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雑誌目次

雑誌文献

medicina59巻12号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

著者: 平岡栄治

ページ範囲:P.2102 - P.2103

 私は地域医療振興協会(JADECOM)に所属する都市部の地域病院でHospitalistとして勤務しています.JADECOMは,地域医療を行うため全国のさまざまな病院,診療所,介護老人保健施設で医療を提供しています.そこからの経験で,都市部の大病院では循環器内科があり潤沢な専門医が心不全患者を治療するものの,世の多くの心不全患者は実は非専門医が加療しているのでは,と感じています.
 さらに,都市部でも近年状況は変化しています.当院のような急性期病院であれば,急性心不全患者が毎日のように来院します.基礎に複合疾患をもつ高齢の方も多く(図1),循環器力はもちろん,臓器横断的,全人的に診療する総合内科力が必要な患者が増えています(図2).肺炎や尿路感染症で入院中,心房細動,急性冠症候群(ACS),たこつぼ型心筋症などによる心不全を合併する場面にも多々遭遇します.いわゆる心不全パンデミックであり,非循環器医も避けて通れません.また循環器医も,これまでのように心不全や心房細動をすべて循環器科で抱え込むことが困難になってきていると思います.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.2104 - P.2108

●今月の特集執筆陣による出題です.心不全に関する理解度をチェックしてみましょう!

心不全総論

fantastic sevenを意識した心不全診療

著者: 平岡栄治

ページ範囲:P.2110 - P.2117

Point
◎心不全は進行性の病気であり,心不全の発症,増悪を防ぐことがとても重要となる.
◎救急外来で急性心不全をみたら,ST上昇型心筋梗塞,弁膜症緊急症が原因でないことを確認しよう.
◎薬物治療(fantastic four)だけでなく,セルフケア教育,コミュニケーション(アドバンス・ケア・プランニング,共同意思決定),緩和ケアも重要である(7つなのでfantastic seven!).

患者中心の心不全診療を目指して—予後予測モデルの上手な使い方

著者: 白石泰之

ページ範囲:P.2118 - P.2122

Point
◎「治癒でなく,病気とともに生きる」ことが前提のなかで,「患者中心の心不全診療」の意義はきわめて大きい.
◎最適な治療方針の決定のために,患者・家族と予後情報まで含めた質の高いshared decision making(SDM)が必要である.
◎心不全においては,医療者や患者自身の「主観的な」予後予測の信頼性は一般的に低く,リスクモデルによる「客観的な」予後予測が有用である.
◎心不全患者に予後情報を伝えるときは,心不全の病の軌跡を考慮して,ある程度の幅をもたせて伝えるべきである.

BNP,NT-proBNPの測定は必須でしょうか? マネジメントにどのように役立たせたらよいですか?

著者: 西尾亮

ページ範囲:P.2123 - P.2128

Point
◎BNPは心室へのストレスにより分泌量が増え,心保護作用を発揮する.
◎BNP,NT-proBNPともに心不全の診断,特に除外診断のためのツールとして推奨されている.
◎診断の際には検査前確率を考慮し,BNP,NT-proBNPの値のみで安易に診断することは慎む.
◎肥満,慢性心不全,腎不全,心房細動などBNP,NT-proBNPの値に影響する因子が多数あり,注意する必要がある.
◎「BNPガイド下治療」の有用性は確立されておらず,病歴・身体所見・検査所見と総合的に考える必要がある.

急性心不全

急性心不全で最初にするべきことは何ですか?

著者: 小島俊輔

ページ範囲:P.2130 - P.2134

Point
◎急性心不全では,まずは状態を安定化させることが最優先事項である.
◎そのうえで,緊急で治療介入が必要な病態を積極的に評価し,速やかなコンサルトを行う.
◎基礎疾患,増悪因子を病歴,身体所見,各種検査から評価する.

