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雑誌目次

雑誌文献

medicina60巻5号

2023年04月発行

雑誌目次

特集 臨床医からみたPOCT

著者: 大杉泰弘

ページ範囲:P.634 - P.635

 2023年に入りAIチャットサービスの登場などシンギュラリティは間近に迫っていると感じさせるほどに,テクノロジーの進歩の急激さはますます大きくなってきている.医療分野においても同様に,AIなどをはじめとした次世代医療やさまざまなプロダクトが多く登場している.このような時代に私達はその医療プロダクトをさらに使いこなし,よりよいアウトカムにつなげていく必要がある.そのなかで,近年臨床の現場でも認知度が高まり,トレンドとなっているPOCT(point of care testing)に焦点を当てて特集を企画した.
 POCTは,「ベッドサイドあるいは患者の傍らでできる」という簡便性,現場で結果が出るという即時性という点で非常に有用である.その一方で,簡便であるがゆえに十分な吟味がなされないままオーダーされた結果,検査結果に振り回されたり,高コストになってしまった,などといった問題も生じている.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.636 - P.639

●今月の特集執筆陣による出題です.POCT(point of cara testing)に関する理解度をチェックしてみましょう!

総論

POCTへの誤解,運用・解釈の注意点

著者: 大杉泰弘

ページ範囲:P.641 - P.643

 POCT(point of care testing)は近年臨床の現場でも認知度が高まり,トレンドとなっている.日本医療検査科学会の『POCTガイドライン第4版』では,「POCTとは,被検者の傍らで医療従事者(医師や看護師等)自らが行う簡便な検査である.医療従事者が検査の必要性を決定してからその結果によって行動するまでの時間の短縮および被検者が検査を身近に感ずるという利点を活かして,迅速かつ適切な診療・看護,疾病の予防,健康増進等に寄与し,ひいては医療の質,被検者のQOLおよび満足度の向上に資する検査である」と定義されている1).この定義によれば,POCTとは小型分析器や迅速診断キットを用いて医療現場で行うリアルタイム検査であり,病院の検査室あるいは外注センター以外の場所で実施されるすべての臨床検査のことを指す.
 これは検査側からみたPOCTの定義であるが,臨床医側にはともすれば「ベッドサイドあるいは患者の傍らでできる迅速検査はすべてPOCT」のような簡便性・迅速性のみが強調された受け取られかたをされ,誤解とともに問題のある運用につながるおそれもある.

セッティング別での血液・尿検体のPOCT

著者: 森川慶一

ページ範囲:P.644 - P.646

Point
◎血液・尿検体のPOCT検査は多数あり,それぞれのセッティングで有用なPOCTの項目も異なる.

POCTとして使える画像・生理検査

著者: 窪田泰輔 ,   野口善令 ,   上松東宏

ページ範囲:P.648 - P.653

Point
◎POCTとして使える画像・生理検査のなかでも特に重要なものが,超音波検査である.
◎非専門医が即座に情報を得るためにベッドサイドで簡便に行うことができるのがPOCUSである.
◎POCUSを施行する際は適応判断→機器操作(スキル)→解釈→患者への適用を常に考える.POCUSのなかでも心エコー・肺エコー・腹部エコー・下肢血管エコー・筋骨格エコーは日常診療で使う場面が多い.

血液,尿以外の検体採取の注意点

著者: 佐藤香菜子 ,   丹羽一貴

ページ範囲:P.654 - P.657

Point
◎感染症診療におけるPOCTはイムノクロマト法を用いた迅速診断キットが多用されている.さらに近年は工程が簡便で,短時間で結果が判明する遺伝子検査もPOCTとして利用されている.
◎感染症診療においてPOCTを行う目的は,微生物学的診断により診断の精度を上げて,迅速に治療介入すること,臨床経過を予想すること,さらに適切な感染対策を行い感染の蔓延を防ぐことにある.
◎検査を正しく行うためには,正しい操作方法や検体採取法を理解する必要がある.
◎感度・特異度など検査の限界を理解したうえで,臨床経過と合わせて総合的に判断する必要がある.

