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雑誌目次

雑誌文献

medicina7巻10号

1970年09月発行

雑誌目次

EDITORIAL

癌の薬と臨床の倫理

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.1421 - P.1421

 さきごろ癌免疫療法のための臨床実験が問題になったがアメリカにも同じような例があった.1963年Sloan KetteringのSouthanらがP. H. SとAmerican Cancer Societyの援助の下に22人の患者に他人の癌細胞を皮下接種したのである.これは裁判沙汰(ただし無罪)にもなり免許取消にも発展したし,Beecherの集めた50の非倫理的臨床研究の中にも数えいれられている.
 癌の治療は今日の医学研究者の野心であるばかりでなく全社会の熱望でもあるから,新しい試みが挫折することなくつづけられねばならぬ.ところで抗癌薬の前臨床スクリーニングについては一応標準化した手続きが存在するが,臨床評価-「薬中心」の研究を「人間中心」の研究に転換する場面には,なお問題が多いように思われる.

今月の主題

癌の薬物療法の現況—制癌剤を対象に

著者: 斎藤達雄

ページ範囲:P.1422 - P.1427

 次々と新しい制癌剤が開発されている現状ではあるが,"宿敵"—癌を完全に制圧しうるまでの道程はまだ遠い.制癌剤開発の歴史をふりかえりつつ,その種類と適応,投与法,副作用と耐性について最新の知見に照らして紹介したいと思う—さらに有効な制癌剤の開発と確立のために.

(座談会)癌の薬物療法をめぐって

著者: 木村禧代二 ,   竹内一夫 ,   大星章一 ,   日野志郎

ページ範囲:P.1428 - P.1437

 癌には多くの種類があり,抗癌剤として使用されているものも千差万別——.果たしてそのうちのどれくらいのものが有効であるのか.効果判定のためには,まず既成の抗癌剤のそれぞれがどのようなネライをもって腫瘍に挑んでいったのかをふりかえってみる必要があろう.

日常検査とその限界

血清GOTとGPT

著者: 金井正光

ページ範囲:P.1394 - P.1396

 GOT,GPTが日常臨床検査として広く採用されるようになってからまだ日も浅いが,現今では生化学検査項目のなかで最も要求の多いものの1つとなり,その普及には目をみはらせるものがある.しかしながら,検査室における測定法の実態については臨床家によく知られていない問題点が多くあり,また臨床家の検査要求や成績の解釈などにおいても安易な,無批判的な考え方がかなりあるように思われる.筆者は現在,これらの問題について医師や検査技術員がともに反省すべきよい時期にきていると思うので,以下若干の解説を試み,私見を述べてみたい.

診療手技

膵臓触診のコツ

著者: 築山義雄

ページ範囲:P.1398 - P.1399

 膵臓は後腹膜にあるので腹部臓器としては深部にあり,前面に胃などが存在するので触れにくく,多少の病変があっても触診所見が得がたいとされている.そして,このことが膵疾患診断のむずかしい1つの大きな原因となっている.
 しかしふつうの仰臥位の触診だけでなく,いろいろと工夫して触診すると,膵は一般に考えられているよりもはるかによく触れるものであり,ときにはあまりにもよく触れるので,膵でないのではないかと迷うことすらある.

救急診療

小児のひきつけ

著者: 巷野悟郎

ページ範囲:P.1400 - P.1401

 ひきつけまたは痙攣は,全身の筋または筋群が発作的に,不随意的に運動することで,これには強直性と間代性とがある.強直性痙攣は筋肉がいっせいに収縮し,ことに伸筋の収縮が強いので手足をつっぱりくびや背を伸ばす.間代性痙攣は手足その他の筋肉が一定のリズムで周期的に収縮するためにおこる.
 小児は成人に比して痙攣をおこしやすいが,この原因は大脳がなお発育の過程にあるために,諸種の刺激に対して不安定かつ過敏な反応を示しやすいからである.たとえば,発熱という刺激に対して,大脳の旧皮質や辺縁系の機能は亢進を示すが,新皮質の抑制する機能はなお不十分なものがあるので,全身性の痙攣,すなわち熱性痙攣を発現すると考えられる.

