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雑誌目次

雑誌文献

medicina59巻7号

2022年06月発行

雑誌目次

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

著者: 上原由紀

ページ範囲:P.990 - P.991

 感染症は臓器横断的疾患であり,内科のみならず他の領域でも必ず遭遇する疾患である.感染症診療は,丁寧な問診や全身の診察で感染巣を突き止め,原因微生物を突き止め,最適な抗菌薬を投与し,その効果を判断する…という地道な作業の繰り返しである,という考え方が21世紀最初の20年でようやく浸透しつつあると感じていたが,2020年からの新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴って状況は一変し,「発熱患者の診察は短時間で患者との長い会話は交わさず,できるだけ接触しないで行う」という,感染症診療の基本姿勢とは真逆のことが要求される事態となった.
 人間が罹患する疾患は新型コロナウイルス感染症だけではないはずだが,新型コロナウイルスのPCRの結果のみが重要視され,「PCRが陰性であることは確認済」等々,その後の思考停止の言い訳・免罪符のように使われる場面もしばしば見受けられる.結果として不必要な抗菌薬の処方や広域スペクトラム抗菌薬の処方が増加すること,薬剤耐性菌が増加することなどが懸念されている.これはある意味新型コロナウイルス感染症にわれわれが翻弄されている結果とも言える.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.992 - P.996

●今月の特集執筆陣による出題です.抗菌薬の使い方に関する理解度をチェックしてみましょう!

抗菌薬を処方する前に知るべきこと

抗菌薬のスペクトラムを俯瞰する

著者: 羽田野義郎

ページ範囲:P.999 - P.1002

Point
◎抗菌薬スペクトラムを考えるうえで大きくグラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,横隔膜下の嫌気性菌(Bacteroides属),その他,というように考えると便宜上理解しやすい.
◎グラム陽性球菌は,レンサ球菌・肺炎球菌,腸球菌,ブドウ球菌のカバーの違いを意識する.グラム陰性桿菌は,腸内細菌目細菌(PEKとnon-PEK),ブドウ糖非発酵菌の違いを意識する.
◎嫌気性菌については横隔膜上・下の微生物を意識する.その他の代表的な微生物は,細胞内寄生菌,スピロヘータ,リケッチアなどである.
◎メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌など臨床で問題となる耐性菌は別個に考える.

PK/PDを理解する

著者: 枦秀樹

ページ範囲:P.1004 - P.1011

Point
◎抗菌薬のPDはin vitroでの抗菌薬の濃度と細菌の増殖抑制効果の関係である最小発育阻止濃度(MIC)で代替される.
◎抗菌薬の投与量を標的臓器における濃度に変換し,起因菌の感受性を組み合わせれば,患者個々の感染症治療の最適化につなげることができる.
◎抗菌薬の効果的なPDを得るためにはPKの概念を考慮して投与設計を行うことが必要である.
◎PKは複合要因により影響を受ける.要因として主に患者背景と病態がある.それぞれの場合の変動を考慮する必要がある.

抗菌薬サイドから考える抗菌薬の使い方

ペニシリン系

著者: 篠原浩

ページ範囲:P.1012 - P.1017

Point
◎ペニシリン系抗菌薬は時間依存性の薬剤であるが血中半減期が短く,十分な効果を得るためには頻回投与もしくは持続投与が必要である.
◎ペニシリンアレルギーを申告する人の割合は多いが,そのなかで真のペニシリンアレルギーは少なく,丁寧に評価することが重要である.
◎大腸菌をはじめとする腸内細菌目細菌のペニシリン系抗菌薬(ひいてはβ-ラクタム系抗菌薬全体)の感受性率は低下傾向にあり,これら細菌をターゲットとした初期投与薬を選択する際にはlocal factorの把握が重要である.

