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雑誌目次

雑誌文献

medicina58巻13号

2021年12月発行

雑誌目次

特集 血液疾患をプライマリ・ケアではどこまで診て,どのように専門医と連携をとるべきか?

著者: 渡邉純一

ページ範囲:P.2100 - P.2101

 本特集のコンセプトは,「増加する血液疾患患者を血液専門医とプライマリ・ケア医,一般内科医がいかに連携し,診療をどのように行っていくか」です.昨今の医療の進歩は疾病に苦しむ患者の予後を改善しています.血液疾患でも,慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害薬の出現は3年前後の生存期間を10年生存率80%の疾患にし,延命ができなかった多発性骨髄腫もボルテゾミブ以降のさまざまな新薬により長期生存が可能な疾患になりました.支持療法の進歩は合併症治療の成績を改善し,治療可能な年齢を引き上げています.さまざまな治療の進歩により多数の患者が恩恵を受けており,医療が必要な患者数は増大し続けています.一方で,血液専門医の増加は一定数にとどまっており,専門医の負担は明らかに増大傾向です.このままでは治療を受けられるはずの患者が専門医の負担の増大により,治療を受けられなくなる可能性もあります.
 それを防ぐためにできることとして,いかに血液専門医とプライマリ・ケア医が連携し,血液疾患の患者を協力して診ていけるかが重要と考えています.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.2102 - P.2105

●今月の特集執筆陣による出題です.血液疾患の診療に関する理解度をチェックしてみましょう!

検査の解釈

血算・血液像・骨髄像の見かた

著者: 三ツ橋雄之

ページ範囲:P.2106 - P.2109

Point
◎血算は血液の異常を捉える第一段階であり,白血球,赤血球,血小板の各系統について,異常を示唆する所見がないか慎重に評価を進める.
◎血液像では白血球の百分率と絶対数を確認し,反応性変化,異常細胞,異形成などの異常所見を適切に評価して,必要であれば骨髄検査の実施を検討する.
◎骨髄検査では,適応を正しく判断し,観察に適した標本を作製することが重要である.
◎骨髄の評価では,芽球の増加や異型細胞の出現,異形成の有無とともに,非血液腫瘍の浸潤などにも注意して観察を行い,他の検査情報を合わせた総合的評価を実施する.

免疫電気泳動・遊離軽鎖の見かた

著者: 原田健右

ページ範囲:P.2110 - P.2113

Point
◎血清総蛋白は,アルブミンと免疫グロブリンの挙動を中心に評価する.
◎免疫グロブリンの増加は,蛋白分画検査によってスクリーニングし,多クローン性増加によるものか単クローン性増加(Mピークの出現)によるものかを鑑別する.
◎Mピークを認めたら,免疫電気泳動法や免疫固定法によって単クローン性の免疫グロブリン増加であることを確認し,M蛋白の種類を同定する.
◎蛋白分画や免疫固定法に加えて,遊離軽鎖(FLC)κ/λ比を評価することで,高い感度でB細胞/形質細胞増殖性疾患を診断することができる.

診断・治療方針決定のために専門医へ速やかに紹介することが望ましい場合

貧血・血小板減少を伴う白血球増加を呈する患者

著者: 名島悠峰

ページ範囲:P.2114 - P.2118

Point
◎貧血と血小板減少を伴う白血球増多は急性白血病の可能性がある.
◎高度の白血球増多を伴う急性白血病では,致死的出血や腫瘍崩壊症候群などで急変しうる.
◎高度血小板低値,播種性血管内凝固症候群(DIC)を示唆する凝固異常,高LDH血症がある場合さらにリスクが高い.
◎コロナ禍では連携がより重要であり,非専門医・専門医の情報共有により予後を改善しうる.

汎血球減少で受診した造血不全

著者: 石山謙

ページ範囲:P.2119 - P.2123

Point
◎汎血球減少とは赤血球・白血球・血小板の3血球系統が正常値よりも減少した状態である.
◎汎血球減少は血液疾患に限らず,悪性腫瘍,感染症,肝硬変など多くの病態が考えられる.
◎医療面接で基礎疾患や服薬歴などを聴取するとともに,過去の採血結果から血球減少の出現時期と血球減少の程度を把握する.
◎血球減少の急速な進行や臨床症状が強くみられる症例では速やかな治療介入が考慮されるが,軽度の汎血球減少例や進行が緩徐な症例ではプライマリ・ケア医で検査や鑑別を行う時間的猶予がある.

