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雑誌目次

雑誌文献

medicina60巻13号

2023年12月発行

雑誌目次

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

著者: 赤尾昌治

ページ範囲:P.2202 - P.2203

 心房細動患者の脳梗塞予防のための経口抗凝固療法は,それまではビタミンK阻害薬であるワルファリンだけしか選択肢のなかったところに,特定の凝固因子を直接的かつ選択的に阻害する直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)が2011年以降次々に登場し,新たな時代を迎えることとなった.DOAC登場以来10年以上が経過したが,ワルファリンのような頻回の採血による用量調整も不要で,食事や併用薬の制限も少なく,利便性に優れるDOACは日常診療に着実に浸透した.また,心房細動に対するアブレーション治療も,新たなテクノロジーの導入によって有効性や安全性が向上し,目覚ましい進歩を遂げた.
 人口の高齢化が進むなか,心房細動に関する社会的な関心の高まりもあり,数多くの臨床試験や観察研究の結果が次々と発表されて,その病態や治療について多くのことが明らかにされてきた.こうした成果を受けて,心房細動に関するわが国の診療ガイドラインも,非薬物治療については2018年に,薬物治療については2020年に大幅に増補・改訂された.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.2204 - P.2207

●今月の特集執筆陣による出題です.心房細動に関する理解度をチェックしてみましょう!

序論

序論—伏見AFレジストリからみたDOAC登場後の10年

著者: 赤尾昌治

ページ範囲:P.2209 - P.2213

Point
◎2011年に直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が登場し,この10年間に心房細動に対する抗血栓療法は大きな変化を遂げた.
◎この間,心房細動患者において脳卒中や死亡をはじめとする有害事象の発症率の減少がみられた.
◎その一方で,心不全入院の発症率は増える傾向がみられ,心房細動患者における心不全の発症予防や管理が今後の重要課題である.

心房細動の病態と診断

心房細動の疫学と病態生理

著者: 三明淳一朗

ページ範囲:P.2214 - P.2217

Point
◎心房細動の患者数は増加し,2050年には約103万人の患者が予測される.
◎修正可能な危険因子の管理が心房細動発症のリスク低減に役立つ.
◎異常な興奮と不整脈基質の形成が心房細動の病態生理に関与すると理解されている.

心房細動の診断と早期検出

著者: 川治徹真

ページ範囲:P.2220 - P.2224

Point
◎心房細動の診断の基本は,心電図上のf波と不規則QRS波であり,心血管予後リスク評価にも使用できる.
◎植え込み型デバイスで検出される潜在性心房細動が少なくない.
◎近年ウェアラブルデバイスが普及しており,心房細動のスクリーニングにうまく活用することが大事である.

心エコーとバイオマーカー

著者: 手塚祐司

ページ範囲:P.2226 - P.2229

Point
◎心房細動と診断されれば経胸壁心エコーを行う.
◎CHADS2スコアで抗凝固療法の適応とならなくても,左房径拡大(>45 mm)や左室肥大があれば抗凝固療法を検討する.
◎心房細動と診断されれば,肝・腎機能,甲状腺機能,血算,電解質に加えて,NT-proBNP(BNP)の測定も行う.
◎NT-proBNP高値であれば,死亡,心不全入院だけでなく,脳卒中/全身塞栓症を起こす可能性も高い.

心房細動の病型分類

著者: 髙林健介

ページ範囲:P.2230 - P.2233

Point
◎心房細動の分類を適切に行い,継続して分類評価を行う.
◎心房細動からの自覚症状にしっかりと対処する.
◎心房細動の進展を遅らせるための包括的治療が重要である.
◎分類によらず脳卒中リスクが高ければ適切に抗凝固療法を導入する.

治療方針の立て方

著者: 篠原徹二

ページ範囲:P.2234 - P.2237

Point
◎包括的な管理として,①血行動態の安定化を図り,②併存疾患および食生活習慣の改善を指導し,③脳梗塞リスクに応じた抗凝固療法を行う.そのうえで,④症状の改善を目指して,リズムコントロールもしくはレートコントロールを行う.
◎近年,リズムコントロールの有用性が見直されてきており,特に発症早期の心房細動患者に対しては,症状および予後改善のためにリズムコントロール療法を考慮すべきである.
◎治療方針は個々の患者の状態によって異なるため,患者・家族との十分な相談のうえで最適な治療方法を選択する必要がある.