統計

患者調査からみたいわゆる「成人病」の患者数

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.1402 - P.1402

 厚生省が毎年7月に実施しております患者調査については,病院や診療所の先生方にはたいへんお世話になっているところです.
 この調査の目的はある1日の断面を区切って日本全体の患者数(入院・外来)や,患者の傷病名,診療間隔,治療費の支払い方法などを調査しておりますもので,全国の医療機関を訪れる患者についての一種の実態調査ともいうべきものです.もちろん1日調査という制約上,当日医療機関を訪れなかった患者(在宅患者)や,年間の季節変動,あるいは抽出調査のため細かい数字についての誤差などの問題が残されております.このような制約はありましてもこの調査の意義は死亡統計と違って,患者の側からわが国の疾病構造を捉えることができることにおいては,非常に貴重な資料であります.

略語の解説 33

SS agar-SU-4885

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1403 - P.1403

 SS agar
Shigella and Salmonella agar:SS培地,SS寒天 サルモネラ,赤痢菌を分離する培地組成は省略,病原菌の検出率がきわめてよい.

日本人の病気

糖尿病

著者: 村地悌二

ページ範囲:P.1404 - P.1405

死亡率からみた糖尿病
 ある疾患の頻度の各国間の比較や年次的変遷を知る材料として,その疾患による死亡率がしばしばとりあげられる.
 しかし,糖尿病は,未発見のまま見過ごされる可能性が相当にあり,かつ治療の進歩に伴って,それ自体によって死亡する場合が少なくなっている点が,たとえば癌のような死亡に直接つながっている疾患とは異なっている.このため,糖尿病による死亡率から,一般人口の中の糖尿病の頻度を直接推定することは慎重を要すると思われる.

グラフ

東芝総合健診センター

著者: 富樫実

ページ範囲:P.1410 - P.1412

 最近の慢性化した人手不足,高能率化の時代にあっては,人力の保持が必須不可欠の要素です.この要請に応えて従来からある人間ドックとは違った意味の,幅広い層の人が,短期間に利用できるコンピューター利用総合健診システムを採用したのが本センターです.本センターは多目的利用が可能であり,同時に医学情報のドキュメンテーションの場として活用できるのが特長です.
 以下,前ページの流れ図に付された番号順に説明します.

カラーグラフ

結腸ファイバースコープ

著者: 吉田豊 ,   田島強 ,   前田栄昭

ページ範囲:P.1414 - P.1418

 深部大腸粘膜の非観血的な観察は,1957年に松永教授らにより考案試作されたSigmoido cameraによりはじめて可能になった.しかしながら,このcameraは長い腸管へ盲目的に挿入し,盲目撮影をおこなうために高度の技術を必要とし,S状結腸を超えて深部に挿入される率も低く,満足できるものではなかった.そこでこれらの欠点を解決すべく,glass fiberを大腸内視鏡へ応用しようとして,数年前からオリンパス光学工業と協同で研究してきた.1968年にはほぼ満足できる性能を有するfiberscopeを試作し,その後さらに改良を加えて盲腸までの挿入観察が可能な新しい器械の開発に成功した.Colonofiberscopeと命名したこの器械は,操作が簡単で深部挿入が容易であり,鮮明な映像が得られ,さらに直視下で任意の場所から生検可能であるという画期的性能を有している.臨床使用経験例もすでに250例を超え,その成績は非常に良好であり,大腸疾患の診断には欠かせない検査法の1つになっている.

診断のポイント

咳が長くつづくとき

著者: 岩崎栄

ページ範囲:P.1438 - P.1440

原因はいろいろ
 咳は呼吸器疾患を診断するための重要な症状の一つである.そして,それが痰を伴うかどうかは,ことに鑑別診断上役に立つ.もちろん,咳をきたす原因としては,呼吸器疾患だけでなく心臓血管系の病気,とくに老人に見られる慢性うっ血性心不全など,夜間の咳を訴えてくるので呼吸器疾患として誤ることがある.また特定の病気でなく"cigarette cough"といった単なる喫煙による慢性の咳もある.その他,神経性のものから,近年注目されてきた大気汚染による呼吸器疾患に至るまで,たくさんの疾病が"咳が長くつづくもの"として挙げられる.慢性の長くつづく咳は,昔から,わが国では,とくに若年者において,第1に肺結核症を疑い検査をすすめるのが臨床医の常識とされてきた.そしてなお,今口でも,年齢に関係なく肺結核症を忘れることはできないが,慢性で原因がわからない咳を訴える場合,肺癌をはじめ,悪性のものを疑って診断をすすめていくのが現況である.ことに高年齢層でのそれは重大である.

