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雑誌目次

雑誌文献

medicina6巻3号

1969年03月発行

雑誌目次

EDITORIAL

肝癌

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.265 - P.265

 肝癌は一般肝疾患のうちでも,また消化器系癌のうちでも,過去においてはその絶望的な予後のために,その診断および治療が,学会等において活発な討議の対象となることは少なかった.6年前(1963)の大阪での第16回日本医学会総会において,私が司会を依頼されたシンポジウムは"肝硬変と肝癌"であったが,これは主題の示すごとく,肝硬変より肝癌への移行の機序,あるいは両者の病態生理の異同などが主として論ぜられ,またこのときの演者も4人の内科臨床家と2人の病理学者(うち1名はタイ国より参加)で,若干の追加も主として内科学の立場からであった.しかし,その3年後東京で行なわれた国際肝臓研究会の総会では,欧米の外科医の方からの示唆もあり,私ははじめはこのへんの時点で,そろそろsurgical hepatologyのシンポジウムをと思ったのであるが,十分な数の演者が得られないままに,主題をそのひとつの前段階の研究にしぼって,"Vascular Supply of the Liver"にかえた.
 ところが,そのころから,肝癌の診断と治療をめぐる研究の報告がにわかに増してきたようである.最近に行なわれた肝臓関係の国際的なシンポジウムでは,必ずといってよいくらい,肝癌がひとつの中心テーマとなっている.

今月の主題

原発性肝癌—わが国における特徴と診断について

著者: 市田文弘

ページ範囲:P.266 - P.272

 肝癌は,胃癌などとともに,諸外国に少なくわが国に多い癌の1つである,特に肝硬変と原発性肝癌の合併率は国際的にみてかなり特異的である.わが国における肝硬変と肝癌の関係,臨床症状,診断法の進歩など最近の考えかたを.

肝癌の診断と治療—原発性肝癌を中心として

著者: 菅原克彦 ,   服部信 ,   三浦健 ,   亀田治男

ページ範囲:P.274 - P.281

 肝切除術や抗癌剤の進歩によって,最近では肝癌の治療にも希望がもてるようになってきた.それだけに,早期診断が必要になるわけだが,特に肝硬変との関係,原発性か続発性かの鑑別は治療の適否を決めるポイントになる.肝移植に至る将来の展望を含めて診断・治療の問題を.

Leading Article

臨床のための病理学とは—病理医から臨床医へ

著者: 金子仁

ページ範囲:P.302 - P.304

病理医のひとりとして
 与えられたテーマ「病理から臨床へ」を病理"医"から臨床"医"へとなおさせていただいた.純粋な,きわめて基礎的な,直接臨床医と関係をもたないですむ病理学者とは異なり,毎日毎日臨床医と一緒にその患者の診断を考え,ときには治療面までアドバイスをする病理医のひとりとして,臨床医にわれわれの仕事を理解してもらいたい.そして臨床医としての知識,病理医としての知識を互いに交換し合って,患者のためによりよい診断,よりよい治療をほどこさねばならない.このような考えから筆をとった.単なる病理医の泣きごとや,ひとりよがりに終わらなければ幸いである.

診断のポイント

婦人の紫斑

著者: 勝見乙平

ページ範囲:P.282 - P.284

 出血性素因の診療に際しての最も重要なポイントが診断の確定にあることは論をまたない.しかし常に純学問的な意味での精密な診断を求あるあまりに時日を費やすことは,一般臨床的には必ずしも正しくない.出血性素因の臨床においては一般状態の急激な悪化をきたす場合が少なくないからである.本稿においては成人女子に診られる頻度が高い出血性疾患のみについて,治療法の決定のための必要最低限と考えられる鑑別診断法について述べたい.