脳梗塞のリスク評価

著者: 富田泰史

ページ範囲:P.2238 - P.2242

Point
◎わが国では,非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳梗塞発症リスク評価としてCHADS2スコアが用いられているものの,日本人ではCHADS2スコアを構成する5つのリスク因子すべてが有意というわけではない.
◎日本人を対象とした既存の5つのAFレジストリー研究から統合データベースを構築し,日本人NVAF患者における脳梗塞発症リスク因子を同定した(J-RISK AF研究).
◎高齢(75〜84歳),超高齢(85歳以上),高血圧,過去の脳梗塞/一過性脳虚血発作,AFタイプ,低BMIが脳梗塞発症のリスク因子として同定され,HELT-E2S2スコアが提唱された.
◎心不全や糖尿病については,罹病期間や重症度,コントロール状況などが,脳梗塞発症のリスクに関与している可能性が示唆された.

出血のリスク評価

著者: 小谷英太郎

ページ範囲:P.2244 - P.2249

Point
◎抗凝固療法開始時には,血栓塞栓症リスクと同時に出血リスクも評価する.
◎出血リスク評価はHAS-BLEDスコアを基本とする.
◎注目される重大な出血関連因子(高齢,低体重,腎機能障害,抗血小板薬併用,管理不良な高血圧)も考慮する.
◎禁忌がない限り直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を選択する.
◎80歳以上の高出血リスク例にはエドキサバン15 mgが使用できる.

心房細動と高血圧・糖尿病

著者: 加藤武史

ページ範囲:P.2250 - P.2254

Point
◎高血圧や糖尿病は心房細動の主要な原因である.日本のリアルワールドでは,心房細動患者の60%程度が高血圧を合併し,30%程度が糖尿病を合併している.
◎高血圧や糖尿病を合併した心房細動は塞栓症のハイリスクで,抗凝固療法の適応である一方,出血のリスクも高い.安全な抗凝固療法の実施のためには,厳格な血圧コントロールや腎機能の定期的なチェックが求められる.
◎心房細動アブレーションの効果を最大化するためには,高血圧・糖尿病はもちろん,肥満や睡眠時無呼吸症候群などを含めた包括的管理がきわめて重要である.

心房細動と心不全

著者: 井口守丈

ページ範囲:P.2255 - P.2259

Point
◎心不全は脳梗塞と並ぶ心房細動の重要な合併症である.
◎専門医とも連携し心エコー評価やBNP/NT-proBNPで心不全の評価を行う.
◎心不全の急性期では特に血栓塞栓症のリスクが増加する.
◎心不全は心房細動で最多の死因となり,心不全合併例は予後不良である.
◎心不全があればまず心不全自体への治療が優先される.

心不全発症のリスク評価

著者: 濱谷康弘

ページ範囲:P.2260 - P.2263

Point
◎心房細動患者において,心不全は脳卒中より発症頻度の高い合併症であり,死因の上位を占めている.
◎心房細動に対する管理が進歩する一方で,心不全の発症率は経年的に増加傾向であり,心不全の発症リスク層別化と予防が今後重要な課題である.
◎心不全のバイオマーカーであるナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)は,心不全既往のない心房細動患者においても,心不全発症リスクと有意に関連する.

心房細動患者の死因

著者: 安珍守

ページ範囲:P.2264 - P.2267

Point
◎心房細動患者における死因として,心血管死〔cardiovascular(CV)death〕のなかで最も頻度が高いのは心不全であり,全死亡の15%前後の割合を占めていた.
◎脳梗塞,脳出血などの頭蓋内疾患が死因として全死亡に占める割合は6〜8%のみであったが,一方で脳卒中既往があれば,その後の死亡イベントリスクは増加していた.
◎日本の実臨床データでは,臨床試験とは異なり,悪性腫瘍や感染などの非心血管死(non-CV death)が死因として半分以上を占めていた.
◎抗凝固療法,リズムコントロールで心房細動をケアしているだけでは十分ではなく,ますます高齢化し,多様化する心房細動患者においては,専門領域の垣根を超えたtailor-made approachが必要な時代になってきていると言える.

心房細動の薬物治療と管理

4つのDOACをどう使い分ける?

