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雑誌目次

雑誌文献

medicina6巻9号

1969年09月発行

雑誌目次

EDITORIAL

腹部症状を伴う脳脊髄炎症

著者: 高崎浩

ページ範囲:P.985 - P.985

 「腹部症状を伴う脳脊髄炎症」はSMONという仮称で現今一般医家の注目をあびているが,本症は昭和30年前後に発症したわが国独特の疾患である.
 筆者と山形県立中央病院の故清野博士とは,昭和34年奇しくも同時に,しかも所を異にして,筆者は「腸疾患経過中に発生した下半身まひの症例について」と題し,清野博士は「腸症状をもって初発せる散在性脳脊髄炎症」と題してわが国における最初の学会報告を行なった.翌35年には,筆者は日本内科学会誌上に,その原因と考えられるものについての考察を加えた本症に関する論文を発表したが,これがわが国における本症に対しての最初の論文となった.次いで37年には谷森博士,清野博士,前川教授,38年には日比野博士,楠井教授,伊東博士と相次いで本症を発表した.

今月の主題

いわゆるSMON

著者: 塚越広

ページ範囲:P.986 - P.992

 本邦特有の,しかも発見されて10有余年の新しい疾病-SMON.重症では廃人同様になるとあれば,それは社会問題である.確かな治療法もいまだ確立されていない.より早い解決のために,不明な点および問題点をとり上げてみよう.

いわゆるSMONをめぐって

著者: 島田宜浩 ,   豊倉康夫 ,   松山春郎 ,   甲野礼作

ページ範囲:P.994 - P.1003

 下痢・腹痛に続いて足先や足裏に頑固なしびれ感を訴える,いわゆるSMON.確たる予防・治療法もなく奇病とさえいわれている現在,疫学的にひも解きつつ,病理所見や臨床症状を総括し,新たに見直してみよう.

Leading Article

卒後医学教育のあり方

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.1022 - P.1024

卒後医学教育への関心
 卒業後医学教育なるものを私が意識したのは,1958-59年の欧米旅行中であった.この旅行は卒業前(undergraduate)の教育を見る目的であったが,Western Reserve Universityで,いろいろの医学教育の文献を読まされている間に,卒前教育よりは,卒後教育のほうがより緊急な問題であることを悟った.アメリカの整然とした体系に比べて,日本にはなにもまとまった形の卒後教育はなかったからである.日本の医学は,研究を後まわしにしてでも,とにかく教育体系を整えねばならないと考えた.さっそく「卒業後医学教育について」(臨床眼科13:989,昭34),「卒業後医学教育の改善」(医学のあゆみ,34:620,昭35)などの論文を書いた.後者に対しては,古くから,医学教育についていろいろと意見を発表し,医学教育に関心をもつ仲間をつのっておられた緒方富雄氏の追記がついている.当時すでにインターン制についての批判がおこりかけており,識者にはすでに将来の混乱が予見されたものと思われる.
 その後たえず卒後医学教育の問題は誌上にのせられたのであるが,改善は少しも行なわれなかった.日本の医学教育がほとんど全く改善されないままにおかれているよい例証として私は,まだ相変らず行なわれているノート講義をあげることができる.

診断のポイント

おとなの心房中隔欠損症

著者: 森博愛

ページ範囲:P.1004 - P.1006

 おとなの心房中隔欠損症は乳幼児期のそれと異なり,病像が完成され,かつ極端な重症型や著しい合併奇型を有するものなどは陶汰されて,むしろ容易に診断しうる場合が多い.したがってその病像を理解しておくと,心臓カテーテル検査法や心臓血管造影法などの特殊検査の助けを借りずとも,日常ルーチンの検査法のみで診断しうる場合が多い.

縦隔腫瘍

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.1007 - P.1008

 縦隔は上・前・中・後の区画にわけて考えられ,中央に心が位置している.ここにできる疾患といえば腫瘍がその大部分である.
 縦隔腫瘍を考えるときには右の図が参考となろう.大動脈瘤,横隔膜裂孔ヘルニアなどとの鑑別も念頭に追及されるべきである.

