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雑誌目次

雑誌文献

medicina6巻2号

1969年02月発行

雑誌目次

EDITORIAL

糖尿病に対する考え方

著者: 葛谷信貞

ページ範囲:P.145 - P.145

 糖尿病とは何か,糖尿病のあらわす内容は時代によって,またそれを考える人の立場によって異なっている。
 糖尿病はdiabetes mellitusの訳であるが,このdiabetes mellitusという名称は18世紀以後の名称である。現在の糖尿病に相当すると思われる病気の記載はEbers Papyrus(紀元前1500年ごろの書物)の中にみられるとされ,紀元2世紀ごろのAretaeusやGallenの著書中にはdiabetesという名称で記載されている。慢性の経過をとり,急に増悪して,不思議な症状(煩渇,多尿)を示して死亡する病気とされ,病因の考察も行なわれている。

今月の主題

糖尿病—考え方と診断を中心に

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.146 - P.153

 糖尿病diabetes mellitusを正しく診断し,適正に治療するためには,まず糖尿病とはいかなる疾病であるかを理解することが前提条件となる.尿にブドウ糖が排泄され,異常な高血糖を示せば,それをすべて糖尿病としてしまうような条件反射的診断は正しいとはいえない.

糖尿病の診断と治療

著者: 後藤由夫 ,   前沢秀憲 ,   葛谷健 ,   豊田正輝 ,   堀内光

ページ範囲:P.154 - P.164

 糖尿病はもっともありふれた病気でありながら,その病態はいまだに明らかでない点も多い.にもかかわらず,糖尿病診療の実際にあたっては,まず糖尿病という病気の正しい理解がその出発点となる.糖尿病の最新の考え方および診断・治療のポイントについて.

Leading Article

救急診療

著者: 大鈴弘文

ページ範囲:P.182 - P.184

理想の救急診療
 救急を要する患者が発生したとき,まずもよりの第一線診療所で止血,包帯,強心剤投与,酸素吸入などの初療を行ない,重症者は救急センターに送って手術または重点的治療を実施した後,1カ月以上も入院加療を要するものはリハビリ・センターに収容し,さらに不具廃疾となり一生医療を要するものは,しかるべき施設で療養させるという一貫した体系が必要である.この体系の中心となる救急センターは臨床各科を備えた総合病院であって,重症診療室(ICU, CCU),高圧酸素治療室,重症患者監視装置,レントゲン診断室,手術室,検査室が完備し,医師,看護婦,技術者,事務員が四六時中待期していなければならない.
 また救急患者に対して,適当な診療を行ないうるには地域の限定があって,第一線診療所,救急センターの配置を適正にし,診療機関の間の患者移送のための道路,輸送具を整備し,それらに適切な指示を与えうる司令機関が必要である.

診断のポイント

喘息様発作

著者: 戸塚忠政

ページ範囲:P.165 - P.167

喘息を誘発する原因は多い
 喘息または喘息様発作は気管支喘息におけるアレルギー因子,感染,神経性因子のほか種々の原因による気道の浮腫・腫張.狭窄・分泌物や,さらに低酸素,高炭酸ガスの状態によってもおこり,気管支・肺疾患のほかにも喘息様症状を呈する疾患は少なくない.UrbachおよびGottliebは喘息の鑑別診断として下表をあげている.以下そのおもな疾患につき喘息様発作を中心に診断の要点を述べる.

腎血管性高血圧

著者: 増山善明

ページ範囲:P.168 - P.170

腎血管性高血圧がなぜ問題となるか
 二次性高血圧のなかでも特に腎血管性高血圧が注目され,重要視される理由としては,第1に成因面から,1934年Goldblattが初めて動物に作った実験的腎性高血圧に似た高血圧がヒトで臨床的にみられるということ,およびこの形の高血圧がレニン・アンジオテンシン昇圧系が最も関与していると考えられることであり,第2に臨床面では,若年者の著明な持続性高血圧のなかで,その診断法の進歩とともにしだいに数を増していること,またわが国で比較的多い大動脈およびその主要分枝の狭窄を示す動脈炎(いわゆる大動脈炎症候群・高安病)で腎動脈狭窄を合併することが多いこと,さらには,治療上,血管外科の進歩により,狭窄血管の修復手術の成功率が増し,原因を除くことにより高血圧の治癒が可能となったこと,などによる.

