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雑誌目次

雑誌文献

medicina57巻6号

2020年05月発行

雑誌目次

特集 教えて! 健診/検診“ホントのところ”—エビデンスを知り,何を伝えるか

著者: 岡田唯男

ページ範囲:P.811 - P.811

 予防や早期発見は,多くの人の関心事である(医学的なのか,金銭的なのかはさておき).実際,「健診」「検診」「予防」という言葉と「学会」でクロス検索すると,20弱の学会が一瞬で見つかる.
 本特集では,健診/検診の定義,その有効性をどう判断するのかといった総論,特定の疾患を対象とした検診の法的・医学的根拠(存在すれば)を踏まえ,それらのスクリーニング行為を実施・推奨する意義を判断するための情報を提示する.また,異常を指摘された患者が来院した場合に,その異常が何を意味するのか(どのくらい偽陽性を含むのか),二次精査のメリット・デメリットがどの程度存在するのか,などについて,できる限り定量的な情報提供を行う.つまり本特集は,異常値への対応を中心とした“臨床検査異常値マニュアル”や“疾患治療アルゴリズム集”ではなく,「その健診/検診は本当に必要なのか?」という問いから始められるための情報源となることを目的とした.

対談

健診/検診が抱える問題

著者: 岡田唯男 ,   南郷栄秀

ページ範囲:P.812 - P.819

今回の特集にあたって,EBMおよび総合診療領域でご活躍の南郷栄秀先生と対談させていただくことになりました.ほとんどの臨床家は何らかの症状を有する人への対応が診療の中心だと思いますが,症状のない人へのスクリーニングについては少し別の考え方をする必要があります.また,時間の限られた臨床現場で「誰にどのような健診/検診を推奨するのか」という実践に落とし込む際の考え方や,健診/検診に絡む倫理的な問題も含め,本特集の項目でカバーしきれなかった部分を中心にお話を聞かせていただこうと思います.(2020年2月7日 岡田)

健診/検診の理解を深める

スクリーニング,健診/検診,人間ドック—正当化されるために必要な基準

著者: 宮﨑景

ページ範囲:P.820 - P.825

Point
◎スクリーニングはプロセスである.
◎スクリーニングの評価としてWilson基準やFrame & Carlsonの基準が有名であるが,最近では潜在的な利益と害の大きさのバランスを比較する基準が推奨されている.
◎スクリーニングの害として,スクリーニング検査による負担,偽陽性,陰性ラベリング効果,過剰診断とヒューマン・シールド,偶発的腫瘍について知っておくとよい.
◎健診には定期健康診断,特定健康診査,一般健康診査があり,一方代表的な検診である癌検診は対策型癌検診と任意型癌検診に分けられる.
◎人間ドックの多くの項目は,規定もなく任意に定められている.

なぜ正常範囲ではなく“基準範囲”なのか—“異常”は本当に異常なのか?

著者: 佐藤正一 ,   市原清志

ページ範囲:P.827 - P.831

Point
◎一定の“健常”条件を満たす個人を「基準個体」として,その検査値を「基準値」と呼ぶ.そして基準値分布の中央95%区間が「基準範囲」として設定される.
◎基準範囲は検査値を解釈するうえで“健常”の物差しとなるが,正常か異常かの明確な区別には利用できない.これは以下の理由による.
◎予防医学的な観点で設定される「臨床判断値」は,基準範囲の内側に設定される.
◎個人の検査値の変動幅は,集団から算出された基準範囲より狭いので,検査値が基準範囲内でも,個人としては異常と見なすべき場合がある.
◎基準範囲を超えた検査値の解釈は,生理的変動要因や関連検査値とのバランスを考慮して総合的に行う必要がある.