セフェム系,モノバクタム系

著者: 上田晃弘

ページ範囲:P.1018 - P.1022

Point
◎セフェム系抗菌薬はグラム陽性球菌を主な治療対象とする薬剤から緑膿菌を含むグラム陰性桿菌までカバーする薬剤まで種類は豊富である.代表的な薬剤について個別にスペクトラムや特徴を理解する.
◎モノバクタム系抗菌薬はセフェム系,ペニシリン系抗菌薬などのβ-ラクタム系抗菌薬に含まれるが,交差アレルギーは稀とされる.このため,これらの薬剤にアレルギーがある場合で,緑膿菌を含めた好気性グラム陰性桿菌を対象とする場合に良い適応となる.

カルバペネム系

著者: 笹原鉄平

ページ範囲:P.1024 - P.1028

Point
◎カルバペネム系抗菌薬(以下,カルバペネム系薬)の特徴は,微生物に対する高い活性と,広い抗菌スペクトラムである.
◎一方,カルバペネム系薬は,感染症治療の切り札となることから,厳格な適正使用が求められる.
◎日本ではカルバペネム系経口薬も発売されているが,これも厳格な適正使用が求められる.
◎カルバペネム系薬の使用時には,特に中枢神経系副作用に注意する必要がある.

アミノグリコシド系

著者: 清水真澄

ページ範囲:P.1029 - P.1033

Point
◎アミノグリコシド系抗菌薬はグラム陰性桿菌(GNR)に対して主に用いられる.腎・耳毒性に注意し,血中濃度測定が必要である.
◎併用療法の立ち位置について理解して使用する.
◎薬剤耐性GNR,結核・非結核性抗酸菌治療の治療にも活躍する.

ニューキノロン系

著者: 根井貴仁

ページ範囲:P.1034 - P.1037

Point
◎ニューキノロン系抗菌薬(以下,ニューキノロン)はグラム陰性,陽性にかかわらずたいていの一般細菌に対して効果があり,さらに非定型菌や結核などの抗酸菌にも効果がある,非常に広範囲なスペクトラムをもつ抗菌薬である.
◎半減期が長時間であり,内服薬でも腸管吸収性に優れるという使いやすさが大きな売りであったが,乱用される傾向が強く耐性化の問題が非常に深刻である.
◎副作用がほとんどないと誤解されてきたが,近年では大動脈瘤や大動脈解離などの重度な副作用発生のリスクが増大することが判明した.
◎ニューキノロンはたいていの微生物に効果をもつが,第一選択薬として投与をする場面が非常に限られている.つまり,一般日常の診療で第一選択として使用することはほとんどない抗菌薬であると言えよう.

マクロライド系,リンコマイシン系,テトラサイクリン系

著者: 児玉文宏

ページ範囲:P.1038 - P.1042

Point
◎薬剤耐性率は高く推移しており,肺炎球菌,A群溶血性レンサ球菌に対しアジスロマイシンでの治療は推奨されていない.マイコプラズマのアジスロマイシン耐性率は,必ずしも継時的に増加しているわけではないものの,今後の変動に注意を要する.
◎クリンダマイシンはβ-ラクタム系抗菌薬アレルギーがある患者において,グラム陽性球菌,バクテロイデス以外の嫌気性菌を主な病原菌とする口腔,咽頭,上下気道での感染症で特に重要となる.また壊死性軟部組織感染症,毒素性ショック症候群に対しても使用される.
◎テトラサイクリン系抗菌薬は,非定型肺炎,非淋菌性尿道炎・子宮経管炎のほか,β-ラクタム系抗菌薬が無効であり一般細菌培養で診断が困難な細菌に対し第一選択薬として使われることが多い.

グリコペプチド系,リポペプチド系,オキサゾリジノン系

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.1043 - P.1047

Point
◎耐性グラム陽性球菌に対し抗MRSA薬を用いる多くの場合の第一選択薬はバンコマイシンである.
◎テイコプラニンはバンコマイシンより腎機能障害が少ないものの,治療効果は同等という報告もあり,バンコマイシンの代替薬となる.
◎ダプトマイシンは肺炎治療には使用できず,重症感染症やE. faeciumに対して使用する場合は8 mg/kg以上の投与が推奨される.
◎オキサゾリジノンは経口薬があり,リネゾリドはノカルジアや抗酸菌治療にも利用されることがある.

