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雑誌目次

雑誌文献

medicina59巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

著者: 氏家無限

ページ範囲:P.418 - P.419

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とは,困難に苦しんだことでも,過ぎ去ってしまえば,その苦しさも簡単に忘れてしまうことを意味することわざだが,ワクチンの扱われ方にもそんな一面がある.予防接種を受けることで獲得される免疫は,将来の罹患するかもしれない感染症を予防してくれるので,接種を受けた個人はその恩恵を自覚することができない.接種を受けていない人と比較することで初めてその効果を客観的に確認することができる.つまり,普段から定期接種などで当たり前に使用しているワクチンで得られている恩恵を実感する機会はほとんどない.社会の衛生環境や医療体制が改善し,感染症の疾病負荷が軽減されると,ワクチン接種後の有害事象がよりクローズアップされるようになり,1990年代頃から続くワクチンの積極的な利用や開発を軽視する風潮は,ワクチンギャップなどの原因となり,現在もその影響が継続している.
 ただし,新興感染症が社会問題化すると,既存のワクチンがないため状況は異なる.2009年に問題となった新型インフルエンザの流行では,結果的に病毒性が低く季節性インフルエンザと同様となったが,ワクチン活用の重要性が見直され,2013年度より約20年ぶりに予防接種法に基づく定期接種が大きく刷新されるきっかけとなった.そして,2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックでは,改めて予防対策の必要性,ワクチンの重要性が再認識されることとなった.全成人が新たに開発された新型コロナワクチンの対象とされるなか,社会全体でワクチンの活用を改めて考え直し,今後の日常診療でも予防医療の在り方を見直すきっかけとしたい.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.420 - P.424

●今月の特集執筆陣による出題です.成人のワクチンに関連する理解度をチェックしてみましょう!

ライフコース予防接種の概要

ライフコース予防接種の必要性と実践

著者: 氏家無限

ページ範囲:P.426 - P.431

Point
◎ライフコース予防接種(生涯を通した予防接種)の取り組みを積極的に推進することは,個人の健康増進に留まらず,社会の戦略的健康・経済政策として有効である.
◎予防接種は感染症疾患に対する最も費用対効果の高い介入方法であり,医療従事者は,さまざまな医療機関への受診機会をとらえて,適切な予防接種にキャッチアップできるよう働きかけることが重要である.
◎予防接種の適応は個々のリスクベネフィットバランスの評価により決定され,接種回数や接種間隔についても各ワクチンや予防する疾病の特性に合わせて判断する.
◎ワクチンを適切に接種するため,承認を受けた用法および用量に従い,接種経路や年齢・体型に合わせた接種器具の選択および接種手技を行う.
◎予防接種の記録は継続的に適切な予防接種を受けるために重要となることから,予防接種を実施した際には必ず必要な情報を記録として被接種者に提供するように努める.

予防接種に関するコミュニケーション

著者: 堀成美

ページ範囲:P.432 - P.435

Point
◎反ワクチン活動は,直接関わるのではなく巻き込まれる人を減らすことが重要である.
◎統計データよりも物語性のある情報のほうが感情や行動の変化につながるメッセージ性をもつ.
◎考え方が変わったとき・標準的な接種プランからずれた際の相談窓口をつくろう.

予防接種を必要とする成人 〈年代別〉

20代などの若い世代

著者: 中山久仁子

ページ範囲:P.436 - P.441

Point
◎20代などの若い世代に必要なワクチンは,個人の状況によって異なる.
◎小児期の定期接種の打ち損じ,年齢に合わせて必要なワクチン,基礎疾患や活動に合わせて必要なワクチンなど,その人に必要なワクチンを確認して,接種する.

高齢者

著者: 高山義浩

ページ範囲:P.442 - P.445

Point
◎高齢者の感染症については,「いかに治療するか」よりも,「いかに予防するか」にこそ力点が置かれる必要があり,予防できる疾患を予防するためにもワクチンの重要性が高まっている.
◎予防接種とは,数ある予防策のうちの一つであり,その人のライフスタイルに応じて,実行可能なものを組み合わせていくことが必要である.その他の感染予防策も併せて伝えていくことが望ましい.
◎新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンを接種する目的とは,感染を回避するためというより,重症化を予防するためと理解いただくのがよい.