健診の判定基準とその根拠

著者: 林務

ページ範囲:P.833 - P.837

Point
◎健康診断にはそれぞれ根拠となる法令があって実施主体も規定されており,生涯にわたって受けることができるが,未就労などの理由により健康診断を受けていない者もいる.
◎指導区分は,健康診断によっては法令で規定されているが,されていない健康診断もあり,それらでは医療機関や担当医により決められている.
◎判断基準が法令で規定されている健康診断は特定健康診査だけである.その他の健康診断は,施設または担当医の判断で指導区分が決定される.
◎判断基準は,基準範囲や臨床判断値から設定されたものだけではなく,過去の経験などから設定されているものもあり,疫学的な根拠に乏しいことがある.
◎指導区分は,医療面接と診察所見,関連する複数の検査結果を勘案して決定するものであり,判断基準をそのまま適用して指導区分を決定してはいけない.

【コラム】「健診」のエビデンス

著者: 岡田唯男

ページ範囲:P.838 - P.839

 本特集の大半は,無症状者における特定の疾病や病態の拾い上げを目的とした「検診」(screening)についてであるが,ここでは「健診」について記述する.「健診」はgeneral health checks,annual/periodic health checkup,well adult/child visitなどの用語が当てられ,特定の疾病を想定せず,ざっくりと「健康か,そうでないか」の判断をするための問診・身体診察・検査が組み合わせられたものを意味し,「検診」とは区別される.
 ただし,厚生労働省の審議会にて「健診は主に将来の疾患のリスクを確認する検査群であり,検診は主に現在の疾患自体を確認する検査群である.健診において行われる検査項目の一部は,測定値等により疾患リスクの確認と疾患自体の確認の両方の性質を持つ」とされている通り,その検査項目が特定の疾病を想定しているものもあることから,「健診」には一部「検診」の要素も含まれている1,2)

健診でよく実施される項目

実施すべき問診と身体診察

著者: 松村真司

ページ範囲:P.840 - P.843

Point
◎わが国の健診には法定実施項目があり,そのなかでも問診では喫煙状況の聴取が,身体診察では体重・身長・BMIおよび血圧測定が重要である.
◎飲酒習慣,うつ病スクリーニング,家庭内暴力(子育て世代の女性),性行動カウンセリングは予防介入のエビデンスが強く,推奨度が高い項目である.
◎問診・身体診察においても,健診ではエビデンスを参照しつつ,患者・医療者の負担を考慮して行うことが重要である.

血算

著者: 西川真子 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.844 - P.847

Point
◎身体所見による貧血症状は信頼性が低く,貧血の診断には血算が必要である.
◎貧血の鑑別には平均赤血球容積(MCV)と網状赤血球数に着目する.
◎高度の血球増減,幼若異型細胞の出現,多系統の血球異常の場合は専門医に速やかに紹介する.

脂質

著者: 周東佑樹

ページ範囲:P.848 - P.853

Point
◎健診で血清脂質異常があった場合,リスク分類,管理目標値を踏まえて指導し,適切に二次検診を案内する.
◎著明な高LDL-C血症の場合は,家族性高コレステロール血症の可能性も説明する.
◎二次検診では続発性高脂血症も考え,スクリーニング検査を施行する.

血糖値

著者: 大久保佳昭

ページ範囲:P.854 - P.858

Point
◎健診で血糖値を検査する目的は,糖代謝異常すなわち糖尿病ならびに境界型糖尿病(耐糖能異常)を発見することである.
◎法的に定められている一般健康診断や特定健康診断の両方に,血糖検査は含まれている.
◎血糖検査には血糖値(空腹時血糖値または随時血糖値)とHbA1cがある.糖尿病の診断の観点から,可能であればどちらか一方のみではなく,両方を測定することが望ましい.

尿検査

著者: 三野大地 ,   上田剛士

ページ範囲:P.860 - P.866

Point
◎健康診断における血尿の頻度は男性5%前後,女性10〜15%ほどと頻度が高い.一方,蛋白尿の割合は3〜4%程度である.
◎40歳以下の血尿では糸球体性腎炎を,中高年の場合は膀胱癌の検索が重要となる.
◎40歳以上で糸球体性血尿でない場合は尿路上皮系腫瘍,特に膀胱癌の検索をリスクを評価して検査を選択する.
◎尿検査での蛋白尿は一過性のものが多く,まずは尿検査の再検査を行う.
◎持続性の蛋白尿は心血管死亡率や腎障害の進行に関わるため,腎機能正常でも無視できない.