網状赤血球著減を伴う正球性貧血

著者: 藤島直仁

ページ範囲:P.2124 - P.2128

Point
◎正球性貧血の患者を診察した場合には網状赤血球の増減と溶血所見の有無を参考にして鑑別診断を行う.
◎網状赤血球が1%未満に著減している正球性貧血は赤芽球癆,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群を疑う.
◎慢性腎臓病に伴う腎性貧血はエリスロポエチン濃度が基準値内であってもヘモグロビン値と比較して相対的に低値ではないか確認する.
◎貧血に加えて白血球や血小板の減少が高度で感染症の併発や顕著な出血症状がある場合は早急に専門医に紹介する.

LDH上昇と網状赤血球上昇を伴う貧血

著者: 平川結梨 ,   北尾章人

ページ範囲:P.2130 - P.2134

Point
◎LDHと網状赤血球の上昇を伴う貧血では,出血あるいは溶血性貧血を考える.
◎溶血性貧血を疑うときは,間接ビリルビンや尿中ウロビリノーゲンの上昇,ハプトグロビンの低下の有無を確認する.
◎溶血性貧血にはさまざまな病因があり,治療のためには病因の確定が重要である.
◎自己免疫性溶血性貧血の治療の第一選択は副腎皮質ステロイドであるが,不応・不耐の場合には,免疫抑制薬や脾摘に加え,近年ではリツキシマブの有効性が示されている.
◎溶血性貧血に血小板減少を伴うときは,血栓性血小板減少性紫斑病の可能性を念頭に,速やかに専門医へ紹介する.

3系統の血球上昇を認める患者—骨髄増殖性腫瘍:CML, PV, ET, PMF

著者: 枝廣陽子

ページ範囲:P.2135 - P.2139

Point
◎慢性骨髄性白血病では,慢性期に適切なチロシンキナーゼ阻害薬を使用することで,一般人とほぼ同等の生命予後が期待できる.
◎真性多血症では,血栓症の予防目的にアスピリンと瀉血による治療に加えて,高リスク症例では細胞減少療法を行う.
◎本態性血小板血症は予後良好な疾患であるものの,血栓症の発症に注意が必要であり,血小板数高値が続く場合には,専門医への紹介が望ましい.
◎原発性骨髄線維症では,造血幹細胞移植の適応も含めて,早期に専門医での診察が望まれる.

リンパ球を中心とした白血球増加

著者: 川上徹 ,   中澤英之

ページ範囲:P.2140 - P.2144

Point
◎緊急性の判断が重要であり,血球減少,臓器障害,凝固異常などを合併する場合には速やかに専門医へ紹介する.
◎経過や症状により鑑別を絞り,フローサイトメトリーなどによりモノクローナルな増加かどうかを判別する.
◎慢性リンパ性白血病における治療開始基準を知っておく.

増大速度の緩やかな無痛性リンパ節腫大

著者: 福原規子

ページ範囲:P.2145 - P.2148

Point
◎増大速度の緩やかな無痛性リンパ節腫大では,年単位で進行し緩徐な経過をたどる低悪性度リンパ腫(indolent lymphoma)が疑われる.濾胞性リンパ腫はindolent lymphomaの代表的疾患であり,予後は15年を超えるが長期的には再発を繰り返し治癒は望めない.
◎初発時・再発時ともに直ちに治療介入することはむしろ少ない.腫瘍量を目安に治療介入を判断するが,急な病勢の進行はaggressive lymphomaへの形質転換を疑う.治療後の易感染性や固形がんの併発にも留意する.

増大速度の速い,もしくは有症状の無痛性リンパ節腫大

著者: 宮崎香奈

ページ範囲:P.2149 - P.2151

Point
◎増大速度が速い無痛性リンパ節腫大は月単位で増大するアグレッシブリンパ腫(aggressive lymphoma)が疑われる.
◎免疫抑制薬使用による免疫不全を背景としたリンパ腫があるため,関節リウマチなど他の疾患の治療のために免疫抑制薬を使用した際のリンパ節腫大もaggressive lymphomaを考慮する.

