.951 - P.951

 私にとって聖路加国際病院は憧れの病院である.駆け出しの内科医であった頃,聖路加国際病院『内科レジデントマニュアル』を購入し必死になって勉強した.日本最高レベルの愛の心に満ちた医療が行われているという印象をずっと抱いている.
 聖路加国際病院内科チーフレジデントの皆さんが,実践力のあるレジデントを育てるために編集した『内科レジデントの鉄則』は2006年に初版が出版された.6年ぶりとなる今回の改訂では,アドバンスドな内容や根拠となる参考文献をより充実させたという.

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目次

ページ範囲:P.778 - P.780

読者アンケート

ページ範囲:P.975 - P.975

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.976 - P.977

購読申し込み書

ページ範囲:P.978 - P.978

次号予告

ページ範囲:P.979 - P.979

奥付

ページ範囲:P.980 - P.980

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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