メトロニダゾール,ST合剤,フィダキソマイシン,ホスホマイシン

著者: 石川和宏 ,   森信好

ページ範囲:P.1048 - P.1051

Point
◎メトロニダゾールは嫌気性菌,Clostridioides difficile感染症(CDI),寄生虫などの治療で使われるが,構音障害,失調様歩行といった脳症やニューロパチーなどの副作用も多く注意する.
◎ST合剤はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や緑膿菌以外のグラム陰性桿菌(GNR),Nocardia spp.やPneumocystis jiroveciiなど幅広いスペクトラムをもつが,腎機能障害や高カリウム血症,皮疹などの副作用があるため注意する.
◎フィダキソマイシンはガイドラインの改訂により,CDIの治療でバンコマイシンよりも推奨度が高くなったが,耐性の出現も危惧されるため慎重に症例を選ぶ必要がある.
◎ホスホマイシンは基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌を含むGNRの膀胱炎,腎盂腎炎などに使用が限定される.

アゾール系,キャンディン系,ポリエンマクロライド系

著者: 酒匂崇史 ,   木村宗芳

ページ範囲:P.1052 - P.1056

Point
◎真菌感染症の治療薬選択は,抗真菌スペクトラムのみならず感染臓器への移行性や耐性獲得率などを勘案して決定する.
◎アゾール系薬は原因菌種やその薬剤感受性,ほかに使用中の薬剤との相互作用に注意すれば,点滴に加えて内服薬も充実しており強力な治療選択肢となる.
◎キャンディン系薬は比較的有害事象が少なく,眼病変を有しない侵襲性カンジダ症の経験的治療の第一選択薬である.
◎ポリエンマクロライド系薬は幅広い抗真菌スペクトラムを有し,特にクリプトコックス症やムーコル症では重要な治療薬である.本邦の臨床現場では主に有害事象を軽減したリポソーム製剤が使用される.

微生物サイドから考える抗菌薬の使い方 <グラム陽性球菌>

ブドウ球菌—黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)

著者: 山口哲央

ページ範囲:P.1058 - P.1061

Point
◎黄色ブドウ球菌は病原性が高いためコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)と分けて考える.
◎メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は医療関連感染症の代表格であったが,近年では市中で健常人に感染する市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増えてきている.
◎感染機序や感染した菌株の特徴により病状は多彩である.
◎さまざまな耐性機序を有するため,薬剤感受性検査は必須である.

レンサ球菌—Streptococcus pneumoniae, viridans group streptococci, β-hemolytic streptococci

著者: 宇野俊介

ページ範囲:P.1062 - P.1066

Point
◎肺炎球菌は,肺炎をはじめとする気道関連感染症,髄膜炎,感染性心内膜炎,敗血症,脾摘後の劇症型感染症などを生じる.
◎αレンサ球菌は,口腔内から腸管に至る経路の常在菌で,亜急性心内膜炎が最も重要な感染症である.S. anginosus groupは口腔内や咽頭の膿瘍,脳膿瘍,腹腔内膿瘍などを形成する場合がある.
◎β溶血性レンサ球菌は咽頭炎や皮膚軟部組織感染症のほかに,感染性心内膜炎,化膿性関節炎,敗血症などのさまざまな感染症を引き起こす.
◎レンサ球菌のほとんどはペニシリンに感受性であるが,感染性心内膜炎や骨髄炎などの治療が長期化する感染症を引き起こす場合があるため,狭域抗菌薬での十分な治療が重要である.

腸球菌—Enterococcus faecalis, Enterococcus faecium

著者: 大串大輔

ページ範囲:P.1068 - P.1071

Point
◎腸球菌は多くの場合,院内環境において,尿路感染症,胆道感染症,術後感染症,カテーテル関連血流感染症,感染性心内膜炎などのさまざまな感染症の起因菌となる.
◎腸球菌はセファロスポリン,カルバペネム(イミペネムを除く)に自然耐性を示す.
◎ペニシリン感受性の場合はペニシリンGやアンピシリンが,そうでない場合はグリコペプチド系抗菌薬が第一選択となり,重症例ではアミノグリコシドやセフトリアキソンとの併用療法を検討する.
◎近年,欧米や近隣諸国でバンコマイシン耐性腸球菌が拡散し問題となっている.

