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雑誌目次

雑誌文献

medicina60巻9号

2023年08月発行

雑誌目次

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 わが国は超高齢社会であり,OECD諸国のなかで最も高齢化が進展している.これは,医学・医療はもとより,介護や福祉,そして社会に多くの課題を呈している.高齢者の増加はさまざまな疾患の有病者,認知機能低下や要介護状態,臨死期の人が増加することを意味し,在宅医療,救急医療をはじめとする医療サービスのニーズ拡大を意味する.次に,一極集中や核家族化,独居者の増加などの社会背景も相まって,介護力低下や“老老介護”・“認認介護”が問題となっている.さらに,生涯未婚率の増加や少子高齢化,ひいては社会保障費の増加,生産年齢の減少など多くの問題が複雑に絡み合っている.
 さて,この“高齢者”とは,そもそも誰なのであろう? 日本老年学会・日本老年医学会の「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ」は,現行の基準による高齢者(65歳以上)の身体機能や認知機能が10〜20年前に比べて,客観的に5〜10歳は若返っていることを報告している1).実際,臨床現場には,現行の高齢者の基準(65歳以上)をはるかに上回る年齢であっても若壮年者と同様のアプローチをすることが妥当であるように考えられる患者がいる.一方,65歳を超えたばかりなのにさまざまな衰えがあり,いわゆる高齢者の特徴を踏まえた診療をする必要がある患者も経験し,個人差が大きいことを痛感する.その判断には,高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)を当然行う必要があるが,生活の状況や社会的な役割,活動度を含め,いくら緻密なCGAを行なっても,その人が「“高齢者”であるか否か」は明確にはならないのである.ただし,例えば85歳の集団は,90歳の集団と比較して何らかの機能が低下している可能性は確率として上がると考えられ,社会保障制度などの兼ね合いで高齢者の基準(65歳以上など)を決める必要はあるのであろう.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.1366 - P.1369

●今月の特集執筆陣による出題です.高齢者診療に関する理解度をチェックしてみましょう!

Editorial

高齢者診療のステップアップに必要な5つのトピックとは?

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.1370 - P.1373

Point
◎臨床的な側面から「この患者は“高齢者”である」と明確に定義する基準はなく,「何らかの機能が低下しているから“高齢者”である」とは言えない.
◎患者自身の通院や治療負担感などに関する考え方にもよるが,単一の疾患単位ではなく全体を舵取りする医師が“主治医”として診療する意義が高くなる状態は,“臨床的な高齢者”である.
◎外来診療における高齢者診療のステップアップには,「高齢者に特有の背景を再認識」「外来で可能な機能評価」「治療適応の吟味・再考」「QOL向上のための非薬物療法」について理解し,「生活支援と医療安全」の観点も踏まえる必要がある.

“こころ”と“身体”の臨床

高齢期のこころ—老年期うつ病,認知症を中心に

著者: 新井久稔 ,   松尾幸治

ページ範囲:P.1374 - P.1379

Point
◎高齢者はうつ病を発症しやすい時期と考えられており,これには身体疾患の合併や社会的役割などの喪失体験が関与している.
◎老年期の精神疾患は,うつ病以外にも認知症に伴う精神症状など多岐にわたっており,臨床的特徴の把握が重要である.
◎精神科医へのコンサルトのタイミングとして,うつ病や認知症などの鑑別評価が難しい場合,幻覚・妄想など精神病症状が出現している場合,自殺企図の危険性などの場合が考えられる.

高齢者における医療面接

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.1380 - P.1385

Point
◎多くの医師にとって人生の先輩である高齢者に敬意を払って医療面接に臨む.
◎暦年齢のみで“高齢者”と括ることは慎むべきだが,高齢者の伝達能力や理解度は若壮年者に比べて限界があることをふまえて「情報収集」「患者への説明・教育(情報提供)」を行う.
◎「情報収集」「患者への説明・教育(情報提供)」は,医師側のコミュニケーション能力・医療面接スキルと同時に,患者側のヘルスリテラシーによっても左右される.
◎高齢者の医療面接の実際は,認知機能および視力・聴力障害の程度,基礎疾患,診療の場などとともに,付き添いがいるか否かを意識する.

認知機能が低下した身体合併症を診療するコツ

著者: 洪英在

ページ範囲:P.1386 - P.1390

Point
◎認知症の人の診察では近時記憶障害や病態失認を意識して診察することが重要である.
◎現症は本人からの聴取や身体所見から得ることができる.
◎経過は本人からの聴取は難しいことが多く,第三者からの聴取が必要になることが多い.
◎認知症のステージを意識して入院後の進行も予測し,終末期かどうかを意識して診療することが重要である.

