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雑誌目次

雑誌文献

medicina60巻3号

2023年03月発行

雑誌目次

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

著者: 平野照之

ページ範囲:P.450 - P.451

 本誌で脳卒中の特集企画が組まれるのは西山和利先生(北里大学脳神経内科)が『脳卒中はこう診る—新ガイドラインで何が変わったか』として企画された53巻2号(2016年2月号)以来,実に7年ぶりである.この間,脳卒中を取り巻く環境は大きく様変わりし,脳卒中・循環器病対策基本法の成立・公布(2018年),血栓回収療法のtime window拡大(2018年),一次脳卒中センター(primary stroke center:PSC)の認証(2019年),脳卒中と循環病克服第二次5ヵ年計画と循環器病対策推進計画(2021年),など枚挙にいとまがない.これら脳卒中制圧に向けた動きに対し,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延による医療崩壊が大きな影を落としている.対面での学会参加も制限され,現地に居てこその空気感や肌感覚を得る機会も失われて久しい.このような背景を踏まえ,今回の特集は「脳卒中治療ガイドライン2021」,「ディベート・セクション」,「令和の脳卒中事情」,「読者の識りたいに応える」の4部構成とした.
 まず2021年7月に発刊された『脳卒中治療ガイドライン2021』を紹介し,「ディベート・セクション」では10のテーマを取り上げた.これらはエビデンスのない未解決の課題や,治療に携わる医療者の裁量に委ねられるものであり,「ガイドラインのその先」に位置する内容に当たる.執筆者には自身の治療スタンスを捨て,指定されたPro/Conの立場で執筆いただくよう依頼した.課題を明確化したうえで企画立案者がコメントを残し,読者の知識の定着を図る.対面学会で採用されるディベート・セッションを紙面上で再現する試みと理解いただきたい.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.452 - P.455

●今月の特集執筆陣による出題です.脳卒中診療に関する理解度をチェックしてみましょう!

ガイドラインを識る

脳卒中治療ガイドライン2021 どこが進歩したか?

著者: 板橋亮

ページ範囲:P.456 - P.459

Point
◎『脳卒中治療ガイドライン2021』では,クリニカルクエスチョン方式を部分的に導入した.
◎推奨文ごとに「高」「中」「低」の3段階でエビデンスレベル設定を行い,5段階の推奨度を設定している.
◎2023年初夏に『脳卒中治療ガイドライン2021〈追補2023対応〉』が発表される予定である.

ディベート・セクション 10番勝負 急性再開通治療:脳主幹動脈閉塞例に対するdirect MT

Pro 機械的血栓回収療法の適応があればrt-PA前投与は不要である

著者: 鈴木健太郎

ページ範囲:P.460 - P.462

 急性期脳梗塞患者の転帰は,2005年に保険承認されたアルテプラーゼを用いたrt-PA静注療法と,2015年に有効性が報告された機械的血栓回収療法1)により大きく改善した.『脳卒中治療ガイドライン2021』では,主幹動脈閉塞を有する急性期脳梗塞に対し,rt-PA静注療法を含む内科的治療に追加して,機械的血栓回収療法を行うことが推奨度Aとされている2)
 その一方で,rt-PA静注療法と機械的血栓回収療法の併用がよいのか,それともrt-PA静注療法をスキップした機械的血栓回収療法単独療法がよいのか,という議論は今までされていない.なぜ併用療法が当たり前とされているのか,それはHighly Effective Reperfusion evaluated in Multiple Endovascular Stroke trials(HERMES)collaborationで報告された初期の機械的血栓回収療法の有効性を示す試験が,すべて内科的治療に追加して行われたからにほかならない.この疑問を解明すべく,本邦でSKIP研究を行った.

Con 発症4.5時間以内で適応を満たせば,まずrt-PAを投与する

著者: 中島誠

ページ範囲:P.463 - P.467

 筆者は,脳主幹動脈閉塞例,特にrt-PA静注療法(iv-tPA)単独では再開通が得られにくいとされる内頸動脈閉塞例や脳底動脈閉塞例においても,発症4.5時間以内で適応を満たす症例には,機械的血栓回収療法(MT)単独治療ではなく,まずはiv-tPAを行うべきであるという立場で本論を進める.
 まず前提となる状況を想定する必要がある.1つには,この議論はiv-tPAとMTの両方が常時可能な施設への直接搬入例(mothership)を前提としている1).また閉塞血管としては,前方循環の主幹動脈,すなわち内頸動脈または中大脳動脈水平部を想定したうえで議論を進めたい.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.468 - P.468

 前提として機械的血栓回収療法(MT)が施行可能な施設への直接搬送例を対象としたディベートである.両氏の脱稿後に発表された6試験2,314例の統合解析:Improving Reperfusion strategies in Ischemic Stroke(IRIS)は,direct MTのrt-PA bridgeに対する90日mRSシフトの補正オッズを0.89(95%信頼区間0.76〜1.04)と算出し,設定下限値0.82を下回ったため「非劣性とは言えない」と結論づけた.現時点では,抗凝固療法中など複数の慎重投与項目に合致しない限り,rt-PAスキップは推奨されない.なお,血栓回収後にrt-PAを局所投与したCHOICE試験は注目に値する1).有効再開通を得ていてもrt-PA追加投与による微小循環改善が,良好な転帰に寄与すると考察されている.

