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雑誌目次

雑誌文献

medicina60巻8号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

著者: 龍華章裕

ページ範囲:P.1184 - P.1185

 体液量異常の診断は経験を積み重ねても難しいと感じることが多いです.例えば浮腫.浮腫は原因が多岐にわたることや,身体所見・検査結果いずれも特異度が高いものは少なく,なかなか確定的に物事を語ることができません.自分の体験談で恐縮ですが,筆者が腎臓内科医になり腎不全症例を診療するようになって最初に抱いた疑問は,「腎不全症例のなかでも浮腫のコントロールにかなり苦労する症例もいれば,まったく浮腫が生じない症例もいるが,その違いは何か?」というものでした.患者さんの病態をしっかりと理解できていないので,目の前の浮腫のある症例に,利尿薬を出すべきなのか,食塩制限をすればよいのか,他の浮腫性疾患の合併を考えるべきなのか,まったく方針をつけることができず困ることが多かったのです.
 浮腫は食塩摂取量過剰で説明されることが多いですが,食塩を摂取すればレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は抑制されて尿中ナトリウム(Na)排泄は増えるわけで,そんなに単純な話ではない気がしたのです.もっとも,浮腫に対して食塩制限が重要であるという考えを否定するものではありません.後に,蛋白尿そのものが尿細管でのNa再吸収を亢進させることを勉強し,当たり前のことなのですが蛋白尿の存在を重要視するようになりました.つまり,浮腫を認める腎不全症例でも,蛋白尿が出ていない場合には,浮腫を起こすような他の要素を考慮するようになり,浮腫の症例に対して,短絡的に「利尿薬処方」とせず,利尿薬を処方しなければならないような体内の病態生理を検索するようになり,常にうまくいくわけではなく困ることも多いのですが,心臓弁膜症や,近年問題になっているCa拮抗薬の処方カスケードなどにも気づきやすくなったように思います.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.1186 - P.1189

●今月の特集執筆陣による出題です.体液量異常に関する理解度をチェックしてみましょう!

体液量異常の診断

浮腫の鑑別診断

著者: 永瀬宏哉 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.1190 - P.1194

Point
◎浮腫とは細胞外液分画中の間質液量の増加が触知可能な状態である.
◎浮腫の鑑別診断の進め方としては,①まず緊急を要する疾患を想起し,②次に局在に基づいて鑑別を進めていく方法がある.
◎浮腫は必ずしも利尿薬が必要な状態ではないと認識し,原因疾患発見の手がかりであると考えるべきである.
◎浮腫に対する利尿薬使用が有害となる場合があるので注意する.

浮腫の性状から疾患を予測できる? 浮腫のフィジカル

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.1196 - P.1200

Point
◎浮腫(edema)の原因はさまざまだが,患者の語る病歴,視診と触診からある程度浮腫の原因は類推できる.
◎全身性浮腫の場合,血管内容量,pitting/non-pitting edema,fast/slow edemaを中心に評価するとよい.
◎一般に,浮腫は下腿脛骨前面で診るが,入院中の長期臥床の患者では背部や仙骨部(sacral edema)も確認すべきである.

浮腫の病態生理

著者: 門多のぞみ ,   長浜正彦

ページ範囲:P.1202 - P.1205

Point
◎細胞外液浮腫は毛細血管濾過量の過剰により起こる.
◎毛細血管濾過量は,①毛細血管壁の透過性の増加,②毛細血管静水圧の上昇,③間質液静水圧の低下,④毛細血管内の血漿硬質浸透圧の低下,⑤間質液膠質浸透圧の上昇,により増加する.
◎リンパ浮腫はリンパ管の機能不全により生じ,感染や外科手術が原因となる.
◎浮腫を防ぐ安全因子として間質液静水圧,間質の膠質浸透圧が関与している.

輸液をすれば終了? 脱水の鑑別診断

著者: 加藤規利

ページ範囲:P.1206 - P.1209

Point
◎脱水とは細胞外液量の欠乏した状態を指す.
◎体内の水分は体重の約60%を占め,40%が細胞内液,20%が細胞外液となる.輸液を行うのは細胞外液のうちの,1/3を占める血管内に行うことになる(血漿としては1/4).
◎脱水には3つのタイプがあり,血清Na濃度やその他の電解質濃度,尿張度,体重の変化やバイタルサインなどを参考に,治療中も脱水補正速度,輸液の種類を再検討する.