外来で可能な機能評価アップグレード

口腔・嚥下機能評価

著者: 金森大輔

ページ範囲:P.1391 - P.1395

Point
◎口の主な機能・働きには,咀嚼や嚥下,構音,呼吸,味覚などの感覚・知覚,唾液による消化・潤滑・浄化作用などがある.
◎加齢や疾患,障害などさまざまな要因により口腔の機能が複合的に低下すると,口腔機能障害となる.
◎口腔機能障害には摂食嚥下障害や咀嚼機能障害が含まれ,放置すると健康寿命の低下,さらに低栄養や誤嚥性肺炎など,全身的に健康を損なう可能性がある.
◎摂食嚥下障害は口腔ケアと摂食嚥下リハビリテーション,水分・栄養管理が治療の主体となる.

高齢ドライバーに対する外来での認知機能評価

著者: 朴啓彰

ページ範囲:P.1396 - P.1400

Point
◎電解質・甲状腺ホルモンなど,代謝性認知機能低下を診断できる血液検査は必須である.
◎脳出血や正常圧水頭症などの認知機能低下につながる頭蓋内疾患(treatable dementia in the brain)の有無をMRIで調べる.また白質病変の広がりがあれば,生活習慣病治療,特に軽度の高血圧に対して降圧薬の服用による厳格な血圧管理が必要である.
◎ミニメンタルステート検査(MMSE)などの認知機能検査に加えて,ドライビングシミュレータ(DS)やドライブレコーダ(DR)を用いて多角的に安全運転能力を評価することが望ましい.
◎認知症の診断や免許返納が難しい場合には,認知リハビリテーションの介入を考慮すべきである.

転倒リスク評価

著者: 川村皓生

ページ範囲:P.1402 - P.1407

Point
◎高齢者の転倒とそれに伴う外傷や身体機能低下は要介護の要因となり,予防が重要である.
◎転倒リスクを高める要因は筋力低下やバランス能力低下などさまざまであり,環境という外的要因が加わることでさらに高まる.
◎定期的に問診と評価を行い,転倒リスクを早期に発見することで,適切な転倒予防対策につなげられると考える.

QOL向上のための非薬物療法

独居高齢者にお勧めの食事指導

著者: 宮内眞弓

ページ範囲:P.1408 - P.1411

Point
◎独居高齢者の食事は,食べる内容をチェックすることが重要である.
◎蛋白質の不足はフレイルの引き金になる.
◎缶詰や冷凍食品の利用などで簡単に作れるものを増やし,食事を作ることに興味をもってもらう.
◎便利グッズなどを使うことで,食事作りが楽にできる.
◎料理に決まりはない.自分の好きに作り,食べることが一番である.

便失禁に対する骨盤体操

著者: 吉岡和彦

ページ範囲:P.1412 - P.1414

Point
◎便失禁は,「無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状」と定義されている.
◎便失禁に対する治療のアルゴリズムでは,まず食事改善や生活指導が行われる.
◎骨盤体操は指導内容が理解でき,運動を継続できる十分な意欲をもった患者が適応となる.
◎適切に指導された骨盤体操の便失禁に対する有効率は,41〜66%と報告されている.

皮膚瘙痒症のスキンケア指導

著者: 常深祐一郎

ページ範囲:P.1416 - P.1422

Point
◎高齢者では一見すると皮膚瘙痒症と思われる状況は多いが,実は皮脂欠乏症であることが多い.
◎高齢者は脂腺や汗腺の機能や角層の水分保持機能も低下し,皮脂欠乏症を生じやすい.
◎皮脂欠乏症は瘙痒を生じ,睡眠障害をはじめQOLを低下させる.進行すると搔破も加わり容易に皮脂欠乏性湿疹へと進展し,さらに瘙痒が増す.
◎高齢者では保湿薬による保湿,入浴方法や衣類の調整を含めた広い意味でのスキンケアが重要である.
◎保湿薬はヘパリン類似物質が優れているが,効率のよいケアをするためには,剤型や塗布量,塗布方法などを十分理解しなければならない.
◎スキンケアについての介護者への教育は,高齢者の皮膚状態の改善に有効である.