<グラム陽性桿菌>

クロストリディオイデス属,クロストリジウム属—Clostridioides difficile, Clostridium perfringens

著者: 森伸晃

ページ範囲:P.1072 - P.1075

Point
◎入院中に発症した下痢便,特に抗菌薬使用歴あり・もしくは使用中の患者では,Clostridioides difficileに関連した検査を提出する.
◎日常から下痢便は排便回数だけでなく,Bristol Stool Scaleによる便の性状の評価も併せて行う.
Clostridium perfringensは毒素を産生し,食中毒を起こす一方で,ガス壊疽などの重篤な病態を起こすことがある.

<グラム陰性球菌>

ナイゼリア属—Neisseria meningitidis, Neisseria gonorrhoeae

著者: 大路剛

ページ範囲:P.1076 - P.1079

Point
◎ヒトに感染症を起こすグラム陰性球菌のなかでも淋菌と髄膜炎菌はいずれも病態として播種感染症を起こすことが特徴である.
◎いずれも免疫正常者であっても播種感染症を起こしうるが,髄膜炎菌では特に補体機能の欠損が播種感染症のリスクを上げる.
◎髄膜炎菌は発症者への曝露後には抗菌薬予防が有効であり必ず考慮すべき.
◎髄膜炎菌予防のためのワクチンは血清群A,C,Y,Wをカバーする4価ワクチンと血清群Bをカバーする1価ワクチンがある(2022年4月現在日本未承認).
◎淋菌感染症は性行為感染症(STD)の一種であり,必ず他のSTD合併について検査を考慮すべき.
◎淋菌の耐性化は日本でも進んでいる.一方,セフトリアキソン耐性の報告は非常に稀であるが,注意が必要である.

<グラム陰性桿菌>

市中の腸内細菌目—Escherichia coli, Klebsiella spp., Proteus spp.

著者: 原田壮平

ページ範囲:P.1080 - P.1083

Point
Escherichia coliは市中感染症をきたすグラム陰性桿菌の代表格である.
Klebsiella pneumoniaeはリスクのある患者の市中感染症と医療関連感染症・院内感染症の両方に関与しうる.
Proteus mirabilisは複雑性尿路感染症の起因微生物としてよく知られている.
◎これらの腸内細菌目細菌は通常は薬剤感受性が良好であるが,近年では特にE. coliにおいてESBL産生菌やキノロン耐性菌が増加している.

院内の腸内細菌目—Enterobacter spp., Citrobacter spp., Serratia spp.

著者: 佐藤聡子 ,   中村造

ページ範囲:P.1084 - P.1087

Point
Enterobacter spp.,Citrobacter spp.,Serratia spp.は,院内の腸内細菌目として種々の感染症を引き起こす.
◎ヒトに対する病原性は弱く,起因菌となるのは日和見感染症や院内感染症である.
◎院内ではヒトを介した伝播だけではなく,汚染された環境からのアウトブレイクが問題となる.
◎狭域抗菌薬に内因性の耐性をもち,加えて抗菌薬の曝露で多剤耐性の獲得が可能で,治療薬に制限がある.
◎菌の伝播を防ぐには適切な感染予防策と環境整備が,また耐性菌の抑制には抗菌薬の適正使用が重要である.

ブドウ糖非発酵菌—Pseudomonas aeruginosa, Acinetobacter spp.

著者: 櫻井亜樹

ページ範囲:P.1088 - P.1091

Point
◎ブドウ糖非発酵菌の多くは土壌などに生息する環境菌であり病原性は低いものが多いが,集中治療を受けている患者や免疫不全者において,時に重篤な感染症の原因となりうる.
◎一般的に健常人に感染を起こすことは稀である.
◎集中治療や抗菌薬長期投与を受けている患者では,これらの菌を保菌していることもある.検出された菌が「保菌」なのか,感染の原因となっているのか見極める必要がある.
◎多剤耐性傾向をとりやすく,薬剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)や薬剤耐性アシネトバクター(multidrug-resistant Acinetobacter sp.:MDRA)による国内でのアウトブレイク事例も散見されていることから,感染対策の観点からも注目すべき菌である.

