icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina57巻9号

2020年08月発行

雑誌目次

特集 患者満足度の高い便秘診療

著者: 中島淳

ページ範囲:P.1409 - P.1409

 超高齢社会を背景に,便秘患者が著増しているのは周知の事実である.また,内科のみならずどの診療科でも便秘は問題となるが,その診断や治療は医学部はもとより卒後教育でもほとんど学ぶ機会がなく,ただ下剤を処方するだけのきわめて質の低い治療であった.特に,刺激性下剤の適正使用の逸脱は,目を覆うばかりの現状である.
 これは長らくわが国では便秘の治療薬があまりなかったことによるが,近年新薬が続々と登場して先進国並みになり,治療薬の選択肢が増えたという点では改善したと言ってよいだろう.しかし,多種多様な新薬をどう使い分けるか,また便秘の重症度や病型をどう診断するのかなど,まだまだ課題は多い.

遠隔対談

注目される実臨床での慢性便秘診療

著者: 中島淳 ,   尾髙健夫

ページ範囲:P.1410 - P.1415

本特集では慢性便秘の“今”について広く網羅していますが,それでも便秘診療は奥が深く,多分に経験に負うところが大きいのが現状ではないかと考えます.しかし近年ではエビデンスレベルの高い新規治療薬が多数登場し,どうすればよいか迷うことも多いのではないでしょうか.そこで本日は長年にわたり機能性消化管疾患,特に便秘診療に取り組んでおられる尾高健夫先生に,実臨床での慢性便秘の診かたについて,お聞きしようと思います.(中島)
※新型コロナウイルス対策による自粛要請を受け,本対談はWeb会議サービスZoom®により収録しました.(『medicina』編集室)

なぜ便秘は生命予後が悪いか〜疫学とそのメカニズムに迫る

なぜ便秘は治療しなければならないか

著者: 中島淳 ,   冬木晶子 ,   大久保秀則

ページ範囲:P.1416 - P.1421

Point
◎便秘患者のQOL改善には,①腹部症状,②排便回数の減少,③排便困難症状の改善が重要である.
◎機能性消化管疾患のなかでも便秘は予後が悪く,特に心血管イベントの発症率が高いことが国内外から多く報告されている.
◎高齢者において,便秘は栄養障害とそれによるサルコペニア,さらにはフレイルのリスク因子と考えられている.
◎糖尿病や慢性腎臓病,透析患者,Parkinson病,強皮症,橋本病,各種精神疾患など多くの疾患に症候性便秘が存在し,患者のQOLに大きく影響している.

循環器疾患における便秘治療の重要性

著者: 石山裕介 ,   苅尾七臣

ページ範囲:P.1422 - P.1427

Point
◎便秘は心血管イベントのリスクである.
◎便秘や排便時のいきみは血圧を上昇させ,心不全や急性冠症候群など循環器疾患発症のトリガーとなる.
◎循環器疾患の治療としての安静や利尿薬などの薬剤が便秘を誘発する.
◎循環器疾患患者の便秘症にはいきませない排便管理が重要で,緩下剤を中心とした治療が望ましい.

腎疾患における便秘治療の重要性

著者: 菊地晃一 ,   阿部高明

ページ範囲:P.1429 - P.1432

Point
◎慢性腎臓病と腸内環境が密接に関係する「腸腎連関」が明らかになっている.
◎便秘症は慢性腎臓病(CKD)の発症や進行と密接に関係している.
◎腸腎連関のキーワードの1つが尿毒素であり,腸内細菌叢由来の尿毒素の蓄積がさらに腎機能を悪化させる悪循環に陥る.
◎便秘による大腸内の内容物滞留時間の延長は腸内細菌由来尿毒素産生の亢進や吸収増加をもたらし,CKDの病態を悪化させうる.
◎適切な便通管理はCKDの治療選択肢の1つになりうる.

便秘を診断する

便秘症の病態

著者: 眞部紀明 ,   春間賢

ページ範囲:P.1434 - P.1437

Point
◎正常排便には大腸運動と便排出機能が重要である.
◎便秘はその病態から大腸通過正常型,大腸通過遅延型,便排出障害型の3タイプに分類される.
◎大腸通過遅延型における大腸の通過時間の遅延は,主に高振幅伝播性収縮(HAPC)の頻度減少あるいは消失に起因すると考えられている.
◎腹筋・骨盤底筋群の筋力低下,肛門括約筋の機能不全,恥骨直腸筋の協調運動障害,直腸知覚低下が起こると排便メカニズムが障害され,便排出障害型の便秘を引き起こす.
◎便排出障害型の60%程度に二次性に大腸通過遅延型が合併する.