胃液検査の再認識

著者: 井林淳

ページ範囲:P.1009 - P.1011

 胃液の性状が胃疾患を忠実に反映すると期待するには,微小胃癌が問題にされている今日,無理な注文かもしれない.しかし胃疾患において胃液検査の必要性を否定するものもいないであろう.
 胃液分泌には従来,塩酸・ペプシン分泌が代表された時代を経て,最近の体液病態生理の進歩に伴い各種胃疾患の形態学との対比の必要性が要求されてきている.胃X線,内視鏡,細胞診,生検組織像との対比検討から胃粘膜の超微細構造に至るまで機能との対比が要求されている.

治療のポイント

気管支喘息の対症療法

著者: 荒木英斉

ページ範囲:P.1012 - P.1013

 気管支喘息は呼吸困難の発作をくり返す慢性疾患であり,その治療においては,対症療法と本体的療法(根治的療法)とを一応区別して考えたほうがよい1).もちろん両者は本来平行して行なわれるべきものであり,密接な関係を持っているし,対症療法を姑息的療法と解釈すれば,発作の誘因からの一時的な回避などは,姑息的手段ともいえるから,このような区別は,厳密には問題もあるが,一応対症療法は,個々の発作に対抗する,あるいは現に起きている発作を治める治療法であり,本態的療法は喘息発作を起こす原因や素因,体質に対抗しようとする治療法と考えるのが理解しやすい.

眠剤の種類と使い方

著者: 田縁修治

ページ範囲:P.1014 - P.1015

不眠は精神・身体的疾患の症状
 眠剤はいうまでもなく不眠に対して用いられる薬剤である.不眠にもいろいろな性質のものがあり,完全な不眠はむしろ少なく,実際にはある程度眠っていながら,寝つきの悪いこと,唾眠の浅いこと,夜半の覚醒や睡眠時間の不足を訴えるものが多い.なかには相当長時間眠っていながら,主観的には睡眠不足を訴えるものもある.元来,睡眠時間は個体差・年齢・習慣などにも影響され,何時間眠れば正常であるという基準はないが,成人でだいたい6時間の睡眠が得られれば,日常の活動には全くさしつかえないと思われる.
 不眠の原因にも種々あって,むしろ不眠はほとんどなんらかの精神的・身体的疾患の症状であると考えてよい,すなわち,

中間冠状症候群

著者: 戸山靖一

ページ範囲:P.1016 - P.1017

中間冠状症候群の特徴
 中間冠状症候群Intermediate Coronary Syndromeは1961年VakilがCirculationに詳しい解説をしてから一般に広く用いられるようになったものである.
 本症候群は労作性狭心症と心筋硬塞の中間に位するものとして考えられ,1)狭心痛に似た痛み,心筋硬塞様の痛み,ときにはやや変則的であるが病気を思わせる痛みがあり,しかも労作性狭心症より長く,15分-2時間も続く,2)この痛みは休んでいたり,寝たりしているときに起こり,3)亜硝酸塩製剤に対し反応しないといった特徴をもっている.

目で見る臨床検査シリーズ

骨髄穿刺検査法

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.1019 - P.1021

 血液病の診断や悪性腫瘍の骨髄転移の有無を知るために,しばしば骨髄穿刺が必要となる.しかしよく適応を選び慎重に行なわないと無意味な検査となりやすい.それから骨髄造血巣が均等に分布せず,また病変が限局性の場合も少なくないので,骨髄穿刺の診断的価値にも限界があることを忘れてはならない.
 骨髄は全身骨格の髄腔に分布し,年齢によりその造血の程度も変化し乳幼児では全身の骨髄はすべて造血を営んでいるが,6歳くらいより長管状骨はしだいに脂肪髄fatty marrowに変化し,16-18歳になると赤色髄は脊柱・肋骨・上腕骨ならびに大腿骨の躯間に近いほうの1/2に限局してくる(図1).しかし貧血が進行すると脂肪髄も赤色髄に変化するが,乳幼児では正常時でも全骨髄が造血を営んでいるので,予備力に乏しく,容易に骨髄外造血extramedullary hematopoiesisを起こしやすい.