脱水のフィジカル

著者: 樋口大

ページ範囲:P.1210 - P.1215

Point
◎脱水症は,臨床経過や複数の身体所見から総合的に判断する.
◎身体評価は,口腔内と腋窩の乾燥,皮膚ツルゴール,眼窩の陥没,毛細血管再充満時間(CRT)を確認する.
◎判断に迷う際は,エコー,血液検査,輸液負荷試験,受動的下肢挙上を行い,総合的に判断する.
◎起立性低血圧を疑った際は,発症時の状況を確認し,服薬歴,循環血液量,基礎疾患を確認する.
◎起立性低血圧を疑った際は,起立試験による評価を行う.

脱水症の病態生理

著者: 佐藤菜摘美 ,   谷澤雅彦

ページ範囲:P.1216 - P.1218

Point
◎体の約60%は水分(体液)で細胞内液:間質液:血漿=8:3:1の関係が成り立つ.
◎脱水症には細胞外液量の欠乏(volume depletion),細胞内液量の欠乏(dehydration)の2通りがある.
◎細胞外脱水(volume depletion)と細胞内脱水(dehydration)では生じる症状が異なり,前者は循環不全症状,後者は神経精神症状であるが,両者の混在も起こりうる.
◎細胞外/内液のどちらが欠乏しているかを判断し,それぞれが補充されるよう適切な輸液を選ぶ必要がある.

体液量異常の診断に役立つエコー活用術

著者: 金原佑樹

ページ範囲:P.1220 - P.1224

Point
◎超音波検査による下大静脈(IVC)の評価手順は短軸像→長軸像→測定と呼吸性変動である.
◎IVCの著明な拡張または虚脱がみられる場合,体液量が推測しやすい.
◎超音波検査による頸静脈評価は右心房圧の推定に有用である.
◎CT検査直後はIVCもチェックする.

体液量異常の診断に役立つ検査

著者: 廣瀬知人

ページ範囲:P.1226 - P.1229

Point
◎体液量増加に対しては,hANP,BNP,NT-proBNPを参考に評価する.
◎体液量減少では,BUN/Cr比,尿酸,尿Na,FENa,代謝性アルカローシス,尿Clなどを参考に評価する.
◎検査のみでの体液量評価は限界があり,他の所見や臨床情報との総合的な判断が必要である.

プライマリ・ケア医が知っておくべき心エコー所見

著者: 山下健太郎

ページ範囲:P.1230 - P.1234

Point
◎心エコーの情報量は膨大であり,心エコーを行う前に心雑音などの他の検査結果から心疾患を想定し,検査前確率を上げることは重要である.
◎どのような部位に左室壁運動異常があるのかは,疾患ごとに特徴がある.
◎弁膜疾患ごとに判定の視点が異なる.
◎心疾患と浮腫の関連は心エコーのみでは断定できず,総合的に鑑別を進めていくことが重要である.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月31日まで公開)。

浮腫をきたす疾患の診断とそのマネジメント

心不全における体液量異常の病態とそのマネジメント

著者: 中野雄介 ,   安藤博彦

ページ範囲:P.1236 - P.1241

Point
◎心不全で主に目にするうっ血は,体液貯留型と体液再分布型に分けることができる.
◎体液貯留型では心収縮力の緩徐な低下がベースとなり,総体液量が増加している.
◎体液再分布型では主に拡張機能障害がベースとなり,体液分布が問題となる.
◎収縮期血圧から病態を簡便に把握し,速やかに初期治療に移行するためのクリニカルシナリオを用いたアルゴリズムが提唱されている.

腎疾患による浮腫のメカニズムとマネジメント

著者: 浅野麻里奈

ページ範囲:P.1242 - P.1247

Point
◎浮腫を伴う腎疾患の患者の診療をする際には,血圧などの循環血液量の指標を丁寧に観察し治療方針を決定する.
◎ループ利尿薬を開始する際は,利尿閾値に到達するよう,十分なボーラス投与を行う.
◎十分量のループ利尿薬の投与を行っても効果不十分な際は,他の利尿薬を併用する.
◎薬物療法に反応せず,急性腎障害(AKI)を呈し,体液過剰状態がコントロールできない場合には,血液浄化療法にて除水を行う.

