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雑誌目次

雑誌文献

medicina7巻1号

1970年01月発行

雑誌目次

新春特集 I Leading Article '70 1 学会改革へのビジョン

学会の徹底的な改革をのぞむ

著者: 高月清

ページ範囲:P.6 - P.8

 医学教育・医療・研究のあり方が鋭く問われている今日,学会がどうあるべきかを考えることも医学研究者にとっては大切な責務である.もめごとは一切ごめんと逃げ回る態度は事態をますます混乱させている.はじめに
断っておくが私は研究発表と討論の場として学会の必要性を積極的に認めるものであり,それだからこそ学会の改革を積極的に望むのである.
 もちろん,国内の諸学会にあいそをつかして論文投稿だけを発表の手段とすればよいという人もいるかもしれないが,それでもその人の専門分野の学会の存在は,いろいろの意味で研究環境に影響を与えるのだから無視するわけにはいかないはずである.

ウィーンでの学会に学ぶ

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.8 - P.9

 学会という日本語は2通りの意味をもっている.ひとつはsocietyないしassociationのことであり,他はその団体が事業として行なう学術集会(meeting)を指している.ここでは私は,この両者にふれて語りたい.両者ともに,現在のあり方には,正しい批判によって改革されるべき点が多多あると思うからである.

Leading Article '70 2 新薬を患者に試みるときの臨床家の心がまえ

臨床家を包囲する新薬状況の明確なる認識とその自衛

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.10 - P.12

3つの段階
 薬の認識ないし薬の評価には,3つの歴史的段階があった.
 ①薬は安全で有効なものと決めてかかって,ただ看板どおりの成分を含んでいるかどうかを問題にした段階

新薬臨床検定の前に立ちはだかるもの

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.12 - P.13

待たれる臨床検定評価の客観化
 1つの新しい薬が開発されるプロセスをみると,動物に対する各種の毒性実験,薬効実験をすませると臨床応用に進むか否かが定められる.つぎに,有志による人体試験を経てから,病人を使用して臨床検定評価の段階となる.われわれ臨床家がタッチするのは,臨床的評価のみである.その際に採られるべき方法は,可能な限り客観的であることを要し,安全で有用であることが確立されるのが理想である.臨床検定の段階で,副作用ないしは禁忌を完全にチェックすることは本来不可能であるが,可能な限りこれを明らかにし,特定の条件下では使用すべきでないとか,一定の監視を要することを明示したい.
 重要なのは,信頼するに足る評価が与えられるべきであることで,いうまでもない.臨床検定にさいして,可能な限り多数の患者に対して,許されるだけ長期間にわたり観察すれば,それに応じて精度が上がるはずである.しかし,臨床的判断というものは,しばしば悪意ではない独断に陥りやすいものであり,評価の客観化が行なわれないかぎり,多数,長期の原則も文字通りの徒労もしくは自己満足に終わるものである.客観化のためには,試験薬と同一形態の擬薬Placeboを利用して対照と比較するほか,それが被験薬であるのか擬薬であるのかを,医師も被検者も知らされずに結果を報告し,それを改めて集計する二重盲検法が最も良いとされている.

Leading Article '70 3 病理と臨床—臨床経験つみかさねへの土台石

患者のための臨床医—病理医からみた最高の臨床像

著者: 金子仁

ページ範囲:P.14 - P.16

‘臨床像’というイメージ
 まず‘臨床像’というイメージが問題である.臨床医と臨床医学を総合したものが臨床像のはずである.日常,外科的に切除した患者の病的部分を病理学的に診断し,さらに臨床医に治療のサジェスチョンを行なわねばならぬ病理医,病理解剖(剖検)によって臨床診断を是正し,病気の本態を確かめ,その知識をもととして,生きている患者の診断向上をめざさねばならぬ病理医(金子仁:臨床のための病理学とは,medicina, 6, 3. 参照),その病理医は臨床医学をどうみているのであろうか.
 臨床医学も,けっきょくは臨床医の姿勢の現われであり,患者の苦悩に対する返答であるから,臨床医,患者を度外視しては存在しない.