蛋白上昇,アルブミン低値,免疫グロブリン増加

著者: 北舘明宏

ページ範囲:P.2152 - P.2156

Point
◎蛋白上昇や免疫グロブリン異常は,多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症といったM蛋白関連疾患の診断契機となる重要な検査所見である.
◎多発性骨髄腫は新規薬剤の登場により大幅に治療成績が改善されており,その進歩の恩恵を受けるためにも,適切なタイミングでの血液内科専門医への紹介が重要となる.
◎腫瘤による神経圧迫など緊急に治療介入が必要な骨髄腫関連診断事象を認めた際には速やかな血液専門医へのコンサルテーションが必要である.
◎意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS),くすぶり型骨髄腫は経過観察となるが骨髄腫診断事象以外にもアミロイドーシスの有無などを確認し治療介入を要するM蛋白関連疾患を見逃さないことが肝要である.

血小板減少症

著者: 柏木浩和

ページ範囲:P.2158 - P.2162

Point
◎出血症状を認めない場合は,偽性血小板減少を最初に除外する.
◎特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の診断は除外診断が中心である.
◎ITPにおける重篤な出血は血小板数1万/μL以下および高齢者に多い.
◎副腎皮質ステロイド不応/不耐ITP症例では,トロンボポエチン受容体作動薬,リツキシマブあるいは脾臓摘出術から,個々の患者の状況・状態により選択する.

成人発症の関節内・筋肉内出血

著者: 德川多津子

ページ範囲:P.2163 - P.2166

Point
◎関節内・筋肉内出血などの深部出血では,まず凝固系・線溶系の異常を疑って凝血学的スクリーニングを行う.
◎出血症状の既往と家族歴,基礎疾患および服薬歴の確認とPT(プロトロンビン時間),APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の結果を基に,鑑別疾患を挙げる.
◎PT,APTT延長時の簡易的な鑑別にクロスミキシング試験の施行も考慮する.
◎教科書的なデータ異常と実臨床のデータは乖離することがある.
◎外傷時,処置・手術時の止血困難や後出血,女性の月経過多も止血異常による症状の可能性があるため,反復する際には精査を行う.

一般内科,プライマリ・ケア領域で診断から治療まで可能な場合

小球性貧血患者の診断と治療について

著者: 濱木珠恵

ページ範囲:P.2167 - P.2170

Point
◎鉄欠乏性貧血は最も頻度の高い貧血である.ありがちな疾患と軽視せず,適切に診断し治療を行うことが必要である.
◎小球性貧血であれば,まずは鉄欠乏を疑い血清鉄やフェリチンなどから鉄の過不足を判断する.鏡検やRDW値によって赤血球の大小不同を知ることができる.
◎鉄欠乏の原因が,鉄摂取不足なのか,鉄喪失(出血など)なのかを必ず同定する.
◎鉄欠乏性貧血の治療の基本は,不足している鉄の補充である.経口鉄剤は最低でも半年間は続け,維持療法も考慮する.注射製剤は体内不足量を計算して投与する.治療が不十分だと再発する.

大球性貧血

著者: 木村勇太

ページ範囲:P.2171 - P.2174

Point
◎大球性貧血はしばしば臨床現場で遭遇するが,その鑑別は非常に多岐にわたり紹介すべき専門科も異なるため,正しく鑑別することが重要である.
◎巨赤芽球性貧血の治療にはビタミンB12の補充療法が必要であるが,近年では非経口投与と経口投与の効果は同等であり,重要なのは服薬コンプライアンスと患者説明である.
◎銅欠乏性貧血は巨赤芽球性貧血に類似した臨床症状・臨床所見を呈するが視神経異常や膀胱障害といった特徴的な神経症状もある.早期の診断治療が神経学的予後に重要である.