みのがされている甲状腺機能亢進症

著者: 入江実

ページ範囲:P.171 - P.172

意外に見落としと誤診の多い本症
 甲状腺機能亢進症の診断は比較的やさしいと考える人が多いのではないかと思う。たしかに教科書的な,典型的な臨床症状,すなわち①甲状腺の腫大,②動悸,多汗,ふるえ,やせなどで代表される甲状腺ホルモン過剰分泌による症状,③眼球突出その他の眼症状,の3つがそろっている場合には,診察にきた患者を一目みただけで,いわゆるBlickdiagnoseで診断をつけることもできる.しかしこれらの症状は必ずしも全部出そろっているわけではない.甲状腺腫大も場合によっては大してめだたない場合があり,また注意してみないと甲状腺腫大を見落とすこともある、ホルモン過剰による症状も患者によっては著明でなく,漠然とした自覚症状のみを訴えることもあるが,逆にある1つの症状だけがきわめて誇張された形で現われることもある.眼球突出は患者の半数以上において欠如するので,それがなくとも本症の診断を否定する根拠とはならない.ただし眼球突出のない患者でも,大きく見開いた目,下を向かせた時に眼球結膜部が残るいわゆるグレーフェの症状などは存在しうる、今日の考えではこれらの症状は眼球突出とは原因を異にし,甲状腺ホルモン過剰に起因する眼瞼のスパスムスによると考えられている.
 以上のような理由から非定型的な甲状腺機能亢進症の症例は意外に多く,過去10数年の甲状腺外来における私の経験でも,相当数このような例に遭遇している.

治療のポイント

急性白血病

著者: 長村重之

ページ範囲:P.173 - P.175

 早期にそして長期間の緩解維持が治療のコツ
 急性白血病はリンパ性の骨髄性に大きく分けられ,化学療法に対する反応に程度の差はあるが,治療方針に差異はなく,早期に緩解を誘導して,緩解を長期間維持することが目標となる.ここに両者に分けてそれぞれ症例をあげて説明することにする.

茶,コーヒーと胃疾患

著者: 河野実

ページ範囲:P.176 - P.177

カフェイン,タンニンの胃への影響
 普通のお茶つまり日本の緑茶は適当な苦み.渋みおよび収斂作用により胃の不快感に落ち着きを与えることは言うまでもない,しかし濃いせん茶・抹茶あるいはコーヒーの飲み過ぎにより胃の調子を悪くすることは多くの人の経験するところである。茶,コーヒーの作用はその特殊成分であるカフェインとタンニンによることが考えられるが,しからばこれがどのようにして胃に影響を与えるかを分析してみよう.まずカフェインおよびタンニンの薬理作用を復習してみることにする.

カゼと妊娠

著者: 久保博

ページ範囲:P.178 - P.179

カゼとは
 カゼあるいは感冒と呼ばれているものは病因的にも臨床的にも独立した単一の疾患ではなく,カゼあるいは感冒疾患群とよばるべきもので,一般に最も普遍的な上気道の急性カタルの総称名である.ウイルス性のほかに非感染性のものもあるが,問題となるのはウイルス性のものであるから,ここでは主としてウイルス性感冒について述べる.

エタンブトールの使い方

著者: 内藤益一

ページ範囲:P.180 - P.181

エタンブトールの利点
 エタンブトール(Ethumbutol,D-2,2'-(ethylene diimino)-di-1-butanol di-hydrochloride)は1961年アメリカのWilkinsonらによって合成され,Thomasらによってその抗結核作用を発見された物質である.その後アメリカで臨床試験の域まで研究が進んだのであるが,視力障害の起こりうることが判明して研究が中絶していた.一方わが国ではこの化合物の研究が各方面で推進され,ついに臨床的使用が一般に可能となるに及び,アメリカを初め諸外国でもこれに追従するに至っている.
 基礎的研究の成績は紙数の関係で省くが,結論だけを述べると,その抗結核作用はINHには及ぼないけれども,かなりすぐれたものであり,他の抗結核薬と交差耐性をもたない点を利点とする.