カラーグラフ

骨髄穿刺検査

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.968 - P.969

内科専門医として骨髄穿刺は欠くことのできない診療手技の1つであるが,適応を正しく選び,慎重に実施しないと,得られた結果が全く価値の少ないものとなる.そのためには採取された穿刺液をてぎわよく,迅速に処理することも非常にたいせつである.まず患者にあらかじめ検査の目的とこの検査が絶対安全なものであることを十分説明して,検査に対する不安感をのぞいてから実施すべきである. (本文69ページ参照)

負荷試験=方法と評価

負荷心電図

著者: 岸本道太

ページ範囲:P.954 - P.956

二重負荷試験(Master)の目的と方法
 負荷心電図試験の方法には運動負荷試験,酸素欠乏試験など数多くの種類があるが,一般に最も広く用いられているものはMaster1)2)3)の階段試験で,特に最近ではその二重負荷試験(double two step test)であるので,これについて述べる.
 負荷心電図試験の目的は1)労作狭心症で発作時の心電図変化をとらえがたく,また非発作時の心電図が正常な場合に誘発試験として行なうことと,2)狭心症発作のまったくない,いわゆる無症状の冠不全(silent coro-nary insufficiency)を発見することである.また,最近では心筋硬塞その他の冠不全,心不全のリハビリテーションにおいて運動量を定めるために用いられる.

診療手技

浣腸

著者: 山口保

ページ範囲:P.958 - P.959

4つの浣腸法の意義と実際
 浣腸は,患者の治療または診断の目的で,注腸器・イルリガートルを用いて,肛門から直腸内,さらにはS状結腸に薬液または栄養素を注入する方法である1).日常の臨床で最もしばしば行なわれる浣腸法には,その目的によってほぼ4法に分類される.

救急診療

Isoproterenolの使い方

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.960 - P.961

Sympathicomimetic amine
 今日,いろいろのsympathicomimetic amineが合成され,その薬理学的効果の特徴もいろいろ研究されてきた.Ahlquistの分類した受容体(receptor)説によって,この作用をα,β受容体効果として分けて考えると理解しやすい.α受容体は大部分の興奮作用と重要な抑制作用(腸管の弛緩)に関係し,β受容体は大部分の抑制作用と興奮の1つ(心筋刺激)に関係している.
 循環系もこのような観点からながめると,この種薬剤の作用機序が理解しやすい.心筋にはβ受容体があり,これが刺激されるとinotrope positive,chronotrope positiveに働いて心収縮力,心拍数も増してくる.末梢血管壁にはα受容体,β受容休があり,α受容体が刺激されると収縮β受容体が刺激されると拡張,という反応を示す.したがって腰椎麻酔後の低血圧のような末梢血管拡張に対してはα受容体刺激作用の強いneosynephrine,araminoneを使用ようにする.α,β両受容体刺激作用を持つアミンは末梢血管の収縮,拡張の両作用を及ぼすことになる.そのいずれが勝って結果として拡張となるか,収縮となるかはその投与量による.さらに体の各部での血管床の態度が同一アミンでも異なっているのも注意せねばならないし,同一量を投与しても血液のpH,CO2分圧,麻酔中ならその深度によりその効果が異なる点も注意せねばならぬ点である.

グラフ

肺の非結核性空洞

著者: 福原徳光 ,   吉田文香

ページ範囲:P.971 - P.984

 空洞があれば結核と考えがちであるが,何回検査しても結核菌が陰性の場合はほかの疾患が問題になる.その部位・性状・既往歴およびその他の病状から結核以外の疾患が最初に推定されるものもある.

症例 全身性疾患と消化器・6

盲腸外瘻と糖尿病

著者: 日野貞雄

ページ範囲:P.1033 - P.1036

症例
 43歳男性,会社員
 既往歴 17年前急性虫垂炎,腹膜炎を起こし,2カ月入院,10年前アキレス腱切断.

阪大・第1内科 研修医のためのWard Conference・9

慢性腎不全—Kimmelstiel-Wilson症候群患者の長期人工透析

著者: 阿部裕 ,   額田忠篤 ,   佐藤文三 ,   王子亘由 ,   折田義正

ページ範囲:P.1037 - P.1041

糖尿病に続発した腎症例
 阿部 本日は慢性腎不全患者の長期透析例について討論する.まず主治医佐藤君に症例を示してもらいます.
 佐藤 症例は下記のとおりである.

シンチグラムのよみ方・4

肝臓

著者: 鳥塚莞爾 ,   藤井正博 ,   鈴木敞

ページ範囲:P.1043 - P.1050

 肝scanningは肝の形・大きさ・位置異常,肝内のRI分布状態およびspace occupying lesionを描写させる診断法で,患者に危険を伴わず,またたいした苦痛を与えることなく実施しえて,現在人工気腹X線写真,腹腔鏡,選択的腹部動脈撮影とならんで肝疾患の診断に重要な地位を占めるにいたっている.