妊婦とブドウ糖負荷試験

著者: 吉田秀雄

ページ範囲:P.285 - P.286

妊婦と糖尿病
 妊婦は時々検尿して蛋白が陽性か否かをみることが必要であることは広く普及しているが,尿糖の陽性か否かをしらべる必要があることについてはようやく数年来注目せられてきたにすぎない.妊婦に尿糖陽性のことがしばしばみられることは事実であるが,妊婦が糖尿病的であるとか,妊娠に際し糖尿病が多発するとか,悪化するとかの見方はむしろ誇張されているといわねばならない.
 なるほど妊娠は尿糖,インスリン活性の現われ方などについて婦人を糖尿病と似た状態におくものであるが,真の糖尿病が妊娠を機会にして発病してくることは比較的まれである.またすでに糖尿病に罹患している患者が妊娠してくることもしばしばあるが,その診断はむずかしくない.

細菌尿の診断

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.287 - P.288

検尿は尿中細菌を知るのに適当か
 腎盂腎炎ないし尿路感染症の診断には,1)臨床症状,2)尿所見,3)腎機能の低下,4)腎盂像の変化,5)腎生検,6)既往症などが行なわれるが,尿所見,とくに尿中細菌数を測定し,細菌尿の存在を確かめることもたいせつなことの1つである.
 現在,日常の診療において簡易に行なうことのできる検尿,とくに尿蛋白や沈渣所見が尿路感染症の診断ないし治療後の経過をみるのにしばしば用いられている.確かに尿沈渣所見や蛋白の有無は尿路感染症の有無を知るのに簡単な方法といえるが,はたしてこれが尿中の細菌の有無をみるのに適当な方法であるか,もう1度検討してみる必要があると思う.この際,尿の培養を行ない菌の有無を調べるのがよいとも一応考えられるが,たとえ清潔に採尿し培養しても菌が認められるもので,これがはたして病原性であるか雑菌であるかの判定はむずかしく,現在ではその菌数のいかんにより,1mlにつき1万以下なら正常,10万以上なら細菌尿と判断することになっている.

治療のポイント

高血圧患者の食事指導

著者: 岸本道太

ページ範囲:P.290 - P.291

問題は合併症
 高血圧の食事指導に関し,私が現在行なっている方法を中心にして述べる.高血圧患者の食事指導に関しては,医師の間でもかなり異なった見解がみられ,ある人は非常に制限された食事を患者に強制するが,また他の医師はかなり患者の自由にまかせている.

ビタミンB12の臨床応用

著者: 内野治人

ページ範囲:P.292 - P.293

 ビタミンB12(以下B12と略)同族体が明らかにされ,生体内において,酵素レベルで働く補酵素型B12の構造が知られるとともに,B12のもつ生理学的・生化学的作用機序もある程度解明されてきたため,B12の臨床応用としては,B12欠乏症に対する本来のビタミンとしての作用機序を期待する特異的治療法とともに,まだその作用機序が十分解明されていないが,非特異的・薬理学的作用を期待する適応症が開発されてきた.

ジギタリスのきかない心不全

著者: 友松達弥

ページ範囲:P.294 - P.295

ジギタリスのきく心不全
 ジギタリス(以下ジギと略す)のきかない心不全を考える前に,ジギのきく心不全をはっきりさせておくことが必要である.
 心不全は心筋自体の器質的障害による場合と,異常の負荷すなわち機械的因子により発生する場合とがあるが,原則的には後者によく効き前者に対してはきかないか,またはききがよくないものである.機械的因子によるものといえども一律にきくわけではない左心に対する流入負荷(量負荷)の場合がことによくきくのである.換言すれば大動脈閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全であり,いずれも低拍出性心不全となるものである.それ以外の機械性因子による心不全すなわち弁膜症,高血圧症,先天性心疾患の場合にも奏効するが,効果の不十分と思われることがよくある.心筋の器質的障害に心筋硬塞,心筋炎,心筋症がある.前述の機械的因子すなわち量または圧負荷による心不全においても,筋性因子が加わってきて効果の逓減をきたすものである.筋性因子は複雑である.全く奏効しないわけではない.心筋硬塞による心不全にもジギタリスは使用して奏効することがしばしばである.要は心筋の傷害が広範にわたり,しかも高度であれば効果はきわめて乏しくなる.