急性期画像診断:灌流画像の有効性・必要性

Pro 発症6時間以内でも灌流画像によって治療適応を決めるべきである

著者: 井上学

ページ範囲:P.470 - P.476

 近年,脳梗塞の再灌流療法は,発症時間によらず,脳組織のもちこたえられる「時間」を灌流画像により診断することで,発症後最大24時間まで治療可能となった.本稿は,ガイドラインに記載のない,あるいは時間がかかるようであればむしろ推奨されない発症6時間以内の灌流画像の適応について論じたものである.灌流画像のメリットとデメリットを交えて,現在のコロナ禍に適した画像診断であることを論じてみたい.

Con 灌流画像は不要であり発症6時間以内はDWIコア体積で判断する

著者: 植田敏浩

ページ範囲:P.477 - P.480

 急性期脳梗塞に対する再開通療法を迅速に安全に施行するためには,画像診断はきわめて重要である.臨床試験では,CTまたはMRIを用いた灌流画像によってペナンブラや虚血コアを評価したうえで,発症6〜24時間の症例に対する治療選択を行うことが推奨されている1).急性期脳主幹動脈閉塞に対する再開通療法(血栓回収療法)は,すでに標準的な治療として『脳卒中治療ガイドライン2021』で強く推奨されている2)
 しかし実際には灌流画像を治療前にルーチンで行う施設は少ないのが現状であり,特に発症6時間以内の患者では灌流画像の有用性について十分なエビデンスはない.本稿では,灌流画像の問題点を述べるとともに,一般臨床において,発症早期の場合には灌流画像は必ずしも必要なく,MRI拡散強調像(diffusion weighted imaging:DWI)による患者選択で治療を行うことの妥当性について述べる.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.481 - P.481

 編者の考える6時間以内の灌流評価の意義は,梗塞拡大速度(fast progressorか否か)と治療許容時間の把握の2点である.RESCUE-Japan LIMIT試験は広範囲梗塞(ASPECTS 3〜5)へ適応を拡大したが,これはfast progressorにおけるfutile recanalization(転帰改善効果のない再開通)も増やし得る.治療手技に難渋する場合,勇気ある撤退も視野に入れるべきであり,灌流画像はその拠り所にできよう.一方,灌流画像が重要な役割を果たすと考えられてきたlate time window(発症後6時間以上経過した症例)において,MR CLEAN-LATE試験は単純CTのみで血栓回収療法の有効性を示すことに成功している1).編者の結論は,灌流画像は治療ターゲット探索の必須アイテム,得られた知見は現場の汎用的手法で代替,である.

非心原性脳梗塞に対する静注抗血栓薬(オザグレル,アルガトロバン)の使用

Pro 静注抗血栓薬を含むカクテル療法を活用する

著者: 永金義成

ページ範囲:P.482 - P.485

 『脳卒中治療ガイドライン2021』では,静注抗血栓薬であるオザグレルナトリウム(以下,オザグレル)もアルガトロバンも,非心原性脳梗塞患者の急性期治療法として“考慮しても良い”(推奨度C)とされており,アスピリンの単独投与やアスピリンとクロピドグレルの2剤併用投与(いずれも推奨度A)に比べると急性期治療法としての推奨度は低い1,2).しかしながら,本邦の脳卒中データバンクに登録された発症14日以内に入院した脳梗塞患者61,048例の急性期治療薬をみると,オザグレルはラクナ梗塞19,194例の68%,アテローム血栓性脳梗塞19,990例の34%に投与され,同じくアルガトロバンはそれぞれ16%,45%に投与されており3),これらの静注抗血栓薬は,本邦の急性期脳梗塞診療の現場で広く普及していると言えるであろう.
 カクテル療法とは,作用の異なる薬剤を組み合わせて投与する治療法のことである.脳神経領域では,脳保護療法としての仙台カクテル(マンニトール,デキサメタゾン,ビタミンE)が有名である4).DAPT(dual antiplatelet therapy)は2種類の抗血小板薬の併用療法であり,カクテル療法とも言えるが,本稿では,抗血栓薬と抗血栓薬以外の薬剤との併用,あるいは抗血栓薬のなかでも抗血小板薬と抗凝固薬のように異なるクラスの薬剤の併用をカクテル療法として取り上げる.

Con DAPTを基本としdual pathway inhibitionよりも内服を主体に計画する

著者: 河野浩之

ページ範囲:P.486 - P.489

 急性期非心原性脳梗塞は,静注抗血栓薬は併用せずに内服薬による「抗血小板薬併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)を主体とする治療」が基本であり,ガイドラインに従った治療である.なお,本稿で用いるDAPTとは,主にアスピリンとクロピドグレルの併用療法を指す.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.490 - P.490

 血小板系と凝固系の両者を遮断するdual pathway inhibition(DPI)は,永金氏が述べているように「一次止血の主役である血小板と二次止血の鍵を握るトロンビンの両者をコントロール」することでvascular protectionも期待されている.海外では基礎薬アスピリンに,内服で抗Xa因子阻害薬1)あるいは新規の第XIa因子阻害薬2)を追加したDPI開発がトピックとなっている.アルガトロバンと抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)のカクテル療法は日本でこそ可能なDPIの先駆けと言えよう.一方,クロピドグレルの遅延効果発現やpoor responder問題は,各々ローディング投与とプラスグレルへの変更で解決されつつある.現時点でオザグレルを併用する意義は乏しい.