診療所スタッフが行う検査機器・試薬などのメインテナンス,精度管理,検査結果の管理

著者: 三宅紀子

ページ範囲:P.658 - P.660

Point
◎POCT機器による検体検査は専門的な知識がなくても測定可能で,日々の測定に精度管理を求められない.
◎機器・試薬ともに使用・設定条件から外れると予期せぬ測定結果となるため,注意が必要である.
◎測定に関わるすべての過程が検査結果に影響することは,POCTでも変わりはない.
◎多くのPOCTで電子カルテとのインターフェイスが存在するため転記ミスが生じず,測定結果を経時的に保存・管理し,診療業務を円滑に行うことができる.

POCTの経済的側面

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.662 - P.664

Point
◎POCTは限られたリソースを有効に活用することで患者に利する.
◎検査項目は陽性尤度比,陰性尤度比を考え適切な項目を選択する.
◎経済的側面を知ることでより有効活用ができる.
◎保険点数すべて理解することは医師の役割ではなく,事務系との連携をとることが勧められる.

日常診療とPOCT 〈外来診療〉

発熱外来を受診した発熱患者—新型コロナ抗原検査,インフルエンザ迅速検査の使い方

著者: 磯矢嵩亮 ,   野口善令

ページ範囲:P.666 - P.669

Point
◎臨床症状からはCOVID-19とインフルエンザの鑑別は難しく,抗原検査が有用となる.
◎患者の状況によりCOVID-19の抗原検査結果の解釈は変わる.
◎抗原検査も繰り返すことで感染対策に有効となる.
◎市販の検査キットの結果で受診してきた場合は使用したキットや採取方法を確認する.

咽頭痛患者—溶連菌・アデノウイルス迅速検査

著者: 橋川有里

ページ範囲:P.670 - P.674

Point
◎溶連菌・アデノウイルス迅速検査は特異度は高いが,感度は検体採取方法や微生物量に依存する.
◎両検査ともに,陰性であっても感染を否定できるわけではない.
◎アデノウイルス迅速検査では,キットにより検体検出方法が異なり,また検出可能項目数によりコストも異なる.
◎溶連菌感染が疑われ,抗菌薬投与が考慮される場合には,POCTを用いるとよい.
◎小児もしくは小児と接触のある成人の長引く(4日以上)咽頭炎症状をみたら,POCTを検討する.

DOAC内服患者が小出血イベントを起こしたとき

著者: 熊谷祐紀

ページ範囲:P.676 - P.679

Point
◎DOAC内服中患者の出血に遭遇した際,安易な休薬指示は避けるべきである.
◎POCTを行うことにより,DOAC内服に伴う易出血性を絶対的に評価することは難しく,日常診療の段階でのリスク評価が必要である.
◎中等度以上の出血に遭遇した場合は,躊躇せず緊急止血が可能な高次医療機関への搬送を決定する.

喘息のある患者—スパイロメトリー,ピークフロー

著者: 久賀孝郎

ページ範囲:P.680 - P.685

Point
◎呼吸器症状に対してスパイロメトリーによる評価は簡便かつ重要である.
◎ピークフローは喘息における自宅での評価のために有用なツールである.
◎ピークフローによる喘息評価は,初診時,長期管理の際のコントロールの評価,増悪時の重症度評価と各フェーズに応じて活用できる.
◎ピークフローに応じた自宅でのアクションプランを決めておくことで,悪化を防ぐ事ができる.

発熱患者—クリニック外来でのプロカルシトニン迅速キットの活用

著者: 豊岡達志 ,   安藤諭

ページ範囲:P.686 - P.689

Point
◎プロカルシトニン(PCT)は慢性腎臓病患者では上昇し,蜂窩織炎などの局所感染症では上昇しない場合もある.
◎PCT測定により,成人の下気道感染症の抗菌薬処方量を削減できるかもしれない.
◎PCTを敗血症診断に用いる際には,その他の所見や状況を加味して方針を決定する必要がある.

意識障害患者—尿中薬物検査

著者: 加藤心良 ,   安藤諭

ページ範囲:P.690 - P.693

Point
◎薬物中毒の診療は,病歴や身体所見,検査所見を組み合わせて行う必要があり,とても難しい.
◎尿中薬物検査は中毒物質が不明の場合のスクリーニングとして有用である.
◎尿中薬物検査を行う場合は,検査特性を理解して結果を解釈する必要がある.
◎検査結果解釈の際,検査結果の偽陽性,偽陰性の可能性に特に注意する.