肝硬変による浮腫のメカニズムとマネジメント

著者: 伊藤隆徳 ,   石上雅敏 ,   川嶋啓揮

ページ範囲:P.1248 - P.1252

Point
◎肝硬変に伴う腹水・浮腫の発症は,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の亢進とアルブミン低下が主な原因である.
◎肝性腹水・浮腫に対する利尿薬の第一選択薬はスピロノラクトンである.
◎スピロノラクトン・ループ利尿薬治療に抵抗性を示す肝性腹水患者には,腎機能が温存されている段階でのトルバプタンの導入を検討する.
◎本邦における肝腎症候群の治療には,ノルアドレナリンとアルブミン併用投与を行い,適応があれば肝移植を検討する.

甲状腺疾患による浮腫のメカニズムとマネジメント

著者: 富永隆史

ページ範囲:P.1253 - P.1256

Point
◎甲状腺機能の評価は,機械的な数値判断のみで行うことは難しい.可能な範囲で,甲状腺の器質的異常,背景,臨床経過,投薬状況などを確認し,総合的に判断することが望まれる.
◎甲状腺機能異常による浮腫は,non-pitting edemaだけでなく,pitting edemaも生じる.
◎甲状腺機能異常における細胞外液増加に対しては,機能正常化を目指しつつ,心拍出量の変化や,代償機構を考慮した管理が必要である.

薬剤性による浮腫

著者: 三林建太 ,   龍華章裕

ページ範囲:P.1258 - P.1261

Point
◎薬剤性浮腫はカルシウム拮抗薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で多いとされる.
◎日常診療でこれらの薬剤はよく処方されるため,内服がある場合は鑑別に挙げる必要がある.
◎新規にカルシウム拮抗薬が処方された高齢者は続いてループ利尿薬を処方されやすく,カルシウム拮抗薬→薬剤性浮腫→ループ利尿薬の処方カスケードが示唆されるため,注意が必要である.

ビタミンB1(チアミン)欠乏による浮腫

著者: 志水英明

ページ範囲:P.1262 - P.1266

Point
◎ビタミンB1欠乏のリスク因子として,アルコール多飲,栄養状態不良,利尿薬使用,透析患者が挙げられる.
◎心電図・心機能異常のない心不全,乳酸アシドーシスをみた際はビタミンB1欠乏を鑑別に入れる.
◎ビタミンB1欠乏による症状には,浮腫のほかWernicke脳症,Korsakoff症候群などがある.

リンパ浮腫の診断,予防と治療

著者: 北村薫

ページ範囲:P.1268 - P.1272

Point
◎リンパ浮腫は高蛋白の組織液が局所もしくは全身の組織間隙に停滞することによって生じる浮腫である.
◎わが国においては,ほとんどが乳がんや婦人科がん・泌尿器系がんなどの治療に関連して術後四肢に生じる続発性(二次性)リンパ浮腫である.
◎リンパ浮腫はひとたび発症すると慢性かつ進行性のため,早期発見・早期治療が重要である.
◎蜂窩織炎(感染症)と肥満はリンパ浮腫の発症因子かつ増悪因子であるため,予防・改善のための指導が必須である.
◎治療は弾性着衣・弾性包帯を用いた圧迫,圧迫下の運動など複合的治療が最も効果的である.

見逃してはいけない浮腫性疾患

著者: 坂本壮

ページ範囲:P.1274 - P.1277

Point
◎見た目ではなく“バイタルサイン”に重きを置くこと.そして,安静時のみのバイタルサインで判断しないこと.
◎見た目ではなく“痛みの程度”に重きを置くこと.

利尿薬の使い方と注意点

ループ利尿薬の使い方と注意点

著者: 山口真

ページ範囲:P.1279 - P.1285

Point
◎ループ利尿薬は,天井量“ceiling dose”を意識して使用することが重要である.
◎作用時間やバイオアベイラビリティの影響を鑑みて,ループ利尿薬の投与法を選択する.
◎心不全・腎不全におけるループ利尿薬の反応性の相違点を理解して使用する.

