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雑誌目次

雑誌文献

medicina61巻12号

2024年11月発行

雑誌目次

特集 消化器症候への実践的アプローチ

特集にあたって フリーアクセス

著者: 小林健二

ページ範囲:P.2034 - P.2035

 腹痛を代表とする「おなか」の症候は鑑別疾患が多く,どう対処すべきか迷う場合が少なくないのではないだろうか.そうした時に成書で消化器症候を調べると,症候の病態生理,症候に関しての病歴聴取・身体診察のポイント,鑑別疾患,初期治療などが体系的,網羅的に記述されている.成書を紐解くと症候についての理解が深まるが,いざその症候を訴える患者を前にして効率よく診療できるかといえば,そうとは限らない.鑑別疾患が必ずしも頻度の多いものから並んで記載されているわけではなく,優先順位をつけて対応するためには経験も必要になる.また,鑑別疾患を漏れなく挙げるために,疾患カテゴリの頭文字をとった“VINDICATE”などを用いる方法があるが,それらを片っ端から吟味するのは現実的でない場合が多い.これらの事項は非常に重要ではあるが,臨床現場で効率的に適用するためには別のアプローチが必要になる.
 そのため本特集では,鑑別疾患を考える際の肝となる3C(Critical,Common,Curable)に注目した.まず緊急性のある疾患(Critical)であるかを見極め,そのあとにコモンな疾患(Common)と確実な治療のある疾患(Curable)を考える,というのが3Cに基づいたアプローチである.時間が限られた日々の外来や救急外来では,このアプローチが有用と考える.筆者の先生方には,緊急性のある疾患,確実な治療のある疾患を見逃さないためには,どのような点に着目して病歴聴取・身体診察を行えばよいのかを論じていただいた.また,消化器に関連した症候に惑わされて,消化器以外の疾患を見逃さないように,見逃すと重大な転帰をきたす可能性があり,想起しにくい非消化器疾患についても触れていただいた.そのため,本特集では鑑別疾患を網羅的に挙げることはせず,緊急性がなく,コモンでもない疾患はあえて省いてある.重要度の高い疾患を除外したあと,それ以外の疾患についてはゆっくり考えればよいからである.個人的な経験では,医療の現場においても,“パレートの法則(80対20の法則ともいう)”が当てはまるシーンは多いと考える.たとえば吐き気を起こす疾患は数多くあるが,それらの約2割を占める疾患が,結果として吐き気の原因の約8割となっているのではないかということだ.つまり,重要な疾患の2割程度を押さえればその症候をきたす症例の8割ほどは対処できるのではないかと考えている.本特集では,そのあたりを狙って執筆いただいた.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.2036 - P.2040

●今月の特集執筆陣による出題です.消化器症候に関する理解度をチェックしてみましょう!

総論

症候学の重要性—本当に大切なことは目には見えない

著者: 横江正道

ページ範囲:P.2042 - P.2046

Point
◎症状は「目に見えるもの」,徴候は「目には見えないもの」である.
◎患者との言葉を通じたコミュニケーション,五感を駆使した診療こそ,患者の心を開く.
◎よい診療とは個人の力ですべてを解決するのではなく,上級医・専門医と力を合わせて患者を診ることである.

緊急性のある疾患の見逃しを防ぐには—急性腹症の2 step methods

著者: 佐藤武揚

ページ範囲:P.2048 - P.2051

Point
◎急性腹症は初診時に診断がつかないことが稀ではない.
◎全身状態が安定していても第一印象に異常を感じたら,積極的に検査を行う.
◎腹部診察はすべての部位を診察し,疼痛部位を具体的に絞り込む.
◎急性腹症を画像診断,血液検査だけで診断することはできない.
◎初期治療に抵抗性の強い症状がある場合は,入院し経過観察が望ましい.
◎難症例は単独で解決したり,外来で完結したりしようとせず,複数のスタッフで協調して診療する.