負荷試験=方法と評価

PSP(phenolsulfonphthalein)試験

著者: 林康之

ページ範囲:P.122 - P.123

 腎の色素排出機能検査として利用されているPSP試験は腎血流量,近位尿細管機能のほか尿路異常の有無も知ることができ,簡単でしかも利用価値が高い.もちろん負荷機能検査として負荷物質の何%が一定時間内に排出されたかを調べるのみであって,本試験成績に病名(あるいは鑑別)診断的な意義を求めることはむりであろう.しかし,検査にあたって特別な分析技術の熟練を要するわけではなく,患者への負担もかるくすみ,腎機能検査に不可欠のものといっても過言ではない.
 以下PSP試験の実施方法と検査時の注意および成績の解釈を述べる.

診療手技

腰椎穿刺

著者: 山下九三夫

ページ範囲:P.124 - P.126

 脊椎穿刺は1891年Quinkeがはじめて診断的に行ない,1898年August BierとTheodore Tuffierが各独立的にCocaineを脊椎腔内に入れ,脊椎麻酔を行なったのに始まる.

救急診療

頭部外傷患者の処置

著者: 藤本和男

ページ範囲:P.128 - P.129

 いろいろな意味から.重症頭部外傷ほど,first aidのもつ重要性の大きい疾患,障害はないだろう.時と場所を選ばず起こるこの外傷は,第一線医人の何ぴとも,好むと好まざるとにかかわらず直面せざるをえないのが現状である.筆者はここで,問題を意識障害を伴った頭部外傷に限定しようと思う.なんとなれば,意識が障害されない頭部外傷については,first aidは頭部打撲と同時に起こる頸深部の障害に対してのみ考慮をはらえばよく,さほど緊急重大さがないからである.頭部外傷患者を処置するには頭部外傷を知ることがなにより必要である.

カラーグラフ

咽頭(のど)に所見のない咽頭痛

著者: 滝野賢一

ページ範囲:P.136 - P.137

 のどが痛いというので,舌圧子を使って咽頭腔をよくみても、その訴えに相当するような所見がみられない場合がある.
 そのような時,私ども耳鼻咽喉科医は後鼻鏡や喉頭鏡を用いて,鼻咽腔(上咽頭腔)や喉頭腔,下咽頭腔をみることにしているが,そこに咽頭痛の原因となっている所見をみつける場合が少なくない.1-4図はそれらの所見を側視用の内視鏡でみながら撮影記録したものであるが,これほどの激しい所見がなくとも,その部に薬液を塗布すると,‘そこが痛いところです’という.大気汚染との関連も考慮される所見だが,日常臨床において留意したい1つの病型でもある.

グラフ

インスリンの定量法

著者: 池田義雄 ,   斎藤浩 ,   安沢竜徳 ,   清水紀博

ページ範囲:P.139 - P.142

 血中インスリンの測定は,糖尿病の病態生理の解明に大きな役割をはたしている.
 インスリンの血糖下降作用を指標とした小動物を用いるin vivoのbioassayがまず考案され,その後ラットの剔出横隔膜法,ラットの剔出副睾丸脂肪組織法などのin vitroのbioassayが行なわれ,インスリン様活性(ILA)の術語が用いられた.しかし図1に示すようにin vivoのbioassayは,その感度に不足がある.またin vitroのbioassayには,測定されたILAの性状にいくつかの問題点がみいだされていることは注意されなければならない.