便秘の病型分類・外来での鑑別法と重症度評価

著者: 味村俊樹 ,   本間祐子 ,   堀江久永

ページ範囲:P.1438 - P.1446

Point
◎便秘は,症状によって排便回数減少型と排便困難型に分類される.
◎便秘は,病態によって大腸通過正常型便秘症,大腸通過遅延型便秘症,便排出障害に分類される.
◎排便回数が3回未満/週で硬便の場合は排便回数減少型,特に大腸通過遅延型便秘症である可能性が高い.
◎食事摂取量,特に食物繊維の摂取量が少なくて排便回数が少ない場合は,大腸通過正常型である可能性が高い.
◎重症度評価として,症状はConstipation Scoring System(CSS)を,便秘特異的QOLは日本語版Patient Assessment of Constipation Quality of Life Questionnaire(JPAC-QOL)を用いる.

便秘を治療する

患者満足度の高い便秘治療はどうすべきか

著者: 中島淳 ,   大久保秀則

ページ範囲:P.1448 - P.1452

Point
◎便秘治療に対する患者満足度は低く,処方継続率も低い.
◎便秘診療では治療のゴール設定と,それに向けた努力が必要である.
◎処方薬の調整により便性状の正常化をめざす.

わが国の保険診療における便秘治療のアルゴリズム

著者: 中島淳

ページ範囲:P.1454 - P.1458

Point
◎わが国の保険診療では,便秘の初療において酸化マグネシウム(Mg)など旧来(既存)の治療薬の使用が勧奨されている.
◎刺激性下剤は依存症のリスクがあるため,必ずレスキュー薬として頓用で処方し,治療の基本は非刺激性下剤を用いる.刺激性下剤の連用は厳に慎まなければならない.
◎初療では排便回数の改善ではなく,便性状の正常化を目標として便秘治療薬の投与量を調整していく.
◎効果が不十分な場合は新規の便秘治療薬への変更あるいは併用を検討し,短期間(数日〜1週間程度)で改善がみられなければ,別の新薬に切り替える.
◎治療抵抗性の場合は専門施設へ紹介する.

便秘患者への食事指導はどうすべきか

著者: 新妻京子 ,   松島誠 ,   黒水丈次

ページ範囲:P.1459 - P.1465

Point
◎便秘の食事指導は患者の年齢や生活習慣などにより個々に対応が必要である.
◎野菜の摂取量ではなく,食物繊維の摂取量が排便改善には重要である.
◎適切な水分摂取により排便コントロールは可能である.
◎発酵食品は毎日少しずつ継続して摂取することが必要である.

【薬物治療】

酸化マグネシウムおよび刺激性下剤の使い方と注意点

著者: 富田寿彦 ,   三輪洋人

ページ範囲:P.1466 - P.1470

Point
◎酸化マグネシウム(Mg)は安価で用量調節がしやすく,慢性便秘症の第一選択薬である.
◎酸化Mgを使用している患者では,腎機能が正常な場合や無症状でも,高Mg血症をきたしていることがある.
◎酸化Mgを長期投与する際には,血清Mg値のモニタリングが重要である.
◎刺激性下剤は他剤で効果が不十分な場合に投与を考慮し,あくまでもレスキュー的に使用する.
◎大腸(偽)メラノーシスは刺激性下剤の長期間連用の指標である.

分泌型下剤の使い方と注意点—ルビプロストン,リナクロチド

著者: 秋穂裕唯

ページ範囲:P.1472 - P.1476

Point
◎上皮機能変容薬は小腸や腸粘膜上皮に作用し,腸管内の水分分泌を増加させて排便を促進する.
◎電解質異常をきたしにくく,併用禁忌薬はない.
◎『慢性便秘症診療ガイドライン2017』において使用が推奨されている(推奨度1,エビデンスレベルA).
◎ルビプロストン(アミティーザ®)は若年女性以外,リナクロチド(リンゼス®)は下痢を避けたい患者以外に使用する.
◎副作用としてルビプロストンは下痢と悪心,リナクロチドは下痢の頻度が高く,対策として減量または少量より投与を開始する.

