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雑誌目次

雑誌文献

medicina59巻9号

2022年08月発行

雑誌目次

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1414 - P.1415

 人生100年時代と言われる現在において健康寿命の延伸は重要な課題であり,心血管疾患への対策が必要であることは2019年12月に脳卒中・循環器病対策基本法が施行された日本においても,またその他の先進諸国でも同様である.予防や早期介入が重要であるが,動脈硬化性心血管疾患のリスク評価においては,年齢・性別・喫煙・生活習慣病の有無による分類が有用とされている.スクリーニング検査としての心電図検査は,欧米諸国では安静・運動負荷ともにあまり推奨されていないが,日本では今も広く行われている.その是非はここで議論しないが,心電図は簡便で非侵襲的であり,不整脈を診断できるだけでなくさまざまな心血管疾患の診断に役立つ.
 12誘導心電図はよく行われる検査であるが,その波形を読むことは簡単ではない.不整脈専門医として心電図読影を依頼される筆者自身も,諸先輩方に読影の相談をすることは少なくない.本音を述べると,不安をなくして自信をもちたいのは筆者自身である.元々苦手意識をもっていた自分のことを振り返ってお話しすると,心電図への苦手意識が強い場合には,あまり最初から細部の読影にこだわり過ぎないことをお勧めする.頻脈か徐脈か,頻脈であればQRS波形が幅広いか狭いか,徐脈であればP波とQRS波の関係はどうか,QRS波の軸や胸部誘導の連続性はどうか,胸部症状のある患者であればST変化がないか,それくらいで十分である.目を皿のようにして眺めれば急性肺血栓塞栓症を見逃さないというものでもない.また心筋梗塞の診断もリスク因子の有無や心エコー所見と併せて判断しているのに,さも心電図だけで診断がついたように自信たっぷりに「STが上がっている」と言ってしまっていることもある.心電図は不整脈診断においてはゴールドスタンダードだが,その他の心疾患においては診断ツールの1つに過ぎない.しかも,その1つひとつの所見は白黒がはっきりせず,グレーな所見ということもある.

P波ってあるかないかじゃないの!?

01 わからなくても大丈夫! P波を正常と言うためのウォームアップ

著者: 久慈怜

ページ範囲:P.1417 - P.1420

症例 70歳男性.労作時呼吸苦が徐々に増悪したため,当院紹介となった.身長159.6cm,体重48.1kg.心電図を以下に示す.

02 超高齢社会の心疾患はP波が教えてくれる?

著者: 久慈怜

ページ範囲:P.1421 - P.1423

症例 65歳男性.新聞配達時の坂道で息切れが生じることがあるとのことで受診.身長163.7cm,体重56.7kg.心電図を以下に示す.

03 息切れがあったら見逃してはならない所見

著者: 勝木知徳

ページ範囲:P.1425 - P.1426

症例 70歳女性.労作時の息切れを主訴に外来受診した.心電図を以下に示す.

04 いつもと違う形のP波

著者: 勝木知徳

ページ範囲:P.1427 - P.1428

症例 88歳女性.慢性心不全増悪にて入院中.心電図モニターにて普段と異なる調律があり,12誘導心電図を記録した.自覚症状はなく,全身状態も安定している.心電図を以下に示す.

05 P波とQRS波の関係性は時に難しい

著者: 河野裕之

ページ範囲:P.1430 - P.1432

症例 71歳男性.労作時息切れを主訴に受診した.心電図を以下に示す.

06 P波とQRS波が遠いとき

著者: 河野裕之

ページ範囲:P.1433 - P.1434

症例 31歳男性.生来健康である.健康診断時の心電図を以下に示す.

QRSの眺め方:①電気軸

07 電気軸を改めて考える(QRS波形を読むための第一歩)

著者: 河野裕之

ページ範囲:P.1435 - P.1436

症例 62歳男性.身長170cm,体重55kg.心サルコイドーシスでフォロー中の心電図を以下に示す.

QRSの眺め方:②前胸部誘導の連続性

08 前胸部誘導の連続性を意識する

著者: 廣上潤

ページ範囲:P.1437 - P.1438

症例 78歳女性.身長158cm,体重46kg.自覚症状はない.健康診断での心電図を以下に示す.

