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雑誌目次

雑誌文献

medicina61巻8号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 “とりあえずスタチン”から脱却!—動脈硬化性疾患一次予防・最新の考え方

特集にあたって

著者: 藤吉朗 ,   吉田博

ページ範囲:P.1194 - P.1195

 心疾患,脳卒中はわが国の死因の上位を占め,超高齢社会に突入したわが国ではこれら循環器疾患の一次予防に資する医療の発展・普及が望まれます.循環器疾患のなかでも冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞は粥状動脈硬化を基盤とする“動脈硬化性疾患”ですが,近年のわが国では脂質異常症・糖代謝異常・肥満(メタボリックシンドローム)の増加や,動脈硬化性疾患自体の増加を示唆する報告があり,学童・青少年期から生涯にわたった動脈硬化性疾患予防の必要性が叫ばれています.このような時代の要請に応えるべく,2022(令和4)年に『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』が日本動脈硬化学会から発刊され,翌年『2023年改訂版冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン』が日本循環器学会から発表されました.しかし,これらのガイドラインを隅から隅まで熟読するのは,忙しい臨床家にはかなり容易ではない面もあると思います.
 そこで本特集では,最新の科学的知見や臨床の現況も網羅しながら,特にプライマリ・ケア医など,循環器疾患の診療が専門ではない臨床医も想定し,動脈硬化性疾患を取り巻く幅広い分野を「疫学」・「診断」・「治療」・「生活習慣」・「トピックス」の範囲から計25セクションに分け,各セクションの最新情報について当該分野の専門家から解説していただきました.執筆にあたり,これまで本誌に寄せられた読者諸氏からの疑問にも可能な限り答えていただき,図表などで理解しやすい内容となるよう配慮いただきました.

特集を読む前に あなたの理解度チェック!

ページ範囲:P.1196 - P.1200

●今月の特集執筆陣による出題です.動脈硬化性疾患に関する理解度をチェックしてみましょう!

疫学

動脈硬化性疾患(脳梗塞を含む)の疫学

著者: 秦淳

ページ範囲:P.1202 - P.1206

Point
◎わが国の疫学研究によると,高血圧管理の向上に伴い脳梗塞の罹患率は時代とともに低下している.
◎久山町研究によると,脳梗塞に占めるラクナ梗塞の割合は時代とともに低下し,アテローム血栓性脳梗塞と脳塞栓症の占める割合が相対的に増加している.
◎急性心筋梗塞の罹患率の時代的推移を検討したわが国の疫学研究の成績は一致しておらず,地域差の存在が示唆される.
◎高コレステロール血症は冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞に共通の危険因子である.
◎今後の動脈硬化性疾患の発症予防においては,糖尿病,高コレステロール血症,肥満など代謝性危険因子の管理が重要である.

脂質異常症の疫学

著者: 東山綾

ページ範囲:P.1207 - P.1211

Point
◎わが国の代表集団を対象に,1980年以降の時代的変遷を追える血中脂質の指標は血清総コレステロール(TC)値である.30歳以上での血清TC平均値は,1980〜1990年代にかけて大きく上昇し,その後はほぼ横ばいであるが,近年は若い世代で上昇傾向にある.
◎欧米先進国における国民のTC平均値はわが国より大幅に高かったが,現在は低下傾向にあり,わが国の値より低くなっている可能性も示唆されている.
◎日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では,個人の動脈硬化性疾患発症リスクに基づく脂質管理区分にかかわらず,LDLコレステロール(LDL-C)が180 mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮することが推奨されている.レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)によると,LDL-Cが180 mg/dL以上の集団における治療率は男女とも40〜69歳で10%未満であり,ガイドラインに基づく治療の推進が望まれる.

診断

動脈硬化性疾患を見逃さない!—問診,身体診察,検査の進め方

著者: 原眞純

ページ範囲:P.1212 - P.1216

Point
◎動脈硬化性疾患予防のためには,個々の患者のリスクを判定し,リスクに応じた管理目標を立案することが重要である.
◎すでに脳心血管疾患を有する二次予防患者,糖尿病や慢性腎臓病(CKD),末梢動脈疾患(PAD)などの高リスク病態,家族性高コレステロール血症は特に高リスクであり,最初に評価する必要がある.
◎明らかな心血管疾患の存在,二次性高血圧や妊娠中の糖尿病など,診断や治療に苦慮する場合には,迷わず専門医に紹介する.