妊娠と膠原病

著者: 矢野良一

ページ範囲:P.296 - P.297

 膠原病患者が妊娠したとき,どのように治療するかということであるが,いわゆる古典的4つの膠原病である全身性エリテマトーデス,皮膚筋炎,結節性動脈周囲炎,強皮症は国際分類ではリウマチ近似疾患のなかにはいっている.本邦では上記のほかに,リウマチの代表といわれるリウマチ熱,慢性関節リウマチを加えて膠原病全般を論じているひとが多い.筆者はリウマチ熱,慢性関節リウマチ,全身性エリテマトーデスを対象として述べる.

負荷試験=方法と評価

BSP(Bromsulfophthalein)試験

著者: 浪久利彦

ページ範囲:P.242 - P.243

 肝の異物排泄能試験として種々の色素が検討されてきたが,現在実際に用いられている物質としては,BSP,アゾルビンS,放射性ローズベンガル,放線性金コロイド,インドシアニングリーンなどである.これらは主として肝を経て胆道に排泄せられるものであるが,一般には循環血液量に対応した色素量を静注し,一定時間後の血中濃度と負荷時との濃度比をもって表わすことが多い。さらに正確に排泄能を表わすためには,負荷後の血中濃度の推移を観察し,消失率などを算定する方法が用いられている.
 BSPはその特異性から,測定に特別な手技を必要とせず,コンパラトールを使用すれば肉眼的におおよその血中濃度を観察することが可能で,この方法は臨床的に広く用いられている.以下BSP試験の実施方法と検査時の注意およびその成績の解釈について述べたい.

診療手技

胸腔穿刺

著者: 疋田善平

ページ範囲:P.244 - P.246

胸腔穿刺の目的
 胸腔穿刺とは,胸腔内に針(または管)を挿入することで,それにより胸腔内の観察や内容物の排除および注入などして,診断・治療に役だてるを目的とする.(ゆえに試験穿刺から人工気胸や胸腔鏡にいたるまでこの範疇に含まれるが,ここでは日常診療にもっともしばしば必要となる胸腔内試験穿刺や排液を主体として記し,人工気胸や胸腔鏡は通念的に別であるため省略する.)

救急診療

小児の咳嗽発作

著者: 大谷敏夫

ページ範囲:P.248 - P.249

咳嗽の概念・個体差・原因
 咳嗽というのは咽頭,気管,気管支などの気道粘膜に炎症があって,分泌物が生じた場合や,気管内に異物が入った場合などにこれを喀出する表めに会厭,肺,横隔膜,胸郭,腹筋などが協同して行なう不随意的,かつ反射的に起こる呼出運動である.
 この咳が2つ3つ散発的に出るようなものはここでは省略し,一般に,ときどき集中的にあるしは突然爆発的に次々に連続して起こり,これがおさまるとあとしばらくはぜんぜん認められない時期をおいて,また,同様の強いけいれん性の咳嗽が連続して起こってくるという状態をくり返すようなものを咳嗽発作とよんでいる.

カラーグラフ

食道鏡検査

著者: 近藤台五郎 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.256 - P.257

 従来,治療面を中心に発達してきた食道鏡検査は,食道ファイバースコープの出現で,診断的な面で,一般内科・外科医の間に広く普及してきている.食道はX線検査上,圧迫のきかない臓器であり,どうしても浅い陥凹性小病変に対しては盲点が多くなり,食道鏡検査の意義は大きいと思う.
 現在の国産の食道ファイバースコープは,撮影写真では,レンズ系でのものに比べやや劣るが,その柔軟性のほかに,先端の屈曲効果があるので1)視野の盲点がほとんどない,2)接眼部で像を拡大視できるので常に微細診断ができる,3)照明は鏡外光源よりライトガイドファイバーを用い導けるので安全である.4)同時に撮影・生検・細胞診などを併用できる,などの長所をもっている.検査の禁忌については,硬性食道鏡に比べ,はるかに少なくなっているが,胸部大動脈瘤.重症心疾患,急性腐蝕性食道炎には,十分注意しなければならない.以下,症例を供覧するが,これは硬性撮影用食道鏡によるフィルムである.

