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雑誌目次

雑誌文献

medicina60巻6号

2023年05月発行

雑誌目次

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

著者: 矢吹拓 ,   山本祐 ,   青島周一

ページ範囲:P.802 - P.803

 昭和時代に若かりし頃を過ごした皆様は「ゲームブック」なるものを覚えているでしょうか.「ゲームブック」は,読者の選択によってストーリー展開や結末が変わるロールプレイングゲームのような本で,順番にページをめくって読み進めていくのではなく,読者自らの選択やサイコロの目によって指定されたページに飛ぶことで物語が進行していくものです.辿っていく道のりや結末が選択によって異なるため,パラレルワールドさながらに違ったストーリーを何度も楽しむことができ,胸躍らせながら繰り返し読んだことを覚えています.
 日々の臨床はもちろんゲームとは全く異なるものですし,比較してはいけないものとは思いますが,同じ疾患や病態でも,その診断や治療選択肢,治療アウトカムは実に多彩で,その都度違った経過を辿る可能性があるという意味ではゲームブックを思わせます.実は教科書や診療ガイドラインで提示されているような一般的な経過になることのほうが少なく,治療による有害事象やアレルギーなどによって,第一選択となる治療が実践できないことや,治療に対する経過がさまざまであるために,明確なエビデンスがない治療方針を選択せざるを得ないこともしばしばあります.

CASE 1 高血圧—2型糖尿病の既往がある62歳男性

著者: 矢吹拓 ,   青島周一

ページ範囲:P.804 - P.809

62歳男性
現病歴 2型糖尿病の既往がある62歳男性.先月の外来受診時における血圧は154/92mmHgであった.しかし,今月の診察室血圧も158/102mmHgと引き続き高値を認めた.明確な自覚症状はなく,食事療法は塩分制限も含めて毎回受診時に管理栄養士による栄養指導を受けている.ただし,20代の頃から味の濃い食事を好んでおり,食事内容について一定の配慮はしている様子は伺えたものの,食事内容の是正が適切に行われているかは不明である.また,生活リズムが不規則であり,昼食は外食の機会が多く,夕食はコンビニエンスストアの加工食品で済ますことが多いという.

CASE 2 心房細動—昨日から動悸を強く感じ診療所を受診した75歳男性

著者: 小田倉弘典

ページ範囲:P.810 - P.815

75歳男性
現病歴・既往歴 約半年前から時に数分程度の動悸を感じていた.昨日から動悸を強く感じるとのことで診療所を受診した.息切れは自覚していない.受診時に脈を取ったところ不整を認めた.高血圧症で他院に通院歴があり,3,4年前から通院を中止していた.1年前の健診時には心電図異常は指摘されていない.

CASE 3 慢性心不全—高血圧症,脂質異常症の既往のある,糖尿病の既往のない65歳男性

著者: 官澤洋平

ページ範囲:P.816 - P.822

65歳男性
現病歴・既往歴 高血圧症,脂質異常症の既往のある65歳男性.半年前に高血圧による急性非代償性心不全で入院し,心不全と診断された.左室の壁運動低下はなく肥満,高血圧が急性心不全の原因と考えられた.慢性心不全のフォローアップのため外来受診した.

CASE 4 COPD—重喫煙歴がある73歳男性

著者: 倉原優

ページ範囲:P.824 - P.829

73歳男性
現病歴 数年前から息切れがあったが病院を受診していない.衣服を着替えるだけで息切れを感じるようになり(修正MRC息切れスケールグレード4),自宅に閉じこもりがちになったため来院した.過去数年間で救急受診・入院歴はない.

CASE 5 逆流性食道炎—のどのつかえ感と胸痛を主訴に来院した41歳男性

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.830 - P.835

41歳男性
現病歴 のどのつかえ感と胸痛を主訴に来院した.2カ月前からときどきのどのつかえ感を自覚していた.1カ月前から,月に3〜4回ほど,食後に胸痛を自覚するようになったため,内科外来を受診した.食欲不振や体重減少はなく,胸痛時に冷汗や嘔吐もない.

CASE 6 便秘—便秘症状を訴える42歳女性

著者: 三原弘

ページ範囲:P.836 - P.841

42歳女性
現病歴 便秘症状を訴えて,予約外受診した.市販の下剤を内服しているが,効果がみられないという.大腸がん検診は毎年受診しており,今年も便潜血陰性であった.

CASE 7 尿路感染症—受診当日からの排尿時痛で外来を受診した25歳女性

著者: 長野広之

ページ範囲:P.842 - P.847

25歳女性
現病歴 受診当日からの排尿時痛で外来を受診した.排尿時痛以外にも残尿感や頻尿を認めている.以前も同様のエピソードが一度あるが,その際は自然に改善した.体熱感や悪寒戦慄,帯下の変化は認めていない.