トルバプタンの使い方とその注意点

著者: 丑丸秀 ,   冨永直人

ページ範囲:P.1286 - P.1290

Point
◎トルバプタンの適応を十分検討したうえで,入院のもと,開始する.
◎トルバプタンの投与前後に尿量増加の程度,および血清ナトリウム(Na)濃度の絶対値およびその変化に関して,確認が必要である(特に,浸透圧性脱髄症候群の発症予防目的).
◎トルバプタンの効果に関する予測指標として確立したものはないが,尿浸透圧の低下は有用となり得る.

利尿薬抵抗性の病態とマネジメント

著者: 杉本俊郎

ページ範囲:P.1292 - P.1295

Point
◎利尿薬ブレーキ現象・post-diuretic sodium reabsorptionは生理的な反応であり,利尿薬抵抗性は臨床的概念である.
◎利尿薬抵抗性は,うっ血の悪化から予後不良につながる.
◎利尿薬抵抗性の克服には,利尿薬の薬物動態・薬物力学の理解が必要である.
◎近年,種々の新規利尿薬が使用可能となったが,うっ血・浮腫改善のためにはループ利尿薬との併用が基本である.

脱水をきたす疾患に対する具体的なマネジメント

脱水症に対する輸液戦略

著者: 坂本敦 ,   市川大介

ページ範囲:P.1296 - P.1299

Point
◎脱水症はどのような体液がどの程度失われたのかを考える.
◎輸液治療を行うにあたり,尿の張度にも注目する.
◎代謝性アルカローシスでは逆説的酸性尿になることがある.

敗血症に対する輸液療法

著者: 福家良太

ページ範囲:P.1300 - P.1305

Point
◎敗血症の初期輸液では晶質液が第一選択とされている.
◎輸液製剤の選択では,グリコカリックスを考慮した膠質浸透圧を目の前の患者の病態に合わせると考えやすい.
◎敗血症に対する人工膠質液は死亡リスク増加が報告されており推奨されない.
◎敗血症に対するアルブミン製剤の有効性は不明確であるが,晶質液を大量投与した患者では検討してもよいかもしれない.
◎敗血症に対する生理食塩水投与による高クロール血症に注意が必要である.

輸液必要性と輸液反応性

著者: 後藤縁

ページ範囲:P.1306 - P.1311

Point
◎輸液の目的は,前負荷を増大させ心拍出量(CO)を増加させることで,循環動態を改善することである.
◎「輸液必要性がある」とは,酸素需給バランスと灌流圧を維持するために輸液を要することである.
◎「輸液反応性がある」とは,輸液によって前負荷が増大しCO増加が得られることである.
◎輸液反応性の指標には,静的指標と動的指標があるがいずれも限界がある.複数の指標を組み合わせて総合的に判断する.
◎Passive leg raisingテストは,下肢挙上による疑似的な輸液チャレンジである.過剰輸液を避けることができ,有用な動的指標の1つである.

輸液療法による注意点と治療評価

著者: 座間味亮

ページ範囲:P.1312 - P.1316

Point
◎高齢者は潜在的に腎機能や心機能が低下しており,輸液による体液量異常やナトリウム(Na)濃度異常が起こりやすい.
◎輸液は5つの“R”を意識して行うことが重要である.
◎輸液量は過小・過剰にならないよう初期設定を行い,輸液開始後も定期的に再評価し輸液量を調整することが重要である.
◎輸液張度は輸液開始後のNa濃度の推移をみながら再調整していく.