治療適応を吟味する

高齢者の貧血

著者: 勝見章

ページ範囲:P.1423 - P.1428

Point
◎世界保健機関(WHO)基準では,男性でヘモグロビン値が13 g/dL未満,女性で12 g/dL未満が貧血と定義される.
◎貧血に遭遇した場合,MCVと網状赤血球を用いて鑑別診断をする.
◎まず栄養性貧血,炎症性貧血の除外が必要である.
◎表1,図1〜3を参考にして,適切なタイミングで血液専門医へのコンサルトを考慮する.

高齢者の潜在性甲状腺機能低下症

著者: 藤原元嗣

ページ範囲:P.1430 - P.1434

Point
◎潜在性甲状腺機能低下症は,放置すると顕性の甲状腺機能低下症や心血管疾患の誘因となりうる.
◎しかし高齢者に関しては,治療しても予後やQOLを改善するというエビデンスに乏しく,本当に治療すべきか慎重に判断する必要がある.
◎TSHの値に影響を及ぼす要因として,ヨウ素摂取量や薬剤,うがい薬使用の有無などに注意する.

高齢者のParkinson病—高齢での発症を中心に

著者: 鈴木幹也

ページ範囲:P.1435 - P.1437

Point
◎高齢発症のParkinson病は非典型的な症状を呈し,進行が早い傾向にある.
◎高齢者はさまざまな合併症を有しているため,治療の有効性が乏しいことがある.
◎今後の治療や療養の計画を立てるために,初めに専門医の受診をすることが望ましい.

非特異的病態を理解する

内科救急疾患の非特異的症状

著者: 鈴木亮

ページ範囲:P.1438 - P.1442

Point
◎なかには正確な病歴を伝える能力が低下している高齢者も存在するため,問診法の工夫が必要である.
◎自身の症状を的確に表現できない患者の場合,身体診察法としてはsurveyが適している.
◎高齢者の感染症においては,精神状態の変化などの非特異的な主訴が認められる場合もあるため,注意が必要である.

高齢者のてんかん—意識障害をきたす疾患の鑑別が重要

著者: 長井篤 ,   青木慶仁 ,   岡崎亮太

ページ範囲:P.1444 - P.1448

Point
◎意識障害で救急外来を受診する患者の半数以上は65歳以上の高齢者であり,そのなかでもてんかんは主な原因を占める重要な疾患である.
◎高齢者のてんかんは側頭葉起源が半数以上を占め,意識変容や記憶障害,自動症をきたす複雑部分発作が多いため,認知症との鑑別が必要である.
◎意識障害が続く場合,非けいれん性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus:NCSE)を念頭に置いて診療に当たる.

低血圧の臨床—起立性低血圧や食後低血圧から

著者: 石川讓治

ページ範囲:P.1449 - P.1453

Point
◎食後の眠気やふらつき,ぼーっとするといった症状は食後低血圧を疑う.
◎起立性低血圧や食後低血圧の管理では,誘因の除去と生活指導が重要である.
◎起立性低血圧や食後低血圧は血圧調節機能障害であり,血圧サージや仰臥位高血圧にも注意する必要がある.
◎起立性低血圧や食後低血圧が自律神経機能障害を有する神経変性疾患の初期症状である可能性があり,注意深く経過観察していく必要がある.

薬物療法を再考する

高齢者における服薬支援—薬剤師の視点から

著者: 玉城武範

ページ範囲:P.1454 - P.1462

Point
◎ポリファーマシーを見逃さず,一剤でも減薬を!
◎生活リズムに合わせた柔軟な用法設定を!
◎処方せん発行時の一包化指示を忘れずに!
◎ヘルパーや施設スタッフへのサポートを上手に活用する!

降圧薬の減薬・中止

著者: 山本浩一

ページ範囲:P.1463 - P.1466

Point
◎要介護者に対する降圧療法のベネフィットは証明されていない.
◎降圧療法の開始は,身体機能が低下した高齢者の転倒リスクを増大させる.
◎高齢高血圧症患者の降圧薬減量は,血圧コントロールを大きく悪化させないことが証明されている.
◎高齢高血圧症患者の降圧薬減量・中止の判断材料として,可能な限りの血圧情報の収集が必要である.

低血糖予防と糖尿病治療薬の減薬・中止基準

著者: 工藤貴徳

ページ範囲:P.1469 - P.1473

Point
◎高齢者糖尿病に対して目標下限値を設定し,より安全な治療を行う血糖コントロール目標が設定された.
◎特にスルホニル尿素(SU)薬による厳格な血糖管理が,重篤な低血糖を引き起こす危険性が高い.
◎高齢者糖尿病において,重症低血糖と認知症は双方向に関連し,悪循環を形成する.