CASE 8 帯状疱疹—昨日の夜間より左前胸部痛が出現した72歳男性

著者: 鋪野紀好

ページ範囲:P.848 - P.853

72歳男性
現病歴 昨日の夜間より左前胸部痛が出現した.安静にして休んでいたが,その後も痛みが持続した.冷汗,悪心・嘔吐,呼吸困難など,左前胸部痛以外の自覚症状は認めない.痛みが続くため,自宅にあったロキソプロフェン(ロキソニン®)を内服したところ,痛みは緩和しそのまま就眠した.しかしながら起床時にも左前胸部痛があることを自覚し,当院を受診した.来院時も痛みが持続している.

CASE 9 慢性腎臓病—半年前から糖尿病,CKDで通院している60歳男性

著者: 柴﨑俊一

ページ範囲:P.854 - P.859

60歳男性
現病歴 診察室血圧138/94mmHgであり,自宅血圧も同様の値で推移していた.

CASE 10 認知症—物忘れを主訴とする76歳女性

著者: 田丸聡子 ,   原田拓

ページ範囲:P.860 - P.865

76歳女性
主訴 物忘れ.

CASE 11 片頭痛—片側性の悪心を伴う拍動性の頭痛を訴える45歳女性

著者: 吉田花圭 ,   家研也

ページ範囲:P.866 - P.872

45歳女性
現病歴 20代の頃から月に1回程度の頭痛があり,市販の頭痛薬を頓用して様子をみていた.頭痛は片側性の悪心を伴う拍動性の頭痛で,2日程度で消失していた.頭痛の性状は変わらないが,最近頻度が増え,月に4〜5回程度となった.閃輝暗点を疑うような前兆があり,悪心と光過敏・音過敏を伴っている.頭痛がひどいときは体動困難で仕事を休むこともあり,日常生活に支障を感じている.月経周期との関連はなく,発作時に脱力や麻痺,めまい,耳鳴り,アロディニアなどの症状は伴わない.数日前にかかりつけ医を受診し頭部MRIを施行したが,異常はなかった.ナプロキセン(ナイキサン®)を処方されたが,頭痛頻度や症状の改善が乏しかったため,当院を受診した.

CASE 12 糖尿病—2型糖尿病での内服治療継続が難しくなってきた76歳女性

著者: 小比賀美香子 ,   本多寛之

ページ範囲:P.874 - P.880

76歳女性
現病歴 55歳頃,2型糖尿病を発症.単純糖尿病網膜症,糖尿病腎症第1期,糖尿病神経障害あり.大血管障害なし.軽度認知障害あり.高齢のためA総合病院への通院が難しくなったとのことで,自宅に近い当院に紹介となった.隣町に住む長女に付き添われて来院.

CASE 13 甲状腺機能低下症—発熱,湿性咳嗽,膿性喀痰が出現した72歳女性

著者: 荻原理子 ,   家研也

ページ範囲:P.882 - P.887

72歳女性
現病歴 数カ月前から軽度の易疲労感を自覚するようになったため,補中益気湯(ほちゅうえっきとう)3包を処方され,次回受診時にスクリーニングとして血液検査をする予定になっていた.来院4日ほど前から発熱,湿性咳嗽,膿性喀痰が出現し,市販の対症療法薬で経過をみていたが症状が改善せず,定期受診日に合わせてかかりつけ医を受診した.

CASE 14 高尿酸血症—生来健康な41歳男性

著者: 矢吹拓 ,   青島周一

ページ範囲:P.888 - P.892

41歳男性
現病歴 生来健康.昨年,職場の人間ドックで尿酸高値を指摘されたものの,気になる自覚症状などはなく医療機関を受診することはなかった.また,5年ほど前に脂肪肝の指摘を受けたこともあったが,それ以外に健康上の問題はなく,医療機関を利用することはほとんどない.

CASE 15 脂質異常症—脂質異常症と糖尿病の治療を希望して来院した62歳男性

著者: 山本祐

ページ範囲:P.894 - P.898

62歳男性
現病歴 40代から健康診断で脂質異常を指摘されていたがそのままにしていた.6カ月前の健康診断でLDL 192 mg/dL,トリグリセリド360 mg/dLの脂質異常とともに,これまで指摘されたことがないHbA1c 7.0%も指摘されたため,他院を受診した.食事指導を受けて間食をやめ,生活改善に取り組んでいた.1週間前に友人が脳梗塞で入院したことを受け,妻から将来の病気が心配なため内服治療を受けるように強く勧められ,脂質異常症と糖尿病の治療を希望して来院した.