病理医に期待するもの—臨床医の立場から

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.16 - P.17

 臨床医学の進歩発展に剖検がきわめて重要な役割を演じていることはいうまでもない.臨床家の立場に立てば,病理解剖こそは,臨床で体験した疾病の真相を明らかにしてくれる唯一のものといってもよい.
 もちろん,患者さんの生前における綿密な臨床観察,あるいは周到な臨床検査,さらには外科的手術なども,臨床経験を豊富にしてくれるうえにたいせつなことはいうまでもない.しかし,それにも増して,1人の病人の過去の病態についての全貌を明らかにしてくれる剖検,そしてそれによって臨床家としての反省が行なわれ,次の臨床経験の土台とするという意味で,病理解剖ぐらい貴重,かつ有益なものはないといっても過言ではない.

Leading Article '70 4 検査項目選択の論理と現状

深い思考実験から検査情報の処理へ—臨床側として

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.18 - P.20

診断の水平思考
 最近,ものの価値を再発見し進路を確証するために水平思考の効用が説かれているが,それにならって診断の目的を情報科学時代の眼で点検してみよう.診断の定義ははなはだあいまいで,わが国の診断学の書物はいずれも「病名を知ること」,「疾病の治療に不可欠」などと簡単にわりきってしまっている.この点,Klempelerの診断学には,16行にわたって診断の目的が述べられているのはさすがであるが,これも定義というには少々内容不足である.
 "diagnostics"は医学のみの用語ではない.論理学では鑑別学と訳され,その作業は未知の個体についてその特性を調査し,既知の標本と照らして同定し位置づけること,と解釈されている。臨床医学における"diagnostics"もまさにそのとおりであるが,目的をもう少していねいに説明しておかないと誤解を生じるおそれがある.つまり同定,位置づけといっても病名を決定することと同意義ではなく,もっと必要な医師のとるべき行動の決定を目標とするのが診断学でなければならない.むしろ病名の決定も医師の行動決定の補助過程といってもよいのである.

臨床検査成績のムダのない利用を—検査部から

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.20 - P.21

検査部の‘主人’の不安
 卑近な譬であるが,検査成績という商品を売る中央検査部の主人からみると,手当たりしだいに成績を買ってくれるお客(臨床家)は,商売繁昌にはいい顧客かもしれない.しかし老舗の主人は,じっくり商品を吟味して買ってくれる通のお客を好む.心をこめて作った品を,手荒く扱ってすぐ捨てたり,使わないで押入れの中に放置されたのでは,誠に情ない.
 中央検査部の責任者たる身は,うなぎ昇りにふえていく検査統計をながめながら,わが業績向上とほくそ笑みながらも,ふとこれだけの検査の全部が全部,本当に診療に利用されているだろうかという不安が脳裡をかすめる,ある商品を大々的にPRし,購買熱をあおって売りまくっても,それが生活に密着しない品であると,やがては売れなくなり,忘れられてしまう.

Leading Article '70 5 病院における内科診療のありかた

内科医は生命全体を把握する

著者: 梅原千治

ページ範囲:P.22 - P.23

内科学とは総合の技術
 いつもいうことだが,"内科学とは"と問われて"内科学とは総合の技術"だと私は答える.
 だから,内科医は絶えず生命全体を把握することを考える医者でなくてはならない.そういう意味で"内科医はいつも大統領だ"と私は主張する.今,ニクソンさんを連れだして,ベトナムで大砲を撃たせても,爆弾を落とさせても,満足に目的物に弾を命中させることができるだろうか.それならばアメリカの兵隊(スペシァリスト)のほうがよほど上手にやってのけるに違いない.話を野球にたとえてみても同じことである.ここぞと思う所で,監督みずから出陣してみた所で,ヒットやホームランが打てるとは限らない.これは会社やその他すべての人間の社会機構についても当てはまることのように思われる.野球の監督も会社の社長も,その総合判断力が買われているのであって,きわめて限られた技術や事務的能力が買われているのではない.それと同様に内科医もまた生命に対する総合判断力において真価を発揮する医師でなくてはならない.