血清糖蛋白の臨床的意義

著者: 堺隆弘

ページ範囲:P.1441 - P.1443

糖蛋白とは
 蛋白と糖の複合体はその生理的な役割が多方面におよび,糖蛋白,ムチン,酸性ムコ多糖の名で呼ばれている.酸性ムコ多糖は結合織の基質として組織中に広く分布している.ムチンは腺から分泌される粘液物質,すなわち唾液腺ムチン,胃ムチン,卵巣嚢腫ムチンなどがある.
 血清中の糖蛋白はこれらの組織中のムコ多糖,ムチンが糖部分を主とするのとはやや異なり,蛋白を主とし,蛋白の物理化学上の性質を形成する糖部分が蛋白のアミノ酸の側鎖にひげ状に付着している.現在α1酸性糖蛋白(オロソムコイド),トランスフェリン,フィブリノーゲン,免疫グロブリンを初めとして数多くの蛋白が糖蛋白として分離されている.これらの糖と蛋白の比は種類により大幅に異なっている.糖は主として,ガラクトース,マンノースなどの六炭糖(ヘキノース),ガラクトサミン,グルコサミンなどの六炭糖アミン(ヘキソサミン),および糖末端部分としてシアル酸を含んでいる.免疫グロブリンを除いて,主として肝で蛋白が合成され,糖部分がその蛋白と結合する.血清中の糖蛋白が癌あるいは炎症組織中の糖蛋白の反映であるかは今後さらに検討されなければならない.

見逃がされている遊走腎

著者: 和久正良

ページ範囲:P.1444 - P.1446

 腹部に腫瘤を触れる,立っていると腰痛が起こってくる,またはさらにときどき激しく腹痛があらわれることすらある,原因不明の微熱がある,これらの症状を示すときにしばしば見逃がされる疾患の1つに遊走腎(腎下垂)があることがある.そしてたとえ遊走腎が見つかっても果たしてそれによるものなのか(すなわち遊走腎症なのか),治療をしたほうがよい状態なのかについて話をすすめよう.

治療のポイント

高血圧症を伴う糖尿病の管理

著者: 榊田博

ページ範囲:P.1447 - P.1450

糖尿病と高血圧の関係
 糖尿病は慢性に経過し罹病年数の重なるにつれて,とくに糖尿病のコントロールの不十分な症例において,脈管系障害-動脈硬化症,腎障害,虚血性心疾患など高血圧を惹起する疾患を併発しやすい.他方,本態性高血圧症またはその遺伝的素因を有する者の間で,糖尿の発生頻度の高いことは周知の事実である.またCushing症候群,Pheochromocytomaなど,いわゆる内分泌性高血圧症では,原疾患に関与する内分泌機能の異常が血糖調節機構にも波及して,糖尿または過血糖を一過性あるいは持続性に併発する.そのほか高血圧症の治療に用いるThiazide系降圧利尿剤を使用するとき耐糖能に異常を伴うことも指摘されているなど,糖尿病と高血圧症とは密接な関係がある.
 内分泌性高血圧症やThiazide糖尿など,いわゆる二次性糖尿病と称せられるものは,高血圧に対する処置,原疾患または直接的原因に対する治療ないし対症療法が主体をなすが,膵臓ランゲルハンス氏島から分泌するインスリンの不足によって招来する,本来の糖尿病では,その療養生活管理は二次性糖尿病のそれとは著しく趣を異にする.