著者: 鈴木信也

ページ範囲:P.2268 - P.2273

Point
◎直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は4種類が使用可能で,それぞれに特徴的な薬物プロファイルがある.
◎DOACの使い分けは,主に腎機能(クレアチニン・クリアランス:CCr)と投与回数(1日1回か2回か)に注目するとよい.
◎腎機能(CCr)は,80 mL/分以上,50〜79 mL/分,30〜49 mL/分,30 mL/分未満にゾーン分けして,適したDOACを選ぶ.
◎投与回数(1日1回か2回か)の判断は,アドヒアランスを考慮して判断する.

DOACは用量が少ないほうが安全?—「脱under-dose」のススメ

著者: 鈴木信也

ページ範囲:P.2274 - P.2279

Point
◎クレアチニンクリアランス(CCr)30 mL/分以上の患者において,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)投与下の心房細動患者の90%では,添付文書通りの用量の投与により適切な血中濃度が得られ,脳卒中および大出血に対して良好なアウトカムが期待できる.
◎メタ解析によれば,DOACのunder-doseは脳梗塞を増加させる一方で大出血を減少させない.
◎CCr 30 mL/分未満の患者においては出血リスクを最大限回避し,慎重なモニタリングを行いながらDOACを投与する.
◎特にCCr 26 mL/分未満はアピキサバン減量投与でも出血リスクが高く,エドキサバン15 mgが適切な用量と考えられる.

ハイリスク症例にDOACをどう使う?

著者: 吉田哲郎

ページ範囲:P.2280 - P.2284

Point
◎近年,日本人をデータベースとした高齢・超高齢心房細動における抗凝固療法の新たなエビデンスが報告された.
◎高齢・超高齢心房細動では塞栓症・大出血のリスクもいずれも高いことから,抗凝固療法における有効性と安全性のバランスをとることが困難になる.
◎Fushimi AFレジストリーより,2021年の段階で31%の心房細動患者において抗凝固薬非投与であった.これは出血リスクが高いと判断され,抗凝固薬投与が躊躇されたためと考えられる.
◎従来の抗凝固薬では出血リスクが懸念され抗凝固薬の投与ができなかったハイリスク症例に対して,新たな選択肢としてエドキサバン15 mg/日投与の有効性・安全性がELDERCARE-AF試験より報告された.特に重度腎機能障害において有用な選択肢となり得る.
◎エドキサバン15 mg/日であっても抗凝固療法を継続することが困難になるハイリスク症例も存在し,消化管出血がその判断基準として重要である.

どんな患者にワルファリンを使う?

著者: 奥山裕司

ページ範囲:P.2286 - P.2289

Point
◎ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子の産生量を減らすことで抗血栓効果を発揮し,休薬しても2〜3日程度は効果が持続する.
◎質の良いワルファリン治療(TTR>80%)はDOACに勝る脳卒中予防効果がある.
◎point of care testing(POCT)デバイス(コアグチェック®)の使用は高いTTRを達成する有効な手段のひとつである.
◎腎機能低下症例ではワルファリン内服時の大出血が増える.
◎CCr<15 mL/分ではDOACが禁忌となるため,質の良いワルファリン治療を試みる.

周術期にワルファリンやDOACはどうする?

著者: 武居明日美

ページ範囲:P.2290 - P.2295

Point
◎観血的手技のリスク分類を基に,個々の患者背景を考慮し,周術期管理の方針を決定する.
◎直達止血可能な手技では,適切な局所止血処置を行うとともに,原則として抗凝固療法を継続する.
◎ワルファリンを継続する場合,周術期PT-INRを至適治療域に管理することが重要である.
◎DOACを継続する場合,血中濃度がピークの時間帯を避けて手技を行う.
◎休薬を要する場合,休薬期間を最短とし,ヘパリンブリッジ(代替療法)は原則行わない.

抗凝固療法が必要な冠動脈疾患患者に対する抗血栓療法はどうする?

著者: 小牧聡一 ,   松浦祐之介 ,   海北幸一

ページ範囲:P.2296 - P.2299

Point
◎経口抗凝固薬(OAC)内服患者は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の出血リスクが高い.
◎OAC内服患者では,PCI後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は短期間にとどめ(<2週間),以降は直接経口抗凝固薬(DOAC)とP2Y12受容体拮抗薬の投与が推奨される.PCIから1年が経過した慢性期には,極力DOAC単剤投与とすべきである.
◎高出血リスクの評価基準を参考に,患者ごとに適切な抗血栓療法のレジメンを決定することが重要である.