病院における内科は船団の中の母船

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.23 - P.24

 日本内科学会の内科専門医制の発足や,最近の大学医局問題を契機として,大学病院だけでなく一般病院の内科の構成やその中での研修計画が昨今まじめに検討されるようになった.

新春特集 II 開業医は語る

これからの開業医—専門医か,ホームドクターか

著者: 木島昂 ,   鈴木荘一 ,   渡辺亮 ,   永井友二郎 ,   森杉昌彦 ,   川上武

ページ範囲:P.113 - P.120

 開業医といえば従来はいわゆる一般医をさしていた.だが最近の医療技術の細分化・専門化に伴い,専門医制度が叫ばれる一方,開業医のなかにもぼつぼつ専門家をめざす傾向もめだっている.このような時点にあって,一般医・専門医とは本来何であるか,現在の医療体系のなかに横たわる幾多の矛盾を含めて,これからの開業医のありかたをさぐってみた.

EDITORIAL

脳腫瘍の治療

著者: 石井昌三

ページ範囲:P.51 - P.51

 脳腫瘍,特にgliomaの治療について何かを語ろうとするとき,われわれ脳外科医は,悲惨な植物状態の末期患者をただ暗然と見守るだけというみじめな気持ちを思い浮かべないわけにはゆかない.
 Busch教授のかなり古い報告を例にとると,glioblastoma multiformeの術後5年生存率はわずか1%という惨憺たる成績で,彼をして"この腫瘍の治療に際して脳外科医の犯しやすい過ちは,やり足りぬことではなくむしろやり過ぎることではないだろうか?"と慨嘆させている.

今月の主題

脳腫瘍の早期診断

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.52 - P.59

脳腫瘍の症状は軽重さまざまであるだけに,往々見のがされがちである.手遅れの場合には死か廃人かの転帰しかないとすれば,否が応でも早期診断が急務である.その早期診断とは……

脳腫瘍をめぐって

著者: 里吉営二郎 ,   喜多村孝一 ,   戸塚清 ,   五島雄一郎

ページ範囲:P.60 - P.68

 脳腫瘍の診断のきめ手は,精細な神経学的検索につきる.そして疑いがあれば十分な設備のある病院へ早く送るのが肝腎である.身近かなところから,この早期診断の要点を中心に脳腫瘍をまとめてみよう.

<トピックス>脳腫瘍に対するブレオマイシンの全身的投与療法

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.66 - P.67

脳腫瘍の化学療法
 原発性脳腫瘍では病巣部位が限局されているために,全身的化学療法はあまり効率的ではない.また脳には血脳関門という厄介な障壁が存在するために,よほどの工夫をするか,血脳関門が破壊されているような脳腫瘍でない限り,全身的に投与した制癌剤が有効濃度で腫瘍部分に到達することは困難であると考えられている.
 制癌剤が臨床的に使用されはじめた初期には,ナイトロジェン・マスタードで代表される種々のアルキル化剤が全身的に投与されたが,著しい副作用ばかり目立って,効果のほうはさっぱりあがらなかった.そのため脳腫瘍の化学療法は一時忘れられていた.しかし約10年前に脳灌流法により主としてアルキル化剤が,さらに続いて持続的頸動脈内注入法により主として代謝拮抗剤が投与されるようになり,全身的化学療法では得られなかった効果が認められるようになった.また一方ではビンクリスチン・ビンブラスチンなどのアルカロイド製剤が,ことに転移・播種巣のあるものや再発した髄芽腫などに静注され,有効であったという報告もみられるようになった.たしかに局所的投与法では不十分な部位や範囲の腫瘍も少なくなく,全身的化学療法への期待も残されていた.この場合脳腫瘍に対して手術や照射療法を行なうと血脳関門が破壊されるために,その後に制癌剤を静注すればいっそう効果的であるという考えもある.