鉄欠乏性貧血—鉄剤の使い方

著者: 山口潜

ページ範囲:P.1451 - P.1453

 鉄剤は鉄欠乏性貧血の特異的治療薬として第1に挙げられる.鉄欠乏性貧血は日常診療上もっともしばしば遭遇する貧血で,低色性小球性貧血・血清鉄値の低下・不飽和鉄結合能の上昇をみ,鉄欠乏を成因とした貧血の総称である.骨髄液では赤芽球は数的に増加し,成熟障害像を示す.原形質内可染鉄顆粒をもつ赤芽球(ジデロブラスト)は著減する.低色性貧血の大多数は鉄欠乏によるもので,鉄剤投与によく反応するが,わが国でもまれにみられるサラセミア・鉄利用不能性貧血・ピリドキシン反応性貧血なども低色性で,血清鉄は高値を示し,いずれも鉄療法に不応である.
 鉄欠乏性貧血の原因にはかなりいろいろのものがあり,本態性低色性貧血・失血性貧血(消化器,痔,子宮など)・寄生虫性貧血(とくに十二指腸虫症)・Banti症候群・胃切除後貧血などに分類され,他に妊娠・内分泌疾患・腎疾患・悪性腫瘍などに合併することがある.

真菌症の化学療法

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.1454 - P.1457

 内科的真菌症を治療するうえで,病巣が粘膜にあるか,あるいは臓器の実質内にあるかでたいへんな相違がある.前者は浅在性,後者を深在性と言い表わすと便利である.浅在性の真菌症では,病巣に薬物を直接に作用させることは,さほど困難ではない.これに反して深在性の真菌症では,薬物は吸収され,血流に入って病巣に到達せねばならない.

Leading Article

水俣病その後

著者: 徳臣晴比古

ページ範囲:P.1458 - P.1460

原因究明までのいうにいわれぬ苦労
 水俣病の最初の患者が出たのが昭和28年で終熄したのが昭和35年であるから,もうかれこれ18年の歳月が流れている.有機水銀という医学界にはあまり縁のなさそうな重金属が,本病の原因であるということをつきとめるにはわれわれ研究班はいうにいわれぬ苦労をしたものである.ほとんど顧みられなかったこの病気が会社廃水による公害であることが明らかになって,やっと陽の目をみたという感が深い.
 十数年の歳月が水俣病をどう変えて行ったか,その模様からまず話を始めることにする.

全国教室めぐり

医師としての責任感を自覚して—群馬大・第2内科

著者: 白倉卓夫

ページ範囲:P.1461 - P.1461

 第2内科学教室は昭和29年4月に開講された若い教室でありますが,この間,初代教授に村上元孝現金沢大学教授を,ついで中尾喜久現東京大学教授をお迎えした後,3代目鴫谷亮一教授を教室主任としてお迎えして今日に至っております.したがって教室の主たる専門分野も循環器,血液そして再び循環器と変遷しましたが,学問への情熱は消されることなく,いつもしっかりと受けつがれてきました.
 しかしながら最近までつづいた青医連運動を始めとするいわゆる「学園の民主化運動」の波によって,入局ボイコットで一時的に若い教室員を失い,教室員の「老齢化」を招く一方,多くの先輩教室員を社会に送り出して,教室の研究・教育・診療活動はいやでも低下せざるをえない状態となりました.青医連運動も一応の落着をみて,最近多勢の新しい世代を新入医局員として迎えた現在,受けつがれてきた教室の伝統も大いに変貌して,新しい伝統が生まれるであろうと思われ,あらためて教室の再スタートが始まった感が深い.

ルポルタージュ

よそ者を貝にする島—舳倉島とひとりの女医さん

著者: 木島昂

ページ範囲:P.1462 - P.1465

 石川県は奥能登,その北岸最大の漁港である<輪島港>は5月1日から半年間,魚獲市場のほかに海路のターミナルとしてもにぎわう.洋上はるか48キロ,長い冬の間,日本海の時化に身動きできなかったケシ粒ほどの島<舳倉島>に1日1往復の連絡船が運航を始めるからである.白い船体の"あすなろ丸"80トンの出番であるこの期間は,海女漁法と観光で島には夏のドラマが展開される.しかし,潮がひくように島民の数もへってしまう島の冬場,訪ねる人とてない離島に,1人の女医さんが常駐していることについてはほとんど知られていない.

団体紹介

ガン征圧を目ざして—日本対ガン協会とその現況

著者: 臼井茂

ページ範囲:P.1466 - P.1467

 今年も9月の「ガン征圧月間」が訪れ,全国的にガン征圧運動が展開されている.日本対ガン協会がこの月間を制定し運動をはじめたのは昭和35年9月だったから,今年で11年めを迎えたことになる.