〈基礎疾患を持つ人〉

免疫不全者—がん患者へのワクチン接種について

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.446 - P.452

Point
◎個々のがん患者における感染症リスクは異なる.
◎がん患者が感染症に罹患した場合,がん診療への影響(治療の遅れ・中止)も懸念される.
◎健常人よりワクチンの効果は劣るが,一定の効果は示されており接種が推奨される.
◎インフルエンザ,新型コロナウイルスに関しては患者家族への接種も推奨される.

無脾症

著者: 岩元典子

ページ範囲:P.454 - P.457

Point
◎解剖学的・機能的無脾症は,莢膜をもつ細菌による重症感染症のリスクが高い.
◎脾臓摘出後重症感染症(OPSI)の予防には,患者教育,ワクチン接種が有用であり状況に応じて予防的抗菌薬を考慮する.
◎肺炎球菌ワクチンはPCV13およびPPSV23の接種歴に応じて推奨が異なる.

糖尿病

著者: 千葉大

ページ範囲:P.458 - P.462

Point
◎糖尿病は幅広く免疫システムに影響があることから,ワクチンによる感染予防がより積極的に推奨される.
◎糖尿病があると,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へ罹患した場合の予後が悪い.したがって,感染予防対策の一環として積極的なワクチン接種が望ましい.
◎糖尿病患者で有益性が立証され接種が推奨されるワクチンにCOVID-19,季節性インフルエンザ,肺炎球菌,帯状疱疹,B型肝炎,破傷風がある.

循環器疾患

著者: 佐田誠

ページ範囲:P.463 - P.467

Point
◎呼吸器感染症だけでなく,一般的に感染症に罹患すると心血管系には大きな負担がかかる.
◎インフルエンザワクチンには,感染予防以外のメカニズムによる心保護効果がある可能性が指摘されている.
◎副反応としての頻度は極めて低いものの,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチン接種後の心筋炎・心膜炎,ウイルスベクターワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症(TTS)に注意が必要である.
◎ジフテリア急性期の死亡原因の60〜70%は心筋炎であり,心臓疾患患者におけるワクチン接種の意義は大きい.
◎水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は皮膚病変だけでなく,炎症性の血管病変を引き起こし,出血病変や虚血病変の発症リスクを高める.

HIV感染症

著者: 菅沼明彦

ページ範囲:P.468 - P.474

Point
◎HIV感染者は,HIV感染症と同一の感染経路を有する他の感染症に罹患するリスクがある.
◎不活化ワクチンに絶対的な禁忌はないが,生ワクチンについては禁忌となるものと,一定の条件下で接種可能なものとがある.
◎CD4陽性リンパ球数,HIV-RNA量などの因子が,ワクチンの適応や効果に関連することを考慮する.

肝疾患

著者: 四柳宏

ページ範囲:P.475 - P.477

Point
◎肝疾患患者に対するワクチン接種を考える際には肝機能,免疫応答が低下していることを考慮する.
◎A型肝炎ワクチン,B型肝炎ワクチンは慢性肝疾患患者に対する接種が推奨されるワクチンである.
◎肺炎球菌ワクチンは脾摘を受けている患者には必須である.その他の場合も積極的に考慮すべきである.
◎新型コロナウイルスワクチンは肝硬変患者においては特に必要性が高い.
◎インフルエンザワクチンも肝硬変患者の接種すべきワクチンである.

肺疾患,喘息

著者: 丸山貴也

ページ範囲:P.478 - P.480

Point
◎肺疾患や喘息を基礎疾患に有する人は,肺炎を発症し,重症化するハイリスクとされ,インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される.
◎肺疾患(特にCOPD)を基礎疾患に有する人は,COVID-19重症化のハイリスクとされ,特にCOVID-19ワクチン接種が重要である.
◎肺疾患や喘息でステロイドや免疫抑制薬の投与を受けている人は帯状疱疹発症のハイリスクとされ,帯状疱疹ワクチンの接種が推奨される.