二次性血球減少

著者: 河村俊邦

ページ範囲:P.2175 - P.2178

Point
◎日常診療で使用される薬剤で血球減少をきたすものがある.
◎重症の血球減少であれば早期に専門医へ紹介することが望ましい.
◎ウイルス感染による白血球減少は一過性であり,専門医への紹介は不要である.
◎稀な病態だが,固形がんの骨転移により血球減少をきたすことがある.

好酸球増加

著者: 遠山和博

ページ範囲:P.2179 - P.2184

Point
◎好酸球増加症候群(HES)は臨床的な観点から6つの病態(M-HES,L-HES,overlap HES,続発性HES,家族性HES,特発性HES)に分類される.
◎HESはさまざまな臨床症状をきたし,関連臓器は全身にわたるため,プライマリ・ケアや各専門家を受診することも多い.
◎鑑別診断のため病歴聴取やシステムレビューといった基本的な診療技術が重要であり,引き続いての臨床検査についても適切に行う必要がある.
◎M-HESを除いては,基礎疾患の治療に加えてステロイド治療が好酸球増加による臓器障害に対する初期治療として行われる.
◎チロシンキナーゼ阻害薬や抗IL-5抗体薬などの分子標的治療薬の有効性が知られてきており,今後の治療方法の進歩が期待される.

専門医の診断・治療後に一般内科医,プライマリ・ケア医との連携を行う場合

急性白血病・アグレッシブリンパ腫の治療後の経過観察

著者: 内山倫宏

ページ範囲:P.2185 - P.2188

Point
◎急性白血病の経過観察においては血球数の確認(特に血小板数)が重要である.
◎急性白血病は経過が急速であることが多く,治療効果を期待するだけでなく症状緩和として化学療法施行が効果的なことも多い.
◎悪性リンパ腫の罹患数は近年増加傾向にある.
◎悪性リンパ腫のなかでも病勢進行が早いアグレッシブリンパ腫は予後不良と思われがちであるが,化学療法にて治癒が期待できる.
◎急性白血病およびアグレッシブリンパ腫は,急激な経過をたどることが多く,専門医とかかりつけ医の密な連携が求められる.

低悪性度リンパ腫(indolent lymphoma)の経過観察・再紹介について

著者: 賴晋也

ページ範囲:P.2190 - P.2193

Point
◎低悪性度リンパ腫(indolent lymphoma)の代表疾患である濾胞性リンパ腫(FL)の罹患数は増加傾向にある.
◎FLは緩徐な臨床経過を示すことが多く,腫瘍量を目安に治療介入の時期が検討される.
◎初回治療奏効例においても長期的にみると再発をきたすことが多く,特に診断から2年以内に早期再発/増悪した(early POD)群の予後は不良である.
◎一方,非early POD群では多くの例で長期生存が期待できることより,二次がんをはじめとした晩期合併症を見逃さないことも重要である.
◎経過観察中に突然の急速なリンパ節腫大やLDHの上昇,高カルシウム血症,B症状などが認められた場合はアグレッシブリンパ腫(aggressive lymphoma)への形質転換を疑い,専門医へ再紹介する必要がある.

骨髄増殖性腫瘍の治療・経過観察・再紹介など

著者: 幣光太郎

ページ範囲:P.2194 - P.2197

Point
◎骨髄増殖性腫瘍の治療は主に外来で行われる.
◎慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症は専門医のもとでの管理が必要である.一方,真性赤血球増加症(PV)と本態性血小板血症(ET)では,特に高齢者において一般内科における維持治療のニーズがある.
◎PVとETの治療目標は血栓症の発症抑制であり,血栓症リスクを層別化し治療方針を決定する.同時に高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満,喫煙などの心血管リスク因子への介入を積極的に行うことも重要である.

造血不全(MDS・AA),ITPに対してプライマリ・ケア医が実施できる治療・経過観察

著者: 町田真一郎

ページ範囲:P.2198 - P.2201

Point
◎骨髄異形成症候群は,高齢者の発症頻度が高いため専門施設への通院が困難な例も多く,輸血,感染の初期対応,ネスプ® 投与などをプライマリ・ケア医へ依頼するケースが想定される.
◎再生不良性貧血においては,感染,輸血以外にシクロスポリンによる腎毒性,高血圧をフォローし,再発や他疾患への移行にも注意する.
◎特発性血小板減少性紫斑病では,ピロリ菌除菌,ステロイド長期投与と脾摘に伴う合併症のフォローが重要である.
◎3疾患とも輸血を必要とすることがあるが,それぞれの症例に応じた輸血のトリガーを血液専門医と相談して決定する.