QRSの眺め方:③心室の異常を察知する

09 左室肥大を,R波で見るか? S波で見るか?

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1439 - P.1441

症例 50歳男性.自覚症状はなく,今回は健診のために受診した.身長163cm,体重95kg,血圧145/83mmHg.健診の心電図を以下に示す.

10 苦手な左脚ブロックをどうするか

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1443 - P.1445

症例 72歳男性.糖尿病・高血圧にて通院中であった.今回は定期通院の際に,半年ほど前から胸の違和感があるということを訴えたために心電図を記録した.

11 困らされる左脚ブロック患者の胸痛

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1447 - P.1449

症例 78歳男性.糖尿病・高血圧・慢性腎臓病の既往があり,詳細不明だが以前に経皮的冠動脈形成術を行われた既往がある.2時間前からの胸部圧迫感を主訴として来院し,心電図検査を施行した.血圧110/75mmHg,脈拍数115/分,呼吸数24/分,SpO2 95%(室内気).

12 右脚ブロックは経過観察でOK?

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1451 - P.1453

症例 40代男性.無症状であるが,昔から運動は得意でない.成人後,初めて受けた健診の心電図で異常を指摘された.

13 右脚ブロック患者の胸痛も難しい?

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1455 - P.1457

症例 70代男性.高血圧の既往と喫煙歴があり,3時間前からの胸痛のために受診した.

14 Brugada型心電図とBrugada症候群

著者: 西崎公貴

ページ範囲:P.1459 - P.1461

症例 38歳男性.生来健康,午前6時就寝中にベッドで突然唸り出し,その後反応がなくなり救急要請された.救急隊接触時,心室細動を認め,電気的除細動施行後に洞調律となった.当院搬入時ならびにピルジカイニド負荷試験時の心電図を以下に示す.

循環器的緊急! この変化を見逃すな!!

15 これはすぐに循環器!!

著者: 石沢太基 ,   堀内優

ページ範囲:P.1463 - P.1464

症例 73歳男性.以前より労作時の胸部圧迫感を自覚していたが,今回,強い胸痛を自覚したことから救急外来を受診した.身長173cm,体重69.8kg,血圧182/107mmHg.救急外来受診時の12誘導心電図を以下に示す.

16 もっと早く循環器!!

著者: 石沢太基 ,   堀内優

ページ範囲:P.1465 - P.1466

症例 81歳男性.安静時の左前胸部痛を自覚したことから救急外来を受診した.身長166cm,体重73.9kg,血圧196/106mmHg.救急外来受診時の12誘導心電図を以下に示す.

17 STEMI!?

著者: 大島旭 ,   堀内優

ページ範囲:P.1467 - P.1468

症例 86歳男性.飲酒後転倒し左大腿骨頸部骨折で受診.来院時の12誘導心電図を以下に示す.

18 STEMIトレーニング①

著者: 新井陸

ページ範囲:P.1469 - P.1471

症例 76歳女性.本態性高血圧症で近医に通院中.昼の歩行時に突然胸部圧迫感を自覚し,持続するために救急要請.胸痛は3時間前に発症し,現在も持続している.身長152.3cm,体重53.5kg.血圧180/91mmHg,脈拍数82回(整).ショック徴候は認めない.受診時の18誘導心電図を示す.

19 STEMIトレーニング②

著者: 新井陸

ページ範囲:P.1473 - P.1474

症例 73歳女性.2型糖尿病で近医通院中.朝起床後に胸痛あり,持続するために受診.胸痛は2時間前に発症し今も持続,嘔吐も認めている.身長162cm,体重47.5kg.血圧128/73mmHg,脈拍数48回(整).ショック徴候は認めない.受診時の18誘導心電図を示す.

20 STEMIトレーニング③

著者: 新井陸

ページ範囲:P.1475 - P.1476

症例 63歳男性.特に既往歴や通院歴なし.夜現場で作業中に突然胸痛を自覚し,持続するために救急要請した.胸痛は2時間前に発症し今も持続している.身長180.2cm,体重72.2kg.血圧150/100mmHg,脈拍数90回/分(整).ショック徴候は認めない.受診時の18誘導心電図を示す.