日常検査とその限界

尿定性試験紙法(その1)—蛋白,糖,ケトン体

著者: 河合忠

ページ範囲:P.26 - P.27

試験紙法の一般的注意
 試験紙法というのは,必要な試薬を滲み込ませて乾燥した厚手の濾紙片を被検尿に瞬間的にひたし一定時間内に現われる着色の度合いを観察する方法である.したがって,これらの方法はきわめて短時間のうちに簡単に行なうことができるという大きな特長を有するが,濾紙片を長く尿中に放置したり,濾紙片で尿を激しくかき混ぜたりすると,あらかじめ試験紙に滲み込ませてある試薬が溶出して正しい反応を認められなくなる.試験紙法に共通した注意点として,まず試験紙を必要以上に長時間尿中にひたさないことがたいせつである.また,試薬の滲み込んだ部分を直接指でつまんだり,その他汚染させるようなことがあってはならない.着色の度合いを判定する場合には昼色光でしかも十分な照明を有する場所で行なう必要があり,暗い所では色調をまちがったり,陽性度を強く読んだりすることになる.また色調表と比色する場合,とかく色調表が裡色しやすいので,できるだけ新しい標準色調表を常に用いることがたいせつである.

診療手技

自然気胸の脱気法

著者: 正木幹雄

ページ範囲:P.28 - P.29

 自然気胸(Spontaneous Pneumothorax)は,通常,肺気腫性嚢胞(Emphysematou Blef)の破裂によって生じ,脱気はその治療として行なわれる.

救急診療

ガス中毒

著者: 牛尾耕一

ページ範囲:P.30 - P.32

COと中毒
 身近にある一酸化炭素CO中毒を中心に述べる.
 CO中毒は都市ガス(CO含有量4%)や炭塵爆発によるとはかぎらない.プロパンなど炭素を含むものは燃焼に際し酸素O2が十分になければ不完全燃焼の結果,COを発生する.密閉された部屋での煉炭火鉢による中毒は珍しくない.
 COは血色素Hbとの親和性がO2の200-250倍なので,吸入されたCOはすみやかにCO-Hbとなり,その濃度いかんによっては数分以内に致命する.中毒のメカニズムは組織のO2欠乏症が主体であり,したがって中枢神経系がもっとも強くおかされる.またCOには呼吸酵素系などに直接作用するとの見解もある.CO-Hb濃度と症状との関係は表1に示した.また図1に示すように毒性は気中濃度,作用時間および労働の程度に依存する.労働時には安静時よりも吸入の影響が大きい.都市ガスは危険予防のため特有の臭気が与えられているが,地下埋設管の破損個所から地中を通って屋内に侵入するときは臭気を失い,本来の無臭の気体となるのでいっそう危険が大となる.

内科疾患と装具

装具の常識と処方の注意

著者: 今村哲夫

ページ範囲:P.34 - P.35

装具ということ
 装具に関する定義は必ずしも一定していないが,補装具という言葉のなかの義肢・義足を抜いて考えると後に残るものがだいたい装具と考えてよい.もちろん,福祉法では補聴器,弱視レンズも補装具にはいるが,これらは含まない.装具にあたる英語はOrthoticsが最近もっとも用いられる用語であるが,brace,splintという言葉も通用する.

略語の解説

PFK-PKU

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.37 - P.37

PFK
 phosphofructokinase:フォスフォフルクトカイネース 解糖系の酵素の1つ.果糖-6-リン酸と果糖-1,6-ユーリン酸の間を触媒する.最近阪大の垂井博士により,筋肉中の本酵素が欠損している糖原病の新しい病型が発見され,臨床的にも注目される酵素となってきた.