嫌気性菌—Bacteroides fragilisを中心に

著者: 寺田教彦

ページ範囲:P.1092 - P.1095

Point
◎嫌気性菌は,正常な皮膚や粘膜に細菌叢を形成しており,粘膜破綻部位などで感染症を起こすことが多い.
◎嫌気性菌は好気性菌や他の嫌気性菌と混合感染を起こすことが多い.
◎嫌気性菌の抗菌薬に対する耐性化が進んできており,感染部位や重症度によっては,メトロニダゾールやピペラシリン・タゾバクタム,カルバペネム系抗菌薬などの使用を検討する必要がある.
◎嫌気性菌感染症の治療は抗菌薬投与以外に,外科的ドレナージや壊死組織のデブリドマンが重要である.

<その他の菌>

グラム染色で見えない菌—Mycoplasma spp., ChlamydophilaChlamydia)spp., Legionella pneumophila

著者: 櫻井隆之

ページ範囲:P.1096 - P.1098

Point
Mycoplasma属では特にM. pneumoniaeにおいてマクロライド耐性率が高くなってきているが,特に成人ではマクロライド系抗菌薬が依然として第一選択薬である.
◎性感染症を起こすMycoplasmaについては耐性に留意が必要である.
ChlamydophilaChlamydia)属では耐性の懸念は少ない.
Legionella pneumophilaも耐性の懸念は少ないがβ-ラクタム薬は無効であることに留意する.

カンジダ属—Candida spp.

著者: 阿部雅広

ページ範囲:P.1100 - P.1103

Point
◎カンジダ属感染症における最も重要な病態は血流感染症(カンジダ血症)である.
◎カンジダ血症の確定診断には血液培養が必須であり,1セットでも陽性であれば真の血流感染症である.
◎臨床上,補助診断として血清β-D-グルカンなどのバイオマーカーが使用可能であるが,診断上の限界を理解する必要がある.
◎カンジダ血症の重要な合併症として眼内炎があり,全例での眼科医診察が推奨されている.
◎耐性カンジダ属の判断のためには,正式な方法での薬剤感受性試験が重要である.

感染症サイドから考える抗菌薬の使い方—症例をもとに

上気道感染症,下気道感染症

著者: 野田晃成 ,   皿谷健

ページ範囲:P.1104 - P.1109

Point
◎風邪の「典型」を知り,「典型」から外れる場合は診断に慎重になる.
◎新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期で施行の機会が減っているが,グラム染色は肺炎診療に有効である.
◎COVID-19肺炎において軽症例では抗菌薬は必要ないことが多いが,重症例では細菌感染の合併や二次感染に注意する.
◎COVID-19に関連した侵襲性肺アスペルギルス症について知識を深める.

腸管感染症

著者: 伊東完

ページ範囲:P.1110 - P.1114

Point
◎腹痛・下痢・嘔吐を訴える症例では,感染性腸炎と診断する前に他の救急疾患の可能性を考える.
◎軽症で背景疾患もなければ,細菌性腸炎であっても血液・糞便検査や抗菌薬投与は必須でない.
◎発熱や粘血便を伴う症例では,ロペラミドの使用を避ける.

肝胆道系感染症,腹腔内感染症

著者: 矢野晴美

ページ範囲:P.1116 - P.1119

Point
◎医療面接と身体診察から,体系的な鑑別診断を挙げる.
◎感染症診療では,原因微生物を適切に想定する.
◎市中発症の腹腔内感染では,代表的な原因微生物は腸内細菌である.
◎医療関連の腹腔内感染では,緑膿菌を中心とするグラム陰性菌を考慮する.
◎血液培養2セットに代表される「発熱基本検査セット」を提出後,市中感染または医療関連感染の区別を行い,適切な抗菌薬を投与する.

