icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina61巻2号

2024年02月発行

雑誌目次

特集 今どきの手技を見直し,医療処置でのトラブルを防ぐ—経験値ごとの気をつけるべき合併症や工夫

特集にあたって

著者: 西垂水和隆

ページ範囲:P.210 - P.211

 『medicina』の読書層の多くは,いまさら手技に関して勉強するまでもなく日常的に手技をこなしているだろうし,あるいは最近ではもっぱら後輩に任せているかもしれない.私なども老眼に加えて関節まで痛くなっているので,最近やった手技といえば摘便くらいしか思い出せない.しかし実際は,とても手技をやりたい.ただ残念ながら声もかからない.研修医が最初に手技を行い,困難な場合には中堅が行う.中堅医師もできなかった場合にやっと私に回ってくるかと期待しているが,若干老眼がましな同僚がやってしまう.
 手技は成功すると気持ちいい.患者にはまだ何も治療していないのに,なぜかすでに達成感がある.一方で失敗すると一日中自信をなくし,医者も辞めたくなる.最も手技の成功率に寄与したものは,エコー検査だと思われる.今回の特集では,多くの手技にエコーガイド下での方法が紹介されていると気付かれるだろう.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.212 - P.216

●今月の特集執筆陣による出題です.医療処置でのトラブルについての最新トピックスに関する理解度をチェックしてみましょう!

総論

手技に関する心構え・トラブル発生時の対応—「この手技は本当に患者のためになるのか?」を常に念頭に!

著者: 西垂水和隆

ページ範囲:P.218 - P.221

Point
◎「この手技は本当に患者のためになるのか?」と考える.
◎起こりうる合併症を知り,対応手段を準備しておく.
◎トラブル発生時の当事者を,周囲がバックアップすることも大切である.

同意書が必要な医療行為—同意書を書いてもらっているから大丈夫でしょ!?

著者: 星哲哉

ページ範囲:P.222 - P.225

Point
◎医療行為のために必要なのは同意書ではなく,有効同意である.
◎有効同意に達していない同意による同意書は効力をもたない.
◎有効同意取得のためには,患者サイドに立った説明,患者との信頼関係に基づく共同意思決定(SDM)が必要である.
◎すべての医療行為は同意が必要であるが,同意書が必要ではない.同意書が必要な医療行為を各医療機関で決めておくことも大事である.

気道・呼吸関連

換気困難—BVMを押してもSpO2が上がらないとき…何か間違っている?

著者: 市來征仁

ページ範囲:P.226 - P.230

Point
◎換気困難〔バッグ・バルブ・マスク(BVM)を押してもSpO2が上がらないとき〕は,以下の要領で迅速に対応する.
◎酸素やSpO2モニターに問題はないかを確認する.
◎頭部後屈顎先挙上・下顎挙上の体位で換気されていて,マスクはフィットしているかを確認する.
◎マスクがフィットしていない場合,片手EC法→両手法で換気してみる.
◎換気できない場合は,エアウェイを挿入したり,声門上器具を挿入したりしてみる.
◎それでも換気できず,気管挿管もできなければ,輪状甲状靱帯穿刺・切開などの外科的気道管理が必要となる.

換気不能—換気すらできずにSpO2がどんどん低下…もうやるしかない!

著者: 上原悠也

ページ範囲:P.232 - P.235

Point
◎とにかく人を呼ぶ.用手換気に勝るものなし.
◎気管切開は最終手段である.最も重要なポイントは指!
◎お手軽な「穿刺セット」で,1時間はもたせることができる.
◎気管切開は十分に準備をした人にのみ許される手技である.

気管内挿管—声帯がときどき見えている…もうちょっとなんだけど

著者: 畠中成己

ページ範囲:P.236 - P.241

Point
◎気管内挿管に当たって注意すべき点や合併症,ビデオ咽頭鏡などの使い方を知っておく.
◎まずは1つひとつの手技を確実に行うことが大切である.
◎患者の気道を速やかに確保し,その後の治療につなげるようにする.

挿管困難—喉頭蓋らしきものは見えるけど…このままでは入らない

著者: 加倉健太郎

ページ範囲:P.244 - P.248

Point
◎改訂Cormack-Lehane分類を学び,共通言語として現場で伝えられるようになる.
◎LEMONを含むABC planningのアセスメントに習熟する.
◎ビデオ喉頭鏡や声門上器具,ガムエラスティックブジー(GEB)の使用方法を習得する.
◎気管挿管後の留置確認方法として,カプノメーターのほかに気道エコーも検討する.