うっ血の病態と評価について教えてください

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.2135 - P.2139

Point
◎心ポンプ異常により生ずる徴候は,うっ血が主である.
◎血管内うっ血を優先指標としてvolume管理を行うのが心不全治療の基本である.
◎頸静脈怒張は,血管内うっ血を示す身体所見である.
◎うっ血解除過程での低心拍出の可能性を意識しながら極力のうっ血解除を図り,臓器障害を防ぐ.

急性心不全において血管拡張薬と利尿薬の役割を教えてください

著者: 新井順也

ページ範囲:P.2140 - P.2145

Point
◎急性心不全の型には水分貯留型と水分再配分型がある.
◎水分貯留型の急性心不全では利尿薬,水分再配分型では血管拡張薬が治療薬のメインである.
◎急性心不全での血管拡張薬の有効性のエビデンスは十分ではないが,症状緩和や1回拍出量増加のため使用が考慮されることがある.

利尿薬:フロセミドで十分な利尿効果が得られない急性心不全では何をしたらよいですか?

著者: 河越美佳 ,   谷亀元香 ,   河原崎宏雄

ページ範囲:P.2146 - P.2151

Point
◎利尿薬抵抗性とは,十分量の利尿薬を投与してもなお求められる利尿効果が得られない状態を指す.
◎十分量の利尿薬,利尿薬の種類,利尿効果の程度,評価タイミングなどには厳密な定義はない.
◎利尿薬抵抗性のときは病態の把握とともに,ループ利尿薬の増量,投与回数増加,効果の異なる利尿薬の併用をまず考える.
◎外来では内服アドヒアランス,食塩摂取量,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服などについても注意する.

利尿薬:急性心不全にて利尿薬使用中に血清Cr値が上がったら,うっ血があっても利尿薬を中止したほうがよいですか?

著者: 高野敬佑 ,   北村浩一 ,   鈴木利彦

ページ範囲:P.2152 - P.2156

Point
◎心不全治療中の血清Cr値はリアルタイムの腎機能を反映したものではない.
◎急性心不全ではさまざまな理由で血清Cr値が上昇し,原因は利尿薬だけではない.
◎利尿薬治療中の血清Cr値上昇は,必ずしも生命予後悪化や腎予後悪化と関連しない.
◎うっ血が残存しているにもかかわらず血清Cr値の上昇のために利尿薬治療を中止すると,かえって生命予後が悪化してしまう可能性がある.

トルバプタンの使い方を教えてください

著者: 宮原大輔 ,   北井豪

ページ範囲:P.2158 - P.2163

Point
◎トルバプタンはバソプレシンV2受容体を介して水利尿を促す薬剤であり,浸透圧勾配により組織浮腫の改善が期待できる.
◎トルバプタンは,ループ利尿薬抵抗性の症例,腎機能障害例,血行動態が不安定な症例などへの効果が期待される.
◎静注薬として使用が可能になったサムタス®に関しては,今後本邦からのエビデンス創出が期待される.

心房細動を合併した急性心不全の治療法を教えてください

著者: 髙見充

ページ範囲:P.2164 - P.2168

Point
◎心房細動と急性心不全の合併は多く,どちらが要因か結果かの判断は容易ではない.
◎心房細動を起こしうるほかの要因を見逃していないかどうかを考える.
◎急性心不全の治療を開始しつつ,心房細動のレートコントロール薬投与が必要か判断する.
◎急性心不全の際の心房細動リズムコントロールは,電気的除細動が中心となる.
◎禁忌がなければ抗凝固薬導入が必要となる.特に除細動前後の抗凝固薬使用については留意する.

慢性心不全

慢性心不全で鑑別すべき原因疾患を教えてください

著者: 久保亨

ページ範囲:P.2170 - P.2174

Point
◎慢性心不全の原因疾患鑑別に際しては,心臓検査による評価以外に病歴(既往症・併存症)と身体所見の確認もきわめて重要である.
◎HFrEFの原因では虚血性心疾患と拡張型心筋症(DCM)の頻度が高い.虚血性心疾患が否定された場合は,DCM様病態を呈する二次性心筋症の鑑別を行う.
◎HFpEFの原因は加齢と高血圧を基礎とした拡張障害が中心だが,HFpEF病態を呈する二次性心筋症には,疾患特異的治療が利用可能な疾患も少なからず存在している.