Column

体液量異常を診療するときに役立つ初心者のためのクリニカルパール

著者: 永瀬宏哉 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.1318 - P.1321

パール1
「体液量」と「細胞外液量」と「細胞内液量」などの「水・電解質」の用語を理解する
 「体液量」という用語は人を惑わせる用語である.“volume”の訳語が「体液量」に相当する.米国でも混乱を招いているようで“volume”=「体液量」は“extracellular fluid volume”〔=細胞外液量(ECFVと略される)〕と交換可能な用語として用いられる1)などとわざわざ注釈がつくことが多い.したがって有名なハルペリンの教科書では“volume”=「体液量」という用語はほとんど使わず「細胞外液量」と「細胞内液量」というより明確な用語を使用している2).体重の約60%が「水」であり,その水にはさまざまな溶質が溶けているので「水溶液」と言われ,体内の水溶液は「細胞外液分画」と「細胞内液分画」から成る.本稿に与えられた「体液量異常」とは「細胞外液量異常」にほかならない.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・16

—おなかが痛い その8—消化管穿孔のフィジカル—正常肝濁音界を修得すべし!

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 これまで肝硬変を中心に,8回にわたって腹部膨満シリーズを紹介してきました.今回は趣向を変えて,打診が診断に役立つ症例を紹介したいと思います.筆者の“フィジカル師匠”須藤 博先生が,15年以上前に当院で経験した症例です1)(須藤先生にはあらかじめ了承をいただいております).
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年6月30日まで公開)。

ERの片隅で・4

美味しい胸痛

著者: 関根一朗

ページ範囲:P.1322 - P.1323

 湿度が高く蒸し暑い夜、バーベキューをやるなら、海がいいのか山がいいのか、研修医たちが真剣な顔で議論している。そんななか、ER内で救急搬送を告げるアナウンスが流れた。「10分後、救急車入ります。52歳男性 胸痛。安静時発症の胸痛が現在も持続、冷汗あり。バイタルサインは…」
 救急隊からホットラインで伝えられた傷病者情報の記載用紙を見た研修医は「心筋梗塞ですね」と言って心電計とエコーをストレッチャーの脇に準備している。

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・23 疾患別リハビリ・運動療法の実際

膝痛

著者: 上月正博

ページ範囲:P.1324 - P.1328

 膝痛は日常診療でもよく遭遇する訴えである.膝痛を呈する疾患としては,変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee,以下,膝OA)や関節リウマチ,半月板損傷,痛風・偽痛風,特発性大腿骨内側顆骨壊死などが挙げられる.そのなかでも代表的な疾患として膝OAがある.膝OAについては,日本整形外科学会から『変形性膝関節症の管理に関するOARSI勧告 OARSIによるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン』(以下,膝OAガイドライン)が2011年に公開された1).これは国際変形性関節症学会(Osteoarthritis Research Society International:OARSI)が2008年に発表したガイドライン2)を基に翻訳し,日本の診療実態に合わせたものである.さらにOARSIは2019年にガイドラインを改訂している3).今回は膝OAによる膝痛に対する具体的なリハビリテーション(以下,リハビリ)・運動療法について概説する.なお,『変形性膝関節症診療ガイドライン』が2023年5月に発刊された4)

明日から主治医! 外国人診療のススメ・4

外国人診療に際して知っておきたいコミュニケーション

著者: 沢田貴志

ページ範囲:P.1329 - P.1332

CASE
総合診療科の研修医(大樹)と指導医(朋子)が外来で…
朋子)おやおや,こんなところで浮かない顔をしてどうしたの?
大樹)あ,朋子先生.先週心房細動で心不全になっていた外国人の患者さん,必ず1週間後に再診に来るようにあれほど何度も言っておいたのに,今日来なかったんです.
朋子)コミュニケーションはきちんと取れていたのかしら.心不全が再発して救急受診するのでは困るわね.カレンダーを指さして「この日にまた来てくださいね」と伝えた?
大樹)いえ,そこまでは…….でも「薬がなくなる1週間後にまた来てください」と伝えました.そしたらニコニコして「わかりました」と言っていたんですよ.外国人の患者さん苦手です.うまくいかないことが多くて…….先生,何かコツがあるんですか?

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・25

手がしびれる! 脳梗塞? 脊髄の臨床④神経根症の症状その2/頸部神経根症の病歴と診察法

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1334 - P.1339

 腕から手にかけて痛みが出ることについて,内科外来でよく相談を受けることがあります.症状は頭蓋内からなのか,頸部領域か,または末梢神経領域なのか.画像を撮影しなくても,病歴と身体診察で迫ることは可能です.特に頸椎病変が原因の疼痛は,生活指導を実施することで大幅に改善することもあります.それでは今回は頸椎領域の神経根症について勉強していきましょう.