新規浸透圧性下剤の使い方と注意点—ラクツロース,ポリエチレングリコール

著者: 水上健

ページ範囲:P.1478 - P.1484

Point
◎ラクツロースやポリエチレングリコール(PEG)といった糖類下剤は,酸化マグネシウムなどの塩類下剤と同じ浸透圧性下剤である.
◎ラクツロースはプレバイオティクスであり,分解物の有機酸に腸管運動促進作用がある.
◎PEGは増粘作用をもち便の形状とともに滑りを改善し,乳幼児便秘や排出障害に高い効果がある.
◎ラクツロースとPEGは,合併症による投与制限や薬物相互作用が少ない.
◎糖類下剤の薬価は塩類下剤の約10倍であり,必要性と患者のモチベーションを考慮する.

胆汁酸トランスポーター阻害薬の使い方と注意点—エロビキシバット

著者: 尾髙健夫

ページ範囲:P.1485 - P.1490

Point
◎エロビキシバットは終末回腸の胆汁酸トランスポーターを阻害して大腸への胆汁酸流入量を増加させ,大腸の排便機能を賦活する.
◎エロビキシバットの作用機序には,大腸の水分分泌増加作用と蠕動運動促進作用の2つがある.
◎エロビキシバットは慢性便秘症患者の自発排便回数を増加させ,便形状を適切な軟らかさに改善し,内服後に速やかな排便発現を起こす.
◎エロビキシバット内服により,慢性便秘症患者のQOLが改善される.

末梢型オピオイド受容体拮抗薬の使い方—ナルデメジンの緩和医療における位置づけ

著者: 結束貴臣 ,   吉原努 ,   岩城慶大

ページ範囲:P.1491 - P.1496

Point
◎緩和期の便秘では,オピオイド誘発性とそれ以外の原因に注意する.
◎末梢型オピオイド受容体拮抗薬(ナルデメジン)は,オピオイド誘発性便秘の治療に有用である.
◎ナルデメジンは非がん患者,高齢者,中等度腎機能障害患者に対しても有用である.
◎弱オピオイド(トラマール®,ワントラム®,トラムセット®)でもオピオイド誘発性便秘は起こる.

便秘症に対する漢方薬の使い方

著者: 安斎圭一

ページ範囲:P.1497 - P.1500

Point
◎便秘治療に保険適用のある漢方エキス剤は非常に有効であるが,種類が多く,薬剤の選択が重要である.
◎大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう):大黄(だいおう)と甘草(かんぞう)の2種の生薬で構成され,瀉下剤の基本.
◎麻子仁丸(ましにんがん):大黄に硬い便を軟化する麻子仁(ましにん)と杏仁(きょうにん)が加わり,コロコロの兎糞状便が多い高齢者の便秘に有効.幅広い症例で使用可能.
◎桃核承気湯(とうかくじょうきとう):漢方薬エキス剤で最も瀉下作用が強い.のぼせ,頭痛,肩こり,イライラなどの症状がある場合に有効.
◎桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう):腸管の緊張を改善し腹痛を治療する桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)に大黄を加えたもの.痙攣性便秘に有効で,刺激性下剤が腹痛で服用できないときに効果的.
◎大建中湯(だいけんちゅうとう):大黄は含まず,腸管ガスの貯留(腹部膨満)と腹部の冷えを認める弛緩性便秘に有効.

浣腸・坐薬の使い方と注意点

著者: 佐々木巌 ,   佐々木みのり ,   増田芳夫

ページ範囲:P.1501 - P.1507

Point
◎浣腸・坐薬を使用する前には必ず直腸指診を行い,悪性腫瘍などの除外と直腸・肛門の形態の把握を行う.
◎便栓塞で肛門を通らないほど大きな便が直腸にある場合は,先に摘便をしてから浣腸する.
◎浣腸・坐薬の日常使用は,直腸の残便をもって適応とする.毎日排便しているかどうかは関係ない.
◎浣腸には穿孔,溶血などの重篤な合併症の報告があり,注意が必要である.
◎浣腸・坐薬を挿入する際に,強い操作,力を入れる操作はない.力を入れなければいけないとき,抵抗を感じるときは何かがおかしいと考える.

さまざまなケースへの対応

救急外来を受診したケース

著者: 小林貴 ,   竹内一郎

ページ範囲:P.1508 - P.1513

Point
◎便秘での救急外来受診者は増えており,一人当たりにかかる医療費も増加傾向にある.
◎救急外来を受診する便秘では,器質的な閉塞(obstruction)を見逃さないようにする.
◎obstructionを伴う危険な便秘の特徴を把握することが重要である.