高流量鼻カニュラ(HFNC)—使いどき,やめどき…大袈裟なネーザルカニューレ?

著者: 中村倫丈

ページ範囲:P.249 - P.255

Point
◎高流量鼻カニュラ(HFNC)は,さまざまな生理学的効果から呼吸不全の病態改善を図る,革新的な酸素療法である.
◎呼吸不全だけでなく,抜管後やハイリスク患者,do not intubate(DNI)や緩和症例への適応もあり,使用しやすい.
◎有害事象の報告は少なく安全であるものの,モニターやアラームはないため,使用する際には患者背景の理解や身体所見の観察が重要となる.
◎DNI症例や緩和・終末期の使用場面も増えており,長期間の使用では医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)などのトラブルに注意する.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月28日まで公開)。

非侵襲的陽圧換気(NPPV)—ずっと付けていたら,顔がただれて…いつ外せるの?

著者: 和田忠久

ページ範囲:P.256 - P.259

Point
◎非侵襲的陽圧換気(NPPV)を用いることで,気管挿管による合併症を回避できる.
◎NPPVの使用が最も適した疾患は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪と心原性肺水腫である.
◎NPPVの合併症として,マスクに関連するものと高流量送気によるものに注意が必要である.
◎NPPVの開始時や設定変更時などは,特に注意深いモニタリングが必要である.
◎COPD患者への在宅NPPVも,近年使用が増加している.

気管内吸引—痰がゴロゴロしているんだけど…取りたい〜

著者: 大内田良真

ページ範囲:P.260 - P.263

Point
◎気管内吸引は侵襲的処置であり,「見て・聴いて・触れる」を意識し,本当に必要な場合に実施する.
◎推奨される吸引カテーテルサイズ・吸引圧・吸引時間・挿入長を意識し,遵守する.
◎加温加湿や水分管理を行い,体位ドレナージ・スクイージングを駆使し排痰を促す.
◎良質な喀痰検体確保にも有用で,肺炎治療における抗菌薬選択を適正化しうる.

気管切開チューブ—気管切開チューブを交換しただけなのに酸素化低下・血だらけ…なぜ?

著者: 大西崇平

ページ範囲:P.265 - P.268

Point
◎気管切開チューブの交換は日常業務であり,どの立場の医師も知っておく必要がある.
◎気管切開チューブ交換時の合併症は気道緊急となる.
◎稀な合併症に気管腕頭動脈瘻がある.

心血管関連

末梢ルート確保—ベテランナースでも確保困難なのに無理だよ…エコーを使おう!

著者: 能美康彦

ページ範囲:P.269 - P.274

Point
◎駆血帯の巻く位置や本数に留意しつつ,適切な血管の同定に全力を注ぐ.
◎穿刺後は逆血が来てからが勝負.すくい上げるイメージで針を進める.
◎エコーガイド下末梢静脈路確保や外頸静脈,大腿動・静脈確保などの切り札の訓練をしておく.
◎エコーガイド下末梢ルート確保時には,①有効長の長い針,②術者用の椅子,③肢位の固定器具を準備して臨む.
◎終末期ではケアのゴールに照らして輸液の必要性を検討するが,皮下輸液は非侵襲的かつ有効であり,施設基準に照らして利用を検討する.

中心静脈カテーテル(CVC)留置—合併症のバリエーション豊か…まさかこんな所にカテ先が!

著者: 細川旬

ページ範囲:P.275 - P.285

Point
◎中心静脈カテーテル(CVC)の留置は致死的な合併症が起こり得る手技であるため,十分な準備が重要である.
◎CVCの留置前に,必要性や適応について改めてチームで考えることが必要である.
◎穿刺はout-of-plane法(短軸交差法)を用いてdynamic needle tip positioning(DNTP)で血管内に針先を進めることで,誤穿刺のリスクを減らせる.
◎誤穿刺による出血が止血困難となる可能性が高い場合は血管外科医などに相談する.
◎内頸静脈のCVCを抜去する際は,空気塞栓予防のために臥位に吸気で止めたタイミングで抜去する.

動脈穿刺・Aライン留置—脈に触れない…やっぱりエコーが必要だよね!