臨床家の内分泌学

triiodothyronineによる甲状腺抑制試験

著者: 尾形悦郎 ,   塚本昌司

ページ範囲:P.1060 - P.1066

 甲状腺ホルモンの機能状態は,一般的にはPBI,RSU,131I摂取率などの総合で判定されているが,正常と異常のborder-line caseや病態の複雑な場合には,診断に苦慮することが少なくない.triiodothyronineによる抑制試験は,このような場合の検査法として信頼性が高く,実施も簡単で,臨床的にきわめて有用である.その原理と方法について.

診療相談室

心室中隔欠損症について

著者: 高尾篤良

ページ範囲:P.1070 - P.1071

質問 心室中隔欠損症について,次の事項につきお教えください.
1)患児が普通の学校に入学できるかできないかの判定はいかにして行なうか,また,判定基準について.

肺活量も1秒率も正常なのに息ぎれを訴える疾患とは

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.1071 - P.1071

質問 息ぎれを訴えるが.肺機能検査をしたところ,肺活量も1秒率も正常であった.いかなる病気を考えたらよいのでしようか. (久留米市・M生)

転換期にたつ人間ドック

著者: 日野原重明 ,   笹森典雄 ,   鈴木豊明 ,   岩塚徹 ,   松木駿 ,   小野田敏郎

ページ範囲:P.1051 - P.1058

 わが国に人間ドックが開設されて,すでに15年余を経過した.その間にも検査法の進歩や,受診者の意外な伸び悩みなど新しい問題がめだってきている.一方,この10年間に集まった学問的成果ははかり知れないとはいうものの,まだ利用しつくされているとはいえない.人間ドックの今後のあり方について.

略語の解説 21

MDI-mOsn

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.963 - P.963

MDI
 medical data index:健康調査表 自覚症状と既往歴について,質問紙を利用して多岐にわたる情報を短時間で受理し,処理するためにつくられたもの.同じようなものとしてCMI,Cornell medical indexがある.150の質問から成り,その回答がただちに電子計算機により分析され,問題にされるべきいくつかの疾患が上げられるように仕組まれているといわれる(Brodman & Woerkom:J. A. M. A. 197, 901-905, 1966).

統計

最近の食中毒統計から

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.964 - P.964

 最近の食中毒患者の発生状況をみますと,昭和33年以後3万人台となり,増加の傾向を示し,36年には患者5万3362人(人口10万対56.6)で,死者238人となり,昭和30年の6万3745入(人口10万対71.4)に次ぐ大量の患者発生をみております.昭和40年には患者数2万9018人とやや減少しましたが,その後ふたたび3万人台を維持しております(表1).

今月の表紙

SMONの脊髄標本

著者: 豊倉康夫

ページ範囲:P.966 - P.966

 SMONは原因不明あるいは本態不明の奇病であるとよくいわれる.しかし,臨床症状や病理組織学的所見については,かなりのところまではっきりしている.正確にいうならば,SMONのmorbid anatomy(神経系のどこがどういうふうにおかされるのか?)はよくわかっていて臨床症状ともよく対応するが,病変のpathogenesisやetiologyがまだ確認されていないのである.
 表紙の写真は,SMON患者脊髄の髄鞘染色標本で1,2,3,4の順にそれぞれ,上部頸髄,胸髄,上部腰髄,中部腰髄を示してある.変化は脊髄の長神経索に対称性に認められ,後索は上にゆくにしたがい変性が強くかつ後索内側部(Goll索)に著明に現われるが,側索の変性は頸髄のレベルではあまりはっきりせず,下降するにしたがい変性が明らかとなる.つまり,長神経索のdistalほど変化が強いのである.軸索染色の標本でみると,以上の関係はいっそう明らかとなる,発症後比較的早期に死亡した例の脊髄では,髄鞘の脱落は軽度でありながら,軸索のほうにはかなり明瞭な変性を認めることもある.このような脊髄長神経索の病変は,SMONが多発性硬化症や散在性脳脊髄炎などの脱髄疾患の範疇にはいる病気ではけっしてないことを示している.代謝障害,欠亡状態,あるいは中毒などの際にみられるpseudosystemic degenerationに似た病変の局在と分布を示している.