熱傷センター

著者: 東京警察病院

ページ範囲:P.143 - P.144

 東京警察病院の形成外科を訪れる熱傷後の瘢痕ケロイドまたは瘢痕拘縮をもつ患者は,同科外来患者の約40%に相当しているという.熱傷患者に瘢痕ケロイドが現われると,何回も手術的矯正術が必要であるばかりでなく,特に関節部では機能障害を起こし,また患者の精神状態にも影響するところが大きい,これらの障害を予防するためには,新鮮熱傷時に適切な治療が行なわれることが必要である.
 このように熱傷後の瘢痕ケロイドの出現を予防することを目的として,同病院はわが国ではじめての試みとして"熱傷センター"を開設した.この熱傷センターは,重症患者が1日も早く社会復帰できるように,高度の施設と機能を活用させているが,また一般医家に対して治療上のコンサルタントとして役だつことも意図している.

症例 胃X線写真の写しかた・読みかた・6

表面平坦型(IIb)のX線診断

著者: 熊倉賢二

ページ範囲:P.193 - P.195

早期胃癌の1つである表面平坦型(IIb)は肉眼的には認められぬ微小なもので,その早期発見には詳細な組織検査に待つよりない現状ですが……

巨大なる神経原性縦隔腫瘍の1例

著者: 陶棣土 ,   陶易王 ,   寺島重信 ,   神辺譲

ページ範囲:P.196 - P.198

 縦隔腫瘍は集団検診の普及によって無自覚性の症例が発見される機会が多くなり,手術手技の向上と相伴って,もはやまれな疾患ではなくなってきている.そのうち縦隔から発生する腫瘍のうちでは神経原性腫瘍が統計上多く1,2),大きさも巨大になることがまれでない、われわれは最近,胸腔の半分以上を占め,しかも全く自覚症状を欠く巨大なNeurofibromの一例に遭遇したので.その治験について報告したい.

他科との話合い

甲状腺腫—切るべきか,切らざるべきか

著者: 小田正幸 ,   降旗力男

ページ範囲:P.216 - P.222

 甲状腺腫の治療は,内科的にはI131や抗甲状腺剤が主役になるが,それらが効果のない場合,禁忌の場合など,外科の手に委ねたほうがよいことも多い."切るべきか.切らざるべきか"の判断は…….

チュレーン大学の内科専門医のためのオリエンテーション・ブックレット・2

コンサルテーション

著者: 高階経和

ページ範囲:P.205 - P.210

ジャーナルクラブ
 これは火曜日の3時から,職員食堂において毎週行なわれ,Dr.McCrackenが,このクラブを運営し,各部門のスタッフメンバーが毎週交替でかれらの分野についてのディスカッションを行なう.われわれのレジデントが,最近の文献についての報告をするさい,この報告についての理論を,大学のフルタイム,あるいはパートタイムのスタッフがひき続き行なうことになる.

阪大・阿部内科 研修医のためのWard Conference・2

狭心症—心室頻拍をともなう狭心発作

著者: 阿部裕 ,   原宏 ,   榊原博 ,   萩原俊男 ,   松谷公夫 ,   北畠顕 ,   加来弘臣 ,   小豆沢瑞夫

ページ範囲:P.199 - P.204

 阿部 狭心症,あるいは発作性心臓頻拍症などの心臓発作は,医師が発作に直面する機会が比較的少ないゆえに,問診または間欠期の検査を通じて発作の内容を推察するにとどまるため,正確な病態の診断が困難となることが多い.とくに軽症ないし非定型の場合は,発作中の所見が把握されていないと,神経症などとして見のがされる場合も少なくないと思われる.したがって,発作の状況を具体的に聞き出す問診技術の研修につとめることはもとより不可欠ではあるが,発作の捕捉能力の向上をはかることはきわめて肝要である.そのためには冠状動脈疾患監視病室(coronary careunit)のごとき設備も有用であるが,また発作に遭遇した場合には,検査ならびに身体所見の把握を重点的に行なうことにより,客観的事実の認知に悔いをのこさないよう配慮せねばならない.
 本日は狭心症例を呈示して,以上の諸点について討論したい,主治医,症例を説明してください.

