文献詳細
書評
—丸山一男 著—酸塩基平衡の考えかた—故きを・温ねて・Stewart フリーアクセス
著者: 大西勝也1
所属機関: 1大西内科ハートクリニック
ページ範囲:P.1243 - P.1243
文献概要
今回,『酸塩基平衡の考えかた』という書物に出会って,酸塩基平衡に関して,「正門」からのアプローチしか知らないんだということが分かった.著者の言葉を引用すると「通用門」からのアプローチを知っておくことも重要なのだと感じた.ここでいう「正門」は,学生時代に学んだHenderson-Hasselbalchの式に基づく,酸塩基平衡の考え方である.HCO3-とpCO2との関係からpHを求める,みなさんご存知の式である.過去の知識の整理がてら読み進めていくと,「通用門」にたどり着いた.「通用門」とは,Stewart法あるいはSID(strong ion difference)法と呼ばれる,電気的中性の性質を用いた酸塩基平衡の読み方・考え方である.pHの値そのものはHCO3-とpCO2との比で決まることは事実である.しかし,酸塩基平衡障害の原因や過程を考える場合,代謝性の障害について,一番最初の原因としてHCO3-とpCO2との比の変化だけでは説明がつかないときがある.そのような,「正門」を通ってもたどりつきにくい場合は,「通用門」が有効になってくる.HCO3-の変化は,pHを変化させる原因というより,pHの値を計算するための単なる指標であるという考え方である.つまり,HCO3-以外の別の物質を用いてもpHを計算できるという概念に基づいている.HCO3-が変化する原因として電解質の濃度変化が存在するという,酸塩基平衡の解釈に電気的中性を中心に置いた考え方である.イオンとして解離した状態を維持できるNa+,K+,Cl-のような強イオンと,CO2+H2Oなどに反応して形を変えるHCO3-のような弱い陰イオンを分けて,強イオンの差からHCO3-やpHを推測していく方法である.「正門」しか知らなかったので,論理的な記述は知識の整理になっただけではなく,日常臨床に明日からでも使える内容であると感じた.血液ガス検査は通常外来ではあまり行わないが,電解質はよく測定するため,この概念を知っておけば,救急だけではなく,通常の外来でも気づきが得られるものだと思う.
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