肺炎疑い患者—マイコプラズマ抗原検査,尿中レジオネラ抗原検査,尿中肺炎球菌抗原検査

著者: 安藤諭

ページ範囲:P.694 - P.697

Point
◎市中肺炎において,原因微生物の同定に利用できる検査には,喀痰グラム染色・培養,血液培養,POCT,血清抗体,遺伝子検査などがある.
◎肺炎診療におけるPOCTは,原因微生物の診断が迅速に可能であり,治療方針の決定に有用
◎POCTの特徴を理解したうえで,診療に活用することが重要である.

頭痛を伴う発熱患者に対するPOCT—jolt accentuationで髄膜炎の除外は可能なのか?

著者: 竹内元規

ページ範囲:P.698 - P.701

Point
◎髄膜炎に対するPOCT(point of care testing)として有用なのは,陰性であったときに同疾患を否定できる感度の高い身体所見である.
◎古典的な髄膜刺激徴候は,髄膜炎を否定したい一般外来で使用するPOCTとして有用ではない.
◎髄膜炎に対するjolt accentuation for headache(JAH)は,最近発症した頭痛かつ意識障害や神経学的異常を伴わない発熱患者に対して感度が高く,よい適応である.

かゆみを伴う皮疹の患者—KOH法,抗原定性検査

著者: 梅沢義貴

ページ範囲:P.702 - P.705

Point
◎白癬を視診で診断することは熟練した皮膚科専門医でも困難である.また治療するにあたっては検査が必須である.
◎直接鏡検法は顕微鏡とKOH溶液さえあれば検査可能であり,加えて非侵襲的検査であることからPOCTとして外来では非常に有用である.
◎2022年より爪白癬に対する抗原検査キットも発売された.KOH直接鏡検法と組み合わせることで診断率はさらに向上する.

下腹部痛を訴える女性患者—尿中hCG検査

著者: 林路子

ページ範囲:P.706 - P.710

Point
◎女性の下腹部痛の診療においては,まず妊娠を除外するのが肝要である.
◎妊娠の除外には尿中hCG検査が簡便で用いやすい.
◎検査が必要と判断したら,丁寧な説明のうえで躊躇なく行えるようにしておきたい.

性感染症(STD)疑いの男性患者—淋菌のグラム染色,尿中クラミジア抗原

著者: 山田智也 ,   安藤諭

ページ範囲:P.712 - P.715

Point
◎尿道炎は男性の性感染症(STD)のなかで最多である.
◎尿道炎は原因微生物により,淋菌性・クラミジアを代表とする非淋菌性に分類される.
◎男性の尿道炎患者に対して淋菌のグラム染色,クラミジア抗原検査を行うとクリニックでも迅速に診断・治療の実施ができる.
◎女性のパートナーの治療につなげることで,不妊症などの合併症を避けられる可能性がある.

〈在宅診療〉

在宅患者への血液ガス分析器の運用

著者: 小笠原雅彦

ページ範囲:P.717 - P.721

Point
◎在宅医療の現場環境においてポータブル血液ガス分析器は臨床判断を助け,「病院と変わらない感覚」で診療を行うことができる.
◎血液ガス分析を現場で行うことで,検体の経時的変化を避けることができ検査値の信頼性が向上する.
◎使用する現場環境に合わせて分析器やカートリッジを選択するとよい.

〈実践〉

呼吸困難を訴える在宅患者—POCUSの活用

著者: 渡邉賢秀 ,   野口善令

ページ範囲:P.722 - P.726

Point
◎肺エコーPOCUSに習熟すれば,気胸,心不全,肺炎の鑑別が可能である.
◎POCUSは,在宅呼吸困難患者の適切な病態把握と方針決定の助けとなる.