肝酵素(AST,ALT),膵酵素(アミラーゼ,リパーゼ)

著者: 森英毅

ページ範囲:P.867 - P.870

Point
◎肝酵素(AST,ALT),膵酵素(アミラーゼ,リパーゼ)の測定は,健康診断や人間ドックなどの健診/検診で数多く実施されている.
◎肝酵素や膵酵素によるスクリーニング(無症状の人に検査を行うこと)の効果を示す明確な根拠は,現時点では存在しない.
◎スクリーニング前の情報提供に加え,異常値が出た場合には具体的な数字を挙げながら,その解釈や追加検査の実施の意義について被検者と十分に話し合うことが重要である.

腫瘍マーカー—(CEA,CA125,CA19-9,AFP,PSA)

著者: 末廣寛

ページ範囲:P.871 - P.874

Point
◎早期癌では,ほとんどの腫瘍マーカーは血中に増加しない.腫瘍マーカーが高度増加であれば早期癌よりも進行癌の存在を疑う.
◎腫瘍マーカー値に影響を与える因子(喫煙,加齢,月経周期など)の有無を確認したうえで,腫瘍マーカー値を解釈する.
◎健診で無症状の人々に対して腫瘍マーカーによる癌のスクリーニングを行うことは,一般的には推奨されない.

血清反応その他—(RF,抗CCP抗体,抗核抗体,CRP,ESR)

著者: 奥村信人 ,   萩野昇

ページ範囲:P.876 - P.881

Point
◎リウマトイド因子(RF)や抗シトルリン化ペプチド(CCP)抗体,抗核抗体のみにより膠原病を診断・除外することは困難である.
◎RF陽性の無症候者には関節リウマチの発症予防として,必要に応じて禁煙や口腔ケア,減量を指導する.
◎上記に加えて,関節リウマチの初期症状を患者に説明し,出現時には3カ月以内にリウマチ科医を受診するよう伝える.

甲状腺検査—(甲状腺機能,甲状腺エコー)

著者: 吉村弘

ページ範囲:P.882 - P.886

Point
◎エコーは副作用や侵襲のない非常に安全な検査であり,スクリーニング検査として有用である.
◎超低リスクの乳頭癌で患者が非手術・経過観察を希望する場合には,適切な診療体制の下で行うことが推奨されている.
◎潜在性甲状腺機能低下症の37%は数年以内に機能正常に戻り,約2〜5%が顕性の甲状腺機能低下症に移行する.
◎甲状腺機能低下症の原因疾患はほとんどが橋本病であり,診断には抗サイログロブリン抗体(TgAb)測定が有用である.

心電図検査

著者: 近藤秀和 ,   髙橋尚彦

ページ範囲:P.887 - P.893

Point
◎わが国では労働安全衛生法によって,健診による心電図スクリーニングが義務づけられている.
◎心電図にて異常所見を認めた際は,陽性的中率などを鑑みて適切に心エコー図検査などの二次検査を勧める必要がある.
◎正常亜型と考えられてきた心電図所見が,危険な不整脈と関連があることが明らかになってきている.

胸部X線検査

著者: 鵜木友都 ,   吉野俊平

ページ範囲:P.894 - P.898

Point
◎健康診断における胸部X線検査の目的は肺結核のスクリーニングであったが,肺癌の早期発見の重要性が増してきている.
◎労働安全衛生法は労働者の健康診断について定めており,胸部X線検査は長らく必須の検査として行われてきたが,2010年度から条件を満たせば省略することができるようになった.
◎肺癌や肺結核以外で,胸部X線検査によって見つかる異常所見については,経過観察可能なものが多い.