ビスホスホネート(BP)製剤の中止基準

著者: 小牧亘

ページ範囲:P.1474 - P.1479

Point
◎ビスホスホネート(bisphosphonate:BP)製剤は骨粗鬆症の予防および治療のスタンダードの1つであり,広く使われている.
◎BP製剤の重篤な合併症として顎骨壊死(osteonecrosis of the jaw:ONJ),非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture:AFF)が挙げられる.
◎BP製剤が長期服用となったときは休薬,長期服用にて重篤な合併症を起こしたときは中止が望まれる.

睡眠薬の減薬・中止の目安と対処法

著者: 岡靖哲

ページ範囲:P.1480 - P.1484

Point
◎睡眠薬を用いた不眠症治療では,睡眠薬の多剤併用や長期投与による問題が懸念される.
◎睡眠薬は機序の違いにより分類され,効果や副作用・安全性の特徴がそれぞれ異なる.
◎睡眠薬の減薬・中止に当たっては,必要性を患者に十分に説明し,漸減法・隔日法などを行う.
◎不眠に対する睡眠衛生指導を併せて行うことがとても重要である.

抗凝固薬,抗血小板薬の減薬・中止基準

著者: 石井充 ,   赤尾昌治

ページ範囲:P.1485 - P.1489

Point
◎抗血栓薬の使用は,de-escalation(段階的縮小)に向かっている.
◎出血は予後を大きく悪化させるので,抗血栓薬の使用時には十分留意する必要がある.
◎抗凝固薬投与がためらわれる高齢患者にも,安易なオフラベル(不適切)の減量は慎むべきである.
◎抗血栓薬中止のタイミングをどうするか,その際の患者との合意形成が重要である.

プロトンポンプ阻害薬(PPI)の中止基準

著者: 今枝博之 ,   宮口和也 ,   都築義和

ページ範囲:P.1490 - P.1494

Point
◎プロトンポンプ阻害薬(PPI)による副作用が明らかであったり,疑われたりすれば服用を中止する.
◎PPIの長期服用により懸念されるさまざまな副作用がある.
◎PPIの長期服用によりClostridioides difficile感染症と細菌性腸管感染症との関連性が報告されている.
◎PPIの長期服用により胃ポリープの増加・増大がみられ,出血をきたすことがある.
◎PPIを漫然と処方せず,定期的に減量や中止を検討する.

生活支援と医療安全

意思決定能力の判定—医療・介護を要する独居高齢者の事例から

著者: 白山靖彦 ,   北村美渚 ,   臼谷佐和子

ページ範囲:P.1496 - P.1499

Point
◎意思決定能力と医療同意能力とは異なる.
◎インフォームド・コンセント(IC)には「不同意」の可能性がある.
◎高齢者診療においてアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の活用は有用である.

入院リスクの説明と同意—入院関連合併症の予防・対策

著者: 太良史郎 ,   山田康博

ページ範囲:P.1500 - P.1503

Point
◎入院関連合併症は入院に伴うリスクとなる.
◎個々の合併症を知り,患者・家族にも協力を仰ぎつつ,早期からその予防・対策を行うことが重要である.
◎入院リスクについて患者・家族に適切に説明・理解を得ることで,速やかな移行ケアが可能となる.

入院後のせん妄—予防のための方略

著者: 大石智

ページ範囲:P.1506 - P.1509

Point
◎せん妄は身体疾患や薬剤,アルコールなどの物質による意識障害である.
◎せん妄の原因の多くは可逆的であり,予防的対応が求められる.
◎せん妄への予防的対応は入院前から行うことができる.
◎遅くとも入院後24時間以内に直接因子,誘発因子に対する包括的な介入が求められる.
◎せん妄予防に強く推奨できる薬理学的介入はなく,非薬理学的介入が強く推奨される.

看護師と連携した包括的支援

著者: 北西史直

ページ範囲:P.1510 - P.1513

Point
◎継続的,包括的な役割として看護師の存在は大きい.
◎高齢者個人の多面的な評価と家族を評価することが重要である.
◎個人,家族のステージに合わせた包括的な支援が求められる.
◎生物心理社会モデルのケアや意思決定支援において,多職種の連携,特に看護師の役割は大きい.