病理夜話

真菌症

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1468 - P.1468

 抗生物質が使用され始めふえた疾患に真菌症がある.
 要するにカビなのだが,種類として多いのがカンジダ,アスペルギールス,クリプトコッカスである.抗生物質を多量に使用すると菌交代現象が起こって,人体の中で猛然と勢いを増すようになるのである.—それは34歳のまだ若い新聞記者である.以前から肺結核があり,ストマイ,パス,アイナーの3者併用療法を強力に行なっていた.ところがある日,「黒装束の男が枕もとにズラリと並んでいる」といいだした.ようすがおかしいので精神科へつれて行き,入院ということになった.この男は大酒のみで1晩にウイスキー1ビンを軽くあけてしまう.アルコール中毒の疑いもあったのである.

症例 全身性疾患と眼・3

先天代謝異常症と眼症状(その3)—Wilson病(hepato lenticular degeneration)

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1473 - P.1475

 Wilson病は,常染色体劣性遺伝をしめす,先天代謝異常症の1つであり,銅および蛋白代謝の異常を本態とする疾患である.すなわち,含銅血清蛋白であるceruloplasminが遺伝性に欠如し,このため血清銅濃度が上昇し,諸臓器ことに肝および脳への吸収が増加する.そして,銅の毒性による症候が,本症の症候そのものであるとされるにいたった.
 このWilson病のときに,角膜の周辺部に輪状の色素沈着が生ずることをKayserおよびFleischerが明らかにし,以後,本症の特徴的な所見として,本症の診断上重要視されている.そして,粗大な振せんを示す患者には,細隙灯顕微鏡による角膜の精査は欠かすことのできない検査であるとされている.

小児心電図講座・5

心房中隔欠損症(二次孔欠損)

著者: 三森重和

ページ範囲:P.1476 - P.1478

症例1
13歳 女
 臨床所見 幼児期感冒にかかりやすく虚弱児であった.5歳で先天性心疾患を指摘された.その後,ふつうの生活をしている.心雑音は第2肋間胸骨左縁で駆出性雑音Levine 3度,心尖で拡張中期雑音を聴取,肺動脈第2音は固定性分裂,心音図で分裂間隔0.05″である.胸部レントゲンで心胸郭比58%,肺血行量中等度増加,肺動脈弓軽度突出,右室拡大がある.心臓カテーテルで右室圧25/0mmHg,肺動脈圧20/7mmHg,肺体血流量比2.1,短絡率55%であった.手術所見は欠損孔3×2cm,中心部欠損で直接縫合した.

内科専門医のための診断学・9

高血圧の鑑別診断—主に拡張期性高血圧の鑑別について

著者: 尾前照雄

ページ範囲:P.1479 - P.1482

まず病因診断,そして心血管系の状態を知る
 高血圧(動脈血圧の上昇)は1つの症状であって,厳密にいえば疾病の単位ではない出高血圧に伴う症状としては,頭痛と心悸亢進などがあるが,格別の愁訴を伴わないことが少なくないので,血圧を測定しなければその存在に気づかぬことが多い.また動脈血圧は,心拍出量,循環血液量,末梢血管抵抗,血液粘稠度によって規定され,そのいずれかが増加するときは上昇し,減少するときは低下する.
 これらは神経性因子,体液性因子,腎性因子,あるいは心血管系の先天的あるいは後天的異常によって左右されるので,高血圧の診断にあたっては,その原因がどこにあるか,またそれがいかなる疾病によって起こっているかを判断しなければならない.心拍出量と循環血液量の増減は拡張期血圧よりも収縮期1血圧に対する影響が大きく,末梢血管抵抗の増加は拡張期血圧を上昇させる.したがって病因論の立場でいえば,それ自体は疾病ではなく,1つの病態をあらわすと考えるほうが正しい.

臨床家の腫瘍学

癌とウイルス

著者: 伊藤洋平

ページ範囲:P.1483 - P.1487

 Peyton RousによりRous sarcoma virus(RSV)が発見され,ウイルス腫瘍学という新しい分野が拓かれてから半世紀あまり.EBウイルスの登場により,人癌ウイルスの追求の期待ももたれる昨今の研究の進展状況などを中心に.