HFpEFについて教えてください

著者: 杉崎陽一郎

ページ範囲:P.2179 - P.2184

Point
◎HFpEFとは左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全のことで,LVEF≧50%を基準とする.
◎拡張能障害がその本態であり,心不全患者の半数を占めるが見落とされることも多く,運動負荷検査まで含めた検討が重要である.
◎HFpEFに対してSGLT2阻害薬の有効性が実証され,薬物療法の中心的役割を担っている.

HFrEFについて教えてください

著者: 堀内優 ,   田邉健吾

ページ範囲:P.2185 - P.2191

Point
◎HFrEFの治療においてはACE阻害薬/ARB/ARNI,MRA,β遮断薬,SGLT2阻害薬の4剤が重要であり,特に入院心不全患者には積極的に導入を検討する.
◎HFrEF患者において虚血性心疾患のスクリーニングは必須と考えるが,血行再建の予後改善効果は今後もエビデンスの蓄積が必要である.
◎HFrEF患者の診療にあたっては非薬物療法の適応を常に考慮し,冠動脈インターベンショニスト,structural heart disease治療チーム,カテーテルアブレーション治療医,そして心臓血管外科医との連携が重要である.

HFmrEFとはどのような疾患ですか?

著者: 望月泰秀

ページ範囲:P.2192 - P.2196

Point
◎HFmrEFは「LVEFの軽度低下した心不全(Heart Failure mildly reduced EF:HFmrEF,41%≦LVEF≦49%)」と定義されている.
◎患者背景や心不全としての予後などについては,HFrEFとHFpEFの中間に位置しているという報告が多い.
◎HFmrEFはHFrEFから改善したケースや,逆にLVEFの保持された状態から低下してきたケースなど病態の通過点であることがあり,経過を追うことが重要である.
◎HFmrEF患者はLVEFも経過のなかで流動的であり,薬物治療についてもエビデンスに基づいた一貫した方針は示されていない.

心房細動を合併した慢性心不全患者の心房細動はアブレーションすべき?

著者: 藤原竜童

ページ範囲:P.2197 - P.2202

Point
◎心房細動は心不全を悪化させる.
◎心不全のステージ,心房細動のステージ,人生のステージを考慮してカテーテルアブレーションの適応を考える.
◎心房細動による影響を個々の症例ごとに吟味してshared decision makingを行う.

ステージDと思ったらすべきことは?

著者: 松尾裕一郎

ページ範囲:P.2204 - P.2210

Point
◎ステージD心不全は,すべての治療が無効となった末期心不全である.
◎ステージD心不全かも? と思ったときは,まずはステージA〜Cの治療(GDMT)が十分に実施されているか,アドヒアランスは問題ないかを確認する.
◎「本当の」ステージD心不全患者であれば,心臓移植の適応がないか検討する.
◎心臓移植の適応がないステージD心不全患者には,advance care planning(ACP),緩和ケア,ケアのコーディネーションなど総合内科的視点が重要である.

心不全治療の次の一手:心臓再同期療法,経皮的僧帽弁接合不全修復システムについて教えてください

著者: 川上将司

ページ範囲:P.2211 - P.2215

Point
◎心臓再同期療法・両室ペーシング(cardiac resynchronization therapy:CRT)は心臓の協調運動不全(dyssynchrony)を改善させる.
◎左室駆出率(LVEF)の低下した症状を有する心不全患者で,QRS幅がより拡大し,左脚ブロックを呈する患者がよい適応となる.
◎経皮的僧帽弁接合不全修復システム(MitraClip®)は二次性僧帽弁閉鎖不全症を経カテーテル的手技で改善させる.
◎左室機能障害の程度に比して,より重症の僧帽弁閉鎖不全症を認める症例がよい適応となる.