腎疾患

著者: 佐藤光博 ,   高橋健介

ページ範囲:P.482 - P.486

Point
◎慢性腎臓病(CKD)患者は,腎機能低下や免疫抑制療法によって免疫機能が低下しており,感染症のハイリスク群である.
◎肺炎球菌ワクチン,インフルエンザワクチンは複数の腎臓領域のガイドラインにおいて接種するよう推奨や提案がなされている.
◎CKDの原疾患によっては免疫抑制薬を投与されている場合もあり,弱毒化ワクチンの接種に際しては注意を要する.
◎CKD患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高く,COVID-19ワクチンの接種が推奨されている.

〈その他〉

妊婦

著者: 稲葉可奈子

ページ範囲:P.487 - P.489

Point
◎①妊娠中に感染すると重症化しやすい,②胎児に悪影響が生じうる,③出生後の乳児が感染すると重症化しやすい感染症はワクチン接種による予防が推奨される.
◎妊娠中に接種が推奨されるワクチンは,インフルエンザワクチン,新型コロナワクチン,百日咳ワクチンである.
◎生ワクチンは妊娠中に接種できない.麻疹・風疹ワクチンは妊活開始前の接種が推奨される.
◎妊娠中はさまざまな不安がある.ワクチン接種に対しても不安や質問がある場合には丁寧な説明が望ましい.

医療関係者

著者: 金井信一郎

ページ範囲:P.490 - P.493

Point
◎麻疹・風疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・水痘ワクチン(MMRVワクチン)はすべての医療関係者が対象で,「2回」の予防接種記録が重要である.抗体価を測定し,必要な回数を接種することもできるが,抗体価の基準を満たすまで接種を続ける必要はない.
◎B型肝炎ワクチンは患者や患者の血液・体液に接する可能性のあるすべての医療関係者が対象になる.免疫獲得者の抗体価検査や追加のワクチン接種のポリシーを施設で決めておく.
◎インフルエンザワクチンは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下においても,すべての医療関係者で接種が推奨される.
◎新型コロナワクチンはすべての医療関係者で接種が推奨される.ワクチン接種完了者は曝露後に必ずしも濃厚接触者とする必要はなく,厳重な健康観察と感染対策の実施の上,勤務継続が可能である.

海外渡航者

著者: 福島慎二

ページ範囲:P.494 - P.498

Point
◎海外渡航者は,渡航する国や地域に応じたトラベラーズワクチンだけでなく,日本国内で通常接種するワクチン(ルーチンワクチン)を年齢相応に接種することが大切である.
◎トラベラーズワクチンの選択や優先順位は,渡航国や地域だけでなく,現地で流行している感染症の特性やワクチンの有効性と安全性,渡航者の情報をもとに検討する.
◎渡航国に出入国する際に必要なトラベラーズワクチンの有無を確認する.
◎渡航国や地域が同じでも,滞在期間,渡航目的によってリスクが異なる.特に,途上国の友人や親戚などを訪ねる渡航者(visiting friends and relatives:VFR)がハイリスクと言われる.
◎医師が国内未承認のワクチンを個人輸入して,日本で使用する場合がある.しかし,重篤な健康被害が発生した場合,補償制度がなく医師個人の責任となるため注意が必要である.

成人を予防する代表的なワクチン 〈新型コロナワクチン〉

新型コロナワクチンの臨時接種の制度

著者: 成澤学

ページ範囲:P.499 - P.503

Point
◎新型コロナワクチンは予防接種法における臨時接種に分類されるが,ウイルスの病原性・感染力などの特性から,費用負担などの点で従来の臨時接種とは異なる扱いとなっている.
◎努力義務とは,必要な予防接種を国が勧め,国民がこれを受けるよう努めなければならないという予防接種法の規定のことであるが,最終的な接種の判断についてはあくまでも接種対象者本人に委ねられている.
◎新型コロナワクチンの初回接種(1回目および2回目接種)に引き続き,追加接種(3回目接種)が実施されている.
◎予防接種後の副反応について,迅速に情報収集される副反応疑い報告制度が設けられている.
◎副反応による健康被害は,きわめて稀ではあるが不可避的に生じるものであり,その救済を目的とした予防接種健康被害救済制度が設けられている.