他科との話合い

無月経症

著者: 吉植庄平 ,   古谷博 ,   武沢鎮麿 ,   野末悦子

ページ範囲:P.1488 - P.1494

無月経を示す疾患は実に多種多様である.ひとり婦人科的疾患にとどまらず,内科的疾患をも広く含むから,無月経をみたからといって婦人科にのみ委せきりにはできない.内科医が心得ておくべき無月経の知識を……

medicina CPC

糖尿病を伴った肝障害の1例

著者: 高橋善弥太 ,   菅井健二 ,   兼高達弐 ,   藤沢洌 ,   上野幸久

ページ範囲:P.1496 - P.1502

上野 この症例は現に生きていて治療中ですから,問題は診断だけでなくて,今後こういう検査をやったらいいとか,あるいはもっと良い治療法があるのではないかというようなことについて,教えていただきたいと思います.高橋先生どうでしょうか,入院の時点までのところで何か……

出題

ページ範囲:P.1407 - P.1407

下記の症例を診断してください
症例 広○喜○,26歳,男子
既往歴 特記すべきものなし.
家族歴 特記すべきものなし.

診療相談室

虚血性心疾患の発生状況

著者: 広田安夫

ページ範囲:P.1505 - P.1505

質問 虚血性心疾患漸増の一途と感じていますが,最近約5年間の発生(内訳)状況の簡単な統計を知りたいのですが. (大阪市一壮年医)

トピックス

二重盲検法

著者: 佐藤倚男

ページ範囲:P.1475 - P.1475

 二重盲検法とは,患者に何が与えられているのかを,医者も患者も解らないよう工夫した比較試験法である.医者,患者の双方が中味を知らないので二重盲検(double blind)という.いっぽう医者のほうは薬の中味を知っていて,患者だけが知らぬやり方(single blind)は鎮痛剤や眠剤をたびたび要求する患者に対し医師が昔からよく使う.
 二重盲検比較試験を行なうには,統計学のベテランである必要はないにしても,統計学の基本的考え方はしっかり身につけていなければならない.またすでに良い治療法や,効くと思われている薬があるのに,新薬群とプラセボ群を比べるのは人道上ゆるされない.プラセボ(偽薬,虚薬という訳は語の本来の意味からみてまちがっている)が使えるのはごく限定された条件のときだけであって,ふつうは,従来最もいいとされてる薬(標準薬)と比べる.

メディチーナ・ジャーナル

今後の伝染病予防対策のあり方について—伝染病予防調査会の中問答申

著者:

ページ範囲:P.1503 - P.1503

総合的なアプローチに注目
 この6月に,種痘の副作用が大きく新聞紙上でとりあげられ,国民の不安がかきたてられた.種痘後脳炎のような副作用は従来からあったもので,かくべつ新しい事実ではなかったのであるが,全くその事実を知らなかった国民にとって大変なショックであったことはまちがいない.そこでよりよきワクチンの開発がいそがれるわけであるが,そのことのほかに,感染症というものに対して総合的により安全で確実なアプローチをする姿勢が必要になる.
 ところで種痘問題のあおりをうけて,あまり世間に報道されなかったが,同じ6月の15日に伝染病予防調査会が厚生大臣に対して行なった中間答申の内容は,ワクチンも含めて伝染病対策を総合的にアプローチしようとしている点で注目に値するし,その内容についてもっと論議されてしかるべきであろう.