著者: 留岡史樹

ページ範囲:P.287 - P.290

Point
◎動脈穿刺やAライン留置が必要となる状況と,それぞれの場合に選択する血管を理解する.
◎手技のコツと手順,注意するべき点を理解する.Aラインは末梢側か中枢側のどちらに入れるのがよいのか?
◎起こりうる合併症である仮性瘤,動静脈瘻,血腫,神経障害の予防と対処を知っておく.
◎エコーガイド下穿刺の利点やエコーガイド下で穿刺する際のコツを知っておく.
◎最近のトピックである遠位橈骨動脈穿刺についても押さえておく.

末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)—CVや末梢ルートとの違いは?

著者: 谷村利行

ページ範囲:P.291 - P.295

Point
◎使用するカテーテルのメリットとデメリットを考えて選択し,使用する.
◎医療安全と患者の満足度の向上のために,安全な挿入方法が重要である.
◎挿入後の感染と血栓形成の予防が重要であり,早期抜去を心がける.
◎多職種介入することで,医師の業務負担と合併症の軽減につながる.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月28日まで公開)。

不整脈治療—循環器内科医がいない…それでも緊急処置するしかない!

著者: 火箱圭太 ,   芹澤良幹

ページ範囲:P.296 - P.302

Point
◎不整脈の対応はまず血行動態の把握を行い,鑑別の前に初期治療対応の必要性があるかを検討する.
◎narrow QRS/wide QRS complex tachycardiaのアプローチと緊急対応を押さえる.
◎症候性徐脈と心室頻拍は“cardiac emergency”と心得て対応する.
◎頻脈性・徐脈性不整脈をみたら必ず初期対応と並行して原因検索を行う.

穿刺・ドレナージ関連

胸腔穿刺・ドレナージ—チューブの太さって関係ある?…皮下気腫でマッチョに!

著者: 田中友樹

ページ範囲:P.304 - P.307

Point
◎胸腔穿刺・ドレナージ術は診断・治療を目的に広く行われる.
◎合併症が起こると考え,安全に処置を行うことを心がける.
◎必要に応じて,躊躇せずに他科へ相談する.

腹腔穿刺・ドレナージ—穿刺したら血性でした…手術だね

著者: 伊藤貴祥

ページ範囲:P.308 - P.311

Point
◎穿刺位置は解剖学的位置を参考にしつつ,可能な限りエコーを用いて決定する.
◎腹水漏出は合併症として頻度が高い.Zトラック法で穿刺するように心がける.
◎稀な合併症についても確認し,適切に対処できるようになる.

膿瘍穿刺—膿瘍は局所的とは限らない! 大局的な判断が必要なことも

著者: 大塚暢

ページ範囲:P.312 - P.317

Point
◎膿瘍は体表面にある場合は切開排膿で治癒するが,膿瘍の場所や全身状態によっては深刻な状態を意味することがある.
◎特に,穿刺して得られた情報と臨床像をいかに結びつけるかが大切になる.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月28日まで公開)。

経鼻胃管(NGT)—入らなくてもう1時間…また口から出てきた!

著者: 横山大輔

ページ範囲:P.318 - P.323

Point
◎経鼻胃管(NGT)挿入はごく一般的な手技だが,合併症を避けるために手技の工夫を行いつつ,安全に実施する必要がある.
◎患者の体位を調整し,修正/補助手技を活用することで,患者の負担軽減や挿入成功率の上昇,合併症の軽減を図ることができる.
◎合併症としては,鼻/咽頭部の出血・コイリング・位置不良が多く,気管や肺への誤挿入に注意が必要である.
◎ブラインドでの挿入後のNGT位置および先端部の確認は,X線検査にて実施する.
◎NGT位置確認としてのエコーの活用は,患者への侵襲度やさまざまな場面への汎用性の観点から,今後必須の手技と言える.

尿道カテーテル—入ったと思うんだけど…尿が出ずに血が出てきた!

著者: 林恒存

ページ範囲:P.324 - P.329

Point
◎尿道カテーテル挿入・留置は,看護師によっても実施される頻度の高い手技の1つである.
◎多くの場合は基本的手順を踏めばスムーズかつ安全に完了できる手技だが,実施機会が多いからこそ想定外のトラブルにも直面する可能性がある.
◎トラブルが生じた際に,可能性の高い原因を見極めたうえで,自身で対処可能か,あるいは専門医に委ねるべき状況であるかを適切に判断できることが重要である.

関節穿刺—感染性かな?…一滴でも欲しい!