心原性脳塞栓症(心房細動例)に対する急性期ヘパリン投与

Pro 抗凝固療法はまずヘパリンから始める

著者: 植杉剛 ,   野川茂

ページ範囲:P.492 - P.495

 心原性脳塞栓症は大梗塞に至りやすく,適切な抗凝固薬の使用が必要不可欠である.『脳卒中治療ガイドライン2021』では,脳梗塞急性期にヘパリン(未分画ヘパリン,低分子ヘパリン,ヘパリノイド)の使用に関しては,推奨度C,エビデンスレベル中で,考慮してよいと示されている1).一方,直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)に関しては,推奨度C,エビデンスレベル低で,非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)を伴う急性期脳梗塞患者に対して,出血性梗塞のリスクを勘案して適切な時期に考慮してもよいと示されている1)
 これまでのDOAC開始時期は,観察研究の結果や専門家の意見に基づいて提唱されている.例えば,欧州の治療指針では,一過性脳虚血発作では発症翌日,軽症脳梗塞では3日後以降,中等症では6〜8日後以降,重症では12〜14日後以降にDOACを開始する,いわゆる「1-3-6-12日ルール」が推奨されている2).しかし,それではDOAC開始時期が遅く,再発を招くおそれもあり,脳卒中の重症度に応じたより実際的な開始時期が,わが国で検討された.その結果,脳卒中の重症度に応じて1〜4日以内の早期にDOACを開始することが,脳卒中や全身性塞栓症の再発リスクを減少させ,大出血は増加させなかったことが観察研究で示され,「1-2-3-4日ルール」が2022年に報告された3).また,同年に別の論文でも,DOACの早期開始(5日以内)の有効性について検討され,DOACの早期開始が過度に脳出血のリスクを高めることはなく,脳梗塞再発リスクが脳出血の7倍であったことから,DOAC早期開始は妥当であるという結果が示された4)

Con ヘパリンは無意味であり,立ち上がりの早いDOACで始める

著者: 徳永敬介

ページ範囲:P.496 - P.499

 わが国では脳梗塞急性期に広く用いられているヘパリンであるが,そのエビデンスレベルは高くなく,欧米ではヘパリンの急性期投与は推奨されていない.本稿では,心房細動による心原性脳塞栓症の急性期にヘパリンによる橋渡し治療(ヘパリンブリッジ)を介さずに直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)を早期に開始することを推奨する立場から,その根拠について概説する.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.500 - P.500

 エビデンスはないと言われながら長年,慣習的に行われてきたヘパリン少量持続点滴療法(APTT値によらず10,000単位/日で固定)である.塞栓症を疑えばルーチンで使用するという施設は(編者の施設も含めて)少なくない.直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)適応疾患が見つからずワルファリン・ジレンマの回避目的でヘパリン・ブリッジを開始したものの,INR調整に時間を要したり,腸管安静を要する状況が生じ,結果的に脳梗塞急性期治療としてヘパリン持続点滴が行われていたという実態もあろう.しかし,ヘパリンにはヘパリン起因性血小板減少症(HIT)という重篤な合併症があり,これを避けるべく心房細動例には当初からDOACを推奨する.観察研究だがDOAC急性期投与の妥当性も示されつつあり,出血合併症にはすべてのDOACに中和薬が使用できる状況が整った.「とりあえずヘパリン」という考えは捨て,患者に最適なDOACを積極的に活用する姿勢が求められる.

脳卒中の急性期リハビリテーション

Pro 脳卒中のリハビリテーションは発症後早期に開始すべきである

著者: 角田亘

ページ範囲:P.502 - P.505

 本邦においては,脳卒中の急性期リハビリテーション(以下,リハ)は,“より多くの施設でより早期から”開始されるようになってきている.脳卒中急性期リハの理想的な開始時期についてはいまだ意見の一致をみていないが,本稿では(まさに私見でもあるが)「脳卒中の急性期リハ(特に片麻痺に関するもの)は,発症後“より早期から”開始すべきである」との見地から論を進めることとする.

Con 脳卒中の病態が安定した後にリハビリテーションを開始する

著者: 補永薫 ,   藤原俊之

ページ範囲:P.506 - P.508

 急性期の脳卒中診療において,早期からの積極的なリハビリテーション治療が効果的であるという報告は多いが,その具体的な開始時期に関しての統一的な見解はいまだに得られていない.急性期では脳卒中の重症度や併存疾患の悪化などにより呼吸・循環動態が不安定である場合や,脳卒中自体の病態が進行性である場合では強い体動や離床により全身状態の悪化をきたすリスクもある.そのため,リハビリテーション計画の策定に当たっては,脳卒中の病態を考慮したうえで安全性の高い計画を立てていくことが必要である.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.509 - P.509