臨床メモ

肩こり—X線診断の適応

著者: 永野柾巨

ページ範囲:P.1494 - P.1494

 肩こりは頸椎,肩関節,上肢帯の骨関節,靱帯,筋・筋膜などの病変に由来する群と,内臓疾患の部分症状として表われる群とに大別できる.後者には高血圧,肝疾患,心疾患,胃腸疾患,更年期障害,感冒その他の感染性疾患,時には胸膜や縦隔洞の病変によるものがある.これらの場合には,それぞれの診断に応じたX線指示がある.この場合に頸椎や肩関節には他覚的所見がなく,項肩部の痛みよりもむしろ重圧感,筋緊張感が主である.この場合には原因疾患探究がたいせつであり,肩こりに対する特別なX線診断適応は問題にしなくてもよかろう.
 前者,すなわち頸椎肩甲帯周辺に原因が求められる場合のX線適応は積極的な指示(頸椎,肩関節の骨関節病変を確認するためのもの)と,軟部組織に原因を推定するための消極的なX線指示との2つがある.このいずれの場合にも,まず第5頸准(ほぼ甲状軟骨中央)を中心として前後,側方の2方向撮影,あるいは肩関節2方向(前後および腋窩より体軸頭方向の撮影)を行なうことにしている.

X線メモ

経口的大腸迅速造影法

著者: 恵畑欣一

ページ範囲:P.1487 - P.1487

 大腸のX線検査法には単純撮影法と造影による方法とあり,後者はさらに経口法と注腸法に分けられ,それらはそれぞれに独特な意義があり,有用ではあるが,機能を見るためには経口法を,器質的病変の検査には注腸法がまず第一にあげられなければならない.器質的変化を見るという点では経口法では従来行なわれている方法ではきわめて観察に長時間を要し,そのうえ忍耐と手数をかけても十分な所見を得ることはできない.また注腸法では短時間に大腸を観察することはできるが,いろいろめんどうで,患者にとっても肉体的,精神的な負担が相当多いもので,胃の集団検診をするようには大腸検査のスクリーニング方式としてとてもつかえない.そこで短時間で小腸,大腸の観察を行ないうるような方法が多くの人々の努力によってなされ,消化管迅速造影法が行なわれるようになった.有名なものとして経口法には硫酸バリウムの生理的食塩水溶液,水冷食塩水(Weintraub),硫酸バリウムにテレパーク,ビリセレクタン,プライオダックスなどの胆嚢造影剤を混合する方法(Zimmerら),ソルビトールを混合する法(Ellisら),ガストログラフィンを用いる法(新妻ら)などがあり,注射法ではネオスチグミン(Ma-rgulisら)が有名であるが,ベサコリン(斎藤,恵畑ら),プリンペラン(浅川,渡辺,恵畑ら)などがある.

話題

—呼吸器病,これからの問題点を示唆—第10回日本胸部疾患学会総会から(7月13-14日・仙台)

著者: 滝島任

ページ範囲:P.1495 - P.1495

 本年の胸部疾患学会は,1施設3題といったかなり厳しい出題制限にもかかわらず,集まった一般演題173を数え,ほかに招請講演2題,シンポジウム4題と極めて盛沢山な内容に満ちたものであった.また出題された施設にかたよりが少なく各地から平均して集められたということで,今学会は本邦における胸部疾患の今日におけるレベルを示したものとして特に興味が持たれた.
 招請講演のIで,東大中尾教援は,先に三上博士らとともに出版された"全身性疾患と肺病変"を中心に,自験例での解説を示された.肺は古くから全身疾患の窓といわれ,心臓脈管系の疾患ばかりでなく,代謝異常や免疫疾患その他いろいろな疾患において特有な異常をわれわれにみせてくれる.結核以外の肺疾患がますます増加しつつある今日,このように多彩な所見の判読は,胸部臨床医を常日頃悩ませている問題だけに今後ますます重要になると思われる.

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Current Abstracts

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1388 - P.1389

癌は免疫療法に反応する
 癌が播種性に転移した患者を免疫療法で治療した結果,初期ならば,最もすぐれた臨床的反応が期待できることがわかった.ついで観察したのは,別の患者15名であったが,そのうち12名は,胸部に転移性の腫瘍があり,3名は肺に原発性のガンがあった.患者5名には開胸術を施したが,それは,ワクチン製造用に腫瘍組織を入手するためか,腫瘍組織の大塊を取り除くためであった.この5名は,積極的な治療をしなかったこのシリーズの患者とくらべると,経過が良好である.交叉免疫と血漿および白血球の交換によって治療したこのシリーズの患者からえた臨床ならびに臨床検査の成績は,ある種の大きい原発性腫瘍(切除しても治療せしめることのできないほど大きいもの),または大きい二次的な腫瘍に対しては,切除が望ましいことを示している.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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