便秘型IBSの診断・治療

著者: 田中由佳里

ページ範囲:P.1515 - P.1518

Point
◎一般的な慢性便秘症と便秘型の過敏性腸症候群(IBS)の違いは「腹痛の有無」である.
◎便秘型IBSでは消化管運動が亢進している場合があり,刺激性下剤を使用すると腹痛が生じたり,悪化してしまうことがある.
◎治療は粘膜上皮機能変容薬を軸に組み立てることが多い.

妊婦・授乳婦の便秘治療

著者: 北川博之

ページ範囲:P.1519 - P.1522

Point
◎妊婦・授乳婦はホルモン環境の変化,会陰創部痛などの影響により便秘になりやすい.
◎妊娠・産褥・授乳期においても,便秘予防の基本は食生活と排便リズムを確立することである.
◎妊婦,授乳婦の便秘薬は,浸透圧性下剤が第一選択薬である.
◎刺激性下剤を必要とする症例では,児への影響が少ないピコスルファートナトリウム(ラキソベロン®)が適している.

小児の便秘の特徴と治療法

著者: 清水俊明

ページ範囲:P.1523 - P.1527

Point
◎基本は生活習慣の改善,食事療法および薬物療法であり,まずは患児および家族に対し,便秘の原因や増悪因子,問題点を十分に説明する.
◎薬物療法は便秘の原因・程度,年齢などを考慮しながら適切な薬剤を選択し,症状の改善程度から適宜,種類や量の変更を行っていくことが大切である.
◎まずは直腸内から便塊をなくし,排便反射や便意などがスムースに生じる伸展性のある直腸に戻すことが重要であり,浣腸や坐剤を併用しながら徐々に経口薬のみに移行する.
◎親に薬剤の作用機序や正しい使用方法を十分に説明し,排便日誌をつけさせ,薬剤の種類や量を調節していく.
◎小児の便秘では,早期の診断や十分な治療が行われないと,悪循環によってより頑固な便秘に進展することも少なくない.

高齢者便秘の特徴と治療における注意点

著者: 須藤紀子

ページ範囲:P.1529 - P.1533

Point
◎高齢者では,便秘の有病率は生活環境やADLに左右される.
◎高齢者の便秘の要因は生理的な腸管運動機能の低下や生活環境の変化など,多岐にわたる.
◎高齢者では担癌患者の割合が多く,便秘の要因となる大腸癌など器質的疾患を見落としてはならない.
◎加齢に伴い腎機能が低下するため,酸化マグネシウムの使用には注意が必要である.
◎患者それぞれの基礎疾患やADLに応じたテーラーメイドの下剤選択が必要とされる.

訪問診療での便秘治療はどう進めるか

著者: 木村貴純

ページ範囲:P.1534 - P.1536

Point
◎高齢者は,身体活動度だけでなく内臓機能も低下し,さまざまな疾病を有し,ポリファーマシーも問題となっている.
◎患者の排便ケアを行うには多職種連携による排便管理が有用で,医療・看護・介護の枠を超えての支え合いが必要である.
◎訪問診療での便秘治療は,患者の病状,介護の状況を鑑みたうえで,薬剤の特徴を熟知し選択する必要がある.

認知症患者における便秘

著者: 三浦伸義

ページ範囲:P.1537 - P.1539

Point
◎認知症高齢者は,高率に便秘症を合併する.
◎便秘により,興奮などの攻撃的な行動心理症状やせん妄が出現することがある.
◎抗コリン作用を有する薬剤は便秘症の原因となり,加えて認知機能を悪化させる可能性がある.

刺激性下剤依存症患者への対応をどうすべきか

著者: 三枝純一

ページ範囲:P.1541 - P.1546

Point
◎生薬のアントラキノン誘導体下剤は古代文明時から存在し,人類の便秘の治療に使われた.本邦では漢方医学の流れでダイオウが好んで用いられ,生薬好きの国民性,効果の強さと速さに相まって広く流布した.
◎アントラキノン誘導体下剤を長期に連用すると耐性を生じ,使用量が増える.結果として結腸壁内のAuerbach神経叢の障害から蠕動能低下をきたし,進行すると不可逆性となる.
◎アントラキノン誘導体下剤の連用で大腸粘膜は黒褐変し,軽度・中等度・重度・最重度に分類される.蠕動能低下の重症度と黒褐変の程度は必ずしも比例しない.
◎刺激性下剤依存症は軽度・中等度・重度・最重度に分類される.
◎刺激性下剤依存症の治療は蠕動亢進作用のない浸透圧性下剤や上皮機能変容薬と,蠕動亢進作用の顕著な胆汁酸トランスポーター阻害薬,ラクツロースを組み合わせて治療していく.重度以上では治療は困難となる.