再入院を防ぐには:セルフケアに関する患者教育は何をすればよいですか? 心不全のセルフケアとは何ですか?

著者: 平松由布季 ,   平岡栄治

ページ範囲:P.2217 - P.2222

Point
◎心不全手帳は患者のセルフケア教育に便利なツールである.心不全は進行性の予後不良な病気である一方,セルフケアで再入院を防げることを患者に説明しよう.
◎看護師(体重などのセルフ・モニタリング指導),薬剤師(服薬指導),栄養士(栄養指導),理学療法士(運動療法),かかりつけ医(予防接種などのヘルスメンテナンス)にはそれぞれの役割がある.多職種で協力して患者のセルフケアを支援しよう.
◎心不全が悪化している徴候とそれに気づいたときの対処法=アクションプランを説明しておこう.

心不全の緩和ケアとは何でしょうか?

著者: 大石醒悟

ページ範囲:P.2223 - P.2229

Point
◎心不全の緩和ケアの目的は,質の高い生存を実現することにある.
◎心不全においてもアドバンス・ケア・プランニングの考え方は有用であり,今後整備されることが期待される.
◎患者にとって望ましくないと考えられる場合には治療の中断や差し控えも選択肢となる.その際には臨床倫理の考え方を用いることが有用である.

心不全のリハビリテーションについて教えてください

著者: 神谷健太郎

ページ範囲:P.2230 - P.2235

Point
◎心臓リハビリテーション(心リハ)は運動療法,カウンセリング,栄養・食事指導,服薬指導,生活指導などを含めた包括的プログラムである.
◎心リハは心不全や虚血性心疾患患者のQOL,運動耐容能の向上に加え,再入院のリスクを30〜40%低下させる重要な治療の1つである.
◎専門的な心リハが提供できない施設では他施設への紹介を考慮し,また,学会や研究班が提供している資料を用いて可能な範囲での指導を実施する.

心不全の新薬について

新しい薬:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の使い方を教えてください

著者: 小船井光太郎

ページ範囲:P.2236 - P.2241

Point
◎ARNIはナトリウム利尿ペプチド系を活性化させる,これまでにないメカニズムによる新しい心不全治療薬である.
◎PARADIGM-HF試験により,HFrEFに対するARNIの優れた有効性と安全性が示された.
◎日米の心不全ガイドラインにおいて,ステージCのHFrEFでARNIはクラスⅠ推奨である.
◎ARNIによる血圧低下には注意して導入する必要がある.

新しい薬:SGLT2阻害薬は糖尿病がなくても処方すべきですか?

著者: 三木隆幸 ,   伊野祥哉

ページ範囲:P.2242 - P.2247

Point
◎心機能の低下した心不全(HFrEF)患者を対象にした大規模臨床試験で,SGLT2阻害薬は心血管死または心不全イベントを有意に減少させた.この効果は糖尿病の有無に関係なく認められた.
◎SGLT2阻害薬は,心機能が保たれた心不全(HFpEF)に対して有効性を示した初めての薬剤である.
◎SGLT2阻害薬は心不全患者の腎保護をもたらすのみならず,慢性腎臓病患者の予後を改善することも示されている.

新しい薬:洞結節阻害薬 イバブラジンの出番はいつですか?

著者: 佐野元昭

ページ範囲:P.2248 - P.2253

Point
◎イバブラジンは洞結節に作用して心拍数を減らす薬である.
◎駆出率が低下した洞調律の心不全に対する予後改善効果が証明されている.
◎不全心筋においては,心拍出量を落とさずに,心拍数を落とすことが可能である.
◎同じ徐拍化効果のある心不全治療薬として,忍容性や運動耐容能の改善という点においてイバブラジンのほうがβ遮断薬よりも優れている.