統計

外来患者の診療間隔について

著者: 小川博

ページ範囲:P.39 - P.39

 外来患者の診療間隔は,医療施設の種類(たとえば病院とか診療所),病床の規模,性別,年齢階級別,罹患傷病の種類や保険の種類などで差が認められます.そこで今回は,その主なものについて述べましょう.

目で見る臨床検査シリーズ

喀痰の検査

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.111 - P.112

 呼吸器感染症の検査として,喀痰の検査が行なわれる.これは,臨床的に疾患像があり,それがどのような感染症なのか,または感染性疾患以外のものなのかを調べるために,種々の検査を行なうのがたてまえである.臨床的所見のない例には,特殊な場合をのぞいて行なわれないのがふつうである.

カラーグラフ

喀痰の検査

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.42 - P.43

 まず臨床所見を,そしてただちに痰のレフレル液による単染色標本を鏡検する.このやり方を私はだれにでもすすめている.痰は,必ず病巣を通ってくるから,その情報を運んできているはずである.医者の眼で,それを見ることは,ときには聴診器をあてるよりも,正確な診断の手段となることがある.ところで,痰の検査は,感染症に関しては,それが確定した例について,治療の指針を決めるため,診断を確定するために行なうものであることに留意すべきであろう.痰は,新しいほどよいのは当然である.

グラフ

脳血管造影

著者: 高瀬貞夫 ,   板原克哉 ,   村旧純治 ,   伊藤久雄 ,   高和勉 ,   吉田紀明 ,   力丸庄蔵 ,   高橋郁朗 ,   飯島圀碩 ,   佐藤元 ,   入野田侑宏

ページ範囲:P.45 - P.50

 脳血管撮影は頸動脈および椎骨動脈血管写が広く行なわれており,その手技については各人各様のくふうがなされている.ここでは,最も普遍的で日常われわれの行なっている経皮的脳血管写の手技と数症例の写真を提示することとする.

診断のポイント

血糖曲線からの糖尿病の診断

著者: 日野佳弘

ページ範囲:P.69 - P.72

複雑になった糖尿病診断
 糖尿病に関する新しい知見が加わるにしたがい,糖尿病とは遺伝的素因があり,インスリン作用の減弱,分泌異常などを有し,細小血管症(網膜症・腎症など)を特有な病変とする疾患として把握されてきたが,その定義の1つとして代謝異常とくに糖代謝の病的な変化を示す以上,血糖曲線による糖尿病の診断は重要である.しかしながら糖代謝異常によってわかることは糖尿病状態である.したがってこの異常状態と関係すると思われる他の糖尿病性因子,あるいは糖尿病による病態また糖尿病以外の糖代謝異常をきたす生理学的あるいは病理学的状態,あるいは体質・年齢などを考慮して糖代謝異常を判定し糖尿病の診断をしなければならない.
 このような糖尿病診断上の考え方を背景にもちつつ血糖曲線を判定するにあたって,その異常は軽度から高度まで継続的な変化であり,また同一患者でも常に一定の変化を示すとは限らないので,どの一線をもって糖尿病性と診断するかはきわめて人為的であり,かつ困難な問題である.一定の基準の上で集団検診をする場合ならばともかく,患者として治療.健康管理をする立場にある臨床家としては,それぞれの経験,臨床データーに基づいてそれぞれの診断基準をもっている現状であるが,それでもなおかつ糖尿病か否かの診断には継続観察が必要である.