21 STEMIトレーニング④

著者: 新井陸

ページ範囲:P.1477 - P.1478

症例 66歳男性.脂質異常症,高尿酸血症で近医通院中.1週間前より夜間に20分ほどの胸痛を初めて自覚.その後毎日,同様の胸痛発作があった.胸痛の頻度が増加するために受診.安静で胸痛はないが,軽労作で胸痛を認める.身長171.1cm,体重66.9kg.血圧132/83mmHg,脈拍数90回/分(整).ショック徴候は認めない.受診時の18誘導心電図を示す.

22 STEMIトレーニング⑤

著者: 小島俊輔

ページ範囲:P.1479 - P.1481

症例 75歳男性.糖尿病にて近医かかりつけ.2時間前からの前胸部絞扼感,冷汗を主訴に,救急搬送となった.来院時バイタルは,血圧125/80mmHg,脈拍数60回/分,SpO2 96%(室内気),呼吸数24回/分,体温36.5℃.心音は整,心雑音は認めず.末梢冷感なし,浮腫なし.

23 虚血性心疾患におけるST低下について

著者: 新井順也 ,   小島俊輔

ページ範囲:P.1483 - P.1485

症例 65歳男性.高血圧,糖尿病,現喫煙歴(20本/日)の冠危険因子がある.3カ月前から労作時に胸痛を認めており,来院当日の階段昇降中に10分持続する胸痛を認めたため救急外来を受診した.来院時バイタルは血圧135/82mmHg,脈拍数78回/分,SpO2 98%(室内気).心音は整,心雑音なし.末梢冷感なし,浮腫なし.来院時の心電図を以下に示す.

24 これもST低下?

著者: 佐橋勇紀

ページ範囲:P.1487 - P.1488

症例 84歳男性.朝方からの持続する胸部絞扼感のために救急外来を受診した.冷汗を伴っている.血圧145/78mmHg,脈拍75回/分・整.高血圧に対して近医で降圧薬を処方されている.

25 胸痛は消失.もう安心?

著者: 大島旭 ,   堀内優

ページ範囲:P.1489 - P.1491

症例 59歳男性.血便を主訴に来院.入院同日に緊急内視鏡的止血術を行った.受診1日前に一度胸痛のエピソードがあったが,入院後はまったくの無症状であった.第1病日の12誘導心電図を示す.

26 ストレインパターンとは何か

著者: 佐橋勇紀

ページ範囲:P.1493 - P.1494

症例 86歳女性.軽度の下腿浮腫を自覚したためかかりつけ医を受診した.労作時の呼吸苦は認めていない.高血圧症に対して降圧薬を処方されている.心疾患はこれまでに指摘されていない.血圧155/78mmHg,脈拍82回/分・整,SpO2 99%(室内気).両側に軽度の下腿浮腫を認める.

27 健診の心電図で目に付く変化

著者: 佐藤宏行

ページ範囲:P.1495 - P.1496

症例 64歳女性.以前から健診で心電図異常が指摘されていたが放置していた.今回も心電図異常があり,受診希望にて来院.自覚症状はない.血圧128/70mmHg.叔父に突然死の家族歴がある.

28 胸痛はないのに新たに出現したST-T変化

著者: 廣上潤

ページ範囲:P.1497 - P.1498

症例 72歳女性.身長160cm,体重45kg.DDDペースメーカ植込み後.自覚症状はない.外来受診時の心電図を以下に示す.

29 突然の呼吸苦

著者: 川上俊成 ,   堀内優

ページ範囲:P.1499 - P.1500

症例 2型糖尿病の既往のある44歳男性.突然の胸痛,呼吸苦で受診.SpO2 86%(酸素マスク10L).脈拍124回/分.血圧左右差なし.心電図所見を下記に示す.

30 胸の痛みで受診したら

著者: 川上俊成 ,   堀内優

ページ範囲:P.1501 - P.1502

症例 18歳男性.数日前からの吸気時の胸痛で受診.身長173cm,体重62kg,血圧110/64mmHg.受診時の心電図を以下に示す.

31 健診で見かける悩ましい所見

著者: 灘濵徹哉

ページ範囲:P.1503 - P.1505

症例 36歳男性.元来健康.自覚症状なく,今回は健診のために受診.身長170cm,体重65kg,血圧118/62mmHg.健診時の心電図を以下に示す.