血液疾患患者の感染性合併症

著者: 木村俊一

ページ範囲:P.2203 - P.2207

Point
◎免疫不全の種類(好中球減少,細胞性免疫不全,液性免疫不全)とその程度を把握することが重要である.
◎発熱性好中球減少症(FN)はオンコロジーエマージェンシーの1つであり,緑膿菌をカバーした広域抗菌薬を速やかに開始することが必要である.
◎overwhelming postsplenectomy infection(OPSI)などFN以外にも緊急性の高い病態を把握しておくことが重要である.

血液疾患におけるオンコロジーエマージェンシーへの対応

著者: 西森久和

ページ範囲:P.2210 - P.2213

Point
◎血液疾患のオンコロジーエマージェンシーは,原疾患の治療が最優先される状況が多いため,診断確定を含めた迅速な対応が必要である.
◎悪性リンパ腫によるオンコロジーエマージェンシーでは,ステロイドの先行投与を検討する.
◎成人T細胞性白血病/リンパ腫では高カルシウム血症を高頻度で合併する.
◎脊髄圧迫症候群では,非可逆的障害となる前に,化学療法,除圧術,放射線治療などを選択する.

HTLV-1キャリアと成人T細胞白血病・リンパ腫

著者: 豊田康祐

ページ範囲:P.2214 - P.2219

Point
◎ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)キャリアは減少傾向にあるも,依然として日本の人口のおよそ1%を占める.
◎成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の発症はHTLV-1キャリア全体の5%,HTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)は0.25%であり,多くは生涯HTLV-1関連疾患を発症しない.
◎HTLV-1キャリアに遭遇した場合,適切な患者説明を行い,不安の解消に努めることが極めて重要である.
◎ATLが疑われる場合には,血液内科医による診療が必要不可欠であるため,適切な医療機関へと迅速に紹介する.

専門医から一般内科へ紹介する場合

移植後長期フォローアップ外来と非専門医の連携

著者: 黒澤彩子

ページ範囲:P.2220 - P.2226

Point
◎移植適応の拡大と移植成績の改善に伴い,移植後長期生存者数は増加の一途にあるが,移植後晩期においても一般人口と比較して死亡リスクが高く,晩期の死因としては感染症,肺合併症,二次がんなどがある.
◎移植後10年時点で6割の症例が何らかの合併症を有しており,慢性移植片対宿主病(GVHD)のほか,高血圧,糖尿病,脂質異常症,骨粗鬆症,甲状腺機能障害,慢性腎臓病,白内障,大腿骨頭壊死など血液内科医だけでは十分な評価と治療が難しい病態も多い.
◎移植後長期フォローアップ外来は晩期合併症のスクリーニングによる早期発見と介入を役割とし,移植後晩期の予後とQOL改善を目的としている.
◎移植後長期フォローアップ外来の現状把握調査(2018年)では,移植後2年以降かつ免疫抑制薬が終了した症例についても移植施設が主な外来診療施設である現状が明らかとなった.
◎年1回程度の移植施設におけるフォローアップに加え,一般内科における定期的な診療は移植後サバイバーの予後とQOL改善に寄与することが期待され,今後,移植施設と一般内科間の効率的な情報共有を促進するシステム構築が待たれる.

病院における緩和ケア

著者: 金井良晃

ページ範囲:P.2227 - P.2232

Point
◎臨床医は地域や施設内の緩和ケア資源ができること,できないことを知っておくと利用しやすい.
◎緩和ケアが生活の質や症状を改善していることは,まだ十分証明されていない.
◎緩和ケア病棟は,誰もが望む最期の場所になれていない可能性がある.
◎オピオイド鎮痛薬を増やしても効かないときやせん妄の対処に困ったときは,緩和ケアの専門家に相談するのが良い.