 編者が初学者であった頃の脳卒中リハビリテーションは「脳血流自動調節能の回復まで頭部挙上は厳禁,血圧と症候変化に注意しながら安静解除を段階的に進め」ていた.血圧変動が病状悪化に直結する血行力学的機序への配慮は必要だが,すべての患者に過剰な安静を強いて廃用症候群を招いていた可能性は否定できない.実際には急性期リハビリテーションのメリットがデメリットを上回る患者が大多数を占める.さて,AVERT試験は24時間以内の高密度リハビリテーション開始に一石を投じたが,病態の見極め(血腫拡大や切迫ヘルニアが懸念される脳出血,循環動態が不安定な進行性脳梗塞,など)が十分できないままの画一的リハビリテーション介入への警鐘と編者は捉えている.『脳卒中治療ガイドライン2021』の「合併症を予防し,機能回復を促進するために,24〜48時間以内に病態に合わせたリハビリテーションの計画を立てることが勧められる」という記述に従い,開始時期と介入量を決めるのが妥当であろう1)

潜因性脳梗塞患者における長時間心電図モニター検査

Pro 潜在性心房細動の有無は植込み型心電図モニターで3年間検索する

著者: 山口啓二

ページ範囲:P.510 - P.513

 心房細動(atrial fibrillation:AF)は心原性脳塞栓症の主要原因であり,しばしば予後不良の脳梗塞をきたす.抗凝固薬がきわめて有効であるが発症前診断は必ずしも容易でない.虚血性脳卒中の診療においては,再発予防の観点からAFの精査が行われるが,発作性AFの場合には一般に行われているHolter心電図などで検出できるのは一部にすぎない.AFにより要介護に陥る患者を減らすため潜在性AFの診断強化が求められている.

Con 発作性心房細動は1週間モニターすれば十分である

著者: 宮﨑雄一

ページ範囲:P.514 - P.517

 発症原因を特定できない脳梗塞を包括する用語として古くは「潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke:CS)」が用いられていたが,近年の画像診断の進歩によりCSの多くが塞栓性機序であることが判明し,より病態に即した疾患概念として「塞栓源不明の脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)」が提唱された1).ESUSの潜在性塞栓源となる病態は多岐にわたるが,これらのなかで最も重要と考えられるのが潜在性心房細動である.なぜなら,非弁膜症性心房細動を有する脳梗塞患者の再発予防として,ワルファリンおよび直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)の有効性が確立しているからである2,3).一方で,CS/ESUS患者に対するDOACは,アスピリンと比較して脳卒中再発を減少させず,大出血に関しては差がないか増加させることが示されており4,5),現行のガイドラインでは推奨されていない6).そのため,ESUS患者に潜在する心房細動をいかに検出するか,ということに焦点が当てられてきた.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.518 - P.518

 脳梗塞における心房細動の存在はきわめて重要である.臨床病型にかかわらず,さらに言えば脳梗塞の原因でなくとも,心房細動があれば再発予防に抗凝固療法が推奨される.現在の抗凝固療法は直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が主流であり,患者に応じた最適な薬剤が選べる.DOACはワルファリンより安全性・有効性に優れるが,保険適用は心房細動(と深部静脈血栓症)に限られる.植込み型心臓モニター(ICM)の導入理由として「DOACを使用可能にするため」という説明は十分な納得を得られよう.さらに心房細動が確認できれば,左心耳閉鎖術や左心耳切除術,またアブレーションによるリズム是正療法といった治療選択肢も広がる.BNPや心房期外収縮が,将来の心房細動検出のバイオマーカーとなり得るという報告はあるが1),ここは「The longer, the higher」を支持したい.

塞栓源不明の脳塞栓症(ESUS)の治療

Pro ESUSの再発予防にはアスピリンを用いるべきである

著者: 園田和隆

ページ範囲:P.520 - P.522

ESUS,DOAC以前
 虚血性脳卒中の再発予防においては,患者病態に即した抗血栓薬の使用が求められる.脳梗塞病型は以前よりTOAST分類に準拠することが多く,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓症,アテローム血栓性脳梗塞以外の脳梗塞は潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke:CS)として分類されており,WARSS試験のサブ解析ではCSにおいて,ワルファリンのアスピリンに対する有益性は示されなかった1).2014年に入り,塞栓源不明の脳塞栓症としてembolic stroke of undetermined source(ESUS)の概念が提唱された2).これは従前のCSから原因がはっきりした脳梗塞を除き,画像所見から塞栓症が示唆される脳梗塞の一群を指している.その原因として,急性期に同定し得なかった心房細動が原因である可能性が高いと考えられていた.また,一方で抗凝固療法としてワルファリンに比して有意に出血リスクが低い直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)が複数実用化されたことで,ESUSに対してDOACの有効性が期待されることとなった.