国内で使用可能な新型コロナワクチン①—疾患の疫学,利用可能なワクチン製剤,接種方法

著者: 神谷元

ページ範囲:P.504 - P.508

Point
◎国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年1月〜2021年11月までに5回の患者の大規模発生(集積)を認めている.
◎国内のCOVID-19の疫学は20〜40歳台が中心となっているが,重症患者は高齢者に多くなっている.
◎2021年11月現在,国内では3つの新型コロナワクチンが薬事承認されているが,それぞれ特徴があるので正しく理解して接種することが重要である.

国内で使用可能な新型コロナワクチン②—接種対象者,有効性および安全性

著者: 守屋章成

ページ範囲:P.510 - P.516

Point
◎国内で使用可能なmRNAワクチン2剤およびウイルスベクターワクチン1剤は,いずれも治験第Ⅲ相および市中観察研究の双方で高い感染予防効果および重症化予防効果を示してきた.
◎デルタ株の優勢および経時変化による免疫低下を示す研究が出始めているが,バイアスの可能性も強く,解釈は慎重になるべきである.
◎貧困国の接種割合が未だ低迷しているなかで日本をはじめとする富裕国がブースター接種導入を進めることについて,グローバルな視点からの懸念がある.
◎新型コロナワクチンに関する研究・エビデンスは追加更新が目まぐるしいため,常に最新の情報に当たる必要がある.

〈成人への定期接種〉

定期接種制度

著者: 成澤学

ページ範囲:P.518 - P.520

Point
◎予防接種法における定期接種には,A類疾病とB類疾病があり,B類疾病の対象疾病にはインフルエンザと高齢者の肺炎球菌感染症が分類されている.
◎B類疾病に対する予防接種の目的は,集団予防を主たる目的としたA類疾病とは異なり,主に個人予防に重点が置かれている.
◎B類疾病におけるインフルエンザワクチンの接種対象者は,65歳以上の高齢者と,60歳以上65歳未満の人で,心臓,腎臓あるいは呼吸器疾患またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能異常のある人である.
◎予防接種法のB類疾病における肺炎球菌ワクチンを定期接種として受けられる回数は1回のみである.

インフルエンザワクチン

著者: 新庄正宜

ページ範囲:P.522 - P.525

Point
◎毎年1〜2月に流行ピークのあるインフルエンザは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行開始後の2020/21年シーズンに流行しなかった.
◎日本では,毎年の4価不活化ワクチン(皮下)の接種が,予防に用いられる.
◎任意接種のほか,高齢者などには予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)がある.
◎特に最近のA(H3N2)型への効果が低い理由に,ワクチンの卵馴化が影響していると考えられている.
◎各学会や関連団体から,2021/22年シーズンの予防接種が推奨されている.

肺炎球菌ワクチン

著者: 永井英明

ページ範囲:P.526 - P.529

Point
◎超高齢社会である日本では高齢者の肺炎による入院・死亡が多く,ワクチンの接種率を上げて肺炎球菌性肺炎の予防を目指すことは医療政策上きわめて重要である.
◎成人に使用できる肺炎球菌ワクチンは,PPSV23とPCV13である.
◎血清型置換と間接効果により両ワクチンの血清型カバー率が低下し,それぞれのワクチンの臨床効果が減弱する可能性が高く,血清型のサーベイランスがきわめて重要である.
◎肺炎球菌感染症を発症しやすいハイリスク者にはPCV13-PPSV23の連続接種が推奨されている.

〈成人への任意接種〉

麻疹ワクチン

著者: 山元佳

ページ範囲:P.531 - P.535

Point
◎麻疹は感染力が高く,成人で重篤になる感染症である.
◎麻疹排除国は多く存在するが,根絶が非常に難しい疾患である.
◎疾患の好発は20代以降になってきている.
◎ワクチン効果の持続性は比較的長いが,日本では2回接種ができていない成人が多い.
◎20〜40代の成人においてはワクチンの追加接種が推奨される.