CASE 16 骨粗鬆症—市中肺炎で入院した85歳女性

著者: 島田侑祐 ,   原田拓

ページ範囲:P.900 - P.904

85歳女性
現病歴 散歩が趣味で,独歩できている元気な85歳女性.市中肺炎で当院総合内科へ入院した.肺炎治療自体は5日間で終了した.ADLの低下はみられず,外来フォローの方針としてヘルスメンテナンス項目を見直していたところ,入院時の画像検査で腰椎L1の陳旧性椎体圧迫骨折がみられた.これまで外傷歴はなく,脆弱性骨折だと考えられたため,骨粗鬆症の治療について考えることにした.

CASE 17 鉄欠乏性貧血—職場の健康診断で貧血を指摘され来院した38歳女性

著者: 山本祐

ページ範囲:P.906 - P.910

38歳女性
現病歴 20代から健康診断で貧血を指摘されていたが,自覚症状がないためそのままにしていた.3カ月前の健康診断でも同様の指摘があり,1カ月前から疲れやすくなったため受診した.食欲不振や体重減少,悪心,嘔吐,腹痛,下痢,黒色便,血便,および不正性器出血はない.

CASE 18 アレルギー性鼻炎—生来健康な32歳男性

著者: 中山梨絵 ,   正木克宜 ,   若林健一郎

ページ範囲:P.912 - P.918

32歳男性
現病歴 生来健康,特記すべき既往歴や内服薬はない.数年前から2〜4月にかけて鼻汁,鼻閉,くしゃみ,眼のかゆみが出現する.他の季節にはこれらの症状は出現しない.これまでは薬局で抗アレルギー薬や点鼻薬を購入して対応していたが,風が強い日などには症状が残ってしまうことも多かった.今年も2月末から症状が出始め,3月に入ったところで症状が増悪傾向のため,原因検索と治療を希望し近医の内科診療所を受診した.

CASE 19 偽痛風(CPPD症)—腎機能障害があり関節症状が持続している67歳男性

著者: 宍戸諒平 ,   鵜木友都

ページ範囲:P.920 - P.926

67歳男性
現病歴 X−3日から特に誘引なく右膝関節,右足関節,左手関節の痛みが出現した.X−2日に近医受診し,ロキソプロフェン(ロキソニン® 錠)60 mg 1回1錠1日3回とレバミピド(ムコスタ® 錠)100 mg 1回1錠1日3回の処方を受け内服していた.痛みが強く,食事や飲水の量は普段の半分以下に減少していた.X日に再度近医を受診し,関節症状はやや改善していたが,採血検査で腎機能の悪化があった.腎機能障害があり,関節症状が持続しているため当院へ紹介となり,同日入院となった.

CASE 20 不眠症—「眠れないのを何とかしてほしい」と訴える72歳女性

著者: 田宗秀隆

ページ範囲:P.928 - P.933

72歳女性
現病歴 X−2年,新型コロナウイルス感染症が流行し,楽しみにしていた観劇ができなくなった.当初は友人と頻繁に電話をしていたが,SNSの操作が苦手で徐々に友人との連絡が少なくなり,自宅に閉居がちとなった.同年,体重が5 kg増加し,近医Aで2型糖尿病と診断され,メトホルミン(メトグルコ®)の処方が開始された.ほどなくして葉酸(フォリアミン®)の処方も開始された.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・14

—お腹が膨満している その7—肝硬変のフィジカル—各論2 多彩なフィジカルを押さえよう!

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.793 - P.796

 前回は,Cruveilhier-Baumgarten murmurs(C-B murmurs)をご紹介しました.背景肝の線維化が強く,門脈圧が亢進している患者さんでみられ,聴診器で連続性雑音が聴取できるのがポイントでした.今回は,胸壁(前胸部),爪,手,下肢に注目して,肝硬変のフィジカルを紹介していきます.
 前回も述べた通り,肝硬変は内科医が診る疾患です.したがって,「フィジカルが潤沢!」なのです.患者さんが自分から病歴を語らずとも,パッと視てわかるフィジカルから肝硬変の存在を疑うことができるのも,肝硬変診療の醍醐味であると感じています.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・24

足がしびれる! 脳梗塞? 脊髄の臨床③神経根症の症状その1/腰部神経根症の病歴と診察法

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.934 - P.939

 足のしびれをきたす疾患は,腰椎椎間板ヘルニアから末梢神経障害まで多岐にわたります.腰部MRIを撮影した人のうち30%が,画像上は椎間板ヘルニアに罹患していると言われています.そのため,MRI撮影のみでしびれを診察すると誤診のリスクが高くなります.画像のみの診察が流行る昨今,診断能力向上のため病歴・身体所見・画像所見の一致ができるように,日々トレーニングしていく必要があります.それでは,比較的よく遭遇する神経根症について検討していきましょう!