Con 再発予防に抗凝固療法を考慮すべきESUSがある

著者: 片野雄大 ,   木村和美

ページ範囲:P.523 - P.526

 塞栓源不明の脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)の二次予防には抗凝固療法が有用である一群が存在する.本稿では,ESUSにおける抗凝固療法が適する患者群について考察する.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.527 - P.527

 編者はESUSを「潜因性脳梗塞のうち直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)による初期治療が適する症例を抽出するための疾患概念」と捉えていた.ESUSか否かは来院から24時間(すなわちrt-PA投与後,抗血栓薬を開始する時点)までの諸検査で確定できる.DOACを開始したうえで,さらなる原因検索によってDOAC継続あるは抗血小板薬への変更を決定する,という流れである.しかしNAVIGATE-ESUS,RE-SPECT ESUS,ATTICUSの3試験によって,現行基準にDOAC適格例の抽出能力はないことが判明した.潜在性心房細動の関与は当初の予想より少なく,むしろ動脈硬化に起因する例(arteriogenic ESUS)が多かったのであろう.ESUS治療薬としてアスピリンを推奨することに異議はないが,心塞栓性機序による一群(cardiogenic ESUS)の存在に留意すべきである.編者は心房心筋症(atrial cardiopathy)の所見が複数あればワルファリンを選択している.

脳梗塞の脂質管理

Pro 脳梗塞後の脂質管理はLDL-C<100mg/dLを目指せばよい

著者: 田中亮太

ページ範囲:P.528 - P.531

 非心原性脳梗塞の再発予防には適切な抗血栓薬の使用とリスク因子の厳格な管理が重要で,スタチンを用いた脂質管理も推奨度の高い再発予防治療である.『脳卒中治療ガイドライン2021』では非心原性脳梗塞の再発予防にスタチンを用いた積極的な治療が推奨されており,LDLコレステロール(LDL-C)<100mg/dLを目標とする.一方,冠動脈疾患を合併している虚血性脳卒中の再発予防に対してはLDL-C<70mg/dLを目指すことが推奨されている.

Con The lower, the betterであり,LDL-C<70mg/dLを目指す

著者: 伊藤義彰

ページ範囲:P.532 - P.535

Conの立場
 非心原性脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)の再発予防には,LDLコレステロール(LDL-C)<100mg/dLを目標とした脂質管理が勧められる.しかし動脈硬化の程度が著しくプラークの進展,脳梗塞の再発が懸念される場合には,LDL-C<70mg/dLを目標に,HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)単独,スタチンとエゼチミブの併用,さらにはPCSK9阻害薬の追加投与により脂質管理することが強く勧められる.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.536 - P.536

 編者は「The lower, the better」を支持する立場である.特にアテローム血栓性脳梗塞は全身血管病の1つであり,原因となった不安定プラークの安定化が,病状を安定させ増悪や再発を防ぐための鍵となる.虚血性心疾患における冠動脈プラーク退縮はLDLコレステロール(LDL-C)<70mg/dLを達成した場合に観察される1).同様にTST-PLUS研究においてLDL-Cの厳格管理群で頸動脈プラークに有意な退縮が認められている2).以前であれば70mg/dL未満は厳しい数値目標であったが,スタチンに加えエゼチミブやPCSK9阻害薬を使用することで達成できるようになった.一次予防ではLDL-C目標<100mg/dLも許容されるが,二次予防となれば<70mg/dLまで踏み込むべきであろう.

DOAC服用中に脳塞栓症を再発した心房細動患者に対する左心耳閉鎖術

Pro 出血ハイリスクがなくても積極的に実施する

著者: 福冨基城 ,   桃原哲也

ページ範囲:P.537 - P.541

 本稿では,直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)内服中に脳塞栓を発症した心房細動(atrial fibrillation:AF)症例に対し,出血リスクが高くなくても経カテーテル左心耳閉鎖術(left atrial appendage closure:LAAC)を積極的に施行することについて,賛成の立場から述べさせていただく.

Con 出血ハイリスクがなければ薬剤治療を継続する

著者: 伊澤良兼

ページ範囲:P.542 - P.544

 左心耳閉鎖術(left atrial appendage closure:LAAC)は心房細動に起因する心原性塞栓症の発症予防に有効であり,抗凝固療法のアドヒアランス,薬物相互作用,投与量の調節などのさまざまな問題を解決する可能性があるが,「直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)服用中に脳塞栓症を再発した心房細動患者」に対しては,どのような治療選択を考慮すべきなのであろうか.ここでは「出血リスクが高くない場合は,閉鎖術ではなく,薬物治療を継続する」との立場から考察を行いたい.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.545 - P.545

 このディベートに結論を出すのは難しい.現在の適正使用指針では,出血の危険性が高い患者(HAS-BLEDスコア3以上,転倒に伴う複数の外傷歴,アミロイド血管症,長期の抗血小板薬2剤併用,大出血の既往)に対して検討する治療と位置付けられている.手技に伴う合併症と抗凝固療法の危険性とのバランスを患者ごとに判断することになるが,2019年のWATCHMAN®承認時からデバイス自体の改良(現在はWATCHMAN FLX®)も進み,安全性はきわめて高くなった.一方,全国どの施設でもこの治療が実施できるわけではなく,ブレイン・ハートチームの育成ならびに熟練した術者の養成が必要である.今後,各地で経験が積み重ねられるなかで,ConからProが優勢になっていくものと思われる.