DOAC使用中の出血はどうする?

著者: 矢坂正弘 ,   橋口良也 ,   風川清

ページ範囲:P.2300 - P.2303

Point
◎直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)療法中の中等度〜重度の出血では一般的な止血処置に加えて,DOACの休薬と中和薬の投与を行う.
◎軽度の出血であっても重要臓器(脳や網膜など)の出血ではDOACの休薬と中和薬の投与を考慮する.
◎トロンビン阻害薬のダビガトラン(プラザキサ®)の中和はイダルシズマブ(プリズバインド®)で行う.
◎Ⅹa阻害薬のリバーロキサバン(イグザレルト®),アピキサバン(エリキュース®),エドキサバン(リクシアナ®)の中和はアンデキサネットアルファ(オンデキサ®)で行う.

レートコントロール治療はどうする?

著者: 藤野紀之

ページ範囲:P.2304 - P.2308

Point
◎心房細動のメイン治療の1つに,レートコントロール(心拍数調節)療法がある.
◎レートコントロール療法は,自覚症状が乏しい,もしくはQOL(quality of life)が低下していない患者に選択される.
◎静注薬や貼付剤もあるβ遮断薬は,多くのエビデンスがあり,ハイリスク患者(低心機能,低腎機能)にも使用できるため,主に使用されている.

リズムコントロール治療はどうする?

著者: 井上啓司 ,   大倉孝史

ページ範囲:P.2309 - P.2313

Point
◎リズムコントロールの最大の意義は症状緩和であるが,早期介入による予後改善効果が報告されている.
◎リズムコントロールの対象は,有症候性の発作性心房細動が基本であるが,無自覚に運動耐容能が低下しているケースもあり,一見無症候性であっても洞調律化を試みる意義はある.
◎リズムコントロールの手段としては,明らかな基礎疾患がないケースではNaチャネル遮断薬が第一選択となるが,器質的疾患があるケースや持続性心房細動ではアミオダロン,べプリジル,ソタロール(保険適用外)が選択肢となりうる.
◎薬物によるリズムコントロールの効果は限定的であり,洞調律維持効果はアブレーションが圧倒的に優れている.
◎抗不整脈薬投与の際,安全性の確保が重要であり,心臓性副作用・心外性副作用に注意を要する.

人工透析患者の抗凝固療法は?

著者: 山下侑吾

ページ範囲:P.2314 - P.2317

Point
◎透析患者のうち1割程度の患者は心房細動を合併し,心房細動を合併する透析患者は医療現場で問題となる重要なテーマの1つである.
◎透析患者への抗凝固療法は出血リスクの増大が目立ち,近年ではワルファリンによる抗凝固療法に対しては否定的な報告が多い.
◎現在,明確なランダム化比較介入試験の結果が存在せず,抗凝固療法の是非に対する答えは存在しないが,一律の抗凝固療法の実施は推奨されない模様である.

開業医の心房細動診療のポイントは?

著者: 平田明生

ページ範囲:P.2318 - P.2323

Point
◎心房細動の早期発見は開業医の役割である.
◎心房細動は動悸が主訴ではなく,心不全発症による呼吸困難で見つかることも少なくない.
◎開業医は問診・情報収集が重要である.
◎抗凝固療法開始に伴い,少なからず出血に遭遇し,癌が発見される.
◎高齢者においては,腎不全,心不全合併患者が多く,抗凝固療法も含め,心房細動管理が難しい.

心房細動の非薬物治療

どんな患者を電気的除細動する?

著者: 吉澤尚志

ページ範囲:P.2324 - P.2328

Point
◎心房細動の管理において電気的除細動を要する局面は,①循環動態が不安定な場合,②待機的に除細動を行う場合に大別される.
◎循環動態が不安定な症例や強い心不全の症例では緊急で行われることもあるが,多くは待機的に除細動が試みられる.
◎薬物でのリズムコントロール無効の持続性心房細動に待機的除細動を試みる場合,塞栓症のリスクや除細動後の再発について事前の説明が必要である.
◎除細動後の塞栓症イベントは,洞調律化後10日以内に多く発生しており,待機的除細動であれば事前に抗凝固療法の導入が望まれる.
◎除細動後の洞調律維持に,抗不整脈薬の併用が有用であることが報告されている.