目でみるトレーニング

問題1054・1055・1056

著者: 北井勇也 ,   友田義崇 ,   鈴木智晴

ページ範囲:P.940 - P.945

明日から主治医! 外国人診療のススメ・2

在日ベトナム人と医療:ベトナム人を診よう

著者: 橋本理生

ページ範囲:P.946 - P.949

 筆者は大学生の頃からベトナムと縁があり,日本人の医師だがベトナム語で診察でき,日頃ベトナム語での学会発表なども行っている.専門は呼吸器内科で,普段は比較的外国人の患者が多く来がちな病院に勤務している.数年前からは週末に外勤として外国人の患者がほとんどの総合診療内科外来をする貴重な機会があり,時折ベトナム人の患者に「先生は日本語が上手ですね」と言われる.なお本稿は国際協力・技術指導の類で短期出張のため,羽田発ハノイ行きの飛行機の中で書いている.

ERの片隅で・2

シビれるしびれの問診

著者: 関根一朗

ページ範囲:P.950 - P.951

 日曜の朝、窓の外が明るくなってきた頃、ER内で救急搬送を告げるアナウンスが流れた。「10分後、救急車入ります。75歳女性、左手指しびれ。特に誘因なく左手指しびれが出現し、救急要請。麻痺や構音障害なし。バイタルサインは…」
 救急隊からホットラインで伝えられた傷病者情報の記載用紙を見た研修医は「しびれだけか…、頸椎症か手根管症候群かなぁ」とつぶやいている。

医学古書を紐解く・5

Philologyのすすめ—中島文雄『英語学とは何か』,渡部昇一『古語俗解』,Nuck A.『Adenographia Curiosa et Uteri Foeminei Anatome Nova』

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.952 - P.953

Philologyと総合診療
 私が古書を読んだり,集めたりする背景には「何かを知りたい」という動機がある.“philology”という言葉はあまり馴染みがないかもしれないが,日本語では“文献学”と訳される.英語学者の渡部昇一先生は『小論集成』の中で「学問における文献学とは“Ad Fontes”である」と記述している1).Fontesというのはラテン語で“泉”という言葉の複数形で,Ad Fontesというのは「源泉を辿っていく」「オリジナルを探っていく」といった意味になる.ちなみに渡部先生は同じく英語学者の中島文雄先生による『英語学とは何か』という本の序文を書いているのだが,その内容が医師にも通じるところがあって興味深いので紹介したい2)
 まず「専門を選ぶということは,どうしても領域を狭くしなければいけない」という記載がある.これは医師であれば共感できると思われるが,渡部先生はそれを解決する手段として,文献学的なアプローチが大事なのではないかと指摘し,「文献学者は自身の専門学科において一流でなければならない一方で,他の学問においても二流すなわちBetaでなければならない」という昔の文献学者の言葉を紹介している.私は感染症を専門にしようと努力してきたが,総合診療医として,感染症以外の領域もできるだけBetaを目指す心意気でこれまでやってきたので,この言葉には大いに感じるところがあった.

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・21 疾患別リハビリ・運動療法の実際

肩痛

著者: 上月正博

ページ範囲:P.954 - P.959

 肩痛を起こす主な原因疾患は肩関節周囲炎である.肩関節周囲炎は中高年で退行変性を基盤とし,肩関節の疼痛と関節可動域(ROM)制限を生じ,拘縮しやすい疾患の総称である.「凍結肩」「五十肩」とも呼ばれる.画像所見では明らかな異常はない.
 肩関節周囲炎の病期は,炎症期(freezing phase),拘縮期(frozen phase),回復期(thawing phase)に分類される.肩関節周囲炎による疼痛の原因には,腱板疎部の癒着,肩峰下圧の上昇,関節周囲の血流低下などがある.炎症期には関節包の伸張性が低下し容積が縮小し,関節内圧が上昇して運動時痛や安静時痛(夜間痛)が惹起され,疼痛のために自動運動が制限される.拘縮期には次第に滑液包,靱帯,腱板疎部,関節腔などで癒着が生じてROM制限をきたす一方,疼痛は軽減していく.回復期には疼痛やROM制限は改善するが,長期間(6カ月〜約2年)を要する.今回は,肩関節周囲炎に対するリハビリテーション(以下,リハビリ)・運動療法について解説する.