脳卒中後てんかん:薬物治療の適応と開始時期

Pro 脳卒中急性期から予防的に抗てんかん薬を開始する

著者: 松原崇一朗

ページ範囲:P.546 - P.549

 脳卒中急性期には合併症としててんかん発作をきたすことがあり,脳卒中後てんかん発症リスクと関連し,死亡などの脳卒中自体の転帰にも影響を与える可能性が示唆されている.急性期から急性症候性発作およびてんかん発症の予防を目的に抗てんかん薬を治療開始するか否かについては,議論が分かれる課題であるが,近年の研究からは,特定の臨床的状況においては十分に許容可能な状態であると考えられる.本稿では急性期からの抗てんかん薬治療に対して肯定的な立場として議論していきたい.

Con CAVE高スコアでも急性症候性発作がなければ予防投与はしない

著者: 田中智貴

ページ範囲:P.550 - P.552

 近年,高齢化の進展,脳卒中急性期治療の進歩による死亡率の改善により,脳卒中生存者が急増している.脳卒中後てんかんは脳卒中生存者の合併症のなかで重要な疾患であり,多くの研究がなされるようになった.脳卒中後てんかん発症リスクに関する報告も蓄積されるようになり,脳卒中後てんかん発症リスクのスコアモデルが構築された(頭蓋内出血による脳卒中後てんかん発症リスクモデル:CAVEスコア,脳梗塞による脳卒中後てんかん発症リスクモデル:SeLECTスコア).これらのスコアを用いれば脳卒中後のてんかん発症の予測が可能となり,CAVEスコアでは3点で約35%,4点で46%が脳卒中発症後7年間にてんかんを発症することが判明している.SeLECTスコアも同様であり,7点以上であれば約半数の症例がてんかん発症のリスクがある.そうしたなかで,いずれにしろ将来てんかんを発症するのであれば,抗てんかん薬をあらかじめ服用したほうがよいのではないかという機運が高まっている.この抗てんかん薬の予防投与に対して,本稿では筆者が否定的な立場にあると仮定して,現状のエビデンスを基に考察したい.

編者からのコメント

著者: 平野照之

ページ範囲:P.553 - P.553

 国際抗てんかん連盟(ILAE)の実用的定義(2014年)によると,1回の非誘発性発作(late seizure)も,その後10年で60%以上の再発リスクがあれば脳卒中後てんかんと診断される.CAVE,SeLECTスコアの登場で,この定義も実効性のあるものとなってきた.さてガイドラインでは,急性症候性発作(early seizure)の頓挫目的で開始した抗発作薬(anti-seizure medication:ASM)は,late seizureが生じない限り,漸減・中止することを推奨している1).一方,急性症候性発作それ自体は脳卒中後てんかんの大きなリスク因子である.編者の施設ではCAVE≧3,SeLECT≧6の高スコア例(特に,脳波異常が確認される場合)では,将来に備えearly seizure後にASMを継続することも少なくない.

令和の脳卒中事情

脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画

著者: 藤本茂

ページ範囲:P.554 - P.558

Point
◎脳卒中は急性期治療のみならずその後のリハビリテーション,生活支援や復職・復学支援,介護など長期にわたる医療・介護・福祉の継続的な連携が求められる疾患である.
◎脳卒中療養相談窓口では,脳卒中専門医が責任者となり,脳卒中に精通した認定看護師や医療ソーシャルワーカー(社会福祉士や精神保健福祉士)が脳卒中療養相談士として中心的役割を担う.
◎必要に応じて理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,薬剤師,管理栄養士,臨床心理士(公認心理師)などの各専門職を構成員に含める.
◎脳卒中相談窓口では,脳卒中療養相談士が脳卒中患者とその家族に対して医療・介護・福祉などに関する情報提供や支援,連携する医療機関との情報共有を行う.

脳卒中センターの整備—一次脳卒中センター(PSC),PSCコア施設

著者: 作田健一 ,   井口保之

ページ範囲:P.559 - P.563

Point
◎健康寿命の延伸などを図るために「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立した.
◎rt-PA静注療法の均てん化を目指し,一次脳卒中センター(PSC)が整備されている.
◎機械的血栓回収療法を含む高度な脳卒中診療体制を確立するために,PSCコア施設が整備されている.
◎施設間連携および遠隔医療のkeyとなるtelestrokeは,臨床現場で活用されつつある.

脳卒中対策の基本となる登録事業と脳卒中データバンク

著者: 和田晋一 ,   吉村壮平 ,   古賀政利

ページ範囲:P.564 - P.567

Point
◎脳卒中対策では現状把握(基礎データ)に基づく対策と進捗管理が重要であるが,悉皆性の高い基礎データがない.
◎「脳卒中と循環器病克服第二次5ヵ年計画」ではJ-ASPECTS,日本脳卒中データバンク(JSDB),一次脳卒中センター年次診療実績報告などを基盤としてわが国の脳卒中医療の礎となる登録システムの確立を目指している.
◎JSDBは1999年から20年以上にわたって全国規模で行っている脳卒中患者個票の登録事業である.
◎悉皆性の高い登録事業を実現するためには「脳卒中と循環器病登録等の推進に関する法律」(仮称)の制定が必要であろう.

COVID-19と脳卒中

著者: 西山康裕 ,   木村和美

ページ範囲:P.568 - P.571

Point
◎当初,COVID-19による懸念は重症呼吸器リスクであったが,その後に脳卒中を含む血栓症リスクが高まることが判明した.
◎SARS-CoV-2陽性例と脳卒中の関係は,入院後に陽性が判明する例が約4割と少なくないため,病院の応需体制と個人防護具がきわめて重要である.
◎本邦でのCOVID-19関連脳卒中は欧米と同様に死亡率が高く,転帰は不良である.