医学古書を紐解く・7

Cope's Phrenic shoulder painとJoseph Capps—Cope Z. 『Early diagnosis of the acute abdomen』, Capps JA.『An Experimental and Clinical Study of Pain in The Pleura, Pericardium and Peritoneum』

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.1340 - P.1341

 今回は,私が恩師から勧められた“恩書”と言える本を紹介したい.1冊目は英国の医師Zachary Cope(1881〜1974年)の『Early diagnosis of the acute abdomen』で,彼は1921年にこの本の初版を40歳という若さで執筆したが,その後も同書を改訂し続け,最後に第14版を編集した際には91歳であった.私が一年次の研修医の頃に指導医の濱田裕久先生から1990年発行の第18版(William Silen編集)を勧められ,同期と輪読会をしてこの本からは実にいろいろと学ぶことがあった.
 この本の「急性腹症における診断の原則」という章では,横隔膜に刺激病変が生じると痛みが肩へ放散するphrenic shoulder painについて書かれている.初版ではこの臨床的重要性を示した一人がHiltonであることや,動物実験で横隔神経が上行性線維だけでなく下行性線維も有するとFergusonが証明したことが記述されている1).しかし,このことは私が研修医の頃に買った第18版では消えており,本連載の第5回(5月号)で紹介した“欄外の注釈”のように,初版本の価値を再認識させてくれるものであった.

目でみるトレーニング

問題1060・1061・1062

著者: 藤谷淳 ,   玉野井徹彦 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.1342 - P.1347

書評

—志賀 隆,伊田 瞳,かげ 著 かげ イラスト—夜の勤務のサバイバル

著者: 西村正治

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 本書のタイトルからしてユニークである.いったい何が書いてあるのかと興味をそそる.本書は夜間当直や夜勤のある医療従事者,特に医師向けに書かれたマニュアル本の類である.しかし,そこらのマニュアル本とは全く異なる.救急医,睡眠専門医,看護師の3人がそれぞれの立場から夜勤をするうえでのさまざまな問題・課題を取り上げてわかりやすく解説している.その取り上げた問題・課題がユニークなのである.全体は「夜の勤務チーム」「夜勤における睡眠」「患者さんが安定するための先手の予防策」「夜のトラブルにどう対応するか」と題する4つのPARTに分かれており,それぞれのPARTでいかにも夜勤にありがちな具体的な問題に答えてくれる.評者にとってはとりわけPART 2が秀逸に思われた.患者の睡眠障害を扱うだけではなく,夜勤者自身の睡眠衛生についても解説している.「よい睡眠とは?」「必要な睡眠時間は?」「夜勤者の睡眠に起こっていることとは?」「交代勤務障害とは?」「自分の睡眠を守り,患者の睡眠を守る」などのテーマは患者の不眠症対策くらいしかこれまで頭に浮かばなかった評者にとって衝撃的な問題・課題提起であり,とても勉強になる.PRAT 1では「夜勤における準備」「チーム医療のあり方」「リーダーシップとフォロワーシップとは?」など,PART 3では「患者の身体抑制」「不眠患者に対する睡眠薬の使い方」「悪化しそうな患者の気づき方」などが説明されている.PART 4はいわゆる当直医向けマニュアル本のごときテーマを取り上げている.「急変時の対応」「患者が頭を打った」「発熱した」「呼吸が苦しい」「意識が急変した」等々のテーマについてその対応の仕方をわかりやすく簡潔に説明している.すべての問題・課題について数ページから5〜6ページで纏められており,はじめにキーポイントが数行の箇条書きで挿入され,末尾には必ず1〜3個の重要文献がついている.それぞれの問題・課題について,救急医,睡眠専門医,看護師のいずれか1人が署名入りで解説しているが,そこに執筆担当者とは別の立場から漫画的なイラスト入りで他の著者のコメントが加えられている.そのため,読者はどの問題・課題についても異なる専門をもつ3人のメッセージを知ることで,理解がさらに深まる仕掛けとなっている.