グラフ レントゲンの読み方・3

胸のX線写真に現われる血管の異常(2)—肺血管の異常

著者: 玉木正男

ページ範囲:P.259 - P.264

 前回は体循環血管について述べたが,今回の主題,肺循環系血管の異常は病因的には先天性と後天性,また,病変が血管自身に原発のものと続発的二次的のものとに分けられよう.つぎにそれぞれ代表的なものをとりあげてX線写真とともに説明する.

症例 全身性疾患と腎・6

腎とワイル病(黄疸出血性レプトスピラ病)

著者: 木下康民

ページ範囲:P.313 - P.316

ワイル病の感染源
 ワイル病はイエネズミ,その他のLeptospiraを保有する動物の尿を介して主として経皮的に,まれに経口的に感染する急性感染症である.病原保有動物の尿で汚染された下水,溝,田圃,川とか流し場などで感染するが,この他にはネズミの尿に汚染された食物をたべた場合が知られている.一般にLeptospiraは酸に抵抗力が弱く,したがって胃液にも抵抗性が弱いので,このような経口感染例は少ない.

若年者女子にみられた間歇性左脚ブロック

著者: 山根暁一

ページ範囲:P.317 - P.320

脚ブロック診断の確立まで
 左脚ブロックが心電図に記録され,それが心筋の刺激伝導障害によるものであることが知られるようになってから60年近く経過しています。1909年にEppinger,Rothbergerらが刺激伝導系の障害の一つとして脚ブロックという考えのもとに犬による実験を行なったのが最初であります.翌年Eppinger,StroerkはI誘導でQRSが上向き,II,III誘導で下向きのQRSを示した数例を報告しております.そしてこれが右脚ブロックであると心電図学的に診断されましたが,その後いろいろの研究者により次々と報告が行なわれ,人間の心臓と犬の心臓の位置のちがい,とくに犬のそれは人間に比較して電気軸がより垂直位であることにより,診断上混乱をきたしていました.とくに最初の20数年は左脚ブロックが右脚ブロックと診断されたものもかなりありました.その後左脚ブロックの普通型,右脚ブロックの稀有型という考えかたが一般化されるようになりましたが,1932年Wilsonによる胸部単極誘導法の開発により,一層明瞭に診断されるようになり,ウィルソンブロックが右脚ブロックに追加されました.また心臓聴診上から脚ブロックの存在がかなりよくわかり,診断の助けになるとの報告も行なわれています.

右側重複腎盂尿管と左側腎結核の1症例

著者: 久米道雄 ,   金田正之

ページ範囲:P.321 - P.323

 重複腎盂尿管は腎の一種の奇形であり,大多数は無症状に経過し,他の疾病の合併により偶然の機会に発見される.筆者らは,肺結核で入院させた19歳の男が,入院前後より血尿と膀胱炎様症状を呈し,検査により右側の完全重複腎盂尿管と左側の腎結核を発見したのでその大要を報告する.

他科との話合い

自己免疫疾患

著者: 塩川優一 ,   松橋直 ,   鈴木秀郎

ページ範囲:P.337 - P.344

 自己免疫疾患は,最近,内科臨床家の最も注目する疾患である.現在のところ厳密な意味で自己免疫疾患と確証されたものは少ないが,内科の病気の大部分がなんらかの意味で自己免疫現象に関係があるともいわれている.臨床家が知っておきたい基礎知識を.(文中の表はすべて塩川氏による)

チュレーン大学の内科専門医のためのオリエンテーション・ブックレット・3

一般内科外来

著者: 高階経和

ページ範囲:P.329 - P.332

一般内科外来
 午前の外来は9時に始まり,これらの外来の患者は3つに大別できる.
 1.継続診療(フォローアップ)を必要とする者およびニューオルリンズ・チャリティ・ホスピタルの区域に住んでいる患者で,退院した患者の治療を続けて行なう場合.

