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雑誌目次

雑誌文献

medicina6巻8号

1969年08月発行

雑誌目次

EDITORIAL

腎腫瘍

著者: 高橋博元

ページ範囲:P.859 - P.859

 腎腫瘍にも良性のものと悪性のものとが当然あるが,前者は生前無症状に経過し剖検時偶然発見せられることも少なくなく,したがって臨床上問題となるのは悪性のものである.悪性のものは幼小児にみられるWilms腫瘍と,成人にみられる腎および腎盂癌が主要のものであり,肉腫その他は稀である.いずれにせよ早期発見と早期治療とが要提であることは,他の臓器の腫瘍と軌を一にしており,また通常腎は左右各1個あるので,治療後に再発・転移などが起こらなければ永久治癒の公算も大きいことになる.
 古くより腎腫瘍の特徴に血尿,腎部の疼痛と腫瘤形成の3者が記載せられているが,この3者が,ことごとく発見せられれば他の諸検査を待たず診断は確定するとも申すべきもので,早期発見の時期はすでに失している場合が多い.早期発見には,幼小児では親による腹部腫瘤の発見,成人では血尿ことに無症候性のものを訴える人には躊躇なく泌尿器科医を訪ね,尿路などの精査に努めることの肝要なことを宣伝する必要がある.初発症状発生後専門医を訪れる間に経過せる時間の相違が,治療成績の良否をおおいに左右するという報告もある.

今月の主題

腎腫瘍

著者: 岸本孝

ページ範囲:P.860 - P.865

 われわれが日常遭遇する腎腫瘍の大多数は腎癌であり,しかも本症は臨床症状の発現が比較的遅いので,予後不良のことが多い.他臓器の悪性腫瘍と同様に早期診断,早期根治手術が理想であることはいうまでもないが,実際にはなかなか実行されていない.専門外医師も十分本症を認識し,疑わしい症状,特に原因不明の血尿が認められた場合には,できるだけ早期に専門的検査を受けるようすすめるべきである.それ以外に本症の治癒率を向上させる方法はない.

腎腫瘍の診断と治療

著者: 赤坂裕 ,   小林収 ,   橋本敬祐 ,   大野丞二

ページ範囲:P.866 - P.875

 腎腫瘍には,真の意味での早期診断はまだないといえる.そのために予後が悪くなっている.そこで診断をより確実にするためには,血尿・疼痛・腎腫の3主徴期,特に血尿期に腫瘍をつきとめることが必須条件となる.

Leading Article

医原性疾患—謙虚さを求める

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.896 - P.898

医原性疾患の発生と薬剤
 多くの疾患の病態が,古い教科書に記載されているようなありのままのnativeな姿から著しく変化しつつある事実は,多くの臨床家の認めるところである.その原因の一部は社会生活や食習慣の変化に求めうるが,最も大きなものは医療もしくは薬剤の影響である.これによって生ずる変化を医原性の変化,特定の疾患を発生するならば医原性疾患iatrogenic diseasesということもすでに広く知られていると考えている.
 一般的にいって広く知られていると推定はしたものの,現実にはどうであろうか.ときには医原性疾患とは,副腎皮質ステロイドホルモン副作用の別名であると理解しているものに出会って,あわてることがある.ことばの意味をよく知らないのは,単に相互意志疎通の便を欠くにすぎないので,ここで問題にする必要はないが,医原性の変化がいかに広く,深くわれわれの取り扱う人間に食い込んでいるかを知らないのであれば,事は重大である.病気の治療にきわめて有用な薬剤は,その作用の増強とともに医原性疾患を発生しやすくなっている,医師は病.気を治しうるようになったと奢る心を持ってはならず,むしろ医療の重大な結果に対して謙虚に反省すべきである.

診断のポイント

生化学検査に及ぼす溶血の影響

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.876 - P.878

溶血血清とは
 臨床検査で溶血血清とは採血以後の人工的に作られた血清のことをいっている.肉眼的に溶血とわかるのは,血清100ml中にHb量が20-30mg含まれているときで,これを微溶血といい,実際上この程度であるとほとんどの測定に干渉しない.しかし50-100mgHb/血清100ml以上の軽・中等度溶血が起きると,もはやその影響は無視できないものとなる.