排尿障害の在宅患者—超音波による残尿評価と治療戦略

著者: 橋川有里

ページ範囲:P.728 - P.732

Point
◎身体所見や超音波検査結果からおおよその残尿量の予想が立てられる.
◎正確な値がわからなくても,残尿の有無がわかれば治療方針を決定できる.
◎残尿評価が行える超音波装置には,腹部超音波と膀胱用超音波画像装置がある.
◎膀胱用超音波画像装置は膀胱容量測定に特化している一方,腹部超音波は残尿測定だけでなく尿路形態を評価でき,排尿障害の原因特定の一助となる.

在宅患者におけるCOVID-19

著者: 小笠原雅彦

ページ範囲:P.734 - P.736

Point
◎SARS-CoV-2抗原定性検査は現場で検査結果が出るため,在宅医療においては投薬フローや多職種への指示がスムーズになる.
◎COVID-19の在宅経過観察では,SpO2モニターで安静時のみならず労作時の低酸素血症を見つけることが重要である.
◎医療者の感染リスク低減のため,抗原検査キットはより短時間で結果が出るものを選ぶとよい.

急性の下肢浮腫—超音波検査の活用

著者: 平嶋竜太郎

ページ範囲:P.737 - P.740

Point
◎急性の片側性下肢浮腫を見たときは深部静脈血栓症(DVT)の除外が必要である.
◎DVTの診断にはWellsスコアとD-ダイマー,超音波検査を使用する方法が確立されている.
◎超音波検査はベッドサイドではcompression ultrasound(CUS)による2-point studyが簡便で有効であるが,見落としを防ぐための再評価が重要である.

心不全既往のある患者—超音波による体液量推定と診断・治療への応用

著者: 西村涼 ,   野口善令

ページ範囲:P.742 - P.746

Point
◎エコーによる体液量の推定方法には下大静脈(IVC)径測定,内頸静脈圧(uJVP)推定があり,どちらもベッドサイドで即座に評価できる.
◎IVC径,uJVPはともに測定条件により容易に変動しうるため,体液量の推定には必ず病歴や身体所見など他の情報を組み合わせる.
◎体液量異常があると判断した場合も即治療ではなく,患者背景などから治療の有益性・危険性を判断することを忘れない.

災害医療における超音波検査によるPOCTの実践—DVTハイリスク避難者に対する対応

著者: 高瀬信弥

ページ範囲:P.748 - P.752

Point
◎大規模災害において,二次的肺塞栓症は避難所に在所する下肢深部静脈血栓症(DVT)ハイリスク避難者に好発する.
◎その発生率は10〜30%と,被災状況,避難所環境により異なる.
◎災害におけるDVTスクリーニングの最大の目的は二次的肺塞栓症発症を予防することであり,避難所や被災地でのスクリーニングには,超音波検査が有用である.
◎避難環境により完全な下肢全体のスクリーニングは難しいため,見落としに注意が必要である.
◎血栓検出のみならず,DVT予防の啓蒙にも注力する.
◎被災者に寄り添いながら積極的なアプローチで活動を行う.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・13

—お腹が膨満している その6—肝硬変のフィジカル—各論1 全神経を集中して連続性雑音に耳を澄ますべし

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.625 - P.629

 前回は「肝硬変のフィジカル総論」と題して,全身所見・局所所見に分けて,診るべきポイントを述べました.今回は,主に視診と聴診を中心に,門脈圧亢進症を合併した肝硬変でみられるフィジカルを紹介したいと思います.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年3月31日まで公開)。

ERの片隅で・1【新連載】

赤色アナフィラキシー

著者: 関根一朗

ページ範囲:P.754 - P.755

 午後7時、研修医たちがお互いに最近診た症例についてワイワイと語り合っている。
 ER内で救急搬送を告げるアナウンスが流れた。「5分後、救急車入ります。26歳女性、呼吸困難。電車内で瘙痒感を伴う顔面腫脹と呼吸困難が出現し、救急要請。バイタルサインは…」