どのような患者をアブレーションに紹介する?

著者: 井上耕一

ページ範囲:P.2329 - P.2333

Point
◎心房細動アブレーションの技術は成熟し,安全性と有効性が向上している.
◎心房細動アブレーションの適応は拡大してきており,リズムコントロールにおける第一選択治療の1つになった.
◎初期心房細動においては,無症状であっても予後改善のためのアブレーションが考慮されるようになっている.
◎心房細動アブレーションは初期のほうが効果は得られやすいため,行うならば早期の施術が好ましい.
◎この治療を受けるかどうかは,患者と医師のShared Decision Makingで決定される.

アブレーションの現状と将来展望は?

著者: 田中宣暁

ページ範囲:P.2334 - P.2338

Point
◎心房細動アブレーションは,その最たる起源である肺静脈と心房の電気活動を切り離す電気的肺静脈隔離術が標準治療として確立している.
◎冷凍バルーンにより,従来の高周波と比較して簡便に肺静脈隔離ができるようになった.手技時間短縮,安全性向上に繋がったことで,高周波カテーテルも安全に高出力焼灼できる進歩が促進され,心房細動アブレーションは目覚ましく発展している.
◎進行した心房細動に対する肺静脈以外への治療や,周辺臓器に影響を及ぼしにくいパルスフィールドアブレーションが今後のこの分野を発展させていくと期待される.
◎しかし,洞調律維持を目指す観点から心房細動は進行する疾患であることに立ち返ると,罹患早期のアブレーションと,術後の生活習慣改善による進行予防がアブレーション効果を大きく左右すると認識することが肝要である.

アブレーションは患者予後を改善する?

著者: 江里正弘

ページ範囲:P.2340 - P.2345

Point
◎アブレーション治療は薬物治療に比して洞調律維持効果ならびに心不全入院を含めた心血管有害事象回避に優れていることが諸報告により示された.
◎多施設ランダム化試験の代表であるCABANA試験では,アブレーション治療は薬物治療に比し患者の生活の質(QOL)改善にも優れていることが示された.
◎リアルワールドデータを用いた観察研究(伏見AFレジストリ)においても,アブレーション治療は薬物治療に比し心血管リスク低下と有意に関連がみられた.
◎さらなる予後改善に向けてアブレーション治療の恩恵を受けやすい患者背景を把握し,早期診断・治療を検討する必要がある.

左心耳閉鎖デバイスと左心耳閉鎖術の現状は?

著者: 増田正晴

ページ範囲:P.2346 - P.2349

Point
◎カテーテル左心耳閉鎖術は抗凝固療法の代替となる.
◎適応は出血高リスクのために長期的な抗凝固療法を継続できない症例である.
◎改良型のWATCHMAN FLXTMは有効性・安全性ともに高い.
◎残された課題で重要なものは慢性期の1%台デバイス血栓症リスクである.

未来の心房細動診療に向けて

著者: 中野由紀子

ページ範囲:P.2350 - P.2353

Point
◎心房細動はさまざまなデバイスを使用し早期発見が重要である.
◎ゲノムワイド関連解析(GWAS)で多くの心房細動関連遺伝子が検出されている.
◎将来的にはマルチオミックスや人工知能(AI)を組み合わせた心房細動検出治療が可能になろう.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・20【最終回】

口のフィジカル—巨大な舌の背後に隠れた疾患は?

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.2193 - P.2198

 今回をもって長らく連載させていただいた「おなかのフィジカル診断塾」は最終回を迎えます.これまでお付き合いしてくださった先生方,本当にありがとうございました.
 最終回は口も消化器臓器の1つという考えから,“口のフィジカル”ということで舌を中心に消化管や他の臓器も俯瞰してみたいと思います.