赤痢

著者: 小張一峰

ページ範囲:P.879 - P.880

軽症化して見のがしが多い
 定型的症状を呈する細菌性赤痢の診断は困難なものではないが,最近のようにその病像が著しく軽症化されてくると,臨床的診断が必ずしも容易ではなくなつてくる.しかし,赤痢が依然として伝染病予防法に規制された法定伝染病であり,患者は強制隔離をたてまえとする限りは,ある患者を赤痢と診断するか否かが,ほかの疾患の診断決定とはまた別の意味をもっている.
 赤痢をほかの疾患と診断してその患者が集団赤痢の原因となった例があるが,一方ではほかの疾患が赤痢と診定されたばかりに数週間伝染病院に強制的に収容される人たちも少なくない.赤痢患者強制収容の必要の有無はともかくとして,明治以来の伝染病予防法規が改廃されない限り,赤痢の診断は特別の意味をもつものと考えなければならない.そこで赤痢の診断は慎重の上にも慎重を要するわけだが,それを念頭におきながらも見のがしてしまうほど現在の赤痢は軽症である.その軽症な臨床像の中から赤痢の特徴をひろってみよう.

乳糜尿

著者: 高井修道

ページ範囲:P.881 - P.882

乳廉尿の原因と発生機転
 乳糜尿(Chyluria)とは尿中に脂肪球,線維素,リンパ球,血球,上皮細胞などを混じて,外観上あたかも牛乳あるいは寒天(乳白色ないし茶褐色)を思わせるようなものをいう.本症の原因としてはフィラリア症(Wucheria Bancrofti)によることが多いが,非寄生性のもの(胸管の炎症性狭窄,機械的圧迫による狭窄,尿路に沿うリンパ管の損傷で尿路とリンパ管の交通が起こる.脂肪血症-糖尿病,腎炎,腎脂肪変性,ジフテリー)もある.乳糜尿だけで高度の栄養障害に陥ることはまれで,長年月乳糜尿があっても栄養障害にならない者が多い.乳糜尿中に線維素が多いために膀胱内で寒天状,または卵白のごとく固まって排尿障害,尿閉になやまされることがある.
 前述のごとく寄生性のものと非寄生性のものとがある.乳歴尿の発生機転についてはまだ決定的なことはわかっていない.林らの組織学的研究によると,リンパ管が腎盂・腎杯に直接開口することを証明している.また臨床的にも逆行性腎盂撮影で腎盂外溢流像が容易に描出される.これらのことから本症では先天的あるいは後天的にうっ滞したリンパ管が腎と交通して,胸管中の乳歴が直接尿路に流れて発生するものと考えられる.フィラリア症の時にはWucheria Bancroftiが宿主のリンパ管,リンパ腺,胸管などに寄生し,リンパのうっ滞を起こし,側副路形成が生じて腎周囲リンパ管を経て腎盂と交通して乳糜尿が起こると考えられる.

治療のポイント

冠動脈硬化と食事

著者: 古川一郎

ページ範囲:P.884 - P.885

密接な関係にある食事とアテローム硬化
 心筋梗塞,狭心症などの虚血性心臓病のおもなる病因となる冠動脈硬化,ことにアテローム硬化は脂質代謝障害に基づく血管病変であるという概念はすでに定説になっているが,その脂質代謝障害がいかなる機序に基づくものであるかは現在まだ明らかでない.

トランキライザーの副作用

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.886 - P.887

トランキライザーの意味と作用
 精神的不安,焦燥など情動緊張を弛緩させる作用は,従来,催眠剤によって得られていた.実際に現在の向精神薬が現われてくるまでは神経症的不安に対して少量の催眠剤がひろく使われていた.しかし,意識の水準や精神作業能力の低下をきたすことなしに,情動緊張に選択的に作用する薬物があらわれたのがトランキライザーである.トランキライザーには主として神経症に効果のあるマイナー・トランキライザーと精神病に効果のあるメジャー・トランキライザーとに分けられる.おもしろいことに,精神病症状に利くメジャー・トランキライザーを少量使うと神経症症状にも効果がある.
 向精神薬の分類や名称は細かくいうといろいろの議論があるが,一般にはトランキライザーとはマイナー・トランキライザーのことをさすし,本誌の読者も神経症を対象とされて,向精神薬の使用を考えられる場合がほとんどと思われるので,マイナー・トランキライザーを中心に述べたい.