動脈硬化性疾患における画像診断の進歩①—心臓足首血管指数(CAVI)/脈波伝播速度(PWV)

著者: 齋木厚人

ページ範囲:P.1218 - P.1223

Point
◎心臓足首血管指数(CAVI)は血圧依存性のないstiffness parameter β理論に基づいた,血管固有の硬さを測定しうる血管機能検査法である.
◎CAVIは年齢とともに高くなり,女性より男性で高く,動脈硬化性疾患を有する患者で高い.
◎CAVIは糖尿病,高血圧,脂質異常症を有する患者で高く,それらに対する治療で低下する.
◎CAVIは肥満度の指標であるBMIと負の相関を示すが,腹部肥満の指標である内臓脂肪面積やa body shape index(ABSI)とは正相関する.

動脈硬化性疾患における画像診断の進歩②—頸動脈超音波検査/冠動脈CT検査

著者: 岩谷俊之 ,   南尚賢 ,   阿古潤哉

ページ範囲:P.1224 - P.1228

Point
◎頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)の肥厚は動脈硬化危険因子と関連し,脳・心血管イベントの予測因子である.
◎冠動脈石灰化は粥状硬化総量と相関があり,石灰化スコアは心血管イベントとの相関が報告されている.
◎頸動脈IMT,石灰化スコアともに,一次予防におけるリスク層別化の一環として評価することに対するエビデンスは十分ではない.

動脈硬化性疾患における画像診断の進歩③—血管内イメージング

著者: 久保隆史 ,   北村美樹 ,   岩崎陽一

ページ範囲:P.1229 - P.1233

Point
◎急性心筋梗塞や不安定狭心症を発症する危険性の高い冠動脈病変をvulnerable plaqueと呼ぶ.
◎thin-cap fibroatheroma(TCFA)はプラーク破裂による冠動脈血栓症の前駆病変である.
◎血管内イメージングは冠動脈イベントを発症する危険性の高い病変を同定できる.
◎血管内イメージングは薬物治療による冠動脈プラークの安定化を観察できる.
◎血中LDLコレステロール(LDL-C)値を下げるほど冠動脈プラークは安定化し退縮する.

遺伝子診断の展望—脂質異常単一遺伝子疾患から多因子疾患

著者: 多田隼人

ページ範囲:P.1234 - P.1239

Point
◎脂質異常症や冠動脈疾患は遺伝しうる形質であり,遺伝子診断はきわめて有用である.
◎遺伝子診断により,リスク層別化につながる場合がある.
◎高頻度遺伝子多型(SNV)に基づくpolygenic risk scoreと呼ばれる考え方が登場した.

治療

包括的治療の考え方

著者: 鎌倉健人 ,   関口健二

ページ範囲:P.1240 - P.1246

Point
◎医療における“包括的”とは,疾患の多様性(一次予防〜三次予防,急性期〜慢性期を含む)と全人的医療(「患者中心の医療の方法」を用いた実践)という2つの要素がある.
◎『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(JAS 2022)での改訂により,高トリグリセライド(TG)血症の診断基準に随時TG 175 mg/dLも含まれるようになった.
◎動脈硬化性疾患(ASCVD)の一次予防における脂質管理目標値を定めるうえで,従来用いられていた吹田スコアからアテローム血栓性脳梗塞をアウトカムに含めた久山町スコアが用いられるようになった.
◎JAS 2022では糖尿病で合併症や喫煙がある場合には,より厳格な目標値(LDLコレステロール<100 mg/dL)が設定された.
◎疾患の多様性を担保しつつ個々の症例に応じた全人的医療を提供するという,2つの包括性を実践することが本当の意味での包括的治療である.

LDLコレステロール(LDL-C)治療の考え方

著者: 塚本和久

ページ範囲:P.1248 - P.1253

Point
◎LDLコレステロール(LDL-C)は動脈硬化性疾患の重要な危険因子の1つである.
◎一次予防症例では久山町スコアを用いて絶対リスク評価を行う.
◎LDL-C管理目標値は以前よりも厳格なものとなっている.
◎スタチンに加えてエゼチミブとPCSK9阻害薬の登場で,LDL-C管理目標値達成は可能となっている.
◎今後は過不足のない脂質異常症治療が肝心である.

non-HDLコレステロール(non-HDL-C),トリグリセライド(TG),HDL-Cを鑑みた動脈硬化性疾患の予防戦略—脂質異常症治療薬の使い分け

著者: 増田大作

ページ範囲:P.1254 - P.1261

Point
◎肥満・耐糖能異常の増加により高トリグリセライド(TG)・低HDLコレステロール(HDL-C)血症が増加し,心血管疾患イベントリスクが増加している.
◎残余リスクとしての高レムナント血症の管理にはnon-HDL-C血症に対する治療介入が重要である.
◎高LDLコレステロール(LDL-C)血症が管理された後,残存するnon-HDL-C血症の管理にフィブラート系薬,選択的PPARαモジュレーター,エイコサペンタエン酸(EPA)を用いる.