全国教室めぐり

血液学の研究を中心として良い内科医の養成を—熊大・河北内科

著者: 小山和作

ページ範囲:P.1025 - P.1025

 第2内科は大正9年私立熊本医学専門学校時代に創設され,初代の内田平次郎教授(東大稲田内科出身)が病いのため辞職後,第2代の小宮悦造教授が大正12年東大入沢内科より赴任され,昭和22年までの24年間,血液学に関する数々の輝かしい業績をあげられたことは周知のとおりであります.82歳の現在なお矍鑠としてあるいは著述に,あるいは血液病患者の診療にいそしんでおられることはご同慶のいたりであります.
 小宮教授の後任,河北靖夫現教授は昭和6年小宮内科にはいり,昭和22年教授就任,昭和44年6月現在,当内科の構成は教授以下28名で,助教授1,講師2,助手6,大学院生5,研究員13名であり,ほかに非常勤講師5,研究生48名,3カ月間研修の副手4名となっています.

ルポ 西ドイツの医療・2

ドイツ人のものの考え方

著者: 水野肇

ページ範囲:P.1026 - P.1028

"Deutschland über Alles"
 日本人は,一般的にいってドイツびいきである.遠い欧州の1国であるドイツのことが十分にわかって好意をもっているのだとは考えがたい.日本人のなかでも,英・独・仏・米・伊・スペイン人などと並べて,顔だけ見て,それぞれの民族を当てることが可能な人は,きわめて少ない.たしかに,これらの民族の間には,それぞれ大きなちがいがある.日本人と中国人,朝鮮人ぐらいのちがいは十分にあるのだが,そういうことがわかったうえで,ドイツ的なものの考え方に日本人が賛意を表しているのだとは思えない.
 おそらく,明治以来,日本の旧制高校でドイツ語を第1または第2語学としていたこと,日本の医学がドイツ医学の模倣であったこと,それに第2次世界大戦の同盟国であったことの3つが原因だろうと考えられる.その国の言語を勉強した場合,人間の本性として,その国に好意をもつのは,世界的な傾向である.アメリカ文学を勉強した共産主義者は少ないし,ロシヤ語を学んだ右翼というのも少ない.多かれ少かれ,その言語を話す国にかぶれるのであろう.

アメリカ医学の実相・7—1968年夏の渡米ノートから

Presbyterian HospitalからNew York Hospitalへ

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1029 - P.1032

New Yorkでの日曜日
 Presbyterian Church
 8月26日の日曜日は午前中はFifth Avenueにある有名なPresbyterian Churchの礼拝に出席した.古い礼拝堂であり,天井がきわめて高く,したがってair conditioningはないので,それぞれの席に置いてある"うちわ"で,めいめい暑さをしのぎながら説教を聞いているようすであった.日本で使われるような"うちわ"とはまったく違って,ただ楕円形に厚紙を切り,舌圧子のような平たい木に縦の切れめを入れて,紙をそのなかにさし込んだような殺風景な"うちわ"である.この教会からそう遠くないところでロックフェラーセンターに近く大きなカトリック教会があるが,多くの観光客がこの教会のまえに集まって写真をとったりしてにぎやかであった.訳を聞くと故Kennedy大統領の葬儀がここであったという.

メディチーナ・ジャーナル=厚生省

スモンの研究体制確立

著者: 三橋昭男

ページ範囲:P.993 - P.993

スモン研究班誕生
 昭和44年5月16日国立予防衛生研究所において第1回めのスモン研究班会議が開催された.今回新たに組織された研究班は,国立予防衛生研究所甲野礼作部長を班長とし,つぎの班員をメンバーとして構成されている.
  豊倉 康夫(東大医学部脳研)