呼吸不全に対する酸素療法

著者: 横山剛

ページ範囲:P.888 - P.889

 呼吸不全の治療において,酸素の占める位置は最も本質的で重要なものと思われるが,そのわりに酸素療法に関する系統的な研究は比較的少ない現況である.呼吸不全の患者にとってはCO2蓄積よりもO2不足のほうがはるかに危険であるが,これまで酸素投与に伴うCO2蓄積,CO2-narcosisの危険がやや強調されすぎたきらいがあり,酸素投与の機会を失する場合がないでもなかったように思われる.そこで実際の投与にあたって,かかるCO2蓄積や他の副作用をさけ,最も有効に酸素を与えるためのポイントと考えられる点につき述べたい.

帯状疱疹

著者: 船橋俊行

ページ範囲:P.890 - P.891

 帯状疱疹は,炎症の強い小水疱形成を主体とする皮膚病変と,これに伴う種々の神経症状とをあわせそなえたウイルス感染症であることは今さら説明を要しまい.病像の完成した,定型的な症例では,その診断にあたって特に困難を感ずることもないが,発疹の不全型や発症初期の症例では,ときに診断に困惑を感ずることもある.逆にいわゆる重症型となると,皮疹の変化も激しいと同時に汎発性疹も合併し,発熱,全身倦怠感などの全身症状が著明であり,その処置に困惑を感ずることも少なくない.

目で見る臨床検査シリーズ

血液検査—II.白血球形態を中心として

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.929 - P.931

 wright染色,giemsa染色あるいはwright-giemsa染色で美しくできあがった末梢血液塗抹標本をていねいに観察して,赤血球の形態異常に注意しながら,白血球の形態やその種類の出現頻度の変動や異常細胞の有無を認識することは内科医として最もたいせつな素養の1つであろう.さらに必要に応じてペルオキシダーゼ反応,白血球アルカリ性ホスファターゼ染色,パス染色,中性紅・ヤーヌス緑超生体染色,貪食試験,位相差顕微鏡や電顕像による観察が行なわれるが,臨床血液学全般にわたる基礎知識さえあれば,1枚の普通染色標本の観察からも,いろいろのおもしろい疾患が浮かび上がってくる.

カラーグラフ

血液検査法(末梢血液所見)—II.白血球形態からの診断

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.850 - P.851

 塗抹標本検査の主要な目的は,白血球形態の変化や出現率の変動,異常細胞の出現の有無を詳細に観察し,白血球百分率を算出することである.始め弱拡大またはno coverの対物レンズで標本中のなるべく多くの白血球を概観してから,塗抹標本の中央部から塗り,終わりの方向に標本の周辺部も含めて観察してゆく.Wright染色では,細胞質内の顆粒はよく染まるが,核の染色はやや不良で,Giemsa染色はその反対の傾向を有する.

負荷試験=方法と評価

甲状腺131I摂取率測定

著者: 木村和文

ページ範囲:P.836 - P.837

131I摂取率測定とは
 放射性ヨードの利用は甲状腺のヨード代謝を多面的に,動的に観察することを可能とし,これを用いた種々の甲状腺機能検査法がくふうされている.
 甲状腺131I摂取率測定は投与された放射性ヨード131Iが甲状腺に取り込まれる割合を体外より測定する方法で,検査が容易であり,甲状腺機能をよく反映し,また,TSHやtriiodothyronine投与試験の指標としても利用され,最も日常的な甲状腺機能険査法の1つとなっている.

診療手技

留置カテーテル

著者: 西浦常雄

ページ範囲:P.838 - P.840

適応
 尿閉時には間歇的導尿よりは留置カテーテルが優れていることはいうまでもないが,残尿が100ml以上あり,尿路感染の認められる場合には留置カテーテルが望ましい.
 これらのほかに,外傷などによる尿道出血に対する止血,高度の尿道狭窄拡張術後の狭窄予防,高度の頻尿の救済,あるいは下部尿路手術後の尿流の確保と縫合部の安静などの目的で施行される.