風疹ワクチン

著者: 多屋馨子

ページ範囲:P.537 - P.541

Point
◎風疹と臨床診断したら全例でウイルス遺伝子検査の実施が求められる.
◎最近10年間に2回の大規模な風疹流行が発生し,51人の児が先天性風疹症候群と診断された.
◎昭和37(1962)年4月2日〜昭和54(1979)年4月1日生まれの男性は小児期に風疹の定期接種の機会がなかったことから,風疹抗体保有率が低い.
◎風疹追加的対策の実施率が20%台と低く,さらなる啓発が必要である.
◎女性は妊娠前に,小児期を含めて合計2回の風疹含有ワクチンの接種記録を確認する.

破傷風ワクチン

著者: 靑木一晃 ,   山本舜悟

ページ範囲:P.542 - P.545

Point
◎破傷風は現在でも国内で年間100例ほど発生している感染症である.
◎破傷風はワクチン接種で予防可能な疾患である.
◎外傷患者で過去の破傷風ワクチン接種歴がないと思われる年齢層あるいは問診で接種歴がないと判明した場合は破傷風予防をしておく.

百日咳ワクチン

著者: 堀越裕歩

ページ範囲:P.546 - P.548

Point
◎百日咳を含むワクチンは,小児の4種混合DTaP-ポリオワクチンの定期接種に加えて,5〜6歳,11〜12歳で3種混合DTaPワクチンによる追加免疫が推奨されている.
◎成人の接種では,3種混合DTaPワクチン(トリビック®)が適応を有する.
◎成人における接種の積極的な対象者は,重症化や死亡するリスクが高い乳児と接触の可能性がある者となり,医療関係者,福祉や保育・教育関係者,その学生,親などの子どもの保護者となる者が挙げられる.

HPVワクチン

著者: 川名敬

ページ範囲:P.549 - P.552

Point
◎ヒトパピローマウイルス(HPV)のうち,HPV16,18型に代表されるハイリスクHPVは上皮細胞に持続感染することで,感染細胞からがん細胞へと変化することがある.特に女性の子宮頸部はがん化しやすいため,子宮頸癌は若年発症,かつ発生数が圧倒的に多い.
◎HPV 6, 11型は尖圭コンジローマの原因の1つである.これらのHPV感染の感染制御には,HPVワクチンが有効であることが証明されている.
◎HPVワクチンは感染予防ワクチンであり,重症化予防や治療効果はないことから既感染者へのワクチン接種は推奨されていない.

帯状疱疹ワクチン

著者: 宮津光伸

ページ範囲:P.554 - P.561

Point
◎国内で入手可能な帯状疱疹ワクチンとして,乾燥弱毒生水痘ワクチンと乾燥組換え(サブユニット)帯状疱疹ワクチン「シングリックス®」があり,どちらも50歳以上を対象としている.
◎生ワクチンは,海外の同種ワクチンのデータで効果はせいぜい5年間,その効果は60歳台では64%,80歳以上では18%と低下する.シングリックス®は10年間以上有効とされ,50歳以上で97%,90歳台でも91%で,7.1年後のデータでも84%の有効性が提示されている.
◎シングリックス®は免疫機能の低下した自家造血幹細胞移植施行者およびHIV感染者においても安全性が評価されている(海外第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験 ZOSTER-001試験,ZOSTER-015試験).
◎2017年10月25日,米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)の両ワクチンの位置付けとして,「帯状疱疹および関連合併症の予防目的としては生ワクチンよりもサブユニットワクチン(シングリックス®)のほうが望ましい」と声明を出している.

黄熱ワクチン

著者: 守屋章成

ページ範囲:P.562 - P.566

Point
◎黄熱はアフリカ大陸および南米大陸の熱帯にのみ浸淫し,主としてネッタイシマカが媒介する.
◎黄熱ワクチンは1回接種で高い感染予防効果が得られ,数十年間維持される.
◎浸淫国・地域およびネッタイシマカ生息国・地域の多くで,入国・入域時に予防接種国際証明書(イエローカード)の提示義務が課される.
◎黄熱ワクチンには妊婦の禁忌のみならず,授乳婦,胸腺疾患患者などの禁忌,および高齢者,多発性硬化症患者などの接種注意という特有の制約がある.