—加藤 実 著—子どもの「痛み」がわかる本—はじめて学ぶ慢性痛診療

著者: 余谷暢之

ページ範囲:P.1267 - P.1267

 子どもの痛みは歴史的に過小評価されてきました.そのなかで,多くの研究者たちが子どもの痛みについてのエビデンスを積み重ね,「子どもはむしろ痛みを感じやすい」ことが明らかになりました.その結果,諸外国では子どもへの痛みの対応がていねいに実践されていますが,わが国においては十分に対処されているとはいえない状況があります.著者である加藤実先生は子どもの痛みに真摯に向き合い,ていねいに臨床を重ねられ,さまざまな学会でその重要性を訴えてこられました.その集大成が本書であると思います.
 本書で紹介されている慢性痛は,急性痛とは異なるアプローチが必要となりますが,そもそも小児領域では急性痛,慢性痛という概念すら十分に浸透していない状況です.慢性痛は心理的苦痛や社会的影響を伴い,子どもたちの生活の質に深刻な影響を及ぼす可能性があり,生物心理社会的(biopsychosocial)アプローチが必要となります.3〜4人に1人が経験するとされ決して稀でない慢性痛は,小児プライマリケア診療においても重要な領域ですが,体系立って学ぶ機会が少なく,本書の役割は大きいといえます.

—洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 編 宮前 伸啓 責任編集  荒 隆紀 執筆—京都ERポケットブック 第2版

著者: 溝辺倫子

ページ範囲:P.1273 - P.1273

 今年も新年度がやってきました.初期研修医の皆さんが見せる,医師としてのはじめの一歩を踏み出すことができる喜びと期待に満ちた輝く笑顔が,本当にうれしく映ります.そんな初期研修医の皆さんが避けては通れない宿命が,救急外来での研修ではないでしょうか.現場に立って,初めて(当たり前ながら生身の人間として)実在する患者さんの症状症候に対応するときの不安と緊張は,何年経っても忘れられない記憶です.
 学生時代の机上の学習では,症状や所見が常に「言語化」され,記載されているのは必要な情報だけに絞られ,時系列に沿って並べられ,後は公式に当てはめるだけで診断や治療法を導き出すことができます.一方で,実臨床では,患者さんの訴えや所見を自ら言語化し,情報を引き出し取捨選択し,時系列に沿って並べ替え,どの公式を当てはめるべきか思案し,診断や必要な治療を考えなくてはなりません.これは,医師となれば毎日幾度となく繰り返している作業ですが,実は膨大な労力と知識量が問われます.医師になってからの繰り返しの訓練と学習で,その作業は徐々に楽になってくるのですが,当初は困難です.その労力と知識量を補ってくれるのが,本書です.「救急搬送までの5分でCheck! アタマの中」を見ながら情報収拾項目と当てはめるべき公式を,文字通り,頭の中に準備できます.これだけで,正しい診断や治療にグッと近づけるとともに,不安や緊張を少し和らげることができ,その分,患者さんとのコミュニケーションや共感に心を割くことができるでしょう.この度,第2版になってこの「救急搬送までの5分でCheck! アタマの中」の図が,さらに洗練され,図解もよりカラフルで明快になったと拝見しました.ぜひご活用いただきたいと思います.

—安部 正敏 著—ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚外用療法

著者: 宮地紘樹

ページ範囲:P.1291 - P.1291

 皮膚科学はジェネラリストにとって重要な分野であり,日々の診療において多くの患者が皮膚トラブルに直面している.そのため,皮膚疾患に対する適切な外用療法を知っておくことは,ジェネラリストにとってきわめて有益と言える.
 本書は,皮膚科臨床現場の第一線で活躍する著者が,ただ知識を共有するだけにとどまらず,ジェネラリストの立場を深く理解したうえで内容構成したものとなっている.そのためすぐに現場で使えるという点においては,ほかの教科書とは一線を画するものである.

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目次

ページ範囲:P.1180 - P.1183

読者アンケート

ページ範囲:P.1349 - P.1349

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1350 - P.1351

購読申し込み書

ページ範囲:P.1352 - P.1352

次号予告

ページ範囲:P.1353 - P.1353

奥付

ページ範囲:P.1354 - P.1354

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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