向精神薬による便秘

著者: 野口信彦 ,   吉田晴久

ページ範囲:P.1547 - P.1551

Point
◎精神科患者では,疾患に伴う症状などによる症候性便秘と,向精神薬による薬剤性便秘の両方が重なり合っている.
◎抗精神病薬やその副作用の緩和を目的に使用される抗Parkinson病薬,一部の抗うつ薬の抗コリン作用によって薬剤性便秘が引き起こされる.
◎便秘の原因となる向精神薬の調整は精神症状との兼ね合いもあるため,慎重に行う必要があり,また個々の症例に応じた対応が必要である.
◎下剤使用のほか,生活習慣の改善など,精神科医とかかりつけ内科医,看護師ほか多職種での対応が必要である.

慢性腎臓病(CKD)・透析患者における便秘

著者: 髙島弘至 ,   阿部雅紀

ページ範囲:P.1552 - P.1556

Point
◎透析患者では便秘の頻度は高く,約半数以上に認める.
◎透析患者は透析による除水や水分摂取制限,食物繊維摂取不足,薬の副作用,運動量低下などの影響から便秘になりやすい状態にある.
◎便秘は慢性腎臓病(CKD)発症率や心血管疾患の発症への関連が示唆されており,早期の適切な対応とコントロールを行うことが重要である.
◎便秘治療薬として,便を軟化する下剤(浸透圧性下剤,上皮機能変容薬)が推奨されており,刺激性下剤においては短期使用や頓用を考慮する.また規則正しい生活や食事,運動習慣,排便習慣などを取り入れる必要がある.

Parkinson病における便秘

著者: 山城一雄 ,   服部信孝

ページ範囲:P.1557 - P.1560

Point
◎便秘はParkinson病(PD)において,最も頻度が高い自律神経症状の1つである.
◎PDでは,しばしば運動症状に先行して便秘がみられる.
◎PDの便秘では,直腸通過時間遅延と便排出障害を認める.
◎便秘は抗PD薬の吸収障害により薬効に影響を与えるだけでなく,PD患者のQOLを低下させ,消化管穿孔や巨大結腸など生命を脅かす病態を引き起こす可能性がある.

それ,ただの便秘ですか?

便排出障害型便秘の診断と治療総論

著者: 黒水丈次

ページ範囲:P.1562 - P.1566

Point
◎便排出障害型便秘は,直腸内の糞便を量的にも質的にも快適に排出できない状態である.
◎便排出障害の最も大きな原因は,骨盤底筋協調運動障害による奇異性収縮である.
◎診断は詳細な問診と直腸肛門指診により行うが,客観的な評価には肛門筋電図検査が有用である.
◎治療効果が悪い時は,鑑別診断として排便造影検査が必要となる.
◎便排出障害型便秘の治療として,バイオフィードバック療法は有効である.

直腸知覚異常の診断と治療

著者: 安部達也 ,   國本正雄 ,   鉢呂芳一

ページ範囲:P.1567 - P.1572

Point
◎便意や便ガス識別能が低下する直腸知覚低下は,便秘患者の4分の1に認められる.
◎便意が低下すると直腸肛門抑制反射や直腸収縮力が低下して,排便が困難となる.
◎直腸知覚は骨盤臓器や肛門部の手術,中枢・末梢神経疾患,加齢によって低下する.
◎直腸知覚の改善には薬物療法,バイオフィードバック療法,ニューロモジュレーションが有効である.

特殊な便秘—慢性偽性腸閉塞症,巨大結腸症,腹部膨満症

著者: 大久保秀則

ページ範囲:P.1573 - P.1577

Point
◎便秘症状を呈するものの,便秘とはまったく異なる特殊な病態が存在する.
◎慢性偽性腸閉塞症(CIPO)は,小腸機能不全から致命的となることもある「稀少難病」である.
◎CIPOでは短腸症候群のリスクのため,安易な小腸切除は慎むべきである.
◎巨大結腸症は大腸に限局した著明な腸管拡張で,比較的手術が有効なことも多い.
◎小腸内細菌異常増殖症(SIBO)では各種抗菌薬をローテーションしながら用いるが,難治性である.