腎・泌尿生殖器感染症

著者: 宮﨑泰斗

ページ範囲:P.1120 - P.1124

Point
◎腎・泌尿生殖器感染症は特異的な症状を欠く場合など,診断が難しいことがある.
◎大腸菌を代表とする腸内細菌目細菌において,ESBL産生菌やキノロン耐性菌が増加している.
◎ESBL産生菌による敗血症ではカルバペネム系やセフトロザン/タゾバクタムの投与が推奨される.
◎淋菌性腹膜炎は症状が強いものの培養が難しく診断に苦慮することがあるが,核酸増幅法による遺伝子検出検査が有用である.
◎薬剤耐性淋菌が世界的に増加しており,セフトリアキソン耐性株も報告されている.

中枢神経感染症

著者: 能勢裕久

ページ範囲:P.1125 - P.1131

Point
◎身体診察,病歴,髄液検査結果から,細菌性を疑わない無菌性髄膜炎に対して,不必要に抗菌薬を使用することは,可能な限り慎みたい.
◎グラム染色や髄液および尿中肺炎球菌抗原検査を用いて迅速に結果を得ることで,成人の肺炎球菌性髄膜炎を察知し,デキサメタゾン(ステロイド)併用を抗菌薬投与に先んじて,もしくは同時投与で行う.
◎適切なタイミングで膿瘍ドレナージができるように,普段から脳外科医との密なコミュニケーションを大事にしよう.

皮膚軟部組織感染症

著者: 鈴木麻衣

ページ範囲:P.1132 - P.1136

Point
◎皮膚軟部組織感染症は感染の深達度によって分類され,特に蜂窩織炎と壊死性筋膜炎の鑑別は重要である.
◎アトピー疾患やステロイド内服歴,外傷歴を確認する.
◎動物咬傷はペットをはじめ動物接触歴を十分に聴取する.

骨・関節感染症

著者: 鈴木麻衣

ページ範囲:P.1137 - P.1140

Point
◎骨・関節感染症は病態,感染経路,起因菌が多彩で治療が長期化することから,経験的治療はできる限り避け,積極的に起因菌の特定を行う.高齢化に伴い人工関節感染に対する治療も増加が見込まれる.
◎主に術後や外傷などによる直接進達性感染と菌血症などの血行性感染に大別される.
◎血行性感染による急性化膿性関節炎・骨髄炎をみたら感染性心内膜炎の有無を確認する.

心血管系感染症

著者: 福井由希子 ,   幅雄一郎

ページ範囲:P.1141 - P.1147

Point
◎感染性心内膜炎は稀な疾患ではなく,週単位で持続する発熱があれば常に鑑別に考える.
◎心血管系感染症を疑ったら,血液培養3セット採取し,心臓超音波検査を行う.
◎黄色ブドウ球菌による心血管系感染症では,深部膿瘍,敗血症性塞栓,人工物感染の合併を考える.

カテーテル関連血流感染症(CRBSI)—COVID-19流行下における対策

著者: 柏木克仁 ,   吉澤定子

ページ範囲:P.1148 - P.1154

Point
◎カテーテル関連血流感染症(CRBSI),中心ライン関連血流感染症(CLABSI)の定義を再度確認する.
◎施設ごとの検査方法や評価方法を考慮する.
◎カテーテルの種類や菌種,合併症(血栓性静脈炎など)により治療期間は変化する.
◎質量分析機器の活用により有効抗菌薬投与期間までの日数が改善する可能性がある.
◎新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時においても基本的な感染対策の徹底が発生率を低下させる.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・3

—おなかが痛い その3—急性膵炎のフィジカル—“おなかのやけど”