全身

食思不振を伴わない体重減少の鑑別—病歴聴取から疾患を想起せよ

著者: 豊島孝幸 ,   森川暢

ページ範囲:P.2053 - P.2057

Point
◎食思不振を伴わない体重減少は,そもそも体重減少があるのかを確認し,問診で体重減少の原因となりうる症状を確認していく.
◎高齢者は訴えが曖昧なことがあるので問診・身体診察で付随する症状から鑑別疾患を想起して検査を行う.
◎悪性腫瘍は食思不振を伴うことが多いが,食思不振を伴わない場合でも除外目的で検査を行う.

食欲低下を伴う意図しない体重減少—生活環境が目に浮かぶほどの病歴聴取とHead to Toeの診察を

著者: 宮島一実 ,   仲里信彦

ページ範囲:P.2059 - P.2063

Point
◎医学的な「体重減少」の定義は6〜12カ月で5%以上の体重減少とされているが,患者個々のケースで原因検索の要否の判断を行う.
◎高齢者における意図しない体重減少は,死亡率との関連が指摘されている.
◎体重減少の原因疾患の頻度としては,悪性腫瘍,精神疾患,消化管疾患の順に多く,3割程度は原因不明である.
◎検査のみで診断をつけることは膨大な費用と労力を要することになるため,入念な病歴聴取と身体診察で原因を絞ることが重要である.

悪心・嘔吐—それって,ほんとに胃腸炎??

著者: 尾下寿彦 ,   石丸裕康

ページ範囲:P.2064 - P.2067

Point
◎悪心・嘔吐は臓器非特異的症候であり,消化器系以外の要因も考慮する必要がある.
◎悪心が急性冠症候群や菌血症の症状のこともあり,緊急性が高い疾患が含まれる.
◎特に随伴する症状として下痢を認めない時は,悪心・嘔吐を単純に胃腸炎と決めつけない.

黄疸—まずは閉塞性黄疸か非閉塞性黄疸かを区別する

著者: 大久保裕直

ページ範囲:P.2069 - P.2073

Point
◎黄疸のある患者に遭遇したときには,腹痛・発熱の有無について聴取を行い,どのレベルの障害で黄疸があるかを考える.
◎閉塞性黄疸で特に胆道感染を合併している例では,緊急で内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)が必要となる.
◎進行性で体重減少,食欲低下などを伴う黄疸では悪性胆道狭窄による閉塞性黄疸を疑う.
◎画像検査で閉塞性黄疸が否定された場合は,肝実質性黄疸などを疑い精査を行う.

腹水—実臨床で見落とさないための注意点

著者: 瓦谷英人

ページ範囲:P.2074 - P.2077

Point
◎腹囲の増加は腸管ガスや腸液貯留の増加,腹水の貯留,皮下脂肪の増加や皮下浮腫などにより起こる.
◎腹囲の増加のうち,腸管ガスや腸液貯留の増加は腸閉塞を疑い緊急で診断・加療を行う.
◎短期間で腹囲の増加および体重増加をきたす際には,腹水貯留を疑い精査を行う.
◎腹水を伴う呼吸困難には,横隔膜挙上によるものと肝性胸水(右胸水)によるものがある.

腹部膨満・腹部膨満感—どうしてお腹が張るのかな?

著者: 横江正道

ページ範囲:P.2078 - P.2082

Point
◎腹部膨満感では,気体・液体・固体の何が膨満をもたらしているかを考える.
◎突然発症,急速進行する腹部膨満感では,詰まる・捻じれる・破れるを考える.
◎腹部膨満感に激痛,発熱,尿量低下,頻脈,血圧低下を伴うときは重症だと考える.

口腔および上部消化管

嚥下困難—まずは口腔咽頭嚥下困難と食道嚥下困難を区別する

著者: 小林健二

ページ範囲:P.2083 - P.2086

Point
◎嚥下困難は,最初に病歴から口腔咽頭に問題があるのか,あるいは食道に問題があるのかを見きわめたのちに精査を進める.
◎食道嚥下困難のうち,食塊などの異物による食道閉塞は緊急で内視鏡処置を要する状態である.
◎短期間に進行性で体重減少,消化管出血,貧血などを伴う食道嚥下困難では,まず食道癌を疑い精査を行う.