動脈硬化性疾患予防からみた血圧管理

著者: 鍋嶋洋裕 ,   田中敦史 ,   野出孝一

ページ範囲:P.1262 - P.1267

Point
◎本邦のコホート研究から,高血圧治療介入への遅れと動脈硬化性疾患発症の関連性が指摘されている.
◎大規模スタディで厳格な降圧管理による脳心血管イベントのリスク低減効果が示されたことから,最新のガイドラインでは,75歳未満成人の降圧目標は130/80 mmHg未満とされた.
◎降圧薬の脳心血管疾患抑制効果は,その種類ではなく,降圧度に依存すると考えられており,速やかな降圧を目指したい.

動脈硬化性疾患予防からみた血糖管理

著者: 八代諭 ,   石垣泰

ページ範囲:P.1268 - P.1273

Point
◎血糖コントロール不良が動脈硬化性疾患発症リスクであり,早期から長期間にHbA1cを良好に維持することが重要である.
◎糖尿病細小血管合併症(網膜症,腎症,神経障害)を有する糖尿病患者は高リスクとして,一次予防であっても厳格なLDL-C管理が考慮される.
◎糖尿病治療薬のなかでは,SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬,メトホルミンが動脈硬化性疾患発症予防のエビデンスを有する.
◎血糖コントロールのみならず血圧,脂質,喫煙などに対する包括的な管理が必要である.

生活習慣

動脈硬化性疾患予防のための運動処方—誰に,何を,どの程度

著者: 木庭新治

ページ範囲:P.1274 - P.1280

Point
◎運動やその強度にかかわらず,身体活動量を増加させることは動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)発症や総死亡の予防効果がある.
◎成人では,中強度以上の有酸素運動1日合計30分以上を週3回以上,または週に150分以上,中強度以上の有酸素運動を実施する.
◎有酸素運動とレジスタンス運動,バランス運動を併用する.
◎習慣的身体活動は抗動脈硬化作用など多面的心血管保護効果を有する.
◎坐位行動時間を中断し,減らすことは健康寿命の延伸に有益である.

高LDLコレステロール(LDL-C)血症者への食事療法

著者: 藤岡由夫

ページ範囲:P.1281 - P.1285

Point
◎LDLコレステロール(LDL-C)を減らすには,まず適正な総エネルギー摂取量と適正な体重を目指して維持する.
◎脂肪エネルギー/総エネルギー比率20〜25%E,飽和脂肪酸(SFA)エネルギー比率7%E未満,コレステロール摂取量200 mg/日未満が推奨される.
◎SFAを不飽和脂肪酸に置き換え,不飽和脂肪酸でも過剰にならないようにする.

高トリグリセライド(TG)血症者への食事療法

著者: 田守義和

ページ範囲:P.1286 - P.1289

Point
◎高トリグリセライド(TG)血症の食事療法は,まず総エネルギー摂取量と栄養素の配分バランスの適正化を目指し,肥満を改善する.
◎炭水化物と脂質の過剰摂取に注意する.
◎糖質(グルコースやフルクトース)を多く含む加工食品,菓子,果物の摂取量に注意する.
◎アルコール摂取をできるだけ控える.
◎食物繊維を含んだ全粒穀物やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を心掛ける.

アルコール,食塩に関する最近のエビデンス

著者: 藤吉朗

ページ範囲:P.1290 - P.1294

Point
◎非飲酒に比べ少量飲酒で冠動脈疾患リスクが低下するJ型の関連が従来提唱されてきた.
◎近年,メンデルランダム化解析の結果よりJ型の関連に疑問を呈する報告がある.
◎アルコールのさまざまな影響を考慮すると,少量飲酒の利益を強調しすぎるのは適切ではない.
◎NaCl相当量5〜15 g/日の範囲で,塩分摂取と循環器疾患リスクは単調増加的関係である.
◎高齢者・ハイリスク者では特に,一律で急激な減塩は避けるべきである.