阪大・阿部内科 研修医のためのWard Conference・3

肝不全—ことにその成因と治療をめぐって

著者: 阿部裕 ,   金丸昭久 ,   鎌田武信 ,   岡本祐三 ,   三木謙

ページ範囲:P.324 - P.328

知見不十分な肝性昏睡
 阿部 肝疾患の病態生理が近年多くの研究の累積によってかなり解明されてきた.肝炎慢性化の機序に自己免疫の関与が考えられるようになったのはその一例である.しかし肝性昏睡に関してはなお十分な知見が得られておらず,患者の予後と直接関連するだけに,臨床的にはきわめて重大な問題である.今日はこの肝性昏睡についての従来の知見をまとめるとともに,治療についてもその問題点を考えてみたい.まず主治医より症例を呈示してもらおう.
 金丸(主治医)

脳波のよみ方・3

脳血管障害

著者: 本田正節

ページ範囲:P.333 - P.336

 脳血管障害は大別して脳膜出血,脳出血,脳血栓と脳塞栓(脳硬塞)およびこれによる脳軟化症となる.脳膜出血は硬膜外出血,硬膜下出血,くも膜下出血に分けることができる.これらのものについて順を追って述べることにする.

臨床家の血清学

新しい梅毒血清学的検査法

著者: 水岡慶二

ページ範囲:P.298 - P.301

 近年,早期顕症梅毒患者の増加により,梅毒の血液検査がとみに注目されている.特に結婚を控えた若年者層に新鮮な梅毒が増えているという警告もある現在,梅毒の血清学的検査法はますます重要視されてきている.

診療相談室

高年者の降圧療法

著者: 尾前照雄

ページ範囲:P.357 - P.357

質問 60歳以上の高年者で,最高血圧のみが上昇しているときに,降圧剤を使用すべきでしょうか. (山口市・木原生)

呼吸器臨床懇話会より

アレルギー性呼吸器疾患の診断と治療

著者: 岡安大仁 ,   長岡滋 ,   谷本晋一 ,   中島重徳 ,   可部順三郎 ,   田中元一 ,   吉岡一郎 ,   村上義次 ,   芳賀敏彦 ,   福島芳彦

ページ範囲:P.345 - P.351

 どんなに性質がつかみにくくても,患者を正しく治療したい,そして,そのために適確な診断に努力せねばならない臨床家として,たとえ"群盲象をなでる"といわれるたぐいであっても,一応の明確な手法をもつべきであろう.その意味で,もう一度虚心に知見を求めあおうというのが,この懇話会の主旨である.

略語の解説 15

5-HT-ICSH

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.251 - P.251

5-HT
 5-hydroxytryptamine(a vasoconstrietor principle)トリプトファンの中間代謝産物の1つで,セロトニン,あるいはエンテラミンとも呼ばれる.とくに脳・神経系に多く含まれている.また血小板にも多く,出血にさいして血小板がこわれるとセロトニンが放出され,局所の血管を強く収縮させる.このように,セロトニンには血管収縮作用があるために,高血圧とも関係があると考えられている.セロトニンは,さらに5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA:5-hydroxyindole-aceticacid)に酸化されるが,これは悪性腫瘍のとき,尿中へ多量に排泄されるといわれている.

統計

世帯の面からみた疾病

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.253 - P.253

 疾病の発生は個人的・環境的因子の影響を受けますが,ここでは個人の生活単位である世帯の側から,その業態と収入を1つの指標として有病率を観察してみましょう.この結果は全国から約15万世帯を無作為に抽出し,4月14日現在で疾病をもつている人を把握したものであります.表のとおり,全国では586万人の傷病者がいると推計され,これを国民1000人対の率で表わしますと,有病率は60.3ということになります.この有病率は,前号に記した一時点における有病率(時点有病率といいます)とは違い,期間有病率といわれるものでありまして,調査前日からの繰越し患者のほかに,調査日に新しく罹患したものも加えたものであります.
 まず世帯の業態ですが,農家と非農家の2つに大別しますと,有病率はそれぞれ64.8と60.2であり,農家のほうが8%程度高くなっています.しかし農家でも家族にサラリーマンのいる世帯は,ほぼ全世帯平均の有病率であります.非農家については,無職とかきわめて零細な商売を行なっている"その他"は98.0の有病率で最高であり,日雇労働者も74.5と平均より24%も高率であります.非農家のうちそのほかの自営業,サラリーマン世帯は平均よりも低く,なかでも雇入をもった自営業世帯の有病率は48.9と,平均より19%も低率であります.