嚥下時痛—詳細な問診が疾患アプローチへの第一歩

著者: 舩坂好平 ,   廣岡芳樹

ページ範囲:P.2087 - P.2091

Point
◎基礎疾患および内服薬を正確に把握し,嚥下時痛の原因を考える.
◎症状が突然出現した場合は異物誤飲や熱傷などの外因性を考え,徐々に始まった場合は食道炎(逆流性,薬剤性,感染性など)や食道癌を念頭に鑑別を絞っていく.
◎原因検索として上部消化管内視鏡検査は有用であるが,症状が強い場合は穿孔,縦隔炎も考え,事前にCTで確認しておく.

のどのつかえ感(球感覚)—まずは症候性咽喉頭異常感症を疑う

著者: 鈴木賢二

ページ範囲:P.2092 - P.2095

Point
◎のどのつかえ感は,耳鼻咽喉科領域では咽喉頭異常感症と呼ばれ,内科領域では球感覚またはヒステリー球,ヒステリー球症候群と呼ばれる.
◎局所的あるいは全身的症候に起因する症候性咽喉頭異常感症と,器質的異常を認めない真性咽喉頭異常感症がある.
◎症候性咽喉頭異常感症では原因疾患を確実にとらえ,しっかり治療するが,特に癌を看過してはならない.
◎真性咽喉頭異常感症では精神的要因が大きいので,十分な傾聴と説明で不安を取り除き,抗不安薬や抗うつ薬の使用は最小限とする.半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や柴朴湯(さいぼくとう),または麦門冬湯(ばくもんどうとう)といった漢方薬が有用なこともある.

胸やけ—胃食道逆流症以外の疾患にも注意する

著者: 川見典之 ,   岩切勝彦

ページ範囲:P.2096 - P.2100

Point
◎胸やけはみぞおちから胸の真ん中が焼けるような感じであり,胃食道逆流症(GERD)の典型症状の1つである.
◎消化性潰瘍や悪性腫瘍などの器質的疾患でも胸やけ症状を呈することがあるため,胸やけをただちにGERDと結びつけるのは危険である.
◎食後に発生する症状,過食や早食いで起きる症状,高脂肪食摂取後の症状,おくびがよく出るなどの症状があればGERDを疑う.
◎胸やけ症状を呈する患者で消化性潰瘍や悪性腫瘍などを疑う警告徴候がみられない場合,内視鏡設備を持たない実地医家ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)常用量を2〜4週間内服させ,胸やけ症状の変化をみることも可能であるが,症状が改善しない場合は上部消化管内視鏡検査が必要である.

胃もたれ—胃もたれを理解し,適切な診断・治療をマスターしよう

著者: 山本さゆり ,   脇田嘉登 ,   小笠原尚高

ページ範囲:P.2101 - P.2105

Point
◎胃もたれにおいては,感染症やストレスに関連する急性症状,機能性ディスペプシアに起因し,6カ月以上継続する症状などが頻度が高くみられる.
◎慢性的な胃もたれ症状は食事摂取に悪影響を及ぼし,QOLを低下させ体重減少をきたすこともある.
◎背後に隠れた悪性腫瘍,消化性潰瘍,胃不全麻痺,食道・胃運動機能障害などの鑑別が必要である.

腹痛

急性の心窩部痛—消化器疾患だけじゃないぞ!!

著者: 水野晴貴

ページ範囲:P.2106 - P.2109

Point
◎ショックがあればまずショックへの対応を.心血管系には要注意.
◎激痛であれば造影CTもためらわない.
◎Clinical Prediction Rule(CPR)も有用である.
◎超音波検査(POCUS)も駆使しよう.