著者: 中村大悟

ページ範囲:P.330 - P.334

Point
◎関節炎では,結晶性関節炎や化膿性関節炎を疑い,関節穿刺を行う.
◎穿刺液が少量の場合は,細菌培養を優先させる.
◎関節穿刺は,皮膚軟部組織感染症が疑われる場合は行わない.
◎関節穿刺は必ず無菌的操作で行う.

腰椎穿刺—なんでどこ刺しても骨に当たるの?…もっとエビの姿勢とらせて!

著者: 石川そでみ

ページ範囲:P.335 - P.339

Point
◎腰椎穿刺では,ポジショニングが最も大切である.
◎腰椎穿刺後頭痛は,頻度の高い合併症である.
◎穿刺困難例ではエコーやX線,CT,MRIで事前の画像評価を行う.

消化器系

胃ろう交換—交換手技とトラブル…ちゃんと対応できますか?

著者: 西森識

ページ範囲:P.340 - P.343

Point
◎胃ろう交換時の合併症は,時に致命的になることもあるため,胃ろうボタンの種類や交換手技を理解しておく必要がある.
◎胃ろうトラブルの内容はさまざまであるため,原因を正しくアセスメントし,対応することが重要である.

ストーマ装具交換—かぶれへの軟膏処方,ホントにOK?

著者: 福留由香利

ページ範囲:P.344 - P.349

Point
◎基本的なストーマ装具交換の手順を知っておく.
◎ストーマ周囲皮膚障害は排泄物の接触による皮膚炎が多く,塗布剤の使用はせずストーマ装具などの工夫で改善する.
◎ストーマ周囲皮膚障害には稀にがんやその他の病態が隠れていることがあるので,しかるべき診療科へのコンサルトが必要となる.

便秘や下血,肛門痛—覗いてはみたものの…指を入れてみたものの…

著者: 篠浦丞

ページ範囲:P.350 - P.355

Point
◎相手が同性でも異性でも,直腸診・肛門鏡前に看護師に同席してもらう.
◎指を入れる前に肛門と会陰部をしっかりと観察する(裂肛,血栓性痔核,皮垂,痔瘻,肛門周囲膿瘍,Fournier壊疽,尖圭コンジローマ).
◎ひだを乗り越え,腸管壁を正しく触診しているかに注意を払う.
◎宿便患者や腹痛を伴う排便困難を訴える患者では,穿孔や腸閉塞を想起する.
◎直腸潰瘍は穿孔や敗血症,出血の原因に,急性前立腺炎患者の直腸診は菌血症の原因になりうる.

ヘルニア治療—何か飛び出てます!…嵌頓かどうか?

著者: 上原悠也

ページ範囲:P.356 - P.359

Point
◎高齢者や嘔吐している患者の場合は,鼠径部までしっかり診察する.
◎鼠径部に硬い膨隆を発見したら,今まで鼠径ヘルニアの既往がなければ小腸壊死の可能性も考慮して,高次医療機関に紹介する.
◎鼠径ヘルニアを繰り返している場合は還納(非観血的整復)をトライする.押してダメなら引いてみる.
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月28日まで公開)。

小外科や治療

褥瘡処置—入院後にできたの?…すみません,背中を見ていませんでした

著者: 米澤美智代

ページ範囲:P.360 - P.364

Point
◎褥瘡は発生原因をまず追究し,原因を取り除くケアと同時に局所治療を進めていく.
◎深部損傷褥瘡(DTI)を疑う所見がある場合は,注意して観察を怠らない.
◎深い褥瘡の治療は,DESIGN-R® 2020で評価しながら治療を進める.
◎感染が生じている場合は,感染コントロールを優先して行う.
◎創傷衛生(wound hygiene)でバイオフィルムに早期から対処する.

緊急の鎮痛・鎮静法—暴れて診察できない…まずは除痛でしょ!

著者: 仲里信彦

ページ範囲:P.365 - P.370

Point
◎患者は,疾病や病変に伴う痛みだけではなく,特定の検査・治療に対しても痛みや不安を感じる.
◎鎮痛・鎮静法を使用した場合,有害な事象が一定の確率で起こりうるが,それを予測することで最小限にすることができる.

薬液投与に関するトラブル—治療のつもりが…医原性の合併症

著者: 黒川智美

ページ範囲:P.371 - P.376

Point
◎末梢ルートからの薬液投与における合併症は血管痛や静脈炎,血管外漏出が多い.
◎静脈炎や血管外漏出は,早期発見と速やかな抜針が重要である.
◎合併症リスクの高い薬剤と対策を知っておく.