救急診療

激しい下痢

著者: 磯貝元

ページ範囲:P.842 - P.843

 いうまでもなく,"下痢"は排出されるふん便の含水量が増大して通常の形態と硬さとを失った状態をさす症候であって,その原因ははなはだ広範多岐にわたる.したがって診療にあたってはできるだけ原疾患を明らかにして根本的な処置を施すべきで,それにはまず下痢を伴う疾患を頭に入れておいて,患者の病歴・症状・諸検査の成績から診断を決めていくことがたいせつである.

グラフ

眼底のみかた

著者: 溝部昉

ページ範囲:P.853 - P.855

眼底検査の必要性と診断的価値は,螢光眼底撮影法の真に急速なる普及発達により,いやがうえにもあがってきた.そして高血圧症や動脈硬化症に伴う全身的病変度と眼底所見とは,かなりの程度で平行している,一方,糖尿病も種々の原因により,40歳以上で約10%といわれるほどになってきたが,その約40%に糖尿病性網膜症の合併がみられ,糖尿病の重症度と関係なく,全身管理が良好の場合にも,しばしば網膜症が発生し,しかも失明する場合もありうることはともに眼底へ意をそそがねばなるまい.さて,螢光撮影法は一種の血管造影法であり,無血性Biopsyであり,眼底諸血管の機能検査法でもある.(100ページ「他科との話合い」参照)

オート・タイター—血清検査の自動化

著者: 河合忠 ,   近藤泰正

ページ範囲:P.856 - P.858

 近年の臨床検査の進歩の1つに自動化があるが,ここに紹介するオート・タイター(Auto-titer)は血清検査のための自動装置である.これは血清の希釈,血球,補体などの滴下,洗浄,乾燥滅菌部分からなり,種々の凝集反応,溶血反応などの抗体価の測定を自動的に行なうことができる.またその誤差はきわめて少なく,1時間に120検体の処理が可能である.その特徴は,試薬検体が少量でよく,短時間に多数の検体を処理することができる.一方,検体の数が少ないと試薬などがムダとなる欠点もある.

症例 全身性疾患と消化器・5

腎障害と胃潰瘍

著者: 日野貞雄

ページ範囲:P.907 - P.910

症例 80歳 男性 医師
 既往歴 40歳前急性腎炎,完全治癒せず,蛋白尿(かなりな程度)が現在まで持続している.5年前脳出血(意識障害1日程度),1カ月加療で軽快するも,全身の運動障害と言語障害が軽度に残る.

Neuro-Behçet症候群の1例

著者: 楠井賢造 ,   内芝一彦

ページ範囲:P.911 - P.913

 口腔粘膜のアフタ性潰瘍,結節性紅斑様皮疹,外陰部潰瘍および前房蓄膿をきたすブドウ膜炎または虹彩毛様体炎などを主徴とし,これらがしばしば緩解と再発をくりかえし,慢性経過をとるような疾患をBehçet症候群とよんでいる.しかし,この症候群では,常に必ずしもこれら4主徴を完備するとは限らず,またそのほかに関節・消化器・神経あるいは血管症状などを,伴うこともある.わたくしらは,著明な眼症状を欠くが,神経症状を併発した,いわゆるNeuro-Behçet症候群と見なすべき1例を観察したので,ここにその病歴および経過の概要を記載・報告する.

Neuro-Behçet症候群の症例へのコメント

著者: 清水保

ページ範囲:P.914 - P.915

 近年わが国にとくに急増傾向を示すBehçet症候群が注目されるとともに,精神神経系症状を合併するNeuro-Behçet型や,血管系病変を主徴とするVasculo-Behçet型は,その重篤性と本症の本態究明への足がかりとして重視され,ここ数年間に内科領域にも10指に余る報告症例がみられる.ここにNeuro-Behçet症候群として報告される1例は,いわゆるNeuro-Behçet型としては以下の諸点でatypicalな症例であるが,今後の経過を観察し検討すべきものと考えられる.本症例との対比のため,過去16年間のBehçet症候群自験240例中のNeuro-Behçet 22症例(男子18例,女子4例)の臨床像を,一括して表示する.
 Neuro-Behçet型への移行は,圧倒的に男子に多く,その精神神経系症状の多彩性は,脳・脊髄のとくに白質部に好発散在する軟化,脱髄病巣の分布と対応し,粘膜,皮精性・眼・関節,消化管,血管,副睾丸などの諸症状ほどではないが,中枢神経系症状の慢性再燃性は多発硬化症に類似する.典型例では,

他科との話合い

眼底のみかた

著者: 船橋知也 ,   溝部昉

ページ範囲:P.932 - P.939

 米国の内科レジデントの眼底のみかたは高い水準にある.日本でも精密な眼底検査が内科医にも強く要請されている.散瞳,検眼鏡,螢光撮影法などのやりかたと注意を含めて,糖尿病,高血圧を中心とした眼底所見の見かたについて,内科と眼科から.