Column

ブースター接種の有効性と安全性

著者: 氏家無限

ページ範囲:P.509 - P.509

 国内における新型コロナウイルスワクチン3回目のブースター(追加)接種は,18歳以上に対して2回接種から6カ月後以降に行う方法で,ファイザー製ワクチンでは2021年11月11日,モデルナ製ワクチンでは12月16日に特例承認の適応が追加された.
 ファイザー製ワクチンについては,3回目の接種を受けることで,従来ウイルスに対する中和幾何平均力価(GMT)が2回目接種後の5〜7倍以上に上昇することが報告されている1).プラセボ接種群と比較した,ファイザー製ワクチンブースター接種1週間後〜2カ月後までの有効性は約95%の発症予防効果を認め2),先行して2021年7月末にブースター接種を承認したイスラエルでの観察研究においては,2回接種者400万人以上の評価で,ブースター接種を受けることで,受けなかった人に比べて感染リスクを10倍,60歳以上での重症化リスクを18倍低減したとされる3).また,同様に80万人以上の評価では,ブースター接種を受けることで50歳以上の2回接種者と比較して90%の死亡抑制効果が報告されている4)

オミクロン変異に対するワクチンの有効性

著者: 氏家無限

ページ範囲:P.517 - P.517

 2021年11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)に報告された新たな新型コロナウイルスの変異体,B.1.1.529(オミクロン)は,2021年12月末までの評価においては,上気道でのウイルス増幅能が高く,伝播性はデルタ変異ウイルスと同等,過去の感染やワクチン接種によって誘導された免疫からの逃避能をもつことから,これまでの流行以上に短期間で感染者数が急増し,ワクチン接種後のブレイクスルー感染が生じやすいと報告されている1)
 英国での評価報告ではファイザー製ワクチン接種から2〜4週間後の発症予防効果は約60%であり,15週間後以降では20%未満に低下するとされる1).有効性の高いmRNAワクチンであっても,2回の接種での発症予防効果を維持できる期間は限定的であるが,各製薬企業によれば,ブースター接種を受けることでオミクロン変異ウイルスに対する抗体価はファイザー製ワクチンで約25倍,モデルナ製ワクチンで約37倍に上昇するとされる.英国の暫定的な評価においても,ファイザー製ワクチンのブースター接種2〜4週間後の発症予防効果は約70%となり,10週以上経過すると45%まで低下する.また,モデルナ製ワクチンでも同様に接種後に約75%に改善し,9週間後までは効果を維持できるとされる.これらのことから,各国はブースター接種を急いでおり,欧米中心に2回目接種から4〜5カ月後のブースター接種が推奨されるようになった.また早期にブースター接種を導入したイスラエルのように高齢者や免疫不全者に対して,4回目の新型コロナウイルスワクチンの接種を開始した国も認められる.

連載 読んだら,ちょいあて! POCUSのススメ・12

POCUSで診断する肺塞栓症

著者: 藤原美佳

ページ範囲:P.409 - P.413

 あなたが初期研修医と病棟で回診していると,病棟看護師が入院患者の呼吸状態が悪化したため,診察してほしいと言ってきました.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年2月28日まで公開)。

治らない咳,どう診る・どう処方する?・3

初診での喀痰の診かた

著者: 中島啓

ページ範囲:P.568 - P.571

ポイント
・喀痰は,漿液性(無色透明でサラサラ),粘液性(無色から白色でネバネバ),膿性(黄緑色でネバネバ)に分類される.
・膿性痰は,ウイルス感染でも認めるため,必ずしも細菌感染を意味するわけではない.
・喀痰に咳嗽を伴う場合は,咳嗽に関する鑑別診断のフローに則って原因を考える.
・喀痰治療の原則は,原疾患の治療である.喀痰治療薬の投与は,1剤から開始して,効果が乏しければ他剤に変更または併用を考える.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・7 疾患別リハビリ・運動療法の実際