急性の右上腹部痛—急性胆囊炎・胆管炎

著者: 林伸彦

ページ範囲:P.2112 - P.2115

Point
◎右季肋部痛は肝胆道系由来のみでなく,胸腔から骨盤内,皮膚に由来することもある.
◎急性胆管炎,急性胆囊炎は適切に対応しなければ重篤な状態に進行することがある.
◎急性胆管炎と急性胆囊炎の鑑別はドレナージ法などの点からも重要である.

急性の下腹部痛—下腹部の疾患は多岐にわたり,どの臓器に由来するかを想定して診断する

著者: 望月理玄

ページ範囲:P.2116 - P.2119

Point
◎下腹部痛の診断においては,痛みの発症様式・性状・持続時間・随伴症状を聴取し,どの臓器に由来するものかを想定する.
◎腸管に由来する下腹部痛は消化器症状(悪心,嘔吐,下痢,排便回数,血便など)を聴取し,想定疾患に応じた検査を進める.
◎絞扼性腸閉塞や消化管穿孔は敗血症ショックに至る致死的病態であり,緊急での手術を要する.
◎泌尿器に由来する下腹部痛は,排尿回数,排尿時痛などを聴取し,適切な検査を行なって診断する.

女性特有の急性下腹部痛—適切な問診・検査で緊急性を判断し産婦人科に繋げる

著者: 小城拳士郎 ,   小嶌祐介

ページ範囲:P.2121 - P.2124

Point
◎生殖可能年齢の女性の下腹部痛では,まず妊娠の可能性を否定する.
◎内診を行わなくても,問診や適切な検査で鑑別を行うことは可能である.
◎治療の遅れが妊孕性に関わってくる疾患もあるため,早期の産婦人科コンサルト,治療介入が必要である.

急性の側腹部痛—まずは緊急性の高い疾患,特に血管系疾患,感染症を早急に判断する

著者: 大髙由美

ページ範囲:P.2125 - P.2128

Point
◎急性の側腹部痛を訴える患者では,症状が泌尿器系疾患による腎疝痛なのか,それ以外(主に血管系疾患)の側腹部痛なのかを考える.
◎血管リスクの評価のため糖尿病,高血圧症,脂質異常症,心房細動などの併存疾患,既往歴,喫煙歴の聴取が重要である.
◎簡便なスクリーニングツールとして腹部超音波検査を行い,血管系疾患を疑う場合は緊急で造影CT検査を行う.

急性発症のびまん性腹痛—Criticalな消化器疾患と非消化器疾患を見逃さないために

著者: 西川佳友 ,   鈴木優子 ,   米田圭佑

ページ範囲:P.2129 - P.2132

Point
◎Criticalな疾患を見逃さない最大のポイントは,突然発症・増悪傾向のキーワードを軽視しないことで,腹痛診療においては持続痛も同様に最大限の注意を払うと心得る.
◎CTで所見がはっきりしない急性発症のびまん性腹部持続痛では,dispositionを決定する前に発症早期の致死的消化器疾患でないかを今一度確かめる.
◎バイタルサインの異常,原因がはっきりしない割に重篤そうな印象,ペンタゾシン(ソセゴン®)を使用するような腹痛では経過観察入院を考慮する.入院となっても数時間後の再診察を決して忘れない!

慢性の上腹部痛—機能性ディスペプシアを中心に

著者: 中村拳 ,   阿川周平 ,   二神生爾

ページ範囲:P.2133 - P.2137

Point
◎機能性ディスペプシアとは,症状の原因となる器質的・全身性・代謝性疾患がないにもかかわらず,食後のもたれ感・早期飽満感・心窩部痛・心窩部灼熱感といった慢性的な上腹部症状を訴えるものをいう.
◎機能性ディスペプシアの診断においては,各種検査を適切に組み合わせ,早期慢性膵炎といった膵疾患などを除外する必要がある.
◎機能性ディスペプシアの治療として,生活指導,良好な医師-患者関係の構築,薬物治療が挙げられる.
◎薬物治療では酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善薬,漢方薬を組み合わせて用いる.