話題

注目されてきた"膠原病性疾患における肺病変"—第13回日本リウマチ学会総会(5月16-17日・東京)から

著者: 川上保雄

ページ範囲:P.1018 - P.1018

リウマトイド因子をめぐる諸問題
 学会前日に行なった特別討論会において「リウマトイド因子をめぐる諸問題」をテーマとしてとりあげた.Waaler-Rose反応として慢性関節リウマチ患者血清中にみられる特異な反応因子は,はじめはその診断的意義にのみ重点がおかれた.しかしその後の研究によりこのものが主としてγMに属する免疫グロブリンであり,しかもたぶん生体内に生成せられた抗原抗体コンプレックス,あるいはなんらかの病気によりdeformしたγグロブリンに対する抗体であることが判明し,免疫化学ないし免疫血清病理学におけるきわめて興味ある研究テーマとなっている.この討論会ではIgMそのものの基本的性状,リウマトイド因子(RF)と反応するIgGの性状あるいはRF生成の条件などに関する問題が論議された.Miligrom教室の狩野博士より腎移植を行なった場合にRFの発生が高率に認められ,特に移植腎がrejectされるころに著明になることが報告され興味をよんだ.これは移植腎に対し抗腎抗体が生成せられ,この抗体は移植腎に吸着せられ抗原抗体複合体を作っており,それに対しさらにRFが発生結合しているが,移植腎がrejectされ摘出せられると血中に抗腎抗体,RFとも著増するにいたる.

脳卒中片麻痺を中心とした物理療法効果判定のむずかしさ—第34回日本温泉気候物理医学会のシンポジウムから

著者: 土肥豊

ページ範囲:P.1042 - P.1042

効果判定の客観化をめざして
 去る5月,信大赤羽教授を会長として松本市で開かれた本学会で,脳卒中片麻痺を中心として「物理療法の臨床効果判定上の問題点」と題するシンポジウムが,鹿児島大学の浜田助教授の司会で行なわれ,運動機能面,電気生理学的面,生化学的面脈管学的面の4方面よりの講演と,脈管学的面および筋電図学的面よりの2つの特別発言がもたれた.このシンポジウムでまず考えさせられたことは,ともすれば主観的独断におちいりがちな物理療法の効果判定を,できるだけ客観化し,正当な評価を行なうため偏りのない資料を提供するうえでの問題点の所在を再認識しあうことは,広く物理療法の今後の発展のためにも時を得たものと思われ,この企画に敬意を表したい.

入院管理に組織体制の確立を強調—第12回日本糖尿病学会総会から

著者: 佐伯晋

ページ範囲:P.1067 - P.1067

 第12回日本糖尿病学会総会は会長三宅儀京大名誉教授のもとに7月5日,6日の両日京都市で開催された.特別講演1題,外人招待講演2題,シンポジウム3題と224題にのぼる一般講演および社会医学部門演題17が4会場を使用して発表された.このうち臨床医の立場から目についた2,3のテーマを選んで紹介してみよう.

文献抄録

肝硬変に対する門脈減圧手術の反省

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1028 - P.1028

 肝硬変には門脈高血圧がつきもので,その結果として発生してくる食道静脈瘤がしばしば死の原因となる.出血の際の死亡率はほぼ3%で,きわめて危険な合併症といえる1.そこで手術的に門脈と大静脈との吻合prophylactic portacavalshuntをつくって,この危険から逃がれることも行なわれてきた.Boston Inter-Hospital Liver Groupは,約10年間にわたって肝硬変患者で門脈-大静脈吻合を行なった例と,内科的治療に終始した群との比較を行ない,その最終的な結果を報告している2).その分析結果は肝硬変治療の新しい道標を作ったものともいえ3),考えるべき多くの問題を提起している.
 詳しくは原報告によるべきであるが,注目すべきは第1に手術によって再出血の危険が減少するとともに食道静脈瘤が消失または縮少することが多いのは当然として,第2に生存率,第3に合併症である.生存率については,手術群と対照群とでは有意な差がなく,合併症では,明らかに手術群に肝性の脳症hepatic encephalopathyが増加し,重症のそれは対照群の5倍も発生している.このように,思ったより悪い成績が得られた理由の分析も行なわれてはいるが,大出血の際の救命的な咽手術以外,はたして門脈一大静脈吻合を積極的に行なうべきか否か,考えなおす必要があるように思う.

リウマチ熱患児の虫垂切除—Pediatrics 43, 573-577(April)1969

著者: 木村和郎

ページ範囲:P.1032 - P.1032

 後に急性リウマチ熱であったと証明された5例の虫垂切除患児について,臨床的および検査室のデータを検討した.これによると,腹痛,それも虫垂炎によく似た腹痛が,急性リウマチ熱の唯一の初発症状だということがありうるのである.
 この事実を知っていること,また,高熱,血沈促進,P-R間隔の延長があること,CRPが4+だということによって,鑑別しうるのがふつうである.しかし,はっきりしない場合には,手術すべきである.これらの患児は,麻酔にも開腹術にもよく耐えるからである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

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59巻7号(2022年6月発行)

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59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

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59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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