在宅医療および在宅緩和ケア

著者: 山村武史

ページ範囲:P.2233 - P.2236

Point
◎高齢化の進むわが国では血液疾患患者は増加傾向にあり,在宅医療の利用も増えてきている.
◎血液疾患患者は専門的知識が必要な場合が多いが,在宅医療に従事している血液専門医は少ない.
◎血液専門医不在の訪問診療クリニックに依頼する場合は,急性期病院とのより円滑な医療連携体制の構築が必要である.
◎在宅輸血は多大な労力とコストが必要であり,積極的に実施している訪問診療は少ない.今後の普及と安心・安全に実施できるシステムの構築が必要である.

輸血と輸血後合併症について

著者: 高橋渉 ,   中村文美 ,   三谷絹子

ページ範囲:P.2237 - P.2243

Point
◎輸血療法はあくまでも不足している,または機能不全状態にある血液成分の補充療法である.
◎自己血輸血を除き同種移植の一つであり,ドナーを必要とする.
◎高齢化の進展,若年人口の減少から献血ドナーの不足が問題となっている.
◎有害事象(副反応)には頻度は低くとも時に重篤・致命的となるものが存在する.
◎以上より,輸血の適応,血液製剤の適正使用について特段の留意が求められる.

付録

血液疾患の診療フローチャート

著者: 渡邉純一

ページ範囲:P.2244 - P.2247

|図1|血液疾患の緊急性/重要性・専門性の一覧
AA:再生不良性貧血,AIHA:自己免疫性溶血性貧血,ALL:急性リンパ性白血病,AML:急性骨髄性白血病,APL:急性前骨髄球性白血病,CLL: 慢性リンパ性白血病,CML:慢性骨髄性白血病,ET:本態性血小板血症,IDA: 鉄欠乏性貧血,ITP:特発性血小板減少性紫斑病,MA:巨赤芽球性貧血,MDS:骨髄異形成症候群,MGUS:意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症,MPN:骨髄増殖性腫瘍,PMF:原発性骨髄線維症,PRCA:赤芽球癆,PV:真性赤血球増加症,TTP:血栓性血小板減少性紫斑病.

連載 読んだら,ちょいあて! POCUSのススメ・9

小児腸重積症のPOCUS

著者: 野中航仁

ページ範囲:P.2091 - P.2094

 腹痛や嘔吐を主訴に受診する小児患者は少なくありません.診察しようとすると泣かれてしまってうまくいかず,経過観察を指示して帰宅させたら実は重大な疾患を見逃していたり…….今回はそんなときに役立つPOCUSの一例を紹介します.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・4 リハビリ・運動療法の必要性と基本知識

リハビリ・運動療法を長続きさせるには?

著者: 上月正博

ページ範囲:P.2248 - P.2253

 リハビリ・運動療法は効果が大きいが,止めてしまうと効果はなくなる.すなわち,リハビリ・運動療法は長く続けることが大切だ.そのためには,患者のやる気を高め,それを持続させることが必要であり,一口飲むだけでよい内服薬の場合よりも大変だ.
 患者をやる気にさせ,持続させるためには,「共通の目標を立てて,丁寧に説明して,運動を行ったらとにかく褒めること」が最も重要だ.また,患者と医師との関係のあり方にも注意しなければならない.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・9

脳出血⑦頭頂葉の皮質下出血

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.2254 - P.2258

 運動系や感覚系に異常があると,診察していてもわかりやすいことが多いです.しかし,麻痺もないのに道具の使い方がわからなくなったりする症例もあります.これは,「失行」と言われる行為の障害です.では運動系の問題を否定し,失行をどのように同定し,そして病巣はどの部位を想定するのか,一緒に勉強していきましょう.
※注:今回の症例は病巣をわかりやすくするために,複雑な症状に関する記載は割愛しています.