腹部エコー

著者: 小川眞広

ページ範囲:P.900 - P.907

Point
◎任意型検診として行われる腹部エコーは,被検者(依頼者)との契約によって検査対象が決まるため,一概に標的臓器を規定できない.
◎健康診断で行われるエコーでは癌検診と異なり,癌以外の,生活習慣病のリスクにつながる慢性疾患の拾い上げも重要な役割となっている.
◎近年,脂肪肝のリスクが見直され,早期からの適切な治療介入が望まれている.
◎特に喫煙歴のある男性では,エコーによる腹部大動脈瘤のスクリーニングが推奨される.
◎3学会合同で発表した『腹部超音波検診判定マニュアル』の導入により,腹部エコーによる膵癌発見率は上昇したが,エコーによるスクリーニングで罹患率や死亡率が改善したというエビデンスは現時点で存在しない.

特定の疾病を見つけるための検診

メタボリックシンドローム健診—特定健康診査・特定保健指導

著者: 齋藤さやか

ページ範囲:P.908 - P.911

Point
◎メタボリックシンドローム健診(メタボ健診)は,糖尿病や心血管疾患のハイリスク群を見つけ出し,疾患の発症を予防することを目的としている.
◎メタボ健診におけるメタボリックシンドロームの基準および特定保健指導の基準はわが国独自のもので,世界的に統一されたメタボリックシンドロームの定義はない.
◎腹囲,身長/体重,血圧,血糖,脂質の値を基に,ハイリスクの判断をする.
◎ハイリスクと判断された場合,カウンセリングなどの支援を受ける.
◎メタボ健診が有効であるというエビデンスは,今のところ存在しない.

COPD検診—(質問票,スパイロメトリー)

著者: 向原圭

ページ範囲:P.912 - P.915

Point
◎慢性閉塞性肺疾患(COPD)検診の利益と害に関する科学的根拠は不十分である.
◎機会費用について考える必要がある.
◎わが国では特定健診,肺癌検診にCOPD検診を導入する取り組みが行われている.
◎利益相反に注意する.
◎一般住民・患者と意思決定を共有する.

CKD検診—(尿検査,血清クレアチニン検査)

著者: 髙橋真由美 ,   臼井丈一

ページ範囲:P.916 - P.919

Point
◎慢性腎臓病(CKD)は心血管イベントや末期腎不全のリスク因子である.
◎一般集団におけるCKD検診の有用性のエビデンスは確立していない.
◎一方で,高血圧や糖尿病を有する患者集団においては,費用対効果の観点からも有用である.
◎CKDを早期発見する場合には,尿検査,血清クレアチニン検査の両者による評価が望ましい.

認知症検診—(認知機能検査)

著者: 重松一生

ページ範囲:P.920 - P.925

Point
◎認知症検診は,認知症の早期発見に有用である.
◎高齢者,特に独居・老々介護ではその意義が高まる.
◎認知機能検査では“内容”を見ること,経過を観察することが大切である.

結核検診—(胸部X線検査,IGRA)

著者: 永井英明

ページ範囲:P.927 - P.931

Point
◎日本は結核の中蔓延国であり,結核健診は必要である.しかし,結核患者の減少とともに,健診による結核患者発見率は低下している.
◎胸部X線所見では,終末細気管支から肺胞道周辺に形成される結核性病変を反映した散布性粒状影が特徴的である.
◎インターフェロンγ遊離試験(IGRA)の陽性的中率は結核の有病率の高い集団ほど高率となるが,有病率の低い集団では陽性的中率は低下し,偽陽性が増える.

肝炎ウイルス検診—(HBs抗原検査,HCV抗体検査)

著者: 井上貴子 ,   田中靖人

ページ範囲:P.932 - P.936

Point
◎肝炎ウイルス(B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス)感染を早期に発見することは,肝癌の発症抑止につながる.
◎健康増進法での肝炎ウイルス検査対象者は,基本的に一度しか肝炎ウイルス検査を受けることができない.
◎肝炎ウイルス検査陽性の場合,血液検査と超音波検査を中心とした精密検査を受診する.

HIV検診

著者: 菅長麗依

ページ範囲:P.937 - P.940

Point
◎ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のスクリーニング検査が陽性であっても,HIV感染確定ではないことに注意する(必ず確認検査を行う).
◎早期発見・早期治療すれば,HIV感染者の予後は非感染者と変わらない.
◎プライマリ・ケア医は患者のHIVリスクを見極め,ハードルを下げてHIV検査の適応を考えるべきである.