見おとされている三尖弁閉鎖不全

著者: 仁村泰治 ,   榊原博

ページ範囲:P.73 - P.79

 三尖弁の障害はこれまで臨床上等閑に付される傾向が強かったが,昨今の心臓病学における診断・治療の発展に伴い,その診断も望まれるようになってきた.
 三尖弁閉鎖不全の諸徴候はとかく他の症状により隠されがちであるが,少なくともリウマチ性弁膜症の患者で,特に右房の拡大がいちじるしいとか,一般状態に比して肝腫大の程度が強く,また容易に消褪し難い場合には,まず三尖弁閉鎖不全の併存の可能性が強いと考え,Rivero-Carvallo徴候,頸静脈の収縮期性拍動,肝臓の収縮期性拍動などの特異的な所見の存否に注目すべきである.

治療のポイント

ネフローゼ症候群と蛋白質のとり方

著者: 山下泰正

ページ範囲:P.80 - P.81

 ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿の持続的な排泄,低蛋白血症,ことに低アルブミン血症,高脂血症(血清コレステロール値の上昇),全身性浮腫などを呈する疾患群を総称している.しかもネフローゼ症候群の場合にみられる特有な症状は,急・慢性腎炎の経過中に起こることもあり,糖尿病,痛風,悪性腫瘍,慢性伝染病,化学薬品中毒,その他,種々の原因で発生し,しかも腎臓ばかりでなく,前述のような他の全身的な因子で修飾されるので.ネフローゼ症候群として一括されている.
 本症候群を起こす疾患に真性のものと,それ以外のものとがある.

急性喉頭炎

著者: 堀口申作

ページ範囲:P.82 - P.83

 喉頭炎は喉頭内部の炎症であることはいうまでもないが,喉頭内での特殊な位置や機能からいって,病変の中心は声帯になる.急性喉頭炎もこの意味からいって声帯の病変が主になる.すなわち,急性喉頭炎の最も代表的な症状として嗄声(させい)があげられるが,大多数の急性喉頭炎はこの嗄声が唯一の症状である.すなわちかぜの際の声がれであるが,一般には発熱も咳嗽もなくただ声がれだけである.喉頭痛を伴うことも稀であるが,もし発熱や頭痛などが伴っていれば,それは喉頭炎のためではなくかぜ(急性鼻咽腔炎)1)のためであり,また,咳を伴っておれば気管炎ないしは気管支炎のためと考えられる.

梅毒

著者: 小野田洋一

ページ範囲:P.84 - P.86

梅毒の進行と見おとされる症状
 感染後おおよそ3週めに発生する初期硬結は口唇・口角・舌尖や歯齦などにも発生して,胃炎?と診断されていることがある.乳首にできる小ビラン性硬結は軟膏による自家治療を行なっていることもあるが,外科初診者もいる.
 感染後3月めから早期皮膚疹期となるが,早期前駆期には微熱を伴う全身倦怠,頭痛をおこすので感冒として扱われていることが多く,その後に発生する全身の小発疹はジンマ疹,中毒疹としてよく治療を受けている.小膿疱を伴うニキビ大の丘疹が多発しているときは天然痘ともまぎらわしい.

筋電図のよみ方・1

筋電図検査の適応,神経原性筋萎縮と筋原性筋萎縮

著者: 土肥一郎

ページ範囲:P.87 - P.90

はじめに
 これから3回に分けて,標題の件につき解説するが,筋電図に関しては脳波や心電図と異なり,単なるよみかたの学習ということが考えにくい.現在多くの病院に筋電計が備えられ,この器械を用いて行なう検査の必要な患者と,それに倍するほどの不必要な患者とが外来あるいは病室から送られてくる.そこでは神経筋疾患に関する興味といくらかの素養をもった医師が,検査技師を助手として筋電図をブラウン管オッシロスコープに写して観察しながら,必要な個所を印画紙に撮影し,この写真と説明および考えられる病名を確からしい順序に並べたものを返事として,検査を依頼した医師に届けることになっている.現在では脳波,心電図はほとんどすべての病院で検査技師が記録をとるが,筋電図はおそらくすべての病院で医師が記録をとっており.しかもよむのもその記録をとった医師である.これは,筋電図を観察しここぞと思うところを記録するという過程に上手下手が大きく関係するからである.観察するためには,目印になるものを,電極をうまく動かし筋肉をうまく収縮させてブラウン管上に呼び出さねばならないし,ここぞと思っても安心して電極を持つ手をすこしずらせればやっとの思いで呼び出した波形が消えたり変形したりするからである.この点,脳波や心電図では約半年の熟練を積むならば患者の同一の状態に対応してはただひととおりの波形が記録されるのとはおおいに異なっている.