脳波のよみ方・2

てんかん

著者: 本田正節

ページ範囲:P.211 - P.215

発作性調律異常
 脳波がBergerにより発見され,これをAdrianが確認して以来,脳波検査の対象となったまず最初の疾患はてんかんであった.なぜかというと,この疾患の発作にさいしてまことに派手な所見がでるからである.1934年,ドイツでKornmüllerらが,またアメリカではDavis,Gibbs,LennoxらのHarvard系の学派が,Boston市立病院の神経科で,てんかんの発作時,特に小発作のそれの場合に3c/sのspike and dome律動が現われることを知った.かれらは驚喜して脳波装置を自動車に積み,てんかん患者の収容所を訪れてその所見を確認し,またデータの集計をはかったのである.
 このような歴史的事実からてんかんに関する知見はもっとも早く,しかもいちばん精細に臨床医学に提供されるようになった.

臨床家の生化学

糖代謝と脂肪代謝の関係

著者: 弓狩康三

ページ範囲:P.223 - P.227

 糖と脂肪代謝とが連関することの生理的な意味はいったい何であろうか.この連関に関与する因子の現状分析を通して,研究の将来的展望をスケッチしてみた.

診療相談室

精神病患者の薬物鎮静法

著者: 富永一

ページ範囲:P.237 - P.237

質問 小生,内科医でありますが,精神病患者の自宅療養中のものが,急に興奮状態となり,これに対する救急処置を頼まれることがときどきありますが,なかなかうまいぐあいにいかなくて困ります、この場合,どんな薬物をどのように使用したらよいか,具体的に精神科の先生におたずねいたします. (東京都世田谷区開業・S生)

medicina CPC・第6回

消化管の悪性腫瘍と脳血管障害の合併例—出題

ページ範囲:P.134 - P.134

下記の症例を診断してください

消化管の悪性腫瘍と脳血管障害の合併例—討議

著者: 本多虔夫 ,   安部井徹 ,   金上晴夫 ,   福永昇 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.231 - P.235

 田崎 患者は34歳の男,主訴は右の上肢の麻痺です.現病歴は42年の11月上旬ごろからときどき腰が痛くなったり,おなかがはったりする.そして12月はじめから右の季肋部痛が起こったので,腎結石か,あるいは胆石症だから入院してよく調べうといわれた、入院しておったところが12月17日朝,右側の不全麻痺,構語障害を起こしたので精査のために私どもの病院に運ばれてきたということです.
 入院時所見は,意識はすこし混濁して,右の片麻痺があるということでございます.入院後の経過は意識障害がだんだん悪くなり,昏睡状態になって,12月27日,突然ショック状態で死亡したということです.この患者の経過については安部井先生が詳しいのでいろいろ聞いていただきたいと思います.

略語の解説 14

HbA-HMP-shunt

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.131 - P.131

HbA
 adult hemoglobin:成人型ヘモグロビン 成人の血中に存在している正常のヘモグロビンをHbAという.このHbAとは異なるグロビンを有するヘモグロビンをとりまとめて異常血色素というが,これにはいくつかの種類があり,発見された年代順にアルファベットをつけて命名されている.ただ,胎児の時代には生理的にみられる別のヘモグロビンがあり,これを胎児のfoetusのFをとってHbF(foetal hemoglobin)と呼んでいる、HbFは胎児にみられる正常ヘモグロビンと解してよい.異常血色素としては鎌形貧血にみられるヘモグロビンのHbS,遺伝的紫藍症をきたすヘモグロビンのHbMなどがあり,最近ぞくぞくと新しいものが発表されるに至っている。そのためアルファベットによる命名がむずかしくなり,最近は発見された土地の名前をつけるようになっている.たとえばBaltimoreのJohns Hopkins Hospitalで発見されたものはHb Hopkinsというごとくである.

統計

年齢別にみた疾病

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.132 - P.132

 厚生省では毎年10月国民健康調査を行なって,世帯の側から疾病を把握していますが,41年には健康,栄養,生活一般に関する大規模な調査を実施しました.健康度についての一部の結果は,本誌第5巻第3号・第4号にすでに紹介しましたが,ここでは疾病に関する結果を,年齢別に観察してみましょう.
 疾病の観察については時間との関係がたいせつであり,疾病量をはかる率として、一般に罹患率,有病率が使われています.罹患率とは観察期間という幅をもった時の流れにおいて,どのくらいの人が罹患するかをみるものであり,有病率とはある観察時点にどのくらいの人が罹患しているかをみるものであります.