読者の識りたいに応える

古くて新しい脳卒中症候学—mimicsとchameleon

著者: 稲富雄一郎

ページ範囲:P.572 - P.577

Point
◎stroke mimicsには非痙攣性てんかん重積,頸椎硬膜外血種など,脳卒中同様に初療が重要な疾患がある.
◎「今まで経験のない」,「誘因なく日中急に」という病歴は,stroke chameleonの診断に有用である.
◎高次脳機能障害の主訴から鑑別すべき症候を列挙する“symptomatological fluency”を習得する.
◎閉じ込め症候群の可能性も考えて,無反応であっても患者の意識があることに配慮した言動を心がける.
◎stroke mimicsやstroke chameleonに撹乱されないため,正常性バイアスに留意する.

めまいと脳卒中—HINTS plusのピットフォール

著者: 工藤洋祐 ,   城倉健

ページ範囲:P.578 - P.581

Point
◎HINTS plusは中枢性めまいのスクリーニング法として知られているが,いくつかのピットフォールがある.
◎Head Impulse Test(HIT)が異常(末梢パターン)となる脳卒中(AICA閉塞や延髄外側梗塞)も存在する.
◎中枢性めまいの鑑別には,体幹失調を含めためまいに随伴する神経症候を見逃さないことが大切である.

テネクテプラーゼの開発動向

著者: 長尾毅彦

ページ範囲:P.582 - P.585

Point
◎テネクテプラーゼは遺伝子組み替えによりアルテプラーゼよりも半減期が延長したため単回静注が可能で,さらに強いフィブリン親和性を実現している.
◎世界的にはテネクテプラーゼが脳梗塞超急性期血栓溶解療法の主流になりつつある.
◎テネクテプラーゼは現時点ではわが国で使用可能になる見通しが立っていない.

見えてきた脳卒中細胞治療の臨床応用

著者: 長内俊也 ,   寳金清博

ページ範囲:P.586 - P.589

Point
◎脳梗塞急性期の血栓回収療法により,脳梗塞の予後は劇的に改善しているが,いまだに予後の不良な症例も存在する.
◎細胞治療は脳梗塞治療のさらなるブレークスルーとして期待されている.
◎作用機序の1つとして神経保護因子ならびに神経栄養因子による保護効果によると考えられている.
◎MultiStem® はヒト骨髄由来の他家成人接着性幹細胞製品であり,急性期〜亜急性期にも投与が可能である.
◎第Ⅱ/Ⅲ相試験の結果,1年後のglobal recovery(mRS≦2, NIHSSΔ≧75%, BI≧95)がMultiStem® 投与群で有意に多かった(p=0.037)

脳卒中の遺伝子研究—RNF213関連疾患

著者: 岡﨑周平

ページ範囲:P.590 - P.594

Point
RNF213遺伝子は,もやもや病の感受性遺伝子として発見され,日本では,もやもや病患者の80〜90%がRNF213 p.R4810K多型を有している一方で,健常人の1〜2%も本多型の保因者である.
◎RNF213蛋白は,ユビキチン化機能とATP分解能を有するE3ユビキチンリガーゼで,標的となるさまざまな蛋白質をユビキチン化することで,炎症反応,抗菌活性,脂質代謝などのシグナル伝達経路を調整していると考えられている.
RNF213遺伝子多型は,もやもや病だけでなく,頭蓋内動脈狭窄症や,アテローム血栓性脳梗塞,肺高血圧症,冠動脈疾患,高血圧症などの発症や予後と関連があり,RNF213関連血管症という新しい疾患概念が提唱されている.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・12

—お腹が膨満している その5—肝硬変のフィジカル—総論

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.441 - P.445

 前回は腹水貯留の症例を紹介しました.最終的に原発性腹膜がんという聞きなれない疾患と診断されましたが,予後良好(favorable subgroups)な疾患なので,きちんと診断し,しかるべき専門医・専門施設に繋げたいものです.
 さて,今回より3回に分けて肝硬変のフィジカルをご紹介します.私はかねてから,肝硬変は消化器医の病気ではなく内科医の病気であると申し上げていますが,その理由は,肝硬変という疾患自体がいかにも内科的であるためです.症例を交えながら,少しずつ解説していきます.