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「ERアップデート2023 in 沖縄」開催のご案内

ページ範囲:P.809 - P.809

書評

—大塚 篤司 編—まるごとアトピー—アトピー性皮膚炎の病態から最新薬剤,患者コミュニケーションまで

著者: 市原真

ページ範囲:P.893 - P.893

注:この書評にはファイナルファンタジーX-2の重大なネタバレが含まれます.
 『まるごとアトピー』を読んだ.読後感は「全クリ」に近い.単にボスを倒してエンディングを見たときの感動に留まらず,サブエピ,やりこみ要素,追加DLCなどを含め,ゲームソフトの全コンテンツをコンプリートしたときのそれだ.ファイナルファンタジーX-2(FFX-2)に例えると,ティーダが生き返るトゥルーエンディングまで見たときの気持ち.われながらわかりやすい喩えだ.

—加藤 実 著—子どもの「痛み」がわかる本—はじめて学ぶ慢性痛診療

著者: 倉澤茂樹

ページ範囲:P.905 - P.905

 感覚過敏や鈍麻など,臨床を通じ肌身でとらえた子どもの感覚世界を,子どもの代弁者となり保護者や多職種に伝えることの重要性を実感している.本書を読み終え,著者である加藤実先生に勝手ながら妙な親近感を覚えた.長年にわたり子どもたちの痛みと向き合ってきた臨床家としての経験知,そしてエビデンスを重視する研究者としての姿勢に共感したのである.
 子どもの痛み体験は,身体的反応だけでなく,不安や恐怖など情動体験として認知形成され,長期的な影響も引き起こす.この事実はわが国の児童・思春期医療において十分に認識されていない.処置時の痛みは「一瞬だから」と軽視され,「そのうち慣れる」と放置されることも少なくない.リハビリテーションに携わるセラピストも例外ではない.新生児集中治療室ではカテーテルやモニター機器が装着され,臓器発達の未熟な新生児は動くことにさえ苦痛を伴うだろう.術後早期から開始されるリハビリテーションにおいて“機能回復”を優先するあまり,痛みを蔑ろにしていないだろうか? エビデンスとともに示される事実によって,われわれセラピストは内省する機会を得るだろう.

—向川原 充,金城 光代 著—トップジャーナルへの掲載を叶える—ケースレポート執筆法

著者: 廣澤孝信

ページ範囲:P.919 - P.919

 臨床のベッドサイドにはさまざまな学びがあります.しかし多くの場合,日常診療の多忙さから学術的なアウトプットとしての集合知よりも,無意識も含む現場レベルの経験として蓄積される場合が多いのではないでしょうか.ケースレポート(症例報告)のエビデンスレベルは必ずしも高くはありません.また,多忙な臨床業務の合間にアウトプットとして形にするのは決して容易なことではないでしょう.しかし本書でも述べられている通り,ケースレポートには執筆を通じて疾患の理解を深め,自らの臨床能力を高められる意義があります.アクセプトされれば学びを読者と共有でき,報告した症例の重要性を再認識させてくれることでしょう.
 評者は,大学の総合診療科に所属する医師として,医学生から後輩,同僚までさまざまなレベルの方々の相談を受けたり指導したりする立場にあり,ケースレポートの執筆や発表もコラボレーションしてきました.こうした経験から,ケースレポートを書くための着想を得る時点から,執筆,投稿,受理までの全体の流れを示して伝える難しさを感じていました.その全体像を見事に示してくれるのが本書です.例えば,臨床経験と執筆経験を「2×2」で図式化して,執筆スケジュールを例示した図をはじめ,数々の掲載図によって,頭で漠然と考えている内容が明快に図式化・言語化されるので,とても役に立ちます.

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目次

ページ範囲:P.798 - P.800

読者アンケート

ページ範囲:P.961 - P.961

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.962 - P.963

購読申し込み書

ページ範囲:P.964 - P.964

次号予告

ページ範囲:P.965 - P.965

奥付

ページ範囲:P.966 - P.966

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

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59巻11号(2022年10月発行)

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59巻9号(2022年8月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

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59巻6号(2022年5月発行)

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59巻5号(2022年4月発行)

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59巻4号(2022年4月発行)

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59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

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56巻12号(2019年11月発行)

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56巻11号(2019年10月発行)

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56巻10号(2019年9月発行)

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56巻9号(2019年8月発行)

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56巻8号(2019年7月発行)

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56巻5号(2019年4月発行)

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56巻4号(2019年4月発行)

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56巻2号(2019年2月発行)

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56巻1号(2019年1月発行)

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55巻13号(2018年12月発行)

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55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

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55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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