明日から主治医! 外国人診療のススメ・1【新連載】

「外国人」とは誰か

著者: 冨田茂 ,   沢田貴志

ページ範囲:P.756 - P.760

CASE
総合診療科の研修医(萌)と指導医(南)が外来で…
萌)南先生,今外来にいる患者さん,ビクトリア クルスさんという外国人らしいのですけど….先生英語できますよね.ぜひ,お願いします.
南)いやいや,外国風の名前だからといって英語ができるとは限らないよ.東南アジアの人かもしれないし,南米のスペイン語の人とかかもしれないね.
萌)え,そんな.アジアの言葉とかスペイン語とかもっと困ります.あ,どうしよう,患者さんがこっちに来る.ソーリー,アイキャント…えーと,どうしよう.
ビクトリア)あの….私の両親はアメリカ国籍ですけど,私は日本で育ったので日本語で大丈夫です.
萌)ああ,よかった.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・20 疾患別リハビリ・運動療法の実際

認知症 軽度認知障害(MCI)

著者: 上月正博

ページ範囲:P.762 - P.769

 厚生労働省の発表によると,2012年時点での65歳以上の高齢者3,079万人のうち,Alzheimer型認知症,Lewy小体型認知症,血管性認知症,前頭側頭型認知症などの認知症患者数は約462万人,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)者は約400万人と報告されている1).加齢とともに認知症の割合は増加し(図1)2),2025年には認知症患者は700万人に著増するとされている2).認知症の早期発見・早期診断とその進行を止める根本治療法の開発が望まれる一方で,医療従事者に限らずすべての人が社会全体で認知症の人を支えてゆくような仕組み作りが求められている.今回は,認知症患者およびMCI者に対するリハビリテーション(以下,リハビリ)について解説する.

医学古書を紐解く・4

誰も気づかなかった変形性脊椎症,関節リウマチの骨破壊機序—Resnick D, Niwayama G『Diagnosis of Bone and Joint Disorders』

著者: 仲田和正

ページ範囲:P.770 - P.773

 『Diagnosis of Bone and Joint Disorders』は,私が研修医2年目に読んで知的大興奮を覚えた本である.当時3冊1組と非常に分厚く,疲れたときはそのまま枕にもなる大変便利な(?)本であった.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・23

手と足が動かしづらい! 脳梗塞? 脊髄の臨床②/脊髄梗塞の診断とピットフォール

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.774 - P.779

 臨床の現場では,麻痺があるとどうしてもイメージしやすい頭蓋内病変を探してしまいます.しかし,病歴や診察所見で手がかりがあれば,脊髄疾患に最初からアプローチすることも可能かもしれません.特に疾患の急性期に脊髄疾患を推定し,狙いを絞って画像で一発診断することはなかなか難しいこともあります.今回は,臨床でもよく遭遇する脊髄疾患を交え,病巣へアプローチしていきます.

目でみるトレーニング

問題1051・1052・1053

著者: 岩崎靖 ,   玉野井徹彦 ,   小島俊輔

ページ範囲:P.780 - P.785

書評

—木村 琢磨 著—《ジェネラリストBOOKS》—高齢者診療の極意

著者: 松村真司

ページ範囲:P.665 - P.665

 「お前は日本人なのに,クロサワを観たことがないのか?」
 留学先の大学院の教室の片隅で,アジアの小国からやってきた友人に当時私が言われた言葉である.動画配信など,ない時代.レンタルビデオ屋から代表作を借り,週末ごとに観た.『用心棒』『七人の侍』『天国と地獄』.衝撃的な面白さであった.いや,面白いだけではない.「生きるとは」「人間とは」といった私たちの根源的な問いに向き合った作品.黒澤映画の偉大さを教えてくれたその友人に後日感謝の念を伝えると,彼は続けてこう言った.