連載 ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾・17

—おなかが膨満している その9—腎動脈狭窄症のフィジカル—非消化器疾患でも常におなかのフィジカルにこだわるべし!

著者: 中野弘康

ページ範囲:P.1355 - P.1358

 聴診にフォーカスしたフィジカルはこれまでにも何度か紹介してきましたが,今回は脳梗塞で入院した患者さんに(偶然)発見したお腹のフィジカルをご紹介します.腹部症状がなくとも,患者さんの身体に聴診器を当てて,音を探ってみてください.

事例から学ぶ 糖尿病のコーチングマインド・1【新連載】

なぜ糖尿病診療にコーチング?

著者: 松澤陽子 ,   森山由希子 ,   石井均

ページ範囲:P.1514 - P.1518

「一般的なコーチング」と「糖尿病医療におけるコーチング」
 コーチングは,もともとスポーツやビジネスにおいて,対象者の心のありようによって結果・成果が変わることから,人が自分の望む人生を生きることを支援する方法として生まれました.コーチングにはさまざまな方法論がありますが,いずれも「原則として心身の健康な人で,現在大きな問題を抱えておらず,自分をより成長させたりパフォーマンスを上げようとしている人たち」を対象として,「治療」ではなく「成長」を目的として関わるのが「一般的なコーチング」です1)
 この定義で考えると,医療現場で私たちが向き合う患者さんの多くは,コーチングの対象ではないことになります.そもそも心身に何らかの問題や障害を抱えているからこそ病院を訪れるわけですし,身体的疾患が原因となって精神的負担や苦悩を生じたり,社会生活上の障害を抱えてしまうことも珍しくありません.

明日から主治医! 外国人診療のススメ・5

外国人診療に際して必要な準備

著者: 冨田茂

ページ範囲:P.1520 - P.1526

CASE
総合診療科の研修医(萌)と医療事務(吉川)が外来で…
萌)今外来に来ているブラジル人のカルロスさん,日本語は上手なのに,問診票が読めなくて何も書いてくれないの.困ったなあ,検査の同意書も必要なのに…
吉川)萌先生,ポルトガル語の問診票や同意書でしたら,印刷しましょうか?
萌)え? 吉川さん,どうしてそんなものを持っているのですか.
吉川)いえいえ,ただ厚生労働省のフォーマットを使うだけですから.
萌)初めて聞きました.いろいろ知りたいので勉強会をしませんか? 院長に言ってみます.
吉川)いいですね.看護助手のマリアさんも誘いましょうか.

ERの片隅で・5

コスパの良い主訴

著者: 関根一朗

ページ範囲:P.1528 - P.1529

 外は蒸し暑いのに、病院の中は夏もひんやりとしている。ERの診察室を覗くと、半袖半ズボンの患者を、上着を羽織った研修医が診察している。服装のギャップが不思議な光景である。
 診察を終えた研修医が関根のところに駆け寄り、救急外来を受診した患者についてプレゼンを始めた。「30歳男性、主訴は食思不振です。朝から嘔気があり、腹痛や倦怠感も出てきたようです。夜になり、食思不振で夕食を摂れないのを心配した家族に連れられて受診しました。食思不振の鑑別として考えたのは…」

医学古書を紐解く・8

時を超えて偉人を側に感じる古書の魅力—Heberden W. 『Commentaries on The History and Cure of Diseases』

著者: 陶山恭博

ページ範囲:P.1530 - P.1533

最後のローマ人,そして英国の至高
 私がWilliam Heberdenの『Commentaries on The History and Cure of Diseases』1)と出合ったきっかけは,医学書院の『総合診療』誌からの“好きなエポニムについて執筆してください”という依頼だった.ある日,「あぁ,これはHeberden結節ですね」と説明していた診察中,ふと「Heberden先生って,どんな人なんだろう」と興味が湧いた.調べ始めたところ,“リウマチ学の父”と呼ばれる偉人であったことを知り,ぜひシェアしたいと思い執筆したのが,「Heberden結節 関節炎の分類の礎となった身体所見」である2)
 欧州リウマチ学会の機関誌である『Annals of Rheumatic Diseases』は,1962年にHeberdenの伝記を掲載している3).そこにはWilliam OslerがHeberdenについて「英国のCelsus(ラテン語で“至高”の意)」と讃えていたこと4)などが記されている.さらにシェークスピア全集などをまとめた巨匠であるSamuel Johnson博士からは「ultimus Romanorum, the last of our learned physicians(最後のローマ人,当代随一の学究的臨床医)」と賞賛されていたとも書かれており,これはHeberdenが彼の主治医であり,また日々のノートをすべてラテン語で記載していたことに由来する.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・26