今月の表紙

肝臓の超音波断層写真

著者: 和賀井敏夫

ページ範囲:P.254 - P.254

 生体組織の構造の映像法として近年超音波という一種の波動を用いる方法がさかんに研究されるようになり,これが臨床診断法としても種々の貢献をなすまでに発展してきた.この超音波生体組織映像法の原理としては現在,パルス反射法が多く用いられ,図は手動式の接触型複合走査法装置を用いて撮影した肝臓の断面象である,図の上縁は体表を示し,図1は肝硬変,図2(表紙写真参照)は転移性肝癌の像で,超音波断層写真とよばれている.二れらの像はブラウン管上で残象として直接見ることができろので,種々の診断がその場でつくこともある.
 これらの超音波断層像の本質は,生体各組織の音響的な性質,特に音響インピーダンス(抵抗の一種)の差を現わしたものである.図1の肝硬変の超音波断層写真では肝内部より微細な点状像が多数みられ,図2の肝癌では輝度の強い限局した像が1つのかたまりとして現わされている.これらの超音波断層像の特徴としては,生体組織特に軟部組織の映像能力がずぐれていることがあげられる.すなわち従来生体組織の映像法として多く用いられてきたX線などと比べ,造影剤のごとき補助剤を用いないで,自然のままの生体の構造を描写できることで,踵瘍の良性・悪性の分類診断も可能となってきた.さらに診断に用いる超音波パルスは,生体に無害である点も,臨床使用にあたって大きな利点といえよう.現在超音波断層写真装置として種々の方式のものが開発されている.

メディチーナ・ジャーナル・厚生省

新薬の許認可事務と最近の不祥事件

著者:

ページ範囲:P.273 - P.273

販売競争がつくる業者と役人の腐れ縁
 2月,佐藤製薬株式会社の幹部と,厚生省の薬事専門官が贈賄容疑で逮捕された.さらに2月末に,同専門官と科研化学の関係が追及され,事件はさらに進展するものとみられている.
 現在,"開発新薬"や"要指示薬"は,厚生省にある中央薬事審議会の審議にかけて,製造販売が許可されることになっているが,一般薬や成分がすでに許可されている配合薬などは,単に薬務局の事務審査で許可されることになっている.

全国教室めぐり

—教室にみなぎる"和"と"熱意"—新潟大・第二内科

著者: 斎藤秀晁

ページ範囲:P.305 - P.305

 "海は荒海,向うは佐渡よ……"と北原白秋の詩にもあるように,新潟は砂丘とデルタの街であります.新潟大学医学部はこの第3砂丘の上に約3万坪という広大な土地を有してそびえ立ち,昔のデルタ地区,現在の繁華街や本邦屈指の大河である信濃川を見おろしています.
 当第二内科教室は明治43年4月,新潟医学専門学校の設立とともに,東大三浦内科より沢田敬義博士を迎えて初代第二内科教授が誕生.爾来,二代柴田経一郎教授,三代桂重鴻教授を経て,昭和35年5月第四代木下康民教授をお迎えし現在に至っています.

ルポ

イタイイタイ病は忘れられようとしている—富山県婦中町の現状をみて

著者: 木島昂

ページ範囲:P.306 - P.308

 イタイイタイ病は国から"公害病1号"と認定された.しかし,いまだに被害補償の問題すらかたづかない現状である.本誌5巻8号では,その"症例"を紹介したが,今回は萩野昇医師の活動をとおして,周辺の諸問題を追求してみた.