梅毒検診—(RPR法,TPHA法)

著者: 菅長麗依

ページ範囲:P.942 - P.946

Point
◎梅毒は,近年届出数が急増している性感染症の1つである.
◎梅毒の血清検査は,病歴と身体所見(感染リスク,梅毒の既往,症状・所見の有無)を踏まえて判断する(検査結果だけで診断はできない).
◎非トレポネーマ抗原検査またはトレポネーマ抗原検査のいずれかが陽性であれば,梅毒感染のリスク評価を行ったうえで,感染の可能性の有無を判定する.

循環器検診—(冠動脈CT,ABI,経胸壁心エコー)

著者: 北井豪 ,   三好悠太郎

ページ範囲:P.947 - P.954

Point
◎心疾患・動脈硬化性疾患は,冠動脈CT,足関節上腕血圧比(ABI)検査,心エコー検査などにより早期発見・早期介入できる可能性がある.
◎CTによる冠動脈石灰化スコアは,特に中等度リスクの患者において虚血性心疾患によるイベントと強い相関を有し,リスク層別化の精度を上げるが,アウトカムの改善につながるエビデンスには乏しい.
◎ABI検査は広くスクリーニングに用いる根拠には乏しいが,特に有症状患者では全身の動脈硬化性疾患を拾い上げられる可能性がある.
◎心エコー検査は心臓弁膜症の診断に必要不可欠な検査であるが,ルーチンではなく一次スクリーニングで異常が認められた場合に考慮するべきである.

骨粗鬆症検診—(DXA,QUS,FRAX®

著者: 中藤真一

ページ範囲:P.955 - P.959

Point
◎閉経後女性の骨粗鬆症検査を受けるきっかけは「検診」が最も多い.
◎骨粗鬆症検診の問題点として,低い実施率と受診率,骨密度中心の判定,対象年齢,検診間隔などがある.
◎米国予防医学専門委員会(USPSTF)では,65歳以上の女性や64歳以下の閉経後女性で危険因子のある人に骨粗鬆症検診を勧めている.
◎骨粗鬆症の危険因子には両親の大腿骨近位部骨折歴,喫煙,過度の飲酒,低体重などがある.
◎骨粗鬆症の危険因子を含んだ評価ツールとして,FRAX®などがある.

脳ドック—(頭部MRI/MRA,頸動脈エコー)

著者: 門岡慶介 ,   田中美千裕

ページ範囲:P.960 - P.963

Point
◎脳ドックは日本で生まれた日本独自のシステムで,自由診療である.
◎中・高齢者や家族歴・生活習慣病などの危険因子を有するハイリスク群に勧められる.
◎異常が見つかった際は,今後の方針決定のために専門医受診が望ましい.
◎説明は対面で画像を見ながら質問を受ける.脳動脈瘤の破裂リスクだけでなく,患者背景や基礎疾患も念頭に置いた包括的な情報を丁寧に説明し,患者の精神的な面に配慮した説明を行うよう留意する.

代表的な癌検診

大腸癌検診—(便潜血検査,大腸内視鏡検査)

著者: 野崎良一

ページ範囲:P.964 - P.970

Point
◎大腸癌検診は有効性(大腸癌死亡リスクの減少効果)が既に証明された癌検診である.
◎わが国の対策型検診では,年1回の便潜血検査免疫2日法が用いられている.
◎米国においては,10年に1回の全大腸内視鏡検査(TCS)が大腸癌検診の主流である.
◎日本と米国の大腸癌死亡率の差はTCS受診率の差によるものと考えられる(10年間の受診率:日本約18% vs. 米国60%).
◎大腸癌検診においては,検診受診率の向上(国の目標は50%以上)が最も重要である.