ERの片隅で・9

傾聴と病歴聴取は似て非なるもの

著者: 関根一朗

ページ範囲:P.2354 - P.2355

 深夜0時、準夜帯の混雑の影響が残り、ERはまだ慌ただしい雰囲気である。そんななか、救急搬送を告げるアナウンスが流れた。「8分後、救急車入ります。28歳男性、主訴 腰痛。就寝前に外傷歴なく腰部全体の痛みを発症し救急要請。既往歴なし、バイタルサイン異常なし。」
 研修医がエコーを初療室に準備しながら、関根に診療方針を宣言する。「既往歴のない若年男性の腰痛は尿路結石ですね! エコーで水腎症がないか確認して、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で鎮痛します。」関根は深夜帯のルーチン業務である電子カルテの再起動をしながら応える。「勢いがいいね。尿路結石を疑ってエコーを行うときは、腹部大動脈瘤や総腸骨動脈瘤の破裂を除外するつもりで腎臓以外も評価しようね。でも、左右差のない腰部全体の痛みって尿路結石としては違和感があるなぁ。」

明日から主治医! 外国人診療のススメ・9

外国人を診るときに注意すべき感染症「結核」

著者: 高柳喜代子

ページ範囲:P.2356 - P.2361

CASE
内科後期研修医(翔太)が「まつもとクリニック」の内科外来で,家庭医(松本)と…
翔太)松本先生,先ほど初診で来られた20代のベトナム人男性なんですけど,3カ月ぐらい前から咳が続いていて,近くの耳鼻咽喉科や内科で薬を処方してもらったけど治らないそうです.1カ月前に新型コロナウイルス感染症にもかかったらしいし,感染後咳嗽とか咳喘息みたいなやつでしょうか?
松本)これまでどんな薬が処方されてきたのかしら…?
翔太)えっと…,最初の内科では総合感冒薬と咳止め,耳鼻咽喉科では抗ヒスタミン薬と点鼻薬,そのあと別の内科で1回目に咳止め,2回目にレボフロキサシン(クラビット®),3回目に吸入ステロイドが処方されています.やっぱり喘息を考えたんですね,きっと.
松本)5回も受診しているけど,その間,胸部X線検査は? この数年間,健診とかで撮っている?
翔太)薬を処方してもらっただけで検査はしてないそうです.日本に来て3年目,この2年間の健診歴は…ないみたいですね.
松本)長引く咳,外国生まれ,20代….翔太先生! 急いで胸部X線写真を確認しましょう!!

事例から学ぶ 糖尿病のコーチングマインド・5【最終回】

自己基盤—自己基盤が整うと糖尿病と向き合えるようになる

著者: 大石まり子 ,   森岡浩平 ,   石井均

ページ範囲:P.2362 - P.2367

症例提示
47歳,女性,保育士.
夫と2人の子どもがいるが,子どもは結婚して家を出た.
現病歴:健康診断で糖尿病の境界型と言われて,定期的に通院していたが,6年前(X−6年)から中断していた.X年,最近気になって当院に初診となった.HbA1c 6.0%,BMI 22kg/m2
本人は「自分の血糖が高くなるのは,間食が問題である」と語った.「どうして自分だけ,こんなに頑張らないといけないのかと思うと食べないではいられない.職場では間食できないので,帰宅後夕食の時間まで食べてしまう.自分が嫌い.人が自分をどう見ているのかが気になって仕方がない」などの話が出た.本人が食行動の問題を自覚しており,糖尿病への進行を気にしていたので,糖尿病予防のために食事運動療法の指導を行った後,2〜3カ月ごとの受診と看護面談でのコーチングセッション(約1時間)を,本人の希望もあり継続することとした.

知らないとヤバい! リウマチ・膠原病のアレやコレ・4

RA治療中のヤバい病態 その④「単関節炎」—リウマチ加療中にも生じる化膿性関節炎を見逃すな!(前編)

著者: 猪飼浩樹

ページ範囲:P.2368 - P.2374

 本連載では,リウマチ・膠原病診療における緊急病態,知っておかないと重篤な状態となりうる事象について取り扱っている.リウマチ・膠原病診療は専門性が高い面もあるが,関節リウマチは1/100人のよく出合いうる疾患であり,必ずしも専門医に受診していない患者も多い.その背景には,専門医が少ない地域性の問題や,高齢などの理由で専門医への通院が困難であるなどの多くの要因がある.関節リウマチや膠原病が併存症やプロブレムにある患者を診る機会のあるすべての医師において注意すべき見逃したくない,ヤバい病態について学びを深める連載である.
 今回は,関節リウマチの経過中に注意すべき病態である「単関節炎」(関節リウマチの経過中でなくとも単関節炎をみた際には注意が必要!),特に“化膿性関節炎”について解説していきたい.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・30

腰が痛い! 普通の腰痛? 足の末梢神経障害①/外側大腿皮神経障害の臨床

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.2375 - P.2379

 「腰が痛くて足に響くんです!」という主訴で,あまりの痛さに救急外来を受診する人がいます.一見すると腰痛のように思いますが,「足のほうに響く」という病歴が重要です.単なる腰痛症・ヘルニアとされている症例のなかに今回の疾患が紛れていることがよくあります.それでは,その一例を一緒に勉強していきましょう.