慢性の下腹部痛—緊急性がある器質的疾患の見落としを防ぐとともに,機能性疾患に適切に対応する

著者: 佐藤研

ページ範囲:P.2139 - P.2142

Point
◎慢性の下腹部痛の原因には,消化器・泌尿器・婦人科領域の多くの疾患があり,緊急対応を要する疾患も含まれる.
◎器質的疾患を疑う警告症状・徴候,危険因子を有する症例では,十分な問診,触診を行い,適切な検査を追加して器質的疾患の見落としを防ぐ.
◎機能性消化管疾患である過敏性腸症候群の診断および治療については,RomeⅣ基準および本邦の日常診療に合わせた診療ガイドラインが示されている.

消化管出血

吐血—上部消化管出血の診断と治療

著者: 小池智幸 ,   正宗淳

ページ範囲:P.2143 - P.2147

Point
◎吐血患者が来院した場合,まず全身状態を把握し,出血性ショック状態であれば速やかに補液を開始し,ショック状態からの離脱を目指す.
◎吐血の性状および既往歴と内服薬の情報を基に,出血の原因となりうる疾患と出血部位を推察する.
◎消化性潰瘍の既往,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用,空腹時痛などの自覚症状がある場合は出血性潰瘍を,肝疾患の既往がある場合は静脈瘤破裂を念頭に置く.
◎全身状態が安定したら緊急内視鏡検査を行う.

黒色便—症状から消化管出血部位を推定する

著者: 細江直樹

ページ範囲:P.2148 - P.2151

Point
◎消化管出血の原因を見きわめるには,詳細な問診を行い,症状を正確に把握する.
◎消化管出血の対応で重要なことは,バイタルサインを含めた全身状態を適切に把握し,対応することである.
◎治療の第一は,バイタルサインを安定化することから始める.

若年者の血便—診療アプローチの要点

著者: 梶田航平 ,   山本貴嗣 ,   磯野朱里

ページ範囲:P.2153 - P.2156

Point
◎血便は詳細な問診が診断の鍵となる.
◎血便の診療では,問診と並行してバイタルサインや身体所見を確認し,緊急性の有無を判断する.
◎年齢にかかわらず,持続する血便や短期間で繰り返す血便,便通異常や体重減少を伴う場合においては,大腸癌も念頭に置き診療を進める必要がある.

中高年の血便—出血の重症度の評価が重要

著者: 新倉量太

ページ範囲:P.2158 - P.2162

Point
◎中高年の血便は,下腹部痛を伴う疾患と伴わない疾患があることを理解し,鑑別診断を進める.
◎病歴聴取,身体診察,血液検査を通して,出血の重症度を評価する.その際は,OaklandスコアやNOBLADSスコアなどのスコアリングモデルの活用が望ましい.
◎重症度が高い患者は,急性出血下での大腸内視鏡検査を行う必要性があるため,高次医療機関への搬送が必要になる.

便通異常

急性下痢—まずは全身状態と脱水の評価を!

著者: 三原弘

ページ範囲:P.2164 - P.2167

Point
◎急性下痢の原因は多様であり,感染症だけではない.
◎原因検索と治療を同時に行う.
◎重症化リスクを見逃さない.

慢性下痢症—まずは大腸癌を否定すること,身体診察に診断の糸口があるかも!?

著者: 松本吏弘

ページ範囲:P.2169 - P.2173

Point
◎慢性下痢症は,4週間以上下痢が持続または反復する病態であり,本邦における有病率は約3〜5%とされる.
◎慢性下痢症の原因は,急性下痢症と異なり腸管感染症の占める割合は少なく,その原因は多岐にわたる.
◎血便,腹痛を伴う慢性下痢症では大腸癌や炎症性腸疾患の除外が必要となるため,積極的に大腸内視鏡検査を行う.