特集の理解を深めるための24題

問題/解答

ページ範囲:P.1578 - P.1581

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・28

手が震える!本当にParkinson病!?—姿勢時振戦

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1401 - P.1404

 手の震えと聞いて,皆さんが真っ先に思い浮かべる疾患は何でしょうか? やはりParkinson病を挙げる方が多いと思います.しかし,意外に多いものに本態性振戦があります.家族歴もあったり,緊張で増悪したり,震えを抑えるために飲酒したりと,困った震えの疾患です.それでは,震えの診方についてバリエーションを増やしていきましょう!
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年7月31日まで公開)。

フレーズにピンときたら,このパターン! 鑑別診断に使えるカード・8

「リンパ節腫脹,腫瘤が目立たない悪性リンパ腫」「肢端紅痛症」「汎血球減少」

著者: 長野広之

ページ範囲:P.1582 - P.1589

総論
 悪性リンパ腫は血液中の白血球の一種であるリンパ球ががん化した疾患です.
 日本では図1の通りB cell系が約65%,T/NK cell系が約25%,Hodgkinリンパ腫が約7%を占めます1)

本気で書く! 入院時サマリー! 患者情報,丸見え化プロジェクト・3

ポリファーマシー,どないしてる?〜薬剤整理と入院時サマリー

著者: 徳田嘉仁

ページ範囲:P.1590 - P.1596

 全6回の本連載だが,いよいよ今回で3回目.早くも折り返しとは,感慨深い.第1回では入院時サマリー作成時において情報の洗い出しがいかに重要かを“カレー作りのガントチャート”とともにお届けし,第2回では併存疾患・既往歴を情報収集する際には「カルテを最初から全部読む! とにかく読む!!」という荒技を紹介した.そろそろ読者の皆さんも本連載について,わかってきたのではないだろうか.そう,本連載にはエビデンスなんて出てこない.筆者の“Passion”Based Medicineに基づく,『medicina』誌にとってかなりチャレンジングな連載である.
 とはいえ,医療はエビデンスだけでは成り立たない.“実践知”の共有も大事ではないかと思っている.そのようなわけで今回は,近年のホットトピックとも言える“ポリファーマシー対策”を,入院時サマリーにどう落とし込むか,その実践知を共有したい.

ケースレポートを書こう! acceptされるために必要なこと・5

倫理審査およびインフォームド・コンセント

著者: 八幡晋輔 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.1597 - P.1601

 年々,医学研究に対する倫理的な配慮が重視される傾向にある.当然,ケースレポートも例外ではない.今回は倫理審査およびインフォームド・コンセントの必要性や,その概要,具体的な流れに関して,実際にケースレポートを作成している姿をイメージしながら解説したい.

目でみるトレーニング

問題955・956・957

著者: 岩崎靖 ,   増田慶太 ,   渡辺徹也

ページ範囲:P.1602 - P.1607

物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・27

パンデミック下の認知症診療はどうしたら良いですか?

著者: 重松一生

ページ範囲:P.1608 - P.1613

ポイント
COVID-19のパンデミックは社会に甚大な影響を及ぼし,認知症診療もその直撃を免れませんでした.

書評

—腹痛を「考える」会 著—腹痛の「なぜ?」がわかる本—痛みのメカニズムがみえれば診療が変わる!