動脈硬化性疾患に及ぼす喫煙の影響

著者: 木戸倫子 ,   大村優華 ,   樺山舞

ページ範囲:P.1296 - P.1299

Point
◎喫煙は動脈硬化性疾患発症の危険因子であり,特に女性において影響が大きい.
◎新型タバコである加熱式タバコは,タバコの葉(その加工品)を加熱し発生したエアロゾルを吸引するものであり,心血管疾患(CVD)発症リスクを増加させる可能性が示されている.
◎受動喫煙は動脈硬化性疾患の発症リスクを高める.法整備による受動喫煙防止対策によって,急性心筋梗塞や狭心症などの入院率が減少したことが海外の研究において明らかとなっている.

トピックス

家族性高コレステロール血症(FH)知見の進歩

著者: 小倉正恒

ページ範囲:P.1300 - P.1304

Point
◎急性冠症候群(ACS)患者に占める家族性高コレステロール血症(FH)の割合は高い.
◎FHは早期診断に加え,家族スクリーニングも重要である.
◎成人FH診断基準(2022年版)ではアキレス腱肥厚の定義が下方修正され,超音波検査の基準も設けられた.
◎FH診断基準の3項目の特徴を理解すると,見逃しや過剰診断が減る.
◎FHに対するLDLコレステロール(LDL-C)管理目標値到達率は低く,より積極的な脂質低下療法が望まれる.

小児期からの動脈硬化性疾患予防のための知見—小児の家族性高コレステロール血症(FH)のスクリーニングと診断・治療

著者: 原光彦

ページ範囲:P.1305 - P.1309

Point
◎小児期からの動脈硬化予防の対象疾患として,家族性高コレステロール血症(FH)は最も重要である.
◎FHは,LDLコレステロール(LDL-C)受容体およびその関連遺伝子変異に伴う遺伝性疾患で,遺伝性代謝性疾患のなかで最も高頻度である.
◎小児FHは症状に乏しいため,血液検査で偶然に発見される場合が多い.
◎小児FHの診断や治療は,『小児家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022』を参照して,「疑い例」も含めてフォローする.
◎小児FHに対し,食事・運動・生活指導を行うが,効果がなければ,10歳を目安に薬物療法も考慮する.第一選択薬はスタチンである.
◎小児FHホモ接合体には,多剤併用療法を含む薬物療法を行うが,効果が不十分なら躊躇せずLDLアフェレシスを開始する.

動脈硬化性疾患予防における高齢者へのアプローチ

著者: 荒井秀典

ページ範囲:P.1312 - P.1316

Point
◎加齢は動脈硬化性疾患の危険因子であり,高齢者においては年齢とともに動脈硬化性疾患発症リスクが上昇する.
◎高齢者においても79歳までの一次予防については,久山町スコアに基づきリスク評価を行い,治療目標値を設定する.
◎脂質異常症を有する高齢者の一次予防については,フレイルの合併,予防に注意しながら,非薬物治療を優先的に行う.
◎高齢者においてもスタチンが第一選択になることが多いが,状況に応じて適切な薬物治療を選択する.

慢性腎臓病(CKD)を有する場合の動脈硬化性疾患予防のアプローチ

著者: 庄司哲雄

ページ範囲:P.1317 - P.1321

Point
◎慢性腎臓病(CKD)における心血管リスク増大要因の1つとして,脂質異常症の影響が認められる.
◎CKDにおけるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法により心血管リスクが抑制できる.
◎CKDにおけるトリグリセライド(TG)低下療法による臨床的ベネフィットは十分確認されていない.
◎安全な治療のために,薬剤の代謝経路,投与量,慎重投与・禁忌の確認が重要である.

女性患者に関する動脈硬化性疾患の新知見とピットフォール

著者: 山田容子

ページ範囲:P.1322 - P.1327

Point
◎動脈硬化性疾患の発症率には性差がある.
◎女性では,若年者と閉経後で危険因子に対する対応や治療が異なる.
◎動脈硬化性疾患の危険因子にも性差があり,治療もその性差を踏まえて行う必要がある.

NAFLD(MASLD)とNASH(MASH)

著者: 吉田博

ページ範囲:P.1328 - P.1334

Point
◎非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は代謝異常を組み入れてMASLDとMASHに名称が変更された.
◎NAFLD(MASLD)は高トリグリセライド(TG)血症,高LDLコレステロール(LDL-C)血症,低HDLコレステロール(HDL-C)血症と関連する.
◎NAFLD(MASLD)患者では,動脈硬化惹起性の高いsd-LDLやレムナントリポ蛋白コレステロールが増加する.
◎NAFLD(MASLD)/NASH(MASH)患者では,非NAFLD(MASLD)患者と比較し,動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の発症リスクおよび死亡リスクが高い.