便秘—便秘の原因を考える

著者: 西井謙夫 ,   富田寿彦 ,   新﨑信一郎

ページ範囲:P.2174 - P.2177

Point
◎慢性便秘症は,患者の日常生活や労働生産性を著しく損ない,QOLを低下させることが知られているため,適切な治療が必要である.
◎患者の問診をする際には,患者の病歴や内服薬の服薬状況,血便や体重減少などのアラームサインがないかを必ず問診で確認し,悪性疾患を含めた器質的疾患が存在しないかを常に念頭に置く必要がある.
◎特に高齢者においては,大腸癌による器質性便秘症を除外することが重要である.
◎便秘の原因となりうる薬剤の使用や,基礎疾患の有無を確認したうえで精査を進める.
◎便秘を症候とする疾患は多数存在し,糖尿病,Parkinson病,甲状腺機能低下症,強皮症などがある.

連載 日常診療で役立つ 皮膚科治療薬の選びかた・使いかた・11

褥瘡・皮膚潰瘍治療薬① 外用薬を3つに分けて考える

著者: 松田光弘

ページ範囲:P.2025 - P.2029

Q問題
図1の乾燥した潰瘍に使用する外用薬の剤形(図2)はどれがいい?
a 油脂性基剤(ゲンタマイシン硫酸塩軟膏) b 水溶性基剤(ブクラデシンナトリウム軟膏) c 乳剤性基剤(スルファジアジン銀クリーム)

ケースでみる 心理学×医療コミュニケーション!・6【最終回】

認知行動的理解の素地となる心理学的アセスメント

著者: 五十嵐友里

ページ範囲:P.2178 - P.2182

 これまでに,マクロな問題理解,ミクロな問題理解の方法を読者の皆さんと共有し,医療コミュニケーションに活かす方法を概観してきました.しかし,こうした問題理解を用いても,うまく望ましい方向に患者さんとの話を進めることが難しいケースもあるでしょう.例えば,具体的な課題について話をしようとしてもうまくいかなかったり,こちらが話題を主導すること自体が難しいと感じたりした経験もあるかもしれません.そうした場合,患者さんの側にはどのようなことが起きているのでしょうか?
 私たち臨床心理士・公認心理師が患者さんと話を進める前に確認しておくいくつかの視点のうち,①併存する精神症状の有無,②認知機能・知的能力の問題の有無,③問題に取り組む準備性の有無について,本稿で解説します.

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・41

突然のめまい,もしかして脳卒中!? 外来でよく診るめまい①/危険なめまいの鑑別と診察法

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.2183 - P.2187

 「めまい」をきたす疾患は,脳卒中,前庭疾患など多岐にわたります.循環血液量減少や不整脈などによる前失神感を「めまい」と表現する人もいるため,病歴聴取が大変重要となります.それを補足するのが神経診察です.

目でみるトレーニング

問題1108・1109・1110

著者: 岩崎靖 ,   三原弘 ,   大内田良真

ページ範囲:P.2188 - P.2194

書評

—藤沼 康樹 著—「卓越したジェネラリスト診療」入門—複雑困難な時代を生き抜く臨床医のメソッド フリーアクセス

著者: 志水太郎

ページ範囲:P.2068 - P.2068

 日本の多くの若手総合診療医に“oyabun”と慕われ,私自身も敬愛してやまない藤沼康樹先生(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター長)の初の単著を拝読しました.読了後に浮かんだのは,米国の医師フランシス・ピーボディ(1881〜1927)の格言「患者ケアの秘訣は患者をケアすることにある」1)でした.「臨床医の重要な資質の1つは人間性への関心である」とするこの格言が,本書の箴言の数々と共鳴し,胸を撃ち抜かれたような衝撃を何度も感じました.それが,この本の通読1回目の感想でした.
 本書の第Ⅰ章1節の最初のページに明記されているように,医療は「不確実性」が高いものです.現代の医学教育では,多くは説明可能でクリアカットな部分が好まれ,不確実な「灰色」な部分(グレーゾーン)は全体からすれば補集合の扱いに甘んじ,時に無視されてきたのではないかと思います.しかし,この不確実な領域への関心と探索がなければ,全体をつかむことはできないでしょう.コントロール可能な壁の中の世界にだけ生きていたのでは,エルディア人たちは自分たちの始祖のことを決して知り得なかったのではないでしょうか(『進撃の巨人』).本書にはその不確実性をも可能な限り言語化して構造化する試みが随所にあり,本邦で現在これに比肩する類書は存在しないとみます.