著者: 平島修

ページ範囲:P.1433 - P.1433

 3年前のある勉強会で著者と初めてお会いし,懇親会で「腹痛」の話で盛り上がった.腹痛診療で最も有名な教科書『Cope's Early Diagnosis of the Acute Abdomen』の最新版は22版で,現在は弟子に引き継がれて出版されているが,初期の版でCope自身が書いたある疾患の所見に対する考察が興味深く,身体診察を深めようとすると自然に古文書探しが必要となり,それが楽しいと著者はお話しされていた.医学が大きく進歩したのは1900年前後で,死後の解剖によってしか原因がわからなかった時代から技術革新により画像診断が可能となり診断技術は大幅に向上した.今のような検査機器がなかった時代は,病歴・身体診察のみから病態を考え,悩み,決断せざるを得なかった.医師の仕事とは,考えることだったのである.
 さて,誰しも便意を催したときに,脂汗をかくほど強い腹痛を感じた経験をしたことがあるのではないだろうか.実際,排便に伴う腹痛で救急外来を受診する患者も決して少なくはない.激しい腹痛であっても,その原因は便秘症から消化管穿孔や大動脈解離まで重症度の幅は広い.またその診断は,画像検査を行っても容易でない場合もある.病歴・診察所見から十分に検討されないまま,腹痛の原因を腹痛+下痢+発熱は感染性腸炎,心窩部から右下腹部痛+McBurney点の圧痛は虫垂炎と短絡的な一発鑑別診断を行うと落とし穴にはまりかねない.本書は種々の腹痛の原因に対して,なぜ,どのような経過で生じるかを,診察所見の基となった1900年前後の文献から最新の文献まで,救急の第一線での筆者自身の経験を基に考察し,まとめられた本である.診断フローチャートなどを駆使した診断学の書籍とは違った内容で,考察の細かさは腹痛診療のアート本と言っても過言ではない.これほど知識に対して興味をそそられる内容は先述のCopeの教科書にもなかった.胃腸炎,便秘,虫垂炎,腸閉塞,胃・十二指腸潰瘍,胆囊・胆管炎など腹痛を生じるあらゆる疾患に対して,生理学・発生学・解剖学的,症候学的な観点から問診・身体診察所見にどのような意味があるのか,仮説とそれに基づいた考察がなされている.特にそれぞれの疾患ごとに,「内臓痛」「体性痛」「関連痛」の痛みを丁寧に分けて考察されているのが面白い.また,症例を提示しつつその曖昧さに至るまで,持論が述べられているところが超実践的である.

—小島伊織 執筆—スパルタ病理塾—あなたの臨床を変える!病理標本の読み方

著者: 市原真

ページ範囲:P.1453 - P.1453

 冒頭3ページ目で,私は早くも心をツカまれた.
 「内科では『初めに疾患ありき』の内科学の他に『初めに症候ありき』の内科診断学を勉強する時間が学生時代に十分あったのに,病理については『初めに疾患ありき』の病理学の授業はあっても『初めに所見ありき』の病理診断学をしっかり勉強する時間は設けられていなかったのです」

—松尾宏一,緒方憲太郎,林 稔展 編—がん薬物療法のひきだし—腫瘍薬学の基本から応用まで

著者: 奥田真弘

ページ範囲:P.1477 - P.1477

 がん薬物療法は日進月歩であり,年々新薬が投入されるとともに新たなケアが導入されるなど,多様化している.2010年に発出された医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では,医師・薬剤師が事前に作成・合意したプロトコールに基づき,専門的知見の活用を通じて医師と協働して実施するチーム医療が推奨され,薬剤師ががん患者の薬学的管理にかかわる機会も格段に増加している.がんチーム医療における薬剤師の役割は年々拡大しており,薬剤師が備えるべきがん薬物療法の知識も増加している.がん薬物療法に関する最新情報を入手するには,質の高い情報源が欠かせないが,新薬に関する情報は特定の薬剤に偏りがちであり,また治療法や副作用管理に関する情報も断片的なことが多い.
 本書は,がん薬物療法の適正実施に必要な幅広い情報をがん薬物療法の最前線で活躍する薬剤師が執筆したものであり,最新のエビデンスやガイドラインに基づいてまとめられ,主な対象は薬剤師,薬学生のほか看護師,医師などの医療スタッフとなっている.本書の構成は「1.総論」「2.抗がん薬各論」「3.がん薬物療法」「4.副作用対策」「5.緩和ケア」となっており,総論ではレジメン管理や投与管理・調製,曝露対策について触れられている.また,本文の約3分の1に相当する150ページががん薬物療法に伴う副作用対策に割り当てられており,近年注目されている免疫関連有害事象(irAE)を含む15種類の代表的な副作用が,定義,原因薬剤,アセスメント,治療または支持療法,の順に要領よくまとめられている.

--------------------

目次

ページ範囲:P.1406 - P.1408

読者アンケート

ページ範囲:P.1619 - P.1619

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1620 - P.1621

購読申し込み書

ページ範囲:P.1622 - P.1622

次号予告

ページ範囲:P.1623 - P.1623

奥付

ページ範囲:P.1624 - P.1624

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?