32 緊急性の高い心電図変化①

著者: 根本脩平 ,   堀内優

ページ範囲:P.1507 - P.1508

症例 86歳女性,慢性腎臓病,中等度大動脈弁狭窄症による慢性心不全で通院中.労作時の呼吸苦を主訴に来院した.血圧119/39mmHg,来院時の12誘導心電図を以下に示す.

33 緊急性の高い心電図変化②

著者: 根本脩平 ,   堀内優

ページ範囲:P.1509 - P.1510

症例 高血圧で近医にて内服加療されている64歳男性.心窩部痛を主訴に救急搬送された.搬送時の12誘導心電図を以下に示す.

不整脈の診断こそ心電図の本領

34 脈が遅いとき

著者: 廣上潤

ページ範囲:P.1511 - P.1512

症例 73歳女性.身長160cm,体重45kg,血圧150/85mmHg.安静時に気が遠くなる症状があり,近医で心電図を検査したところ以下であった.

35 見逃されやすい緊急疾患

著者: 西崎公貴

ページ範囲:P.1513 - P.1515

症例 35歳女性.20歳時と30歳時にそれぞれ動悸を伴う意識消失発作の既往があるが,医療機関を受診し問題ないと言われていた.自動車運転中に動悸が出現し,自損事故を起こし,救急搬送となった.搬入時の心電図を以下に示す.

36 狭心症かもしれない心電図変化

著者: 灘濵徹哉

ページ範囲:P.1517 - P.1518

症例 73歳男性.高血圧,高コレステロール血症で近医通院中.労作時胸部違和感を認めたために紹介受診.身長165cm,体重62kg.血圧152/79mmHg.安静時,運動負荷時の心電図を以下に示す.

37 QRSの狭い頻脈①

著者: 澤田昌成 ,   永嶋孝一

ページ範囲:P.1520 - P.1522

症例 69歳男性.動悸を自覚し救急外来を受診した.意識清明,血圧129/71mmHg,脈拍190回/分.発作時(図1)と非発作時(図2)の心電図を以下に示す.

38 QRSの狭い頻脈②

著者: 若松雄治 ,   永嶋孝一

ページ範囲:P.1523 - P.1524

症例 67歳男性.動悸を主訴に来院した.洞調律時と頻拍時の心電図を以下に示す.

39 QRSの狭い頻脈③

著者: 平田萌 ,   永嶋孝一

ページ範囲:P.1525 - P.1526

症例 61歳女性.動悸を主訴に救急外来を受診した.洞調律時と頻拍時の心電図を以下に示す.

40 これを見たら頻拍回路を一発診断

著者: 佐藤宏行

ページ範囲:P.1528 - P.1530

症例 60歳男性.突然発症の動悸と胸部不快感を主訴に受診.血圧114/69mmHg,脈拍数197回/分.意識清明.12誘導心電図は最初図1であったが,記録中に自然に図2に変化した.

41 早期脱分極症候群とは?

著者: 髙麗謙吾

ページ範囲:P.1531 - P.1533

症例 32歳男性.動悸などの症状はない.健診の心電図で異常を指摘された.以前の健診結果は学生の頃で覚えていない.

42 common disease

著者: 佐藤宏行

ページ範囲:P.1535 - P.1537

症例 56歳男性.高血圧で通院中.動悸と胸部不快感が続くため臨時受診したところ,以下の12誘導心電図であった.血圧145/80mmHg,脈拍数138回/分,不整.意識清明.SpO298%.喫煙:20本/日,アルコール摂取:ビール700mL/日.

43 脈が速くも遅くもなる症候群

著者: 佐藤宏行

ページ範囲:P.1539 - P.1540

症例 78歳女性.高血圧,糖尿病で近医内科通院中.繰り返す意識消失を主訴に臨時受診した.安静室で経過観察をしていたところ,モニター心電図で以下の波形を確認した.同時に眼前暗黒感を自覚している.血圧158/95mmHg,脈拍数150回/分,不整.SpO295%.

44 ギザギザした心電図

著者: 太田真之

ページ範囲:P.1541 - P.1542

症例 70代男性.1週間前から動悸症状を自覚.徐々に息切れも伴うようになり,頻呼吸・起座呼吸を呈して外来を受診した.来院時と来院翌日の12誘導心電図を以下に示す.