目でみるトレーニング

問題1003・1004・1005

著者: 岩崎靖 ,   明保洋之 ,   平岡淳

ページ範囲:P.2259 - P.2264

書評

—岡田 定 著—内科医の私と患者さんの物語—血液診療のサイエンスとアート

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.2189 - P.2189

 最近注目されている能力の1つに「ソフトスキル」がある.常識として必要であることがわかっているが,点数化することが難しいスキルのことである.コミュニケーション力やチームワーク,失敗から立ち直る力,批判的な思考,ユーモアのセンスが含まれる.経済が目まぐるしく変化する現代において,よい仕事をするためには必須のスキルといわれている.医療従事者にも必要なこれらのスキルをどう磨けばよいかを本書から学ぶことができる.長く豊富な臨床経験があり,真摯(しんし)に1人ずつの患者さんと向かい合った岡田定先生にしか書けない,患者さんと紡いだ心温まる物語だ.
 この本のサブタイトルは「血液診療のサイエンスとアート」と題する患者さんの物語集である.世界中の多くの医師に敬愛されている,カナダ生まれの内科医ウィリアム・オスラー(1849〜1919)は「医療はサイエンスに基づいたアートである」という言葉を残している.医学は真理を追求する科学(サイエンス)である.しかし,それだけでは不十分なのだ.発熱した子供を優しく見守る母親のような慈しみ(アート)が必要である.

—中村 好一 著—基礎から学ぶ楽しい学会発表・論文執筆 第2版

著者: 佐伯圭吾

ページ範囲:P.2202 - P.2202

 本書は主に,保健活動に従事するコメディカルスタッフや学生を含む初学者が,日本語での学会・論文発表をめざす際の指南書として書かれたもので,疫学書では最も人気がある中村好一氏による『基礎から学ぶ 楽しい疫学』の姉妹書である.
 これから研究を始める人が,最初に読む本としてお薦めしたい.「なぜ研究を行うか」「研究指導者をどのように求めるか」から始まって,研究の実施,分析,学会発表,論文執筆,投稿,査読の過程に区分され,それぞれのステップをどのように考え,どのように進めていくかが,ありありと目に浮かぶように書かれている.読者は,各ステップを思い浮かべて読み進めていくうちに,研究プロセスを俯瞰することができ,高く感じていたハードルが,いつの間にか取り組むべき具体的な課題に変わっていることに気付くのではないだろうか.

—Andre M. Mansoor 著 田中 竜馬 監訳—フレームワークで考える内科診断—(Frameworks for Internal Medicine)

著者: 青木眞

ページ範囲:P.2208 - P.2209

 症例の提示が始まる前に「正解はこの中にあります」と検討会を始めたUCSF内科教授のLawrence Tierney(以下LTと略)に度肝を抜かれたのは30年前になる.臨床診断の達人LTが言う「正解」の内実はVINDICATE(Vascular, Infectious, Neoplastic, …)といった基本的病態のリストであり,彼が鑑別診断を構成していくうえでの基本骨格(=フレームワーク)である.今思えばこのLTとの邂逅こそが本書の扱う「フレームワーク」という概念による洗礼であった.監訳者の田中先生も恐らく受洗者の1人であり,それが本書の翻訳を手がけることになった遠因と想像している.
 本書では「下痢」,「心内膜炎」といった問題を整理するフレームワークを作るにあたり,その整理の軸の系統的な整合性にこだわらない.このある種の「軸の乱れ」こそがフレームワークの臨床的な使い勝手をよくし,ひいては教育上も診療上も有用なものとしている.監訳者の指摘を待つまでもなく「消化管出血」を上部消化管は食道・胃・十二指腸と「解剖的部位」の軸で分けて,下部消化管は器質性,血管性,炎症性と「機序」による軸で分類する.まったく同様に臨床の達人LTも「筋肉の問題」を,myopathy(=筋力低下),myalgia(±筋力低下),rhabdomyolysis(CKが上昇)の3つ項目でフレームワークを作るが各項目はそれぞれ「疾患概念・身体所見」「自覚症状」「検査結果」であり,ある意味,整理の軸は1本ではない.しかし鑑別診断を考えるうえでは秀逸である.

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目次

ページ範囲:P.2096 - P.2098

読者アンケート

ページ範囲:P.2265 - P.2265

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2266 - P.2267

購読申し込み書

ページ範囲:P.2268 - P.2268

次号予告

ページ範囲:P.2269 - P.2269

奥付

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「medicina」第58巻 総目次

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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