連載 日常診療で役立つ 皮膚科治療薬の選びかた・使いかた・2

ステロイド外用薬② 強さの選びかた

著者: 松田光弘

ページ範囲:P.201 - P.205

Q問題
図11)の皮疹に使用するステロイドのランクは?

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・32

足の裏がびりびりする.足が変な感じ! 足の末梢神経障害③/外側大腿皮神経障害の治療

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.377 - P.381

 「年を取ってから足がしびれるようになった」という主訴で外来にやってくる患者さんによくお目にかかります.よくよく話を聞くと,むずむず足症候群だったり,腰椎椎間板ヘルニアだったりします.しかし,足の裏と言われると,神経根症以外の疾患が思い浮かびにくいかもしれません.本症例は,「足裏のしびれ」を訴える患者さんの鑑別疾患の1つとなると思います.それでは,一緒に勉強していきましょう!

ERの片隅で・11

突然発症宣言

著者: 関根一朗

ページ範囲:P.382 - P.383

 日曜日の朝、救急外来の出入口から外を眺めると風に舞う粉雪が見える。振り返って救急外来の待合を眺めると、診察を待つたくさんの人が見える。救急外来の混雑を考慮して、救急医関根は診察待ち時間の目安を書いた貼り紙を待合に掲示している。
 研修医が関根を探して待合にやってきて、Walk-in受診した患者の方針についてプレゼンを始める。「54歳女性、急性上気道炎の患者です。昨日からの咽頭痛と倦怠感で受診されました。発熱はないんですが、糖尿病の既往があるのでコロナの迅速検査を施行しようと思います。」掲示した貼り紙を眺めながら関根が尋ねる。「身体診察で異常所見はあったかい?」研修医は答える。「本人はかなり辛そうなんですが、咽頭発赤やリンパ節腫脹など異常所見はありませんでした。流涎や嗄声もなく、急性喉頭蓋炎や深頸部膿瘍も疑わしくないです。」関根は首を傾げながら研修医の目を見る。「おや、“Pain out of proportion”か。」研修医はキョトンとして聞き返す。「ペイン、アウトオブ…なんですか?」関根は診察室のほうに歩き出しながら答える。「“Pain out of proportion”は、診察所見の見た目に比して、痛みの訴えが強いことを言うんだ。異常所見がなくて安心するのではなく、むしろ緊急疾患を疑えってことだね。一緒に診察してみようか。」

知らないとヤバい! リウマチ・膠原病のアレやコレ・6

RA治療中のヤバい病態! その④「単関節炎」—リウマチ加療中にも生じる化膿性関節炎を見逃すな!(後編)

著者: 猪飼浩樹

ページ範囲:P.384 - P.390

症例
70代女性
糖尿病・脂質異常症でかかりつけクリニックAを受診中.関節リウマチも併存しており近医クリニックBで加療中.クリニックAでは関節リウマチの最近の状況は普段あまり聞いていない.
クリニックAの直近の外来で,右膝関節の痛みと腫れが急に生じてきたと訴えがあった.クリニックBの次回外来は1週間後と聴取したため,その受診時にリウマチの先生に相談するようにと伝えた.
数日後,総合病院から照会依頼があり,「化膿性関節炎および敗血症性ショック」で集中治療室入院していることが判明した.

目でみるトレーニング

問題1081・1082・1083

著者: 北村淳史 ,   秋山光浩 ,   樋口大

ページ範囲:P.391 - P.397

明日から主治医! 外国人診療のススメ・11

医療現場における多文化間コミュニケーション

著者: 上里彰仁

ページ範囲:P.398 - P.401

CASE
予後が悪い外国人患者の診察場面にて.
外国人患者)先生,私は治りますか?
日本人医師)ちょっと難しいかもしれませんね.
外国人患者)私は努力家なので大丈夫です! 治せます!
日本人医師)(誤解させてしまったようだな…)

書評

—松原 知康,茂木 恒俊 監修—『マイナーエマージェンシー はじめの一歩』

著者: 仲田和正

ページ範囲:P.243 - P.243

◆マイナーエマージェンシーは一人当直のとき,ある夜突然やって来る
 私は1978年に自治医大を卒業し2年半の全科ローテート研修をした後で僻地病院に赴きました.学生時代『Harrison's Principles of Internal Medicine (ハリソン内科学)』は読了していたのでそれなりに自信を持って赴任したのですが,それでも2年半ばかりの研修では全く足りないことを思い知らされました.
 理想的には最低でも5,6年全科のローテート研修をした後で専門科目を選ぶべきだと思いました.