medicina CPC

顔面浮腫に蛋白尿,紅斑様発疹および関節痛を伴った小児の症例

著者: 植田穣 ,   巷野悟郎 ,   西山茂夫 ,   小沢啓邦 ,   松見富士夫

ページ範囲:P.95 - P.101

 松見 この症例は10歳の男児で,いろいろ多彩な症状が出ておりますが,まず初診の段階でどんな病気が考えられるでしょうか.
 植田 主訴とか,いろんな症状を拝見しますと,発熱と扁桃炎,それから蛋白尿と,沈渣になにかすこし変化があるんじゃないか.それから浮腫があり,関節痛,紫斑,紅斑様発疹,肝腫,それからリンパ腺腫があります.

出題

ページ範囲:P.40 - P.40

下記の症例を診断してください

症例 全身性疾患と消化器・9(最終回)

全身性疾患と消化器—まとめ

著者: 日野貞雄

ページ範囲:P.102 - P.105

 全身性疾患と消化器というテーマはいろいろな含みをもっている.たとえば糖尿病とか膠原病のときには消化管にはどのような変化が現われるかという問題もあれば,胃潰瘍の成因として注目されている中枢障害や肺気腫が実際に併発している症例も理論的な裏づけとして興味がもたれる.また消化器疾患と鑑別をせまられる他科領域疾患も診断過程では重視されなければならないし,症候群として他科領域の症状をあわせもつものもある.このほか,単なる合併症であるか,胃腸障害と有機的なつながりをもつものであるかの区別のつかない場合もある.
 筆者はこのようなものをすべて含めた広い解釈で6回にわたり症例を供覧したが,(うち2回は村井先生におねがいした)症例の都合でのせられなかった重要疾患がたくさん残っている.たとえば,悪性貧血とか,膠原病性胃腸疾患などであるが,これらをまとめて述べておきたいと思う.

内科専門医のための診断学・1

心臓聴診法(その1)—心音

著者: 太田怜

ページ範囲:P.106 - P.110

このシリーズをはじめるにあたって
 日本の内科大講座制は,いろんな意味で,現在,改革をせまられている.かりに,これが臓器別の小専門講座に生まれかわったとして,円満な内科臨床医がどうやって養成されるのか,また,スペシャリストと称される人に,いままでいわれていた意味での内科の知識はいらないのか,いるとすれば,それをどうやって得ればよいのか,ということが問題となるであろう.小専門の講座に分かれても,そうしなければならぬということであれば,必然的にpostgrad-uateの教育は,各専門のdepartmentをrotateするという制度になる.
 さて,そうなったうえで,今度はどうやってそれらの人々を教育するのか,教育の内容はどうするか,ということが問題となる.つまり,五分の力で投げればよいのか,全力投球すべきものか,ということである.これから述べようと思う心臓聴診法についていえば,どうせ専門家を養成するわけではないのだから,収縮期雑音と拡張期雑音の区別ができるところまで教えればよいのか,それとも,この収縮期雑音はこういう形をしているからIHSSが考えられるというような,専門家でさえも首をひねるところまで教えるのか,ということである.