45 上室性? 心室?

著者: 太田真之

ページ範囲:P.1543 - P.1545

症例 特に心疾患の既往がない50代男性.突然発症の動悸症状を主訴に歩いて外来を受診された.12誘導心電図を以下に示す.

46 心室期外収縮の好発部位①

著者: 佐土原洋平

ページ範囲:P.1547 - P.1548

症例 34歳男性.健診で心室期外収縮を指摘され,精査目的に受診となった.その際の12誘導心電図を以下に示す.

47 心室期外収縮の好発部位②

著者: 佐土原洋平

ページ範囲:P.1549 - P.1550

症例 58歳男性.動悸を自覚したため受診し,心電図を施行した.以下にその心電図を示す.

48 緊急性の高い頻拍

著者: 佐土原洋平

ページ範囲:P.1551 - P.1552

症例 72歳女性.既往に心筋梗塞がある.動悸を主訴に来院した.その際の12誘導心電図を以下に示す.

49 まさにBrugada波形様?

著者: 西崎公貴

ページ範囲:P.1553 - P.1554

症例 60代男性,右冠動脈#1の不安定狭心症に対して冠動脈形成術を施行した.同日夜間にR on TのPVCから心室細動(VF)が誘発され,除細動後の心電図で右側胸部誘導にBrugada波形様のST上昇を認めた.経皮的冠動脈形成術(PCI)施行前と除細動後の心電図を以下に示す.

50 心臓の病気は左室だけじゃない

著者: 西崎公貴

ページ範囲:P.1555 - P.1557

症例 50代男性.自動車運転中に動悸および眼前暗黒感が出現したため,救急外来を受診した.収縮期血圧90mmHgと低下し,心拍数221回/分のwide QRS tachycardia(QRS幅の広い頻拍)を認め,同期カルディオバージョンを施行した.頻拍中と洞調律中の心電図を以下に示す.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・5

—おなかが痛い その5—心窩部痛—おなかの音を聴きに行け!

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.1405 - P.1408

 腹部の身体診察は,言わずもがな,視診→聴診→打診→触診の順番ですね.これはOSCEや医師国家試験でも定番の質問かもしれません.では,あえてお尋ねしますが,この4つの診察法のうち,もっとも有用性の低いのは? と聞かれたら,皆さんどう答えますか.「そんなの,どれも有用だよ」というあなたは正しい.しかし,あえて選択せよと言われたらどうでしょう.「きっと“聴診”なんじゃないの?」と答えるのではないでしょうか.
 たしかに急性腹症における“聴診”は,実臨床ではあまり重視されていないように思います.アラームが鳴りやまない救急室や,多忙な内科外来では腹部聴診に神経を集中することは難しいかもしれません.とはいえ,医学生や若手医師に“腹部の聴診ってどうやっている?”と聞くと,たいてい同じ答えが返ってきます.“腸蠕動音を聴取して,腸蠕動音の亢進/減弱を確認します”と.聴診所見に関しては,個人的にもそれほど重視していません(が!),すごくおなかを痛がっているわりに,腹部の触診所見に乏しい患者さんで,血管雑音(Bruit;ブルイ)を聴取することができたら,それはものすごく意味があります.ただし,漫然と聴いていては容易に聴き逃してしまいます(それはフィジカル全般に言えると思いますが).ここでも良質な病歴があってのフィジカルなのです.さて,症例をみてみましょう.

治らない咳,どう診る・どう処方する?・8

気管支拡張症の咳嗽・喀痰

著者: 中島啓

ページ範囲:P.1558 - P.1563

ポイント
・日常臨床では,「気管支拡張症」は,原因の明らかでない特発性気管支拡張症を指すことが多い.
・しかし,気管支拡張症の患者ではまず原因の有無を評価する.原因があれば原疾患の治療を行う.
・気管支拡張症自体に特異的な治療は存在せず,去痰薬などによる対症療法が主体となる.
・喀痰や湿性咳嗽が急性に増悪する場合は,最初に気管支拡張症の急性増悪の可能性を考える.次に肺非結核性抗酸菌(NTM)症の発症の有無を評価する.
・急性増悪を繰り返す気管支拡張症患者では,マクロライドの投与が考慮される.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・15

脳梗塞④手と口の感覚障害/内頸動脈狭窄の羅患率・頻度

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1564 - P.1567

 脳卒中で稀に感覚障害をメインにした症例を経験します.誰がみてもわかる麻痺がない……そんな場合は,患者さんの自覚症状を頼りに診察していくことになります.人の訴えを聴くのって難しいですよね.でも知っていると診断できる感覚障害をきたす疾患があります.それでは一緒に勉強していきましょう!