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.981 - P.986

 おなかが痛いシリーズも第3回に突入です.これまで,非常にコモンな急性虫垂炎,知らないと診断できない前皮神経絞扼症候群(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome;ACNES)を取り上げてきました.第3回目は,誰もが知っている急性膵炎を取り上げます.
 “急性膵炎”と聞いて先生方の頭にはどんなイメージが浮かびますか.比較的若い男性が脂汗をかきながら心窩部〜背部痛を訴えて受診する,高齢女性が心窩部痛と黄疸で受診する……などがよくあるプレゼンテーションかと思います(前者はアルコール性膵炎,後者は胆石性膵炎).このような患者さんが救急室や内科外来を受診されたら,おそらく先生方は何のためらいもなくCTをオーダーするでしょう.しかしCTがない施設でも,病歴・バイタルサイン・フィジカルを駆使して膵炎の可能性を疑うことは十分可能です.膵炎患者の重症度評価に(造影)CTは有用ですが,膵炎の臨床診断は“病歴・バイタルサイン・フィジカル”で決まりです.今回も,基本に忠実に病歴・フィジカルをフルに活用していきましょう.

治らない咳,どう診る・どう処方する?・6

COPDの咳嗽・喀痰

著者: 中島啓

ページ範囲:P.1155 - P.1160

ポイント
・COPDの咳嗽・喀痰に対しては,まずCOPDの治療強化とICSの適応について検討する.
・COPDに対するICSの適応は,喘息合併例,末梢血好酸球数>300/μLの場合,増悪を繰り返す症例である.
・それでも改善が得られない場合は,COPDに合併しやすい併存疾患の検索を行う.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・13

脳梗塞②健忘/視床梗塞—手口感覚症候群

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1161 - P.1165

 外来で,「手足の動きは問題ないのに急に物覚えが悪くなった」という人が来院することがあります.「健忘」という状態です.突然発症であれば脳血管障害を第一に想起しますが,記憶障害だけとなると,どの部分が病巣でしょうか? 今回は,知っておくと役に立つ,健忘の病巣部位について勉強していきましょう!

続・ケースレポートを書こう! “論文の軸の設定”トレーニング・6

IgA血管炎に対して血液透析中に回路内圧が上昇して透析を中断した87歳男性〜2つの疾患間に予想外の関連性〜

著者: 京谷萌 ,   見坂恒明

ページ範囲:P.1166 - P.1170

 今回は,ケースレポートにできる症例(①ある疾患の新規な症状・所見・経過,②ある薬剤の新規な副作用・薬剤相互作用,③2つの疾患間に予想外の関連性,④ある疾患の新規な診断方法,⑤ある疾患の新規な治療方法,予想外の治療効果,⑥稀もしくは新規の病気・病原体)のうち,③に該当する症例を提示する.
 次の症例提示1)を読んで,第1新規性,第2新規性(または臨床的有用性)について考えてみよう.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・10 疾患別リハビリ・運動療法の実際

慢性腎臓病(保存期・透析期)

著者: 上月正博

ページ範囲:P.1171 - P.1176

 わが国の慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者は1,330万人と推計され,国民の8人に1人が罹患する国民病であり,糖尿病患者1,000万人を遥かに凌ぐ.また,腎代替医療としての透析患者数は約34万人に達している.CKD患者では,起立性蛋白尿や運動後の蛋白尿増加などが起こるため安静にすることがこれまで治療の基本だった.しかしCKD患者ではフレイルやサルコペニアの割合がきわめて高く,ADLが低下し,リハビリテーション(以下,リハビリ)や運動療法の必要性が増す.現在では,CKDの治療は「運動制限から運動療法へ」のコペルニクス的転換を果たし,腎臓リハビリとして大きな注目を集めている.

目でみるトレーニング

問題1021・1022・1023

著者: 水島伊知郎 ,   岩崎靖 ,   梶原祐策

ページ範囲:P.1177 - P.1182

書評

—松田 光弘 著—誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた[Web動画付]

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.1099 - P.1099

 さて書評である.
 この本の書評は難しい.なぜならとても良い本だからだ.
 良い本.買ったほうがいい.本来これで終了である.
 この本は,ちゃんとした医学書である.
 その点が非常に重要である.

—拡大内視鏡×病理対比診断研究会 アトラス作成委員会 編—百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス

著者: 小山恒男

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 『百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』の書評を依頼され,書籍が届いた.
 まず,タイトルが長い.そして,表紙がチョットね.某アジア国の夜店に並んでいる本みたいである.

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目次

ページ範囲:P.987 - P.989

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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