胃癌検診—(胃X線検診,胃内視鏡検診,ピロリ菌検診,ABC検診)

著者: 前北隆雄 ,   井口幹崇 ,   北野雅之

ページ範囲:P.971 - P.976

Point
◎胃内視鏡検診が対策型検診・任意型検診に推奨されることとなった.
◎2020年度より「胃がん検診専門技師」による読影補助認定制度が設けられた.
◎ABC検診の検診導入には,血液検査の判定基準の設定など,さらなる検討が必要である.

前立腺癌検診—(PSA測定)

著者: 武内巧

ページ範囲:P.979 - P.982

Point
◎大規模無作為化前向き臨床試験において,前立腺特異抗原(PSA)測定群はPSA未測定群に比べて25〜32%程度,前立腺癌死亡が減少する.
◎組織化されたPSA検診の意義については,主に検診外でのPSA曝露率の高さの観点から議論の余地がある.
◎本邦において,PSA検診によって前立腺癌が診断される割合は約1%である.

肺癌検診—(胸部X線検査,喀痰細胞診,低線量CT)

著者: 関根康雄

ページ範囲:P.983 - P.987

Point
◎胸部X線検査や喀痰細胞診により肺癌死亡率が低下したというエビデンスは認められていない.
◎低線量CTによる肺癌検診では,明らかな肺癌発見率の上昇を認めているが,同時に偽陽性率も高まっている.
◎胸部X線での肺癌検診には限界があることを知り,高リスク患者にはCTスクリーニングを勧めるべきである.

乳癌検診—(マンモグラフィ,超音波)

著者: 島田友幸

ページ範囲:P.988 - P.992

Point
◎マンモグラフィ検診は乳癌死亡率を20%減少させる(利益).
◎それは,およそ1,000〜2,500人の女性が10年間検診を受けると,1人の乳癌死を減らすことを意味する.
◎一方,偽陽性,偽陰性,過剰診断,被曝,費用という不利益が生じるため,利益・不利益バランスを考慮した受診者への説明が重要である.

特集の理解を深めるための30題

問題/解答

ページ範囲:P.994 - P.998

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・25

眼の位置がおかしい!?—眼球運動障害の診方②(動眼神経麻痺)

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.803 - P.806

 前回は外転神経麻痺について勉強しました.外眼筋を支配する神経では,上斜筋・外直筋以外を支配する動眼神経が大きな役割を果たしています.動眼神経は外眼筋だけでなく,上眼瞼の動きや瞳孔の調整などにも働きます.一見して症状が派手で障害がわかりやすいイメージがあり,動眼神経麻痺を見たら脳動脈瘤を否定せよ!と記憶している方も多い有名な所見も呈します.今回は動眼神経麻痺について勉強していきましょう.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年4月30日まで公開)。

ケースレポートを書こう! acceptされるために必要なこと・2

ケースレポートにできる症例・できない症例って?(後編)

著者: 見坂恒明

ページ範囲:P.999 - P.1005

 前回,ケースレポートになりうる症例について6つの特徴を紹介し,①と②について解説した.引き続き今回は③〜⑥について,“ダメなケースレポート”の例を通じて,観点・アイディアにより症例がいかにケースレポートになりうるかを解説する.

フレーズにピンときたら,このパターン! 鑑別診断に使えるカード・5

「HBV,HCV陰性の肝硬変」「環境要因の少ない低体温症」「黒色胸水」

著者: 長野広之

ページ範囲:P.1006 - P.1013

総論
 肝硬変の多くはB型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV)が関与している.2008年の日本のデータは図11)の通りであり,HBVとHCVで約75%を占めている.肝硬変の際のHBVのcheckはHBs抗原とHBc抗体で行う.肝硬変が進行して増殖が衰えるとHBs抗原は低値になる場合があるからである.その他にはPSCや先天性胆道閉鎖症,沈着病(Wilson病,ヘモクロマトーシス,糖原病など)が含まれている.では肝硬変でHBV,HCV陰性の際にどういったことを考えるか見ていこう.

物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・24

認知症の“受容”をどう促したらよいですか?