末梢動脈疾患

著者: 上月正博

ページ範囲:P.572 - P.577

 末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)とは,脚や腕を栄養する動脈の狭窄や閉塞により虚血状態を引き起こすものであり,脚では歩行時に「足がしびれる・痛い・冷たい」などの症状が現れる.疾患が進行すると間欠性跛行や安静時痛を生じ,足潰瘍や壊疽で手術が必要になることもある.近年,生活習慣病を基礎とする動脈硬化性疾患は増え続けており,虚血性心疾患,脳血管疾患などとともに,このPADも増加している.今回はPADのリハビリテーション(以下,リハビリ)について解説する.

目でみるトレーニング

問題1012・1013・1014

著者: 明保洋之 ,   西脇宏樹 ,   島惇

ページ範囲:P.578 - P.584

続・ケースレポートを書こう! “論文の軸の設定”トレーニング・3

腹腔内リンパ節腫脹をきたした29歳女性〜ある疾患の新規な症状・所見・経過〜

著者: 見坂恒明

ページ範囲:P.586 - P.590

 今回も前回に引き続き,ケースレポートにできる症例(①ある疾患の新規な症状・所見・経過,②ある薬剤の新規な副作用・薬剤相互作用,③2つの疾患間に予想外の関連性,④ある疾患の新規な診断方法,⑤ある疾患の新規な治療方法,予想外の治療効果,⑥稀もしくは新規の病気・病原体)のうち,筆者が最も論文化している①のタイプに該当する症例を提示する.特に今回は,症例の新規性がそれほど高くない場合に“論文の軸の設定”をどうすればよいのかを学んでほしい症例である.
 では,次の症例提示1)を読んで,第1新規性,第2新規性(または臨床的有用性)について考えてみよう.

書評

—丹羽 潔,武藤 芳照 著—頭痛外来ガイド—エキスパート解説&専門医も驚くトリビア 便利なセルフチェック付

著者: 西山和利

ページ範囲:P.453 - P.453

 新興医学出版社から上梓されたばかりの『頭痛外来ガイド』をお届けいただいた.著者の一人である丹羽潔先生は都内に頭痛専門クリニックを開業し,多くのテレビ番組で頭痛の解説をしておられる頭痛の大家である.年齢的には評者と同世代ではあるが,頭痛診療においては評者が師として尊敬する人物である.そのように著者を詳らかに知る者として『頭痛外来ガイド』を読ませていただいた.
 大学病院に勤める評者は外来で最も多い主訴の1つが頭痛であると学生に教えている.しかし本邦では頭痛を専門にしている大学医局や大学教授は決して多くはなく,頭痛だけで会社や学校を休むことは容易ではないのが日本社会の現状である.日本の頭痛が「たかが頭痛」と言われるゆえんである.しかし実際には頭痛の診断は難しく,時として治療も難しい.脳神経内科専門医である評者ですらそのように感じるのである.一次性頭痛の診断には,この検査で陽性ならこの診断といった簡単な診断のレールは敷かれていないのが一因である.が,よくわからないからと頭痛薬を盲目的に多用していると薬剤乱用性頭痛という泥沼にはまっていく.また頭痛を主訴として来院した患者が,その後の検査で生命にかかわる怖い頭痛,すなわち二次性頭痛,であったと判明して肝を冷やした脳神経内科医や脳神経外科医は少なくないはずである.しかも本邦には頭痛に苦しむ患者さんは実に4,000万人もおられ,頭痛のために社会が負う損失は日本だけでも毎年3,000億円以上である.つまり「たかが頭痛」と軽んじられてはいるが,実は「されど頭痛」なのである.

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目次

ページ範囲:P.414 - P.416

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ページ範囲:P.591 - P.591

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.592 - P.593

購読申し込み書

ページ範囲:P.594 - P.594

次号予告

ページ範囲:P.595 - P.595

奥付

ページ範囲:P.596 - P.596

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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