—福井 次矢 監訳—『内科マインドマップ 記憶と想起の枠組み・構造』—(原著タイトル:Mind Maps for Medicine)

著者: 志水太郎

ページ範囲:P.286 - P.286

 「内科は整理の学問である」というのは自分が内科医としての師から教わった言葉である.現在自分は大学病院の総合診療科で勤務している.総合診療だけに診断に難渋するケースに対応することも多いが,そんなときは古典的なdual process theory(二重プロセス理論)に基づくいわゆるSystem 2の分析的思考を運用する必要がある.分析的思考を運用するには医学知識が整理されて頭の中にIndexとしてまとめられていることが大事であり,さらに,それぞれの主題となる情報(例えば,疾患名や症候名のラベル)がさまざまな見え方や切り口(疾患名であれば,症状や診察所見,検査所見.症候名であれば,発症様式の分類や随伴症状)で構成されていることから,その見え方や切り口の数々が主題から枝を伸ばした形でそれぞれ視覚的に表現されるなら,その枝が別の主題の枝とつながる形でハブになり,それぞれ主題同士の情報に有機的に接続することで広大なマップが形成されていく.そして,診断の際にもそのマップを用いることは有用である.例えば,糖尿病の既往がある80歳男性が急性発症の右下腿痛で来院されたとする.
 ここでは,「80歳男性」「糖尿病」「急性発症」「右下腿痛」がいわゆる主題の情報となるであろう.80歳男性では,悪性腫瘍のリスク,退行性病変のリスク,血管リスク,感染リスクを伴い,糖尿病からは血管リスク,感染リスク,また自律神経障害による感覚異常も伴っているであろう.このような患者の背景からは,少なくとも二重の血管リスク,感染リスクがあることがわかる.急性発症の経過は血管や感染の病因としても違和感がない.もちろん自己免疫や薬剤性もあるが,その曝露情報や背景情報はないので筆頭の可能性には来ないであろう.このような状況での右下腿痛であり,想起されるのが下腿の深部静脈血栓症(DVT)や動脈閉塞,そして蜂巣炎(蜂窩織炎)や重度であれば壊死性筋膜炎というものになる.思考回路を視覚化すると,これらの主題同士の枝がシナプスしてつながることで,全体の疾患が浮き上がってくるのではないだろうか.

—中島 俊 著—入職1年目から現場で活かせる!—こころが動く医療コミュニケーション読本

著者: 石川ひろの

ページ範囲:P.303 - P.303

 この20年ほどの間に,日本の医療者教育においても,コミュニケーションは医療者が身につけるべきコンピテンシー(能力)の1つとして広く認識されるようになってきた.客観的臨床能力試験(OSCE)の導入などと相まって,コミュニケーションは教育可能,評価可能な能力としてとらえられるようになるとともに,そこでは特にスキルの教育に焦点が当てられてきた.時に「マクドナルド化」と揶揄されながらも,学生だけでなく教育に携わる医療者の意識を大きく変え,全体としての医療者のコミュニケーション能力を底上げしてきたことは間違いないだろう.一方で,卒後のコミュニケーション教育は,それほど系統立って行われてはおらず,それぞれの現場に依存しているのが現状である.本書は,学部教育の先のコミュニケーションについて,何をどう学んだらよいかの手がかりになる一冊である.
 本書は,臨床心理士でもある著者による『週刊医学界新聞』の連載「こころが動く医療コミュニケーション」に大幅な加筆,書き下ろしを加えてまとめられたものである.「入職1年目から現場で活かせる」ような場面やトピックを取り上げ,基本的かつ実践的なコミュニケーションのスキルがバランスよく紹介されている.患者さんとのコミュニケーションだけでなく,医療者同士のコミュニケーションも含め,コミュニケーション研究のエビデンスに基づくスキルや対処方法が具体例とともにわかりやすくまとめられているという点で,まさに明日から使える実践書と言える.

--------------------

目次

ページ範囲:P.206 - P.209

読者アンケート

ページ範囲:P.403 - P.403

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.404 - P.405

購読申し込み書

ページ範囲:P.406 - P.406

次号予告

ページ範囲:P.407 - P.407

奥付

ページ範囲:P.408 - P.408

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?