大気汚染と動脈硬化性疾患

著者: 小島淳

ページ範囲:P.1336 - P.1341

Point
◎黄砂やPM2.5といった大気汚染物質は,動脈硬化性疾患発症のトリガーになる可能性がある.
◎その機序は,大気汚染物質によって生じた酸化ストレスや炎症が全身に波及するためと考えられている.
◎大気汚染曝露を避けるという早期介入が,一生にわたる動脈硬化のリスクを低減させるうえできわめて重要になる.

動脈硬化性疾患の患者・バイスタンダー教育

著者: 宮松直美 ,   国村彩子 ,   清原麻衣子

ページ範囲:P.1342 - P.1345

Point
◎高血圧や糖尿病,脂質異常症,心房細動などの慢性疾患患者と家族へは,脳卒中や虚血性心疾患の予防だけでなく,発症した場合の症状や対処に関する教育が必要である.
◎脳卒中や虚血性心疾患の発症を疑った場合は直ちに救急車を要請するよう,患者・家族へ指導することが重要である.
◎病院前循環器疾患死亡を防ぐため,心肺蘇生技術とAEDの普及活動に努めることが求められる.

連載 日常診療で役立つ 皮膚科治療薬の選びかた・使いかた・7

保湿剤① 保湿剤が有効な疾患

著者: 松田光弘

ページ範囲:P.1185 - P.1189

Q問題
図1の皮疹は保湿剤で治る?

ここが知りたい! 欲張り神経病巣診断・37

なんとなく頭が痛い,脳卒中? 頭頸部領域の血管痛/大後頭神経痛の臨床

著者: 難波雄亮

ページ範囲:P.1346 - P.1350

 頭蓋内の占拠性病変以外にも,頭痛の原因となる疾患は多数あります.前回取り上げた後頭神経痛もその1つです.ほかにも副鼻腔炎や帯状疱疹など,病歴と診察所見をしっかり押さえないと診断できないものもあります.今回は,頻度は低いですが致命的になる頭痛をきたす疾患について勉強していきましょう!

ケースでみる 心理学×医療コミュニケーション!・2

患者理解に役立つ情報をどのように収集するか(1)

著者: 五十嵐友里

ページ範囲:P.1351 - P.1353

前回のおさらい
 前回は「広義の認知行動療法」における患者理解が医療コミュニケーションに役立つことを説明し,そのキーポイントとして①ミクロな問題理解,②マクロな問題理解,③協働的経験主義を挙げました.そのうち,前回は③協働的経験主義を取り上げました.今回は,②マクロな問題理解について詳しく見てみたいと思います.

目でみるトレーニング

問題1096・1097・1098

著者: 望月泰秀 ,   多湖光一郎 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.1354 - P.1362

書評

—芦澤 和人,藤本 公則,藪内 英剛 編集—即戦力が身につく胸部の画像診断

著者: 村田喜代史

ページ範囲:P.1247 - P.1247

 2024年4月に九州地区の3名の胸部放射線診断のリーダーが編集された『即戦力が身につく胸部の画像診断』が出版された.実臨床を想定したコンセプトで構成された書籍シリーズの胸部版である.疾患項目ごとに記載をしていく通常の教科書とは異なり,胸部領域の臨床で遭遇するであろう種々の疾患のなかから重要と思われる150疾患を選び,その“case-based review”を集めた形式となっている.それぞれの症例において,臨床情報,画像所見,最終診断と経過が提示された後,画像診断のポイント,疾患の解説,鑑別診断が続いている.それぞれの項目が冗長にならず,重要な点が簡略かつ明快に記載されているのが特徴で,疲れることなく,流れるように読み進めていくことができる.また,画像診断医として知っておきたいサインについても十分に配慮され,さらに多くの症例で,画像診断のポイントがよくわかる最適な画像が選択されていると感じる.おそらく,編者らの依頼で執筆された全国の中堅からベテランの先生方が,自ら経験した症例のなかからじっくり選ばれた症例が使われているからだと思われる.さらに,最終診断と経過のあとに,Q&A形式の「問題」が挿入され,その疾患での押さえておくべきポイントが強調されているので,そのあとに続く画像診断のポイントや疾患の解説がより理解しやすい構成となっている.末尾に配置された「解答」で重要点が再確認でき,学習効果を考えた優れた工夫と思われる.
 疾患の解説では,最新の情報が含まれていて,間質性肺炎のような疾患概念が改定されていくカテゴリーを含め,できるだけわかりやすい形で,しかも工夫された表や図も交えながら記載されているのは読者にとってはありがたい.また,鑑別診断では,簡潔な記載ながら実践的な鑑別診断名が挙げられ,それらの疾患が本書に含まれている場合には参照ページが記載されているので,その症例を簡単に対比することが可能である.