著者: 重松一生

ページ範囲:P.1014 - P.1019

ポイント
認知症の“受容”は本人よりむしろ介護者にとって難しい課題ですが,認知症の「予後」を大きく左右します.

目でみるトレーニング

問題946・947・948

著者: 岩崎靖 ,   大浦誠 ,   小杉俊介

ページ範囲:P.1021 - P.1026

書評

—平島 修,徳田安春,山中克郎 著—こんなときオスラー—『平静の心』を求めて

著者: 中西重清

ページ範囲:P.832 - P.832

 私が書評を書くにふさわしい人間かどうかわからないが,開業医の立場から解説する.ウィリアム・オスラーの『平静の心-オスラー博士講演集(Aequanimitas)』(医学書院,2003)は名著であるが,難解である.精読したいとは思うが,数ページで挫折してしまうのは私だけではないかもしれない.3人のオスラリアン(オスラー伝道医師)が,わかりやすく実例を交えて解説し,臨床現場で平易に活用できる一冊としたのが,『こんなときオスラー—『平静の心』を求めて』である.
 8つの大きな見出し(「臨床上の葛藤-医師と患者のはざまで」「日々の勉学の中で」「教師と生徒」「進むべき道への迷い」「理想の医師像を求めて」「人生と平和と愛と」「付録」「オスラーの生涯と言葉」)で構成され,いつでも,どこからでも,気になったところから読める.臨床に悩んだときに探しやすい構図になっている.この厚さなら軽いので寝転んでも読めるし,急患が来たら,読み止めることもできる.もうあなたは,『平静の心』を仮眠用の枕にしなくてもよいのである.なんて斬新な試みだろう.

—濱 敏弘 監修 青山 剛,東 加奈子,池末裕明,内田まやこ,佐藤淳也,高田慎也 編—がん化学療法レジメン管理マニュアル 第3版

著者: 勝俣範之

ページ範囲:P.978 - P.978

 がん薬物療法剤は,化学療法剤,ホルモン療法剤,分子標的薬と合わせて,現在では150種類を超える数となった.さらに,これらの薬剤は単剤で投与されるのではなく,複数の薬剤を組み合わせて,「レジメン」として投与される.
 がん薬物療法専門医が不足している日本では,まだまだ,がん薬物療法の標準治療がきちんと行われているとは言い難い状況にある.「エビデンスに基づく標準治療の実践」は日本における長年の課題である.がん薬物療法のレジメンとその対応マニュアルは,病院ごとに作成・管理されるものであり,各病院のノウハウが詰まったものである.優れたレジメンマニュアルは,専門医の多い病院では,作成するのはたやすいことであったと思われるが,専門医がいない,少ない病院では,きちんとしたレジメンマニュアルを作るのは困難であった.

—ストラクチャークラブ・ジャパン 監修 有田武史,原 英彦,林田健太郎,赤木禎治,白井伸一,細川 忍,森野禎浩 編—SHDインターベンションコンプリートガイド

著者: 伊苅裕二

ページ範囲:P.1027 - P.1027

 構造的心疾患(structural heart disease:SHD)に対するカテーテル治療の必要性は,飛躍的に広まっています.
 カテーテル治療は1970年代に冠動脈形成術が開始され,現在の第2世代薬剤溶出性ステントを用いた冠動脈インターベンション(PCI)において,冠動脈バイパス術と並ぶ標準的治療法となりました.冠動脈領域のみならず,末梢血管領域,SHD領域にも,手術と並ぶカテーテル治療が出現し,一部とって代わる時代になりつつあるのは,低侵襲を望む患者さんの希望の現れでもあります.現在では,冠動脈領域,末梢血管領域,SHD領域はカテーテル治療の3本柱となり,広く行われる体制と変わってきています.

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「ERアップデート2020 in 沖縄」開催のご案内

ページ範囲:P.825 - P.825

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目次

ページ範囲:P.808 - P.810

読者アンケート

ページ範囲:P.1035 - P.1035

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1036 - P.1037

購読申し込み書

ページ範囲:P.1038 - P.1038

次号予告

ページ範囲:P.1039 - P.1039

奥付

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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