トピックス

塩化ビフェニール中毒症の現状

著者: 平山千里

ページ範囲:P.121 - P.121

排泄されにくいカネクロール
 昭和43年6月から,西日本地区,すなわち,山口・福岡・長崎県を中心として発生した塩化ビフェニール中毒症(いわゆる油症)は,米ヌカ油の脱臭工程における加熱媒体として使用された塩化ビフェニール製品名カネクロール,DDTに類似した化合物)が,米ぬか油に混入したため,使用した一般市民に中毒症状を起こしたものであり,現在登録された患者数は916人である.油症を従来の塩化ビフェニール中毒症と比べると,多数例であること,経口的中毒症であることなどの特徴をもっている.患者の平均摂取量は800ml程度であり,塩化ビフェニールの平均濃度は2OOO-3000ppmである.米ヌカ油の摂取量と,その重症度(皮膚症状)とはおよそ比例している(倉恒匡徳・吉村健清).
 塩化ビフェニールは,脂溶性物質であるため体内では脂肪組織に高濃度に分布しており,死亡患者についての検索では,皮下脂肪のほか,腸間膜・皮膚・肝臓.腎臓・脳・肺などに検出されている(牧角三郎ほか).塩化ビフェニールは体内で代謝されにくいため,尿や胆汁への排泄はほとんど認められず,おそらく皮膚や母乳より微量排泄されているものと考えられている.ただ排泄されているのは主として塩素数の少ない製品であり,塩素数の多い毒性の強い製品は長く体内にとどまる傾向が指摘されている.

Cyclopedia Medicina

膜性腎症

著者: 石川栄世

ページ範囲:P.91 - P.92

 大量の蛋白尿とネフローゼ症候群とを伴い,形態的には腎糸球体毛細管の基底膜に特徴ある変化を示す腎疾患である.本症に最初に注目したのはBellらであるが,彼らは単に糸球体腎炎の1型として考えた.これが独立したdisease entityであるかどうかは未だはっきりしていないため,いろいろの名称が同義語として使われている—膜性腎炎(membranous glomerulonephritis),膜性ネフローゼ(membranous nephrosis),膜性糸球体症(membranous glomerulopathy),特発性糸球体腎炎(idiopathic glomerulonephritis)など.この混乱を整理する意味において,EhrenreichおよびChurgは,1966年に膜性腎症なる新らしい名称を提唱した.
 臨床像はネフローゼ症候群のものと同じである.すなわち,大量の蛋白尿,浮腫,低蛋白血症,高コレステロール血症などで,その他血尿,糖尿,高血糖,尿素窒素の上昇,血圧の上昇などをみることがある.腎症は多くの場合はっきりしないが,通常,長い経過をたどる.ただし,重症例は1年以内に腎不全のため死の転機をとることがある.

診療相談室

下腿静脈瘤の処置

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.123 - P.123

質問 下腿静脈瘤は放置しておいてよいでしょうか,いかなるときに処置すべきか,処置するとすればどのような処置があるでしょうか. (仙台市.Y生)

臨床メモ

かぜをひいて‘めまい’がきたとき

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.120 - P.120

 かぜをひくと,よく,かるい"ぐらぐらめまい"dizzinessがくる.しかし,"くるくるめまい"vertigoは,ごくまれである.また,かぜをひくと,高血圧患者または,かつて高血圧にかかったことのある人に,一時的な血圧の上昇をみることがときどきある.
 そこで「かぜをひいて‘めまい’がする」といった患者さんがきたら,

忍耐のいる「食欲のない子ども」

著者: 松島富之助

ページ範囲:P.79 - P.79

 食欲のない子どもの相談が最近小児科医,小児科内科医,内科小児科医の外来で増えている—食欲は心と体のもつ要求のなかでもっとも強いものであり,体の健康をたもつためには質的にも量的にも十分の栄養が与えられねばならないことは当然のことである.
 しかし子どもの側からは,食べさせることに熱心すぎる母親が多くて,子どもの食欲の個人差や,日によって異なる食欲に対応した量的質的な日差が尊重されていない点に特徴があると思われる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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