—上田 剛士 監修 吉川 聡司 執筆—ジェネラリストと学ぶ 総合画像診断—臨床に生かす!画像の読み方・考え方

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.711 - P.711

 画像診断は,現代の医療にとってますます重要な位置にいることは論をまたないであろう.ラエネックに象徴される19世紀の医師は,身体診察をていねいにとり,死後の解剖所見との対比により疾病をどのように生前に診断するかということを極めようとしていた.20世紀に入ると,臨床検査部の整備とともに生体の物質の変化を化学的に検証することで診断をより正確にしようとした.そして1980年代から診療現場に登場するCTやMRIは,身体診察や臨床検査では捉えられなかった,体の深部に起こる解剖学的変化を捉えるという画期的な技術により生前に病気を可視化した.どれも診断に欠かせない要素であろう.
 一方,画像診断はこれほど臨床現場で重要とされている割に,どれほどの医師が専門的な読影トレーニングをしているのだろうか.医学部の授業ではカバーできるはずのない画像診断の深い世界は,現場では放射線科医の読影レポートと対比することでしかフィードバックされないはずだ.しかも多くの研修医はレポートだけで,オリジナルの画像を読まないのではないか.私は2年次から3年次にかけて9カ月間の放射線科ローテーションを志願し,20年以上も自分でオリジナルの画像を自身で仮診断し,放射線科医のレポートと対比しながら自分の読影スキルを磨いてきた.これがいかに病態の理解に役立ったかということは身に染みて感じており,すべての研修医が放射線科を研修すべきではないかという自説さえもっているが,昨今の研修の選択の自由度のなさからは無理な話である.

—蝦名 玲子 著—公衆衛生の緊急事態にまちの医療者が知っておきたいリスクコミュニケーション

著者: 阿南英明

ページ範囲:P.741 - P.741

 本書の題名を見たときに,「公衆衛生」「緊急事態」「リスクコミュニケーション」という言葉から,日常診療に携わる皆さんには縁遠さや抵抗感を覚えたかもしれない.この3年間の新型コロナウイルス感染症対応で,もう緊急事態なんてこりごりだと思っている方も多いかもしれない.でも,本書を読み終えたとき,なぜ著者が「まちの医療者」を対象にしていたのか気付かされるのである.「日常診療で日々行ってきた業務はリスクコミュニケーションそのものだった!」と驚きとともに心に刺さることだろう.
 私自身は病院の管理者として,また行政において新型コロナ保健医療施策の立案,運営の指揮に携わる立場として本書を読み始めた.改めてリスクコミュニケーションの理論的背景や標準的対応と実践を体系的に学ぶ最高のテキストに出合えたと思った.これは数か月間かけて学校のプログラムとして学んだら,さぞ面白い思考回路ができ上がるのではないだろうか.私は一般的な医学教育を修めた後に,臨床現場での経験,災害・危機管理対応のトレーニングと実践を経て今に至っているが,もっと早く本書に出合っていたら,この3年間の新型コロナウイルス感染症対応でも,もっと違うアプローチをしていたのかもしれないと思う.行政,医療福祉,産業保健など,さまざまな立場で本書に触れたときに「あの時のことだ」「なるほど心当たりあるなあ」「確かに……」と思わず,うなずいている自分がいることだろう.本書を読み始めると導入部で,少々難しい理論や概念,用語だと感じる項目から書かれていると感じる.著者もこの点は承知していて,ページをめくって最初に「本書の読み方」が書いてある.Part1から読むことに拘らず,目下の課題や困りごとに近い項目や目次から見つけて読む方法も提示しているのだ.私から読者の皆さんにあえてお勧めするもう1つの方法は,あまり身構えずに,小説を読むように最初から気楽に通読することである.一見厚い本だが新型コロナウイルス感染症や福島原発事故など実例を挙げて,同じ事象を章ごとに異なる切り口で繰り返し,リスクコミュニケーション手法を説明しているので,自然に内容が理解できるようになっていく.なんといっても手にマーカーペンを持って重要な部位に線を引くという勉強スタイルが不要なのだ.なぜなら,事前に著者が重要部位に青のマーカーをつけてくれている.ニクイ演出ではないか!

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目次

ページ範囲:P.630 - P.632

読者アンケート

ページ範囲:P.787 - P.787

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.788 - P.789

購読申し込み書

ページ範囲:P.790 - P.790

次号予告

ページ範囲:P.791 - P.791

奥付

ページ範囲:P.792 - P.792

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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59巻6号(2022年5月発行)

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59巻5号(2022年4月発行)

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56巻12号(2019年11月発行)

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56巻11号(2019年10月発行)

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56巻10号(2019年9月発行)

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56巻9号(2019年8月発行)

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56巻7号(2019年6月発行)

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56巻6号(2019年5月発行)

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56巻5号(2019年4月発行)

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56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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