基礎になる心疾患各論

収縮性心膜炎を疑うコツを教えてください.総合内科医も知っておくべきですか?

著者: 野口将彦

ページ範囲:P.2255 - P.2260

Point
◎収縮性心膜炎は心膜の柔軟性が失われることで心室の拡張障害をきたす疾患である.
◎説明のつかない右心不全症状(易疲労感,末梢浮腫,胸水,腹水など)を認めた場合,収縮性心膜炎を鑑別として考える必要がある.
◎原因はさまざまであり,特発性やウイルス性など特定できないことが多い.心臓外科術後,放射線治療後は収縮性心膜炎のリスクとなりうる.
◎心エコー図検査は診断に有用であり,特徴的な所見を認める.また,CTやMRI検査,心臓カテーテル検査などの所見を総合して診断を行う.
◎非専門医が出合う可能性もあり,十分に知っておく必要がある疾患である.

ATTRはどういうときに疑いますか?

著者: 泉家康宏

ページ範囲:P.2261 - P.2265

Point
◎心アミロイドーシスは病型により治療・経過・予後がまったく異なるため,アミロイドの沈着のみならず前駆蛋白を同定し病型診断まで行う.
◎トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR)はHFpEF患者の約1割を占める.もはや稀少疾患という認識は捨てなければならない.
◎心アミロイドーシスは早期の治療開始により予後を改善することができるため,疾患を示唆する所見があれば迅速に専門医にコンサルトする.

心臓サルコイドーシスの診断と治療について教えてください

著者: 奥村貴裕

ページ範囲:P.2266 - P.2271

Point
◎心臓病変(心臓サルコイドーシス)の有無,重症度が,サルコイドーシスの予後を左右する.
◎心臓以外に臓器病変が明らかでない,心臓限局性サルコイドーシス症例が存在する.
◎心臓MRIは,心筋の浮腫や線維化を検出でき,予後予測に有用である.
18F-FDG PET検査は,炎症の活動性を反映し,診断と治療効果判定に有用である.
◎治療の主体は,ステロイドによる炎症の抑制と心臓デバイスによる突然死予防である.

心不全発症予防

糖尿病患者における心不全ステージA・Bの治療およびステージCにさせない方法を教えてください

著者: 遠藤慶太 ,   鈴木利彦

ページ範囲:P.2272 - P.2278

Point
◎糖尿病は心不全のリスクであり,心不全は糖尿病のリスクである.
◎糖尿病は高血糖,インスリン抵抗性,高インスリン血症を背景として多彩な機序で心不全を起こす.
◎糖尿病治療では,心不全発症予防(ステージA,B)という観点でのエビデンスは限られている.
◎心不全における,新規糖尿病治療薬の有効性が期待される.

Column

HFpEFと診断する前に鑑別すべき心疾患

著者: 平岡栄治

ページ範囲:P.2176 - P.2178

症例
70歳女性.高血圧,心房細動で薬物治療中.呼吸困難で来院.血圧150/70 mmHg,脈拍数120回/分,下腿浮腫,頸静脈怒張,胸部X線で肺うっ血あり.心電図は心房細動.心エコーで,LVEF(left ventricular ejection fraction)55%,両心房拡大,右室拡大.三尖弁逆流,下大静脈拡張を認めた.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・8

—おなか(下腹部)が膨満している その1—尿閉のフィジカル—おなかを真横からみる

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.2093 - P.2096

 前回までは,腹痛に関するフィジカルについて解説しました.今回から第11回まで腹部膨満について解説していきたいと思います.
 皆さんは日常診療で腹部の視診をどのくらい意識されていますか.身体診察で有名な教科書としてSapiraやBatesは比較的よく知られていますが,Degowin1)は意外に知られていません.Degowinには“abdominal profile”という項目があり,腹部の視診が重要であるというメッセージがあります.Degowinによると,腹部膨隆のパターンにはいくつかあり,腹部診察を始める際には,いきなりお腹を触るのではなく,まず“おなかを真横からみる”ことが勧められています.
 さて症例を提示しましょう.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年11月30日まで公開)。