目でみるトレーニング

問題1027・1028・1029

著者: 川原寛之 ,   水島伊知郎 ,   亀井博紀 ,   梶原祐策

ページ範囲:P.1568 - P.1573

続・ケースレポートを書こう! “論文の軸の設定”トレーニング・8

RS3PE症候群の71歳女性〜ある疾患の新規な診断方法(治療効果の判定方法)〜

著者: 見坂恒明

ページ範囲:P.1574 - P.1578

 今回は,ケースレポートにできる症例(①ある疾患の新規な症状・所見・経過,②ある薬剤の新規な副作用・薬剤相互作用,③2つの疾患間に予想外の関連性,④ある疾患の新規な診断方法,⑤ある疾患の新規な治療方法,予想外の治療効果,⑥稀もしくは新規の病気・病原体)のうち,④に該当する症例を提示する.
 次の症例提示1)を読んで,第1新規性,第2新規性(または臨床的有用性)について考えてみよう.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・12 疾患別リハビリ・運動療法の実際

高血圧

著者: 上月正博

ページ範囲:P.1579 - P.1584

 血圧が高くなるほど,脳心血管病,慢性腎臓病などの罹患リスクや死亡リスクは高くなる.健康日本21(第2次)では,食生活・身体活動・飲酒などの対策推進により,国民の収縮期血圧平均値を10年間で4 mmHg低下させることを目標としている1).これにより,脳卒中死亡数が年間約1万人,冠動脈疾患死亡数が年間約5,000人減少すると推計されている1)
 わが国では高血圧者数は約4,300万人と推定されるが,このうち自らの高血圧を認識していない者は1,400万人,認識しているが未治療の者は450万人,薬物治療を受けているが管理不良の者は1,250万人で,計3,100万人が管理不良であり,高血圧治療はいまだ不十分とされている2).今回は高血圧患者に対するリハビリテーション(以下,リハビリ)・運動療法を解説する.

information

2022年8月〜10月開催内科関連学会情報

ページ範囲:P.1585 - P.1590

書評

—Alluru S. Reddi 深川 雅史・安田 隆 監訳—水・電解質・酸塩基平衡クイックリファレンス—Fluid, Electrolyte and Acid-Base Disorders: Clinical Evaluation and Management, 2nd Edition

著者: 古市賢吾

ページ範囲:P.1450 - P.1450

 本書は,臨床で遭遇する頻度の高い病態に対して,基本的な生理学的解説から具体的な臨床像の解説が続く構成になっており,単にマニュアル的な対応ではなく,検査や処置の“なぜ”が自然に身につく流れになっています。体液,電解質,酸塩基平衡異常は,すべての臨床医が日常臨床の中で頻繁に遭遇する病態です。しかし,その病態を正確に理解し,診断・治療を行うことは容易ではありません。診断と病態のしっかりとした理解は医学・医療の基本ですが,腎臓を中心とした体液,電解質,酸塩基平衡の病態生理は複雑で,理解が難しいことも少なくありません。

—中込 治 著—ウォームアップ微生物学

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.1458 - P.1458

 微生物学は医学部のカリキュラムのなかでも特に人気がない.これは,微生物学が魅力のない学問であることを意味しない.微生物学の魅力を授業や実習のなかで学生に実感させることに,われわれが失敗してきただけだ.
 長々とした(しかも,コロコロ変更される)菌の名前には魅力がない.かつて,ニューヨーク市で教えていたぼくの指導医の1人は「学びにはセクシーさがなければならない」と言っていたが,それは事実だ.