—岩田 健太郎 著・監訳—シュロスバーグの臨床感染症学 第2版—Schlossberg's Clinical Infectious Disease, Third edition フリーアクセス

著者: 倉原優

ページ範囲:P.2111 - P.2111

 総重量2.7 kg.このシュロスバーグの本の重さである.40代になり筋力も衰えた今,これを片手で持つのは至難の業だ.両手でやさしく扱う.何より,好きな本だから落としたくない.最近は,医学書の多くがオンラインコンテンツ化されてしまった.たとえそうでなくとも,医学書を裁断してPDF化している医師は多いかもしれない.しかし,私のような中堅医師にはデジタル教科書をうまく使いこなせない頭の硬さがある.文字は画面を拡大すれば見えるが,それだとページの全体像が分からないなどのデメリットがある.そのため,医局の本棚に置いておき,パッと取り出せるスタイルを私は好む.シュロスバーグは持ち歩く書籍ではないので,どうしてもそういう本になる.
 この本は,疾患としての切り口,病原体としての切り口で縦横にスパスパと感染症が細断されていて,たとえるならサイコロステーキのような食べやすい仕上がりになっている.個々の著者独自の視点もあって,スパイシーであったり素材の味を活かしたり,味変が楽しめる秀逸なパーティ料理といえる.また,図表は重要なポイントにしぼって冗長にならず,写真・図は基本的にフルカラーである.盛り付けもよいというわけだ.日本語の全訳にある程度時間を要しているため,決して最新のエビデンスが網羅されているわけではないが,含まれている情報量は驚愕に値する.感染症学の「辞書」といっても過言ではない.

—福井 次矢,奈良 信雄,松村 正巳 編—内科診断学 第4版 フリーアクセス

著者: 田中雄二郎

ページ範囲:P.2138 - P.2138

 8年ぶりに改訂された『内科診断学 第4版』は,学生や研修医のみならず,すべての医師の学び直しのためにもお薦めしたいと思います.
 学生たちには,患者さんは「くも膜下出血できました」とは言わず,「頭が痛くて何とかしてほしい」「こんな頭痛は経験したことがない」「まるで頭をハンマーで殴られたようだ」と言ってくるのだと話します.

—井上 浩輔,杉山 雄大,後藤 温 著—医学研究のための 因果推論レクチャー フリーアクセス

著者: 玉腰暁子

ページ範囲:P.2157 - P.2157

 近年,医学・公衆衛生学において因果推論の重要性が高まっています.因果推論によって,より適切な治療や保健指導法を選択できるようになるのはもちろん,医療資源の配分を検討する一助にもなるからです.本書『医学研究のための因果推論レクチャー』は,日本疫学会や日本公衆衛生学会でも活躍されている新進気鋭の研究者である井上浩輔先生(京都大学大学院特定准教授),杉山雄大先生(筑波大学教授/国立国際医療研究センター研究室長),後藤温先生(横浜市立大学主任教授/日本疫学会理事)が,臨床疫学研究や疫学研究に携わる方々に向けて,因果推論の考え方と手法を解説した一冊です.
 医学研究のなかでも特に治療や予後を扱う臨床研究や病因を扱う疫学研究の目的は,介入できる要因を見つけ,適切な治療法や予防法を見出すことです.そのためには,単に統計学的な関連にとどまらず,因果にいかに迫るかが重要なのは,研究に携わるすべての研究者が認識している点でしょう.

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ページ範囲:P.2030 - P.2032

読者アンケート

ページ範囲:P.2195 - P.2195

購読申し込み書 フリーアクセス

ページ範囲:P.2198 - P.2198

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.2199 - P.2199

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.2200 - P.2200

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 その知見は臨床を変える?—エキスパートが解説! 内科における最新論文

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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