足が背屈できない! 脳梗塞? 脊髄の臨床⑤神経根症の症状その3/下垂足の病歴と診察法

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1534 - P.1538

 「歩くときに足が背屈しにくい」といった訴えを聞くことがあります.いわゆる下垂足です.歩行するときに障害側の下肢を持ち上げなくてはならず,生活に支障をきたします.突然発症であれば脳卒中による影響を考えたくなりますが,下垂足をきたす疾患は多岐にわたります.それでは,今回は下垂足をきたした一例について勉強していきましょう.

目でみるトレーニング

問題1063・1064・1065

著者: 伊藤恵介 ,   田中宏明 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.1540 - P.1545

主治医の介入でこれだけ変わる! 内科疾患のリハビリテーション・24【最終回】 疾患別リハビリ・運動療法の実際

重複障害

著者: 上月正博

ページ範囲:P.1546 - P.1554

 わが国は世界一の超高齢社会となり,多疾患による重複障害の人が増加している.身体障害者全体に占める重複障害者の割合は4〜7%程度を推移していたが,2006年に8.9%,2016年に17.7%と急増した1).ここでの重複障害者とは身体障害(視覚障害,聴覚・言語障害,肢体不自由,内部障害)を2つ以上併せ有している人を指しており,知的障害や精神障害を考慮に入れると,さらに重複障害者数は多くなることが推測される.
 本連載の最終回となる今回は,重複障害のリハビリテーション(以下,リハビリ)・運動療法について解説する.

書評

—木村 琢磨 著—《ジェネラリストBOOKS》—高齢者診療の極意

著者: 江口幸士郎

ページ範囲:P.1467 - P.1467

 よい本に出合いました.愛と敬意にあふれた,高齢者診療の手引きです.私が研修医の頃は,日本人の著者でこういった内容を書いた本はなかったと思います.この時代,この本と若いうちから出合える医師たちが本当に羨ましいです.
 高齢者診療は,すべての研修医が迷い込む深い森です.医師の卵たちは,医学部の6年間で「診断」「治療」を必死に学んでから現場に出ます.さまざまなガイドラインを武器とし,大学病院で先輩たちが颯爽と患者の診断,治療をしているのを見ながら,自らが現場に立つその日を夢みます.しかし,やんぬるかな.大学病院ではあんなにも切れ味抜群だった方法が,高齢者,特にこの本に記載されている「臨床的な高齢者」を前にすると,なぜだか切れ味が落ちてしまうのです.

—福武 敏夫 著—神経症状の診かた・考えかた 第3版—General Neurologyのすすめ

著者: 尾久守侑

ページ範囲:P.1504 - P.1504

 本書の初版が出版されたのは2014年の5月で,病棟に出たばかりの研修医1年目だった私はこれを直ちに買って勉強をした.知らないことばかりだった.第2版が出版された2017年には精神科医2年目で,てんかんセンターに勤めていた.当然買って読んだ.知らないことばかりだった.そして第3版の出版された今年2023年はそんな私も医者10年目になった.今回は買わなかった.買う前に医学書院が本を送ってくれたからである.そして読んだ.知らないことばかりだった.
 と,書くと何度も読んでいるのにその都度内容を忘れているのかと驚いてしまうが,実際すべてを記憶できていない部分はまああるにせよ,そういうことを言いたいわけではない.まず第一に,内容が毎回更新されている.改訂に当たって新しい客観的知見が追記されることはしばしばあることだが,すでに熟達した臨床家である著者の臨床感覚も新鮮に更新されており驚愕きょうがくする.網羅性が増していること以上に,時を経て複数回テキストを再読し書き直したことによって,1冊を読み通したときにわれわれ読者に憑依する著者の臨床感覚に年輪のような重層性が生まれており,これは並大抵の医学書の改訂では起こり得ない現象だと思う.

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目次

ページ範囲:P.1360 - P.1362

読者アンケート

ページ範囲:P.1555 - P.1555

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1556 - P.1557

購読申し込み書

ページ範囲:P.1558 - P.1558

次号予告

ページ範囲:P.1559 - P.1559

奥付

ページ範囲:P.1560 - P.1560

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻10号(2023年9月発行)

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59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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