—上條 吉人 著—臨床中毒学 第2版

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.1295 - P.1295

 今日,臨床医学においてself-poisoning(毒物もしくは過剰量の医薬品を故意に摂取すること)は重要課題の1つだ.その行為は,自殺目的から行われる場合もあるし,心理的苦痛を紛らわせるため,あるいは,居場所のない者同士が孤立を解消し,仲間との絆を深めるために行われる場合もある.誤って服用するといった事故として発生する場合もあろう.いずれにしても,self-poisoningという現象は,救急医療・自殺予防・依存症医療を横断する問題であり,その治療や再発防止には救急医療と精神科医療との緊密な連携が欠かせない.
 本書の著者は,当初,自身の医師としてのキャリアを精神科医から開始し,途中で救急医へと転じ,評者の認識では「臨床中毒学」という医学分野の創始者だ.実際,自殺予防と薬物乱用・依存に関する研究において,著者は文字通り「余人をもって代え難い」存在であり,評者も何度となくさまざまな研究プロジェクトで著者の助力を仰いできた.

—佐藤 達夫,坂井 建雄 監訳—臨床のための解剖学 第3版

著者: 峯真司

ページ範囲:P.1311 - P.1311

 『臨床のための解剖学第3版』が佐藤達夫先生,坂井建雄先生の監訳のもとメディカル・サイエンス・インターナショナルから発刊された.原書は『Moore's Clinically Oriented Anatomy, Ninth Edition』であり,Wolters Kluwer社から2023年に出版されている.現在世界の多くの国で翻訳され,最も使われている解剖学書ということである.
 本書を手に取ってまずわかるのはその分量であり,1,000頁以上の大作となっている.中をみると慣れ親しんだ写実的な解剖図以外にもさまざまな図とともに臨床的な説明がわかりやすくなされており,視覚的に記憶が定着しやすい内容となっている.図だけでなくCT画像やX線画像,MRI画像,超音波画像も豊富に掲載されている.また,混乱しやすい箇所(神経,筋肉,血管,骨などに付随した各々の説明)は表にまとまって整理されている.似た名称をもつ構造物の個々の機能を記憶することはしばしば困難であるが,この表立てのおかげで,理解や記憶の定着が確実になるのではないか.

—聖路加国際病院内科チーフレジデント 編—内科レジデントの鉄則 第4版

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1335 - P.1335

 内科系の救急および夜間や休日の病棟患者ケアをレジデント主体で対応してきた歴史を持つ聖路加国際病院内科の「臨床の鉄則」本の改訂が出た.当直を担当する内科系医師はここまでやれるとよいことがわかる本だ.今版もチーフレジデント経験者が主体となって執筆されており,屋根瓦のコアメンバーによる最新のクリニカルパールが満載である.箇条書きで重要点が整理されており,読みやすい.研修医や専攻医などのいわゆる内科レジデントはもちろんのこと,内科実習に参加する医学生や内科病棟ケアに関係する医療者に幅広くお薦めできる.
 「病棟当直編」では,重症患者の見逃しを避けるための鉄則を示し,安心して任せられる当直医となれるような内容となっている.ショックについては,発熱や全身状態に注意しつつ全身の所見を取ることが重要であり,血圧の絶対値ではなく循環が維持されているかの意識を持つことが必要としている.「臨床的なショックとは重要臓器循環不全であること」を強調してくれている.重要かつコモンな症状について,病歴,診察,診断,検査,治療の重要点が記載されており,酸素飽和度低下や意識障害,不安定な不整脈,胸痛,腹痛,頭痛,嘔気・嘔吐(おうと),血糖異常,不眠,せん妄,そして1型アレルギーなどのさまざまな病態をカバーしてくれている.

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目次

ページ範囲:P.1190 - P.1192

読者アンケート

ページ範囲:P.1363 - P.1363

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1364 - P.1365

購読申し込み書

ページ範囲:P.1366 - P.1366

次号予告

ページ範囲:P.1367 - P.1367

奥付

ページ範囲:P.1368 - P.1368

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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