これからの開業医

開業医のレベルアップに思う

著者: 菊地博

ページ範囲:P.310 - P.311

開業医師の声
 私はかつて4年前に本誌に新しい開業医のありかたについて書いたことがある.いまもその考えかたとすこしも変わってはいないのであるが,全医師数の過半数を占めている開業医の声を刀圭界に反応させて,現在問題になっている医学教育制度や医療制度を大きく前進させなくてはならないと思う.
 ところで,実施されんとしている研修医制度にしても,専門医制度にしても,学界人にのみまかせておかないで,私たち開業医が積極的に参加して,下克上式に私たちの声をこの際大きく反映さすべきであると思う.

菊地先生のご一文を読んで

世俗的評価より人間の独立自尊を

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.314 - P.314

望ましい先生の主張
 菊地博先生を私にご紹介くださったのは,たしか,本誌のこの欄にいつか執筆されたことのある大磯の中川錦一郎先生であった.私がまだ"実地医家のための会"の事務局を担当していたころだったので,おそらくいまから3年ほどまえのことではなかったかと思う.そのとき中川先生は,菊地先生はたいへんな勉強家で,ご自分の研究を本にして出版されたり,目下医用辞典を編集しておられ,いつ大学の教授に就任されても立派にこなすほどの実力の持主だ,といわれたように記憶している.
 それから3年たつかたたぬかのうちに,私たち老兵が第一線を退いた後を受けて"実地医家のための会"の現世話人会の有力なメンバーのひとりになられ,また昨年4月"実地医家のための会"の一支流として"医学哲学の会"を私たちが結成するや,まもなく参加されて,日常多忙な診療と研究にもかかわらず,精力的に例会に出席してくださっている.

提案

小児の入院の適応

著者: 嶋田和正

ページ範囲:P.320 - P.320

 外来で患者を診察したとき,その患児を入院させるべきか否か迷うことがしばしばある.入院は投薬・注射・処置あるいは手術とならんで,治療の重要な手段である.薬剤の投与については適応症,投与量,投与の方法,さらには禁忌など詳しく研究されている.処置手術の適応・方法・禁忌に関しても同様である.ところが入院に関しては若干の例外を除いて,系統的な考察ははなはだ少ない.ある病気の場合,どの程度のとき入院させればよいのか,入院期間はどのくらいにすべきかは,医師の経験ないし勘にたよる部分が大きく,入院の適応について解答を与えてくれる資料に乏しいのである.さらに入院といっても,収容される病院の種類・質は千差万別であるのに,それぞれの病気・患児に対する病院の適応性に関しては,ほとんど無視されている.
 例外の場合として,1つは急性・慢性伝染病患者の入院があげられるが,この際には隔離が主目的であり,患者自身の運命あるいは疾病の予後は二義的に考えられているといえよう.もう1つの例外は未熟児である,未熟児は生下時体重などによって,入院の適応が考慮され,さらに入院後の温度・湿度などの環境,養護,栄養の管理までこまかく研究されている.いわば真の意味の例外である.

話題

子どもは社会にとって重要ではないのか—第12回国際小児科学会議(1968,12月1-7,メキシコ市)と第1回国際小児腎シンポジウム(12月9-11,メキシコ・グァダラハラ市)から

著者: 山下文雄

ページ範囲:P.354 - P.355

社会保障と栄養失調症
  明治維新にさきだつこと約50年(1813),スペインより独立し,土地と自由を求めた革命(1910)をへて,世界でもっとも進歩したといわれる社会主義的憲法をもったメキシコのこの10年間の国力の伸展は特にめざましい.オリンピックをもやりとげたメキシコが小児保健の面でどのような姿勢と実力をもつものか,世界の小児科医がすべていだく疑問であったろう.
 会議は社会保障医学センターの講堂を中心に,87国から5500人(うち同伴者1700人)を集めて開催された.日本の参加者は200名をこえ,米国につぐ数であった(正式代表は東大高津教授であったが,東大紛争のため出席をとりやめ,岡山大浜本教授が代わられた).

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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