治らない咳,どう診る・どう処方する?・11

原因不明の咳嗽・喀痰

著者: 中島啓

ページ範囲:P.2280 - P.2284

ポイント
・咳嗽の原因疾患が特定できず,既知の疾患のempiric治療にも抵抗性を示す慢性咳嗽を,unexplained chronic cough(UCC)という.
・UCCとは別に,咳に過敏な状態を意味するchronic hypersensitivity syndrome(CHS)という概念がある.
・UCC/CHSと判断した場合は,ガバペンチン(本邦では保険適用外),プレガバリン(本邦では保険適用外)や,最近承認されたP2X3受容体拮抗薬(リフヌア®)などの選択枝がある.
・原因不明の咳嗽では心因性咳嗽の可能性も考慮する.

目でみるトレーニング

問題1036・1037・1038

著者: 岩崎靖 ,   亀井博紀 ,   梶原祐策

ページ範囲:P.2285 - P.2291

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・18

脳梗塞⑦MLF症候群(内側縦束症候群)/知っていると役に立つ水平眼球運動障害の臨床

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.2292 - P.2297

 救急外来をしていると,「物が二重に見える」「眩暈がする」といった主訴でコンサルトを受けることがあります.特に眼の症状は見た目が派手であるため,診察するこちらも一瞬ドキッとします.そして症状がしっかりしているだけに,パニックになってしまい,どの部分が病巣か,いまいちわからないといったことを耳にします.今回は,画像を撮る前に病巣が推定しやすい眼の症状,内側縦束(MLF)症候群を中心に解説していきます.知っているとパニックにならずに済むかもしれません!

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・15 疾患別リハビリ・運動療法の実際

非アルコール性脂肪性肝疾患

著者: 上月正博

ページ範囲:P.2299 - P.2303

 抗ウイルス薬の登場によってB型・C型ウイルス性肝炎の治療は劇的に進歩し,ウイルス性の肝硬変や肝がんが減少する一方で,非B・非C型の肝がんは増加の一途をたどっている.そこには飲酒や肥満,糖尿病,脂肪肝などの生活習慣病が大きく関わっている.非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)は,非飲洒者における内臓脂肪蓄積を基盤として発生したインスリン抵抗性などの代謝異常により,肝臓に脂肪(中性脂肪)が過剰沈着した状態を示し,脂肪肝,脂肪肝炎,肝硬変を含む一連の疾患であり,メタボリックシンドロームの表現型の1つである.わが国ではNAFLD患者は生活習慣の欧米化とともに年々増加している1)
 NAFLDは,病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)と,脂肪変性・炎症・肝細胞障害を伴い肝硬変や肝がんへ進行し得る非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に分類される.NAFLとNASHは一連の病態であるが,その進展メカニズムに関しては遺伝的背景の関与などが示唆されているものの十分には解明されていない.NAFLとNASHの鑑別には,肝生検による組織学的検査がゴールドスタンダードである.しかし,出血などの問題があり,手軽に行える検査ではない.近年ではMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体やオートタキシンなどの新規バイオマーカー,超音波やMRIによって肝弾性硬度を測定するエラストグラフィーといった低侵襲的な診断方法も開発されている.本稿では,NAFLDに対するリハビリテーション(以下,リハビリ)・運動療法を解説する.

続・ケースレポートを書こう! “論文の軸の設定”トレーニング・11

重症COVID-19肺炎治療中に気管挿管チューブ閉塞をきたした症例〜稀もしくは新規の病気・病原体における注意喚起〜

著者: 杉本龍 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.2304 - P.2308

 今回は,ケースレポートにできる症例(①ある疾患の新規な症状・所見・経過,②ある薬剤の新規な副作用・薬剤相互作用,③2つの疾患間に予想外の関連性,④ある疾患の新規な診断方法,⑤ある疾患の新規な治療方法,予想外の治療効果,⑥稀もしくは新規の病気・病原体)のうち,⑥に該当する症例を提示する.
 次の症例提示1)を読んで,第1新規性,第2新規性(または臨床的有用性)について考えてみよう.