阪大・第1内科 研修医のためのWard Conference・8

Carbohydrate-induced Hyperlipemia

著者: 阿部裕 ,   繁田幸男 ,   王子亘由 ,   金玟全 ,   小塚雄民 ,   泉寛治

ページ範囲:P.916 - P.920

本疾患の特徴と症例
 阿部 一般に本態性高脂血症とよばれるものは明確な原因疾患のないもので,血清コレステロールや中性脂肪が著明に増加する症例をさしている.これらはしばしば家族的に発生するので家族性高脂血症ともよばれるが,本日の症例は糖尿病を伴う血清中性脂肪の著明な上昇があり,しかも高カロリー食や高糖質食でその増加が著しくなるという特徴がある.いわゆるcarbohydrate-indu-ced hyperlipemiaとよばれるもので,病態生理上種々興味のある問題を含んでいる.ではまず主治医の小塚君に本症例の概要について述べてもらう.
 小塚 この症例の病歴・現症および主な臨床検査成績について述べると次のようになる.

シンチグラムのよみ方・3

肺臓および心臓

著者: 鳥塚莞爾 ,   中尾訓久 ,   浜本研

ページ範囲:P.921 - P.928

肺・心scanningの開発と応用
 肺scanningは,肺の血流を応用して行なうperfusion scanと換気を応用して行なうinhalation scanに2大別される.前者は肺毛細管の径が1-15μであるので,この毛細管の径より大きいγ線放出RI化合物の粒子を静注投与して,肺毛細管に微小肺栓塞を起こさせて行なうscanningである.1963年来,Taplin,Wagner,上田らにより開発された131I-MAA(macroaggregated albumin)による肺のperfusion scanが肺動脈血流の局所的な循環障害の鋭敏な指標として臨床診断に急速に応用されるにいたっている.後者は1965年,Taplinらにより開発され,エロゾル化したRI化合物をI. P. P. Bで気管内に吸入させ,肺胞や気管支にその放射性エロゾルを沈着させてscanする方法である.
 心臓scanningは心プールscanと心筋scanに2大別される.前者は1958年Rejaliが131I-human serum albumin(RISA)を用いて血液プールのscanが可能なことを示して以来,心嚢液貯溜,心血管プールの大きさの診断法として広く応用されるようになり,後者は心筋硬塞の硬塞部位をscanで描写しようとするものである.

臨床家のウイルス学

ウイルス脳炎

著者: 山本達也

ページ範囲:P.892 - P.895

 ウイルス脳炎は,感染しても夏カゼとしてみすごされてしまうものから,重い意識障害を伴うものまで,複雑な臨床経過をとるため,急性期の確定診断のむずかしい疾患である.また,ウイルスが病原と考えられるが,確定できないでいる脳炎も少なくない.そのようなものも含めて,種類,症状,発生機序などについての基礎的知識を.

medicina CPC

脳血管損傷症状で始まり,血栓静脈炎をくり返した中年女性の症例

著者: 篠田智璋 ,   亀山正邦 ,   大野丞二 ,   河合忠 ,   山中晃 ,   日野原重明

ページ範囲:P.942 - P.947

下記の症例を診断してください.

略語の解説 20

MAO-MDH

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.845 - P.845

MAO
monoamine oxidase:アミン酸化酵素 アドレナリン,ノルアドレナリンを酸化分解する酵素で,全身いたるところに存在している.その分解の特異性は低く,しかも作用が緩徐である.この酵素の抑制作用を有するMAOI,monoamine oxidase-inhibitorを使って血圧降下,あるいは中枢神経系の興奮をきたさせようとするねらいもある.