今月の表紙

ラ氏島の電顕像

著者: 小浜基郎

ページ範囲:P.133 - P.133

 膵臓には消化酵素を分泌する外分泌細胞とホルモンを分泌する内分泌細胞の集合した膵島がある.膵島は膵臓の2-3%を占めるにすぎないが,α細胞や,β細胞,δ細胞などの細胞から構成されており,α細胞からはグルカゴン,β細胞からはインスリンが分泌される.δ細胞の生理的な作用については,いまだ確かではない.
 膵島の内分泌細胞はβ細胞が多く,α細胞との比率は約4:1ぐらいである.細胞の徴細構造はおおよそ,細胞核とほかの細胞小器官からなっており,リボゾームの付着している粗面小胞体,滑面小胞体,ゴルジー装置,ミトコンドリアなどであり,いずれも重要な細胞機能をはたしている.

全国教室めぐり

九大・第1内科

著者: 真柴裕人

ページ範囲:P.185 - P.185

初代稲田教授以来の重厚な学風
 九州大学医学部第一内科教室は明治39年1月,稲田竜吉教授により開講された.稲田教授は第2代井戸泰教授と黄疸出血性レプトスピラ病の研究の基礎を築かれた.第3代呉建教授は自律神経系および循環器病に関する研究を展開され,後に恩賜賞をうけられた.第4代金子廉次郎教授は感染病,循環器病の研究を発展させられた.第5代操担道教授はこれら感染病,循環器病に関する研究はもとより,血液,脳波,臨床病理,人類遺伝学,精神身体医学,結核等の多方面にわたる研究を行なわれた、第6代山岡憲二教授はこれらの研究の発展に努められるとともに,胆汁色素,血色素に関する研究で学士院賞をうけられた.第7代柳瀬敏幸教授は東京医科歯科大学遺伝病研究施設の教授の職にあったが,昭和41年,伝統ある母教室を主宰されることとなった.
 このように,教室の気風は堅実素朴で,研究および臨床面でがっちりした努力の積み重ねが要求される重厚な学風をモットーとしている.しかし他面,各人の個性を尊重し,個人的特徴が伸長できるような雰囲気がある.

ルポ アメリカ医学の実相(1)—1968年夏の渡米ノートから

ホノルル―Straub ClinicとKaiser病院をみて

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.186 - P.189

 今回の海外旅行の第1の目的は,9月1日から5日までイスラエルにて開催される第4回Asian-Pacific Congress of Cardiologyに出席することにあったが,それと同時に,アメリカをはじめ欧州の病院やクリニックの施設とその運営,卒業後の医師教育情況を見学することが重要な目的であった.

私の意見

診療事故と回避・防止義務

著者: 臼田正堅

ページ範囲:P.192 - P.192

 診療行為上において少しでも疑惑が生じれば"診療事故"として,その多くが法律的問題となり争われる.しかし,その判決をみると必ず事故に対して未然に防止できたか否かが第1に問題とされている.そこで回避および防止義務の概念を記した.

メディチーナ・ジャーナル—日医

"完全診療月間"—ただ今第1次行動中

著者: 木島昂

ページ範囲:P.230 - P.230

邪推とタメライ
 今年1月1日を期して,日医会員はいっせいに"完全診療月間"に入った、これに対して厚生省や,健保連・日経連など支払者側は"完全審査月間"というコトバを案出し疑惑と抵抗の姿勢でかまえている.また,一部の会員の中には,"今さら完全とは……われわれは以前から完全に診療している"というちゅうちょの声もたしかにある.
 前者は保険診療をただ前時代的な経済面だけでしいてとらえようとする目,ことに社会保険の独占資本を死守しようとする目でこれを見つめている.もっとあからさまにいえば,濃厚診療による保険経済破綻を邪推する目だ,一方後者は,真しな実地医家ではあるが,即自的な完全診療の視野にとどまり,社会構造や科学の変革につれて医療保険がどう改革されなくてはならないか,歴史と未来をふまえた広視野に欠けたためのタメライである.もちろん前者とは本質的に異質のものではある.