書評

—小坂 鎮太郎・松村 真司 編—外来・病棟・地域をつなぐ ケア移行実践ガイド

著者: 小西竜太

ページ範囲:P.2175 - P.2175

 本書のケア移行をすべての医療・介護従事者が心掛けたら,この国の健康寿命,患者さんのQOLや幸福度,そして医療・介護従事者のやりがい,すべてが向上するに違いない.
 本書には医療・介護現場におけるケア移行という観点で,望ましい情報コミュニケーションの実践知が詰め込まれています.特に素晴らしいのは,「相手を思いやる精神論」「顔の見える関係づくり」や「コミュニケーションテクニック」を披露するものではなく,あくまでもケア移行に必要な情報整理に絞って解説している点になります.さらには多様な現場やケアプロセスにおけるアセスメントツールも紹介されており,情報の精度をさらに高めることができるでしょう.

—胃と腸 Vol. 57 No. 5 2022年5月号(増刊号)—図説「胃と腸」画像診断用語集2022

著者: 小野敏嗣

ページ範囲:P.2216 - P.2216

 本書を手に取って直感的に感じる重厚感はその物理的な特性によるものだけではないだろう.
 消化管内視鏡領域の名門『胃と腸』編集委員会がまとめあげた増刊号としての用語集は,「図説『胃と腸』所見用語集2017」など,これまでにも多くの名著がある.初心者に向けた基本から熟練医のための最前線の知識まで網羅しているその完成形は,単なる教科書という枠を超え,各執筆者が消化管内視鏡学に込める情熱が織りなす,もはや1つの作品と言っても過言ではあるまい.

—千葉 一裕 監修 堀内 圭輔 著—医学英語論文 手トリ足トリ—いまさら聞けない論文の書きかた

著者: 戸口田淳也

ページ範囲:P.2298 - P.2298

 著者の堀内圭輔先生とは整形外科の臨床における専門領域を共有していることから,以前より親交を深めていただいている.同時に基礎生物学の研究にも従事されていることから,私が編集委員を務めている学術誌に投稿された論文の査読をしばしばご依頼申し上げている.大きな声では言えないが,査読者のreviewの質は,いわゆるピンキリである.そのなかで著者のreviewは,内容を十分理解したうえで,研究の目的は論理的なものであるのか,実験計画に見落としがないのか,結果の解釈は妥当であるのか,そして結論は結果から推定されるものなのかという点について,毎回きわめて適切なコメントをいただいている.たとえ最終的な意見がrejectであっても,投稿者にとって有用なアドバイスとなるコメントをcomfortable Englishで提示され,いつも敬服していた.本書を一読して,なるほど論文を書くということに対して,このような確固たる姿勢をもっておられるから,あのようなreview commentが書けるのだと納得した次第である.
 著者が述べているように,学術論文とは情報を他者と共有するためのツールである.SNSを介しての情報共有と異なる点は,情報の質,信頼性に関して,複数の専門家が内容を吟味したうえで公開されることである.そして公開された情報に基づいてさらに深く,あるいは広く研究が行われ,その成果が再び学術論文として公開されていく.つまり学術論文を書くということは,小さな歩みであるかもしれないが,科学の進歩に貢献するということであり,自分の発見したことを,わくわくする気持ちで文章にするということである(私の大学院生時代のボスは,Nature誌に単独著者で“I found”で始まる論文を書かれていた!).

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目次

ページ範囲:P.2098 - P.2100

読者アンケート

ページ範囲:P.2309 - P.2309

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2310 - P.2311

購読申し込み書

ページ範囲:P.2312 - P.2312

次号予告

ページ範囲:P.2313 - P.2313

奥付

ページ範囲:P.2314 - P.2314

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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