統計

昭和43年結核実態調査から

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.846 - P.846

 昭和28年,33年,38年の調査にひき続き,昭和43年7月から9月にわたって,ツベルクリン反応検査,X線検査,菌検査などの調査項目を含む結核実態調査が行なわれました.
 被調査世帯は2万1000世帯,被調査人員は約7万3000人でした.

今月の表紙

ウィルムスの腫瘍

著者: 橋本敬祐

ページ範囲:P.848 - P.848

 Max Wilms(1867-1918)はハイデルベルクの外科医であるが,かれの名でよばれるこの腫瘍は,小児の悪性腎腫瘍としてはほとんど唯一のもので,胎児性腺肉腫embryonal adenosarcoma,癌肉腫carcinosarcoma,腎芽腫nephroblastoma,胎児性腎腫瘍embryonic nephroma,腎混合腫瘍renal mixed tumorなどとよばれている.それは組織型に変化が多いことと,発生起源に関する意見がいまだ一定しないためのことであって,腫瘍としてはただ1種類のものである.6歳以下,特に2歳前後の男女にみられる.GarrettおよびMertz(1953)は過去25年間7万8961人の小児病院入院児中23例(0.29%)のウィルムス腫瘍をみたといい,Anderson(1951)は,15年間の小児悪性腫蕩170例中15例(8.8%のウィルムス腫瘍をみたという。Andersonの報告でほかに頻度の高いのは交感神経芽腫(30例),白血病(33例),軟部組織腫瘍(24例)くらいであったという.
 腫瘍は腎のどの部位にも発生するが,ほとんど全部が偏側性であり,硬いことが多い.

全国教室めぐり

診断技術の向上に努力—久留米大・第1内科

著者: 原田寿彦

ページ範囲:P.899 - P.899

風土病・日本住血吸虫病の研究
 久留米大学第1内科教室は昭和3年久留米大学の前身,九州医学専門学校が創立された当時,田中政彦教授によって開講された.田中教授は10年余のヨーロッパ留学後着任されたが,在任中には学校経営に辣腕をふるわれ,こんにちの久留米大学の基礎を築くとともに,地方医師会との連絡を密にされ,地方啓蒙,衛生思想の向上に尽力された.2代目吉住好夫教授はこの地域の風土病である日本住血吸虫病の診断,特に肝生検についての研究,大動脈注射などに新くふうをこらすなど腹部諸臓器疾患に画期的効果をあげられた。3代目,現在在任中の  誠教授は吉住教授と同様,九州大学第II内科より昭  年4月赴任されたが,日本住血吸虫病の疫学・病態生理(自己免疫を含む)および自律神経に関する研究,特に生体反応における神経体液性調節のテーマを中心に多くの業績をあげられている.
 臨床面では幅広い一般臨床医学の知識・技術の基礎の上に,専門的な知識と技術を身につけることをつねに念頭におき,片寄った臨床医になることのないように心がけており,教室では教授着任以来これをモットーに現在にいたっている。

ルポ 西ドイツの医療・1

医学教育と学生運動

著者: 水野肇

ページ範囲:P.900 - P.902

 日本の医療は,いまや全社会的な問題にまでなっている.日本の医学・医療の源流となったドイツの医学の現状はどうなのか.医学教育への学生運動を皮切りに西独の現状をさぐろう.

アメリカ医学の実相・6—1968年夏の渡米ノートから

New Yorkの教育病院を訪ねて

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.903 - P.906

New York市の聖ルカ病院
 New YorkのKennedy空港に着いたのは,8月24日午後3時であった.空港で私の名がさっそくアナウンスされているので,案内所に行って聞いたところ,New York市の聖ルカ病院のDr. E. R. Childからのメッセージで,午後4時までに病院にきてほしいということであった.
 私を出迎えにきてくれたH君夫妻の車で,ラッシュアワーで混雑する市内を大急ぎで横ぎって聖ルカ病院にかけつけた.