医学古書を紐解く・3

推理小説のように面白く,腹部画像診断に革命を起こした本—Meyers MA『Dynamic Radiology of the Abdomen』

著者: 仲田和正

ページ範囲:P.596 - P.597

 私がMeyersの『Dynamic Radiology of the Abdomen』1)を通読したのは1979年,今の静岡県立総合病院の前身である静岡県立中央病院で研修医2年目を過ごしていたときであった.当時はまだCTが普及しておらず,CTを撮る必要が生じたときは,静岡市で初めてCTを導入した静岡赤十字病院に依頼していた.また,血管造影も今のようなやり方ではなくて,例えば頭部の血管造影をするときは,頸動脈に針を刺して,「1,2,3!」でドンと造影剤を入れ,そのタイミングに合わせて写真を撮る.つまり,たった1枚しか撮れないのである.あるとき,昏睡状態の患者が搬送されてきて血管造影をしたところ,硬膜下血腫があるともないとも思えるような写真が撮れた.最終的に「これは硬膜下血腫に違いない」と判断してストレッチャーで患者をオペ室へ運んでいたら,なんと途中で患者が目を覚まし「ああ,よく寝た.2日間寝てなかった」と言うではないか.危うく手術をするところであった.
 そのようなまだCTが普及していない時代,本書は推理小説のように面白い本であった.この本の評者には,「無人島に持っていく3冊のうちの1冊!」と言う人もいるほどである(ちなみに司馬遼太郎はもし1冊持っていくとしたら『歎異抄』と答えている.こちらもぜひ読んでいただきたい).あまりに面白かったので,私は居酒屋にこの本を持ち込んで,カウンターでビールを飲みつつ読み進め,結局,ほぼ居酒屋だけで通読した.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・19 疾患別リハビリ・運動療法の実際

がん

著者: 上月正博

ページ範囲:P.598 - P.605

 がんは日本人の死亡原因の第1位である.国民の2人に1人が生涯のうちにがんに罹患し,3人に1人ががんで死亡する.がん治療は日々進歩しており,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入,高精度放射線治療,低侵襲な手術的治療など,大きく変化している.がん治療の進歩により,がんの治療を終えたあるいは治療を受けているがん生存者(がんサバイバー)数が,わが国で500万人を超え,がんが「不治の病」であった時代から,「がんと共存」する時代の新しい医療のあり方が求められている1)
 近年では,がん患者の後遺症や合併症の軽減を目的とした治療前(prehabilitation),治療中の対応,就労支援,がん関連倦怠感(cancer related fatigue:CRF),がん誘発認知機能障害(cancer-induced cognitive impairment:CICI),がん悪液質(cancer cachexia),骨転移・骨関連事象(skeletal related event:SRE)のマネジメント,緩和ケアでの症状緩和や在宅療養生活の支援など,がん患者に対するリハビリテーション(以下,リハビリ)のニーズは急速に拡大している.本稿では,がんに対するリハビリ・運動療法を解説する.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・22

足が動かない! 脳梗塞? 脊髄の臨床/脊髄梗塞の症状

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.606 - P.611

 神経障害を考える際,頭蓋内疾患を第一に考えつつ,脊髄・末梢神経障害の疾患に鑑別を狭めていくことが多いと思います.典型的な脊髄疾患の症例を通して,脳実質以外の病巣部位を推定できるようにしていきましょう.

目でみるトレーニング

問題1048・1049・1050

著者: 岩崎靖 ,   梶原祐策 ,   寺田教彦

ページ範囲:P.612 - P.617

書評

—上田 剛士 監修 吉川 聡司 執筆—ジェネラリストと学ぶ 総合画像診断—臨床に生かす!画像の読み方・考え方

著者: 下野太郎

ページ範囲:P.519 - P.519

 著者の吉川聡司先生は,放射線診断医と内科医の両方をきわめて高次元でなされている大谷翔平選手のような医師です.私は密かに,吉川先生が本を書いてくださらないかと期待していました.上司の勧めで書かれたということですが,そのご慧眼に敬服します.
 私は,今まで書評依頼は原則引き受けませんでした.しかし,今回はこのような機会を与えてくださったことを心から光栄に思います.

—田中 和豊 著—問題解決型—救急初期診療 第3版

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.595 - P.595

◆何を指標に選ぶか?
 2020年代以降は救急のマニュアル本が非常に充実しています.研修医は数十冊以上のなかから何を買うか迷ってしまうでしょう.上級医だってオススメ本を知る必要があります.数あるマニュアル本から皆さんは何を指標に選んでいますか?
 「先輩研修医に聞く」「書店で読み比べる」「Amazonの★の数」いずれも悪くありません.しかし,私のオススメは「増刷数の多いものを選ぶ」という戦略です.

—神田 隆 編—末梢神経障害—解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで

著者: 三苫博

ページ範囲:P.618 - P.618

 神田隆先生(山口大神経・筋難病治療学講座特命教授)が編集された本書は,末梢神経障害を,病態生理学を踏まえて包括的に理解し,実践の診療の役に立てることができるという点で,この分野のマイルストーンとなる成書です.神田教授の構想に従い,全国のエキスパートの先生方が分担執筆されています.
 末梢神経障害は,約1,000万人の患者がいると推定され,日常高頻度で遭遇するcommon diseaseの1つです.common diseaseといえば,典型的な症状,明解な検査所見から,診断が比較的しやすいというイメージがあるかと思います.しかしながら,末梢神経障害は,診断,治療のアプローチが大変に難しい疾患です.神田教授は,「末梢神経障害は,AがあればBの診断,そして治療Cの実施という一直線の思考では対処できないためである」と,その特徴を喝破しています.

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目次

ページ範囲:P.446 - P.449

読者アンケート

ページ範囲:P.619 - P.619

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.620 - P.621

購読申し込み書

ページ範囲:P.622 - P.622

次号予告

ページ範囲:P.623 - P.623

奥付

ページ範囲:P.624 - P.624

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

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59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

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