目でみるトレーニング

問題1075・1076・1077

著者: 藤本亜弓 ,   蟹江崇芳 ,   藤井啓世 ,   片山皓太

ページ範囲:P.2381 - P.2386

書評

—岡 秀昭 編著 佐々木 雅一 著—微生物プラチナアトラス 第2版

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.2219 - P.2219

 本書の帯に「このアトラスは美しい写真集」だ,とある.驚くべきことに,巻末にはその美しい写真の撮影法が解説されているのだ.著者がコロニーや微生物を「美しく」撮影することに並々ならない情熱を燃やしていることが分かる.確かに,ブドウ球菌や酵母様真菌コロニーの「テラテラ感」の美しさは,本書の特徴をよく表現している.感染症屋は微生物に魅せられたフェチシストが多いから,満足するのではなかろうか.
 だが,本書の真価はそこにはない,と僕は考える.繰り返されるのは「検査室に通え」というメッセージだ.そこで,こうしたコロニーやグラム染色を直視できますよ,と述べているのだ.そこで大切なのが散りばめられた「臨床上のポイント」である.微生物検査は手段であって,目的ではない.数々のコロニーや顕微鏡的知見が患者の病態にどのようなインプリケーションを持ち,どのような対応が求められ,そして患者のアウトカムにどう影響するのか.美しい写真が「意味するところ」が詳しく解説されているのが,本書が類書と大きく区別されるべき特徴だ.細長いFusobacteriumの写真の下に,「咽頭炎ののちに,発熱が続き,血液培養で本菌が検出されればレミエール(Lemierre)症候群を疑う」(p. 184)と書かれているのがいいのだ.

—宮岡 等 編集代表 淀川 亮,田中 克俊,鎌田 直樹,三木 明子 編—職場のメンタルヘルスケア入門

著者: 井上幸紀

ページ範囲:P.2285 - P.2285

 精神障害による労災申請もその認定も増加の一途をたどっている昨今,メンタルヘルスケアは職場における最優先課題の1つである.職場のメンタルヘルスに関する成書も多く出版され,最近はスマホでネット記事にもアクセスできる.困ったら本で,ネットで,検索すればよいと思っておられる方も多いのではないか.しかし,それでは職場でいざというときに役立たない.職場で求められているのは,目の前で困っている労働者,上司,そして産業保健スタッフへの具体的対応だからである.またネットなどですぐに参考資料を引けるように思いがちだが,どのように調べたらよいのかわからず,目の前にある具体的な困りごとに役立つ記載にはなかなか辿り着かないだろう.本書の良いところは,単なる病気の説明にとどまらず,メンタルヘルス不調による職場での具体的な困りごとや,「事例性」に多く触れているところである.痒い所に手が届く内容で驚いたが,執筆者が「現場が本当に知りたい問題」を取り上げるべく,周囲の産業医,産業保健スタッフにあらかじめアンケートを実施したと知り,さもありなん,と納得した.
 本書がQ&A形式であることも素晴らしい.いざ困ったときに目次からよく似た質問(Q)を見つけてそれへの具体的な対応(A)を読むことができる.職場での一次から三次予防のノウハウが惜しげもなく書かれており,入門書として最初から勉強するのもよいだろうし,困ったことが起こる度に本書をひも解くこともよいだろう.そうすれば知らないうちに実践に即した知識と対応方法が身につくことだろう.

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目次

ページ範囲:P.2199 - P.2201

読者アンケート

ページ範囲:P.2387 - P.2387

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2388 - P.2389

購読申し込み書

ページ範囲:P.2390 - P.2390

次号予告

ページ範囲:P.2391 - P.2391

奥付

ページ範囲:P.2392 - P.2392

「medicina」第60巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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