—千葉 一裕 監修・堀内 圭輔 著—医学英語論文手トリ足トリ—いまさら聞けない論文の書きかた

著者: 齋藤琢

ページ範囲:P.1486 - P.1486

 このたび僭越ながら,『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』(堀内圭輔先生著)の書評を書く機会をいただいた.著者は慶大のご出身であり,慶大整形外科で活躍されたのち,現在は防衛医大と慶大の両方で後進の指導にあたっておられる.著者は留学先でADAM17など細胞外ドメインの切断プロテアーゼを研究し,帰国後も素晴らしい分子生物学研究をされていた.私はポスドクの頃に骨格形成や関節疾患においてNotchシグナルを扱っていたが,NotchとADAMの関係が深いことから,著者から遺伝子改変マウスをご供与いただき,さまざまなご指導をいただきながら共同研究を進める幸運に恵まれた.整形外科で分子生物学をたしなむ人は非常に限られている.著者は私より4学年先輩であり,整形外科医でありながら分子生物学に精通し,精力的に研究を続けておられる姿は,所属する医局こそ違えど常に励みであった.
 英語論文の執筆に関する本は数多出版されているが,本書は単なるハウツー本ではない.もちろん論文の構成に関して第Ⅲ章で十分に説明されており,ここを読むだけでも論文とは何かが明確に理解でき,初めての人でも論文を書こうという気になるだろう.第Ⅱ章の様式に関する知識も秀逸である.たかが様式と思う若手もいるかもしれないが,私も査読をしていて,優れた研究内容がいい加減な様式で叙述された例をみたことはない.第Ⅳ章ではFigureの作成,画像データやReplicationの考え方が記載されているが,誰もが抱く疑問を取り入れつつ,非常にわかりやすく記載されている.

—森田 達也,木澤 義之 監修 西 智弘,松本 禎久,森 雅紀,山口 崇 編—緩和ケアレジデントマニュアル 第2版

著者: 勝俣範之

ページ範囲:P.1519 - P.1519

 緩和ケアは,「診断された時からの緩和ケア」として,がんが診断された時から提供されるべきとしています(厚労省,2012年).この『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』は,日本の緩和ケアの第一人者の先生方が中心になって,最新の情報をもとにつくられた実践的な教科書であり,マニュアルです.
 近年,緩和ケア研究は,治療研究にも劣らず,たくさんの臨床研究が行われ,多くのエビデンスが積み重ねられてきています.本書では,その得られた最新かつ最善のエビデンスをベースに,きちんとレビューされ,ていねいな記載がなされている点が素晴らしいと思います.また,文献にはPMIDを記載してくれているので,実際に参照するうえでとても便利です.さらに,おのおのの治療やケアに対して★がつけられており,★は「観察研究などがある」,★★は「RCTが1つある」,★★★は「メタアナリスまたは複数のRCTがある」としていて,とてもわかりやすいです.

—勝俣 範之,東 光久 編—ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.1534 - P.1534

 ジェネラリストにとって心強い味方ができた.『ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック』である.2人に1人はがんに罹患(りかん)し,3人に1人はがんで死亡している時代において,がん診療はジェネラリストにとって避けることのできない分野である.患者・社会からのニーズも高く,この分野に臨むことはやりがいがあることは言うまでもない.その一方で,がん診療は壮大な学問であり,ジェネラリストが挑むにはいささかハードルが高かった.本書ではがん診療のメインストリームであろう薬物療法についてあえて深く踏み入らないことで,このハードルを一気に下げた.その代わりにジェネラリストが知りたい内容が盛りだくさんとなっており,がん薬物療法を普段行っていないジェネラリストのために特化した一冊である.
 例えばがんの予防については患者からの質問も多く,ジェネラリストにとって知らなければならない知識の1つであるが,「がんの19.5%が喫煙による」「適度な運動はがん死亡リスクを5%下げる」などの具体的な記述は患者指導に大いに役立つであろう.また,がんのリスクとなる食品,リスクを下げる食品についても言及されている.がんを疑う徴候に関しても,例えば,Leser-Trélat徴候は3〜6カ月以内の急性発症で瘙痒感を伴うことが脂漏性角化症との違いなど,臨床的に重要な知識が詰め込まれている.

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目次

ページ範囲:P.1410 - P.1413

読者アンケート

ページ範囲:P.1591 - P.1591

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1592 - P.1593

購読申し込み書

ページ範囲:P.1594 - P.1594

次号予告

ページ範囲:P.1595 - P.1595

奥付

ページ範囲:P.1596 - P.1596

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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