コメント

タバコ狭心症

著者: 秋山房雄

ページ範囲:P.227 - P.227

 "心臓病の一因にも—米国で愛煙家にまたショック"といった見出しで喫煙の害が,一昨年7月初め朝日新聞紙上に出ていた.これによると,米公衆衛生局は,4年前に喫煙と肺癌は密接な関係があるという報告書を出して,世界中に"タバコショック"をまき起こしたことがあるが,こんどは,喫煙は肺癌だけでなく,心臓病の一因にあるとの結論を出し,一方連邦通商委は,タバコ会社によるテレビ,ラジオのコマーシャルを喫煙推奨行為であるとつぎにあげ,議会は,その禁止立法を行なうべきだと勧告している.
 "心臓の悪い人にタバコは絶対にいけません"とは,保健指導の際いつもいっているところであるだけに,いまさらこんなことを,と少し意外な気持もあったが,いったいなぜタバコが悪いのかということになると,なかなかむずかしい問題があることを知った、以前は喫煙が,冠状動脈の収縮を起こすからだ,と簡単に考えていたが,薬理学的には,ニコチンは冠状動脈を拡張し,血圧を上げ,心拍と拍出量を増加し,また,アドレナリンを遊出させ,心筋での酸素消費量を増すということになっている.いわゆる"タバコ狭心症"といわれるものも,これを"喫煙直後,典型的な狭心発作を起こし,心電図上で冠不全の所見が現われるか,あるいはすでにあった変化が悪化するもの"と定義すると,このような例はむしろまれであるとOram1)はいっている.

臨床メモ

はげしい腰痛のfirst aid

著者: 横関嘉伸

ページ範囲:P.170 - P.170

 急性のはげしい腰痛を起こす疾患は,椎間板ヘルニア,腰部外傷,化膿性脊椎炎,脊椎腫瘍などがあげられるが,もっとも多いのは,俗にぎっくり腰とよばれる急性腰痛症である.その原因は,椎間板ヘルニアの急性発作,筋肉・筋膜および靱帯など軟部組織の断裂や過伸展によるものと考えられるが,臨床的にそれらを鑑別することは困難である,重い物を持ったり,腰をひねったことが誘因となり,痛みはしだいに強くなり,起立歩行が困難となり,臥床しても寝返りができず,せき・くしゃみで,さらに痛みを強く感じるようになる,歩行時には,上体を前倒方に傾け,ゆっくり慎重に歩く.立位では,労脊柱筋の緊張や側彎が強く,前屈を命ずると,筋の緊張はさらに強くなる.
 治療としては,まず安静臥床が第1である.食事・用便も臥床のままさせるのがよい.痛みがなくなるまでの期間は,通常,数日ないし10日くらいであり,初診時に,その期間の安静を納得させることがたいせつである.最初の安静期間が不じゅうぶんだと,再発や慢性化することが少なくない.

イルガピリン使用の際に気をつけること

著者: 日向野晃一

ページ範囲:P.175 - P.175

 一般診療所では,筋肉や神経・関節などの痛みを訴えて受診する患者はほぼ1割内外であろう.さて,その痛みの病態生理のすべてが,解明できるわけではないが,安静と適当な鎮痛剤の投与などで経過を観察しているうちに,自然に治癒していくものが大部分である.
 私は最近,イルガピリンの注射と1日3錠の内服を併用しているうちに,貧血に由来する心悸亢進を患者が訴えるまで,胃潰瘍の下血に気づかなかった坐骨神経痛の症例を経験し肌の粟だつ思いがした.ローレンスの臨床薬理学によると,ブタゾリジンは経口的に1日400mg以上の使用は望ましくなく,1600mgの投与では800mgの投与時と血中濃度は同様であるが,中毒効果はずっと増大するということである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

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60巻12号(2023年11月発行)

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59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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