メディチーナ・ジャーナル=日医

社会に適応した医療とは何か?—医療綜合対策特別委員会の発足

著者: 木島昂

ページ範囲:P.883 - P.883

医療全般の抜本改正
 いわゆる"抜本改正"と呼称されてきたものは,医療保険制度の抜本改正であった.日医案をはじめ,自民党の鈴木調査会,厚生省,野党各派,支払者側等から諸試案が案出され,焼きなおしの厚生省事務当局試案が問題になり,ついには健保特例法改正案にひっかかってこの問題は当分日の目を見ることなく,くすぶりそうである.ひいては,5月26日からの特例法の衆院社労委で始まる実質審議が,他の2大懸案である,〈防衛〉〈大学〉と並んで未曽有の延長国会の原因となり,おおかたの見方では健保特例法延長は自民・社党間の取り引きにより8月早々衆院通過におちつくものとふまれている.
 日医では,このこととは別に,医療を根底から正そうとする姿勢のもとに,医学教育から医療制度まで,ひっくるめていえば"真に社会に適応した医療"の理想像を求めて,〈医療綜合対策特別委員会〉を発足せしめた.いわば医療全般にわたっての抜本改正である.

話題

特に興味をひいた2つのシンポジウム—第6回日本リハビリテーション医学会総会から(5月24-25,相沢豊三会長,東京)

著者: 横山巌

ページ範囲:P.948 - P.948

シンポ1 脳血管障害の症候と対策(司会・勝木教授)
 亀山博士は脳硬塞と脳出血との比率について,10年まえに集計した際は1:2であったが,今回は1(強):1と脳硬塞例が増加の傾向があることを,浴風園の症例について報告し,さらに病理解剖学的にきわめて興味あるつぎのような知見を述べられた.リハの対象となる慢性片麻痺の3/4は内包に責任病巣があるが,内包のまえの部分の病巣はなおりやすく,一方,内包後脚の後1/3の病巣はなおりにくく,かつ限局性でも重度の麻痺ことにrigospasticityを起こしてくる.また,錐体における交叉には個人差が著明で,交叉せずに脊髄前索にくだる線維は5-78%(平均15%)であると述べ,また加瀬博士の質問に答えて,持続性の弛緩性麻痺は,内包部の出血が脳室内に破れた場合,および中大脳動脈の根幹で閉塞が起こって広範な硬塞が生じたときに起こること,Wernicke-Mann型の拘縮は病巣が内包に限局していると起こらず,レンズ核にわたる傷害があるとみられるなどの興味ある研究結果を報告された.
 田崎講師は脳血管障害では脳循環量は減少しているが,歩行群では臨床群よりも大であり,また重症麻痺の回復良好群では脳循環量の増加の傾向を認めたと述べ,また,新教授はベッド上での下肢屈伸運動およびMasterの2step testでは血圧の軽度の上昇とともに頭部血流量の増加を認め,このような運動が片麻痺の治療によい影響を与える可能性があると報告された.

増加する多発性硬化症の"典型例"—第10回日本神経学会総会(5月7-9日:福岡市)から

著者: 宮崎募

ページ範囲:P.949 - P.949

 去る5月7日から3日間にわたり,福岡市で第10回日本神経学会総会が開かれ1000人を越す会員が参集した.第1回の総会も福岡で九大勝木教授のもとに行なわれたが,早いものでもう10年になるわけである.

臨床メモ

"不定愁訴"をどうあつかうか

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.878 - P.878

 "不定愁訴"ということばが,はたしてどういう訴えのクラスを表現しているかは,人によってさまざまで,ハッキリした定義はまだ決まってはいないようである.で,つぎは,私なりの了解のもとに,いわゆる不定愁訴の取り扱いかたをのべてみてみたい.
 私の了解している不定愁訴の定義は,つぎのようである."人びとの訴える愁訴のうち,多くの疾病単位の初期に共通したもので,その愁訴だけからは,訴えている人がどういう疾病単位または症候群にかかっているかが,にわかに推定できず,診断の方向づけに苦しむもの".

猩紅熱と類似疾患

著者: 飯村達

ページ範囲:P.920 - P.920

 猩紅熱は昨年に比較して,本年はやや増加の傾向にあるようだが,さほど著明なものではない.
 本症の診断は,定型的な臨床症状を具備した症例では,格別困難なものとは思われないが,しかし最近抗生物質の普及により,早期に使用された場合には,定型的な症状を示さず,類似疾患との鑑別が必要となってくることがある.

内科医と"老人の腰痛"—そのN.M.

著者: 春日豊和

ページ範囲:P.931 - P.931

1)老人の特質を考える.
 生理的……組織の脱水・変性・萎縮,骨強度・耐性の減少
 社会的……孤独,疎外,ときに豊かなる老後

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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